説明

水性樹脂分散体の製造方法

【課題】アルカリ可溶型増粘剤等に有用な、カルボキシル基の導入量が高いポリマーを乳化重合により製造する際に、大スケールの製造であっても得られるエマルションの増粘や多量の凝集物発生等を生じることのない、安定性に優れた製造方法を提供する。
【解決手段】乳化剤水溶液に対して別容器で予め調整した単量体混合液を添加攪拌することによりプレエマルションを調整し、乳化重合を行う。プレエマルションを調整する工程及び/又は乳化剤水溶液を調整する工程が、重合開始温度±20℃の範囲の温度で実施されることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、増粘剤等の用途に好適に使用されるカルボキシル基含有水性樹脂分散体の製造方法に関し、さらに詳しくは、製造時の安定性が高く凝集物等の発生が抑制されたカルボキシル基含有水性樹脂分散体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カルボキシル基の導入量が高いポリマーを含むエマルションは、アルカリを添加することにより当該ポリマーが溶解又は膨潤して高粘度の液体となるため、従来からアルカリ可溶型増粘剤として広く使用されている。このタイプの増粘剤には、アルカリを添加した際の溶解性に優れ、さらに中和後粘度の高いものが要求される。ここで、一般に、アルカリを添加した際の溶解性はカルボキシル基導入量の高いポリマーが良好であり、中和後の粘度は増粘剤ポリマーが高分子量である場合に高い粘度が得られる。
【0003】
前記のようなポリマーは、分子量の高いポリマーを得易いという点から一般的に乳化重合により製造される。しかしながら、カルボキシル基含有単量体等の親水性が高い単量体を含む単量体混合物を乳化重合する場合には、ポリマー粒子内のみでなく連続相(水相)における重合反応の割合も増加し、得られるエマルションの粘度上昇や凝集物が多量に発生するという問題があった。
上記のような問題に対しては、重合時に用いる乳化剤の使用量を増量してエマルション粒子の安定性を高める策が取られる場合があるが、乳化剤は塗膜等の最終製品中に残存するため、その塗膜等の耐水性や透明性等において不具合を生じる場合がある。また、取扱い時に泡立ちが問題となる場合もある。その他にも重合時の固形分を低下する等の重合条件上の対応をとる場合があるが、生産性の観点から好ましくない対応であった。
【0004】
このような背景の下、特許文献1では、親水性の高いアルカリ可溶性ポリマー水分散体を製造する際に、乳化重合の初期重合工程に強酸基含有重合性単量体を特定量添加することにより製造安定性が向上することが開示されている。また、特許文献2では、前記特許文献1に加えてさらに初期重合工程に特定量の連鎖移動剤を使用することにより保護コロイド的な働きをする水溶性ポリマーが増え、結果として乳化重合時の安定性が向上する旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−161103号公報
【特許文献2】特開2002−332303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び2に記載された方法は、いずれもスルホン酸等の強酸基含有単量体を必須構成成分とするものであり、単量体として強酸基含有単量体を使用しない場合には適用できないものであった。また、強酸基が導入されたポリマーの水分散体を他のエマルションに添加した際等には、添加によるショックで凝集物が発生する場合もあった。さらに、特許文献2では相当量の連鎖移動剤を使用するため、増粘剤のように分子量の高いポリマーを得たい場合などには不向きであり、使用される範囲が限定されるものであった。
【0007】
さらに、発明者らは、カルボキシル基を多く含むポリマーを含むエマルションを製造する場合において、小試スケールでは安定に製造できるものの実生産時にはロットにより凝集物が多量に発生するなど、大スケールにおける重合安定性が十分に確保できないという思いもよらない問題に遭遇した。
【0008】
上記の通り、カルボキシル基の導入量が高いポリマーを含むエマルションを安定的に製造する方法については未だ十分な満足できるものではなく、改善が望まれている。
本発明の課題は、カルボキシル基の導入量が高いポリマーを乳化重合により製造する際に、大スケールの製造であっても得られるエマルションの増粘や多量の凝集物発生等を生じることのない、安定性に優れた製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討した結果、意外にもプレエマルションを調整する際に、乳化剤水溶液に対して別容器で予め調整した単量体混合液を添加攪拌することにより重合安定性が向上することを見出し、本発明を完成した。
【0010】
本発明は以下の通りである。
1.カルボキシル基含有単量体10〜80質量%を含む単量体混合物を、乳化剤存在下で乳化重合して得られる水性樹脂分散体の製造方法であって、該乳化重合がプレエマルション調整工程と重合工程を含むものであり、該プレエマルション調整工程において乳化剤水溶液に対して別容器で予め調整した単量体混合液を添加攪拌してプレエマルションを調整した後、重合工程を開始することを特徴とする水性樹脂分散体の製造方法。
2.前記単量体混合物が、さらに炭素数1〜2のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル20〜90質量%を含む上記1に記載の水性樹脂分散体の製造方法。
3.前記プレエマルション調整工程が、重合開始温度±20℃の範囲の温度で実施されることを特徴とする上記1又は2に記載の水性樹脂分散体の製造方法。
4.前記乳化剤が、ノニオン性乳化剤を含むものであることを特徴とする上記1〜3のいずれかに記載の水性樹脂分散体の製造方法。
5.上記1〜4のいずれかに記載の製造方法により得られた水性樹脂分散体。
6.上記5に記載の水性樹脂分散体を含む増粘剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水性樹脂分散体の製造方法によれば、得られるエマルションの増粘や製造時に多量の凝集物が発生するといった問題を生じることなく、カルボキシル基の導入量が多いポリマーを乳化重合によって安定に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、アルカリ可溶型増粘剤等に有用な、カルボキシル基の導入量が多いポリマーを乳化重合により得る際の製造方法に関する。
以下、本発明について詳しく説明する。尚、本願明細書においては、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を、(メタ)アクリル酸と表す。
【0013】
本発明では、カルボキシル基含有単量体が必須成分として使用される。カルボキシル基含有単量体が特定量ポリマーに導入されることにより、これを中和した際に粘度が上昇し、例えば増粘剤として有効な機能を発揮する。
カルボキシル基含有単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸等の不飽和モノカルボン酸単量体及びこれらの塩;マレイン酸、イタコン酸、メサコン酸、フマル酸、シトラコン酸等の不飽和ジカルボン酸単量体、並びにこれらの塩および無水物が挙げられ、これらの内の1種又は2種以上を組合せて使用することができる。
これらのうちでも重合性が良好で、適用範囲が広い点から(メタ)アクリル酸の使用が好ましい。
【0014】
カルボキシル基含有単量体の使用量は全単量体に対して10〜80質量%であることが必要である。好ましい範囲は20〜75質量%であり、さらに好ましく30〜70質量%である。10質量%未満ではアルカリ溶解性が十分でない場合がある。また、増粘剤として用いた際に満足な増粘性を発揮できない場合がある。一方、80質量%を超えると重合安定性が著しく低下する。
【0015】
本発明では、上記カルボキシル基含有単量体の他に、アルカリ可溶性及び増粘性等を損なわない範囲で、その他の単量体が用いられる。
その他の単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル及び(メタ)アクリル酸ラウリル等のアクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロオクチル、(メタ)アクリル酸シクロノニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル等の(メタ)アクリル酸の脂環式アルキルエステル;(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ω−ヒドロキシポリアルキレングリコール及び(メタ)アクリル酸ω−ヒドロキシポリカプロラクトン等の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル;スチレン、α−メチルスチレン、p−フェニルスチレン及びビニルトルエン等の芳香族ビニル単量体;(メタ)アクリロニトリル、酢酸ビニル及び(メタ)アクリルアミド等が挙げられ、これらの内の1種又は2種以上を使用することができる。
【0016】
前記その他単量体の内でも、アルカリ可溶性を確保する観点から親水性の高い単量体の使用が好ましく、具体的には(メタ)アクリル酸メチル並びに(メタ)アクリル酸エチルといった炭素数1〜2のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルの使用が好ましい。
その他単量体の使用量は全単量体に対して20〜90質量%である。好ましい範囲は25〜80質量%であり、さらに好ましくは30〜70質量%である。20質量%未満の場合、上記カルボキシル基含有単量体の使用量が多すぎるために重合安定性が著しく低下し、また水分散体としても存在できない。一方、90質量%を超えるとアルカリ溶解性が十分でない場合がある。また、増粘剤として用いた際に、満足な増粘性を発揮できない場合がある。
【0017】
本発明による水性樹脂分散体の製造方法では、前記カルボキシル基を導入したポリマーは乳化重合により製造される。ここで、当該乳化重合は、プレエマルション調整工程とこれに引き続き行われる重合工程を含むものである。
プレエマルション調整工程は、重合媒体たる水、並びに乳化剤及び単量体混合物等を攪拌混合することにより単量体混合物の水分散体(プレエマルション)を得る工程である。ここで得られたプレエマルションは、後の重合工程において開始剤等と共に反応器に供給され、重合が行われる。
【0018】
本発明では、プレエマルション調整工程において乳化剤水溶液に対して別容器で予め調整した単量体混合液を添加攪拌してプレエマルションを調整する必要がある。通常の乳化重合では、プレエマルションを調整するための槽に作業性や安全性等を考慮しながら、水、乳化剤及び原料モノマー等が投入され、攪拌混合されることによりプレエマルションが調整されるのが一般的である。ここで、原料として複数の単量体を用いる場合には、通常、原料容器又は原料タンク等から当該プレエマルションを調整するための槽に個々別々に投入される。
これに対して本発明では、前記の通り乳化剤水溶液並びに使用する複数種類の原料モノマーを予め別容器で調整し、その後両者を混合攪拌することによりプレエマルションを調整する。これにより次工程での重合工程における重合安定性が確保される。
【0019】
プレエマルションの調整を上記方法とすることにより重合安定性が向上する理由は定かではないが、プレエマルションにおいて原料モノマーが連続相(水相)と分散相(油相)に分配される割合が安定することによるものと推定している。とりわけ、例えば反応器の容量が1m3を超えるような大スケールにおいては、原料モノマーの投入時間や投入間隔等の条件にバラツキが生じやすく、このために出来上がったプレエマルションにおいても、特に親水性の高いモノマーが連続相(水相)と分散相(油相)に分配される割合にはバラツキが生じ易いものと推察される。本発明では当該バラツキが低減されるため、重合安定性が向上するものと考えられる。
【0020】
ここで、重合安定性を判断する指標の一つとして凝集物量が挙げられる。本発明では後述する実施例において示す通り、得られた水性樹脂分散体をポリネット等でろ過することにより該凝集物量が測定される。凝集物量は1000ppm以下であることが望ましく、500ppm以下であることがより好ましい。凝集物量が1000ppmを超えると、製品充填時に該凝集物を濾別するのに手間が掛かる。また、場合によってはエマルション全体が凝集固化してしまう恐れがある。
【0021】
プレエマルション調整工程は重合開始温度±20℃の範囲の温度下で実施されることが好ましい。当該範囲に温度を制御することにより、重合安定性が一層向上する。プレエマルション調整時の温度と重合安定性との関連性は定かではないが、プレエマルション調整温度を当該温度範囲内に制御することにより、プレエマルション調整工程から重合工程にかけて原料モノマーの水相/油相への分配が一定範囲内に安定化されるためと推定している。
【0022】
本発明で使用する乳化剤としては、通常の乳化重合の際に用いられる公知の乳化剤を使用することができる。例えば、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、カチオン性乳化剤、両性イオン性乳化剤等の各種の乳化剤を用いることができる。アニオン性乳化剤としては、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルジフェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、高分子乳化剤等が挙げられる。更に、ノニオン性乳化剤としては、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルジフェニルエーテル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体、アセチレンジオール系乳化剤、ソルビタン高級脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン高級脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン高級脂肪酸エステル類、グリセリン高級脂肪酸エステル類、ポリカルボン酸系高分子乳化剤、ポリビニルアルコール等が挙げられる。また、カチオン性乳化剤としては、アルキル(アミド)ベタイン、アルキルジミチルアミンオキシド、特殊乳化剤として、フッ素系乳化剤やシリコーン系乳化剤等が挙げられる。これらの乳化剤は、1種のみ用いてもよく、2種以上を併用することもできる。また、これらの内でも親水性の高い単量体を含むプレエマルションの安定性が良い点から、ノニオン系乳化剤の使用が好ましい。
【0023】
乳化剤の使用量は、その種類及び重合条件等により選択されるが、単量体100質量部あたり通常0.01〜20質量部であり、好ましくは0.05〜15質量部、さらに好ましくは0.1〜8質量部である。乳化剤を0.01質量部以上使用することにより、製造時の安定性が確保され凝集物等の発生が低減される傾向がある。一方、乳化剤の使用量を20質量部以下とすることにより、本発明の水性樹脂分散体を含む製品の使用時に乳化剤が吸湿及び吸水することによる耐水性の悪化や塗膜の白濁等の不具合が抑制される傾向にある。
【0024】
また、乳化剤の種類によっては常温で固形状のものや粘度の高いものがあるため、添加時のハンドリングを良くする目的で乳化剤を事前に加温しても良い。特にHLBの高いノニオン系乳化剤は常温で固体状のものが多いため、使用前に加温融解してから用いられる場合が多い。
【0025】
本発明で調整されるプレエマルションの単量体濃度は、50質量%以下であることが好ましい。50質量%を超えると重合安定性が低下し、凝集物が発生する場合がある。
【0026】
重合工程では、前記プレエマルション調整工程において調整されたプレエマルションを用いて、重合開始剤の存在下に公知の乳化重合法に従って重合が行われる。重合温度は20〜100℃が好ましく、30〜80℃がより好ましい。重合温度を20℃以上とすることにより重合を安定に進行することができる。一方、乳化重合時の重合温度が実質的に100℃を超えることはない。
【0027】
また、重合開始剤としては過酸化物及びアゾ系化合物等の公知のラジカル重合開始剤を使用することが可能である。
上記過酸化物としては、過酸化水素;過硫酸塩(過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等)等の無機過酸化物;ハイドロパーオキサイド(クメンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド、tert−ブチルハイドロパーオキサイド等)、ジアルキルパーオキサイド(tert−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド等)、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル(tert−ブチルパーオキシラウレート、tert−ブチルパーオキシベンゾエート等)、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酢酸、過コハク酸等の有機過酸化物が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
又、上記アゾ化合物としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
ラジカル重合開始剤の使用量は、その種類、及び重合条件等により選択されるが、上記単量体100質量部に対して、通常0.01〜10質量部である。
【0029】
また、上記過酸化物及び還元剤を含むレドックス系開始剤を採用することも可能である。
還元剤としては、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸ナトリウム、酒石酸、クエン酸、ホルムアルデヒドスルホキシラートの金属塩、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸第一銅及び塩化第二鉄等が挙げられ、これらの内の1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
本発明の乳化重合は、通常、攪拌及び還流冷却しながら、水性媒体中で加熱された反応系で行われる。ここで、プレエマルション及び開始剤等の原料成分の添加方法は、一括添加法、連続添加法及び分割添加法のいずれでもよい。連続添加法の場合、供給速度は一定でも不定でもよい。また、分割添加法の場合、原料成分の添加間隔は一定でも、不定でもよい。ここで、増粘剤等の分子量の高いポリマーを所望する場合はプレエマルションの内の50質量%以上を初期に仕込むのが好ましい。
【0031】
上記水性媒体としては、水のみを、あるいは、水及び水溶性有機溶媒(アルコール、ケトン、エーテル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等)とからなる混合物を用いることができる。この水性媒体が混合物である場合、水の含有量は水系媒体を100質量%としたときに、通常30質量%以上である。
【0032】
また、上記重合においては、得られる重合体の用途等に応じて連鎖移動剤を用いることができる。
この連鎖移動剤としては、メルカプト基含有化合物(エタンチオール、ブタンチオール、ドデカンチオール、ベンゼンチオール、トルエンチオール、α−トルエンチオール、フェネチルメルカプタン、メルカプトエタノール、3−メルカプトプロパノール、チオグリセリン、チオグリコール酸、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、α−メルカプトイソ酪酸、メルカプトプロピオン酸メチル、メルカプトプロピオン酸エチル、チオ酢酸、チオリンゴ酸、チオサリチル酸、オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタン、n−ヘキサデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、tert−テトラデシルメルカプタン等)、キサントゲンジスルフィド化合物(ジメチルキサントゲンジスルフィド、ジエチルキサントゲンジスルフィド、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド等)、チウラムジスルフィド化合物(テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド等)、ハロゲン化炭化水素(四塩化炭素、臭化エチレン等)、芳香族炭化水素(ペンタフェニルエタン、α−メチルスチレンダイマー等)等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
本発明の水性樹脂分散体においては、その特徴を損なわない範囲内で公知の各種添加剤を添加することができる。添加剤としては、消泡剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、分散剤、消臭剤及びレオロジーコントロール剤等を挙げることができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。以下の記載において「%」は質量%を意味する。
また、各例において得られた重合体等の固形分濃度は、以下に記載の方法により測定した。
【0035】
<固形分>
測定サンプル約1gを秤量(a)し、次いで、通風乾燥機155℃、45分間乾燥後の残分を測定(b)し、以下の式より算出した。測定には秤量ビンを使用した。その他の操作については、JIS K 0067−1992(化学製品の減量及び残分試験方法)に準拠した。
固形分(%)=(b/a)×100
【0036】
<凝集物量>
水性樹脂分散体を200目ポリネットでろ過し、ポリネット上に残った残差を乾燥し重量を測定する。
凝集物量(%)=(乾燥後の残渣量/ろ過に供した水性樹脂分散体の重量)×100
【0037】
実施例1
<プレエマルション調整工程>
攪拌機、還流冷却器、窒素ガス導入管および温度計を装着した3m3反応器にイオン交換水1080kg、ラテムルE−118B(花王社製、アニオン系乳化剤)39kg、及びエマルゲン1150S−60(花王社製、ノニオン系乳化剤)12kgを投入し、攪拌混合することにより乳化剤水溶液を調整した。この際、液温は30℃に調整した。一方、別容器にてメタクリル酸(以下、「MAA」という)192kg、アクリル酸エチル(以下、「EA」という)54kg、アクリル酸メチル(以下、「MA」という)54kgを良く混合して単量体混合液を調整した。次いで、この単量体混合液を前記乳化剤水溶液に添加し、液温を30℃に維持しながら攪拌混合することによりプレエマルションを調整した。
<重合工程>
反応器内温を45℃に昇温し、窒素ガスを吹き込みながら120分間攪拌した後、0.6質量%の過硫酸アンモニウム水溶液6.6kgを添加し、5分後1.4%のハイドロサルファイトナトリウム水溶液3.0kgをフラスコ内に添加し重合を開始した。40分後、反応器内温は50℃まで上昇し内温はピークに達した。内温ピーク確認後60℃に昇温して45分間維持し、その後55℃で後添加触媒として0.2%のt−ブチルハイドロパーオキサイド水溶液27kgと0.3%のエリソルビン酸ナトリウム水溶液27kgを添加した。
得られた水性樹脂分散体を冷却し、200目ポリネットでろ過したところ、凝集物量は100ppmと僅かであり、安定に重合を行うことができた。
また、上記ろ過後の水性樹脂分散体19gをイオン交換水356gで希釈し、次いで20%水酸化ナトリウム水溶液を添加してpH7.5に調整した。水性樹脂分散体は速やかに可溶化して水溶液となった。当該水溶液を25℃に調整し、12rpmにおけるB型粘度を測定したところ5,200mPa・sであり、良好な増粘性を示すことが確認された。
【0038】
実施例2〜6
単量体の組成、及びプレエマルション調整時の温度を表1に記載の通りとした以外は、実施例1と同様の操作により水性樹脂分散体を得た。
各実施例にて評価した凝集物量の結果を表1に示す。
【0039】
比較例1
実施例1におけるプレエマルション調整工程を以下のように変更した以外は実施例1と同様の操作を行った。
<プレエマルション調整工程>
攪拌機、還流冷却器、窒素ガス導入管および温度計を装着した3m3反応器に、イオン交換水1080kg、ラテムルE−118B 39kg、及びエマルゲン1150S−60 12kgを投入し、攪拌混合することにより乳化剤水溶液を調整した。この際、液温は30℃に調整した。次いで、この乳化剤水溶液にMAA192kg、EA54kg、MA54kgを順次添加し、液温を30℃に維持しながら攪拌混合することによりプレエマルションを調整した。
【0040】
前記比較例1において得られた水性樹脂分散体を冷却し、200目ポリネットでろ過したところ、凝集物量は4500ppmと多量に存在した。
【0041】
比較例2〜4
単量体の組成、及びプレエマルション調整時の温度を表2に記載の通りとした以外は、比較例1と同様の操作により水性樹脂分散体を得た。
各実施例にて評価した凝集物量の結果を表2に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
表1及び表2におけるプレエマルションの調整方法を以下に示す。
A:単量体混合物を別容器で調整後に乳化剤水溶液へ添加し、攪拌混合
B:乳化剤水溶液へ各単量体を順次添加し、攪拌混合
【0045】
表1及び表2で用いた化合物の詳細を以下に示す。
MAA:メタクリル酸
MA:アクリル酸メチル
EA:アクリル酸エチル
E−118B:ラテムルE−118B(花王社製)
1150−S60:エマルゲン1150−S60(花王社製)
【0046】
実施例1〜6で得られた水性樹脂分散体は凝集物量も少なく、大スケールにおける製造であっても重合安定性に優れるものであった。また、該樹脂分散体の中和液は十分高い粘度を示し、アルカリ可溶型増粘剤として有用なものであることが示された。
【0047】
これに対して、乳化剤水溶液へ各単量体を順次添加して攪拌混合することによりプレエマルションを調整した比較例1〜4は凝集物量が多く、重合安定性が十分ではない結果が示された。中でもノニオン系乳化剤を使用しない比較例4では、凝集物量が多すぎてろ過の際に殆ど通液しないため、ろ過ができない結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、カルボキシル基の導入量が高いポリマーを含むエマルションを、大スケールにおいても多量の凝集物が発生することなく、安定的に製造することができる。本発明により得られた水性樹脂分散体は、アルカリ可溶型増粘剤等の用途に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基含有単量体10〜80質量%を含む単量体混合物を、乳化剤存在下で乳化重合して得られる水性樹脂分散体の製造方法であって、該乳化重合がプレエマルション調整工程と重合工程を含むものであり、該プレエマルション調整工程において乳化剤水溶液に対して別容器で予め調整した単量体混合液を添加攪拌してプレエマルションを調整した後、重合工程を開始することを特徴とする水性樹脂分散体の製造方法。
【請求項2】
前記単量体混合物が、さらに炭素数1〜2のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル20〜90質量%を含む請求項1に記載の水性樹脂分散体の製造方法。
【請求項3】
前記プレエマルション調整工程が、重合開始温度±20℃の範囲の温度で実施されることを特徴とする請求項1又は2に記載の水性樹脂分散体の製造方法。
【請求項4】
前記乳化剤が、ノニオン性乳化剤を含むものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の水性樹脂分散体の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法により得られた水性樹脂分散体。
【請求項6】
請求項5に記載の水性樹脂分散体を含む増粘剤。

【公開番号】特開2013−107970(P2013−107970A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253394(P2011−253394)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】