説明

水着

【課題】流体抵抗が少なく、ウエスト部分を適度に締め付けて身体の体幹を安定させ、水の流れと平行に手足及び体幹を維持し、動き易い機能を満足する水着を提供する。
【解決手段】本発明の水着は、上半身を覆う身頃部(11)と下半身を覆うスパッツ部(12)とがいずれかの部分で接合されており、着用者の表面に密着した状態で着用される水着(10)であって、身頃部が、皮膚側の内部生地(13)と、その外側の外部生地(14)で構成され、内部生地(13)の下端はスパッツ部(12)の少なくとも一部と接合され、内部生地(13)の上端は外部生地(14)とは接合されておらず、外部生地(14)の下端の少なくとも一部はスパッツ部(12)の前部と接合されており、外部生地(14)の下端の中央部から脊柱に沿って上端の途中まで開閉機構(5)を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体抵抗の少ない形状の水着に関する。
【背景技術】
【0002】
競泳においては、水の抵抗を低くした水着が求められる。水の抵抗は身体表面を流れる水と身体あるいは水着の流体摩擦抵抗と、身体形状に依存する形状抵抗とに分けられる。従来の水着は、素材の摩擦抵抗を低減することに着目しており(例えば特許文献1〜3)、流体抵抗の中で比率の高い形状抵抗を下げるための工夫はされてこなかった。
流体摩擦抵抗を下げるには、できるだけ全身を流体摩擦抵抗の低い素材で覆う必要があるため、男性用水着においてさえも上半身部と下半身部がつながった水着がこれまでも提供されてきた。しかし、上半身部と下半身部がつながっていることで、特に上半身の動きが阻害されることもあった。従って、上半身部と下半身部がつながった水着においては、流体摩擦抵抗を下げるとともに、動きやすいことが求められる。特に、普段からスパッツタイプの水着を着用している選手においては、動きにくさを理由として上半身も覆うタイプを着用していない選手が多い。このため、スパッツタイプの着用感を持ちつつ上半身を覆うタイプの水着が求められる。
【0003】
また、形状抵抗を下げるには、臀部のふくらみなど、身体の凸部をできるだけ無くすことが求められる。また、競泳動作中に形状抵抗を高める要因として、とくに疲労時に見られる上半身に対する下半身の屈曲も挙げられる。これらはいずれも身体の進行方向から見た投影面積を増大させ、形状抵抗を高める原因となる。以上から、形状抵抗を低減させるためには、身体の体幹を安定させて、水の流れと平行に手足及び体幹を維持する必要がある。
【0004】
しかし、前記従来例においては、流体摩擦抵抗を下げつつ、体幹を安定させて、動き易い機能を満足するには問題があった。
【特許文献1】特許第2715088号明細書
【特許文献2】特開2004−292962号公報
【特許文献3】WO2007/142232号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、流体抵抗が少なく、上半身部の後身頃の一部を分割し、ウエスト部分を適度に締め付けて体幹を安定させて、水の流れと平行に手足及び体幹を維持する機能、動き易い機能を満足する水着を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の水着は、上半身を覆う身頃部と下半身を覆うスパッツ部とがいずれかの部分で接合されており、着用者の表面に密着した状態で着用される水着であって、前記身頃部が、皮膚側の内部生地と、その外側の外部生地で構成され、前記内部生地の下端は前記スパッツ部の少なくとも一部と接合され、前記内部生地の上端は前記外部生地とは接合されておらず、前記外部生地の下端の少なくとも一部は前記スパッツ部の前部と接合されており、前記外部生地の下端の中央部から脊柱に沿って上端の途中まで開閉機構を備えたことを特徴とする。
【0007】
本発明の別の水着は、上半身を覆う身頃部と下半身を覆う領域が連続して構成されているワンピースタイプの、着用者の表面に密着した状態で着用される水着であって、前記身頃部が、皮膚側の内部生地と、その外側の外部生地で構成され、前記内部生地の下端は前記下半身を覆う領域の少なくとも一部と接合され、前記内部生地の上端は前記外部生地とは接合されておらず、前記外部生地が前記身頃部と下半身を覆う領域が連続して構成されており、前記身頃部外部生地の下端の中央部から脊柱に沿って、上端の途中まで開閉機構を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水着は、身頃部が、皮膚側の内部生地と、その外側の外部生地で構成され、内部生地の下端は前記スパッツ部の少なくとも一部と接合され、内部生地の上端は外部生地とは接合されておらず、外部生地の下端の少なくとも一部はスパッツ部の前部と接合されており、外部生地の下端の中央部から脊柱に沿って上端の途中まで開閉機構を備えたことにより、前記開閉機構の上部から首部にかけて延在する生地部分と、開口部を設けることでの相乗効果で背面部の突っ張り感を解消し、腹部を適度に締め付け、これによりウエスト及び腰部を安定化させることができる。その結果、全体として流体抵抗が少なく、ウエスト部分を締め付けて身体の体幹を安定させ、動き易い機能を満足できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の水着は、上半身を覆う身頃部と下半身を覆うスパッツ部とがいずれかの部分で接合され連続化されている。これは女性用水着に限らす、男性用水着でも同様である。また、着用者の表面に密着した状態で着用される。さらに、前記身頃部が、皮膚側の内部生地と、その外側の外部生地で構成される。すなわち、二重構造である。前記内部生地の下端は前記スパッツ部の少なくとも一部と接合され、前記内部生地の上端は前記外部生地とは接合されておらず、前記外部生地の下端の少なくとも一部は前記スパッツ部の前部と接合されており、前記外部生地の下端の中央部から、脊柱に沿って上端の途中まで開閉機構を備えている。この結果、流体抵抗が少なく、ウエスト部分を適度に締め付けて身体の体幹を安定させ、動き易い機能を満足できる。
【0010】
前記身頃部には襟が取り付けられ、肩部は鎖骨の半分以上を覆うように形成するのが好ましい。水泳動作中の流体抵抗が大きい部分を布で覆い表面摩擦抵抗を減らすとともに肩部の筋肉を面で押さえることで、ひも状の生地を配置した場合よりも肩部の皮膚表面の凹凸を抑制し、形状抵抗を減らすことができ、かつ肩部にかかる圧迫感を減らすことができ、布の伸縮性で動きやすく、さらに水着内に水が入り込むのを抑制できる。
【0011】
前記外部生地の下端の形状は頭部方向に向かって凸の半円状であることが好ましい。背中の下部(腰の上部)を開けて腰部を動きやすくできる。
【0012】
前記身頃部とスパッツ部が、ウエスト部分で接合され、前記接合部にゴムが配置されていることが好ましい。これにより腰を締めて水流抵抗を減らすことができる。また、普段からスパッツを好む選手に対して、スパッツに近い着用感を提供することができる。
【0013】
本発明の水着は、基本的に親水性伸縮生地部分と非親水性伸縮生地部分で構成するのが好ましい。親水性伸縮生地部分は、一例として首周りと、胸筋部と、背中部と、腹筋下部と、上部臀部と、大腿内側前部を覆う位置に配置される。前記非親水性伸縮生地部分は、一例として腹筋部と背筋部を含めたウエスト部と、大臀部から大腿内側後部と、大腿側部から腰の側部を覆う位置に配置される。前記背中部の親水性伸縮生地部分は、前記背筋部の非親水性伸縮生地部分の上から覆う形で背中部に配置し、脊髄に沿って後ろ首の下部から背中の下端部で開閉が可能なように開閉機構を備えている。開閉機構には、例えばファスナーを使用し、背中の下端部から後ろ首の下部まで開閉される。首周りに布を設け、肩部分に布を面的に配置し、肩紐での食い込み感を軽減している。
【0014】
この水着は、水との摩擦が生ずる部分に親水性生地を配置することにより流体抵抗が少なくできる。また、腹筋部と背筋部を含めたウエスト部に伸縮性生地を配置することにより、ウエストを適度に締め付けて身体の体幹を安定させ、水の流れと平行に手足及び体幹を維持する姿勢を整えることができる。また、大臀部から大腿内側後部に非親水性伸縮性生地を配置することにより、脚を動きやすくすることができる。さらに、背中部の親水性生地部分は背筋部の非親水性伸縮生地部分の上から覆う形で背中部に配置し、脊髄に沿って後ろ首の下部から背中の下端部で開閉が可能なように開閉機構を備えたことにより、水をストロークするときに妨げとなる腰生地部の引っ張り抵抗を軽減し、その分前方推進力に変換できる。
【0015】
本発明で主要部とは、身体を覆う主な部分を言い、身頃及びスパッツに相当する部分を言う。
【0016】
本発明で使用する伸縮生地は、弾性糸を含むワンウエイ又はツーウエイの織物又は編物が好ましい。弾性糸は、ポリウレタン系弾性糸及びポリエステル系弾性糸から選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。ストレッチ性が高く、スポーツ衣料に適しているからである。前記弾性糸は、ベアヤーン(裸糸)として、非弾性糸(リジッド糸)と引きそろえて使用しても良いし、又は表面にポリエステル繊維もしくはナイロン繊維が被覆されたカバードヤーンとして使用しても良い。
【0017】
前記非弾性糸は、例えばポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなど)繊維糸、ポリアミド繊維糸、アセテート繊維糸、コットン繊維糸、レーヨン繊維糸、エチレンビニルアルコール繊維糸などが好ましい。このうち、熱可塑性であり、熱セット性が良く、疎水性であるポリエチレンテレフタレート(PET)繊維糸が好ましい。
【0018】
生地としては織物又は編物が使用できる。織物としては、平織、斜文織、朱子織、変化平織、変化斜文織、変化朱子織、変わり織、紋織、片重ね織、二重組織、多重組織、経パイル織、緯パイル織、絡み織等がある。このうち、スポーツ用途としては平織が風合いや強度等に優れる。通常、織物は経糸と緯糸で構成されており、ポリエステル繊維糸のようにリジッドな糸を使用した場合は、経方向にも緯方向にもほとんど伸びは生じない。
【0019】
編物としては、丸編、緯編、経編、パイル編等を含み、平編、天竺編、リブ編、スムース編(両面編)、ゴム編、パール編、デンビー組織、コード組織、アトラス組織、鎖組織、挿入組織などがある。編物は基本的にはループで構成されるので、ポリエステル繊維糸のようにリジッドな糸を使用しても、応力がかかった場合、ループが変形して伸びが生ずる。
【0020】
生地の目付けは100〜400g/m2の範囲が好ましい。この範囲であれば透けなどの問題を起こさず、審美性に適しており、また重量感もなく着用性が高い。
【0021】
生地の伸縮性は、JIS1096で測定した4.9N(500gf)荷重時の伸長率が、経方向及び緯方向から選ばれる少なくとも一方が5〜150%の範囲の編物が好ましい。この範囲であれば身体の動きに追従し着用性が高い。
【0022】
親水性生地としては、前記特許文献3に開示されているように、多孔質無機粒子に吸水ゲル樹脂が吸着された吸水ゲル吸着粒子をバインダ樹脂とともに伸縮性生地の表面の少なくとも一部に固定したもの(以下「親水性処理部」とも言う。)を使用できる。前記親水性処理部は、生地表面に部分的にプリントしても良く、全面に浸漬させても良い。部分的にプリントする場合は、他の部分は非処理領域としてもよいし、撥水部分と塗りわけても良い。
【0023】
本発明において、「ほぼ密着」の状態を作るには、人体の裸のサイズに対して、周囲方向は50%以上110%以下、さらに好ましくは70%以上95%以下、丈は75%以上100%以下、さらに好ましくは85%以上100%以下としてアンダーパンツを形成する。もちろん人体のサイズは個人差があるので、前記の比率は目安である。より具体的には、JASPO規格に従ってサイズを決める。
【0024】
本発明の水着はワンピースタイプの水着としても有用である。また、ハーフスーツ、ロングスーツ又はフルスーツの水着として好適である。とくに競泳用水着に好適である。
【0025】
相対的に高い伸縮生地(ハイパワー素材生地、以下「強緊締素材」とも言う。)及び相対的に低い伸縮生地(以下「弱緊締素材」とも言う。)は、縫製によって一体化されていることが好ましい。しかし、緯編物の場合は、後に説明するように一体編成することもできる。
【0026】
本発明の強緊締素材及び弱緊締素材は、ストレッチ素材であり、素材の5cm幅における4.9N(500gf)加重時の強緊締素材に対して弱緊締素材の伸長率が、丈方向で、2倍以上の範囲であることが好ましい。また、5cm幅における17.7N(1800gf)加重時の強緊締素材に対して弱緊締素材の伸長率が、丈方向で、1.3倍以上の範囲であることが好ましい。ここで、丈方向としたのは、生地の経緯方向にかかわらず、出来上がり製品においての丈方向を表わすためである。
【0027】
このような各部分のストレッチ特性を出すためには、後に説明するように、例えば弾性糸を編物又は織物の構成糸に用いた場合、一例として次のような手段を取ることができる。
(1)強緊締素材には弱緊締素材に比べて、弾性糸の構成比率を高くする。
(2)強緊締素材には弱緊締素材に比べて、弾性糸の繊度を太くする。
(3)強緊締素材には弱緊締素材に比べて、織物の場合は経糸及び/又は緯糸密度を高くし、編物の場合は編み密度を高くする。
(4)強緊締素材には弱緊締素材に比べて、弾性糸の張力を高くして織物または編物を製造する。
(5)強緊締素材には弱緊締素材に比べて、生地の厚さを厚くして織物または編物を製造する。
【0028】
本発明のストレッチ素材は、縦方向及び横方向に伸縮する2ウェイストレッチ編物及び2ウェイストレッチ織物から選ばれる少なくとも一つの布帛であることがさらに好ましい。
【0029】
前記2ウェイストレッチ編物又は織物は、ポリエステル繊維糸と弾性糸とを主成分構成糸とするか、またはナイロン繊維糸と弾性糸とを主成分構成糸としてもよい。別の構成としては、コットン(木綿)と弾性糸とを主成分構成糸としてもよい。ここで、主成分構成糸とは、両成分を合計すると80重量%以上になることをいう。ポリエステル繊維糸を用いた場合は、汗をかいても乾き易い。ナイロン繊維糸を用いた場合は、軟らかなタッチの編物となる。
【0030】
前記編物又は織物の組織はどのようなものであっても良い。織物としては一般的に良く知られている平織、斜文織、朱子織の3原組織の他、変化織であってもよい。また、編物として一般的に良く知られているラッセル経編機によって編成される編物、トリコット経編機によって編成される編物及びニット緯編み機によって編成される編物等であっても良い。例えば、トリコット経編機によって編成されるハーフ組織の編物やラッセル経編機によって編成されるパワーネット組織の編物等を挙げることができる。ニット緯編物としては、例えば平編(天竺編)、ゴム編、パール編、スムース編(両面編)等どのような組織でも良い。また、ニット緯編み機によって編成される編物は、丸編機又は横編機によって編成される編物であっても良い。なお、緯編ニットの場合は、縫製を必要としないで、弱緊締素材と強緊締素材とを一体化編成することも可能である。例えば、横編の無縫製機(島精機製作所)の"FIRST−X"という装置があり、これを用いて身生地部と袖部とを同時に編成し、無縫製ニット製品を製造できる。
【0031】
さらに、イタリアのサントニ(SANTONI)社のフルコンピュータ制御の"シームレス・ボディ・インナー編み機"と呼ばれる装置で強緊締素材及び弱緊締素材の組み合わせをシームレスで筒状に編成し、身生地部と袖部とすることも可能である。
【0032】
前記織物または編物は、ポリウレタン糸等の伸縮性を有する弾性糸を少なくとも一部に使用しているものが好ましい。
【0033】
前記弾性糸は、ポリウレタン系弾性糸及びポリエステル系弾性糸から選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。ストレッチ性が高く、スポーツ衣料に適しているからである。前記弾性糸は、ベアヤーン(裸糸)又は表面にポリエステル繊維もしくはナイロン繊維が被覆されたカバードヤーンのどちらでも良い。
【0034】
高捲縮仮撚加工を施して伸縮性を持たせたポリエステル、ナイロン等の高捲縮仮撚加工糸を生地の少なくとも一部あるいは全部に使用した生地も可能である。また、単純に前記伸縮性のあるニットを複数枚数重ねて使用することも可能である。更に、前記伸縮性のあるニット生地どうしをラミネート加工して二層にした二層ラミネート生地、伸縮性のあるポリウレタンシートを前記伸縮性のあるニット生地ではさみ込みラミネート加工して三層にした三層ラミネート生地も使用可能である。
【0035】
次に、生地素材に「強弱」の緊締力を持たせ、強緊締素材および弱緊締素材とする方法としては、ポリウレタン糸、高捲縮仮撚加工糸(以下、伸縮糸とする。)の混率の「大小」でそれぞれ生地素材に「強弱」の緊締力を持たせることができる。混率に変化を与える方法としては、伸縮糸の太さを「太細」と変えることで混率の「大小」を出す方法、伸縮糸の太さは同じで生地中に配する割合を「多少」と変えることで混率の「大小」を出す方法がある。伸縮糸の混率が一定の場合に編密度を「密疎」とかえることでも可能である。さらに、伸縮糸の種類を変えた生地を使用するか、ラミネート加工した生地とラミネート加工していない生地を用いるか、または同一の生地の重ねる枚数を変えることでも生地に「強弱」の緊締力を持たせることが可能である。
【0036】
強緊締素材および弱緊締素材における「強弱」の緊締力は、一定加重時の生地の伸長率の大小で確認することができる。すなわち、緊締力の強い生地は伸長率が小さく、弱い生地は伸長率が大きい。
【0037】
本発明において、緊締力とは、伸長に対する素材の抵抗力のことである。
【0038】
ストレッチ性及び緊締力を表す伸長率の測定方法は、TENSILON万能型引張試験機(UTM−III−200、東洋ボールドウイン社製)を用い、引張強度を20cm/分とし、試料生地の大きさは、巾が5cm、長さが30cm、つかみ間隔が20cmとした。緊締力を測定する際の加重は、4.9N(500gf)、ストレッチ性を測定する際の加重は、17.7N(1800gf)とし、生地素材の経緯方向について測定した。本発明の説明の際に用いる伸張率は、この測定方法による測定結果である。
【0039】
本発明に係る水着では、前記強緊締素材および弱緊締素材を縫着又は接着によって一体化し、運動用衣服を形成することもできる。
【0040】
縫製方法としては、本縫い、環縫い、1本針オーバーロック、2本針オーバーロック、フラットシーマ等の縫目を形成するミシンで縫着する方法があげられるが、縫目の種類は特にこれらに限定されるものではない。ただ、縫目もストレッチ性を有し、着用時に違和感を起こしにくい1本針オーバーロック、2本縫いオーバーロック、フラットシーマを採用するのが望ましい。
【0041】
接着方法としては、一体化したい二種類の生地(部材)にのりしろを設け、熱によって融解し、冷却後生地に浸透して凝固するポリウレタン、又はシリコン等の樹脂製熱融解性のシームテープをのりしろの生地の間にはさみ、熱プレスすることで生地を接着できる熱圧着法があげられるが、縫着同様のりしろにストレッチ性をもたせ、着用時の違和感をなくすることが望ましい。
【0042】
以下図面を用いて説明する。図1は本発明の一実施例における競泳用ハーフスーツタイプの水着10の正面図、図2は同背面図、図3は同背面図のファスナーを開いたときの展開図である。この水着10は、全体が伸縮生地で構成され、親水性伸縮生地部分1は、首周りと、胸筋部と、背中部と、腹筋下部と、上部臀部に配置し、別の親水性伸縮生地部分2を大腿内側前部を覆う位置に配置し、非親水性で相対的に伸縮性の高いストレッチ生地部分3は、腹筋部と背筋部を含めたウエスト部と、大臀部から大腿内側後部に配置し、非親水性で相対的に伸縮性の低いハイパワー生地部分4を大腿側部から腰の側部を覆う位置に配置している。背中部の親水性生地部分1は、前記背筋部のストレッチ生地部分3を上から覆う形で背中部に配置し、脊髄に沿って後ろ首の下部から背中の下端部で開閉が可能なようにファスナー5を設けている。ファスナー5の上部は例えば5〜10cm生地部6を残すのが、着用時の突っ張り感を無くすのに好ましい。この結果、身頃部を構成する後身頃部が皮膚側の内部生地とその外側の外部生地で構成され、内部生地の下端は前記スパッツ部の後ろ部と接合され、内部生地の上端は外部生地とは接合されておらず、外部生地の下端の少なくとも一部はスパッツ部の前部と接合されており、外部生地の下端の中央部から脊柱に沿って上端の途中までファスナー5により開閉可能になる。また、身頃部11とスパッツ部12は、ウエスト部分で接合され、この接合部にゴム8が配置されている。これにより腰を締めて形状抵抗を減らすことができる。図3において、13は後身頃部の内部生地、14は後身頃の外部生地である。
【0043】
この水着10を着用する際には、図3に示すようにファスナー5を開き、ウエスト部1からウエストライン7に向けて両足をスパッツ部12に入れ、次に両手と首をそれぞれ身頃11に通し、最後にファスナー5を閉める。脱ぐ際には逆の動作で行う。
【0044】
図4は親水性伸縮生地部分1のプリント模様を示している。海部21と島部22とからなり、島部22の長さは66mm、幅は4mmである。海部21が非親水性部分、島部22が親水性部分である。
【0045】
図5は太腿内側前部を覆う位置に配置した親水性伸縮生地部分2のプリント模様を示している。海部23と島部24とからなり、島部24の長さは55mm、幅は10mmである。海部23が非親水性部分、島部24が親水性部分である。
【実施例】
【0046】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0047】
(実施例1)
(1)使用生地
強緊締素材Aとしては、繊度が56デシテックス(dtex)、フィラメント数36本のポリエステルフィラメント糸76質量%と、繊度が56デシテックス(dtex)のポリウレタン弾性糸24質量%のダブルデンビートリコット組織で、トリコット機のゲージ数36Gのものを用いた。緊締力を表す4.9N(500gf)加重時の伸長率は経方向で83%、緯方向で68%であった。ストレッチ性を表わす17.7N(1800gf)加重時の伸長率は経方向で189%、緯方向で211%であった。単位面積当たりの重量(目付)は、203g/m2であった。
【0048】
弱緊締素材Bとしては、繊度が33デシテックス(dtex)のポリエステルフィラメント糸と、繊度が33デシテックス(dtex)のポリウレタン弾性糸の交編ハーフトリコット組織で、混率はポリエステル80重量%、ポリウレタン20重量%、トリコット機のゲージ数32Gのものを用いた。緊締力を表す4.9N(500gf)加重時の伸長率は経方向で131%、緯方向で171%であった。ストレッチ性を表わす17.7N(1800gf)加重時の伸長率は経方向で132%、緯方向で196%であった。単位面積当たりの重量(目付)は、180g/m2であった。
【0049】
本実施例において、前記の強弱緊締素材の緯方向を出来上がり製品の丈方向に配置するようにしたので、素材の5cm幅における4.9N(500gf)加重時の強緊締素材に対して弱緊締素材の伸長率が、丈方向で、3倍であった。また、5cm幅における17.7N(1800gf)加重時の強緊締素材に対して弱緊締素材の伸長率が、丈方向で、1.7倍であった。
【0050】
(2)親水性処理
吸水ゲル吸着粒子として、凝集粒子の平均粒子径3〜5μmのSiO2に吸水ゲル樹脂を吸着させたエネックス社製商品名“GP−K−1”を10重量%と、バインダ樹脂としてウレタン系樹脂:日華化学株式会社製“エバファノールAP12”を1重量%採取し、水10リットルに分散し、親水性処理液とした。この親水性処理液に伸縮性生地を浸漬し、ピックアップ率16重量%となるように絞り、乾燥した。これにより、吸水ゲル吸着粒子は伸縮性生地(強緊締素材A、弱緊締素材Bの両方)に1.6重量%付着した。なお前記平均粒子径は市販の粒度分布計で測定できる。例えば、堀場製作所レーザ回折粒度測定器(LA920)、島津製作所レーザ回折粒度測定器(SALD2100)などを用いて測定することができる。
【0051】
(3)撥水性処理
前記親水性処理生地の上に撥水処理をプリントで行った。撥水性処理液として、フッ素樹脂系撥水剤(七福化学社製の商品名”DP−10”)を4重量%と、増粘剤として七福化学社製の商品名”セブテックスM−20”を3重量%、架橋剤として七福化学社製商品名”ブロックイソシアネートZR,ZN”を3重量%水10Lに分散し、撥水性処理液とした。この撥水性処理液をプリント捺染により図4〜5に示すような模様でウェットアップ率21重量%となるように伸縮性生地にプリントし、乾燥後、170℃のピンテンターでセットし、伸縮性生地を仕上げた。
【0052】
図4は親水性伸縮生地部分1のプリント模様を示している。海部21と島部22とからなり、島部22の長さは66mm、幅は4mmである。海部21が撥水性部分、島部22が親水性部分である。図5は太腿内側前部を覆う位置に配置した親水性伸縮生地部分2のプリント模様を示している。海部23と島部24とからなり、島部24の長さは55mm、幅は10mmである。海部23が撥水性部分、島部24が親水性部分である。
【0053】
(4)水着の構成
次に図1〜3に示す水着を縫製した。この水着10は、全体が伸縮生地で構成され、親水性伸縮生地部分1は、首周りと、胸筋部と、背中部と、腹筋下部と、上部臀部に配置し、別の親水性伸縮生地部分2を大腿内側前部を覆う位置に配置し、非親水性で相対的に伸縮性の高いストレッチ生地部分3(弱緊締素材B)は、腹筋部と背筋部を含めたウエスト部と、大臀部から太腿内側後部に配置し、非親水性で相対的に伸縮性の低いハイパワー生地部分4(強緊締素材A)を大腿側部から腰の側部を覆う位置に配置している。背中部の親水性生地部分1は、前記背筋部のストレッチ生地部分3を上から覆う形で背中部に配置し、脊髄に沿って後ろ首の下部から背中の下端部で開閉が可能なようにファスナー5を設けている。ファスナー5の上部は例えば6cm生地部6を残した。各パーツは縫製により形成した。縫製方法は、フラットシーマミシンを用い、針糸にポリエステルスパンライクフィラメント糸、上かがり糸と下かがり糸にウーリーナイロン糸を用いてフラットシーマの縫目で縫着した。なお、実施例に記載の各部材は、一つの部材を複数のパーツで形成することも可能であり、複数の部材を一つのパーツにまとめて形成することも可能である。
【0054】
(5)水着の着用試験
本実施例を普段上半身と下半身を覆う水着を着用することのある男子競泳選手5名に着用させ、表1に示した項目についてアンケートをとった。アンケートは5段階評価とし、項目に示した事項について5段階で評価させた。回答方法は、図6に示したアンケート用紙に、被験者が該当すると考える数字を丸で囲むように指示した。なお、アンケートは本実施例の効果が感じられるほど点数が高くなるように設定してある。
【0055】
【表1】

【0056】
その結果、いずれの被験者においても平均点が4点以上であった。また、項目ごとに見ても、いずれの項目も平均点が4点以上であり、本実施例の効果が確認できた。
【0057】
また、次のことも確認できた。
a.ウエスト部のゴムで腰部を締め付けていることにより、腰部を安定させることができた。
b.上半身部に水に対して低抵抗の親水性素材を配置したことにより、推進力を阻害させず、背中に開口部を設けて、突っ張り感を解消できた。
c.首の付け根からファスナーがあると、こちらも突っ張りとなるので、首の付け根からファスナー端部を外して、首周りに布を設けることで、突っ張り感を解消できた。
d.頭から被る仕様とする事で、肩部分に布を面的に配置し、肩紐での食い込み感を軽減した。
e.背中の開口部は素肌よりも何らかの布で覆った方が低抵抗と出来るので、腹部から背面部を覆うように布を配置し、その布は体を適度に締め付けるためストレッチ素材としたことにより、身体の体幹を安定させ、動き易い機能を満足できた。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】図1は本発明の一実施例における競泳用ハーフスーツタイプの水着の正面図、
【図2】図2は同背面図。
【図3】図3は同背面図のファスナーを開いたときの展開図。
【図4】図4は同親水性伸縮生地部分のプリント模様。
【図5】図5は同別の部分の親水性伸縮生地部分のプリント模様。
【図6】図6は本発明の位置実施例の評価に使用したアンケート評価書。
【符号の説明】
【0059】
1 親水性伸縮生地部分
2 親水性伸縮生地部分
3 ストレッチ生地部分
4 ハイパワー生地部分
5 ファスナー
6 生地部
7 ウエストライン
8 ゴム
10 水着
11 身頃
12 スパッツ部
13 後身頃部の内部生地
14 後身頃の外部生地
21,23 親水性部分
22,24 撥水性部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上半身を覆う身頃部と下半身を覆うスパッツ部とがいずれかの部分で接合されており、着用者の表面に密着した状態で着用される水着であって、
前記身頃部が、皮膚側の内部生地と、その外側の外部生地で構成され、
前記内部生地の下端は前記スパッツ部の少なくとも一部と接合され、前記内部生地の上端は前記外部生地とは接合されておらず、
前記外部生地の下端の少なくとも一部は前記スパッツ部の前部と接合されており、
前記外部生地の下端の中央部から脊柱に沿って上端の途中まで開閉機構を備えたことを特徴とする水着。
【請求項2】
上半身を覆う身頃部と下半身を覆う領域が連続して構成されているワンピースタイプの、着用者の表面に密着した状態で着用される水着であって、
前記身頃部が、皮膚側の内部生地と、その外側の外部生地で構成され、
前記内部生地の下端は前記下半身を覆う領域の少なくとも一部と接合され、
前記内部生地の上端は前記外部生地とは接合されておらず、
前記外部生地が前記身頃部と下半身を覆う領域が連続して構成されており、
前記身頃部外部生地の下端の中央部から脊柱に沿って、上端の途中まで開閉機構を備えたことを特徴とする水着。
【請求項3】
前記身頃部には襟が取り付けられ、肩部は鎖骨の半分以上を覆うように形成されている請求項1又は2に記載の水着。
【請求項4】
前記外部生地の下端の形状が、頭部方向に向かって凸の半円状である請求項1又は2に記載の水着。
【請求項5】
前記身頃部とスパッツ部が、ウエスト部分で接合され、前記接合部にゴムが配置されている請求項1に記載の水着。
【請求項6】
前記身頃部と下半身を覆う領域が連続して構成され、ワンピースタイプの水着のウェスト部にゴムが配置されている請求項2に記載の水着。
【請求項7】
前記水着の主要部は伸縮生地で構成され、前記伸縮生地は親水性生地部分と非親水性生地部分を含み、
前記親水性生地部分は、首部、胸部、下腹部、上部臀部と、大腿内側前部を覆う位置及び前記後身頃の外部生地に配置し、
前記非親水性生地部分は、大臀部から大腿内側後部と、大腿側部から腰の側部、腹部を覆う位置及び前記後身頃の内部生地に配置した請求項1〜6のいずれかに記載の水着。
【請求項8】
前記非親水性生地部分は、伸縮性の異なる少なくとも2種類の伸縮生地を含み、相対的に緊締力の低い伸縮生地は、腹部、大臀部から大腿内側後部を覆う位置及び後身頃の内部生地に配置し、
相対的に緊締力の高い伸縮生地(ハイパワー素材生地)は、大腿側部から腰の側部を覆う領域に配置した請求項7に記載の水着。
【請求項9】
前記親水性生地部分は、伸縮性の異なる少なくとも2種類の伸縮生地を含み、
相対的に緊締力の高い生地は、首部、胸部、下腹部、上部臀部を覆う位置及び後身頃の外部生地に配置し、
相対的に緊締力の低い伸縮生地は、大腿内側前部を覆う位置に配置した請求項8に記載の水着。
【請求項10】
前記水着は競泳用水着である請求項1〜9のいずれかに記載の水着。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−31401(P2010−31401A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−191999(P2008−191999)
【出願日】平成20年7月25日(2008.7.25)
【出願人】(000005935)美津濃株式会社 (239)
【Fターム(参考)】