説明

水素吸蔵合金、水素吸蔵電極およびニッケル水素蓄電池

【課題】 水素吸蔵合金粉末を活物質に用いた水素吸蔵電極を備えるニッケル水素蓄電知において、従来電池と同等か、あるいは同等以上のサイクル性能を有し、且つ、高容量のニッケル水素蓄電池を提供する。
【解決手段】 水素吸蔵合金粉末を、記号Aが希土類元素のうちから選ばれた1種以上の元素であり、記号BがMgとCaから選ばれる1種または2種の元素であり、記号CがCo、Mn、Al、FeおよびCuから選ばれる1種以上の元素であり、化学式AwxNiyzにおいて、w+x=1、0.04≦x≦0.17、3.5≦y≦4.3、4.0≦y+z≦4.7、0≦z、4.75≦(x+y+z)/w≦5.35で表される水素吸蔵合金粉末とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類元素とニッケル(Ni)を主構成成分とし、CaCu5形の結晶構造を主結晶構造とする水素吸蔵合金および該水素吸蔵合金を適用した水素吸蔵電極を備えたニッケル水素蓄電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルカリ蓄電池の1種であるニッケル水素蓄電池は、同じアルカリ蓄電池の1種であるニッケルカドミウム蓄電池に比べて高いエネルギー密度を有し、しかも有害なカドミウムを含まず環境汚染の虞が少ないことから、携帯電話、小型電動工具および小型パーソナルコンピュータ等の携帯用小型電子機器類用の電源として広く利用されており、これらの小型電子機器類の普及とともに需要が飛躍的に増大している。また、該小形電子機器用電源としての用途が広がるとともに更なる放電容量の向上が求められている。
【0003】
従来のニッケル水素蓄電池に用いる水素吸蔵合金電極には、希土類元素およびニッケルなどの遷移金属元素を主成分とし、CaCu5形の結晶構造を有する水素吸蔵合金が広く使用されている。該水素吸蔵合金を用いた水素吸蔵合金電極はサイクル性能に優れるものの放電容量が低く、前記求めに応じて更なる放電容量の向上をはかることが難しいという問題がある。
【0004】
高容量を有する水素吸蔵合金として従来広く用いられてきたAB5形に替えて近年AB3形やAB3.5形の水素吸蔵合金が提案されている。(例えば特許文献1)
【0005】
【特許文献1】特開平11−323469号公報 特許文献1に記載の水素吸蔵合金を適用した水素吸蔵合金電極は、前記従来の水素吸蔵合金電極に比べて放電容量は大きいものの、耐久性に劣り、該水素吸蔵合金を用いた水素吸蔵合金電極はサイクル性能が劣る欠点があった。
【0006】
また、AB5形の水素吸蔵合金粉末において、水素吸蔵合金の組成をLaを24〜33重量%、MgまたはCaを0.1〜1.0重量%含む組成とすることにより高容量であって、繰り返し充放電を行っても微粉化の抑制された長寿命を有する水素吸蔵合金が提案されている。(例えば特許文献2参照)
【特許文献2】特開2002-80925公報 しかし、該特許文献2において特に好ましいと記載されている元素Bと元素Aの比(原子比)B/Aが5〜6では水素吸蔵合金の水素吸蔵量が小さいためか放電容量向上において効果が不十分であるという欠点があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来の水素吸蔵合金およびニッケル水素蓄電池の欠点に鑑みなされたものであって、水素吸蔵合金電極のサイクル性能を低下させることなく、放電容量の大きい水素吸蔵合金およびそれを適用することによって放電容量が向上したニッケル水素蓄電池を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、水素吸蔵合金およびニッケル水素蓄電池を以下の構成とすることによって前記課題を解決する。
本発明に係る水素吸蔵合金は、記号Aが希土類元素であり、記号BがMgとCaから選ばれる1種または2種の元素であり、記号CがCo、Mn、Al、FeおよびCuから選ばれる1種以上の元素であり、化学式AwxNiyzにおいて、w+x=1、0.04≦x≦0.17、3.5≦y≦4.3、4.0≦y+z≦4.7、0≦z、4.75≦(x+y+z)/w≦5.35で表される水素吸蔵合金である。(請求項1)
本発明に係る水素吸蔵電極は、請求項1に記載の水素吸蔵合金の粉末を導電性基板に担持させた水素吸蔵電極である。(請求項2)
本発明に係る水素吸蔵電極は、前記請求項2に記載の水素吸蔵電極であって、前記請求項1に記載の水素吸蔵合金の粉末とセリウム(Ce)、デイスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Ru)およびイットリウム(Y)から選ばれた少なくとも1種の希土類元素の水酸化物と酸化物の少なくとも1種を導電性基板に担持させた水素吸蔵電極である。(請求項3)
本発明に係るニッケル水素蓄電池は、前記請求項2または請求項3に記載の水素吸蔵電極を備えるニッケル水素蓄電池である。(請求項4)
【発明の効果】
【0009】
本発明の請求項1によれば、従来の水素吸蔵電極に比べてサイクル性能を低下させずに、放電容量の大きい水素吸蔵電極を得るための水素吸蔵合金粉末の提供を可能にする。
本発明の請求項2によれば、従来の水素吸蔵電極に比べてサイクル性能を低下させずに、放電容量の大きい水素吸蔵電極を得ることが出来る。
本発明の請求項3によれば、前記本発明の請求項2に記載の水素吸蔵電極に比べて、サイクル性能の優れた水素吸蔵電極を得ることが出来る。
本発明の請求項4によれば、従来のニッケル水素蓄電池に比べて放電容量が大きく、且つ、サイクル性能が従来のニッケル水素蓄電池と同等かまたは上回るニッケル水素蓄電池を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に係る水素吸蔵合金は、記号Aが希土類元素であり、記号BがMgとCaから選ばれる1種または2種の元素であり、記号CがCo、Mn、Al、FeおよびCuから選ばれる1種以上の元素であり、化学式AwxNiyzにおいて、w+x=1、0.04≦x≦0.17、3.5≦y≦4.3、4.0≦y+z≦4.7、0≦z、4.75≦(x+y+z)/w≦5.35で表される水素吸蔵合金である。
【0011】
該水素吸蔵合金の製造方法は特に限定されず、鋳造法、ガスアトマイズ法、メルトスピニング法、アーク溶解法の何れでも適用できるが、本発明に係る水素吸蔵合金を構成する元素のうちMg、Caは、溶解したときに蒸発によって逸散し易く、所定の組成の合金が得られない虞がある。Mg、Caの蒸発による逸散を抑制するには鋳造法、ガスアトマイズ法、メルトスピニング法が好ましい方法であある。
【0012】
本発明に係る水素吸蔵合金は、主としてCaCu5形の結晶構造を有する。ここで、主としてCaCu5形の結晶と記述したのは、粉末X線回折を用いた調査でCaCu5形結晶に混じって一部PuNi3形やCe2Ni7形の結晶を含むものが認められたからである。
【0013】
本発明に係る水素吸蔵合金は、前記組成表示においてMg、Caから選んだ1種または2種の元素の含有比(原子比)xが0.04〜0.17であり、さらには、該比xが0.04〜0.09が好ましい。希土類元素を含む系にMgやCaが存在すると水素吸蔵合金の水素吸蔵放出サイトが多くなり水素吸蔵合金の放電容量が増大する。また、MgやCaの存在は、水素吸蔵合金が水素を吸蔵・放出したときに水素吸蔵合金の結晶格子が膨張・収縮するのを緩和し結晶を安定化させる作用がある。該比xが0.04未満では、Mg、Caの添加効果が発現せず高容量が得られ難い。また、Mg、Caはそれ自体アルカリ電解液中で溶出し易く、水素吸蔵合金中にMg、Caが存在すると水素吸蔵合金が腐蝕(溶出)し易くなる。このような理由からxが0.17を超えると高容量が得られるものの合金の耐久性が低くサイクル性能が劣る欠点があった。なお、前記xが0.04〜0.09であれば、良好なサイクル性能が得られるので好ましい。
【0014】
本発明に係る水素吸蔵合金は、また、前記組成表示においてNiの含有比(原子比)yが3.5〜4.3であり、3.7〜4.1が好ましい。該比yが3.5未満では水素吸蔵合金のアルカリ電解液に対する耐食性が低いのと、且つ、充放電を繰り返し行ったときに微細化し易く該微細化に伴って水素吸蔵能力が低下するため耐久性が劣る。逆にyが4.3を超えると水素吸蔵合金の水素吸蔵量が少なく放電容量が低くなる虞がある。なお、該比yが3.7〜4.1であれば、良好なサイクル性能が得られるので好ましい。
【0015】
本発明に係る水素吸蔵合金は、Co、Mn、Al、FeおよびCuから選ばれる1種以上の元素の含有比(原子比)zが0≦zを満たし、前記組成表示においてNiの含有比(原子比)yとzの和y+zが4.0〜4.7であるのが良く、y+zが4.45〜4.7であるのが好ましい。Co、Mn、Al、FeおよびCuから選ばれる1種以上の元素のうちCoは、水素吸蔵合金が水素を吸蔵・放出を繰り返したときに水素吸蔵合金が微細化して容量が低下するのを抑制する効果がある。Mnの適量の存在は、水素吸蔵合金の水素平衡圧を低下させ、水素吸蔵能力を向上させる効果がある。Alは、水素吸蔵合金の化学的安定性を向上させ耐久性を高める作用がある。また、FeおよびCuを添加することによって低コスト化を図ることができる。
前記比y+zが4.0未満では水素吸蔵合金のアルカリ電解液に対する耐食性が低いため耐久性が劣り、且つ、容量も低い。y+zが4.7を超えると、水素吸蔵合金の水素吸蔵量が少なく放電容量が低下する。なお、該比y+zが4.45〜4.7であれば、良好なサイクル性能が得られるので好ましい。
【0016】
本発明に係る水素吸蔵合金は、前記組成表示において前記xとyとzの和x+y+zのwに対する比(x+y+z)/wが4.75〜5.35であり、4.85〜5.15が好ましい。該比が4.75未満では水素吸蔵合金のアルカリ電解液に対する耐食性が低いため耐久性が劣る。逆に該比が5.35を超えると水素吸蔵合金の水素吸蔵量が少なく放電容量が低い。なお、該比(x+y+z)/wが4.85〜5.15であれば、良好なサイクル性能が得られるので好ましい。
【0017】
本発明に係る水素吸蔵電極は、前記請求項1に記載の高容量水素吸蔵合金の粉末の他にCe、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、RuおよびYから選ばれた少なくとも1種の希土類元素の水酸化物と酸化物の少なくとも1種を含有することによって、高容量を維持しながら水素吸蔵合金の耐食性を高めることによって優れたサイクル性能を達成することができる。該希土類元素の酸化物または水酸化物の水素吸蔵合金粉末に対する比率は特に限定されるものではないが、0.5〜3重量%が好ましく、0.5〜1.5重量%がさらに好ましい。該比率が0.5重量%未満ではこれらの化合物の添加効果が得にくく、3重量%を超えると水素吸蔵電極の導電性を低下させ集電を妨げる虞がある。
【実施例】
【0018】
以下に実施例により本発明の詳細を説明するが、本発明は前記構成の水素吸蔵合金およびそれを用いた水素吸蔵電極を備えるニッケル水素蓄電池全てに適用できるものであって、以下に記載の実施例に示す実施形態に限定されるものではない。
(水素吸蔵合金粉末の作製)
(実施例1〜22)
表1の実施例1〜実施例22に示した原子比で各金属元素を秤量し、高周波溶解法を用いて溶解させた後、水冷金型中で冷却した。得られた合金(インゴット)をアルゴン雰囲気下で、温度900℃において3時間加熱し炉内で放置冷却した。得られたインゴットをアルゴン雰囲気下で機械粉砕し、平均粒径(D50)が50μmの水素吸蔵合金粉末を作製した。それぞれの水素吸蔵合金粉末を実施例1〜実施例22とする。なお、表1でMmはミッシュメタルを表し、原子比でLa65%、Ce25%、Pr2%、Nd8%からなる希土類元素の混合物である。
(比較例1〜4)
表1の比較例1〜比較例4に示した原子比で各金属元素を秤量し、以下前記実施例1〜実施例22と同様の手順で水素吸蔵合金粉末を作製した。得られた水素吸蔵合金粉末をそれぞれ比較例1〜比較例4とする。
【0019】
(粉末X線回折による調査)
銅管球を用いて実施例1〜22、比較例1〜4に係る水素吸蔵合金粉末の粉末X線回折測定を行った。
【0020】
(実施例1〜22)
(単極試験用水素吸蔵電極の作製1)
前記実施例1〜22に係る水素吸蔵合金粉末100重量部にインコ社製ニッケル粉末(INCO#210)10重量部を添加混合した後、増粘剤であるメチルセルロースを0.5%の濃度で溶解した水溶液および結着剤であるスチレンブタジエンゴム(SBR)の水性デイスパージョンを水素吸蔵合金粉末に対して固形分として0.7重量%添加混練してペーストにした。該ペーストを、厚さ35μm、開口率60%、開口径1mmの穿孔鋼板(ニッケルメッキ済み)製の基板の両面に塗布し、乾燥後所定の厚さ(0.3mm)になるようにプレスした。該水素吸蔵電極をそれぞれ実施例1〜実施例22とする。
(比較例1〜4)
前記比較例1〜4に係る水素吸蔵合金粉末を用い、実施例1〜22と同様の手順で水素吸蔵電極を作製した。該水素吸蔵電極を比較例1〜4とする。
【0021】
(水素吸蔵電極単極試験)
前記実施例1〜22、比較例1〜4に係る水素吸蔵電極を30×30mmに裁断し、端部にリード片を接合して単極試験用の水素吸蔵電極とした。水素吸蔵電極1枚を真ん中にしてその両側に2枚のニッケル電極を配置し開放形セルを組み立てた。なお、ニッケル電極の容量が水素吸蔵電極の容量に対して大過剰(ニッケル電極の容量/水素吸蔵電極の容量=3.5)になるようにした。電解液には6.8M/lのKOHと0.8M/lのLiOHを含む水溶液を用いた。該セルを周囲温度20℃において充放電を行った。0.1ItA(40mA)にて水素吸蔵電極の容量に対して150%充電した後、0.2ItA(80mA)にて放電した。なお、水素吸蔵電極の参照電極(Hg/HgO電極)に対する電位が−0.6Vになった時点で放電を打ち切った。該充放電を1サイクルとして、該サイクルを繰り返し行い、10サイクル目の放電容量を該水素吸蔵電極の放電容量とし、該放電容量(mAh)を水素吸蔵合金の充填量(g)で除した値(mAh/g)をもって放電容量を評価する指標とした。
【0022】
(水素吸蔵合金粉末の質量飽和磁化の測定)
放電試験終了後の開放形セル(放電済み)を解体して取り出した負極板から水素吸蔵合金粉末を回収し、それぞれの粉末の質量飽和磁化を測定した。水素吸蔵合金粉末0.3gを精秤し、サンプルホルダーに充填した後、(株)理研電子製、振動試料形磁力計(モデルBHV-30)を用い5kエルステッドの磁場をかけて測定して得られた値を該水素吸蔵合金粉末の質量飽和磁化とした。
【0023】
(水素吸蔵合金粉末の比表面積の測定)
放電試験終了後の開放形セル(放電済み)を解体して取り出した負極板から水素吸蔵合金粉末を回収し、水素吸蔵合金粉末1.0gを精秤し、BET法にて測定した値を該水素吸蔵合金粉末の比表面積とした。
【0024】
図1に実施例7、8及び比較例2に係る水素吸蔵合金粉末の粉末X線回折図を、図2に比較例1に係る水素吸蔵合金粉末の粉末X線回折図を示す。
また、表1に実施例1〜22、比較例1〜4に係る水素吸蔵合金粉末の組成、水素吸蔵電極単極試験結果、質量飽和磁化測定結果、比表面積測定結果を示す。
【0025】
図1(イ)は、実施例7に係る水素吸蔵合金粉末、図1(ロ)は、実施例8、図1(ハ)は比較例2に係る水素吸蔵合金粉末の粉末X線回折図である。比較例2がMgを含有しないのに対して、実施例7、8両実施例の水素吸蔵合金粉末は、共にMgを含有し、また実施例7と実施例8がMgの含有比率を異にするが、図1に示すように実施例7,実施例8ともに比較例2と同様CaCu5形の結晶構造を有している。詳細は省略するが、表1に示した他の実施例もCaCu5形を主とする結晶構造を有していた。
これに対して、Mgの含有比率を高くした比較例1の場合は図2に示す粉末X線回折図からCaCu5形とは異なる結晶構造を有していることが分かった。
【0026】
【表1】

比較例2は、MmNiCoMnAl系のMgやCaを含まない組成の水素吸蔵合金粉末であって、従来ひろく用いられているものである。これに対して、実施例1〜22に示す水素吸蔵合金粉末は、本発明に係る新規な組成を有する水素吸蔵合金粉末であって、MgまたはCaを含み、その含有比(原子比x)が0.04〜0.17である水素吸蔵合金粉末である。
表1に示すように、実施例1〜22に係る水素吸蔵合金は、比較例2に比べて、単位重量当たりの放電容量(mAh/g)が1.13〜1.25倍である。比較例2に比べて、実施例の放電容量が大きいのは、水素吸蔵合金中にMg、Caを存在させたことと、Ni、Co、Alの含有比率(y+z)を4.70以下と比較例2の5.00に比べて低く抑えたことによって水素吸蔵合金の水素吸蔵能力を高めたことによる。因みに実施例に比べて更にMgの含有比率を高くし、(y+z)の値3.50と低くした比較例1の場合は、放電容量が380mAh/gと高い値を示している。(y+z)が大きい比較例3は、比較例2と比べて放電容量が低い。因みに図3に水素吸蔵合金の容量と(y+z)の関係を示す。図3に示したように、(y+z)が小さい方が水素吸蔵合金の容量が大きい傾向にあることが分かる。また、Mg+Ni+Co+AlとLaの比{(x+y+z)/w}が4.51と小さい比較例4も水素吸蔵合金の水素吸蔵能力が小さいためか、放電容量が小さい結果となった。
表1に示した試験結果によれば、前記xを0.04〜0.17、yを3.5〜4.3、(y+z)を4.0〜4.7、(x+y+z)/wを4.75〜5.35とした実施例1〜22が比較例2〜4と比較して放電容量が大きいことが分かる。なお、詳細は省くがNiの含有比yが4.3を超えた場合、放電容量が低い欠点がある。
【0027】
実施例、比較例共に水素吸蔵電極単極試験にかける前の水素吸蔵合金粉末の質量飽和磁化は、0.1Am2/kg未満であり、比表面積は0.3m2/g未満であった。水素吸蔵電極単極試験中に電解液によって水素吸蔵合金粉末の表面が腐蝕され、Ni、Coが単離すると水素吸蔵合金粉末の質量飽和磁化が増大する。また表面がエッチングされると水素吸蔵合金粉末の比表面積が増大する。このことから、試験後の水素吸蔵合金粉末の質量飽和磁化、比表面積が小さい方が、水素吸蔵合金粉末の電解液に対する耐食性が高いことを示唆していると考えることができる。試験後に於いて、実施例に係る水素吸蔵合金粉末の質量飽和磁化が4.2Am2/kg以下であり、比表面積が1.1m2/g以下であるのに対して、NiまたはNi+Co+Mnの比(y+z)が小さい(3.80以下)比較例1、4と希土類元素の含有比が小さい{(x+y+z)/wが5.55と大きい}比較例3の場合は、質量飽和磁化が5.7Am2/kg以上、比表面積が1.2m2/g以上と高い値を示し、これらの比較例の水素吸蔵合金の耐食性が、(y+z)が4.0 以上、(x+y+z)/wが5.35以下である実施例に比べて劣っていることを示唆している。
また、前記図1に示したように実施例1〜22、比較例2に係る水素吸蔵合金の質量飽和磁化、比表面積が比較例1に比べて小さいところから、CaCu5形の結晶構造を有する水素吸蔵合金がCaCu5形とは異なる結晶構造を有する水素吸蔵合金に比べて耐食性が優れていると考えられる。
図1と表1に示した結果から、高容量で、且つ、耐食性に優れた水素吸蔵合金粉末とするためには、前記xが0.04〜0.17、(y+z)が4.0〜4.7であって(x+y+z)/wが4.75〜5.35であり、且つ、主としてCaCu5形の結晶構造を有する水素吸蔵合金が良いことが分かる。
なお、詳細は省くがNiの含有比yが3.5未満の場合、水素吸蔵合金の電解液に対する耐食性が劣る欠点がある。
【0028】
(ニッケル水素蓄電池による評価)
(実施例1〜22)
(正極板の作製)
亜鉛3重量%、コバルト1重量%を固溶状態で含有する水酸化ニッケル粉末表面に4重量%のオキシ水酸化コバルトからなる被覆層を形成したニッケル電極活物質粉末80重量部に、濃度が0.7重量%のカルボキシメチルセルロース(CMC)水溶液20重量部を添加混練して、ペーストにした。該ペーストを面密度450g/m2、厚さ1.3mmの発泡ニッケル基板に充填した後乾燥し、所定の厚さ(0.75mm)になるようにプレスした。該ニッケル極板を所定の寸法に裁断し活物質の充填量から算定される容量が2450mAhの正極板(ニッケル電極)とした。
【0029】
(負極板の作製)
水素吸蔵合金粉末100重量部にインコ社製ニッケル粉末(INCO#210)1重量部を添加混合したこと以外、前記水素吸蔵電極の単極試験用の極板と同様にして作製した水素吸蔵電極(実施例1〜30)を所定の寸法に裁断し負極板(水素吸蔵電極)とした。負極板の水素吸蔵合金粉末の充填量を一定量(8.93g)とした。
(円筒形ニッケル水素蓄電池の作製)
前記正極板と親水化処理を施したポリプロピレン製不織布からなるセパレータ、負極板を積層し、積層体を正極板が内側になるように捲回して捲回式極板群とした。該極板群を金属製電槽缶に挿入し、正極板と正極端子(キャップ)、負極板と負極端子(電槽缶)をそれぞれ接続し、7.8M/lのKOHと0.8M/lLiOHを含む水溶液からなる電解液を2.55g注入した後所定の方法で電槽缶の開放端を気密に封止してAAサイズ、円筒形の密閉形ニッケル水素蓄電池を作製した。このようにして作製した円筒形のニッケル水素蓄電池を実施例1〜30とする。
【0030】
(比較例1〜4)
前記水素吸蔵電極の単極試験用の極板と同様にして作製した水素吸蔵電極(比較例1〜5)を用い、前記実施例1〜30と同様の手順にてAAサイズ、円筒形の密閉形ニッケル水素蓄電池を作製した。作製したニッケル水素蓄電池を比較例1〜5とする。
【0031】
(化成および放電容量の測定)
前記実施例1〜30および比較例1〜5に係る密閉形ニッケル水素蓄電池を周囲温度20℃にて化成した。初回、0.1ItA(245mA)にて10時間充電した後、0.2ItAにて放電カット電圧1.0Vとして放電した。2回〜10回目は、0.1ItA(230mA)にて15時間充電したのち0.2ItAにて放電カット電圧1.0Vとして放電した。該10回目の放電で得られた放電容量をもって当該電池の放電容量とした。
【0032】
(充放電サイクル試験)
実施例1〜30、比較例1〜5に係る密閉形ニッケル水素蓄電を周囲温度20℃にて充放電サイクル試験に供した。充電レート0.5ItAにて5mVの電圧降下が認められる (dV=-5mV)まで充電し、30分間休止した後、放電レート0.3ItAにて放電カット電圧を1.0Vとして放電した。該充放電を1サイクルとし、充放電を繰り返し行い、放電容量が1サイクル目の放電容量の60%に低下した時点をもってサイクル寿命とした。
【0033】
表2に実施例1〜22、比較例1〜4の密閉形ニッケル水素蓄電池のNP比(N/P、Nは負極の容量を表し、Pは正極の容量を表す)、充放電サイクル試験結果を示す。なお、前記Nは、前記単極試験で得られた容量(mAh/g)と負極の活物質充填量(8.93g)の積として求めた値であり、Pは、前記正極板の容量(2450mAh)である。
【0034】
【表2】

負極板の放電容量を大きくするとNP比(N/P)を大きくすることができる。NP比が大きいと負極板に大きい充電リザーブを確保することができ、充放電サイクル性能を高めることが可能となる。前記表1に示した結果(水素吸蔵合金粉末の質量飽和磁化、比表面積の大きさ)を比較すると、実施例1〜22に係る水素吸蔵合金粉末の耐食性が比較例2に比べて高いとは言えない。にも拘わらず、表2に示すように実施例1〜22に係るニッケル水素蓄電池は、比較例2に比べ比べて良好なサイクル性能を達成することができた。このような結果が得られたのは、実施例1〜22のNP比(N/P)が比較例2に比べて大きいためであり、NP比(N/P)が大きいのは、水素吸蔵合金粉末の単位重量当たりの容量(mAh/g)を比較例2に比べて高くすることができたためである。そしてこのような水素吸蔵合金粉末自身の高容量は、水素吸蔵合金の組成を表1の実施例1〜22に示した新規な組成とすることによって達成できたものである。
【0035】
また、表2に示すように実施例1〜22に係るニッケル水素蓄電池は、比較例1、比較例3、4に比べてサイクル性能が優れている。因みに、図4に前記表2に示した試験後の水素吸蔵合金粉末の質量飽和磁化とサイクル寿命、図5に比表面積とサイクル寿命の関係を示す。図4は、質量飽和磁化が小さい方が、サイクル寿命が良く、図5は、比表面積が小さい方が、サイクル寿命が良いことを示している。このことから、実施例に係るニッケル水素蓄電池の場合は、比較例1、比較例3、5に比べて水素吸蔵合金の耐食性が向上したためにサイクル寿命が良くなったものと考えられる。
【0036】
因みに図6は、ニッケル水素蓄電池のサイクル寿命とそれに適用した水素吸蔵合金粉末の(y+z)の関係を示すグラフである。図6によれば、(y+z)が4.0〜4.7の範囲にあって、4.7に近い方がサイクル寿命が良いことが分かる。
なお、表2に示した結果によれば、xが0.04〜0.09、yが3.7〜4.1、(y+z)が4.45〜4.7、(x+y+z)/wが4.85〜5.15であれば、特に優れたサイクル性能が得られるので好ましいことが分かる。
【0037】
(実施例23〜31)
(水素吸蔵電極の作製と水素吸蔵電極単極試験)
前記実施例7の水素吸蔵合金粉末100重量部に対してY2O3粉末、CeO2粉末、Dy2O3粉末、Ho2O3粉末、Er2O3粉末、Tm2O3粉末、Yb2O3粉末、Lu2O3粉末をそれぞれ1重量部混合添加した。それ以外は実施例7(水素吸蔵電極単極試験)と同様の手順で水素吸蔵電極を作製した。作製した電極を実施例23〜30とする。
(比較例5)
前記比較例1に係る水素吸蔵合金粉末100重量部に対してYb2O3粉末1重量部を混合添加した。それ以外は比較例1(水素吸蔵電極単極試験)と同様の手順で水素吸蔵電極を作製した。作製した電極を比較例5とする。
前記実施例1〜22と同様にして、実施例23〜30、比較例5に係る水素吸蔵電極の単極試験を実施した。
【0038】
表3に実施例7、実施例23〜30、実施例8、31および比較例1、5に係る水素吸蔵電極単極試験結果を示す。
【表3】

実施例7と実施例23〜30、実施例8と実施例31、比較例1と比較例5は、それぞれ適用した水素吸蔵合金の組成が同じである。実施例7と実施例23〜30、実施例8と実施例31を比較すると、実施例23〜30は実施例7と、実施例31は実施例8とほぼ同等の容量を有し、水素吸蔵合金粉末の質量飽和磁化が小さい。このことは実施例23〜31において水素吸蔵電極に表2に示した希土類元素の化合物を添加することによって放電容量を低下させることなく、水素吸蔵合金の耐食性を向上させることができることを示唆している。一方、水素吸蔵合金中のMgの含有比率が高い比較例5の場合は、希土類元素の化合物を添加しても耐食性向上に効果がないためか比較例1に比べて、試験後の質量飽和磁化、比表面積共に大差がない結果となった。
【0039】
(ニッケル水素蓄電池による評価)
前記水素吸蔵電極単極試験の実施例23〜31において水素吸蔵合金粉末100重量部に対してインコ社製ニッケル粉末(INCO#210)1重量部混合添加した。また、水素吸蔵合金粉末の充填量を8.85gとし、それ以外は水素吸蔵電極単極試験の実施例23〜30と同様の手順で作製した負極板(水素吸蔵電極板)を適用してニッケル水素蓄電池を作製した。作製したニッケル水素蓄電池を実施例23〜30とする。
(実施例31)
前記水素吸蔵電極単極試験の実施例31の水素吸蔵合金粉末100重量部に対してインコ社製ニッケル粉末(INCO#210)を1重量部混合添加した。また、水素吸蔵合金粉末の充填量を8.85gとし、それ以外は水素吸蔵電極単極試験の実施例31と同様の手順で作製した負極板(水素吸蔵電極板)を適用してニッケル水素蓄電池を作製した。作製したニッケル水素蓄電池を実施例31とする。
(比較例5)
前記水素吸蔵電極単極試験の比較例5の水素吸蔵合金粉末100重量部に対してインコ社製ニッケル粉末(INCO#210)を1重量部混合添加した。また、水素吸蔵合金粉末の充填量を8.85gとし、それ以外は水素吸蔵電極単極試験の比較例5と同様の手順で作製した負極板(水素吸蔵電極板)を適用してニッケル水素蓄電池を作製した。作製したニッケル水素蓄電池を比較例5とする。
表4に実施例7、実施例23〜30、実施例8、実施例31、比較例1、5に係るニッケル水素蓄電池の、NP比(N/P)、充放電サイクル試験結果を示す。
【0040】
【表4】

表4に示すように、実施例23〜30は実施例7に比べて高いサイクル寿命を有し、実施例31は実施例8に比べて高いサイクル寿命を有している。実施例23〜30、実施例31においては水素吸蔵電極に希土類の化合物を添加することにより、水素吸蔵合金粉末の耐食性を向上させることができたために、それぞれ実施例7、実施例8に比べて電池のサイクル寿命が向上したものと考えられる。
比較例5のサイクル特性は、比較例1に比べて向上しているものの、実施例に比べて劣っている。比較例1に示したMgの含有率が高くCaCu5形とは異なる結晶構造を有する水素吸蔵合金粉末は、容量は高いものの電解液に対する耐食性が劣るために、防食効果がある希土類元素を添加してもサイクル特性が劣るという欠点が解消されない。これに対して、本発明に係る水素吸蔵合金を適用した水素吸蔵電極、ニッケル水素蓄電池は、従来広く用いられているMgを含有しない水素吸蔵合金を適用した水素吸蔵合金電極、ニッケル水素蓄電池に比べて、高容量で、且つ、サイクル特性に優れた水素吸蔵合金電極、ニッケル水素蓄電池であり、前記希土類元素の参加物または水酸化物を添加することにより、サイクル特性を一層向上させた水素吸蔵合金電極、ニッケル水素蓄電池である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、水素吸蔵合金粉末を活物質に用いた水素吸蔵電極を備えるニッケル水素蓄電池において、従来電池と同等か、あるいは同等以上のサイクル性能を有し、且つ、高容量のニッケル水素蓄電池を提供するもので工業的な価値の高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明および比較例に係り、CaCu5形の結晶構造を有する水素吸蔵合金粉末の粉末X線回折図である。
【図2】比較例係り、CaCu5形とは異なる結晶構造を有する水素吸蔵合金粉末の粉末X線回折図である。
【図3】水素吸蔵合金の放電容量と(y+z)の関係を示すグラフである。
【図4】ニッケル水素蓄電池のサイクル寿命と水素吸蔵合金の質量飽和磁化の関係を示すグラフである。
【図5】ニッケル水素蓄電池のサイクル寿命と水素吸蔵合金の比表面積の関係をすグラフである。
【図6】ニッケル水素蓄電池のサイクル寿命と水素吸蔵合金の(y+z)の関係をすグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記号Aがイットリウム(Y)を含む希土類元素のうちから選ばれた1種以上の元素であり、記号BがMgとCaから選ばれる1種または2種の元素であり、記号CがCo、Mn、Al、FeおよびCuから選ばれる1種以上の元素であり、化学式AwxNiyzにおいて、w+x=1、0.04≦x≦0.17、3.5≦y≦4.3、4.0≦y+z≦4.7、0≦z、4.75≦(x+y+z)/w≦5.35で表される水素吸蔵合金。
【請求項2】
請求項1に記載の水素吸蔵合金の粉末を導電性基板に担持させた水素吸蔵電極。
【請求項3】
請求項1に記載の水素吸蔵合金の粉末とセリウム(Ce)、デイスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Ru)およびイットリウム(Y)から選ばれた少なくとも1種の希土類元素の水酸化物と酸化物の少なくとも1種を導電性基板に担持させた請求項2に記載の水素吸蔵電極。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の水素吸蔵電極を備えるニッケル水素蓄電池。











【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−37122(P2006−37122A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−214376(P2004−214376)
【出願日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【出願人】(000006688)株式会社ユアサコーポレーション (21)
【Fターム(参考)】