説明

水系顔料インク組成物及びその印刷方法

【課題】70℃おいても分離せず良好な保存安定性を示し、水−非吸収性基材上での印刷物のヨリや滲みがなく、耐擦過性が良好となる高品位な画質で印刷が可能な水系顔料インク組成物を提供すること。
【解決手段】顔料、水、有機溶剤、顔料分散剤、樹脂及びシリコーン系化合物を含む水系顔料インク組成物であって、
(a)有機溶剤は、式(I)のグリコールモノアルキルエーテルを少なくとも1種類含み、その含有量は組成物全量に対し10〜30質量%であり、
(b)シリコーン系化合物は式(II)の化合物であり、HLB値<6.0で、シリコーン系化合物量は組成物全量に対し0.05〜1.0質量%であり、
(c)インク組成物から顔料や樹脂等の固形分を除いた組成物において70℃以下に曇点を有さず、
(d)顔料分散剤はポリカーボネート基含有ポリウレタン樹脂を含み、酸価が10〜30mgKOH/gであること
を満たす水系顔料インク組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水系顔料インク組成物及びその印刷方法に関し、より詳しくは、紙、布のような水−吸収性基材だけでなく、窯業系塗装板、金属板、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、塩化ビニル樹脂の何れかを主成分とする樹脂シートもしくは成形体のような水−非吸収性基材上にインクジェットプリンタを用いてヨリや滲みがなく、印刷物の耐擦過性が良好となる高品位な画質で印刷が可能であり、かつ、インクの貯蔵安定性に優れた水系顔料インク組成物及びその印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、工業用途のインクジェット印刷用インクが開発されており、有機溶剤を溶媒とした溶剤系顔料インクが主に使用されている。これは、屋外広告等の媒体として用いられているポリ塩化ビニルシート等の表面から溶媒である有機溶剤が浸透し、表面を溶解するために、滲みがなく印刷が可能であると考えられている。
【0003】
しかし、溶剤系顔料インクは、その有機溶剤が乾燥する際に大気中へ拡散するため、近年社会的に問題となっているVOC(揮発性有機化合物)が多いという課題があり、また、作業者に対しても、臭気や安全上の影響が懸念され、十分な換気等の設備対応が必要となる。よって現在は、水系顔料インクの開発が進められている。
【0004】
水系顔料インクは、紙等の吸収性基材への印刷は可能であるが、非吸収性基材には直接印刷できないものが多い。これは、非吸収性基材の表面を水系顔料インクに含まれる水が浸透しないために、次々に着弾された液滴群の水の水素結合力によるヨリが生じてしまうためである。
【0005】
そのため、インクジェットプリンタに用いる水系顔料インク組成物には、非吸収性基材へのヨリや滲みがない良好な印刷を可能とするため、基材との密着性が高い樹脂を配合したり(特許文献1及び2)、有機溶剤や表面調整剤を添加する方法が検討されている(特許文献3、4、5及び6)。
【0006】
例えば、特許文献1では、水性媒体に分散するが溶解しないポリマーバインダーを用いており、特許文献2では、塩化ビニル系樹脂エマルションをバインダー樹脂に用いている。しかし、この方法では、使用できる樹脂が限定されてしまい、あらゆる基材に対応することができない。
【0007】
また、特許文献3では、非吸収基材に対する腐食性能が良好な水溶性溶剤を添加している。特許文献4では、非吸収基材中の可塑剤を溶解する高沸点の水溶性溶剤を用いている。しかし、この方法では、適用できる基材が限定される。
【0008】
また、表面調整剤としてポリアルキレンオキサイドで変性されたシリコーン化合物を用いた種々の組成のインク組成物が提案されている(特許文献5及び6)。しかしながら、ポリアルキレンオキサイドで変性されたシリコーン化合物は水に対して曇点を有するか又は不溶であったり、また70℃での貯蔵安定性試験において分離するものや印刷物の耐擦過性を悪化させるものも少なくない。この70℃とは、インク組成物の製造、保管、輸送や使用環境等を考慮して実用上必要とされる最高温度である。
【0009】
この問題を解決するため、特許文献7では、特定のグリコールモノアルキルエーテルとHLB値が7以上のポリアルキレンオキサイドで変性されたシリコーン化合物を含んだ水性インク組成物が提案されているが、膜の耐擦過性が充分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−114692号公報
【特許文献2】特開2010−111741号公報
【特許文献3】特開2010−168433号公報
【特許文献4】特開2010−248357号公報
【特許文献5】特開2004−210996号公報
【特許文献6】特開2005−120181号公報
【特許文献7】特開2009−197166号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、上記のような諸問題を解決するためになされたものであり、経時でインクが分離したり、特性が変化することもなく、かつ、水−非吸収性基材上での印刷物のヨリや滲みがなく、印刷物の耐擦過性が良好となる高品位な画質で印刷が可能であるインクジェット印刷用の水系顔料インク組成物及びその印刷方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記の目的を達成するために鋭意検討した結果、特定のグリコールモノアルキルエーテル及び水に不溶のポリアルキレンオキサイドで変性されたシリコーン化合物を用いることによって、ポリアルキレンオキサイドで変性されたシリコーン化合物が水中で70℃以下に曇点を有するにも係わらず、70℃においても分離することがなく良好な保存安定性を示し、かつ、水−非吸収性基材上での印刷物のヨリや滲みがなく、耐擦過性が良好となる高品位な画質で印刷が可能となる水系顔料インク組成物が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
本発明に従って、顔料、水、有機溶剤、顔料分散剤、樹脂、及びシリコーン系化合物を含む水系顔料インク組成物であって、下記の(a)〜(d)
(a)該有機溶剤は、下記一般式(I)に示されるグリコールモノアルキルエーテルを少なくとも1種類含み、該グリコールモノアルキルエーテルの含有量は水系顔料インク組成物全量に対し10〜30質量%であり、
HO−(X−O)−R (I)
(式中、Xは炭素数2又は3のアルキレン基であり、nは1〜6の整数であり、Rは炭素数1〜6のアルキル基である。)
(b)該シリコーン系化合物は、下記一般式(II)に示される化合物であり、HLB値<6.0であって、該シリコーン系化合物の含有量は水系インク組成物全量に対し0.05〜1.0質量%であり、
【0014】
【化1】

【0015】
(式中、n及びmはn>1、m>1を満たす整数であり、POAはポリオキシアルキレン基を示す。)
(c)該水系顔料インク組成物から顔料や樹脂等の固形分を除いた組成物において70℃以下に曇点を有さず、
(d)該顔料分散剤は、ポリカーボネート基含有ポリウレタン樹脂を含み、かつ、酸価が10〜30mgKOH/gであること
を満たすことを特徴とする水系顔料インク組成物が提供される。
【0016】
また、本発明に従って、水系顔料インク組成物を印刷する方法において、基材を30〜80℃に加熱しながら該水系顔料インク組成物を電気駆動により加圧し微小液滴を噴射し塗布することを特徴とする水系顔料インク組成物の印刷方法が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明の水系顔料インク組成物は、特定のグリコールモノアルキルエーテル及び水に不溶のポリアルキレンオキサイドで変性されたシリコーン化合物を用いることによって、ポリアルキレンオキサイドで変性されたシリコーン化合物が水中で70℃以下に曇点を有するにも係わらず、70℃においても分離することがなく良好な保存安定性を示し、かつ、水−非吸収性基材上での印刷物のヨリや滲みがなく、耐擦過性が良好となる高品位な画質で印刷が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の水系顔料インク組成物で用いる必須の有機溶剤は、下記一般式(I)で示されるグリコールモノアルキルエーテルを少なくとも1種類を含む。
【0019】
HO−(X−O)−R1 (I)
式中、Xは炭素数2又は3のアルキレン基であり、nは1〜6の整数であり、R1は炭素数1〜6のアルキル基である。
【0020】
該グリコールモノアルキルエーテルは、水と良好に混じりあうだけでなく、本発明で用いられるシリコーン化合物とも良好に混じり合う。そのため、該グリコールモノアルキルエーテルと水、該シリコーン化合物を混合させた場合にそれぞれが高い親和性を保つことが可能となる。
【0021】
更に、インクを乾燥させた場合に、該シリコーン化合物の安定性を保持する効果も有するため、シリコーン化合物が有する基材への濡れ性や膜の耐擦過性等の特定等の特性を低下させない。
【0022】
本発明の水系顔料インク組成物においては、一般式(I)で示されるグリコールモノアルキルエーテルは該水系顔料インク組成物全量に対し10〜30質量%含まれる。更に、有機溶剤全量が水系顔料インク組成物中の30〜60質量%となることが好ましい。一般式(I)で示される該グリコールモノアルキルエーテルの量が10質量%未満である場合、分子内にポリアルキレンオキサイド構造を有するシリコーン系化合物を溶解させると、70℃以下に曇点を有する。一方、一般式(I)を示す該グリコールモノアルキルエーテルの量が30質量%を超えると貯蔵安定性が低下する。また、該有機溶剤全量が水系顔料インク組成物中の30質量%未満であると、インクが乾き易くなり、吐出不良を起こす恐れがある。一方、60質量%を超えると、貯蔵安定性が低下し、また水の含有率が低くなり、環境上好ましくない。
【0023】
一般式(I)で示されるグリコールモノアルキルエーテルの具体例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル及びジプロピレングリコールモノブチルエーテル等を挙げることができる。好ましくは、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル及びトリエチレングリコールモノブチルエーテルである。
【0024】
上記のその他の有機溶剤の具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、酢酸エチル、乳酸エチル等のエステル類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトン等のラクトン類、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン、エチレングリコール等の保湿剤、1,2−ヘキサンジオール等のアルカンジオール類等を挙げることができる。これらのその他の有機溶剤は、1種単独で用いることも2種以上を併用することも出来る。
【0025】
本発明の水系顔料インク組成物で用いるシリコーン系化合物は、一般式(II)で示される化合物のようにポリアルキレンオキサイドで変性された、即ち分子内の側鎖にポリアルキレンオキサイド構造を有する。
【0026】
【化2】

【0027】
式中、n及びmはn>1、m>1を満たす整数であり、POAはポリオキシアルキレン基を示す。
【0028】
上記シリコーン系化合物はHLB値が6.0未満であり、具体例としては、モメンティブ社製TSF4445、TSF4446、TSF4450、TSF4460、及び東レ・ダウ社製FZ2110、FZ2166、FZ2191がある。
【0029】
シリコーン系化合物のHLB値が6.0を超える場合には、そのようなシリコーン系化合物を含有する水系顔料インク組成物を印刷した印刷物の耐擦過性が悪くなる。これらのポリアルキレンオキサイド構造を有するシリコーン系化合物は、1種単独で用いることも2種以上を併用することも出来る。シリコーン系化合物の配合量は、使用するシリコーン系化合物の種類等により任意に決定できるが、通常は水系顔料インク組成物の0.05〜1.0質量%であり、好ましくは0.1〜0.5質量%である。0.05%未満では、シリコーン系化合物の添加効果が認められず、1.0質量%を超えると曇点を有する。
【0030】
前記シリコーン化合物は、水中では70℃以下に曇点を有するが、本発明の水系顔料インク組成物から顔料及び樹脂を除いた組成物中に溶解している場合には70℃以下に曇点を有さない。仮に、70℃以下に曇点を有すると、インクが分離し、保存安定性が悪くなる。尚、ここで「水系顔料インク組成物から顔料及び樹脂を除いた組成物」としたのは、顔料及び樹脂が含まれると正確な曇点を測定することが困難になるからである。
【0031】
本発明の水系顔料インク組成物で用いる樹脂については、水、一般式(I)で示されるグリコールモノアルキルエーテル及び一般式(II)で示されるシリコーン化合物を含む溶媒との親和性が高い樹脂が使用できる。特に、アクリル系ディスパージョンもしくはアクリル系エマルションを含むこの水分散性樹脂が好ましく、水系顔料インク組成物中において固形分が1〜10質量%であることが好ましい。樹脂成分の固形分が1質量%未満では密着不良となるおそれがあり、10質量%を超えると経時で顔料が凝集するため好ましくない。アクリル系ディスパージョンもしくはエマルションとしては、昭和電工社製AP1330(括弧内はガラス転移点を示し、以下同様。35℃)、AP3140(36℃)、AP6750(36℃)、AP1272(38℃)、AP7010(83℃)、AP6761(83℃)、AP1273(100℃)、東亜合成社製A104(45℃)、PE1000(45℃)、FC60(50℃)、大成ファインケミカル社製3M−333(75℃)、SE−810A(75℃)、3MF−407(80℃)、東洋インキ社製TOCRYL X−4402(37℃)、TOCRYL BCX−9618(45℃)、TOCRYL BCX−0543(90℃)、三菱レイヨン社製AX−2501(60℃)、AX−2502(100℃)、AX−2180(120℃)、BASF社製J852(31℃)、J537J(49℃)、J1535(50℃)、J538J(66℃)、J7641(86℃)、J631(87℃)、J780(92℃)が挙げられ、中でもスチレン及びメチルメタクリレートを含むアクリル樹脂が好ましい。また、塗膜の堅牢性を更に高めるため、上記樹脂成分のガラス転移点(Tg)が70℃以上であることがより好ましい。
【0032】
上記アクリル系ディスパージョンもしくはエマルション以外の樹脂成分としては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、メラミンやベンゾグアナミン等のアミノ樹脂、ポリアミド樹脂及び酢酸ビニル共重合等のディスパージョン、エマルションを挙げることができる。また、2種類以上の樹脂を組み合わせて使用することもできる。
【0033】
本発明の水系顔料インク組成物で用いる顔料分散剤については、ポリカーボネート基含有ポリウレタン樹脂を含み、顔料固形分に対して分散剤固形分が20〜100質量%であることが好ましく、より好ましくは40〜60質量%である。分散剤固形分が20質量%未満では、顔料の分散不良となる恐れがあり、100質量%を超えても顔料の分散不良となる恐れがあるため好ましくない。更に、その酸価が10〜30mgKOH/gとなることが必須である。酸価が10mgKOH/g未満あるいは30mgKOH/gを超えると、顔料分散体の安定性が悪くなる傾向があり、経時で顔料の凝集を起こす。それ以外の顔料分散剤をポリカーボネート基含有ポリウレタン樹脂と併用して使用することもできる。ポリカーボネート基含有ポリウレタン樹脂以外の顔料分散剤としては、例えば、脂肪酸塩類、アルキル硫酸エステル塩類等のアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等のノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤及び両イオン性界面活性剤等が挙げられる。ポリカーボネート基含有ポリウレタン樹脂を使用せずに、ポリカーボネート基含有ポリウレタン樹脂以外の該顔料分散剤を使用すると、一般式(I)で示されるグリコールモノアルキルエーテルを多く含有する場合に、経時で顔料の凝集を起こし易くなる。
【0034】
本発明の水系顔料インク組成物に使用できる顔料として、
ピグメントイエロー12、13、14、17、20、24、31、55、74、83、86、93、109、110、117、120、125、128、129、137、138、139、147、148、150、151、153、154、155、166、168、180、181、185、
ピグメントレッド9、48、49、52、53、57、97、122、123、149、168、177、180、192、202、206、215、216、217、220、223、224、226、227、228、238、240、244、254、
ピグメントオレンジ16、36、38、43、51、55、59、61、64、65、71、
ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4、15:6、22、30、64、80、
ピグメントバイオレット19、23、29、30、32、37、40、50、
ピグメントブラック7、26、27、28、
ピグメントブラウン23、25、26、及び
ピグメントグリーン7、36
が挙げられる。また、カーボンブラック、酸化チタン、酸化鉄、群青、黄鉛、硫化亜鉛、コバルトブルー、硫酸バリウム又は炭酸カルシウム等を使用することができる。顔料の配合量は、使用する顔料の種類等により任意に決定できるが、好ましくはインク組成物の0.1〜15質量%であり、より好ましくは0.5〜10質量%である。
【0035】
本発明の水系顔料インク組成物は、顔料、水、特定の有機溶剤、顔料分散剤、樹脂、及び特定のシリコーン系化合物のみからなるものであってもよいが、各種機能を付与させるために、防カビ剤や、防腐剤、紫外線吸収剤、光安定性、体質顔料、沈降防止剤、pH調整剤、及び増粘剤等の各種添加剤を配合することもできる。
【0036】
本発明の水系顔料インク組成物を調製する際には、まず、水系顔料分散液を調製する。この水系顔料分散液の調製方法については特には限定されないが、以下の方法により効率的に調製することができる。すなわち、顔料、顔料分散剤、及び水又は水と有機溶剤との混合溶液を混合攪拌した後、分散機にて処理して顔料を微粒子状に分散させる。また、この処理に用いる分散機として、ペイントシェーカー、ボールミル及びサンドミル等を挙げることができる。
【0037】
次いで、このようにして得られた水系顔料分散液、樹脂、有機溶剤、シリコーン系化合物及び水を混合し水系顔料インク組成物とする。本発明の水系顔料インク組成物は、電導度調整剤を含有することができ、電導度調整剤の配合量は水性顔料インク組成物の0.1〜10質量%が好ましく、より好ましくは0.5〜5質量%である。
【0038】
本発明の水性顔料インク組成物は、使用するインクジェットプリンタのノズル径の約1/10以下のポアーサイズを持つフィルターで濾過し、精製することによって調製することができる。
【0039】
本発明の水性顔料インク組成物は、通常のインクジェット印刷用インク組成物と同様にインクジェット印刷法に適応した特性を持っていることが必要であり、そのためには水系顔料インク組成物の粘度を1〜100cP(20℃)、表面張力を2×10−2〜6×10−2N/m、比重を0.8〜1.2の範囲にすることが好ましい。
【0040】
本発明の水系顔料インク組成物は、種々のインクジェットプリンタに使用することができる。このようなインクジェットプリンタとして、例えば、荷電制御方式又はインクオンデマンド方式によりインク組成物を噴出させる方式のものを挙げることができ、中でも水系顔料インク組成物を電気駆動により加圧し微小液滴を噴射し塗布する方法が好ましく、特にはピエゾ方式が好ましい。本発明の水性顔料インク組成物は、工業用途の大型インクジェットプリンタによる印刷に好適に適用できる。また、カラーグラフィック印字部分やビデオ録画の描画においてもコントラストが明瞭で、画像の再現性が著しく良好な印刷物を得ることができる。
【0041】
インクジェット印刷した後の印刷面(水系顔料インク組成物)は、基材を好ましくは20〜80℃で、より好ましくは40〜70℃で加熱することにより乾燥被膜を形成する。なお、本発明の水系顔料インク組成物を用いて印刷し得る基材については、印刷面(水系顔料インク組成物)を乾燥する条件下で変形もしくは変質しないものであれば特に制限されることはない。そのような基材として、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート及び塩化ビニル樹脂の何れかを主成分とする樹脂シートもしくは成形体、鉄板、アルミニウム板、ステンレス板又はこれらの塗装物、窯業系塗装板、及び表面を樹脂でコーティングした紙等を挙げることができる。
【実施例】
【0042】
以下に、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明する。なお、実施例及び比較例の記載について「部」及び「%」は質量基準に基づくものである。
【0043】
顔料、顔料分散剤、樹脂、シリコーン系化合物及び溶剤は、下記のものを用いた。
【0044】
<顔料>
カーボンブラック(商品名:スペシャルブラック250、デグサ社製)
銅フタロシアニン(商品名:イルガライトブルー8700、チバ社製)
キノキサリンジオン(商品名:ホスタパームイエローH3G、クラリアント社製)
ジメチルキナクリドン(商品名:スーパーマゼンタRH、DIC社製)
<顔料分散剤>
ポリカーボネート基含有ポリウレタンディスパージョン(酸価=20.0mgKOH/g、商品名:HD2503、Hauthaway社製)
ジスチレン化フェニルエーテル(酸価=0mgKOH/g、商品名:EA−157、第一工業製薬社製)
<樹脂>
アクリルエマルジョンA(Tg=87℃、商品名:J631、BASF社製)
アクリルエマルジョンB(Tg=31℃、商品名:J852、BASF社製)
ポリエステルディスパージョン(Tg=80℃、商品名:KZA−3556、ユニチカ社製)
ウレタンエマルジョン(Tg=45℃、商品名:WBR−2000U、大成ファインケミカル社製)
<シリコーン化合物>
シリコーン系表面調整剤A(HLB=1.0、商品名:FZ2110、東レ・ダウ社製、ポリオキシアルキレン基含有シリコーン化合物)
シリコーン系表面調整剤B(HLB=5.8、商品名:FZ2166、東レ・ダウ社製、ポリオキシアルキレン基含有シリコーン化合物)
シリコーン系表面調整剤C(HLB=7.4、商品名:L7001、東レ・ダウ社製)
シリコーン系表面調整剤D(HLB=13.0、商品名:L7604、東レ・ダウ社製)
<溶剤>
溶剤A(エチレングリコールモノブチルエーテル、日本乳化剤社製)
溶剤B(ジエチレングリコールモノブチルエーテル、日本乳化剤社製)
溶剤C(トリエチレングリコールモノブチルエーテル、日本乳化剤社製)
溶剤D(ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、日本乳化剤社製)
溶剤E(エチレングリコール、三井化学社製)
溶剤F(1,2−ヘキサンジオール、デグサ社製)
溶剤G(ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、東邦化学工業社製)
【0045】
<顔料分散剤の酸価測定>
顔料分散体の酸価を、JIS−K−5601−2−1に準じて測定した。
【0046】
<樹脂のガラス転移点(Tg)測定>
樹脂のガラス転移点(Tg)をセイコーインスツルメンツ社製の示差走査熱量測定機EXSTAR−6000を用いて測定した。
【0047】
<シリコーン化合物のHLB値測定>
シリコーン化合物のHLB値をグリフィン法に準じて測定した。
【0048】
(顔料分散液Aの調製)
各色顔料20.0部、ポリカーボネート基含有ポリウレタンディスパージョン12.0部及びイオン交換水68.0部の混合物を、0.5mm径ジルコニアビーズを25%充填したガラス瓶に配合し、ペイントシェーカーで10時間処理して、水性顔料分散液A−ブラック、A−シアン、A−イエロー、A−マゼンタを得た。
【0049】
(顔料分散液Bの調製)
各色顔料20.0部、ジスチレン化フェニルエーテル12.0部及びイオン交換水68.0部の混合物を、0.5mm径ジルコニアビーズを25%充填したガラス瓶に配合し、ペイントシェーカーで10時間処理して、水性顔料分散液B−ブラック、B−シアン、B−イエロー、B−マゼンタを得た。
【0050】
(実施例1)
得られた水性顔料分散液A−ブラック15.0部に、アクリルエマルジョンA 10.0部、エチレングリコールモノブチルエーテル12.0部、エチレングリコール20.0部、シリコーン系表面調整剤B 0.15部及びイオン交換水42.85部を混合して水性顔料インク組成物を得た。
【0051】
(実施例2〜31及び比較例1〜14)
表1〜表3に示す諸成分を用い、実施例1の製造手順と同様にして実施例2〜30及び比較例1〜13の水性顔料インク組成物を調製した。
【0052】
実施例1〜31及び比較例1〜14で調製した水性顔料インク組成物について、貯蔵安定性、印刷性、ヨリ、滲み性、曇点を各々下記の手法にて評価した。
【0053】
<貯蔵安定性(粒子径評価)>
70℃で28日間保管し、Microtrac社製 粒度分布測定器UPAを用いて測定した顔料の平均粒子径(d50)の変化率を下記基準で評価した。評価結果は表1〜表4に示す通りであった。
○:0〜30%未満、
△:30%以上〜100%未満、
×:100%以上。
【0054】
<貯蔵安定性(外観評価)>
70℃で28日間保管し、目視にて下記基準で評価した。評価結果は表1〜表4に示す通りであった。
○:変化無し、
△:僅かに浮遊物あり、
×:沈殿・分離を生じる。
【0055】
<ヨリ、滲み性>
ピエゾ方式のラージフォーマット用インクジェットプリンタで45℃に加熱された塩化ビニルシート表面、ステンレス板又はPETフィルムに1m×5mの印刷を行い、ヨリ、滲み性を下記基準で評価した。評価結果は表1〜表4に示す通りであった。
◎:ヨリ、滲み無し、
○:ヨリは無いが、滲みが若干有り、
△:ヨリ、滲みが若干有り、
×:ヨリ多数。
【0056】
<耐擦過性>
ピエゾ方式のラージフォーマット用インクジェットプリンタで45℃に加熱された塩化ビニルシート表面、ステンレス板又はPETフィルムに1m×5mの印刷を行い、印刷物を完全乾燥させた後、印刷物上を爪で20往復擦り、画像の外観を目視で評価した。尚、実際爪で擦過を行った場合にかかる荷重は200〜400gである。評価結果は表1〜表4に示す通りであった。
○:僅かに擦り傷の痕跡あるが実用上問題ないレベル、
△:擦り傷の痕跡あり(基材表面が若干見える)、
×:擦り傷の痕跡あり(基材表面が大部分見える)。
【0057】
<曇点>
実施例1〜31及び比較例1〜14で調製した水系顔料インク組成物から顔料、顔料分散剤、樹脂固形分を除いた組成物を調製し、この組成物を撹拌しながら70℃まで加熱し、濁りを生じた場合は発生温度を曇点とした。その結果は表1〜表4に示す通りであった。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
【表3】

【0061】
【表4】

【0062】
表1〜表4に示す評価結果から明らかなように、本発明の実施例1〜31の水系顔料インク組成物は、各試験項目について良い評価結果が得られ、水−非吸収性基材上に印刷した場合でも、ヨリや滲みがなく、印刷物の耐擦過性が良好となる高品位な画質を得ることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料、水、有機溶剤、顔料分散剤、樹脂、及びシリコーン系化合物を含む水系顔料インク組成物であって、下記の(a)〜(d)
(a)該有機溶剤は、下記一般式(I)に示されるグリコールモノアルキルエーテルを少なくとも1種類含み、該グリコールモノアルキルエーテルの含有量は水系顔料インク組成物全量に対し10〜30質量%であり、
HO−(X−O)−R (I)
(式中、Xは炭素数2又は3のアルキレン基であり、nは1〜6の整数であり、Rは炭素数1〜6のアルキル基である。)
(b)該シリコーン系化合物は、下記一般式(II)に示される化合物であり、HLB値<6.0であって、該シリコーン系化合物の含有量は水系インク組成物全量に対し0.05〜1.0質量%であり、
【化3】


(式中、n及びmはn>1、m>1を満たす整数であり、POAはポリオキシアルキレン基を示す。)
(c)該水系顔料インク組成物から顔料や樹脂等の固形分を除いた組成物において70℃以下に曇点を有さず、
(d)該顔料分散剤は、ポリカーボネート基含有ポリウレタン樹脂を含み、かつ、酸価が10〜30mgKOH/gであること
を満たすことを特徴とする水系顔料インク組成物。
【請求項2】
前記グリコールモノアルキルエーテルが、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテルまたはトリエチレングリコールモノブチルエーテルの群から選ばれる少なくとも1種類であることを特徴とする請求項1に記載の水系顔料インク組成物。
【請求項3】
前記樹脂は、ガラス転移点(Tg)が70℃以上である水分散性樹脂から選ばれることを特徴とする請求項1又は2に記載の水系顔料インク組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の水系顔料インク組成物を印刷する方法において、基材を30〜80℃に加熱しながら該水系顔料インク組成物を電気駆動により加圧し微小液滴を噴射し塗布することを特徴とする水系顔料インク組成物の印刷方法。

【公開番号】特開2013−76018(P2013−76018A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217638(P2011−217638)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000003322)大日本塗料株式会社 (275)
【Fターム(参考)】