説明

泌尿器系疾患予防治療用組成物及びその製造方法

【課題】カボチャ属(Cucurbita)種子を利用して、前立腺肥大症に由来する排尿障害、女性の更年期障害に由来する頻尿・尿失禁や女性の多くに認められる腹圧性尿失禁、男女共通に認められる過活動膀胱や尿路感染症に由来する排尿障害等に対して有効であり、安全かつ長期に渡り継続して服用可能な医薬品、飲料又は食品を提供する。
【解決手段】カボチャ属(Cucurbita)種子の水抽出物を有効成分として含有する泌尿器系疾患予防治療用組成物および抽出溶媒として水を使用し、カボチャ属(Cucurbita)種子を該抽出溶媒に浸漬することによりカボチャ属(Cucurbita)種子の水抽出物を得る泌尿器系疾患予防治療用組成物の製造方法により解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、泌尿器系疾患の予防治療用組成物とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高齢化社会を迎え排尿障害に悩まされている患者数が増加しており、排尿障害は男女を問わず潜在的に社会問題化していると考えられる。疾病原因は必ずしも明確ではなく、疾病とみなすよりは加齢に伴う老化現象とみなされる場合が多い。頻尿、尿失禁は生命に関わる症状を呈するものではないとは言え、患者のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を著しく低下させ、精神的、肉体的苦痛をもたらす。
【0003】
排尿障害には蓄尿機能障害と尿排出機能障害とがある。蓄尿機能障害には頻尿と尿失禁(主に切迫性尿失禁と腹圧性尿失禁)が含まれる。また尿排出機能障害には排尿困難、残尿、尿閉等が含まれる。いずれの発症機序も神経因性と非神経因性に分類されるが、最終的には膀胱平滑筋の過剰収縮または不完全収縮を示す病態である。
【0004】
高齢者の排尿障害では男女を問わず高い罹患率とQOLに影響を及ぼす過活動膀胱(切迫性尿失禁)、高齢男性に特有な疾患である前立腺肥大症、中高年、閉経期後女性に圧倒的に多い腹圧性尿失禁を挙げることができる。過活動膀胱患者数は、平成14年度の日本排尿機能学会の調査によると我が国ではおよそ810万人であることが推定されている。またこれに女性の尿失禁患者の7割を占める腹圧性尿失禁患者を加えると、排尿障害に苦しんでいる患者数はかなりの数に上ることが推定される。
【0005】
頻尿・尿失禁治療薬(蓄尿機能障害改善薬)としては、例えば抗コリン剤、膀胱平滑筋直接作用薬等の医薬品類又は各種漢方薬製剤が挙げられる。また、低活動膀胱治療薬(排尿機能障害改善薬)としては、例えばコリンエステラーゼ阻害作用を有する臭化ジスチグミン及び臭化ネオスチグミン、ムスカリン受容体活性化作用を有する塩化ベタネコール、α1アドレナリン受容体拮抗作用を有するウラビジル等が挙げられる。
【0006】
しかし、これら医薬品類または漢方薬製剤はいずれの薬剤においても多くの副作用が報告されている。また漢方薬製剤では医薬品との相互作用には十分な注意を要する。これら医薬品類又は漢方薬製剤は、時として重篤な副作用を示し、かつ医師の処方箋を必要とする薬剤であるため手軽に入手し摂取することが困難である。排尿障害は他の疾患に較べて生命に直接影響を及ぼすことがないため、医療機関を訪れることを躊躇する患者が多い。一方疾患の特徴として薬剤は長期に渡り継続して服用することが重要であり、服用を中断すると症状が後戻りするのが一般的である。
【0007】
従って、排尿障害の予防あるいは改善のための薬剤としては、確実に効果が期待でき、手軽に入手でき、かつ長期に渡り安全に服用できる薬剤が望まれる。
【0008】
頻尿・尿失禁の予防または改善を標榜した健康補助食品のひとつとして、ペポカボチャ種子製剤が上市されている。含有成分は種子油を用いたもの、60%アルコール抽出末を用いたもの、あるいはその両者の合剤を用いたものなどである。
【0009】
そのような健康食品としては、例えば、特開2000-290192号公報に、有効成分としてカボチャ種子の乾燥エキスとイソフラボンとを含有し、カボチャ種子の乾燥エキス:イソフラボンの配合割合が99:1〜80:20重量比であることを特徴とする排尿障害治療剤が記載されている(特許文献1)。また、特開2005-343809号公報には、重量比でペポカボチャ抽出物0.1〜1を配合してなる睡眠時における尿意の抑制剤が記載されている(特許文献2)。さらに、特開2001-342142号公報には、(A)クランベリー又はその抽出物及び(B)カボチャ種子又はその抽出物を含有する泌尿器系疾患予防治療用組成物が、尿路感染症及び前立腺肥大症に由来する排尿異常や尿失禁に対する改善作用に優れるだけでなく、胃もたれ等の副作用が軽減し、かつ服用感が良好である旨が記載されている(特許文献3)。
【0010】
代表的な製剤として、株式会社テルヴィス(製造・販売)から乾燥エキス(ペポカボチャ種子の60%エタノール抽出物の乾燥エキス)を使用した製品が上市されている(非特許文献1)。
【0011】
ドイツのコミッションEモノグラフ等では、ペポカボチャ種子が、過敏膀胱(頻尿、切迫性尿失禁、残尿感)、特に女性の排尿障害に有効な薬剤として承認されている(非特許文献2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2000−290192号公報
【特許文献2】特開2005−343809号公報
【特許文献3】特開2001−342142号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】曽我部 仁史、寺戸 隆、薬用ペポカボチャ種子抽出エキスおよび大豆胚芽抽出エキスの混合加工食品の夜間頻尿に対する一般臨床試験、医学と薬学、自然科学社、2001年11月、45巻、5号、p.728−738
【非特許文献2】Mark Blumenthal,Werner Busse,Alicia Goldberg,Joerg Gruenwald,Tara Hall,Chance W.Riggins,Robert S. Rister,Sigrid Klein,"The CompleteGerman Commission E Monographs",Published November 30,RevisedJanuary 17,1991.
【非特許文献3】"TheAmerican Botanical Council",Published incooperation with Integrative Medicine Communications,Boston,Massachusetts1998,Pumpkin seed p.193
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、カボチャ属(Cucurbita)種子を利用して、前立腺肥大症に由来する排尿障害、女性の更年期障害に由来する頻尿・尿失禁や女性の多くに認められる腹圧性尿失禁、男女共通に認められる過活動膀胱や尿路感染症に由来する排尿障害等に対して有効であり、安全かつ長期に渡り継続して服用可能な医薬品、飲料又は食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、泌尿器系疾患に対して確実に効果が期待でき、手軽に入手でき、かつ長期に渡り安全に服用できる組成物をペポカボチャ(Cucurbita pepo)種子から分離、精製することを試みた。その結果、ペポカボチャ(Cucurbita pepo)種子を水抽出した組成物が、意外にも従来報告されている60%エタノール抽出物に較べ有意に強い薬理活性を有するとの知見を得た。
【0016】
本発明は係る知見に基づきなされたものであり、カボチャ属(Cucurbita)種子の水抽出物を有効成分として含有する泌尿器系疾患予防治療用組成物を提供するものである。
【0017】
また、本発明は、袋内に内容物が収納され、水に浸漬することにより内容物から泌尿器系疾患の予防及び/又は治療に有効な水溶性成分を袋外に溶出させるティーバッグであって、該内容物が、カボチャ属(Cucurbita)種子を原料とし、該種子が、粉砕粒度において500μm以下の粒子の占める割合が50重量%以上の粉末である、ティーバッグを提供するものである。
【0018】
また、本発明は、抽出溶媒として水を使用し、カボチャ属(Cucurbita)種子を該抽出溶媒に浸漬することによりカボチャ属(Cucurbita)種子の水抽出物を得る泌尿器系疾患予防治療用組成物の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明組成物は、前立腺肥大症に由来する排尿障害、女性の更年期障害に由来する頻尿・尿失禁、男女を問わず加齢に基づく過活動膀胱等の泌尿器系疾患に対して優れた予防または改善作用を発揮する。また、医薬品、漢方薬等とは異なり副作用が少なく、長期連用が可能である。既存の60%アルコール抽出物に較ベて薬理活性が強いために、少量の服用により高い臨床効果が期待できる。さらに、既存の製法は抽出溶媒に60%アルコールを使用しているが、本発明は抽出に水を使用した新しい抽出方法であり、薬理活性が強く、簡単かつ安価に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】泌尿器系疾患予防治療用組成物の膀胱平滑筋に対する収縮抑制作用を検討した結果を示す図である。
【図2】泌尿器系疾患予防治療用組成物のシストメトログラムにおける排尿延長作用を検討した結果を示す図である。
【図3】泌尿器系疾患予防治療用組成物の投与直後(post)並びに投与30分後(post30min.)のシストメトログラムの排尿延長作用を示す図である。
【図4】製造例1により得られた泌尿器系疾患予防治療用組成物のシストメトログラムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の泌尿器系疾患予防治療用組成物は、カボチャ属(Cucurbita)種子の水抽出物を有効成分として含有するものである。
【0022】
なお、本実施形態において「水」とは、特に断りがない限り、水道水、蒸留水、精製水、イオン交換水、限外ろ過水、逆浸透水、超純水、井戸水のいずれかを意味する。
【0023】
泌尿器系疾患としては、具体的には、例えば、前立腺肥大症に由来する排尿障害、女性の更年期障害に由来する頻尿及び/又は尿失禁や、女性に多く認められる腹圧性尿失禁、男女共通に認められる過活動膀胱や尿路感染症に由来する排尿障害等があり、これらに対して有効である。
【0024】
本発明の泌尿器系疾患予防治療用組成物は、これらの泌尿器系疾患に対して優れた予防及び/又は治療効果を奏し、患者のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を向上させ、精神的、肉体的苦痛を緩和するものである。また、医薬品、漢方薬等とは異なり副作用が少なく、摂取も容易であることから長期連用が可能である。さらに、既存の60%アルコール抽出物に較ベて薬理活性が強いために、少量の服用でも高い臨床効果が期待できる。コストの観点から鑑みても、水で有効成分を抽出できるため、簡易かつ安価に製造できるというメリットもある。
【0025】
カボチャ属(Cucurbita)種子としては、その品種に限定されることはないが、ペポカボチャ(Cucurbita pepo)又は西洋カボチャ(Cucurbita maxima)の種子であることが好ましい。
【0026】
カボチャ属(Cucurbita)種子の水抽出物を得るためには、カボチャ属(Cucurbita)種子を丸ごと使用することもできるが、カボチャ属(Cucurbita)種子の酸化に対する保存安定性と水抽出の容易さを考慮した場合、カボチャ属(Cucurbita)種子から油を採取した後の脂肪含量の低い脱脂カボチャ種子を使用することが好ましい。具体的には、油を取り除いた後の脂肪含量を種子重量の約10重量%以下とすることが好ましく、さらに好ましくは脂肪含量を約1重量%以下に取り除いたカボチャ属(Cucurbita)種子である。
【0027】
また、カボチャ属(Cucurbita)種子の水抽出物を得るためには、種子の形状には限定されない。例えば外皮の薄いカボチャ属(Cucurbita)種子ではそのまま抽出に供してもよく、外皮の厚いものでは二つ割以上に割ったものを使用することもできる。また、カボチャ属(Cucurbita)種子の搾油後に残った搾り粕を使用することもでき、さらにそれを粉砕処理したカボチャ属(Cucurbita)種子粉末を使用することもできる。カボチャ属(Cucurbita)種子中に含まれる油脂の酸化安定性を考慮するとなるべく粒子は粗いほうがよいが、有効成分の抽出効率を考慮すると、ある程度粒子が細かいほうが望ましい。具体的には、粉砕粒度において500μm以下の粒子の占める割合が50重量%以上であることが好ましい。
【0028】
本実施例において使用されるカボチャ属(Cucurbita)種子は、殺菌処理が施されたものであることが好ましい。殺菌処理により、グラム陰性病原菌(例えばサルモネラ菌)を実質的に滅菌することができるため、泌尿器系疾患予防治療用組成物としての安全性を高めることができる。
【0029】
具体的には、例えば、カボチャ属(Cucurbita)種子、脱脂カボチャ種子又はカボチャ種子粉末を、過熱水蒸気殺菌装置により110℃の過熱水蒸気の中を数秒間くぐらせることで殺菌処理を行うことができる。また、マイクロウェーブ殺菌機を用いて殺菌処理をすることもできる。
【0030】
本発明に使用するカボチャ属(Cucurbita)種子、脱脂カボチャ種子又はカボチャ種子粉末は、病原菌対策として、55℃、10分又はこれと同等以上の湿熱下における熱履歴が必要であり、また、水抽出などの製造工程中の微生物増殖対策は、泌尿器系疾患に対する予防及び/又は治療効果活性を低下させないための上限の温度条件として、80℃、30分又はこれと同等条件かこれ以下の湿熱下における熱履歴であることが好ましい。この範囲を超える熱履歴を与えると泌尿器系疾患に対する予防及び/又は治療効果が低下する恐れがある。
【0031】
本発明の泌尿器系疾患予防治療用組成物は水抽出で得られるため、液体のまま利用することもできるが、乾燥処理を行い、乾燥粉末とすることもできる。水抽出物の乾燥には、凍結乾燥、噴霧乾燥いずれの方法も選択できる。
【0032】
本発明の泌尿器系疾患予防治療用組成物の形態としては特に制限はなく、医薬品、飲料又は食品として供することができる。医薬品としては、例えば、本発明の泌尿器系疾患予防治療用組成物を含む散剤、細粒剤、錠剤、被覆錠剤、カプセル剤、シロップ剤、ドリンク剤とすることができる。飲料としては、例えば、本発明の泌尿器系疾患予防治療用組成物を含む缶、ペットボトル、瓶、紙容器などの容器に充填した水分補給飲料や、本発明の泌尿器系疾患予防治療用組成物を不織布等で封入したテイーバッグとすることができる。食品としては、例えば、本発明の泌尿器系疾患予防治療用組成物を含む健康補助食品や食品素材とすることができる。また、本発明の泌尿器系疾患予防治療用組成物には脂肪が含まれているため、例えば、半年以上の賞味期限の長いティーバックに仕立てる場合は、低脂肪であっても密封可能な包装袋に脱酸素剤と共に収容することが好ましい。なお、包装袋は上記ティーバッグを一つ一つ個装するタイプの包装袋でも、複数のティーバッグを収容するタイプの包装袋でもよい。
【0033】
また医薬品、健康補助食品に関わらず、必要に応じて、上記剤型成分にトウモロコシデンプン、乳糖、結晶セルロース、ショ糖脂肪酸エステル等の賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤等を加えることもできる。
【0034】
前記飲料とする場合、嗜好性および機能性を高める目的で、ハト麦、烏龍茶、ハブ茶、サンザシ、麦芽、甜茶、アマドコロ、ギムネマシルベスタ、ベニバナ、ダイダイ、緑茶、玄米、ウーロン茶、昆布、よもぎ、霊芝、クコ、熊笹、柿の葉、シイタケ、ミカンの皮、決明子(えびす草種子)、浜茶、モロヘイヤ、杜仲葉、甘草、びわ葉、バンカ、高麗人参、ルイボス、あまちゃづる、すぎな、ほうじ茶、プーアル茶、金花茶、緑茶抽出物、くちなしの実、生姜、ナツメ、薄荷、月見草、グァバ葉、バナバ葉、カワラケツメイ、エビスグサ、モロヘイヤ、オオバコ、ヨモギ、クコ葉、クワ葉、イチョウ、スイカズラ、カキドオシ、マテ葉、ウラジロガシ、シソ、アーティーチョーク、エキナセア、エルダーフラワー、オレガノ、オレンジピール、オレンジブロッサム、カモミール、カルダモン、クローブ、クワン草、ゲンノショウコ、コンフリー、サフラワー、サマーセイボリー、シジュウム、シナモン、ジャスミン、ジュニパーベリー、ステビア、セージ、セルピルム、セントジョーンズ、ターメリック、タイム、タンポポ、ネトル、ハイビスカス、バジル、パッションフラワー、バニラビーンズ、バレリアン、ヒソップ、フィーバーフュー、フェンネル、ホップ、マージョラム、マリーゴールド、マロウ、ペパーミント、メドウスイート、ヤロウ、ユーカリ、ラベンダー、リコリス、リンデン、レモングラス、レモンバーベナ、レモンバーム、レモンピール、ローズ、ローズヒップス、ローズマリー、ワイルドストロベリー等の一種以上を組み合わせることができる。
【0035】
本発明の泌尿器系疾患予防治療用組成物の成人1日服用量は、固形分換算で500mg〜1000mgが望ましい。また服用回数は食後1〜3回に分けて服用することが推奨される。
【0036】
本発明の泌尿器系疾患予防治療用組成物の製造方法は、抽出溶媒として水を使用し、カボチャ属(Cucurbita)種子を該抽出溶媒に浸漬することによりカボチャ属(Cucurbita)種子の水抽出物を得るものである。
【0037】
従来公知のカボチャ属(Cucurbita)種子の有効成分の抽出方法は、主として脂肪酸(リノール酸、オレイン酸、パルミチン酸)、カロチノイド類、トコフェロール類、Δ−5及びΔ−7フィトステロール類等の親油性画分を抽出するためにエタノール水溶液を抽出溶媒として用いていた。これに対して本発明は、水溶性画分にその有効成分が含まれていることを見出し、水を抽出溶媒として使用し、泌尿器系疾患に対する予防及び/又は治療効果に優れた組成物を製造するものである。
【0038】
内容物の原料である泌尿器系疾患予防治療用組成物の製造に当たっては、搾油後の脱脂カボチャ種子を水溶媒で抽出する。抽出温度は低温から高温(例えば5〜80℃)までの広い範囲が適用出来るが、好ましくは室温(25℃前後)である。内容物原料の大量抽出においては抽出操作は特に限定しない。
【0039】
カボチャ属(Cucurbita)種子又はカボチャ属(Cucurbita)種子粉砕物をティーバッグに包装し水の入ったポットで一定時間抽出する方法においては、好ましくは簡便性のあるティーバッグに包装して熱水又は温水で短時間抽出し飲料とする方法と、水に漬け冷蔵庫などに数時間浸漬し冷水茶飲料とする方法がある。
【0040】
前記抽出溶媒には、さらに塩類を含んでもよい。但し、塩類を加えた水溶液にて抽出した場合は、塩類の濃度によっては脱塩操作によって塩類を除去することが好ましい。
【0041】
その他の事項については、上述した泌尿器系疾患予防治療用組成物で説明した事項と同様である。
【実施例】
【0042】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。
【0043】
1.カボチャ属(Cucurbita)種子の前処理
カボチャ属(Cucurbita)種子として、ペポカボチャ(Cucurbita pepo)種子を使用した。まず、ペポカボチャの種子1kgを破砕した。次に、得られた破砕物に水と少量の食塩を加えて混捏し、140℃で30分加熱した。そして、プレス機で破砕物を加圧し、水とオイルを搾取することにより脱脂カボチャ種子を得た。
【0044】
この脱脂カボチャ種子を乾燥し、粉砕機にかけ、粉砕粒度において500μm以下の粒子の占める割合が50重量%以上の粉末となるように粉末化したものを得た(以下、「低脂肪カボチャ種子粉末」という)。これらの操作により、カボチャ種子の油約320gと低脂肪カボチャ種子粉末430gを得た。この低脂肪カボチャ種子粉末を次の工程に供試した。以降、必要に応じて同様の方法にて低脂肪カボチャ種子粉末を調製した。
【0045】
2.泌尿器系疾患予防治療用組成物の製造
上記1で調製した低脂肪カボチャ種子粉末を下記表1に示す条件で溶媒抽出し、液状の泌尿器系疾患予防治療用組成物を製造した。なお、製造例1では低脂肪カボチャ種子粉末400gから32gの抽出物が得られた。同様に、製造例2および比較例1ではそれぞれ36g、20gの抽出物を得ることができた。製造例3では低脂肪カボチャ種子粉末20kgから抽出物1.5kgを得ることができた。乾燥処理は製造例1、2、および比較例1では凍結乾燥を、製造例3では噴霧乾燥を施した。
【0046】
【表1】

【0047】
3.評価試験
(1) 薬理活性−1(ウサギ膀胱平滑筋標本を用いた評価例)
製造例1の泌尿器系疾患予防治療用組成物及び比較例1の60%エタノール抽出物を被験物質として、下記の要領でウサギ膀胱平滑筋の収縮抑制作用を評価した。
【0048】
評価試験は、排尿障害の医薬品並びに機能性食品素材の薬効評価方法として用いられている膀胱平滑筋標本を使用する方法(食品機能研究ニューズ、第22号、2007年3月19日発行、株式会社メルシヤンクリンテック 環境検査部)を用いた。
【0049】
膀胱平滑筋標本を使用する方法は、ウサギ、ラット、モルモット等の摘出平滑筋(膀胱、回腸)を用いたin vitro試験法であり、膀胱平滑筋の膜表面に存在するムスカリン受容体へのアゴニストに対するアンタゴニストとしての阻害作用を調べるものである。
【0050】
膀胱平滑筋においては副交感神経の活性化に伴い神経終末から放出されるアセチルコリンがムスカリン受容体(M受容体)に結合することにより平滑筋収縮が惹起されるが、本試験はムスカリン受容体作動薬であるカルバコール(Carbachol:アセチルコリンの代替物質)を用いて誘発させた平滑筋収縮に対する収縮抑制を、ムスカリン受容体遮断薬アトロピン(Atropine)の作用を用いて調べるものである。
【0051】
アトロピンはカルバコールによる収縮を用量依存的に抑制し、その濃度―反応曲線を右方に平行移動させる。このアトロピンによる抑制様式をムスカリン受容体遮断による拮抗阻害作用と呼び、アトロピンと同様の作用様式により膀胱平滑筋を弛緩させる物質を抗コリン剤と言う。
【0052】
被検物質が摘出膀胱平滑筋に対してアトロピン同様にカルバコールによる収縮に対して抑制作用を示しその濃度―反応曲線を右方に平行移動させた場合、その被検物質は膀胱平滑筋に対してムスカリン受容体を介したカルバコールによる収縮を拮抗阻害作用により抑制し弛緩したものと推測される。
【0053】
一方、被検物質が膀胱平滑筋に対してカルバコールによる収縮を抑制するがその抑制が完全ではなく、かつ濃度―反応曲線を右方に平行移動させない場合、被験物質は、ムスカリン受容体に対するカルバコールの反応に対し非拮抗的に作用することにより、カルバコールによる収縮を抑制し弛緩させたと推測される。
【0054】
ウサギをsodium pentobarbitalの静脈内投与による麻酔下で放血致死させた後、開腹し注射器で膀胱から尿を吸引し、膀胱を摘出した。摘出した膀胱の周囲の脂肪を注意深く取り除いた後、栄養液中に入れ膀胱体部より標本を作製した。これらの標本に1 gの負荷をかけて懸垂し、安定化するまで約1時間放置した。収縮力はFDピックアップ(TB-611T、日本光電)およびひずみ圧力用アンプ(AP-621G、日本光電)を介してポリグラフ(RM-6000、日本光電)上に等尺性に記録した。
【0055】
カルバコール(CCh:10-8〜3×10-6 M)を累積的に添加し、CCh濃度―収縮反応曲線を作製した。その後栄養液でバス内を3回洗浄し、30分間安定化させた後、CCh濃度―収縮反応曲線を再び作製した。
【0056】
次に、溶媒の生理食塩液をオルガンバス内に添加し、20分間前処置した後、CCh濃度―収縮反応曲線を作製し、これを対照とした。その後、被験物質(6 mg/ml)を添加し、20分間前処置した後、CCh濃度―収縮反応曲線を作製した(n = 5)。
【0057】
対照の、CCh濃度―収縮反応曲線の最大収縮の収縮率100 %とし、被験物質添加後の収縮率(%)を算出し、抑制率=対照100%−被験物質添加後の収縮率(%)として算出した。
【0058】
その結果を図1に示す。抑制率は製造例1の水抽出より得られた泌尿器系疾患予防治療用組成物で平均41.3%、比較例1で得られた60%エタノール抽出物で平均29.4%であり、水抽出で得られた泌尿器系疾患予防治療用組成物は60%エタノール抽出物に勝る高い抑制率を示した。従って、ペポカボチャ(Cucurbita pepo)種子の水抽出物に含まれる親水性成分に、より多くの有効成分が含まれていることが判明した。
【0059】
(2) 薬理活性−2(シストメトログラムによる評価例)
製造例1の泌尿器系疾患予防治療用組成物及び比較例1の60%エタノール抽出物を被験物質として、下記の要領で排尿間隔延長作用を評価した。
【0060】
評価試験は、排尿障害の医薬品並びに機能性食品素材の薬効評価方法として用いられているシストメトログラム/膀胱内圧測定法(医学と薬学、54(3),p339-345,(2005)及びBiomedical Research,p29-33,(2005))を用いた。
【0061】
シストメトログラム/膀胱内圧測定法は、膀胱、尿道、排尿反射中枢を含めた膀胱機能の総合的観察を可能にするので、麻酔動物を用いて広く排尿障害治療薬の薬効評価に用いられる。
【0062】
本試験法は、ラットを麻酔後腹部を切開し、膀胱内圧測定用トランスデューサー及び薬剤注入用ポンプを装着し、被検物質投与前後の膀胱の内圧変化をポリグラフに記録し、膀胱内圧に及ぼす被検物質の作用を経時的に追跡するものである。被検物質が膀胱に作用し膀胱平滑筋に対する刺激を緩和すると、膀胱の内圧は低下し膀胱の蓄尿量は増加する。その結果、排尿間隔は延長し排尿回数は減少する。
【0063】
本試験法により得られる排尿間隔、排尿閾値圧(排尿収縮開始前の内圧)および最大排尿収縮圧(排尿収縮時の最高内圧)を指標に排尿間隔の短縮、排尿閾値圧の低下に対する改善の程度、最大排尿収縮圧に対する影響等を統計解析し、それに基づく試験成績から過活動膀胱に伴う頻尿・尿失禁に対する被検物質の有効性を評価する。
【0064】
ラットにsodium pentobarbital腹腔内投与で麻酔後、下腹部を正中切開して両側の輸尿管にポリエチレンチューブを挿入し、生成される尿を体外へ排出させた。膀胱を露出させ、膀胱頂部から生理的食塩液が充填されたシリコンチューブ付注射針を挿入し、挿入部位を結紮したのちシリコンチューブを体外に導出させた。
【0065】
シリコンチューブはポリエチレンチューブに接続し、三方活栓を介して歪圧力トランジューサーおよび生理的食塩液の充填されたシリンジがセットされたインフュージョンポンプにそれぞれ接続した。接続後、約30分間以上安定化させた。
【0066】
排尿は、3 mL/hrの流速で生理的食塩液を膀胱内に持続注入して惹起させた。持続注入によって得られる膀胱内圧曲線は、歪アンプを介してリニアコーダー上に記録した。被験物質は、溶媒注入開始から15分間排尿パターンを観察し、投与前3回の排尿間隔の差が2分以内に達した場合に10mg/kgを頸静脈より投与した(n=3)。
【0067】
その結果を図2に示す。製造例1の泌尿器系疾患予防治療用組成物では平均で69%の排尿間隔延長作用を示したのに対し、比較例1の60%エタノール抽出物では平均で24%の延長作用となり、製造例1より得られた泌尿器系疾患予防治療用組成物は比較例1で得られた60%エタノール抽出物に勝る高い排尿間隔延長作用を示した。
【0068】
(3) 薬理活性−3(シストメトログラムによる評価例)
製造例1の泌尿器系疾患予防治療用組成物及び比較例1の60%エタノール抽出物を被験物質として、下記の要領で排尿間隔延長作用を評価した。
【0069】
前記(2)と同じ手法を用いて、生理食塩水を0.2%酢酸生理食塩水に変更した低pH刺激頻尿モデルラットで、製造例1の泌尿器系疾患予防治療用組成物を100mg/kg投与した(n=2)。
【0070】
結果を図3に示す。生理食塩水を0.2%酢酸生理食塩水に変更した低pH刺激頻尿モデルラットでは、製造例1の泌尿器系疾患予防治療用組成物を100mg/kg投与したところ、投与直後(post)で平均51.2%の排尿間隔延長作用が認められ、投与30分後(post30min.)で平均33.0%の排尿間隔延長作用が認められた。
【0071】
さらに、排尿閾値圧を投与直後で平均44.3%、投与30分後で平均17.7%上昇させた。また、低下すると残尿増加につながると考えられる排尿収縮圧については影響を及ぼさなかった。
【0072】
よって製造例1の泌尿器系疾患予防治療用組成物は、尿排出時の膀胱収縮圧は低下させずに、蓄尿時の過度の膀胱平滑筋収縮を抑制することが示唆された。
【0073】
収量比較では、製造例1の泌尿器系疾患予防治療用組成物では8.0%、比較例1の60%エタノール抽出物では5.0%と泌尿器系疾患予防治療用組成物の方が高い収率を示した。性状においても、泌尿器系疾患予防治療用組成物の方が60%エタノール抽出物よりもはるかに吸湿性が少なく、扱いが容易であった。
【0074】
(4) 臨床試験例1
上記1で調製したペポカボチャ(Cucurbita
pepo)の低脂肪カボチャ種子粉末5gを不織布からなるティーバッグに入れ、180mlの熱水を注ぎ、30分以上蒸らして低脂肪カボチャ種子粉末の水溶性成分を熱水中に溶出させ、お茶の態様で泌尿器系疾患予防治療用組成物を調製した(ペポカボチャ茶)。そのお茶をそれぞれ夜間の排尿回数が2回以上の過活動膀胱症状(頻尿症状)を呈する年齢65~75才の中高年男性4名に、4日間にわたり、就寝前に全量約180mlを飲用してもらった。
【0075】
その結果、服用1日目から2名は夜間の排尿回数が改善され(夜間の排尿回数が1回以上減少)、他の2名は変化が認められなかった。さらに、服用3日目、4日目では4名とも夜間の排尿回数の改善が確認され、排尿時の尿の切れがよくなる効果も認められた。また本臨床試験に見られる服用方法により、水抽出物による薬効発現が即効性であることも実証された。
【0076】
(5) 臨床試験例2
製造例3で得られた泌尿器系疾患予防治療用組成物を1カプセル中100mg含ませた製剤と、比較例1で得られた60%アルコール抽出物を1カプセル中100mg含ませた製剤を試作した。
【0077】
夜間の排尿回数が2回以上の過活動膀胱症状(頻尿症状)を呈する12名をランダムに6名ずつAグループとBグループに分け、Aグループに対しては製造例3で得られた泌尿器系疾患予防治療用組成物を含む製剤を投与し、Bグループに対しては比較例1で得られた60%アルコール抽出物を含む製剤を投与した。
【0078】
投与量/法は両方共1日当り毎夕食直後5カプセルとした。投与開始後5日間の夜間睡眠時の排尿回数の合計を計測した結果、Aグループの合計は37回(1晩当たり1.23回/人)、Bグループのそれは47回(同1.57回/人)であった。この臨床試験でも製造例3で得られた泌尿器系疾患予防治療用組成物が比較例1で得られた60%アルコール抽出物よりも、頻尿に対して効果が上回っている事が判明した。また、両グループとも、副作用は認められなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カボチャ属(Cucurbita)種子の水抽出物を有効成分として含有する泌尿器系疾患予防治療用組成物。
【請求項2】
前記カボチャ属(Cucurbita)種子がペポカボチャ(Cucurbita pepo)種子である、請求項1に記載の泌尿器系疾患予防治療用組成物。
【請求項3】
前記種子が搾油後の種子である、請求項1又は2に記載の泌尿器系疾患予防治療用組成物。
【請求項4】
前記種子が、粉砕粒度において500μm以下の粒子の占める割合が50重量%以上の粉末である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の泌尿器系疾患予防治療用組成物。
【請求項5】
前記泌尿器系疾患が、前立腺肥大症に由来する排尿障害、女性の更年期障害に由来する頻尿及び/又は尿失禁、過活動膀胱、腹圧性尿失禁、尿路感染症に由来する排尿障害である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の泌尿器系疾患予防治療用組成物。
【請求項6】
医薬品、飲料又は食品である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の泌尿器系疾患予防治療用組成物。
【請求項7】
袋内に内容物が収納され、水に浸漬することにより内容物から泌尿器系疾患の予防及び/又は治療に有効な水溶性成分を袋外に溶出させるティーバッグであって、
該内容物が、カボチャ属(Cucurbita)種子を原料とし、該種子が、粉砕粒度において500μm以下の粒子の占める割合が50重量%以上の粉末である、
ティーバッグ。
【請求項8】
請求項7に記載のティーバッグと、脱酸素剤を収容した、密封可能な包装袋。
【請求項9】
抽出溶媒として水を使用し、カボチャ属(Cucurbita)種子を該抽出溶媒に浸漬することによりカボチャ属(Cucurbita)種子の水抽出物を得る泌尿器系疾患予防治療用組成物の製造方法。
【請求項10】
前記カボチャ属(Cucurbita)種子としてペポカボチャ(Cucurbita pepo)種子を使用する、請求項9に記載の泌尿器系疾患予防治療用組成物の製造方法。
【請求項11】
前記種子の脂肪含量が10重量%以下である、請求項9又は10に記載の泌尿器系疾患予防治療用組成物の製造方法。
【請求項12】
前記種子が、粉砕粒度において500μm以下の粒子の占める割合が50重量%以上の粉末である、請求項9〜11のいずれか1項に記載の泌尿器系疾患予防治療用組成物の製造方法。
【請求項13】
前記泌尿器系疾患が、前立腺肥大症に由来する排尿障害、女性の更年期障害に由来する頻尿及び/又は尿失禁、過活動膀胱、腹圧性尿失禁、尿路感染症に由来する排尿障害である、請求項9〜12のいずれか1項に記載の泌尿器系疾患予防治療用組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−46459(P2012−46459A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−191583(P2010−191583)
【出願日】平成22年8月28日(2010.8.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第3項適用申請有り 第15回 国際食品素材/添加物展・会議 株式会社食品化学新聞社 2010年5月19日〜21日
【出願人】(000101215)アサマ化成株式会社 (37)
【Fターム(参考)】