説明

水田用作物栽培試験用ポット

【課題】 水田作物の栽培の管理が容易で、給排水機能を確実に確保し、軽量かつ耐久性を有した水田用作物栽培試験用ポットの提供。
【解決手段】 上部が開口した容器状に形成された水田用作物栽培試験用ポットであって、底部と、該底部から立設する側壁と、水田用作物を植栽するための土壌を収容可能な収容部とを備え、前記側壁には、前記収容部の床面近傍の高さに下部排水口が、また、少なくとも収容部内に収容する土壌面より高くなる位置に上部排水口がそれぞれ貫設されたことを特徴とする水田用作物栽培試験用ポット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水田作物の栽培試験や水田用の農薬等の適用性試験を行うにあたり、給水、排水、漏水、土壌水分の管理を簡便に行うことができることを可能にした試験用ポットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
イネ等の水田作物の栽培に当たっては、土壌の種類や土質の差異、肥料管理、病害虫管理、雑草管理、気温管理、並びに給水、排水、漏水、水温及び水分含量等の水管理が健全な生育のための重要な要因となる。特に水の管理は重要であり、イネの生育状況によって必要に応じて水を取り込み、水位を所定の高さに調整する。ところがこの水位調節は手間のかかる作業であるために種々の給排水システムが考案されている。
【0003】
例えば特許文献1には排水管を埋設し、その一端を水引き込み口に出し、水面高さが調節できる回転自在の排水口を装着し、必要以上の水を排水口より排水管に流しこみ、排水管を通って排水路に排出させたり、また水田を干すときは、水引き込み口をせき止め、回転自在の排水口を横に倒し、水田に溜っている水や漏水を排出させるようにした水田の水管理施設の構造に関する記載がされている。
【0004】
また、特許文献2には、排水路に連通する複数の通水孔を備えた暗渠給水管と、この暗渠給水管の一端から地表に立ち上がる立ち上がり管と、前記暗渠給水管の反対側端部に接続して前記排水路と、前記暗渠給水管に接続して該暗渠給水管を開閉する水閘と、前記暗渠給水管上に立設した給水性に優れた誘導疎水体とを備え、水閘を解放して水田の余剰の地中水を排水路に排出するとともに、前記水閘を遮断した状態で前記立ち上がり管から暗渠給水管に給水した用水を土壌の中に供給して湿田化するように構成したものが記載されている。
【0005】
さらに特許文献3には、給水パイプから供給される水を水田へ給水または遮断するダイアフラム弁体を備える給水装置と、水田の水位が所定の高さ以上になったときに該所定の高さ以上の水を排出する排水装置とを有する水田自動給水システムであって、排水装置が、水面に対して上下に移動可能な複数の電極と、所定間隔のタイミングで電極にパルスを印加して水位を検出し、ダイアフラム弁体の開閉を制御する制御手段とを有する装置が記載されている。
【0006】
しかしながら、上記の装置及びシステムはいずれも実場面の圃場の水管理を目的としたものである。栽培試験や農薬の適用性試験を目的とする場合、多くの条件設定が必要となり、これらの装置及びシステムは非常に大がかりであるため、必ずしも経済的とは言えない。さらに、圃場で栽培試験を行う場合、例えば天候、鳥獣による食害等、想定外の要因も加わるため、精度の高い試験を行うことは困難である。
【0007】
そこで、水田作物の栽培試験を精密に行うために、最初の試験段階では市販の小型プラスチックポット等を用いて、温室等の室内で栽培試験を行うのが一般的である。室内で小型のプラスチックポットを用いることにより、水の管理、土質、肥料、病害虫、雑草、気温等について各々の要因解析試験が可能となる。
【0008】
これらの要因解析試験をおこなった後、次の試験段階では前記の要因を組み合わせた試験を行うのが一般的であるが、試験によっては小型のプラスチックポットを用いて試験を行うことは難しい場合がある。例えば、除草剤の試験においては、気温や水管理を実際の圃場と同様な条件に設定し、同一ポット内に多種の雑草とイネを長期間にわたって栽培する。かかる長期間の栽培では、雑草とイネは大きく成長するため、土壌容量が足りず根が密集したりする等、小型のプラスチックポットでは物理的に困難な状況になる。これを解決するためには大型のプラスチックポットを使用すればよいのであるが、市販されている大型のプラスチックポットの種類は少ない。また、水と土壌も大きな荷重となるため、市販の大型ポットでは割れ易く耐久性がない。さらに、長期間の試験では水の量も増えるため精密な水管理が困難になってくる。
【0009】
そのため、かかる試験ではコンクリート製のポットを用いて行うことが一般的である。ところがコンクリート製ポットは、それ自体が大過重なため、移動させることは困難であり、一定の場所へ据え置く場合がほとんどである。従って、前記理由から様々な試験目的に合わせた環境で試験する場合、コンクリート製ポットは適当とはいえない。またコンクリートのセメントが強アルカリであるため、ポットを製造した後にある程度の養生期間が必要となる。さらに長年使用していると水による侵食も見られ、コンクリートで修繕するか、水に浸食されないような部材でコーティングする必要が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】実開平7−17037号公報
【特許文献2】特開2005−40038号公報
【特許文献3】特開平9−9800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで本発明は、従来の水田作物用試験ポットのかかる欠点を克服し、構成が簡単で、水田作物の栽培の管理が容易で、給排水機能を確実に確保し、軽量かつ耐久性を有した水田用作物栽培試験用ポットの提供をその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するものであり、上部が開口した容器状に形成された水田用作物栽培試験用ポットであって、底部と、該底部から立設する側壁と、水田用作物を植栽するための土壌を収容可能な収容部とを備え、前記側壁には、前記収容部の床面近傍の高さに下部排水口が、また、少なくとも内部に収容する土壌面より高くなる位置に上部排水口がそれぞれ貫設されたことを特徴とする水田用作物栽培試験用ポットである。
【発明の効果】
【0013】
すなわち、本発明の水田用作物栽培試験用ポットは、側壁の異なる高さに少なくとも2箇所の排水口が設けられており、これらの排水口によってポット内の水位の調整が可能となるものである。
【0014】
具体的には、上部および下部の排水口に取り付けられた排水パイプの取り付け角度を調整することにより、排水パイプの先端部とポット内における水位差を設け、かかる水位差を利用することによりポット内の水位を管理することが可能となる。また、2ヶ所の排水口は、そのパイプの口径の設定を変え、取り付け角度を調整することにより、水の排水速度をコントロールすることも可能である。さらに、下部排水パイプから給水させることによって、植物種に応じた適切な土壌水分を保つことができるため、水田用作物だけではなく水管理に注意を払う必要がある畑作物や観葉植物などの栽培にも利用することができる。
【0015】
さらに、本発明で側壁および底部が二重構造となっているものは、軽量で可動が容易であるのみならず、保温性に優れ、更に、直射日光による急激な温度上昇を防ぐことができる。
【0016】
また、本発明で材質が繊維強化プラスチックのものは、コンクリート製のポットのように作成後の養生期間が不要であり、さらに、一般的なプラスチック製のものと異なり十分な強度を有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る水田用作物栽培試験用ポットの正面図。
【図2】本発明に係る水田用作物栽培試験用ポットの側面図。
【図3】本発明に係る水田用作物栽培試験用ポットの平面図。
【図4】本発明に係る水田用作物栽培試験用ポットの透視側面図。
【図5】本発明に係る水田用作物栽培試験用ポットのA−A’断面図。
【図6】本発明に係る水田用作物栽培試験用ポットの斜視図。
【符号の説明】
【0018】
1 … … 水田用作物栽培試験用ポット
2 … … 遮光ネット
11 … … 収容部
12 … … 側壁面
13 … … 底部
14 … … 隔壁
15 … … 収容部床面
16 … … 台座部
17 … … 上部排水口
18 … … 下部排水口
19 … … 取っ手
21 … … 枠部材
22 … … 網
23 … … 引っ掛け部材
171 … … パイプ取り付け部
172 … … L字パイプ
173 … … 排水パイプ
181 … … パイプ取り付け部
182 … … L字パイプ
183 … … 排水パイプ
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の水田用作物栽培試験用ポットの一実施態様を、図面に基づいて具体的に説明する。なお、本発明はこれら実施態様に何ら制約されるものではない。
【0020】
図1は本発明に係る水田用作物栽培試験用ポットの正面図、図2は同側面図、図3は同平面図、図4は同透視側面図、図5は同A−A’断面図である。図中、1は水田用作物栽培試験用ポット、11は収容部、12は側壁、13は底部、14は隔壁、15は収容部床面、16は台座部、17は上部排水口、18は下部排水口、19は取っ手、171および181はパイプ取り付け部をそれぞれ示す。図に示すように、本実施態様の水田用作物栽培試験用ポット1は、上部が開口したほぼ立方体の容器体であって、その内部に水田用作物を植栽するための土壌を収容可能な収容部11が形成されている。
【0021】
本実施態様の水田用作物栽培試験用ポット1の正面の側壁12には、ポット外部から収容部11へと貫通する計2箇所の排水口が設けられており、いずれの排水口も、側壁12より外部にパイプ取り付け部171、181が突出するようになっている。下部排水口18は、図4に示すように、収容部11内の床面15より若干上に位置するように設けられている。一方、上部排水口17は、下部排水口18の斜め上方であって、少なくとも収容部11内に水田用作物を栽培するための土壌を収容したときの土壌面よりも高くなる任意の位置に設けられている。また、使用時には、いずれの排水口にも後述する排水パイプが取り付けられる。なお、いずれの排水口も必要に応じて給水口としても使用できる。
【0022】
図4に示すように、底部は二重構造になっており、具体的には、水田用作物栽培試験用ポット1の外壁を構成する底部13の上に隔壁14が十字状に設けられ、その上に、収容部床面15が設けられている。かかる隔壁14によってポットの構造的な強度が増すとともに、収容部床面15が下部排水口18に向けて緩やかな傾斜が形成されているため、収容部11内の水はけがよくなる。一方、側壁12は中空の二重構造となっており、このように、底部と側壁が二重構造とすることにより、ポット全体が軽量化され移動が容易となるとともに、ポットが直射日光を浴びた場合でも断熱効果により水温の上昇を防ぎ、また、保温効果も期待できる。なお、中空部分には断熱材を入れることもできる。
【0023】
また、水田用作物栽培試験用ポット1の両側面の側壁12には、凹状の取っ手19が設けられており、移動のときや、傾けたり横にして中の土壌を出すときなどの取り扱いが容易である。
【0024】
水田用作物栽培試験用ポット1は、材質としては、防水性を有し、内部に土壌を入れるに十分な強度および強度を有するものであれば特に限定されないが、かかる性質を有するものとして、合成樹脂、特に、繊維強化プラスチック(FRP)であることが好ましい。かかる材料を用いて、型枠流し込み製造により製造することができるため、水田用作物栽培試験用ポット1は、本実施態様の立方体形状のみならず、円柱形など、任意な形での成型が可能である。
【0025】
以下では、本発明の水田用作物栽培試験用ポット1の使用例について説明する。図6に示すように、水田用作物栽培試験用ポット1を使用する際は、上部排水口17には、排水パイプ173が、また、下部排水口18には排水パイプ183がそれぞれ取り付けられる。排水パイプ173および183は、ともに、基端部にL字の接続用部材172、182を介してパイプ取り付け部171、181に回転自在に取り付けられている。そして、いずれも直立する角度で取り付けられたときに、少なくとも、収容部11内で水田用作物を栽培するときの水位よりは高くなる位置にその先端部がくるよう、長さが設定されている。かかる排水パイプやL字の接続用部材は、一般的に入手可能な塩ビパイプおよび継手を利用することができる。また排水パイプの口径を自由に設定することもできる。
【0026】
まず、土壌を収容部11内に入れる。このとき、土壌面が上部排水口17の下方に位置するようする。ここに稲等の水田作物を植栽するが、水位の調整は以下の方法により行うことができる。
【0027】
すなわち、下部排水口18に取り付けられた排水パイプ183を直立するようにセットしておけば、排水パイプ183の先端は収容部11内の水位よりも高くなるため、外部への漏水はない。そして、排水パイプ183を右もしくは左に傾けるように回転させて排水パイプ183の先端を収容部11内の水位よりも低くしてやれば、収容部内とパイプ先端の水位差によって漏水が生じる。排水パイプ183の先端の高さは、排水パイプの回転角度により自由に設定可能なので、これにより漏水量も自由に設定することができる。また、上部排水口17に取り付けられた排水パイプ173についても同様の操作によって、内部の水位を調整することができる。なお、下部排水口18は水田用作物栽培試験用ポット1を設置する地面より高めになるよう設けられているため、上記の排水パイプの操作性向上に資する。
【0028】
本発明の水田用作物栽培試験用ポット1は可動式であるため、屋外、屋内、温室など、試験の目的に応じて設置して使用することができるが、屋外で使用する場合には、側壁12に直射日光が当たり、試験結果に影響を及ぼす可能性が考えられる。そこで、かかる日光の影響を最小限にするため、図6に示すような、遮光ネット2を水田用作物栽培試験用ポット1と併用することができる。本実施態様における遮光ネット2は、側壁12の外寸以上の大きさに形成されたアルミ製の枠部材21に、寒冷紗製の網22を貼ったものである。そして、枠部材21の上部には、水田用作物栽培試験用ポット1の側壁12上端に引っ掛けるための引っ掛け部材23が設けられており、これにより遮光ネット2を水田用作物栽培試験用ポット1の排水口が設けられていない任意の側壁12に複数取り付けることができる。かかる遮光ネット2の併用により、直射日光の影響をより少なくすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の水田用作物栽培試験用ポットは、水田用の作物の栽培に限定されず、その他畑作物等一般的な植物の栽培にも利用可能であり、また、試験目的のみならず、業務用、家庭用などの一般的な目的にも利用可能である。
以 上

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部が開口した容器状に形成された水田用作物栽培試験用ポットであって、底部と、該底部から立設する側壁と、水田用作物を植栽するための土壌を収容可能な収容部とを備え、前記側壁には、前記収容部の床面近傍の高さに下部排水口が、また、少なくとも収容部内に収容する土壌面より高くなる位置に上部排水口がそれぞれ貫設されたことを特徴とする水田用作物栽培試験用ポット。
【請求項2】
前記上部排水口および下部排水口には、該排水口を支点として取り付け角度が調整自在であり、該排水口より直立させたときに少なくとも収容部内の水位よりも高い位置にその先端がくるように設けられた排水パイプが取り付けられたことを特徴とする請求項1に記載の水田用作物栽培試験用ポット。
【請求項3】
前記側壁が中空の二重構造であることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の水田用作物栽培試験用ポット。
【請求項4】
前記底部が二重床構造であり、さらに、収容部の床面が下部排水口側に向けて低くなるよう傾斜して設けられている請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の水田用作物栽培試験用ポット。
【請求項5】
材質が繊維強化プラスチックであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の水田用作物栽培試験用ポット。
【請求項6】
前記側壁に、側壁に取り付け自在に形成された枠部材と該枠部材に貼られた網からなる遮光ネットを備えたことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の水田用作物栽培試験用ポット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−158212(P2010−158212A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−3136(P2009−3136)
【出願日】平成21年1月9日(2009.1.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第3項適用申請有り 平成20年10月29日〜30日 農林水産省主催の「アグリビジネス創出フェア2008」に出品
【出願人】(000000169)クミアイ化学工業株式会社 (86)
【Fターム(参考)】