説明

汚染土壌の原位置浄化方法

【課題】汚染土壌を効率良く浄化する方法の提供。
【解決手段】塩化第一鉄、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、硝酸第一鉄、硝酸第二鉄及びポリ硫酸鉄から選ばれる鉄塩、並びにアンモニウム塩、カリウム塩から選ばれる薬剤を、放射性物質汚染土壌に施用し、土壌中の放射性物質を抽出洗浄することを特徴とする放射性物質汚染土壌の浄化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染土壌を効率良く浄化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
平成23年3月11日、東北太平洋沖地震に伴い、東京電力福島第一原子力発電所において事故が発生し、周辺環境中に放射性物質が放出された。
周辺の農産物等からも放射性物質が検出されたことから、食品衛生法に基づく飲食物に関する暫定規制値が定められた。すなわち、暫定規制値として、飲料水及び牛乳・乳製品については、放射性ヨウ素300Bq/kg、放射性セシウム200Bq/kg;野菜類については、放射性ヨウ素2000Bq/kg、放射性セシウム500Bq/kg;穀類については、放射性セシウム500Bq/kg、などが定められ、これらの規制値を上回る食品について、食用に供されることがないよう、販売その他についての措置がなされた。
【0003】
一方、放射性物質で汚染された土壌で農作物を栽培した場合には、作物への放射性物質の移行が懸念される。例えば、水田土壌から玄米への放射性セシウムの移行の指標は0.1とされ、この指標を前提とした場合、玄米中の放射性セシウム濃度が、上記食品衛生法上の暫定基準値(500Bq/Kg)以下となる土壌中の放射性セシウム濃度の上限値は、5000Bq/Kgとなる。
このため、放射性物質で汚染された土壌の浄化対策が必要となり、効率の良い浄化方法が求められている。
【0004】
従来、放射性物質で汚染された土壌の浄化方法として、例えば、有害物で汚染された土壌の中にパイプを埋入して、高温過熱水蒸気を噴射し、該土壌中の汚染物質を加熱分解又は揮発させることにより、除去する方法(特許文献1)が知られている。しかしながら、当該方法は、主に、有機溶剤等の揮発性物質を対象としたものであり、放射性物質については、具体的に示されていない。
また、特許文献2には、放射性廃棄物を超臨界二酸化炭素に接触させ、放射性廃棄物に含まれる放射性元素を超臨界二酸化炭素に移行させて放射性元素含有超臨界二酸化炭素を生成させ、これを水と接触させて放射性元素を水に移行させる放射性廃棄物の処理方法が記載されている。しかしながら、この方法では、膨大な設備が必要となり、実用的なものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−243195号公報
【特許文献2】特開2005−283415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、放射性物質で汚染された土壌を効率良く浄化する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、斯かる実情に鑑み、種々検討した結果、鉄塩、アンモニウム塩、カリウム塩等の特定の薬剤を用いて土壌中の放射性物質を抽出洗浄すれば、土壌を効率良く浄化できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、塩化第一鉄、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、硝酸第一鉄、硝酸第二鉄及びポリ硫酸鉄から選ばれる鉄塩、並びにアンモニウム塩、カリウム塩から選ばれる薬剤を、放射性物質汚染土壌に施用し、土壌中の放射性物質を抽出洗浄することを特徴とする放射性物質汚染土壌の浄化方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、放射性物質汚染土壌を効率良く浄化することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明で浄化対象となる汚染土壌としては、市街地、山林、工場跡地、農用地(畑、水田)、沼地、更には排土等で、放射性物質を含有する土壌が挙げられる。
放射性物質としては、ヨウ素131、放射性セシウム(セシウム134、137)、ストロンチウム90、ウラン、プルトニウム等が挙げられる。
本発明の方法は、特に、放射性セシウム含有水田土壌の浄化に好適である。
【0011】
本発明で用いる薬剤は、塩化第一鉄、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、硝酸第一鉄、硝酸第二鉄、ポリ硫酸鉄から選ばれる鉄塩、並びにアンモニウム塩、カリウム塩から選ばれるものである。アンモニウム塩としては、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム等が挙げられる。カリウム塩としては、塩化カリウム、硝酸カリウム、硫酸カリウム等が挙げられる。本発明においては、これらを2種以上併用しても良い。
【0012】
上記鉄塩は、例えば下式のように、加水分解により水酸イオンを配位して鉄水酸化物(Fe(OH)n)を生成する。本発明においては、生成する鉄水酸化物の溶解度積が10-10未満、特に10-15未満である鉄塩を用いるのが、水酸イオンの配位するpHが低くなり、放射性物質の除去効果が向上するので好ましい。特に、塩化第二鉄は、生成する鉄の水酸化物Fe(OH)3の沈殿生成pHが2.3以上と低く、更に生成した沈殿の溶解度積が10-33と低いので好ましい。
FeXn + nH2O → Fe(OH)n + nX- + nH+
(式中、Xは1価の陰イオンを示し、nは鉄イオンの価数を示す)
【0013】
また、背景技術で記載したように、放射性セシウムについて、農用地土壌の放射性物質濃度の基準値が設けられている。放射性セシウムは土壌中で1価の陽イオンとして、カリウムなどと同様に挙動する。すなわち、1価の陽イオンである放射性セシウムは、表面が負に帯電している土壌粒子と静電的に吸着される。また、スメクタイト、バーミキュライトなど2:1型層状ケイ酸塩と呼ばれる粘土鉱物の層間の負電荷がある場所は、セシウムイオン、アンモニウムイオン、カリウムイオンを閉じ込めるのにちょうど良い大きさを持つことから、より強く吸着されると言われている。
本発明では、放射性セシウムイオンと同様な挙動を示すアンモニウムイオン、カリウムイオンを用いることによって、土壌粒子に固定された放射性セシウムを抽出できることを見出した。土壌中に含まれる放射性物質濃度は、セシウム137の放射能量が5000Bq/kgの場合、物質濃度としては約1.6ng/kgと極めて微量である。同様な挙動を示すアンモニウムイオン、カリウムイオンを放射性物質に対して高い濃度で添加することで、土壌に吸着したセシウム137が置換され、土壌中のセシウム137濃度の低減が可能となる。
グリセリンやエチレングリコールモノエチルエーテル(EGME)は、上述の粘土鉱物の層間に侵入することで、抽出薬剤の効果を高めることができる。
【0014】
上記薬剤を、放射性物質汚染土壌に施用する際には、水溶液として用いるのが好ましく、その濃度は、鉄塩の場合、1〜200mM、特に3〜100mMであるのが、放射性物質の除去効果が大きいとともに、土壌への残留が少ないので好ましい。また、アンモニウム塩、カリウム塩の場合は、0.1〜4M、特に0.5M〜2Mであるのが、放射性物質の除去効果が大きいとともに、土壌への残留が少ないので好ましい。
【0015】
本発明においては、薬剤、特に薬剤水溶液に、塩化セシウム(放射性ではないもの)を添加することにより、放射性物質の抽出効果を高めることが可能である。薬剤水溶液中の塩化セシウム濃度は5〜50mM、特に10〜30mMが好ましい。
また、薬剤、特に薬剤水溶液に、グリセリン又はエチレングリコールモノエチルエーテル(EGME)を添加することにより、放射性物質の抽出効果をより高めることが可能である。薬剤水溶液中のグリセリン又はエチレングリコールモノエチルエーテル(EGME)濃度は、0.1〜4M、特に0.5〜2Mであるのが、コストの低減、水洗回数の低減、洗浄廃液処理の負荷低減の点で好ましい。ここで、グリセリン及びEGMEを組みあわせて用いることもできる。
【0016】
このような水溶液を用いて土壌中の放射性物質を抽出洗浄する方法としては、特に制限されず、現場にて洗浄する方法、土壌を掘削して洗浄した後、浄化土壌を埋め戻す方法等のいずれでも良い。特に、現場(原位置)での土壌洗浄が好ましい。
【0017】
また、本発明において、抽出洗浄するとは、土壌と薬剤水溶液を直接混合する以外に、土壌に薬剤と水を別々に加えて混合して洗浄する方法、水を含む土壌に薬剤を混合して洗浄する方法も含まれる。
水を含む土壌を洗浄する方法の一例としては、河川や湖沼の底土を水とともに浚渫し、ミキサーに投入して、薬剤粉末を所定濃度になるよう添加して混合する方法が挙げられる。
【0018】
抽出洗浄に用いる水溶液の量は、浄化対象土壌の1〜5質量倍、特に1〜2.5質量倍であるのが好ましい。
このように処理することにより、土壌中の放射性物質は水溶液中に抽出される。
【0019】
放射性物質を抽出した水溶液は、自然沈降又は積極的な脱水などにより固液分離し、土壌から分離除去し、後記の廃液処理により無毒化される。
【0020】
一方、処理された土壌には、用いた水溶液中の薬剤の一部が残存する場合や、洗浄により抽出された放射性物質の一部が残存する場合があるため、更に土壌を水で洗浄することにより、これらを除去するのが好ましい。
水による洗浄は、水溶液による洗浄と同様に行えば良く、土壌中の放射性物質の濃度、及び水溶液洗浄で用いた薬剤の残留量が土壌環境基準以下になるまで繰り返し行うのが好ましく、少なくとも1回、特に1〜6回、水で洗浄するのが好ましい。
【0021】
原位置で、水溶液を用いて土壌洗浄する場合には、例えば、タンクを用いて薬剤を水に溶解し、所定の濃度になるよう混合した後施用できるほか、所定濃度より高濃度の溶液を調製して施用した後、所定濃度になるように水を加えても良く、更に、予め湛水した水田に施用しても良い。また、導水時に連続的に薬剤を投入できる装置により施用しても良い。
【0022】
また、薬剤と水を別々に加えて土壌洗浄することもでき、この場合、例えば、薬剤の施用には肥料撒布機などを用いることができ、耕耘機等を用いて土壌を耕耘するとともに、薬剤と土壌を攪拌、混合することができる。水は、通常水田に導水する方法により、決定した固液比に相当する量を入れ、次に、ロータリーハローなどを用いて代掻きの要領で洗浄作業を行うことができる。
【0023】
洗浄により、土壌中の放射性物質を水溶液中に抽出させた後、原位置にて土壌を沈降させて上澄廃液を集める。水田土壌を浄化する場合、上澄廃液は、通常水田で落水する時開く排水口を開けて排水し、一時的にピットに貯留し、その後ポンプで廃水処理設備に入れても良いし、そのままポンプで水田から排水しても良い。
【0024】
排出された洗浄排水は、貯槽に貯められ、排水処理装置にて、アルカリ沈殿処理することにより、固液分離機にて固液分離後、上澄み液を中和し、浮遊物をバックフィルターで取り除いた後、放水される。放流水中の放射性物質を完全に除去するために、さらに放射性物質用の吸着材を充填したろ過装置を通す方式も選定できる。沈殿物はフィルタープレス等で脱水し、放射性産業廃棄物等として適切に処分する。
【実施例】
【0025】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。
【0026】
実施例1
放射性セシウム含有土壌A(A県畑地から採取した黒ぼく土、放射性セシウム濃度25000Bq/kg)を、50mLの遠沈管に5g秤量し、土壌重量に対して2.5質量倍の薬剤水溶液を添加し、1分間振とう後、10分間静置、更に1分間振とう後、10分間静置して土壌を沈降させて固液分離し、上澄み液を取除いた。薬剤は塩化第二鉄、塩化アンモニウムおよび塩化カリウムを用い、薬剤濃度は表1記載の濃度とした。
除去した上澄み液と同量の水を遠沈管に加え、1分間振とう後、静置して土壌を沈降させて上澄み液を除去した。この操作をさらに2回繰り返した。
処理土壌中の放射性セシウム濃度は「緊急時における食品の放射能測定マニュアル」(平成14年3月厚生労働省医薬局食品保険部監視安全課)に従って測定し、放射性セシウム除去率(%)を求めた。結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
実施例2
実施例1において、放射性セシウム含有土壌B(B県畑地から採取した黒ぼく土、放射性セシウム濃度4500Bq/kg)を用い、洗浄薬剤は1.0M塩化アンモニウム、又は1.0M塩化アンモニウムに20mM塩化セシウムを添加したものを用い、同様の処理を行った。結果を表2に示す。
【0029】
【表2】

【0030】
実施例3
実施例2において、表3に示す薬剤を用いる以外は、同様の処理を行った。結果を表3に示す。
【0031】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化第一鉄、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、硝酸第一鉄、硝酸第二鉄及びポリ硫酸鉄から選ばれる鉄塩、並びにアンモニウム塩、カリウム塩から選ばれる薬剤を、放射性物質汚染土壌に施用し、土壌中の放射性物質を抽出洗浄することを特徴とする放射性物質汚染土壌の浄化方法。
【請求項2】
1〜200mMの鉄塩水溶液、0.1〜4Mのアンモニウム塩水溶液、0.1〜4Mのカリウム塩水溶液から選ばれる薬剤水溶液を用いて土壌を洗浄する請求項1記載の浄化方法。
【請求項3】
浄化対象土壌の1〜5質量倍の薬剤水溶液で、土壌中の放射性物質を抽出洗浄する請求項1又は2記載の浄化方法。
【請求項4】
浄化対象土壌が、放射性セシウム含有水田土壌である請求項1〜3のいずれか1項記載の浄化方法。
【請求項5】
薬剤が、塩化セシウムを含有する請求項1〜4のいずれか1項記載の浄化方法。
【請求項6】
薬剤が、グリセリン又はエチレングリコールモノエチルエーテル(EGME)を含有する請求項1〜5のいずれか1項記載の浄化方法。

【公開番号】特開2012−242254(P2012−242254A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113082(P2011−113082)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)