説明

汚染土壌の処理システム及び処理方法

【課題】土壌中に閉じ込められている放射性セシウムを、容易にかつ効率的に分離して回収することができる、放射性セシウムで汚染された土壌の処理システムを提供する。
【解決手段】放射性セシウムで汚染された土壌3を加熱して、放射性セシウムを含む排ガスと、放射性セシウムの含有率が低減された処理済みの土壌5を得るためのロータリーキルン1と、排ガスを冷却して、放射性セシウムを含む微粉を生じさせるための冷却塔6と、排ガスから粗粉を回収して、この粗粉をロータリーキルン1に返送するためのサイクロン8と、排ガスから、放射性セシウムを含む微粉を捕集するためのバグフィルター11を含む、汚染土壌の処理システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性セシウムで汚染された土壌の処理システム及び処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所の大きな事故によって外部の環境中に放出される放射性物質の主なものとして、放射性セシウム及び放射性ヨウ素が知られている。
このうち、放射性ヨウ素(ヨウ素131)は、半減期が約8日であり、土壌を汚染したとしても、長期的には人体に対する影響が小さくなる。一方、放射性セシウム(セシウム137)は、半減期が約30年であり、土壌を汚染した場合には、人体に対して長期に亘って悪影響を与える。
このため、放射性セシウムで汚染された土壌の処理方法が求められている。
放射性セシウムで汚染された土壌の処理方法として、例えば、表層部分の汚染土壌と、深層部分の非汚染土壌を入れ替えることが提案されている。しかし、この場合、汚染土壌自体が消滅するわけではないので、将来、土壌が掘り起こされた場合には、地表面付近の放射線量が増大するおそれがある。また、汚染土壌と非汚染土壌の入れ替えの作業に多大の労力を要する。さらに、この処理方法は、1ヘクタール当たり2000万円程度の費用を要すると言われており、コストも高い。
【0003】
一方、汚染土壌を対象としたものではないが、放射化したコンクリートを対象にして、放射性物質を分離し回収する方法が、従来より、種々提案されている。
例えば、原子力発電施設の解体により発生した放射化コンクリートをブロック状に切り出し、該コンクリートブロックを密閉区画内に設けられた所定の破砕工程を経て、所定粒径の粗骨材、細骨材、および微粉末を再生製造し、そのうちの微粉末を、加熱分解炉内に供給し、送気された高温空気で700℃以上に加熱し、所定の放射性物質を分離し、前記加熱分解炉内から前記高温空気を環流させる経路上で、該高温空気内に含有する前記放射性物質の分離物質を除染部で吸着除去することを特徴とする放射化コンクリートのリサイクル処理方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−234620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の特許文献1の技術では、処理対象物(放射化コンクリートを破砕して得られる微粉末)中の放射性物質が揮発し易い状態であるため、700℃という低温でも除去処理が可能である。
しかし、放射性物質で汚染されている土壌中の放射性物質は、900℃以下の温度では十分に揮発しない。その理由は、原子炉から放出されて土壌に降下した放射性セシウムは、土壌に含まれる粘土鉱物中に閉じ込められて、土壌から離れにくい状態になっているためである。
本発明は、土壌中に閉じ込められている放射性セシウムを、容易にかつ効率的に分離して回収することができる、放射性セシウムで汚染された土壌の処理システム及び処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、放射性セシウムで汚染された土壌を加熱して、放射性セシウムを含む排ガスを得た後、この排ガスに含まれている放射性セシウムを捕集すれば、容易にかつ効率的に放射性セシウムを分離して回収することができることに想到し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[8]を提供するものである。
[1]放射性セシウムで汚染された土壌を加熱して、放射性セシウムを含む排ガスと、放射性セシウムの含有率が低減された処理済みの土壌を得るための加熱手段と、上記排ガスに含まれている放射性セシウムを捕集するための捕集手段とを含む、汚染土壌の処理システム。
[2]上記加熱手段と上記捕集手段の間に、上記排ガスを冷却して、放射性セシウムを含む微粉を生じさせるための冷却手段を有する、上記[1]に記載の汚染土壌の処理システム。
[3]上記冷却手段と上記捕集手段の間に、上記排ガスから上記微粉以外の粗粉を回収するための分級手段を有する、上記[2]に記載の汚染土壌の処理システム。
[4]上記分級手段で回収された粗粉を上記加熱手段に返送するための返送手段を有する、上記[3]に記載の汚染土壌の処理システム。
[5]上記加熱手段がロータリーキルンであり、上記捕集手段が集塵機である、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の汚染土壌の処理システム。
[6]上記[1]〜[5]のいずれかに記載の汚染土壌の処理システムを用いた汚染土壌の処理方法であって、上記加熱手段における加熱温度が900℃以上である、汚染土壌の処理方法。
[7]上記加熱手段に、放射性セシウムの揮発を促進させるためのハロゲン元素含有物質を供給する、上記[6]に記載の汚染土壌の処理方法。
[8]上記汚染された土壌として、放射性セシウムの含有率が100Bq/kg以上である土壌を用い、かつ、上記処理済みの土壌中の放射性セシウムの含有率が100Bq/kg以下になるように、上記加熱手段における加熱温度及び土壌の滞留時間を調整する、上記[6]又は[7]に記載の汚染土壌の処理方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、放射性セシウムで汚染された土壌から、容易にかつ効率的に放射性セシウムを分離して回収することができる。
処理後の土壌は、放射性セシウムの含有率が小さいので、農地、公園、運動場などの処理前の用途に再び用いることができる。この場合、処理前に比べて、農産物の安全性や、公園等の利用者の安全性を高めることができる。
放射性セシウムは、取り扱いが容易な微粉等の形態で回収することができ、密閉容器に収納後、放射能レベルに応じて放射性廃棄物として適切に処分される。この放射性廃棄物の量は、処分前の汚染土壌の量の10分の1以下である。したがって、本発明では、汚染土壌をそのまま放射性廃棄物として処分する場合に比べて、放射性廃棄物の量を大幅に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の汚染土壌の処理システムの一例を概念的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の汚染土壌の処理システムは、放射性セシウムで汚染された土壌を加熱して、放射性セシウムを含む排ガスと、処理済みの土壌を得るための加熱手段と、該加熱手段から排出された排ガスに含まれている放射性セシウムを捕集するための捕集手段を含むものである。
本発明の汚染土壌の処理システムは、さらに、上記加熱手段と上記捕集手段の間に、放射性セシウムを含む排ガスを冷却して、放射性セシウムを含む微粉を生じさせるための冷却手段を有することができる。この場合、本発明の汚染土壌の処理システムは、さらに、上記冷却手段と上記捕集手段の間に、排ガスから粗粉(上記微粉以外の粉体)を回収するための分級手段を有することができる。
【0011】
本発明の処理対象物は、放射性セシウムで汚染された土壌である。
本発明において、放射性セシウムとは、セシウムの放射性同位体であるセシウム134及びセシウム137を意味する。これらの放射性セシウムは、原子力発電所の事故によって外部の環境中に放出される放射性物質であり、半減期がそれぞれ約2年と約30年のものである。
本発明において、除去対象物である放射性セシウムは、事故を起こした原子力発電所から、ヨウ化セシウム等の形態で放射性ヨウ素と共に外部の環境中に放出され、上空から地表面に降下したものである。ヨウ化セシウムは、沸点が1200℃以上であり、沸点が700℃程度であるセシウム単体に比べて、揮発し難い性質を有する。そのうえ、土壌に降下した放射性セシウムは、土壌に含まれる粘土鉱物中に閉じ込められて、土壌から離れにくい状態になる。本発明では、このように処理し難い状態になっている放射性セシウム化合物を分離し回収しようとするものである。
本発明において、除染の必要性の高い土壌をクリアランスレベル以下まで浄化して通常の土壌として再利用できるようにするという目的から、100Bq/kg以上の放射性セシウムを含む汚染土壌の全てが処理対象になるが、除染の優先度及び処理コストの観点から、好ましくは500Bq/kg以上、より好ましくは1000Bq/kg以上の放射性セシウムを含む汚染土壌が、本発明の処理対象物として特に好適である。
【0012】
本発明で用いる加熱手段としては、連続式とバッチ式のいずれも用いることができる。
連続式の加熱手段の例としては、ロータリーキルン等が挙げられる。
バッチ式の加熱手段の例としては、焼却炉、電気炉、マイクロ波加熱装置等が挙げられる。
中でも、連続式の加熱手段は、処理の効率を高める観点から、本発明で好ましく用いられる。特に、ロータリーキルンは、放射性セシウムの揮発に適する加熱温度及び土壌の滞留時間を容易に与えることができるので、好ましい。
加熱温度は、放射性セシウムの十分な揮発量を得る観点から、好ましくは900℃以上、より好ましくは1000℃以上、特に好ましくは1200℃以上である。
加熱温度の上限値は、特に限定されないが、液相を形成すると放射性セシウムが取り込まれて揮発しにくくなることから、液相を形成する温度以下が好ましい。
加熱時間は、放射性セシウムの十分な揮発量を得る観点から、好ましくは5分間以上、より好ましくは10分間以上、特に好ましくは15分間以上である。
【0013】
加熱手段としてロータリーキルンを用いる場合、キルン内の温度条件、及び、キルン内の土壌の滞留時間は、以下のとおりである。
キルン内の最高温度は、放射性セシウムの十分な揮発量を得る観点から、好ましくは900℃以上、より好ましくは1000℃以上、特に好ましくは1200℃以上である。
キルン内の最高温度の上限値は、特に限定されないが、液相を形成すると放射性セシウムが取り込まれて揮発しにくくなることから、液相を形成する温度以下が好ましい。
キルン内の最低温度は、揮発した放射性セシウムがキルン内で温度の低下によって固体となり、この固体がキルン内で循環するという現象を生じさせない等の観点から、好ましくは600℃以上、より好ましくは700℃以上、さらに好ましくは800℃以上、特に好ましくは900℃以上である。
ロータリーキルン内の土壌の滞留時間は、好ましくは10分間以上、より好ましくは15分間以上、特に好ましくは20分間以上である。
【0014】
加熱手段には、放射性セシウムの揮発を促進させるために、ハロゲン元素含有物質を供給することができる。
ハロゲン元素含有物質の例としては、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム等が挙げられる。
ハロゲン元素含有物質の量は、特に限定されないが、好ましくは、処理対象物である汚染土壌に含まれる放射性セシウムに対して当量比が1以上になる量である。
【0015】
本発明で用いる捕集手段の例としては、集塵機(例えば、バグフィルター)、湿式スクラバー等が挙げられる。なお、ヨウ化セシウムは、水に対する溶解性が高いため、湿式スクラバー等に溶解させて回収することができる。
集塵機は、後述の分級手段を用いる場合に、分級手段によって粗粉を回収された後の微粉(放射性セシウムを高含有率で含むもの)のみを捕集するので、捕集される粉体の量が少なくなり、放射性廃棄物の量が削減される観点から、本発明において好ましく用いられる。また、後述の分級手段を用い、かつ、集塵機としてバグフィルターを用いる場合、分級手段によって粗粉が除去され、バグフィルターでは微粉のみを捕集することになるので、バグフィルターにおけるフィルターの取り替え頻度を減らすことができる。
【0016】
本発明で用いる冷却手段の例としては、冷却塔、熱交換器等が挙げられる。
冷却塔としては、例えば、排ガスが流通する管路内に、冷風を導入したり散水させたもの等が挙げられる。
本発明で用いる分級手段の例としては、サイクロン等が挙げられる。
本発明においては、分級手段を用いることによって、排ガス中の固体分を、放射性セシウムを高含有率で含む微粉と、放射性セシウムを低含有率で含む粗粉に分級することができる。このうち、放射性セシウムを低含有率で含む粗粉は、管路等の返送手段を介して、ロータリーキルン等の加熱手段に返送することができる。
【0017】
加熱手段による処理済みの土壌の単位質量当りの放射性セシウムの量は、好ましくは100Bq/kg以下、特に好ましくは50Bq/kg以下である。
【0018】
以下、図面を参照しつつ、本発明の汚染土壌の処理システムの一例を説明する。
図1中、放射性セシウムで汚染された土壌(汚染土壌)3は、ロータリーキルン1の窯尻の供給口に供給される。汚染土壌3は、バーナー2の炎によって加熱されつつ、ロータリーキルン1内を窯前(クーラー4の側)に向かって徐々に移動する。この過程で、汚染土壌3から放射性セシウムが揮発する。揮発した放射性セシウムは、排ガスに含まれた状態で、冷却塔6に流入する。一方、加熱後の処理済みの土壌5は、クーラー4内に落下し、ここで冷却された後に、取り出される。
【0019】
冷却塔6に揮発分として流入した放射性セシウムは、冷却塔6内で冷却され、主に、微粉に含まれる成分となる。冷却塔6から排出された粉体(微粉及び粗粉)を含む排ガスは、流通路(管路)7を介してサイクロン8内に流入する。サイクロン8で回収された排ガス中の粗粉は、流通路(管路)9を介してロータリーキルン1に返送され、窯尻の供給口に供給される。この返送された粗粉は、汚染土壌3と共に加熱され、処理済みの土壌5の一部を構成することになる。
サイクロン8を通過した微粉を含む排ガスは、流通路(管路)10を介してバグフィルター11内に流入する。バグフィルター11で捕集された微粉は、放射性セシウムを含むもの(セシウム含有微粉)であり、放射性廃棄物として処分される。バグフィルター11を通過した排ガスは、流通路(管路)12内を流通した後、煙突13から大気中に排出される。
【符号の説明】
【0020】
1 ロータリーキルン(加熱手段)
2 バーナー
3 汚染土壌
4 クーラー
5 処理済みの土壌
6 冷却塔(冷却手段)
7 流通路
8 サイクロン(分級手段)
9,10,12 流通路
11 バグフィルター(捕集手段)
13 煙突

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性セシウムで汚染された土壌を加熱して、放射性セシウムを含む排ガスと、放射性セシウムの含有率が低減された処理済みの土壌を得るための加熱手段と、上記排ガスに含まれている放射性セシウムを捕集するための捕集手段とを含む、汚染土壌の処理システム。
【請求項2】
上記加熱手段と上記捕集手段の間に、上記排ガスを冷却して、放射性セシウムを含む微粉を生じさせるための冷却手段を有する、請求項1に記載の汚染土壌の処理システム。
【請求項3】
上記冷却手段と上記捕集手段の間に、上記排ガスから上記微粉以外の粗粉を回収するための分級手段を有する、請求項2に記載の汚染土壌の処理システム。
【請求項4】
上記分級手段で回収された粗粉を上記加熱手段に返送するための返送手段を有する、請求項3に記載の汚染土壌の処理システム。
【請求項5】
上記加熱手段がロータリーキルンであり、上記捕集手段が集塵機である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の汚染土壌の処理システム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の汚染土壌の処理システムを用いた汚染土壌の処理方法であって、上記加熱手段における加熱温度が、900℃以上である、汚染土壌の処理方法。
【請求項7】
上記加熱手段に、放射性セシウムの揮発を促進させるためのハロゲン元素含有物質を供給する、請求項6に記載の汚染土壌の処理方法。
【請求項8】
上記汚染された土壌として、放射性セシウムの含有率が100Bq/kg以上である土壌を用い、かつ、上記処理済みの土壌中の放射性セシウムの含有率が100Bq/kg以下になるように、上記加熱手段における加熱温度及び土壌の滞留時間を調整する、請求項6又は7に記載の汚染土壌の処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−19734(P2013−19734A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152465(P2011−152465)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)