説明

油圧式テンショナ

【課題】高圧油室内に混入した空気をプランジャ収容穴からハウジングの外部へ迅速かつ円滑に脱気して空気の影響によるオイルダンピング力の低下を解消して走行チェーンのバタツキ異音を防止する油圧式テンショナを提供すること。
【解決手段】高圧油室R内に混入した空気をハウジング110の外部へ脱気する脱気機構160が、ハウジング110に設けてプランジャ収容穴112へ連通するねじ穴113のねじ込み側フランク部分とハウジング110のねじ穴113に脱気調整用座金161を介して螺合する脱気調整用ねじ162のねじ込み側フランク部分との間隙に形成される螺旋状オリフィス163と、ハウジング110の座金当接位置114に設けて螺旋状オリフィス163と連通してハウジング110の外部へ脱気する脱気誘導溝164とを備えている油圧式テンショナ100。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのカムシャフト等を駆動するタイミングチェーンに緊張力を与える油圧式テンショナに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンのカムシャフト等を駆動するタイミングチェーンに用いて、ハウジングに摺動可能に嵌挿されてハウジングとの間で高圧油室を形成するプランジャにスプリングと外部油圧による突出力を作用させてタイミングチェーンに緊張力を与えるようにしたテンショナが知られている。
【0003】
このような従来の油圧式テンショナとして、例えば、ハウジング1に形成されたシリンダ室2内に、そのシリンダ室2の内径面に沿って摺動自在の進退部材3と、その進退部材3を外方向に押圧するスプリング4とを組込み、ハウジング1には進退部材3の背部に形成された高圧油室13に連通する給油通路14を設け、その給油通路14の油出口側に、高圧油室13の圧力が給油通路14内の圧力より高くなったとき、給油通路14を閉じるチェックバルブ15を設け、ハウジング1には、高圧油室13内と外部とを連通させる空気抜き用のオリフィス18を設け、オリフィス18が、ハウジング1に形成されたねじ孔16と、そのねじ孔16にねじ係合したビス17のねじ係合面間に形成された螺旋状のねじ隙間から成り、ビス17の頭部とハウジング1の表面との間にスプリングワッシャ19を介在させたチェーンテンショナが採用されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3585655号公報(特許請求の範囲、図1)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述したような従来のチェーンテンショナは、ハウジング1のねじ孔16にビス17をねじ込んで高圧油室13内と外部とを連通させる空気抜き用のオリフィス18を形成する際に、ねじ孔16に対してねじ込み側フランク部分とねじ込み側フランク部分との両面で係合させた状態で、ねじ山部分とねじ谷部分との間に形成される微小な螺旋状ねじ隙間を空気抜き用のオリフィス18として利用しているため、このような微小な螺旋状ねじ隙間では高圧油室13内から空気をオリフィス18を介して確実かつ充分に空気抜きすることができず、エンジン始動時に高圧油室13内の残存する空気の影響でオイルダンピング力が低下して走行チェーンのバタツキ異音を完全に解消することができないという問題があった。
【0006】
そして、ビス17の頭部とハウジング1の表面との間に介在するスプリングワッシャ19は、空気通路として半径方向に切り離し部分、所謂、切り欠き部分を備えているが、この切り欠き部分の切り欠き精度が低いばかりでなく、ねじ込み時に空気抜き可能な位置に位置決めすることが困難であるため、高圧油室13内から空気を空気抜きする際にオリフィス18を介して空気抜き量を確実かつ充分に調整することができず、しかも、このような切り欠き部分を備えたスプリングワッシャ19でビス17を緩み止めする際に、スプリングワッシャ19のばね荷重が不足してビス17を強固に緩み止めすることができないという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、従来の問題を解決するものであって、すなわち、本発明の目的は、高圧油室内に混入した空気をプランジャ収容穴からハウジングの外部へ迅速かつ円滑に脱気して空気の影響によるオイルダンピング力の低下を解消して走行チェーンのバタツキ異音を防止する油圧式テンショナを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
まず、請求項1に係る発明は、走行チェーンに向けてハウジングのプランジャ収容穴から摺動自在に突出するとともにプランジャ収容穴に向けて連通する円筒状中空部を形成したプランジャと、前記ハウジングに組み付けてプランジャの円筒状中空部に形成される高圧油室内に突出させて高圧油室内に流入した圧油の逆流を阻止する逆止弁ユニットと、前記高圧油室内に伸縮自在に収納されてプランジャの突出方向に付勢するプランジャ付勢用ばねと、前記ハウジングのプランジャ収容穴の有底部近傍に設けて高圧油室内に混入した空気をプランジャ収容穴からハウジングの外部へ脱気する脱気機構とを備えた油圧テンショナにおいて、前記脱気機構が、前記ハウジングに設けてプランジャ収容穴へ連通するねじ穴のねじ込み側フランク部分と前記ハウジングのねじ穴に脱気調整用座金を介して螺合する脱気調整用ねじのねじ込み側フランク部分との間隙に形成される螺旋状オリフィスと、前記ハウジングの座金当接位置に設けて螺旋状オリフィスと連通してハウジングの外部へ脱気する脱気誘導溝とで構成されていることにより、前述したような課題を解決したものである。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明の構成に加えて、前記脱気調整用ねじの螺合状態を緩み止めする脱気調整用座金が、前記脱気調整用ねじのねじ頭部に隣接状態で嵌挿されていることにより、前述したような課題を解決したものである。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に係る発明の構成に加えて、前記脱気誘導溝が、前記螺旋状オリフィスからハウジングの外部に向けて仰角状態で配置されていることにより、前述したような課題を解決したものである。
【0011】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか1つに係る発明の構成に加えて、前記ねじ穴のねじ込み側フランク部分が、前記ねじ穴のねじ底部分からねじ山部分に向かって湾曲面を備えて前記螺旋状オリフィスを拡幅していることにより、前述したような課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0012】
そこで、本発明の油圧式テンショナは、走行チェーンに向けてハウジングのプランジャ収容穴から摺動自在に突出するとともにプランジャ収容穴に向けて連通する円筒状中空部を形成したプランジャと、ハウジングに組み付けてプランジャの円筒状中空部に形成される高圧油室内に突出させて高圧油室内に流入した圧油の逆流を阻止する逆止弁ユニットと、高圧油室内に伸縮自在に収納されてプランジャの突出方向に付勢するプランジャ付勢用ばねと、ハウジングのプランジャ収容穴の有底部近傍に設けて高圧油室内に混入した空気をプランジャ収容穴からハウジングの外部へ脱気する脱気機構とを備えていることにより、油圧式テンショナの高圧油室内に混入された空気をプランジャ収容穴からハウジングの外部へ脱気してエンジン内のタイミングチェーンにプランジャから緊張力を与えるとともに高圧油室内に混入した空気をプランジャ収容穴からハウジングの外部へ脱気することができるばかりでなく、以下のような本発明に特有の効果を奏することができる。
【0013】
すなわち、請求項1に係る本発明の油圧式テンショナによれば、脱気機構が、ハウジングに設けてプランジャ収容穴へ連通するねじ穴のねじ込み側フランク部分とハウジングのねじ穴に脱気調整用座金を介して螺合する脱気調整用ねじのねじ込み側フランク部分との間隙に形成される螺旋状オリフィスと、ハウジングの座金当接位置に設けて螺旋状オリフィスと連通してハウジングの外部へ脱気する脱気誘導溝とで構成されていることにより、ねじ穴のねじ込み側フランク部分と脱気調整用ねじのねじ込み側フランク部分との間隙に形成される螺旋状オリフィスが、脱気調整用ねじのねじ込み時に脱気調整用座金が生じる締め付け力に起因してねじ穴のねじ込み側フランク部分の反対側となるねじ抜き側フランク部分と脱気調整用ねじのねじ込み側フランク部分の反対側となるねじ抜き側フランク部分との螺合で生じるねじ軸方向の軸力によって確実に保持されるため、脱気調整用ねじのねじ込みにより油圧式テンショナの高圧油室内に混入された空気の脱気量を簡便に調整することができるとともに、ハウジングの座金当接位置において螺旋状オリフィスが座金で封鎖されずに脱気誘導溝と連通するため、エンジン始動時などに高圧油室内に混入した空気をプランジャ収容穴からハウジングの外部へ迅速かつ円滑に脱気して空気の影響によるオイルダンピング力の低下を解消して走行チェーンのバタツキ異音を防止することができる。
【0014】
請求項2に係る本発明の油圧式テンショナによれば、請求項1に係る発明が奏する効果に加えて、脱気調整用ねじの螺合状態を緩み止めする脱気調整用座金が脱気調整用ねじのねじ頭部に隣接状態で嵌挿されていることにより、脱気調整用座金がハウジングのねじ穴にねじ込まれる脱気調整用ねじに対して締め付け力となるねじ抜き側に向けた反発力を発生させると、この反発力がねじ穴のねじ込み側フランク部分の反対側となるねじ抜き側フランク部分と脱気調整用ねじのねじ込み側フランク部分の反対側となるねじ抜き側フランク部分とを係合させた螺合状態を惹起させるため、この螺合状態によって生じるねじ軸方向の軸力により螺旋状オリフィスを形成するねじ穴のねじ込み側フランク部分と脱気調整用ねじのねじ込み側フランク部分との間隙を安定かつ確実に確保して螺旋状オリフィス内に円滑に流し込むことができる。
【0015】
請求項3に係る本発明の油圧式テンショナによれば、請求項1または請求項2に係る発明が奏する効果に加えて、脱気誘導溝が螺旋状オリフィスからハウジングの外部に向けて仰角状態で配置されていることにより、螺旋状オリフィスから脱気誘導溝を介してハウジングの外部へ空気を放出する際に生じがちな空気の逆流が解消されるため、油圧式テンショナをエンジン内に俯角設置した場合や仰角設置した場合のいずれであっても高圧油室内の空気を脱気誘導溝から円滑に放出することができる。
【0016】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか1つに係る発明が奏する効果に加えて、ねじ穴のねじ込み側フランク部分がねじ穴のねじ底部分からねじ山部分に向かって湾曲面を備えて螺旋状オリフィスを拡幅していることにより、油圧式テンショナの高圧油室内からプランジャ収容穴を経由して螺旋状オリフィス内に流れ込んだ空気の流れが円滑になるため、油圧式テンショナの高圧油室内における脱気効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施例である油圧式テンショナの使用態様図。
【図2】図1に示す油圧式テンショナの斜視図と要部拡大図。
【図3】図1に示す油圧式テンショナの断面図。
【図4】第1実施例で採用した脱気機構とその要部拡大図。
【図5】本発明の第1実施例で用いた脱気調整用ねじの斜視図。
【図6】本発明の第1実施例で用いた脱気調整用座金の斜視図。
【図7】本発明で用いる脱気調整用座金の第1変形例を示す斜視図。
【図8】本発明で用いる脱気調整用座金の第2変形例を示す斜視図。
【図9】本発明で用いる脱気調整用座金の第3変形例を示す斜視図。
【図10】本発明の第2実施例で採用した脱気機構とその要部拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、走行チェーンに向けてハウジングのプランジャ収容穴から摺動自在に突出するとともにプランジャ収容穴に向けて連通する円筒状中空部を形成したプランジャと、ハウジングに組み付けてプランジャの円筒状中空部に形成される高圧油室内に突出させて高圧油室内に流入した圧油の逆流を阻止する逆止弁ユニットと、高圧油室内に伸縮自在に収納されてプランジャの突出方向に付勢するプランジャ付勢用ばねと、ハウジングのプランジャ収容穴の有底部近傍に設けて高圧油室内に混入した空気をプランジャ収容穴からハウジングの外部へ脱気する脱気機構とを備えた油圧テンショナにおいて、脱気機構がハウジングに設けてプランジャ収容穴へ連通するねじ穴のねじ込み側フランク部分とハウジングのねじ穴に脱気調整用座金を介して螺合する脱気調整用ねじのねじ込み側フランク部分との間隙に形成される螺旋状オリフィスと、ハウジングの座金当接位置に設けて螺旋状オリフィスと連通してハウジングの外部へ脱気する脱気誘導溝とで構成され、高圧油室内に混入した空気をプランジャ収容穴からハウジングの外部へ迅速かつ円滑に脱気して空気の影響によるオイルダンピング力の低下を解消して走行チェーンのバタツキ異音を防止するものであれば、その具体的な態様は、如何なるものであっても構わない。
【0019】
たとえば、本発明の油圧式テンショナは、走行チェーンに向けてハウジングのプランジャ収容穴から摺動自在に突出するとともにプランジャ収容穴に向けて連通する円筒状中空部を形成したプランジャと、ハウジングに組み付けてプランジャの円筒状中空部に形成される高圧油室内に突出させて高圧油室内に流入した圧油の逆流を阻止する逆止弁ユニットと、高圧油室内に伸縮自在に収納されてプランジャの突出方向に付勢するプランジャ付勢用ばねと、ハウジングのプランジャ収容穴の有底部近傍に設けて高圧油室内に混入した空気をプランジャ収容穴からハウジングの外部へ脱気する脱気機構とを備えたもの、あるいは、このような油圧式テンショナの基本的構造に加えて、プランジャに形成したラック歯とハウジングに軸支したラチェットのラチェト歯とで噛み外れ動作を奏するラチェット機構を備えたもののいずれであっても何ら差支えない。
【0020】
そして、本発明の油圧式テンショナに用いるハウジングの基本的な形態については、オイルポンプから供給される圧油をハウジングに形成した油供給路に直接的に導入するもの、あるいは、オイルポンプから供給される圧油をハウジングに形成した油供給路に導入する前にハウジングの背面部分に一旦貯溜する油リザーバー部を凹設したもののいずれであっても何ら構わない。
【0021】
また、本発明の油圧式テンショナの場合、高圧油室内から油供給路へ圧油の逆流を阻止する逆止弁ユニットがプランジャ収容穴の有底部に組み込まれているもの、あるいは、逆止弁ユニットがプランジャ収容穴の有底部に組み込まれていないものの、いずれであっても良い。
さらに、前述した逆止弁ユニットを備えた油圧式テンショナの場合、その具体的なユニット形態は、プランジャ収容穴の有底部に組み込まれて高圧油室内の圧油の油供給路への逆流を阻止するものであれば、如何なる形態のものであっても良く、例えば、油供給路に連通して高圧油室側へ圧油を供給するボールシートとこのボールシートの弁座に対向するチェックボールとこのチェックボールをボールシートに押圧付勢するボール付勢用ばねとチェックボールの移動量を規制する鐘状リテーナとを備えたものであっても何ら構わない。
【0022】
そして、本発明の油圧式テンショナに備えた脱気機構に用いる脱気調整用ねじの具体的なねじ形態については、丸形、なべ形、丸平形、皿形、丸皿形などのねじ頭部と三角形、台形、丸形のいずれかのねじ山部分の断面を有するねじ部とを備えたものであれば、いかなるねじ形態を備えたものであっても良いが、これらのいずれかのねじ形態を備えた汎用ねじを用いた場合には部品コストを低減することが可能になる。
なお、脱気調整用ねじは、ハウジングのねじ穴にねじ込まれる程度によって螺旋状オリフィスの長さを任意に選択することにより、脱気力を調整できることは言うまでもない。
【0023】
他方、前述した脱気調整用ねじがねじ込まれるねじ穴の具体的な形態については、ねじ溝の幅を脱気調整用ねじのねじ山の幅より大きく拡幅することにより、ねじ穴のねじ込み側フランク部分と脱気調整用ねじのねじ込み側フランク部分との間隙に螺旋状オリフィスが形成されるものであれば、如何なる形態であっても良い。
【0024】
さらに、本発明の油圧式テンショナに備えた脱気機構に用いる脱気調整用座金の具体的な形態については、脱気調整用ねじのねじ頭部に隣接状態で嵌挿されてこのねじ頭部とハウジングとの間で脱気調整用ねじの螺合状態を緩み止めするとともにハウジングのねじ穴にねじ込まれる脱気調整用ねじに対して締め付け力となるねじ抜き側に向けた反発力を発生させるものであって、ねじ抜き側に向けた反発力を発生させることのできない平座金を除く、皿形、内歯形、外歯形、内外歯形などのねじ抜き側に向けた反発力を発生させることのできるばね座金であれば何ら差し支えなく、好ましくは、C型リング状を呈する半径方向に分断された切り欠き部がないばね座金が良い。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の一実施例である油圧式テンショナ100を図1乃至図10に基づいて説明する。
ここで、図1は、本発明の一実施例である油圧式テンショナ100の使用態様図であり、図2は、図1に示す油圧式テンショナ100の斜視図と要部拡大図であり、図3は、図1に示す油圧式テンショナ100の断面図であり、図4は、第1実施例で採用した脱気機構とその要部拡大図であり、図5は、本発明の第1実施例で用いた脱気調整用ねじの斜視図であり、図6は、本発明の第1実施例で用いた脱気調整用座金の斜視図であり、図7は、本発明で用いる脱気調整用座金の第1変形例を示す斜視図であり、図8は、本発明で用いる脱気調整用座金の第2変形例を示す斜視図であり、図9は、本発明で用いる脱気調整用座金の第3変形例を示す斜視図であり、図10は、本発明の第2実施例で採用した脱気機構とその要部拡大図である。
【0026】
まず、図1に示すように、本発明の第1実施例である油圧式テンショナ100は、エンジンのクランクシャフトで回転される駆動側スプロケットS1とカムシャフトに固定されている被駆動側スプロケットS2の間に掛け廻されているタイミングチェーンCの弛み側でエンジン本体に取り付けられて、ハウジング110の前面からプランジャ120が出没自在に突出しており、プランジャ120がエンジン本体側に揺動自在に支持されている可動レバーLの揺動端近傍の背面を押圧することにより、可動レバーLを介してタイミングチェーンCの弛み側に張力を付与している。
なお、タイミングチェーンCの張り側にはタイミングチェーンCの走行を案内する固定ガイドGがエンジン本体側に取り付けられている。
【0027】
そして、駆動側スプロケットS1が矢印の方向に回転すると、タイミングチェーンCが矢印の方向に走行し、次いで、このタイミングチェーンCの走行によって被駆動側スプロケットS2が矢印の方向に回動し、駆動側スプロケットS1の回動が被駆動側スプロケットS2に伝達するようになっている。
【0028】
そこで、図2および図3に示すように、本実施例の油圧式テンショナ100は、エンジンブロック側から供給された外部圧油を導入する油供給路111を形成したハウジング110と、このハウジング110に形成したプランジャ収容穴112から走行チェーン(図示せず)に向けて摺動自在に突出する円柱状のプランジャ120と、ハウジング110のプランジャ収容穴112とプランジャ120の円筒状中空部121との間に形成される高圧油室Rに収納されてプランジャ120の突出方向に付勢するプランジャ付勢用ばね130と、プランジャ収容穴112の有底部に組み込まれて高圧油室R内から油供給路111へ圧油の逆流を阻止する逆止弁ユニット140と、ハウジング110に軸支したラチェット151のラチェット歯をプランジャ120に刻設したラック歯にラチェット付勢用ばね152の付勢により噛み合わせるラチェット機構150と、ハウジング110のプランジャ収容穴112の有底部近傍に設けて高圧油室R内に混入した空気をプランジャ収容穴112からハウジング110の外部へ脱気する脱気機構160とを備えている。
【0029】
(逆止弁ユニット140の具体的なユニット構造について)
前述した逆止弁ユニット140の具体的なユニット構造については、プランジャ収容穴112の有底部に組み込まれて高圧油室R内から油供給路111へ圧油の逆流を阻止するものであれば、公知の如何なるものであっても差し支えないが、本実施例では、前述したハウジング110の油供給路111に繋がる油路141aを有するボールシート141と、このボールシート141の弁座141bに着座するチェックボール142と、このチェックボール142をボールシート141に押圧付勢するボール付勢用ばね143と、このボール付勢用ばね143を支持し且つチェックボール142の移動量を規制する鐘状リテーナ144とから構成された逆止弁ユニット140が採用されている。
【0030】
そこで、本実施例の油圧式テンショナ100が最も特徴とする高圧油室R内に混入した空気をプランジャ収容穴112からハウジング110の外部へ脱気する脱気機構160について、図2乃至図9に基づいて更に詳しく説明する。
【0031】
まず、図2および図3で示すような脱気機構160は、ハウジング110に設けてプランジャ収容穴112へ連通するねじ穴113のねじ込み側フランク部分113aとハウジング110のねじ穴113に皿ばね座金からなる脱気調整用座金161を介して螺合する脱気調整用ねじ162のねじ込み側フランク部分162aとの間隙に形成される螺旋状オリフィス163と、ハウジング110の座金当接位置114に設けて螺旋状オリフィス163と連通してハウジング110の外部へ脱気する脱気誘導溝164とで構成されている。
【0032】
これにより、ねじ穴113のねじ込み側フランク部分113aと脱気調整用ねじ162のねじ込み側フランク部分162aとの間隙に形成される螺旋状オリフィス163が、図4に示すように、脱気調整用ねじ162のねじ込み時に脱気調整用ねじ座金161が生じる締め付け力に起因してねじ穴113のねじ込み側フランク部分113aの反対側となるねじ抜き側フランク部分と脱気調整用ねじ162のねじ込み側フランク部分162aの反対側となるねじ抜き側フランク部分との螺合で生じるねじ軸方向の軸力によって確実に保持されているとともに、ハウジング110の座金当接位置114において螺旋状オリフィス163が脱気調整用座金161で封鎖されずに脱気誘導溝164と連通している。
【0033】
そして、上述したねじ穴113のねじ込み側フランク部分113aは、ねじ穴113のねじ底部分からねじ山部分に向かって平坦な斜面を備える一方で、上述した脱気調整用ねじ162のねじ込み側フランク部分162aは、ねじ山部分からねじ谷部分に向かって平坦な斜面を備え、両者のねじ込み側フランク部分同士113a、162aが相互に平行に対向した螺旋状オリフィス163を形成している。
これにより、高圧油室R内からプランジャ収容穴112を経由して螺旋状オリフィス163内に流れ込んだ空気の流れが円滑になっている。
【0034】
また、前述した脱気誘導溝164は、図2乃至図4に示すように、螺旋状オリフィス163からハウジング110の外部に向けて仰角状態で配置されている。
これにより、螺旋状オリフィス163から脱気誘導溝164を介してハウジング110の外部へ空気を放出する際に生じがちな空気の逆流が解消される。
【0035】
さらに、本第1実施例の油圧式テンショナ100に用いる脱気調整用ねじ162の螺合状態を緩み止めするドーム形ばね座金からなる脱気調整用座金161は、図4に示すように、脱気調整用ねじ162のねじ頭部162bに隣接状態で嵌挿されている。
これにより、脱気調整用座金161が、ハウジング110のねじ穴113にねじ込まれる脱気調整用ねじ162に対して締め付け力となるねじ抜き側に向けた反発力を発生させると、この反発力が、ねじ穴113のねじ込み側フランク部分113aの反対側となるねじ抜き側フランク部分と脱気調整用ねじ162のねじ込み側フランク部分162aの反対側となるねじ抜き側フランク部分とを係合させた螺合状態を惹起させる。
【0036】
また、図6に示すように、前述した脱気調整用ねじ162は、部品コストを低減するため、図5に示すような市販されている汎用ねじを用いており、なべ形のねじ頭部162bとほぼ三角形のねじ山部分の断面を有するねじ部162cとを備えている。
【0037】
なお、図7乃至図9に示す脱気調整用座金161A、161B、161Cは、本発明で用いる脱気調整用座金161の変形例であって、脱気調整用ねじ162のねじ頭部162bに隣接状態で嵌挿されてこのねじ頭部162bとハウジング110との間で脱気調整用ねじ162の螺合状態を緩み止めするとともにハウジング110のねじ穴113にねじ込まれる脱気調整用ねじ162に対して締め付け力となるねじ抜き側に向けた反発力を発生させるものであり、図7に示すものは、波形のばね座金161Aであり、図8に示すものは、皿形のばね座金161Bであり、図9に示すものは、歯形のばね座金161Cであり、いずれも、図6に示すドーム形ばね座金からなる脱気調整用座金161と同様の作用効果を奏することができる。
【0038】
このようにして得られた本発明の第1実施例の油圧式テンショナ100は、脱気機構160が、ハウジング110に設けたねじ穴113のねじ込み側フランク部分113aと脱気調整用ねじ162のねじ込み側フランク部分162aとの平行な間隙に形成される螺旋状オリフィス163と、ハウジング110の座金当接位置114に設けた脱気誘導溝165とで構成されていることにより、脱気調整用ねじ162のねじ込みにより高圧油室R内に混入された空気の脱気量を簡便に調整することができるとともに、エンジン始動時などに高圧油室R内に混入された空気をプランジャ収容穴112からハウジング110の外部へ迅速かつ円滑に脱気して空気の影響によるオイルダンピング力の低下を解消して走行チェーンのバタツキ異音を防止することができる。
【0039】
そして、脱気調整用座金161が脱気調整用ねじ162のねじ頭部162bに隣接状態で嵌挿されていることにより、この螺合状態によって生じるねじ軸方向の軸力により螺旋状オリフィス163を形成するねじ穴113のねじ込み側フランク部分113aと脱気調整用ねじ162のねじ込み側フランク部分162aとの間隙を安定かつ確実に確保して高圧油室R内に混入された空気を螺旋状オリフィス163内に円滑に流し込み、さらに、脱気誘導溝164が螺旋状オリフィス163からハウジング110の外部に向けて仰角状態で配置されていることにより、油圧式テンショナ100をエンジン内に俯角設置した場合や仰角設置した場合のいずれであっても高圧油室R内の空気を脱気誘導溝164から円滑に放出することができるなど、その効果は甚大である。
【0040】
つぎに、本発明の第2実施例である油圧式テンショナについて、図10に基づいて説明する。
【0041】
本発明の第2実施例である油圧式テンショナ200は、上述した第1実施例である油圧式テンショナ100と比較すると、上述した螺旋状オリフィス163の具体的な形態が異なっており、その余の装置構成については何ら変わるところがないため、本発明の第2実施例で用いた螺旋状オリフィス263の具体的な形態について、図10に基づいて詳しく説明する。
なお、本発明の第2実施例で用いた螺旋状オリフィス263以外の装置構成については、上述した第1実施例である油圧式テンショナ100における同一の部材に付した100番台の符号を200番台の符号に読み換えることにより、その重複する説明の多くを省略する。
【0042】
まず、図10で示すような脱気機構260は、ハウジング210に設けたねじ穴213のねじ込み側フランク部分213aと脱気調整用ねじ262のねじ込み側フランク部分262aとの間隙に形成される螺旋状オリフィス263と、ハウジング210の座金当接位置214に設けて螺旋状オリフィス263と連通してハウジング210の外部へ脱気する脱気誘導溝264とで構成されている。
【0043】
これにより、ねじ穴213のねじ込み側フランク部分213aと脱気調整用ねじ262のねじ込み側フランク部分262aとの間隙に形成される螺旋状オリフィス263が、脱気調整用ねじ262のねじ込み時に脱気調整用ねじ座金261が生じる締め付け力に起因してねじ穴213のねじ込み側フランク部分213aの反対側となるねじ抜き側フランク部分と脱気調整用ねじ262のねじ込み側フランク部分262aの反対側となるねじ抜き側フランク部分との螺合で生じるねじ軸方向の軸力によって確実に保持されているとともに、ハウジング210の座金当接位置214において螺旋状オリフィス263が脱気調整用座金261で封鎖されずに脱気誘導溝264と連通している。
【0044】
そして、上述したねじ穴213のねじ込み側フランク部分213aは、ねじ穴213のねじ底部分からねじ山部分に向かって湾曲した斜面、すなわち、湾曲面を備える一方で、上述した脱気調整用ねじ262のねじ込み側フランク部分262aは、ねじ山部分からねじ谷部分に向かって平坦な斜面を備え、両者のねじ込み側フランク部分同士213a、262aが相互に対向して拡幅した螺旋状オリフィス263を形成している。
これにより、高圧油室R内からプランジャ収容穴212を経由して螺旋状オリフィス263内に流れ込んだ空気の流れがさらに一段と円滑になっている。
【0045】
このようにして得られた本発明の第2実施例の油圧式テンショナ200は、脱気機構260が、ねじ穴213のねじ込み側フランク部分213aと脱気調整用ねじ262のねじ込み側フランク部分262aとの間隙に形成される湾曲した螺旋状オリフィス263と、ハウジング210の座金当接位置214に設けた脱気誘導溝264とで構成されていることにより、脱気調整用ねじ262のねじ込みにより高圧油室R内に混入された空気の脱気量を簡便に調整することができるとともに、エンジン始動時などに高圧油室R内に混入された空気をプランジャ収容穴212からハウジング210の外部へより一段と迅速かつ円滑に脱気して空気の影響によるオイルダンピング力の低下を解消して走行チェーンのバタツキ異音を防止することができる。
【0046】
そして、脱気調整用座金261が脱気調整用ねじ262のねじ頭部262bに隣接状態で嵌挿されていることにより、脱気調整用ねじ座金261が生じる締め付け力に起因してねじ穴213のねじ込み側フランク部分213aと脱気調整用ねじ262のねじ込み側フランク部分262aとの間隙を安定かつ確実に確保して高圧油室R内に混入された空気を螺旋状オリフィス263内に円滑に流し込み、さらに、ねじ穴213のねじ込み側フランク部分213aがねじ穴213のねじ底部分からねじ山部分に向かって湾曲面を備えて螺旋状オリフィス263を拡幅していることにより、高圧油室R内における脱気効率をより一段と向上させることができるなど、その効果は甚大である。
【符号の説明】
【0047】
100 、200 ・・・油圧式テンショナ
110 、210 ・・・ハウジング
111 ・・・油供給路
112 、212 ・・・プランジャ収容穴
113 、213 ・・・ねじ穴
113a、213a・・・ねじ穴のねじ込み側フランク部分
114 、214 ・・・座金当接位置
120 、220 ・・・プランジャ
121 、221 ・・・円筒状中空部
130 、230 ・・・プランジャ付勢用ばね
140 ・・・逆止弁ユニット
141 ・・・ボールシート
141a・・・油路
141b・・・弁座
142 ・・・チェックボール
143 ・・・ボール付勢用ばね
144 ・・・鐘状リテーナ
144a・・・ボール包囲部分
144b・・・リテーナ脚部分
150 ・・・ラチェット機構
151 ・・・ラチェット
152 ・・・ラチェット付勢用ばね
160 、260 ・・・脱気機構
161 、261 ・・・脱気調整用座金
162 、262 ・・・脱気調整用ねじ
162a、262a・・・脱気調整用ねじのねじ込み側フランク部分
162b、262b・・・ねじ頭部
162c、262c・・・ねじ部
163 、263 ・・・螺旋状オリフィス
164 、264 ・・・・脱気誘導溝
S1 ・・・駆動側スプロケット
S2 ・・・被駆動側スプロケット
C ・・・タイミングチェーン
L1 ・・・可動レバー
L2 ・・・固定ガイド
R ・・・高圧油室


【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行チェーンに向けてハウジングのプランジャ収容穴から摺動自在に突出するとともにプランジャ収容穴に向けて連通する円筒状中空部を形成したプランジャと、前記ハウジングに組み付けてプランジャの円筒状中空部に形成される高圧油室内に突出させて高圧油室内に流入した圧油の逆流を阻止する逆止弁ユニットと、前記高圧油室内に伸縮自在に収納されてプランジャの突出方向に付勢するプランジャ付勢用ばねと、前記ハウジングのプランジャ収容穴の有底部近傍に設けて高圧油室内に混入した空気をプランジャ収容穴からハウジングの外部へ脱気する脱気機構とを備えた油圧テンショナにおいて、
前記脱気機構が、前記ハウジングに設けてプランジャ収容穴へ連通するねじ穴のねじ込み側フランク部分と前記ハウジングのねじ穴に脱気調整用座金を介して螺合する脱気調整用ねじのねじ込み側フランク部分との間隙に形成される螺旋状オリフィスと、前記ハウジングの座金当接位置に設けて螺旋状オリフィスと連通してハウジングの外部へ脱気する脱気誘導溝とで構成されていることを特徴とする油圧式テンショナ。
【請求項2】
前記脱気調整用ねじの螺合状態を緩み止めする脱気調整用座金が、前記脱気調整用ねじのねじ頭部に隣接状態で嵌挿されていることを特徴とする請求項1に記載の油圧式テンショナ。
【請求項3】
前記脱気誘導溝が、前記螺旋状オリフィスからハウジングの外部に向けて仰角状態で配置されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の油圧式テンショナ。
【請求項4】
前記ねじ穴のねじ込み側フランク部分が、前記ねじ穴のねじ底部分からねじ山部分に向かって湾曲面を備えて前記螺旋状オリフィスを拡幅していることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1つに記載の油圧式テンショナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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