説明

水洗式便器

【課題】サイホン作用を確実に誘起することのできる吸引装置を容易に取り付けることができる水洗式便器を提供する。
【解決手段】水洗式便器は、便器本体100と、洗浄タンク110と、便器排水路102内の空気を吸引する吸引装置130とを備えている。吸引装置130は、シリンダー10からなるケーシングと、ピストン20及びダイアフラム30からなる仕切部材と、第1室Aの容積が縮小する方向にピストン20を付勢するバネ部材50とを備えている。また、吸引装置130は洗浄タンク110とは別に便器本体100に取り付けられている。第1室Aは、洗浄タンク110に洗浄水を供給する給水路から分岐した分岐水路に連通され、洗浄水の流入により容積を拡大可能である。第2室Bは、便器排水路102に連通され、バネ部材50の付勢力により容積を拡大する際に便器排水路102内の空気を吸引可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水洗式便器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の図6〜図8には従来の水洗式便器が開示されている。この水洗式便器は、便器本体、洗浄タンク及び吸引装置を備えている。便器本体は便鉢部と便鉢部の下流側に連通して形成された便器排水路とを有している。洗浄タンクは便鉢部へ洗浄水を供給可能である。吸引装置は便器排水路から空気を吸引可能である。この吸引装置は貯水室と吸引室とを有している。貯水室は、洗浄タンクに洗浄水を供給する給水路から分岐した分岐路に連通され、洗浄水が流入することにより上方に移動する第1ダイアフラムを有している。また、吸引室は、第1ダイアフラムにプランジャーを介して連結された第2ダイアフラムを有している。このため、第2ダイアフラムは第1ダイアフラムの上下動に従って上下動する。吸引室は、便器排水路に連通されており、第2ダイアフラムが上方に移動することにより容積を拡大し、便器排水路から空気を吸引可能である。この吸引装置は、洗浄タンク内に取り付けられ、洗浄タンク内に洗浄水が貯留された状態では洗浄水に水没している。
【0003】
この水洗式便器では、便器洗浄を開始すると、洗浄タンクに給水路から洗浄水が供給されるとともに、貯水室にも分岐路から洗浄水が流入する。これにより、貯水室の第1ダイアフラムが上方に移動し、第2ダイアフラムが上方に押上げられ、吸引室が便器排水路から空気を吸引する。便鉢部へ洗浄水が供給されるとともに便器排水路内の空気が吸引されるため、これらの相乗作用により、便器排水路内にサイホン作用が誘起され、汚物等を便器本体から排出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−311719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の水洗式便器では、吸引装置を洗浄タンク内に取り付けるため、その取付箇所等から漏水しないようにしなければならない。また、便器洗浄の節水化を図るために洗浄タンクを小型にした場合、所定量の吸引量を有する吸引装置を洗浄タンク内に取り付けることが困難になる。
【0006】
また、給水路に供給される洗浄水の単位時間当たりの流量は水洗式便器が設置される場所等によって相違するため、給水路から分岐され分岐路から吸引室に供給される洗浄水の単位時間当たりの流量も相違する。このため、第1ダイアフラムの上昇速度がばらつくため、第2ダイアフラムの上昇速度がばらつき、便器排水路からの空気の吸引速度もばらついてしまう。これにより、吸引室が便器排水路内の空気の吸引を最適に行なわず、サイホン作用を誘起することができないおそれがある。
【0007】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、サイホン作用を確実に誘起することができる吸引装置を容易に取り付けることができる水洗式便器を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の水洗式便器は、便鉢部及びこの便鉢部の下流側に連通して形成された便器排水路を有する便器本体と、前記便鉢部へ洗浄水を供給する洗浄タンクと、前記便器排水路内の空気を吸引する吸引装置とを備えた水洗式便器であって、
前記吸引装置は、ケーシングと、このケーシング内を第1室と第2室とに隔離する仕切部材と、前記第1室の容積が縮小する方向に前記仕切部材を付勢するバネ部材とを備え、前記洗浄タンクとは別に前記便器本体に取り付けられており、
前記第1室は、前記洗浄タンクに洗浄水を供給する給水路から分岐した分岐水路に連通されており、洗浄水の流入により前記バネ部材の付勢力に抗して前記仕切部材が移動して容積を拡大し、
前記第2室は、前記便器排水路に連通されており、前記バネ部材の付勢力により容積が拡大する際に前記便器排水路内の空気を吸引することを特徴とする。
【0009】
この水洗式便器では、吸引装置は洗浄タンクとは別に便器本体に取り付けられている。このため、吸引装置の取り付けのために洗浄タンクの漏水対策を行なわなくてもよく、既存の洗浄タンクにもこの吸引装置を取り付けて利用することができる。また、洗浄タンクが小型化されても吸引装置の取り付けに影響を与えない。
【0010】
また、吸引装置は、バネ部材の付勢力により第2室の容積を拡大し、便器排水路内の空気を吸引することができる。このため、給水路に供給される洗浄水の単位時間当たりの流量が変化しても吸引装置は便器排水路から空気を安定して吸引することができる。
【0011】
したがって、本発明の水洗式便器は、サイホン作用を確実に誘起することができる吸引装置を容易に取り付けることができる。
【0012】
前記洗浄タンクが前記便鉢部へ洗浄水を供給するタイミングと、前記吸引装置が前記便器排水路内の空気を吸引するタイミングとを制御する制御装置を備えており、この制御装置は前記洗浄タンクが前記便鉢部へ洗浄水の供給を開始した後に前記吸引装置が前記便器排水路内の空気の吸引を開始するように前記洗浄タンク及び前記吸引装置を制御し得る。
【0013】
この場合、吸引装置が便器排水路内の空気の吸引を開始する前に、洗浄タンク内の所定量の洗浄水を便鉢部へ供給することにより、便鉢部内の洗浄水の水位を上昇させ、位置エネルギーを増加させることができる。このため、吸引装置が便器排水路内の空気の吸引を開始すると、便鉢部内の洗浄水の増加した位置エネルギーとの相乗作用により、便器排水路内にサイホン作用を確実に誘起させることができる。
【0014】
前記第1室と前記洗浄タンクとを連通する連通路を備えており、前記第1室が前記バネ部材の付勢力により容積を縮小する際に、前記第1室内の洗浄水を前記連通路を介して前記洗浄タンクへ排水し得る。この場合、吸引装置の第1室に貯留された洗浄水を洗浄タンクへ供給することができる。このため、便器洗浄のために洗浄水が流出した後の洗浄タンクへ早期に洗浄水を貯留することができる。これにより、次の便器洗浄を早期に行なうことができる。
【0015】
前記便器本体の後部上面に前記洗浄タンク及び前記吸引装置が取り付けられ、前記洗浄タンク及び前記吸引装置を覆うカバーを備え得る。この場合、吸引装置が取り付けられた水洗式便器をすっきりとした外観にすることができる。
【0016】
前記給水路を開閉可能な第1弁体と、小流量の洗浄水が通水可能な第1導入路を介して前記給水路の一次側に連通しており、前記第1弁体の背後に形成され、第1パイロット小孔が設けられた第1背圧室と、前記洗浄タンク内の水位の変動に伴い昇降する浮き玉に連動して前記第1パイロット小孔を開閉する第1パイロット弁とを有する第1開閉弁と、
前記連通路を開閉可能な第2弁体と、前記第1背圧室に伝達水路を介して連通し、前記第2弁体の背後に形成された第2背圧室とを有する第2開閉弁とを備えており、
前記第1パイロット弁が開弁すると前記第1背圧室内の洗浄水が前記第1パイロット小孔から流出して前記第1開閉弁が開弁するとともに、前記第2背圧室の洗浄水が前記伝達水路を介して前記第1背圧室側に流出して前記第2開閉弁が開弁し得る。
【0017】
この場合、便器洗浄が開始されて洗浄タンク内の洗浄水の水位が下降すると、浮き球も下降して第1パイロット弁が開弁する。すると、第1開閉弁が開弁して給水路から洗浄タンクへ洗浄水が供給される。また、第2開閉弁も開弁し、吸引装置の第1室に貯留された洗浄水が連通路を介して洗浄タンクに流出する。これにより、吸引装置の第2室の容積が拡大して便器排水路内の空気が第2室に吸引される。このように、無電源で第1開閉弁及び第2開閉弁を開弁することができ、洗浄タンクに洗浄水を供給し、かつ便器排水路内の空気を吸引することができる。
【0018】
また、第2背圧室に貯留された洗浄水は伝達水路を介して第1背圧室側に流出するため、第2背圧室から洗浄水が流出し始めるタイミングは、第1背圧室から洗浄水が流出し始めるタイミングよりも遅くなる。このため、便器洗浄を開始して洗浄タンクが便鉢部へ洗浄水の供給を開始した後に第2開閉弁が開弁し、吸引装置が便器排水路内の空気の吸引を開始する。このように、無電源で洗浄タンクが便鉢部へ洗浄水を供給するタイミングと吸引装置が便器排水路内の空気を吸引するタイミングとを制御することができる。吸引装置が便器排水路内の空気を吸引する際には、便鉢部内の洗浄水の水位が充分に上昇し、洗浄水の位置エネルギーが増加している。このため、吸引装置の便器排水路内の空気の吸引と便鉢部内の増加した洗浄水の位置エネルギーとの相乗作用により便器排水路内にサイホン作用を確実に誘起することができる。
【0019】
前記伝達水路に設けられ、前記第2背圧室から前記第1背圧室側への洗浄水の通水を許容し、前記第1背圧室から前記第2背圧室側への洗浄水の通水を防止する逆止弁を備え、
前記第2背圧室は、小流量の洗浄水が通水可能な第2導入路を介して前記連通路の1次側に連通し得る。
【0020】
この場合、洗浄タンクから便鉢部へ洗浄水の供給が終了すると、洗浄タンク内の洗浄水の水位が上昇し、浮き玉も上昇して第1パイロット弁が閉弁する。すると、第1導入路を介して給水路の一次側から第1背圧室に流入した洗浄水が第1背圧室内に貯留され始める。逆止弁によって第1背圧室から第2背圧室側への洗浄水の通水が防止されているため、第1パイロット弁が閉弁されると第1背圧室は早期に洗浄水で満水になり、第1開閉弁が閉弁する。このように、第1パイロット弁が閉弁した後、早期に第1開閉弁を閉弁することができるため、給水路を流れる洗浄水の流量変化の影響等を受け難く、貯水時の洗浄タンク内の水位を第1パイロット弁が閉弁した際の水位から僅かに上昇した水位に安定化することができる。
【0021】
前記連通路を開閉可能な第3弁体と、
小流量の洗浄水が通水可能な第3導入路を介して前記連通路の一次側に連通しており、第2パイロット小孔が設けられ、前記第3弁体の背後に形成された第3背圧室と、
前記洗浄タンク内の水位の変動に伴い昇降する浮き玉に連動して前記第2パイロット小孔を開閉する第2パイロット弁とを有する第3開閉弁を備えており、
前記第2パイロット弁が開弁すると前記第3背圧室内の洗浄水が前記第2パイロット小孔から流出して前記第3開閉弁が開弁し得る。
【0022】
この場合、便器洗浄が開始されて洗浄タンク内の洗浄水の水位が下降すると、浮き球も下降して、第2パイロット弁が開弁する。すると、第3開閉弁が開弁し、吸引装置の第1室に貯留された洗浄水が連通路を介して洗浄タンクに流出する。これにより、吸引装置の第2室の容積が拡大して便器排水路内の空気が第2室に吸引される。第2パイロット弁を開弁する際の浮き球の上下位置は調整することができる。このため、洗浄タンク内の洗浄水を便鉢部に供給し始めた後、第3開閉弁が開弁されるまでの間の時間差を設けることができ、かつその時間を任意に調整することができる。このように、無電源で洗浄タンクが便鉢部へ洗浄水を供給するタイミングと吸引装置が便器排水路内の空気を吸引するタイミングとを制御することができる。吸引装置が便器排水路内の空気を吸引する際には、便鉢部内の洗浄水の水位が充分に上昇し、洗浄水の位置エネルギーが増加している。このため、便器排水路内にサイホン作用を確実に誘起することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例1の水洗式便器の概略図である。
【図2】実施例1の水洗式便器の要部概略図である。
【図3】実施例1の水洗式便器の便器洗浄動作を示す概略図である。
【図4】実施例1の水洗式便器の便器洗浄動作を示す要部概略図である。
【図5】実施例1の水洗式便器の便器洗浄動作を示す概略図である。
【図6】実施例1の水洗式便器の便器洗浄動作を示す要部概略図である。
【図7】実施例1の水洗式便器の透視図である。
【図8】実施例1の水洗式便器の透視図である。
【図9】実施例1の吸引装置の断面図である。
【図10】実施例1の吸引装置において、第1室に洗浄水を蓄圧状態で貯留した状態を示す断面図である。
【図11】実施例1の吸引装置において、第1室の洗浄水が流出し、第2室に空気を吸引した状態を示す断面図である。
【図12】実施例1の吸引装置の斜視図である。
【図13】実施例1の吸引装置の要部断面図である。
【図14】実施例1の吸引装置の要部断面図である。
【図15】実施例2の要部概略図である。
【図16】実施例2の要部断面図である。
【図17】実施例2の要部断面図である。
【図18】実施例3の要部断面図である。
【図19】実施例3の要部断面図である。
【図20】実施例4の要部外略図である。
【図21】実施例5の要部外略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の水洗式便器を具体化した実施例1〜5を図面を参照しつつ説明する。
【0025】
<実施例1>
実施例1の水洗式便器は、図1及び図7に示すように、便器本体100、洗浄タンク110及び吸引装置130を備えている。便器本体100は、便鉢部101と、便鉢部101の下流側に連通して形成された便器排水路102とを有している。便鉢部101の上端部周縁にはリム通水路104が形成されている。
【0026】
洗浄タンク110及び吸引装置130は取付プレート140の上面に隣接して取り付けられ、取付プレート140が便器本体100の後部上面に取り付けられている。このように、吸引装置130は洗浄タンク110とは別に取り付けられているため、吸引装置130の取り付けのために洗浄タンク110の漏水対策を行わなくてもよい。また、洗浄タンク110が小型化されても吸引装置130の取り付けに影響はない。
【0027】
また、便器本体100の後部上面に取り付けられた洗浄タンク110及び吸引装置130は、カバー117に覆われている。このため、水洗式便器をすっきりとした外観にすることができる。また、水洗式便器は、便器排水路102と、便器本体100が設置される床Fに引き出された図示しない排水管とを連通する排水接続部材120を備えている。
【0028】
洗浄タンク110は、第1開閉弁であるボールタップ111、フロート弁113及びオーバーフロー管116を内蔵している。ボールタップ111は所定の給水圧を有する洗浄水供給源に接続され、洗浄タンク110に洗浄水を供給する給水路を形成する洗浄水供給管S3に連通されている。また、ボールタップ111は、洗浄タンク110内に貯留された洗浄水の水位の変動に伴い浮き球112が上下動することによりボールタップ111が給水路を開閉して、洗浄タンク110へ洗浄水を供給可能としている。
【0029】
フロート弁113は玉鎖115により引上げ装置114に連結されている。フロート弁113は引上げ装置114の駆動により上昇する。フロート弁113が上昇すると、洗浄タンク110内に貯留された洗浄水がリム通水路104を介して便鉢部101に流出する。引上げ装置114は制御装置Cから送信される駆動信号により駆動する。制御装置Cは図示しないリモコン装置に設けられた便器洗浄スイッチが操作されることにより駆動信号を引上げ装置114に送信する。
【0030】
吸引装置130は、図9〜図11に示すように、シリンダー10からなるケーシングと、ピストン20及びダイアフラム30からなる仕切部材と、第1スピンドル部材40及び第2スピンドル部材41とからなるスピンドルと、バネ部材50とを備えている。
【0031】
シリンダー10は、第1外殻部材11、第2外殻部材12及び第3外殻部材13により形成されている。第1外殻部材11はポリアセタール樹脂により形成され、第2外殻部材12及び第3外殻部材13は、ポリアセタール樹脂よりも機械強度の高いポリフェニレンスルファイド樹脂により形成されている。
【0032】
第1外殻部材11は、図9〜図11において、上下方向に延びる有底の円筒形状に形成されている。第1外殻部材11の上端は開口し、開口の外周縁部に鍔部11Hが形成されている。第1外殻部材11の下部側面には、吸引口11Aが貫設され、外側に突出する接続管部11Bが形成されている。
【0033】
第2外殻部材12は、下端が開口した円筒形状に形成され、開口の外周縁に鍔部12Hが形成されている。第1外殻部材11と第2外殻部材12とは同一の内径及び外径を有している。第1外殻部材11の鍔部11Hの上面と第2外殻部材12の鍔部12Hの下面とが接合され、この接合部にダイアフラム30の外周端が挟み込まれている。
【0034】
第2外殻部材12は、内側に配置され、上下方向に延びる円筒形状に形成された内筒部12Aを有している。内筒部12Aは、第2外殻部材12の上端部に連結され、同軸上に位置している。内筒部12Aの下端部には連通口12Bが貫設されている。
【0035】
第3外殻部材13は、上端が閉鎖され、内筒部12Aの内径と同一の内径を有した円筒形状に形成されている。第3外殻部材13の下端部の外周には鍔部13Hが形成され、その下面が第2外殻部材12の上端面に接合されている。第3外殻部材13の上部側面には、流入口13Aと流出口13Bが貫設されている。
【0036】
ピストン20は、上下方向に貫通する円筒状の胴部材21と、胴部材21の下端開口を封鎖する円盤状の底板部材22とを有している。胴部材21の外側面は、下部が上部より外側に一段膨らんで形成されている。この膨らんだ外側面は第1外殻部材11の内側面との間が僅かな隙間となるように形成されている。このため、胴部材21の下部の外側面がピストン20をスムーズに上下動するようにシリンダー10内を案内している。
【0037】
ピストン20は、胴部材21の上端との間でダイアフラム30の内周端を挟み込む挟持部材23を有している。挟持部材23は胴部材21の内側に嵌め込まれた固定部材24にねじ込まれることにより、胴部材21の上端に固定されている。
【0038】
ダイアフラム30は円筒形状に形成され、中間部で折り返された転動形ダイアフラムである。このダイアフラム30は、外周端がシリンダー10を形成する第1外殻部材11の鍔部11Hの上面と第2外殻部材12の鍔部12Hの下面との接合部に挟み込まれ、内周端がピストン20を形成する胴部材21の上端と挟持部材23との間に挟みこまれている。これにより、シリンダー10内は第1室Aと第2室Bとに隔離されている。また、このダイアフラム30は、ピストン20の往復運動に伴って、ピストン20の外側面の上部と第1外殻部材11の内側面とに接しながら折返し部が上下動するように変形する。
【0039】
第1室Aは、流入出室A1と変動室A2とから構成されている。流入出室A1は、内筒部12A及び第3外殻部材13の内側に形成され、容積が一定である。変動室A2は、内筒部12Aより外側であり、かつ第2外殻部材12、ダイアフラム30及びピストン部材20に囲まれて形成され、ピストン20の往復運動に伴い容積が増減する。流入出室A1は、第1外殻部材を形成するポリアセタール樹脂製よりも機械強度の高いポリフェニレンスルファイド樹脂により形成された第2外殻部材12及び第3外殻部材13により形成されている。
【0040】
第1スピンドル部材40は、下端部がピストン20の底板部材22の上面中央部に連結され、ピストン20の胴部材21の軸上に上下方向に延びている。第1スピンドル部材40は、内筒部12Aに貫設された連通口12Bから流入出室A1内に挿入されている。第1スピンドル部材40の上部には、第1スピンドル部材40を覆う円筒形状の第2スピンドル部材41が取り付けられている。
【0041】
第2スピンドル部材41は、係止部41A、弁体41B及び連結部41Cを有している。係止部41Aは第2スピンドル部材41の上端部に第3外殻部材13の内周側面に沿って円盤形状に形成されている。係止部41Aの周縁部の下面にはバネ部材50の上端が当接されている。連結部41Cは係止部41Aの下面の中央部から下方に延び、第1スピンドル部材40の上部を下端の開口から挿入している。弁体41Bは、連結部41Cの下端部から外方向に拡がり、連通口12Bを閉鎖可能に形成されている。弁体41Bは連通口12Bに設けられた弁座12Cに当接するパッキン41Pが設けられている。
【0042】
バネ部材50は圧縮コイルバネである。このバネ部材50は連通口12Bの周縁上面に下端を当接させて流入出室A1内に収納される。第1スピンドル部材40は係止部41Aが最も上方に移動した際に係止部41Aの下面と連通口12Bの周縁上面との間に伸張したバネ部材50を挟み込むことができる長さに形成されている。このため、バネ部材50は連通口12Bの周縁上面と係止部41Aの下面との間で挟持された状態で流入出室A1内に容易に組み込むことができる。
【0043】
流入出室A1の上部側面に貫設された流入口13Aは、図9及び図12〜図14に示すように、逆止弁14の下流側接続管14Bが挿入され、接続されている。逆止弁14は内部に逆止弁体14Vが組み込まれている。逆止弁14の上流側接続管14Aは配管S1に接続されている。配管S1は洗浄水供給管S3により形成された給水路から分岐した分岐水路を形成している。
【0044】
流入出室A1の上部側面に貫設された流出口13Bは、図10〜図13に示すように、第2開閉弁15の上流側接続口15Aが連通されている。第2開閉弁15は内部に第2弁体15Vが組み込まれている。第2弁体15Vは背後に第2背圧室15Cが形成されたダイアフラム弁である。第2背圧室15Cは図示しない排水路が連通されている。第2開閉弁15は第2背圧室15Cの排水路を開閉する電磁駆動装置15Mを有している。
【0045】
第2背圧室15C内に貯留された洗浄水は、図11に示すように、電磁駆動装置15Mにより排水路が開放されて排出口15Dから排出される。これにより、第2弁体15Vが下方へ移動して開弁する。また、第2開閉弁15は、図10に示すように、電磁駆動装置15Mにより排水路が閉鎖されて第2背圧室15C内に洗浄水が貯留されることにより、第2弁体15Vが上方に移動して閉弁する。第2開閉弁15の下流側接続口15Bは連通路を形成する配管S2に連通されている。
【0046】
流入出室A1の上部側面に貫設された流入口13Aと流出口13Bは、図14に示すように、流入口13Aの内径D1が流出口13Bの内径D2より小さい。また、流入口13Aに挿入された逆止弁14の下流側接続管14Bの内径は、流入口13Aの内径D1よりもさらに小さい。このため、流入口13Aから流入する洗浄水の流量よりも多くの流量の洗浄水を流出口13Bから流出させることができる。
【0047】
吸引装置130の流入出室A1に貫設された流入口13Aは、図1及び図2に示すように、配管S1を介して、ボールタップ111より上流側の洗浄水供給管S3により形成された給水路に連通されている。このように、吸引装置130は、洗浄タンク110に洗浄水を供給する給水路から分岐した分岐水路に連通されている。また、流入出室A1に貫設された流出口13Bは、配管S2を介して洗浄タンク110の上部に連通されている。第2開閉弁15は制御装置Cから送信される開閉弁信号により駆動する。制御装置Cは図示しないリモコン装置に設けられた便器洗浄スイッチが操作されると、駆動信号を引き上げ装置114に送信した後、設定時間経過後に開弁信号を第2開閉弁15に送信し、その後、さらに設定時間経過後に閉弁信号を第2開閉弁15に送信する。また、第2室Bに貫設された吸引口11Aは連通管103を介して便器排水路102に連通している。
【0048】
次に、この水洗式便器の便器洗浄動作を説明する。
【0049】
洗浄水供給源に洗浄水供給管S3が連通された状態で、第2開閉弁15を閉弁する。すると、バネ部材50の付勢力に抗し、吸引装置130の第1室A(流入出室A1及び変動室A2)に洗浄水が流入する。これにより、ピストン部材20が下降し、第1室A内に洗浄水が蓄圧状態で貯留される。また、洗浄タンク110内にはボールタップ111を介して所定量の洗浄水が貯留されている。この状態が水洗式便器の便器洗浄の待機状態となる。
【0050】
使用者は、水洗式便器を使用した後、便器洗浄を行うためにリモコン装置の便器洗浄スイッチを操作する。すると、制御装置Cから引上げ装置114に駆動信号が送信され、図3に示すように、引上げ装置114が駆動し、フロート弁113が上昇する。これにより、洗浄タンク110内に貯留された洗浄水がリム通水路104を介して便鉢部101に流出する。便鉢部101内に流入した洗浄水により便鉢部101内に旋回流が形成されるとともに、水位が上昇する。洗浄タンク110内に貯留された洗浄水の水位が下がるため、浮き球112が下降し、ボールタップ111が開弁し、洗浄タンク110内へ洗浄水が供給される。
【0051】
また、便器洗浄スイッチが操作されると、図4に示すように、設定時間経過後に制御装置Cから第2開閉弁15へ開弁信号が送信され、第2開閉弁15が開弁する。これにより、第1室A内に蓄圧状態で貯留された洗浄水がバネ部材50の付勢力により流出口13Bから流出し、洗浄タンク110内に流入する。これにより、ピストン部材20が上昇を開始するため、第2室Bが吸引口11Aから連通管103を介して便器排水路102内の空気を吸引し始める。
【0052】
つまり、制御装置Cは、洗浄タンク110が便鉢部101へ洗浄水の供給を開始した後に吸引装置130が便器排水路102内の空気の吸引を開始するように制御している。このため、便鉢部101へ洗浄水が供給され、便鉢部101内の洗浄水の水位が上昇した後に、便器排水路102内の空気が吸引され、図5及び図6に示すように、便器排水路102内にサイホン作用が誘起される。
【0053】
このように、吸引装置130が便器排水路102内の空気の吸引を開始する前に、洗浄タンク110内の所定量の洗浄水が便鉢部101に供給され、便鉢部101内の水位が上昇し、洗浄水の位置エネルギーが増加している。このため、吸引装置130が便器排水路102内の空気を吸引した際には、便鉢部101内の洗浄水の増加した位置エネルギーとの相乗作用により、便器排水路102内にサイホン作用を確実に誘起することができる。また、バネ部材50の付勢力により第2室Bが容積を拡大し、便器排水路102内の空気を吸引するため、吸引装置130は便器排水路102から空気を安定して吸引することができる。
【0054】
したがって、実施例1の水洗式便器は、サイホン作用を確実に誘起することができる吸引装置を容易に取り付けることができる。
【0055】
また、便器排水路102内の空気を吸引装置130の第2室Bに吸引するため、便鉢部101へ供給される洗浄水を少なくしても便器排水路102内にサイホン作用を確実に誘起することができ、汚物等の排出を確実に行うことができる。
【0056】
その後、洗浄タンク110内の洗浄水の水位が所定水位以下になると、フロート弁113が閉弁する。フロート弁113が閉弁した後、所定時間を経過した後に、制御装置Cは第2開閉弁15に閉弁信号を送信する。吸引装置130の第1室Aに貯留された洗浄水はフロート弁113が閉弁した後にも洗浄タンク110内に流入するため、洗浄タンク110内に洗浄水を早期に貯留することができる。これにより、次の便器洗浄動作を早期に行なうことができる。
【0057】
第2開閉弁15は、吸引装置130のピストン部材20が上昇しきったタイミングで閉弁するように設定されている。第2開閉弁15が閉弁した後、吸引装置130の第1室Aに洗浄水が流入し、蓄圧状態で貯留される。また、洗浄タンク110内にはボールタップ111を介して洗浄水が流入し、貯留される。洗浄タンク110内の水位が上昇するに従い、ボールタップ111の浮き球112が上昇し、ボールタップ111が閉弁する。このようにして、水洗式便器は便器洗浄の待機状態に復帰する。
【0058】
以上説明したように、実施例1の水洗式便器は、少ない洗浄水でも便器排水路102内にサイホン作用を誘起することができ、汚物等の排出を確実に行なうことができる。
【0059】
<実施例2>
実施例2の水洗式便器では、図15〜図17に示すように、第1開閉弁であるボールタップ211が第1弁体211Vの背後に第1背圧室211Cを形成している。第1弁体211Vはダイアフラム弁である。第1弁体211Vは洗浄水供給管S3により形成された給水路を開閉する。第1弁体211は小流量の洗浄水が通水可能な第1導入路を形成する第1導入孔211Aが上下方向に貫設されている。これにより、第1背圧室211Cは第1導入孔211Aを介して給水路の一次側に連通している。第1背圧室211Cは第1パイロット小孔Pが上面部に貫設されている。第1パイロット小孔Pは洗浄タンク110内の水位の変動に伴い昇降する浮き玉112に連動する第1パイロット弁212Vによって開閉する。つまり、洗浄タンク110内の水位が設定水以下になると第1パイロット弁212Vは第1パイロット小孔Pを開放し、設定水位以上になると第1パイロット弁212Vは第1パイロット小孔Pを閉鎖する。
【0060】
第2開閉弁215は第2弁体215Vの背後に第2背圧室215Cを形成している。第2弁体215Vはダイアフラム弁である。第2弁体215Vは配管S2により形成された連通路を開閉する。第2背圧室215Cは伝達管Tにより形成された伝達水路を介して第1背圧室211Cに連通している。他の構成は実施例1と同様であり、同一の構成については同一の符号を付し詳細な説明を省略する。
【0061】
このように構成された実施例2の水洗式便器では、便器洗浄が開始されると、洗浄タンク110内のフロート弁113が上昇する。これにより、洗浄タンク110内に貯留された洗浄水がリム通水路104を介して便鉢部101に流出する。洗浄タンク110内に貯留された洗浄水の水位が下がるため、浮き球112が下降する。すると、図17に示すように、第1パイロット弁212Vが第1パイロット小孔Pを開放して第1背圧室211C内の洗浄水が流出するため、第1弁体211Vが給水路を開放する。これにより、洗浄タンク110内へボールタップ211を介して洗浄水が供給される。
【0062】
また、第1背圧室211C内の洗浄水が第1パイロット小孔Pから流出することにより、伝達管Tにより形成された伝達水路を介して、第2背圧室215C内の洗浄水が第1背圧室211C側に流出する。これにより、第2弁体215Vが連通路を開放する。すると、吸引装置130の第1室A内に貯留された洗浄水が連通路及び第2開閉弁215を介して洗浄タンク110内に流出する。これにより、吸引装置130の第2室Bの容積が拡大して便器排水路102内の空気の吸引を開始する。このように、無電源で第1開閉弁であるボールタップ211及び第2開閉弁215が開弁することができ、洗浄タンク110に洗浄水を供給し、かつ便器排水路102内の空気を吸引することができる。
【0063】
また、第2背圧室215C内の洗浄水は伝達管Tにより形成された伝達水路を介して第1背圧室211C側に流出するため、第2背圧室215C内から洗浄水が流出し始めるタイミングは、第1背圧室211C内から洗浄水が流出し始めるタイミングよりも遅くなる。このため、便器洗浄を開始して洗浄タンク110から便鉢部101へ洗浄水を供給し始めた後に第2開閉弁215が開弁し、吸引装置130が便器排水路102内の空気の吸引を開始する。このように、無電源で洗浄タンク110が便鉢部101へ洗浄水を供給するタイミングと吸引装置130が便器排水路102内空気を吸引するタイミングとを制御することができる。洗浄タンク110が便鉢部101へ洗浄水を供給するタイミングと吸引装置130が便器排水路102内空気を吸引するタイミングとの時間差は、伝達管Tの管径を変更することにより、長くしたり、短くしたり設定することができる。
【0064】
つまり、この水洗式便器では、洗浄タンク110内の洗浄水の便鉢部101への供給を開始させた後に吸引装置130による便器排水路102内の空気の吸引を開始することができる。吸引装置130が便器排水路102内の空気の吸引を開始する前に、洗浄タンク110内の所定量の洗浄水が便鉢部101に供給されるため、便鉢部101内の水位が充分に上昇し、洗浄水の位置エネルギーが増加している。このため、吸引装置130が便器排水路102内の空気を吸引する際には、便鉢部101内の増加した洗浄水の位置エネルギーとの相乗作用により便器排水路102内にサイホン作用を確実に誘起することができる。
【0065】
したがって、実施例2の水洗式便器もサイホン作用を確実に誘起することができる吸引装置を容易に取り付けることができる。
【0066】
洗浄タンク110内の洗浄水が便鉢部101に流出し、洗浄タンク110内の洗浄水の水位が洗浄タンク110の底面に近づくとフロート弁113が閉弁する。すると、洗浄タンク110内の洗浄水が増水し、水位が上昇して浮き玉が上昇する。洗浄タンク110内の洗浄水の水位が設定水位になると、第1パイロット弁212Vが第1パイロット小孔Pを閉鎖する。すると、第1弁体211Vの第1導入孔211Aを介して給水路の一次側から第1背圧室211C内に洗浄水が流入する。第1背圧室211C内に流入した洗浄水は伝達管Tにより形成された伝達水路を介して第2背圧室215Cにも流入する。第1背圧室211C及び第2背圧室215Cが洗浄水で満水になると第1弁体211Vが給水路を閉鎖し、第2弁体215Vが連通路を閉鎖する。このようにして、ボールタップ211及び第2開閉弁215が閉弁することにより、洗浄タンク110への洗浄水の供給が終了し、水洗式便器は便器洗浄の待機状態に復帰する。
【0067】
<実施例3>
実施例3の水洗式便器は、図18及び図19に示すように、伝達管Tにより形成された伝達水路に逆止弁Gが設けられている。この逆止弁Gは、第2背圧室315Cから第1背圧室211C側への洗浄水の通水を許容し、第1背圧室211Cから第2背圧室315C側への洗浄水の通水を防止する。また、第2弁体315Vは小流量の洗浄水が通水可能な第2導入路を形成する第2導入孔315Aが上下方向に貫設されている。これにより、第2背圧室315Cは第2導入孔315Aを介して連通路の一次側に連通している。他の構成は、実施例2と同様であり、同一の構成については同一の符号を付し詳細な説明を省略する。
【0068】
このように構成された実施例3の水洗式便器は、第1パイロット弁212Vが第1パイロット小孔Pを開放し、第1背圧室211C内の洗浄水が流出すると、伝達管Tにより形成された伝達水路を介して第2背圧室315C内の洗浄水が第1背圧室211C側に流出する。このため、この水洗式便器は、実施例2の水洗式便器と同様に、無電源で第1開閉弁であるボールタップ211及び第2開閉弁315を開弁することができ、洗浄タンク110に洗浄水を供給し、かつ便器排水路102内の空気を吸引することができる。
【0069】
また、便器洗浄を開始して洗浄タンク110から便鉢部101へ洗浄水を供給し始めた後に第2開閉弁315を開弁する。このように、無電源で洗浄タンク110が便鉢部101へ洗浄水を供給するタイミングと吸引装置130が便器排水路102内空気を吸引するタイミングとを制御することができる。このため、吸引装置130が便器排水路102内の空気の吸引を開始する前に、洗浄タンク110内の所定量の洗浄水を便鉢部101に供給することができるため、便鉢部101内の水位が充分に上昇し、洗浄水の位置エネルギーを増加させることができる。よって、吸引装置130が便器排水路102内の空気を吸引する際には、便鉢部101内の増加した洗浄水の位置エネルギーとの相乗作用により便器排水路102内にサイホン作用を確実に誘起することができる。
【0070】
したがって、実施例3の水洗式便器もサイホン作用を確実に誘起することができる吸引装置を容易に取り付けることができる。
【0071】
また、この水洗式便器では、伝達管Tにより形成された伝達水路に設けられた逆止弁Gによって第1背圧室211Cから第2背圧室315C側への洗浄水の通水が防止されている。このため、第1パイロット弁212Vが第1パイロット小孔Pを閉鎖すると、第1弁体211Vに設けられた第1導入孔211Aを介して給水路の一次側から流入する洗浄水により、第1背圧室211Cを早期に満水にすることができる。よって、第1弁体211Vが給水路を閉鎖してボールタップ211を早期に閉弁することができる。このように、第1パイロット弁212Vが閉弁した後、早期にボールタップ211を閉弁することができるため、給水路を流れる洗浄水の流量変化の影響等を受け難く、貯水時の洗浄タンク110内の水位を第1パイロット弁212Vが閉弁した際の水位から僅かに上昇した水位に安定化することができる。
【0072】
また、この水洗式便器では、第1パイロット弁212Vが第1パイロット小孔Pを閉鎖すると、第2弁体315Vに設けられた第2導入孔315Aを介して連通路の一次側から第2背圧室315Cに洗浄水が流入する。これにより、第2背圧室315Cが洗浄水で満水になり、第2弁体315Vが連通路を閉鎖し、第2開閉弁315は閉弁する。このようにして、ボールタップ211及び第2開閉弁315が閉弁することにより、洗浄タンク110への洗浄水の供給が終了し、水洗式便器は便器洗浄の待機状態に復帰する。
【0073】
<実施例4>
実施例4の水洗式便器では、図20に示すように、吸引装置230の第1室AにポンプPを介して洗浄タンク110に貯留された洗浄水を流入させる。これにより、吸引装置230の第1室Aに蓄圧状態で洗浄水を貯留することができる。他の構成は実施例2と同様であり、同一の構成については同一の符号を付し詳細な説明を省略する。
【0074】
この水洗式便器では、ボールタップ211の開弁よりも遅らせて第2開閉弁215を開弁し、ポンプPにより吸引装置230の第1室Aに蓄圧状態で貯留された洗浄水を洗浄タンク110へ流出させるとともに、吸引装置230は便器排水路102内の空気を吸引する。
【0075】
つまり、この水洗式便器では、洗浄タンク110内の洗浄水の便鉢部101への供給を開始させた後に吸引装置230による便器排水路102内の空気の吸引が開始される。吸引装置230が便器排水路102内の空気の吸引を開始する前に、洗浄タンク110内の所定量の洗浄水が便鉢部101に供給されるため、便鉢部101内の水位が上昇し、洗浄水の位置エネルギーが増加している。このため、吸引装置230が便器排水路102内の空気を吸引した際には、便鉢部101内の増加した洗浄水の位置エネルギーとの相乗作用により便器排水路102内にサイホン作用を確実に誘起させることができる。
【0076】
したがって、実施例4の水洗式便器もサイホン作用を確実に誘起することができる吸引装置を容易に取り付けることができる。
【0077】
<実施例5>
実施例5の水洗式便器では、図21に示すように、連通路を形成する配管S2を開閉する第3開閉弁がボールタップ16である。ボールタップ16は第3弁体の背後に第3背圧室を形成している。第3弁体はダイアフラム弁である。第3背圧室は小流量の洗浄水が通水可能な第3導入路を介して連通路の一次側に連通している。また、第3背圧室は第2パイロット小孔が設けられている。この第2パイロット小孔は洗浄タンク110内の水位の変動に伴い昇降する浮き球17に連動したパイロット弁により開閉される。浮き球17は浮き球112がボールタップ111を開閉する水位よりも低い水位でボールタップ16を開閉するように設定されている。他の構成は、実施例1と同様であり、同一の構成については同一の符号を付し詳細な説明を省略する。
【0078】
この水洗式便器では、便器洗浄が行なわれ、洗浄タンク110内の洗浄水を便鉢部101に供給し始めた後、ボールタップ16が開弁される。このため、吸引装置130が便器排水路102内の空気の吸引を開始する前に、洗浄タンク110内の所定量の洗浄水が便鉢部101に供給されるため、便鉢部101の水位が上昇し、洗浄水の位置エネルギーが増加している。よって、吸引装置130が便器排水路102内の空気を吸引した際には、便鉢部101内の増加した洗浄水の位置エネルギーとの相乗作用により便器排水路102内にサイホン作用を確実に誘起させることができる。また、この水洗式便器では、ボールタップ16の開弁タイミングを遅らせることができる。このように、無電源で洗浄タンク110が便鉢部101へ洗浄水を供給するタイミングと吸引装置130が便器排水路102内空気を吸引するタイミングとを制御することができる。
【0079】
したがって、実施例5の水洗式便器もサイホン作用を確実に誘起することができる吸引装置を容易に取り付けることができる。
【0080】
本発明は、上記記述及び図面によって説明した実施例1〜5に限定されるものではなく、例えば次のような実施例も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)実施例1〜5では、吸引装置が便器本体の後部上面に取り付けられているが、便器本体の後部等の空いた空間であり、洗浄タンクの取り付けに支障ない箇所に取り付けてもよい。
(2)実施例1〜5では、吸引装置に蓄圧状態で貯留された洗浄水を洗浄タンクに流出させていたが、便鉢部に直接流出させてもよい。
(3)実施例2〜5では、ダイアフラム弁に導入孔を貫設していたが、ダイアフラム弁に導入孔を貫設せず、弁ケースに小流量の洗浄水が通水可能なバイパス水路を設けてもよい。
【符号の説明】
【0081】
100…便器本体
101…便鉢部
102…便器排水路
110…洗浄タンク
112…浮き玉
117…カバー
130…吸引装置
10…ケーシング(シリンダー)
20、30…仕切部材(20…ピストン、30…ダイアフラム)
50…バネ部材
A…第1室
B…第2室
C…制御装置
111、211…ボールタップ(第1開閉弁)
211C…第1背圧室
211V…第1弁体
212V…第1パイロット弁
215…第2開閉弁
215C…第2背圧室
215V…第2弁体
211A…第1導入孔(第1導入路)
P…第1パイロット小孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
便鉢部及びこの便鉢部の下流側に連通して形成された便器排水路を有する便器本体と、前記便鉢部へ洗浄水を供給する洗浄タンクと、前記便器排水路内の空気を吸引する吸引装置とを備えた水洗式便器であって、
前記吸引装置は、ケーシングと、このケーシング内を第1室と第2室とに隔離する仕切部材と、前記第1室の容積が縮小する方向に前記仕切部材を付勢するバネ部材とを備え、前記洗浄タンクとは別に前記便器本体に取り付けられており、
前記第1室は、前記洗浄タンクに洗浄水を供給する給水路から分岐した分岐水路に連通されており、洗浄水の流入により前記バネ部材の付勢力に抗して前記仕切部材が移動して容積を拡大し、
前記第2室は、前記便器排水路に連通されており、前記バネ部材の付勢力により容積が拡大する際に前記便器排水路内の空気を吸引することを特徴とする水洗式便器。
【請求項2】
前記洗浄タンクが前記便鉢部へ洗浄水を供給するタイミングと、前記吸引装置が前記便器排水路内の空気を吸引するタイミングとを制御する制御装置を備えており、この制御装置は前記洗浄タンクが前記便鉢部へ洗浄水の供給を開始した後に前記吸引装置が前記便器排水路内の空気の吸引を開始するように前記洗浄タンク及び前記吸引装置を制御することを特徴とする請求項1記載の水洗式便器。
【請求項3】
前記第1室と前記洗浄タンクとを連通する連通路を備えており、前記第1室が前記バネ部材の付勢力により容積を縮小する際に、前記第1室内の洗浄水を前記連通路を介して前記洗浄タンクへ排水することを特徴とする請求項1又は2記載の水洗式便器。
【請求項4】
前記便器本体の後部上面に前記洗浄タンク及び前記吸引装置が取り付けられ、前記洗浄タンク及び前記吸引装置を覆うカバーを備えていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の水洗式便器。
【請求項5】
前記給水路を開閉可能な第1弁体と、小流量の洗浄水が通水可能な第1導入路を介して前記給水路の一次側に連通しており、前記第1弁体の背後に形成され、第1パイロット小孔が設けられた第1背圧室と、前記洗浄タンク内の水位の変動に伴い昇降する浮き玉に連動して前記第1パイロット小孔を開閉する第1パイロット弁とを有する第1開閉弁と、
前記連通路を開閉可能な第2弁体と、前記第1背圧室に伝達水路を介して連通し、前記第2弁体の背後に形成された第2背圧室とを有する第2開閉弁とを備えており、
前記第1パイロット弁が開弁すると前記第1背圧室内の洗浄水が前記第1パイロット小孔から流出して前記第1開閉弁が開弁するとともに、前記第2背圧室の洗浄水が前記伝達水路を介して前記第1背圧室側に流出して前記第2開閉弁が開弁することを特徴とする請求項3又は4記載の水洗式便器。
【請求項6】
前記伝達水路に設けられ、前記第2背圧室から前記第1背圧室側への洗浄水の通水を許容し、前記第1背圧室から前記第2背圧室側への洗浄水の通水を防止する逆止弁を備え、
前記第2背圧室は、小流量の洗浄水が通水可能な第2導入路を介して前記連通路の1次側に連通していることを特徴とする請求項5記載の水洗式便器。
【請求項7】
前記連通路を開閉可能な第3弁体と、
小流量の洗浄水が通水可能な第3導入路を介して前記連通路の一次側に連通しており、第2パイロット小孔が設けられ、前記第3弁体の背後に形成された第3背圧室と、
前記洗浄タンク内の水位の変動に伴い昇降する浮き玉に連動して前記第2パイロット小孔を開閉する第2パイロット弁とを有する第3開閉弁を備えており、
前記第2パイロット弁が開弁すると前記第3背圧室内の洗浄水が前記第2パイロット小孔から流出して前記第3開閉弁が開弁することを特徴とする請求項3又は4記載の水洗式便器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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