説明

汚泥浮上抑制剤

【課題】汚泥濃縮槽内における微生物の活動を抑制し、効率的な汚泥濃縮を可能にする汚泥浮上抑制剤の提供。
【解決手段】最初沈殿池引き抜き汚泥を含む生汚泥の重力濃縮時に用いる汚泥浮上抑制剤であって、静菌剤(例えば、ナトリウムピリチオン、アジ化ナトリウム、4,5-ジクロル-1,2-ジチオール-3-オン、ホスホニウム系化合物、トリアジン系化合物)を含有することを特徴とする汚泥浮上抑制剤及び該抑制剤を生汚泥に添加する汚泥浮上抑制方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水、排水、廃水、汚水等を処理する際に生じる汚泥の濃縮手段に関するものであって、最初沈殿池引き抜き汚泥を含む生汚泥の浮上抑制に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、家庭排水・し尿などの一般排水、工場・事業場排水、農業・畜産業排水といった、下水、排水、廃水、汚水など(原水)の処理には、活性汚泥法による生物学的処理が広く行われている。この生物学的処理工程では、原水中の浮遊物質が最初沈殿池にて汚泥として沈殿、除去される。沈殿した汚泥は引き抜かれ、続く重力濃縮槽での濃縮工程を経て脱水工程へと移される。この重力濃縮槽にて、汚泥はさらに時間をかけて重力による濃縮が行われるのであるが、この工程ではしばしば汚泥中の微生物の活動が進行するため、例えば呼吸作用による二酸化炭素ガスや脱窒反応により生じる窒素ガスなどが付着して汚泥が浮上することによる濃縮槽越流水への汚濁物質の流出や汚泥濃縮不良、汚泥濃縮不良による汚泥量の増加に伴う脱水時間の延長や汚泥脱水性の悪化、腐敗に伴う臭気の発生、など数多くの問題がある。
【0003】
このような問題に対処するために、例えば臭気については、濃縮槽を覆蓋して、臭気を別途処理するなどの対策が講ぜられており、濃縮不良による汚泥の濃度低下や脱水性悪化については、脱水薬剤の開発検討、脱水機の効率向上検討などが行われている。また、濃縮槽越流水に流出する固形物対策としては、最初沈澱池に汚泥を貯めないようにする、濃縮槽内の汚泥ゾーンを低く保つなどの運転管理の推進が図られている。しかしながら、これらの対策では、十分に満足すべき結果が得られていないのが実状である。
汚泥の重力濃縮槽における前記の問題を解決するために、槽内が嫌気状態になることを回避することが、重力濃縮槽における汚泥浮上の防止や、臭気防止に有効であること報告されている。
【0004】
例えば、特開2000−33396号公報において、重力濃縮槽の前段に濃縮前処理槽を設け、汚泥の酸化還元電位を−200mV以上になるように前処理槽にて空気曝気、酸化剤または嫌気性菌殺菌剤の添加処理が検討されている。しかし、前処理のためには新たな設備を必要とすることから実施は容易ではない。重力濃縮槽への過酸化水素、亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸ナトリウムなどの酸化剤添加の有効性も報告されているが、酸化剤によるガスの発生やコスト面に課題を残し、実用化には至っていない。
【0005】
酸化剤の一種である亜硝酸塩についても、特開2002−361300号公報において臭気および汚泥浮上の抑制に対する有効性が示されているが、亜硝酸塩は生物学的脱窒反応の基質となり得るため、その結果生じる窒素ガスにより汚泥が浮上してしまうことを防ぐために浮上抑制剤としての使用量に制限がある。
特開2003−112200号公報においては、最初沈殿池からの引き抜き汚泥を冷却して重力濃縮する方法が示されているが、冷却のための装置は大がかりであるし、低温水による希釈は処理水量を増やすため、これもまた実用的でない。
特開平6−304598号公報では、汚泥を減圧下で処理することで発生したガスを脱気すると同時に菌を死滅させる方法が示されているが、減圧のためには大がかりな装置が必要になる。
【0006】
一方、重力濃縮工程に添加して有効な静菌剤やその使用方法については、特開昭62−168599号公報、特開昭62−216700号公報に殺菌剤とカチオン性高分子凝集剤とを併用して有機性汚泥の濃縮を行う方法が示されている。本発明者らは、これらの殺菌剤とは異なる化合物に新たに汚泥浮上抑制効果を見出し、より少ない添加量で効果を示す汚泥浮上抑制剤として本発明を完成した。
【特許文献1】特開2000−33396号公報
【特許文献2】特開2002−361300号公報
【特許文献3】特開2003−112200号公報
【特許文献4】特開平6−304598号公報
【特許文献5】特開昭62−168599号公報
【特許文献6】特開昭62−216700号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前述したような従来の汚泥処理における重力濃縮工程での汚泥の浮上を抑制することで、汚泥濃縮槽における前記の多くの問題を解決することができる汚泥浮上抑制剤と、これを用いた汚泥浮上抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記目的を達成するために、広く静菌効果を有することが知られている化合物について、最初沈殿池引き抜き汚泥を含む生汚泥の浮上抑制効果と使用方法について検討を重ねた結果、これまで汚泥浮上抑制剤として用いられていなかった静菌剤、静菌剤どうしの併用、あるいは静菌剤と亜硝酸塩の併用により汚泥浮上抑制効果を見出した。また、静菌剤と亜硝酸塩の併用により、亜硝酸塩のみを用いた場合の問題点である窒素ガスの発生を抑えることができることを見出した。これら静菌剤を含む汚泥浮上抑制剤と、これを用いた汚泥浮上抑制方法を見出し、発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は以下の通りである。
1.最初沈殿池引き抜き汚泥を含む生汚泥の重力濃縮時に用いる汚泥浮上抑制剤であって、静菌剤を含有することを特徴とする汚泥浮上抑制剤。
2.最初沈殿池引き抜き汚泥を含む生汚泥の重力濃縮時に用いる汚泥浮上抑制剤であって、静菌剤と亜硝酸塩とを含有することを特徴とする汚泥浮上抑制剤。
3.静菌剤および他の静菌剤もしくは亜硝酸塩とを1:0.1ないし1:100の割合で含有する1.または2.に記載の汚泥浮上抑制剤。
4.静菌剤がナトリウムピリチオン、アジ化ナトリウム、4,5-ジクロル-1,2-ジチオール-3-オン、ホスホニウム系化合物、トリアジン系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含むことを特徴とする1.から3.のいずれかに記載の汚泥浮上抑制剤。
【0010】
5.最初沈殿池引き抜き汚泥を含む生汚泥の重力濃縮槽における汚泥浮上を抑制する方法であって、静菌剤を含有する汚泥浮上抑制剤を該生汚泥に添加することを特徴とする汚泥浮上抑制方法。
6.最初沈殿池引き抜き汚泥を含む生汚泥の重力濃縮槽における汚泥浮上を抑制する方法であって、静菌剤と亜硝酸塩とを含有する汚泥浮上抑制剤を該生汚泥に添加することを特徴とする汚泥浮上抑制方法。
7.静菌剤がナトリウムピリチオン、アジ化ナトリウム、4,5-ジクロル-1,2-ジチオール-3-オン、ホスホニウム系化合物、トリアジン系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含む汚泥浮上抑制剤を前記生汚泥に添加することを特徴とする5.または6.に記載の汚泥浮上抑制方法。
8.汚泥浮上抑制剤を生汚泥容積1リットルあたり1ないし100mg添加することを特徴とする5.から7.のいずれかに記載の汚泥浮上抑制方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明に使用される静菌剤を含む汚泥浮上抑制剤によれば、これまで汚泥浮上抑制剤として用いられていなかった化合物の静菌効果により、特別な装置を必要とすることなく、重力濃縮槽での生汚泥の浮上を抑制できる。さらに本発明に使用される静菌剤と他の静菌剤もしくは亜硝酸塩を含む汚泥浮上抑制剤によればより汚泥浮上抑制効果を長期にわたり持続することができ、効率的な汚泥の濃縮を可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
最初沈殿池引き抜き汚泥とは、家庭排水、し尿などの一般排水、工場・事業場排水、農業・畜産業排水といった、下水、排水、廃水、汚水などの原水の活性汚泥法等による生物学的処理工程において、これら原水から最初に浮遊物を沈降させて回収する最初沈殿池から重力濃縮槽へと引き抜かれる汚泥である。原水の生物学的処理工程においては、最初沈殿池あるいはその前段に、生物処理槽から余剰汚泥(活性汚泥)の返送がある場合と、余剰汚泥の返送がない場合があるが、本発明ではいずれの場合の最初沈殿池から引き抜かれる汚泥を含む生汚泥にも使用することができる。生汚泥は、続く重力濃縮槽にてさらに時間をかけて重力による濃縮が行われる。
【0013】
静菌剤とは菌の活動を抑える作用を持つ物質をいう。本発明に用いる静菌剤は、静菌剤として公知のものや市販品等を使用することができる。静菌剤はナトリウムピリチオン、アジ化ナトリウム、4,5-ジクロル-1,2-ジチオール-3-オン、ホスホニウム系化合物、トリアジン系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含むことが好ましい。 これらの好ましい静菌剤は、単独でも他の静菌剤を含む2種類以上を組み合わせて用いても良い。他の静菌剤とは、本発明に用いられる好ましい静菌剤と静菌剤として公知のものや市販品を含むものをいう。例えば、2,2-ジブロモ-2-シアノアセトアミドは、すでに汚泥の浮上を抑制することも知られている公知の静菌剤の1種であるが、本発明で汚泥浮上抑制効果を見出した4,5-ジクロル-1,2-ジチオール-3-オンとの組み合わせによる相乗効果によって、より少ない添加量で、より長時間汚泥の浮上を抑制することができる。
【0014】
ホスホニウム化合物としては、例えば、トリ-n-ブチルヘキサデシルホスホニウムクロリド、トリ-n-ブチルテトラデシルホスホニウムクロリド、トリ-n-ブチルヘキサデシルホスホニウムクロリド等の第4級ホスホニウム塩、スルホイソフタル酸テトラアルキルホスホニウム塩またはそのジエステル等が挙げられる。
トリアジン系化合物としては、例えばヘキサヒドロ−1,3,5−トリス(2−ヒドロキシエチル)−S−トリアジン(ヘキサミン)、ヘイキサヒドロ−1,3,5−トリエチル−S−トリアジン、などがあげられる。
静菌剤以外でも、亜硝酸塩のような酸化剤と組み合わせることでより良い効果が発揮されるものがある。亜硝酸塩としては、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、亜硝酸カルシウム、亜硝酸マグネシウム、亜硝酸アンモニウム等を用いることができる。
【0015】
本発明では、亜硝酸塩と静菌剤の組み合わせにより、静菌剤の汚泥浮上抑制効果が増強され、効果が持続するだけでなく、静菌剤の効果により亜硝酸塩が基質となりうる生物学的脱窒反応を抑え、余剰返送汚泥を含む汚泥では使用が困難とされてきた高い濃度領域でも亜硝酸塩を汚泥浮上抑制剤として使用することを可能にする。
また、亜硝酸塩には汚泥に対し消臭効果を有することが知られているが、亜硝酸塩を汚泥の消臭を目的として添加するような際にも本発明である汚泥浮上抑制剤を組み合わせることで、前記生物学的脱窒反応による汚泥浮上を抑制できる。そのため、消臭に必要十分な量の亜硝酸塩を汚泥の浮上を引き起こすことなく汚泥に添加できるようになる。
【0016】
使用する静菌剤は、化合物含有量として1ないし100質量%を含むものを用いることができ、例えばナトリウムピリチオンは、2.5ないし40質量%溶液を用いることが好ましい。汚泥浮上抑制剤中の静菌剤成分は、それぞれの静菌剤単独で使用する場合は汚泥容積1Lあたり固形物量として0.1mgないし200mgの使用が好ましく、1mgないし100mgの使用がコストと効果の両面でより好ましい。
静菌剤どうしまたは亜硝酸塩のような化合物とを組み合わせる場合には、それぞれを汚泥容積1Lあたり固形物量として0.1mgないし200mgの使用が好ましく、より好ましくは1mgないし100mgの範囲である。また静菌剤および他の静菌剤もしくは亜硝酸塩の重量比が1:0.1ないし1:100の範囲で使用することが好ましく、1:0.2ないし1:60の範囲で使用することがより好ましい。
【0017】
本発明である汚泥浮上抑制剤は、最初沈殿池引き抜き汚泥を含む生汚泥に添加することができ、重力濃縮槽へ移送する管の中や、重力濃縮槽に直接添加しても良く、添加の手段は独立のポンプを用いても、生汚泥を移送するポンプと連動させても良い。
静菌剤を組み合わせて添加するときにはそれぞれを別々に添加しても、事前に混合して同時に添加しても同様の効果が得られ、添加の方法に特に制限はない。また、本汚泥浮上抑制剤の形態としては、汚泥との混合効率から液状またはスラリー状であることが好ましいが粒体や粉末でもかまわない。その他、濃度や粘度の調整剤、品質保持のための添加剤などに特に制限はなく、添加場所や汚泥の状態にあわせて使用することができる。
【実施例】
【0018】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。(1)から(6)では、A浄化センターより得た最初沈殿重力濃縮汚泥を水道水を煮沸し塩素を除去した水を用いて汚泥濃度をTS 12000mg/Lに調製した模擬最初沈殿池引き抜き汚泥を用いた。(7)では、B浄化センターより得た最初沈殿池引き抜き汚泥を用いた。B浄化センターでは、最初沈殿池に曝気槽より余剰汚泥を返送しているため、この最初沈殿池引き抜き汚泥には余剰汚泥が含まれている。(8)ではA浄化センターより得た最初沈殿重力濃縮汚泥と余剰濃縮汚泥を混合して調製した、最初沈殿池引き抜き汚泥に余剰汚泥を含む模擬生汚泥を用いた。測定に用いたA浄化センターの重力濃縮引き抜き汚泥、余剰濃縮汚泥の性状およびB浄化センターの最初沈殿池引き抜き汚泥の性状は実施例ごとに示した。
【0019】
以下に、測定の方法を説明する。
(1)から(6)と(8)では濃度を調整した汚泥に、(7)ではそのままの汚泥に静菌剤を添加して良く混和し、薬剤添加汚泥40mLを50mL容のめもり付きチューブに入れてキャップを閉める。次いで25℃または28℃に設定したインキュベーター内に静置し、汚泥界面の変化を観察する。汚泥界面はスタート時の値を100とする%表示で示した。値は、汚泥の沈降に伴い減少した後、浮上によって再度増加する。
【0020】
使用した静菌剤は、安息香酸(和光純薬工業株式会社)、2,2-ジブロモ-2-シアノアセトアミド(和光純薬工業株式会社)、サンアイバックIT-20BTP(イソチアゾリン系化合物:三愛石油株式会社、商標)、サンアイバックTPS(ホスホニウム系化合物:三愛石油株式会社、商標)、サンアイバックP(トリアジン系化合物:三愛石油株式会社、商標)、ナトリウムピリチオン(旭化成クリーン化学株式会社)、アジ化ナトリウム(和光純薬工業株式会社)、4,5-ジクロル-1,2-ジチオール-3-オン(エーピーアイ コーポレーション)、である。
【0021】
本文および表中、各静菌剤をNaPT(ナトリウムピリチオン)、AZ(アジ化ナトリウム)、4,5D(4,5-ジクロル-1,2-ジチオール-3-オン)、DBNPA(2,2-ジブロモ-2-シアノアセトアミド)、亜硝酸塩をNaNO2(亜硝酸ナトリウム)と標記することがある。
(1)静菌剤の汚泥浮上抑制効果評価(実施例1−1〜1−5、比較例1−1〜1−3)
A浄化センターより採取した初沈濃縮汚泥をTS 12000mg/Lに希釈し、薬剤添加による25℃条件下での汚泥浮上抑制時間を測定した。
表1は測定毎に無添加汚泥との測定開始から汚泥浮上までの時間の差を算出し、まとめたものである。
【0022】
【表1】

【0023】
表1に示したとおり、多くの静菌剤には浮上抑制効果があることがわかる。
さらに詳しい効果の測定結果を以下の実施例にて示す。
【0024】
(2)ナトリウムピリチオンによる汚泥浮上抑制(実施例2−1〜2−3、比較例2−1)
測定に用いたA浄化センターより採取した汚泥性状は、TS 32400mg/L、VRTS 10.2%、pH4.78であった。
測定はこの汚泥をTS 12000mg/Lに希釈して使用した。
測定は28℃条件下で行った。
ナトリウムピリチオンの添加による浮上抑制効果を表2に表した。
表中の*マークは、汚泥が浮上し始め、界面が上昇したことを示している。
【0025】
【表2】

【0026】
表2に示したとおり、ナトリウムピリチオンは汚泥容積1Lあたり、1mgという極めて微量で汚泥浮上を抑制する効果を示し、無添加の汚泥に対して約16時間浮上を抑制した。この結果よりナトリウムピリチオンは汚泥浮上抑制剤として適していることが分かる。
【0027】
(3)アジ化ナトリウムによる汚泥浮上抑制(実施例3−1、3−2、比較例3−1)
測定に用いたA浄化センターより採取した汚泥性状は、TS 29000mg/L、VRTS 10.0%、pH5.01であった。
測定はこの汚泥をTS 12000mg/Lに希釈して使用した。
測定は、25℃条件下で行った。
アジ化ナトリウムの添加による浮上抑制効果を表3に表した。
表中の*マークは、汚泥が浮上し始め、界面が上昇したことを示している。
【0028】
【表3】

【0029】
表3に示したとおり、アジ化ナトリウムは汚泥容積1Lあたり、5mgという微量で汚泥浮上を抑制する効果を示し、無添加の汚泥に対して19時間以上汚泥の浮上を抑制した。この結果より、アジ化ナトリウムは汚泥浮上抑制剤として適していることが分かる。
【0030】
(4)4,5-ジクロル-1,2-ジチオール-3-オンによる汚泥浮上抑制(実施例4−1、4−2、比較例4−1)
測定に用いたA浄化センターより採取した汚泥性状は、TS 32400mg/L、VRTS 10.2%、pH4.78であった。
測定はこの汚泥をTS 12000mg/Lに希釈して使用した。
測定は28℃条件下で行った。
4,5-ジクロル-1,2-ジチオール-3-オンの添加による浮上抑制効果を表4に表した。
表中の*マークは、汚泥が浮上し始め、界面が上昇したことを示している。
【0031】
【表4】

【0032】
表4に示したように、4,5-ジクロル-1,2-ジチオール-3-オンは微量で汚泥浮上を抑制し、無添加の汚泥と比べて汚泥容積1Lあたり、5mg添加で約5時間、10mg添加で約16時間浮上を抑制した。この結果より、4,5-ジクロル-1,2-ジチオール-3-オンは汚泥浮上抑制剤として適していることが分かる。
【0033】
(5)ナトリウムピリチオンと亜硝酸ナトリウム、アジ化ナトリウムと亜硝酸ナトリウムの組み合わせによる汚泥浮上抑制(余剰汚泥を含まない最初沈殿池引き抜き汚泥)(実施例5−1〜5−4、比較例5−1〜5−6)
測定に用いたA浄化センターより採取した汚泥性状は、TS 32400mg/L、VRTS 10.2%、pH4.78であった。
測定はこの汚泥をTS 12000mg/Lに希釈して使用した。
測定は28℃条件下で行った。
表5―1にナトリウムピリチオンと亜硝酸ナトリウムとを組み合わせて使用した時の汚泥浮上抑制効果について示した。
表中の*マークは、汚泥が浮上し始め、界面が上昇したことを示している。
【0034】
【表5−1】

【0035】
表5―1に示したとおり、ナトリウムピリチオンと亜硝酸ナトリウムを組み合わせて使用すると、亜硝酸ナトリウム添加量が汚泥容積1Lあたり5mgとごく少量にも関わらず、ナトリウムピリチオン単独使用時よりもさらに40時間以上、亜硝酸ナトリウム単独使用時よりも24時間以上汚泥浮上を抑制し、相乗効果が発揮されていることが分かる。
表5−2に、アジ化ナトリウムと亜硝酸ナトリウムとを組み合わせて使用した時の汚泥浮上抑制効果を示した。
表中の*マークは、汚泥が浮上し始め、界面が上昇したことを示している。
【0036】
【表5−2】

【0037】
表5−2に示したとおり、アジ化ナトリウムと亜硝酸ナトリウムを組み合わせて使用すると、アジ化ナトリウム汚泥容積1Lあたり1mg添加では亜硝酸ナトリウムとの相乗効果は得られなかったが、同5mg添加することで汚泥の浮上をほぼ抑制し、相乗効果が発揮されたことがわかる。
以上のように、静菌剤と亜硝酸ナトリウムとを併用すると、それぞれの効果が増強されることがわかる。
【0038】
(6)4,5-ジクロル-1,2-ジチオール-3-オンと2,2-ジブロモ-2-シアノアセトアミドの組み合わせによる汚泥浮上抑制(実施例6−1、6−2、比較例6−1〜6−4)
測定に用いたA浄化センターより採取した汚泥性状は、TS 32400mg/L、VRTS 10.2%、pH4.78であった。
測定はこの汚泥をTS 12000mg/Lに希釈して使用した。
測定は28℃条件下で行った
4,5-ジクロル-1,2-ジチオール-3-オンと2,2-ジブロモ-2-シアノアセトアミドの組み合わせによる浮上抑制効果を表6に表した。
表中の*マークは、汚泥が浮上し始め、界面が上昇したことを示している。
【0039】
【表6】

【0040】
表6に示したとおり、2,2-ジブロモ-2-シアノアセトアミド単独では汚泥浮上を抑制しない添加量でも、4,5-ジクロル-1,2-ジチオール-3-オンと組み合わせると汚泥浮上を抑制することが分かる。その相乗効果により、4,5-ジクロル-1,2-ジチオール-3-オンが汚泥容積1Lあたり単独使用時の1/5の添加量で汚泥浮上を抑制した。また、抑制時間延長効果は、4,5-ジクロル-1,2-ジチオール-3-オンを汚泥容積1Lあたり5mg添加したときで比較すると、4,5-ジクロル-1,2-ジチオール-3-オン単独では無添加汚泥と比較して約5時間の抑制効果であったものが、2,2-ジブロモ-2-シアノアセトアミドを併用することで、24時間以上浮上を抑制するまでに向上した。これらの結果より、2,2-ジブロモ-2-シアノアセトアミドと4,5-ジクロル-1,2-ジチオール-3-オンを併用する、汚泥浮上抑制剤の使用方法が有効なものであることが分かる。
以上のように、静菌剤と2,2-ジブロモ-2-シアノアセトアミドとを併用すると、それぞれの効果が増強されることがわかる。
【0041】
(7)静菌剤と亜硝酸ナトリウムの組み合わせによる汚泥浮上抑制(余剰返送汚泥を含む最初沈殿池引き抜き汚泥)(実施例7−1〜7−3、比較例7−1〜7−3)
B浄化センターより採取した余剰汚泥返送分を含む最初沈殿池引き抜き汚泥を用い、生物学的脱窒反応が起こりやすい条件下での静菌剤と亜硝酸ナトリウムを組み合わせた汚泥浮上抑制試験を行った。用いた汚泥の性状は、TS 21800mg/L、VRTS 13.9%、pH5.03であった。
測定は25℃条件下で行った。
表7に余剰を含む最初沈殿池引き抜き汚泥にナトリウムピリチオンと亜硝酸ナトリウムを組み合わせた場合の浮上抑制効果を示した。 表中の*マークは、汚泥が浮上し始め、界面が上昇したことを示している。
【0042】
【表7】

【0043】
表7に示したとおり、亜硝酸ナトリウム単独での処理と比較して、5mg/Lというごく微量のナトリウムピリチオンを併用することにより、汚泥浮上抑制時間がのび、汚泥が沈降し続ける時間が延びたため、汚泥の濃縮効率が上がっている。また、併用により、亜硝酸ナトリウムの添加量を80mg/Lに増やしても、汚泥の沈降、濃縮が続き、脱窒反応による浮上が起きていないことがわかる。
【0044】
(8)静菌剤による高濃度亜硝酸塩添加時の汚泥浮上抑制(余剰返送汚泥を含む最初沈殿池引き抜き汚泥)(実施例8−1〜8−6、比較例8−1〜8−4)
A浄化センターより採取した汚泥の性状は、最初沈殿池重力濃縮汚泥がTS 25400mg/L、VRTS 11.0%、pH5.10、余剰濃縮汚泥 TS 36200mg/L、VRTS 18.0%、pH6.31であった。
【0045】
測定は以下のように調製した余剰を含む最初沈殿池引き抜き汚泥によって行った。すなわち、上記、最初沈殿池濃縮汚泥由来TSが12000mg/L、余剰濃縮汚泥由来TSが2000mg/Lになるように希釈、混合して模擬生汚泥を得た。この模擬生汚泥において、静菌剤が亜硝酸塩添加により起こる汚泥浮上を抑制する効果を測定した。
汚泥中の亜硝酸ナトリウム量は、比色法を用いて測定した(迅速水質分析計 HACH社)。
表8―1は、亜硝酸塩として亜硝酸ナトリウムを100mg/L添加したときと、400mg/L添加したときの汚泥界面の計測結果である。
表中の*マークは、汚泥が浮上し始め、界面が上昇したことを示している。
【0046】
【表8−1】

【0047】
表8−1に示したとおり、亜硝酸ナトリウム添加量が多くなり、亜硝酸塩濃度が高まった結果、浮上抑制効果が下がっていることがわかる。この現象は、亜硝酸塩が生物学的脱窒反応の基質となった結果発生したガスによるものである。
表8−2は、亜硝酸塩が基質となり、亜硝酸塩による汚泥浮上抑制効果が低下する条件下に、静菌剤としてナトリウムピリチオンを同時に添加したときの汚泥浮上抑制効果を汚泥界面変化として測定した結果である。
表中の*マークは、汚泥が浮上し始め、界面が上昇したことを示している。
【0048】
【表8−2】

【0049】
表8−2のとおり、ナトリウムピリチオンは5mg/Lというわずかな量で生物活動を抑制し、汚泥浮上抑制効果を増強することが分かる。
表8−3は、ナトリウムピリチオン併用による亜硝酸ナトリウム消費速度の違いを示したものである。
【0050】
【表8−3】

【0051】
表8−3のとおり、ナトリウムピリチオンが亜硝酸塩を基質とする生物の活動を抑えた結果、亜硝酸塩としての亜硝酸ナトリウム消費速度が低下したことがわかる。
以上のように、亜硝酸塩を大量に添加した場合でも静菌剤添加が汚泥中の生物活動を抑える結果、汚泥浮上が抑制されることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、下水、排水、廃水、汚水等を処理する際に生じる汚泥の濃縮手段に関する分野で好適に使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
最初沈殿池引き抜き汚泥を含む生汚泥の重力濃縮時に用いる汚泥浮上抑制剤であって、静菌剤を含有することを特徴とする汚泥浮上抑制剤。
【請求項2】
最初沈殿池引き抜き汚泥を含む生汚泥の重力濃縮時に用いる汚泥浮上抑制剤であって、静菌剤と亜硝酸塩とを含有することを特徴とする汚泥浮上抑制剤。
【請求項3】
静菌剤および他の静菌剤もしくは亜硝酸塩とを1:0.1ないし1:100の割合で含有する請求項1または2に記載の汚泥浮上抑制剤。
【請求項4】
静菌剤がナトリウムピリチオン、アジ化ナトリウム、4,5-ジクロル-1,2-ジチオール-3-オン、ホスホニウム系化合物、トリアジン系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含むことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の汚泥浮上抑制剤。
【請求項5】
最初沈殿池引き抜き汚泥を含む生汚泥の重力濃縮槽における汚泥浮上を抑制する方法であって、静菌剤を含有する汚泥浮上抑制剤を該生汚泥に添加することを特徴とする汚泥浮上抑制方法。
【請求項6】
最初沈殿池引き抜き汚泥を含む生汚泥の重力濃縮槽における汚泥浮上を抑制する方法であって、静菌剤と亜硝酸塩とを含有する汚泥浮上抑制剤を該生汚泥に添加することを特徴とする汚泥浮上抑制方法。
【請求項7】
静菌剤がナトリウムピリチオン、アジ化ナトリウム、4,5-ジクロル-1,2-ジチオール-3-オン、ホスホニウム系化合物、トリアジン系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含む汚泥浮上抑制剤を前記生汚泥に添加することを特徴とする請求項5または6に記載の汚泥浮上抑制方法。
【請求項8】
汚泥浮上抑制剤を生汚泥容積1リットルあたり1ないし100mg添加することを特徴とする請求項5から7のいずれかに記載の汚泥浮上抑制方法。

【公開番号】特開2006−305489(P2006−305489A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−132767(P2005−132767)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】