説明

汚物処理袋

【構成】 内側を耐水性で微生物分解性のある樹脂層とし、外側を気密性があり、水溶解性または水分散性の樹脂層とし、この二層のフィルムより構成されている汚物処理袋。内側には脂肪族ポリエステル層あるいは天然樹脂層が、外側にはポリビニルアルコール層が用いられる。
【効果】 糞便、尿、吐瀉物等の汚物を袋の中に入れ、水洗トイレあるいは汚泥槽、浄化槽に投棄すると袋の外側から溶解分散し、内側は下水中で分解され、汚物で手を汚したりあるいは悪臭を生じせしめることなく容易に処理することができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】人体の腹腔の腸管に直結施された導管から排泄された糞便や尿を直結して貯納するための袋、寝たきり老人などの糞尿を貯納する袋、吐瀉物を貯納するための袋およびその他の汚物を貯納するための処理袋であって、袋ごと水洗トイレに投棄した場合、袋の一部が水に溶解し、他の部分が微生物によって分解して袋が消失し、下水道への放流が可能な性能を有する汚物処理袋に関する。
【0002】
【従来の技術】直腸がんや膀胱がんなどの疾病の術後は人工肛門に頼っている患者が多い。人工肛門とは腹腔内の腸管に連結された導管を設け、その出口には排泄物を受ける袋状のものが取り付けられている。体内からの排泄物は導管によって体外に排泄され、排泄物は一時的にこの袋に貯納される。また、このような医療分野とは別に飛行機、汽車、バス、船などの乗り物に乗ったときに生じる乗り物酔いによる吐瀉物を処理するための袋もある。現在、これらの目的に使用される処理袋はポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体などのフィルムからヒートシール加工によって袋状にしたもので、耐水性も良好で強度も強く、全く水に分散することはない。したがって使用後は汚物をトイレに捨て、汚物処理袋だけを廃棄焼却しているのが現状であり、患者や介護者にとって不便であり、精神的負担は大きい。また、寝たきり老人の糞尿処理の場合も同様であり、介護者の大きな負担となって精神的な苦痛を与えている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明はこの様な状況を鑑み、人体より排泄された糞便、尿、吐瀉物などの臭気の発散を防止し、水洗トイレに排泄物などの汚物を袋とともに流すことが可能な汚物処理袋を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】すなわち、本発明は、内側を耐水性で微生物分解性の樹脂層とし、外側を気密性がある水溶性または水分散性の樹脂層とした二層の樹脂層より構成されている汚物処理袋に関する。
【0005】本発明において汚物処理袋の内側に用いられる耐水性で微生物分解性のある樹脂には、例えば脂肪族ポリエステルあるいは天然樹脂がある。このようなポリエステルとしては、ポリヒドロキシ酢酸、ポリラクタイド、ポリプロピオラクトン、ポリ3−ホドロキシブチレート、ポリε−カプロラクトン、ポリピバラクトン、ポリエチレンアジペート、ポリエチレンアゼテート、ポリエチレンスベレート、3ヒドロキシブチレート−3ヒドロキシバリレート共重合物などが挙げられる。また、天然樹脂としては、シェラック、ダンマル、キサンタンガム、キトサン、コラーゲン、エチルセルロース等のセルロース誘導体が挙げられる。これらをフィルムとした場合その厚み範囲は5μから100μ、好ましくは10μから60μである。5μ以下ではヒートシール強度や接着剤による接着強度が不十分で耐水性も悪い。100μ以上では微生物分解するのに時間がかかる上、経済的にも不利である。
【0006】本発明において汚物処理袋の外側に用いられる気密性がある水溶性または水分散性のある樹脂としては、ポリビニルアルコールが望ましい。ポリビニルアルコールは部分ケン化ポリビニルアルコールやポリビニルアルコール誘導体など水溶解性または水分散性があるポリビニルアルコールであれば特に限定されない。部分ケン化ポリビニルアルコールにおいてはケン化度75モル%から98モル%、好ましくは80モル%から95モル%であり、重合度300から3000で、好ましくは500から2000である。ケン化度が75モル%以下や95モル%以上では水溶解性が悪くなり、重合度が300以下ではフィルムの強度がなく、2000以上では水に溶解分散する時間がかかりすぎる。ポリビニルアルコール誘導体としては、アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、酢酸アリルなどの不飽和カルボン酸と酢酸ビニルの共重合体のケン化物、無水コハク酸、無水フタル酸、無水マレイン酸などの酸無水物によるエステル化物などが挙げられる。ポリビニルアルコールフィルムの厚みは特に限定されないが20μから150μ、好ましくは40μから120μである。20μ以下では補強材としての機能を果たさず、150μ以上では水溶解性に時間がかかりすぎる。
【0007】本発明においては、汚物処理袋の大きさや形状は特に限定されないが、内容量の大きさによりフィルムの厚みを選択するのが好ましい。汚物処理袋は単独で用いても良く、汚物処理袋の外観を良くするために水で容易に分散する紙や不織布などの袋を外袋として用いてもよい。また、樹脂層中にはその性質に悪影響を及ぼさない限り他の樹脂、着色剤、可塑剤、スリップ剤、可型剤、芳香剤等を入れてもよい。また汚物処理袋の表面に文字や印刷を施すこともできる。
【0008】本発明の二層を構成する方法には、予め内側の樹脂、例えば脂肪族ポリエステルをインフレーション法や流延法等でフィルム化し、このフィルムと、外側の樹脂、例えばポリビニルアルコールを流延法等でフィルム化し、両者を接着剤でラミネーションする方法、脂肪族ポリエステルを有機溶剤に溶かした溶液をポリビニルアルコールの表面にコートする方法あるいは脂肪族ポリエステルフィルムにポリビニルアルコール溶液をコートする方法等がある。またこれらのフィルムから汚物処理袋の製造に通常行なわれている袋や容器の製造法を採用して行なうことができる。
【0009】本発明を図について説明する。図1〜図3は人工肛門用排泄物処理袋(1)で図1はその斜視図、図2は平面図、図3は図2のA−A′線において切断した断面図を示す。この人工肛門用排泄物処理袋(1)の上部には排泄物導入口部(2)が設けられており、処理袋の周辺は全てヒートシール等で密封されている。従って、この口部(2)から処理袋(1)中に排泄を行なうと排泄物は袋(1)中に貯留され、必要時に水洗トイレ等に投棄される。この袋は、図3に示すように内側が耐水性で微生物分解性の樹脂フィルム、例えば脂肪族ポリエステルフィルムで、外側が気密性がある水溶解性または水分散性の樹脂フィルム、例えば水溶解性ポリビニルアルコールフィルムより構成されている。従って、水洗トイレに投棄されると、まず、外層のフィルムが水溶性または水分散性があるので水洗トイレ中で溶解ないし分散され、さらに薄い内層のフィルムは水流によって破れ、放流をさまたげない。さらに微生物分解性があるので、しばらく放置するうちに微生物によって分解され、数日のうちに完全に分解して完全に消失する。また、図4R>4〜図6は、吐瀉物等の排泄物処理袋で、図4はその斜視図、図5は平面図、図6は図5のA−A′線において切断した断面図を示す。この袋は三方が密封され、一方のみが開封されており、この開封部(2)から吐瀉物等の排泄物を処理袋内に入れ、袋全体を密封し、水洗トイレ等に投棄すると、人工肛門排泄物処理袋の場合と同様に処理できる。
【0010】
【発明の効果】本発明の汚物処理袋は気密性があり、水溶解性または水分散性でフィルム強度がありガスバリアー性に優れた樹脂、例えばポリビニルアルコールを袋の外層に用いて袋の補強と臭気の漏洩発散を防止するとともに、耐水性があり微生物分解性を兼ね備えた樹脂、例えば脂肪族ポリエステルを内層に用いることによって、排泄物などの汚物を袋に密封したまま水洗トイレ、浄化槽等に流すことを可能ならしめた。特に、脂肪族ポリエステルは耐水性、ヒートシール性、柔軟性にもすぐれており、本発明の汚物処理袋の内層としてすぐれている。この汚物処理袋を用いることによって汚物を袋から分離する手間や、それにともなう臭気の発散による不快感がなくなり、患者や介護人の肉体的、精神的負担の軽減に与える影響は多大である。
【0011】以下に実施例を挙げて詳細に説明する。
【実施例1】厚み30μmのPVAフィルム(アイセロ化学社製ソルブロンKA)の片面にポリε−カプロラクトン(UCC社製TONE)の10%トルエン溶液バーコーターでコートし、厚み10μmのポリε−カプロラクトン膜を形成した。この2層フィルムをポリε−カプロラクトン層を内側にしてヒートシーラーで150mm×150mmの袋をいくつも作成した。さらに、この袋の中に水300mlを注入した袋をいくつも作成した。水を注入した袋を1週間後に調べたところ、1つも水漏れはなかった。つぎに、水を注入した袋を水洗トイレに1分間隔で1個ずつ流す試験を10分間行ったところ、パイプ等につまることはなかった。また、2メッシュの金網の中に水を注入した袋を入れ、好気性汚泥等の家庭浄化槽の中に放置し、3日後、金網を取り出したところ袋はなくなっていた。
【0012】
【実施例2】実施例1のPVAフィルムの厚みを60μmに変え、その片面にポリε−カプロラクトンを実施例1と同様な方法で厚み20μmのポリε−カプロラクトン膜を形成し、150mm×250mmの大きさの袋を作成した。この袋の中に水500mlを注入した袋をいくつも作成した。水を注入した袋を1週間後に調べたところ、1つも水漏れはなかった。つぎに、水を注入した袋を水洗トイレに1分間隔で1個ずつ流す試験を10分間行ったところ、パイプ等につまることはなかった。また、2メッシュの金網の中に水を注入した袋を入れ、嫌気性汚泥槽の下水道終末処理場に放置し、5日後、金網を取り出したところ袋はなくなっていた。
【0013】
【実施例3】厚み40μmの変性PVAフィルム(アイセロ化学社製ソルブロンPH)の片面にポリ(3−ヒドロキシブチレート−co−3−ヒドロキシバリレート)(ICI社製BIOPOL)を実施例1と同様な方法で厚み20μmのポリ(3ヒドロキシブチレート−co−3−ヒドロキシバリレート)膜を形成し、150mm×150mmの大きさの袋を作成した。この袋の中に水300mlを注入した袋をいくつも作成した。水を注入した袋を1週間後に調べたところ、1つも水漏れはなかった。また、実施例2と同様に2メッシュの金網の中に水を注入した袋を入れ、嫌気性汚泥槽の下水道終末処理場に放置し、2日後、金網を取り出したところ袋はなくなっていた。
【0014】
【比較例1】厚み40μmのポリε−カプロラクトンフィルムを実施例1と同様に150mm×150mmの大きさの袋を作成した。この袋の中に水300mlを注入すると、30分以内でシール部から水漏れした。
【0015】
【比較例2】厚み100μmのポリε−カプロラクトンフィルムを実施例1と同様に150mm×150mmの大きさの袋を作成した。この袋の中に水を300mlを注入した袋を1週間後に調べたところ、1つも水漏れはなかった、しかし、水を注入した袋を水洗トイレに1個投入したところパイプ等に詰まって、水が流れなくなってしまった。
【0016】
【比較例3】厚み100μmのPVAフィルム(アイセロ化学社製ソルブロンKA)を実施例1と同様に150mm×150mmの大きさの袋を作成した。この袋の中に水300mlを注入するとすぐにPVAフィルムが溶解し、水漏れした。
【図面の簡単な説明】
【図1】人工肛門排泄物処理物の斜視図を示す。
【図2】人工肛門用排泄物処理袋の平面図を示す。
【図3】人工肛門用排泄物処理袋の断面図を示す。
【図4】吐瀉等の排泄物処理袋の斜視図を示す。
【図5】吐瀉等の排泄物処理袋の平面図を示す。
【図6】吐瀉等の排泄物処理袋の断面図を示す。
【符号の説明】
1 排泄物処理袋
2 排泄物導入口部
3 ヒートシール部
4 外層
5 内層

【特許請求の範囲】
【請求項1】 内側を耐水性で微生物分解性の樹脂層とし、外側を気密性がある水溶解性または水分散性の樹脂層とする二層より構成されていることを特徴とする汚物処理袋。
【請求項2】 内側の樹脂層が脂肪族ポリエステル層または天然樹脂層であり、外側の樹脂層がポリビニアルコール層である請求項1記載の汚物処理袋。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図4】
image rotate


【図5】
image rotate


【図6】
image rotate


【公開番号】特開平6−142127
【公開日】平成6年(1994)5月24日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−328616
【出願日】平成4年(1992)11月13日
【出願人】(000100849)アイセロ化学株式会社 (20)