波長選択スイッチ
【課題】集光レンズの温度変化による膨張及び収縮などで起こる焦点距離の変化を抑えることのできる波長選択スイッチを提供する。
【解決手段】波長多重された光を入射させる少なくとも一つの入力部と、入力部からの光を受光し、この光を分散させる分散素子と、分散素子により波長ごとに分散された分散光を集光する集光要素と、集光要素によって集光された分散光を、波長ごとに独立に偏向可能な複数の反射光学素子を有する光偏向部材と、光偏向部材によって偏向された分散光を受光する少なくとも一つの出力部と、を備え、温度変化に対して、集光要素の膨張による焦点距離の変化を、屈折率の変化による焦点距離の変化によりほぼ相殺する硝材で構成する。
【解決手段】波長多重された光を入射させる少なくとも一つの入力部と、入力部からの光を受光し、この光を分散させる分散素子と、分散素子により波長ごとに分散された分散光を集光する集光要素と、集光要素によって集光された分散光を、波長ごとに独立に偏向可能な複数の反射光学素子を有する光偏向部材と、光偏向部材によって偏向された分散光を受光する少なくとも一つの出力部と、を備え、温度変化に対して、集光要素の膨張による焦点距離の変化を、屈折率の変化による焦点距離の変化によりほぼ相殺する硝材で構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長選択スイッチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
激増するインターネットトラフィックを収容するため、波長分割多重通信(WDM:Wavelength Division Multiplexing)を中核としたネットワークの光化が急ピッチで進んでいる。近年では、任意の波長を任意の方向に切り替え可能とする波長選択スイッチが注目されている。
【0003】
図15、図16は、波長選択スイッチの概念を示す図である。図15は、波長選択スイッチ100を側面から見た図であり、図16は、波長選択スイッチ100を上面から見た図である。
波長選択スイッチ100は、入出力ポートアレイ110、レンズアレイ120、分散素子130、集光レンズ140、及び偏向素子150を備える。入出力ポートアレイ110は、複数のポートにより構成され、各ポートは、入力ポートまたは出力ポートとして機能する。
【0004】
入出力ポートアレイ110の入力ポートから出射した光は、レンズアレイ120の中の対応するレンズを経て、分散素子130によって波長毎に分散され、集光レンズ140によって、偏向素子150上に集光される。偏向素子150は、一般的に複数のMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ミラーで構成されており、MEMSミラーを傾ける事によって、入力ポートから出射された光は、出力ポートに入射する。MEMSミラーは、例えば、光周波数間隔が100GHzの場合、約40個のMEMSミラーが設けられ、光周波数間隔が50GHzの場合は、約80個のMEMSミラーが設けられる。
【0005】
波長選択スイッチ100の性能を示す指標の1つとして透過帯域がある。この透過帯域は各波長に対応したMEMSミラーに集光する光のスポット径ωとMEMSミラー幅Wの比率(W/ω)が大きいほど、また、MEMSミラーの位置に対するスポットのずれが小さいほど、広くなる。
【0006】
透過帯域(透過帯域幅)が広いと、対応可能なビットレートの上限を上げることが可能になる。なぜなら、高ビットレートの光はスペクトル幅が広がるが、透過帯域が広ければ、広がった分のスペクトル幅も透過帯域幅内に収まるからである。また、透過帯域が広いと、波長選択スイッチ100を多段に接続した場合でも、帯域ずれの蓄積量が小さいので、波長選択スイッチ100の多段接続数を増やすことが可能になる。このように、波長選択スイッチ100の透過帯域を広くすることで、良好な伝送特性を確保することが可能である。
【0007】
波長選択スイッチ100を構成する各要素は温度特性を有しており、初期設定時にMEMSミラー上での集光位置をMEMSミラー中心に集光するように一致させたとしても、使用環境等によって温度が変化すると、集光位置がMEMSミラー中心位置から変動してしまい、透過帯域幅が狭くなってしまうという問題がある。
集光位置のずれを補正する方法として、集光レンズ140の一端のみを固定部材によって固定し、その固定部材の線膨張によってずれを補正する方法がある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−249786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1記載の波長選択スイッチにおいては、使用環境等によって温度が変化した場合、集光レンズ140の一端のみを固定している固定部材が膨張及び収縮するだけではなく、集光レンズ140自体も膨張及び収縮してしまう。その場合、集光位置のずれは、固定部材に近い箇所を通る光線の集光位置と遠い箇所を通る光線の集光位置ではずれ量が違うため、補正量も異なってくる。
【0010】
また、集光レンズ140が固定部材によって一端のみ固定した場合ではなく、両端を固定した場合、及び、中央を固定した場合においても、集光レンズ140は使用環境等によって温度が変化すると、膨張及び収縮する。これにより、焦点距離が変化してしまい集光位置のずれが発生してしまう(図17)。ここで、図17は、図16の一部拡大図であって、集光レンズ140が中央固定された場合に、集光レンズ140の形状が温度変化によって140bのように膨張して、温度変化によって焦点距離が変化し、集光位置のずれが発生する様子を示す図である。
【0011】
図17に示すように、偏向素子150における集光位置のずれは、集光レンズ140の中央を通る箇所の光よりも集光レンズ140の端の箇所を通る光ほど、徐々に大きくなる。このように発生したずれに対しては、集光レンズ140を移動させる方法や偏向素子150を移動させただけでは、1つの集光位置のずれのみが補正できるだけで、例えば光周波数間隔が100GHzの場合40個全部を補正することはできない、という問題があった。
【0012】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、集光レンズの温度変化による膨張及び収縮などで起こる焦点距離の変化を抑えることのできる波長選択スイッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明のある態様に係る波長選択スイッチは、波長多重された光を入射させる少なくとも一つの入力部と、入力部からの光を受光し、この光を分散させる分散素子と、分散素子により波長ごとに分散された分散光を集光する集光要素と、集光要素によって集光された分散光を、波長ごとに独立に偏向可能な複数の反射光学素子を有する光偏向部材と、光偏向部材によって偏向された分散光を受光する少なくとも一つの出力部と、を備え、温度変化に対して、集光要素の膨張による焦点距離の変化を、屈折率の変化による焦点距離の変化によりほぼ相殺する硝材で構成することを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る波長選択スイッチは、集光レンズの温度変化による膨張及び収縮などで起こる焦点距離の変化を抑えることができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1実施形態の波長選択スイッチの構成を示す側面図である。
【図2】第1実施形態の波長選択スイッチの構成を示す上面図である。
【図3】第1実施形態のミラーアレイの構成を示す斜視図である。
【図4】X軸方向にミラーが並んだミラーアレイのうち、3つのミラーを抜き出して示す平面図である。
【図5】横軸に周波数、縦軸に出力をとり、透過帯域を示したグラフである。
【図6】SF14で構成した集光レンズについて温度変化に対する焦点距離の変化を示したグラフである。
【図7】常温時及び温度が上昇したときにおける、分散素子からミラーアレイへ向かう光を示す上面図である。
【図8】SF14で構成した集光レンズについて温度変化に対する屈折率の変化を示したグラフである。
【図9】いろいろな材料を集光レンズに用いた場合の温度に対する屈折率の変化を示すグラフである。
【図10】図9に示した材料についての式(2)中の各値の計算結果、及び、式(2)で指定する範囲を満たすか否かの判定結果を示す表である。
【図11】変形例に係る集光レンズの構成を示す上面図である。
【図12】別の変形例に係る集光レンズの構成を示す上面図である。
【図13】図9、図10に対応する材料の線膨張係数を示す表である。
【図14】図9及び図10に対応する様々な材料についての式(3)の各値の計算値及び式(3)の範囲を満たすか否かの判定結果を示す表である。
【図15】波長選択スイッチの概念を示す図であって、波長選択スイッチを側面から見た図である。
【図16】波長選択スイッチの概念を示す図であって、波長選択スイッチを上面から見た図である。
【図17】図16の一部拡大図であって、集光レンズが中央固定された場合に、温度変化によって焦点距離が変化し、集光位置のずれが発生する様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明のある態様に係る波長選択スイッチの実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態により、特許請求の範囲に記載された本発明が限定されるものではない。すなわち、本実施形態で説明される構成の全てが、本発明の必須構成要件であるとは限らない。
図1は、第1実施形態の波長選択スイッチの構成を示す側面図である。図2は、第1実施形態の波長選択スイッチの構成を示す上面図である。
第1実施形態の波長選択スイッチは、光入出力部としての入出力ポート11、レンズアレイ12、光分散手段としての分散素子13、集光素子としての集光レンズ14、及び、光偏向素子アレイとしてのミラーアレイ15を有している。
【0017】
まず、常温時の波長選択スイッチの形態について説明する。
入出力ポート11は、複数の入出力ポートを備え、例えば図1に示すように、4つの入力ポート11a、11b、11c、11dと、1本の出力ポート11eと、が出力ポート11eを中心に第1方向A1にアレイ状に等間隔で並んだ状態で構成される。入出力ポートの本数、入力ポートと出力ポートの並び等はこの状態で限定されるものではない。また、図2では、1つの入力ポートのみから波長多重された光が入力されている様子を簡略化して示しているが、実際は複数の入力ポートから、波長多重された光が入力される。
【0018】
レンズアレイ12は、入出力ポート11を構成する複数のポートにそれぞれ対応した複数のレンズを有している。入力ポート11a、11b、11c、11dから出射した光は、レンズアレイ12を構成するレンズのうち各入力ポートに対応するレンズによって、それぞれがコリメートされた光となり分散素子13の方向へ出射される。
【0019】
分散素子13は、レンズアレイ12によりコリメートされた光を第1方向A1(図1)に直交する第2方向B1(図2)において、波長に応じて角度分散させる。分散素子13に入射する波長多重された光は、各波長に応じて第2方向B1において、互いに異なる角度で進行する。
なお、分散素子13は、図1、図2のような透過型の分散素子のほか、反射型の分散素子を用いても良い。
【0020】
集光レンズ14は、焦点距離f1を有している。分散素子13により分散された各波長の光は、集光レンズ14によって、ミラーアレイ15を構成する複数のミラー15m上にそれぞれ集光する。
ここで、分散素子13と集光レンズ14の間隔は焦点距離f1だけ離れていることが望ましい。なぜなら、分散素子13と集光レンズ14の間隔が焦点距離f1からずれていると、集光レンズ14から出射した各波長の光のミラー15mへの入射角度が波長ごとに異なってしまう為である。つまり、分散素子13と集光レンズ14の間隔がf1であると、集光レンズ14から出射した光は波長ごとに一致した方向にミラーアレイ15のミラー15mに向かって進んでいく。
【0021】
図3は、ミラーアレイ15の構成を示す斜視図である。
ミラーアレイ15は、第2方向B1に配列された複数のミラー15mを有している。各ミラー15mはX軸に平行な軸Xmを中心に角度Xθ、Y軸に平行な軸Ymを中心に角度Yθ、それぞれ独立して回転する事が可能である。ここで、X軸は第2方向B1、Y軸は第1方向A1に対応している。
【0022】
各ミラー15mは、分散素子13によって波長ごとに異なる方向に分散された光にそれぞれ対応し、ミラー15mの中心にそれぞれの光が集光する。ミラー15m上に集光される光は、ミラー15mの反射面に対して斜めに入射し、ミラー15mによって、入射方向とは異なった方向に反射される。
【0023】
ミラーアレイ15は、各ミラー15mの反射面の中心と集光レンズ14との間隔が、f1と一致するように配置されている(図2)。ここで、ミラー15mの反射面の中心は、角度Xθの回転軸Xmと角度Yθの回転軸Ymの交点と略一致することが望ましいが、一致しなくても良い。分散素子13において分散された光の各波長の光の集光位置を結んだ軸は、X軸に平行な軸であり、集光レンズ14の光軸に対して垂直である。図3においては、各波長の光の集光位置を結んだ軸と、回転軸Xmと、は一致する。
【0024】
ミラーアレイ15のミラー15mによって反射された光は広がりを持った光束の状態で集光レンズ14に入射する。各ミラー15mの回転角が同じなので、集光レンズ14に入射した各波長の光はコリメートされて分散素子13上の一点に集まる。
分散素子13によって波長多重されたコリメート光は、レンズアレイ12のレンズのうち、出力ポート11eに対応したレンズ上に入射し、このレンズから出射した光は出力ポート11e上に集光する。
【0025】
次に、波長選択スイッチのミラーと透過帯域の関係を、図4、図5を用いて説明する。図4は、X軸方向にミラーが並んだミラーアレイ15のうち、3つのミラー15m1、15m2、15m3を抜き出して示す平面図である。図5は、横軸に周波数、縦軸に出力をとり、透過帯域を示したグラフである。
【0026】
ミラーアレイ15のミラー上には、分散素子13によって分散され、集光レンズ14によりミラー15m上に集光された光によるビームスポットが形成される。
ミラーアレイ15上におけるビームスポットの位置は、各々の波長に従って変化する。一般に、ミラーアレイ15は、ミラー15mの中心にITUグリッドの波長に一致する波長のビームが集光するように、設計・調整される。つまり、ビームスポットの波長がITUグリッドの波長から離れるに従って、ビームスポットはミラー中心から離れた位置に形成されることになる。すなわち、図4において、ミラー中心mcのビームスポット16aに対して、ビームスポットの波長がITUグリッドの波長から離れると、ミラー中心から離れたビームスポット16b、16cとなる。
ここで、ITUは国際電気通信連合によって定められたグリッド規格である。
【0027】
ミラーを用いた波長選択スイッチの場合、分散素子で分散された各波長の光がミラーアレイのミラー上に集光したときに、ミラー端部に入射するビームスポットの一部がミラーからはみ出すことによって、透過率が減少する。透過帯域を、ITUグリッドに対する透過率が±0.5dBとなる周波数領域(図5)とすると、従来の波長選択スイッチの場合の透過帯域は、ミラー両端で0.5dB分のビームはみだしが許容制限となる。この場合、マイクロミラー幅W、分散方向のビームスポット径ω、及び隣接するマイクロミラーとのマイクロミラー中心間隔Dが決まれば透過帯域は一義的に決まることになる(図4)。
【0028】
ミラーアレイ15は、通常、常温状態で組み立てられる。その際、ミラーの中心にITUグリッドの波長に一致する波長のビームが集光するようにミラーアレイ15は、設計・調整される。しかし、波長選択スイッチは常温時のみ使用されるのではなく、高温時または低温時に使用される可能性があり、その際でも、ミラーの中心にはITUグリッドの波長に一致する波長のビームが集光するようにしなければならない。
【0029】
集光レンズ14は、温度の上昇によって膨張し、温度の低下によって収縮する性質を持つ材質で構成される。図6は、SF14(商標)で構成した集光レンズ14について温度変化に対する焦点距離の変化を示したグラフである。図7は、常温時(通常時)及び温度が上昇したときにおける、分散素子13からミラーアレイ15へ向かう光を示す上面図である。図7においては、常温時と、温度上昇による膨張のみを考慮したとき、の光路の違いを示している。
【0030】
図6に示す実線(黒い三角形を結んだ線)は、集光レンズ14の材質がSF14であり、焦点距離f1が200mmの場合の温度変化とレンズ形状の膨張及び収縮によって生じる焦点距離の変化を表している。レンズ形状の膨張及び収縮による焦点距離の変化に着目すると、温度が上昇すると焦点距離は大きくなっていることが分かる。また、図7は、高温時において、第1実施形態の集光レンズ14の形状の変化に着目した場合(すなわち、集光レンズ14の屈折率が変化していないと仮定した場合)に、ミラーアレイ15のミラー上に集光する光の集光位置が第2方向B1方向にずれる様子を示している。そのずれ量ΔXは、分散素子13から分散された光線の集光レンズ14の光軸を基準とした出射角度をθ、温度変化前の焦点距離をf1、温度変化後の焦点距離をf1’とすると次式(1)で表される。
ΔX=(f1’−f1)tanθ (1)
【0031】
上記ずれ量ΔXは、f1とf1’の差が大きいと大きくなり、また、θが大きいと大きくなる。ここで、分散素子13から分散された光線の集光レンズ14の光軸を基準とした出射角度θはミラーアレイ15の大きさによって定められる値の為、θを自由に小さくする事はできない。従って、ずれ量ΔXを小さくするには、f1とf1’の差を小さくすることが有効である。
【0032】
ここで、上述したとおり、集光レンズ14の屈折率が変化していないと仮定して、レンズ形状の膨張及び収縮による焦点距離の変化に着目して説明した。しかしながら、実際には、集光レンズ14は、温度上昇によって膨張し、温度低下によって収縮する性質を持つだけではなく、温度変化によって屈折率が変化する性質を持っている。図8は、SF14で構成した集光レンズ14について温度変化に対する屈折率の変化を示したグラフである。
【0033】
図8から分かるように、温度が上昇すると集光レンズ14の屈折率は大きくなっている。温度変化によって屈折率が変化すると、それに伴って焦点距離f1も変化する。図6に示す破線(黒い四角形を結んだ線)は、集光レンズ14の材質がSF14であり、焦点距離f1が200mmの場合の温度変化と屈折率の変化によって生じる焦点距離の変化を表している。図6の破線から、集光レンズの屈折率の変化による焦点距離の変化に着目すると、温度が上昇すると集光レンズ14の焦点距離f1が小さくなることが分かる。
【0034】
実際の集光レンズ14は、レンズ形状の膨張及び収縮による焦点距離の変化と、屈折率の変化による焦点距離の変化と、を別々に分離できるものではない。つまり、レンズ形状の膨張及び収縮による焦点距離の変化と、屈折率の変化による焦点距離の変化と、を合算したものが、実際の集光レンズ14の焦点距離の変化を示すものである。
図6の一点鎖線(黒い丸を結んだ線)は、温度変化によって生じる、集光レンズ14の膨張及び収縮による焦点距離の変化(図6の実線)と、屈折率の変化による焦点距離の変化(図6の破線)と、を合わせて示している。この一点鎖線が、実際の集光レンズ14の温度変化に対する焦点距離の関係を示している。
そして、この一点鎖線から、温度変化して集光レンズ14の形状が膨張及び収縮して発生した焦点距離の変化を、温度変化による屈折率の変化によって生じる焦点距離の変化で打ち消すことによって、温度が変化しても焦点距離がほぼ一定となることが分かる。さらに、上式(1)において、f1≒f1’であるためΔX≒0となり、ミラーアレイ15のミラー上での光の集光位置は温度変化が発生してもずれない。このように、集光レンズ14は温度変化によって、レンズ形状も変化するが、屈折率も変化する。そして、集光レンズ14の焦点距離の値は、温度変化によって様々な変化を示す。ここで、温度が変化しても焦点距離をほぼ一定にするには以下の式(2)を満たすことが好ましい。
−2<(df1a/dT)/(df1b/dT)<0 (2)
【0035】
上式(2)において、df1a/dTは温度変化に対する屈折率変化による集光レンズ14の焦点距離の変化であり、df1b/dTは温度変化に対する形状変化による集光レンズ14の焦点距離の変化である。
図9は、いろいろな材料を集光レンズ14に用いた場合の温度に対する屈折率の変化を示すグラフである。図9の縦軸は、測定温度における屈折率ntと20°Cにおける屈折率n20との差である。図9に示すように、集光レンズ14に用いられる材料は、SF14のような温度上昇によって屈折率が大きくなる性質を持つ材料ばかりではない。すなわち、温度上昇によって、屈折率が小さくなる材料や、変化が無い、又は変化が緩い材料等、様々な特性を示す材料が存在する。なお、図9中に示す材料名は、シリコン以外はいずれも商標である。
【0036】
図10は、図9に示した材料についての式(2)中の各値の計算結果、及び、式(2)で指定する範囲を満たすか否かの判定結果を示す表である。図10の判定結果において、○印は式(2)の条件を満たし、×印は式(2)の条件を満たしていないことをそれぞれ示す。
図10に示すように、材料によって計算結果は様々な値を示している。式(2)の条件を満たす材料で構成した集光レンズ14を用いれば、焦点距離の変化をほぼ一定にすることができ、ΔX≒0にする事が可能となる。
【0037】
ここで、集光レンズ14は、単レンズの正レンズを用いて説明してきたが、これに限定される物ではない。例えば、図11のような接合レンズタイプの集光レンズ24や、図12のような2枚のレンズを使用したタイプの集光レンズ34や、図示してはいないが複数のレンズを使用したタイプを用いても良い。このような接合レンズや複数のレンズで構成された集光レンズ14であっても、式(2)を満たす事ができれば、焦点距離の変化をほぼ一定にすることができ、ΔX≒0にする事が可能となる。なお、集光レンズが複数のレンズにより構成される場合、集光レンズの焦点距離とは、集光レンズを構成する複数のレンズ全体の合成の焦点距離を意味する。ここで、図11は、変形例に係る集光レンズ24の構成を示す上面図である。図12は、別の変形例に係る集光レンズ34の構成を示す上面図である。
【0038】
温度変化によって集光レンズ14の形状が膨張及び収縮する変化量ΔLは、線膨張係数αを用いて次の式(3)によって求められる。線膨張係数αの値は、図13に示すように、材質によって様々な値を示している。図13は、図9、図10に対応する材料の線膨張係数を示す表である。
ΔL=αΔTL (3)
ここで、ΔTは温度差、Lは基準長さである。基準長さとは、例えば、温度変化する前の集光レンズ14の光軸上の肉厚や、温度変化する前の集光レンズ14の曲率半径などが挙げられる。
【0039】
集光レンズ14が1つのレンズで構成されている場合、集光レンズ14の温度変化に対する屈折率変化をdn/dtで表わし、集光レンズ14の材質として次式(4)のような関係式を満たすような材質を選定するとΔX≒0にする事が可能となる。
0<(dn/dT)/α<1 (4)
【0040】
ここで、上式(2)〜(4)の物理的な意味について説明する。
レンズの焦点距離fは、屈折率n、レンズ厚さd、及び曲率半径Rによって求めることができ、この3つの値が温度によって変化すれば、焦点距離も変化する。式(2)のdf1a/dTは、ある温度における集光レンズ14の屈折率変化に対する焦点距離の変化であるため、式(4)のdn/dTに対応する。
【0041】
また、式(2)のdf1b/dTは、ある温度における集光レンズ14の形状変化に対する焦点距離の変化であって、以下の式(7)、(8)から算出でき、dR/dT、dd/dTに対応する。なお、dR/dTとは、温度変化に対するレンズの曲率半径の変化を意味し、dd/dTは、温度変化に対するレンズ厚さの変化を意味する。
dR=R・α・ΔT (7)
dd=d・α・ΔT (8)
したがって、焦点距離の変化df1b/dTは線膨張係数αによって求める事ができる。
このように、式(2)から式(4)を式展開で求めなくとも、df1a/dTがdn/dTに対応し、df1b/dTがαに対応することが分かる。
【0042】
図14は、図9及び図10に対応する様々な材料についての式(3)の各値の計算値及び式(3)の範囲を満たすか否かの判定結果を示す表である。図14に示すように、式(3)の値は材質によって様々な値を示している。図14の判定結果において、○印は式(3)の条件を満たし、×印は式(3)の条件を満たしていないことをそれぞれ示す。式(3)の条件に入っている材質を選定することにより、焦点距離の変化をほぼ一定にすることができ、ΔX≒0にする事が可能となる。
【0043】
集光レンズ14に複数のレンズを使用した場合、単レンズの場合と同様に、それぞれの集光レンズを構成しているレンズが正の焦点距離を持っているときは、レンズの材質を式(4)の関係式を満たした材質を選定すると、焦点距離の変化をほぼ一定にすることができ、ΔX≒0にする事が可能となる。
また、複数のレンズの中に負の焦点距離を持つレンズが含まれているときは、負レンズの材質を次式(5)の関係式を満たした材質を選定する事で、単レンズタイプの集光レンズ14の場合と同様に、焦点距離の変化をほぼ一定にすることができ、ΔX≒0にする事が可能となる。
−1<(dn/dT)/α<0 (5)
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上のように、本発明に係る波長選択スイッチは、温度変化による集光レンズの形状変化で起きる焦点距離の変化の影響を抑えたい場合に有用である。
【符号の説明】
【0045】
11 入出力ポート
11a、11b、11c、11d 入力ポート
11e 出力ポート
12 レンズアレイ
13 分散素子
14 集光レンズ
15 ミラーアレイ
15m ミラー
16a、16b、16c ビームスポット
24 集光レンズ
34 集光レンズ
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長選択スイッチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
激増するインターネットトラフィックを収容するため、波長分割多重通信(WDM:Wavelength Division Multiplexing)を中核としたネットワークの光化が急ピッチで進んでいる。近年では、任意の波長を任意の方向に切り替え可能とする波長選択スイッチが注目されている。
【0003】
図15、図16は、波長選択スイッチの概念を示す図である。図15は、波長選択スイッチ100を側面から見た図であり、図16は、波長選択スイッチ100を上面から見た図である。
波長選択スイッチ100は、入出力ポートアレイ110、レンズアレイ120、分散素子130、集光レンズ140、及び偏向素子150を備える。入出力ポートアレイ110は、複数のポートにより構成され、各ポートは、入力ポートまたは出力ポートとして機能する。
【0004】
入出力ポートアレイ110の入力ポートから出射した光は、レンズアレイ120の中の対応するレンズを経て、分散素子130によって波長毎に分散され、集光レンズ140によって、偏向素子150上に集光される。偏向素子150は、一般的に複数のMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ミラーで構成されており、MEMSミラーを傾ける事によって、入力ポートから出射された光は、出力ポートに入射する。MEMSミラーは、例えば、光周波数間隔が100GHzの場合、約40個のMEMSミラーが設けられ、光周波数間隔が50GHzの場合は、約80個のMEMSミラーが設けられる。
【0005】
波長選択スイッチ100の性能を示す指標の1つとして透過帯域がある。この透過帯域は各波長に対応したMEMSミラーに集光する光のスポット径ωとMEMSミラー幅Wの比率(W/ω)が大きいほど、また、MEMSミラーの位置に対するスポットのずれが小さいほど、広くなる。
【0006】
透過帯域(透過帯域幅)が広いと、対応可能なビットレートの上限を上げることが可能になる。なぜなら、高ビットレートの光はスペクトル幅が広がるが、透過帯域が広ければ、広がった分のスペクトル幅も透過帯域幅内に収まるからである。また、透過帯域が広いと、波長選択スイッチ100を多段に接続した場合でも、帯域ずれの蓄積量が小さいので、波長選択スイッチ100の多段接続数を増やすことが可能になる。このように、波長選択スイッチ100の透過帯域を広くすることで、良好な伝送特性を確保することが可能である。
【0007】
波長選択スイッチ100を構成する各要素は温度特性を有しており、初期設定時にMEMSミラー上での集光位置をMEMSミラー中心に集光するように一致させたとしても、使用環境等によって温度が変化すると、集光位置がMEMSミラー中心位置から変動してしまい、透過帯域幅が狭くなってしまうという問題がある。
集光位置のずれを補正する方法として、集光レンズ140の一端のみを固定部材によって固定し、その固定部材の線膨張によってずれを補正する方法がある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−249786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1記載の波長選択スイッチにおいては、使用環境等によって温度が変化した場合、集光レンズ140の一端のみを固定している固定部材が膨張及び収縮するだけではなく、集光レンズ140自体も膨張及び収縮してしまう。その場合、集光位置のずれは、固定部材に近い箇所を通る光線の集光位置と遠い箇所を通る光線の集光位置ではずれ量が違うため、補正量も異なってくる。
【0010】
また、集光レンズ140が固定部材によって一端のみ固定した場合ではなく、両端を固定した場合、及び、中央を固定した場合においても、集光レンズ140は使用環境等によって温度が変化すると、膨張及び収縮する。これにより、焦点距離が変化してしまい集光位置のずれが発生してしまう(図17)。ここで、図17は、図16の一部拡大図であって、集光レンズ140が中央固定された場合に、集光レンズ140の形状が温度変化によって140bのように膨張して、温度変化によって焦点距離が変化し、集光位置のずれが発生する様子を示す図である。
【0011】
図17に示すように、偏向素子150における集光位置のずれは、集光レンズ140の中央を通る箇所の光よりも集光レンズ140の端の箇所を通る光ほど、徐々に大きくなる。このように発生したずれに対しては、集光レンズ140を移動させる方法や偏向素子150を移動させただけでは、1つの集光位置のずれのみが補正できるだけで、例えば光周波数間隔が100GHzの場合40個全部を補正することはできない、という問題があった。
【0012】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、集光レンズの温度変化による膨張及び収縮などで起こる焦点距離の変化を抑えることのできる波長選択スイッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明のある態様に係る波長選択スイッチは、波長多重された光を入射させる少なくとも一つの入力部と、入力部からの光を受光し、この光を分散させる分散素子と、分散素子により波長ごとに分散された分散光を集光する集光要素と、集光要素によって集光された分散光を、波長ごとに独立に偏向可能な複数の反射光学素子を有する光偏向部材と、光偏向部材によって偏向された分散光を受光する少なくとも一つの出力部と、を備え、温度変化に対して、集光要素の膨張による焦点距離の変化を、屈折率の変化による焦点距離の変化によりほぼ相殺する硝材で構成することを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る波長選択スイッチは、集光レンズの温度変化による膨張及び収縮などで起こる焦点距離の変化を抑えることができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1実施形態の波長選択スイッチの構成を示す側面図である。
【図2】第1実施形態の波長選択スイッチの構成を示す上面図である。
【図3】第1実施形態のミラーアレイの構成を示す斜視図である。
【図4】X軸方向にミラーが並んだミラーアレイのうち、3つのミラーを抜き出して示す平面図である。
【図5】横軸に周波数、縦軸に出力をとり、透過帯域を示したグラフである。
【図6】SF14で構成した集光レンズについて温度変化に対する焦点距離の変化を示したグラフである。
【図7】常温時及び温度が上昇したときにおける、分散素子からミラーアレイへ向かう光を示す上面図である。
【図8】SF14で構成した集光レンズについて温度変化に対する屈折率の変化を示したグラフである。
【図9】いろいろな材料を集光レンズに用いた場合の温度に対する屈折率の変化を示すグラフである。
【図10】図9に示した材料についての式(2)中の各値の計算結果、及び、式(2)で指定する範囲を満たすか否かの判定結果を示す表である。
【図11】変形例に係る集光レンズの構成を示す上面図である。
【図12】別の変形例に係る集光レンズの構成を示す上面図である。
【図13】図9、図10に対応する材料の線膨張係数を示す表である。
【図14】図9及び図10に対応する様々な材料についての式(3)の各値の計算値及び式(3)の範囲を満たすか否かの判定結果を示す表である。
【図15】波長選択スイッチの概念を示す図であって、波長選択スイッチを側面から見た図である。
【図16】波長選択スイッチの概念を示す図であって、波長選択スイッチを上面から見た図である。
【図17】図16の一部拡大図であって、集光レンズが中央固定された場合に、温度変化によって焦点距離が変化し、集光位置のずれが発生する様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明のある態様に係る波長選択スイッチの実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態により、特許請求の範囲に記載された本発明が限定されるものではない。すなわち、本実施形態で説明される構成の全てが、本発明の必須構成要件であるとは限らない。
図1は、第1実施形態の波長選択スイッチの構成を示す側面図である。図2は、第1実施形態の波長選択スイッチの構成を示す上面図である。
第1実施形態の波長選択スイッチは、光入出力部としての入出力ポート11、レンズアレイ12、光分散手段としての分散素子13、集光素子としての集光レンズ14、及び、光偏向素子アレイとしてのミラーアレイ15を有している。
【0017】
まず、常温時の波長選択スイッチの形態について説明する。
入出力ポート11は、複数の入出力ポートを備え、例えば図1に示すように、4つの入力ポート11a、11b、11c、11dと、1本の出力ポート11eと、が出力ポート11eを中心に第1方向A1にアレイ状に等間隔で並んだ状態で構成される。入出力ポートの本数、入力ポートと出力ポートの並び等はこの状態で限定されるものではない。また、図2では、1つの入力ポートのみから波長多重された光が入力されている様子を簡略化して示しているが、実際は複数の入力ポートから、波長多重された光が入力される。
【0018】
レンズアレイ12は、入出力ポート11を構成する複数のポートにそれぞれ対応した複数のレンズを有している。入力ポート11a、11b、11c、11dから出射した光は、レンズアレイ12を構成するレンズのうち各入力ポートに対応するレンズによって、それぞれがコリメートされた光となり分散素子13の方向へ出射される。
【0019】
分散素子13は、レンズアレイ12によりコリメートされた光を第1方向A1(図1)に直交する第2方向B1(図2)において、波長に応じて角度分散させる。分散素子13に入射する波長多重された光は、各波長に応じて第2方向B1において、互いに異なる角度で進行する。
なお、分散素子13は、図1、図2のような透過型の分散素子のほか、反射型の分散素子を用いても良い。
【0020】
集光レンズ14は、焦点距離f1を有している。分散素子13により分散された各波長の光は、集光レンズ14によって、ミラーアレイ15を構成する複数のミラー15m上にそれぞれ集光する。
ここで、分散素子13と集光レンズ14の間隔は焦点距離f1だけ離れていることが望ましい。なぜなら、分散素子13と集光レンズ14の間隔が焦点距離f1からずれていると、集光レンズ14から出射した各波長の光のミラー15mへの入射角度が波長ごとに異なってしまう為である。つまり、分散素子13と集光レンズ14の間隔がf1であると、集光レンズ14から出射した光は波長ごとに一致した方向にミラーアレイ15のミラー15mに向かって進んでいく。
【0021】
図3は、ミラーアレイ15の構成を示す斜視図である。
ミラーアレイ15は、第2方向B1に配列された複数のミラー15mを有している。各ミラー15mはX軸に平行な軸Xmを中心に角度Xθ、Y軸に平行な軸Ymを中心に角度Yθ、それぞれ独立して回転する事が可能である。ここで、X軸は第2方向B1、Y軸は第1方向A1に対応している。
【0022】
各ミラー15mは、分散素子13によって波長ごとに異なる方向に分散された光にそれぞれ対応し、ミラー15mの中心にそれぞれの光が集光する。ミラー15m上に集光される光は、ミラー15mの反射面に対して斜めに入射し、ミラー15mによって、入射方向とは異なった方向に反射される。
【0023】
ミラーアレイ15は、各ミラー15mの反射面の中心と集光レンズ14との間隔が、f1と一致するように配置されている(図2)。ここで、ミラー15mの反射面の中心は、角度Xθの回転軸Xmと角度Yθの回転軸Ymの交点と略一致することが望ましいが、一致しなくても良い。分散素子13において分散された光の各波長の光の集光位置を結んだ軸は、X軸に平行な軸であり、集光レンズ14の光軸に対して垂直である。図3においては、各波長の光の集光位置を結んだ軸と、回転軸Xmと、は一致する。
【0024】
ミラーアレイ15のミラー15mによって反射された光は広がりを持った光束の状態で集光レンズ14に入射する。各ミラー15mの回転角が同じなので、集光レンズ14に入射した各波長の光はコリメートされて分散素子13上の一点に集まる。
分散素子13によって波長多重されたコリメート光は、レンズアレイ12のレンズのうち、出力ポート11eに対応したレンズ上に入射し、このレンズから出射した光は出力ポート11e上に集光する。
【0025】
次に、波長選択スイッチのミラーと透過帯域の関係を、図4、図5を用いて説明する。図4は、X軸方向にミラーが並んだミラーアレイ15のうち、3つのミラー15m1、15m2、15m3を抜き出して示す平面図である。図5は、横軸に周波数、縦軸に出力をとり、透過帯域を示したグラフである。
【0026】
ミラーアレイ15のミラー上には、分散素子13によって分散され、集光レンズ14によりミラー15m上に集光された光によるビームスポットが形成される。
ミラーアレイ15上におけるビームスポットの位置は、各々の波長に従って変化する。一般に、ミラーアレイ15は、ミラー15mの中心にITUグリッドの波長に一致する波長のビームが集光するように、設計・調整される。つまり、ビームスポットの波長がITUグリッドの波長から離れるに従って、ビームスポットはミラー中心から離れた位置に形成されることになる。すなわち、図4において、ミラー中心mcのビームスポット16aに対して、ビームスポットの波長がITUグリッドの波長から離れると、ミラー中心から離れたビームスポット16b、16cとなる。
ここで、ITUは国際電気通信連合によって定められたグリッド規格である。
【0027】
ミラーを用いた波長選択スイッチの場合、分散素子で分散された各波長の光がミラーアレイのミラー上に集光したときに、ミラー端部に入射するビームスポットの一部がミラーからはみ出すことによって、透過率が減少する。透過帯域を、ITUグリッドに対する透過率が±0.5dBとなる周波数領域(図5)とすると、従来の波長選択スイッチの場合の透過帯域は、ミラー両端で0.5dB分のビームはみだしが許容制限となる。この場合、マイクロミラー幅W、分散方向のビームスポット径ω、及び隣接するマイクロミラーとのマイクロミラー中心間隔Dが決まれば透過帯域は一義的に決まることになる(図4)。
【0028】
ミラーアレイ15は、通常、常温状態で組み立てられる。その際、ミラーの中心にITUグリッドの波長に一致する波長のビームが集光するようにミラーアレイ15は、設計・調整される。しかし、波長選択スイッチは常温時のみ使用されるのではなく、高温時または低温時に使用される可能性があり、その際でも、ミラーの中心にはITUグリッドの波長に一致する波長のビームが集光するようにしなければならない。
【0029】
集光レンズ14は、温度の上昇によって膨張し、温度の低下によって収縮する性質を持つ材質で構成される。図6は、SF14(商標)で構成した集光レンズ14について温度変化に対する焦点距離の変化を示したグラフである。図7は、常温時(通常時)及び温度が上昇したときにおける、分散素子13からミラーアレイ15へ向かう光を示す上面図である。図7においては、常温時と、温度上昇による膨張のみを考慮したとき、の光路の違いを示している。
【0030】
図6に示す実線(黒い三角形を結んだ線)は、集光レンズ14の材質がSF14であり、焦点距離f1が200mmの場合の温度変化とレンズ形状の膨張及び収縮によって生じる焦点距離の変化を表している。レンズ形状の膨張及び収縮による焦点距離の変化に着目すると、温度が上昇すると焦点距離は大きくなっていることが分かる。また、図7は、高温時において、第1実施形態の集光レンズ14の形状の変化に着目した場合(すなわち、集光レンズ14の屈折率が変化していないと仮定した場合)に、ミラーアレイ15のミラー上に集光する光の集光位置が第2方向B1方向にずれる様子を示している。そのずれ量ΔXは、分散素子13から分散された光線の集光レンズ14の光軸を基準とした出射角度をθ、温度変化前の焦点距離をf1、温度変化後の焦点距離をf1’とすると次式(1)で表される。
ΔX=(f1’−f1)tanθ (1)
【0031】
上記ずれ量ΔXは、f1とf1’の差が大きいと大きくなり、また、θが大きいと大きくなる。ここで、分散素子13から分散された光線の集光レンズ14の光軸を基準とした出射角度θはミラーアレイ15の大きさによって定められる値の為、θを自由に小さくする事はできない。従って、ずれ量ΔXを小さくするには、f1とf1’の差を小さくすることが有効である。
【0032】
ここで、上述したとおり、集光レンズ14の屈折率が変化していないと仮定して、レンズ形状の膨張及び収縮による焦点距離の変化に着目して説明した。しかしながら、実際には、集光レンズ14は、温度上昇によって膨張し、温度低下によって収縮する性質を持つだけではなく、温度変化によって屈折率が変化する性質を持っている。図8は、SF14で構成した集光レンズ14について温度変化に対する屈折率の変化を示したグラフである。
【0033】
図8から分かるように、温度が上昇すると集光レンズ14の屈折率は大きくなっている。温度変化によって屈折率が変化すると、それに伴って焦点距離f1も変化する。図6に示す破線(黒い四角形を結んだ線)は、集光レンズ14の材質がSF14であり、焦点距離f1が200mmの場合の温度変化と屈折率の変化によって生じる焦点距離の変化を表している。図6の破線から、集光レンズの屈折率の変化による焦点距離の変化に着目すると、温度が上昇すると集光レンズ14の焦点距離f1が小さくなることが分かる。
【0034】
実際の集光レンズ14は、レンズ形状の膨張及び収縮による焦点距離の変化と、屈折率の変化による焦点距離の変化と、を別々に分離できるものではない。つまり、レンズ形状の膨張及び収縮による焦点距離の変化と、屈折率の変化による焦点距離の変化と、を合算したものが、実際の集光レンズ14の焦点距離の変化を示すものである。
図6の一点鎖線(黒い丸を結んだ線)は、温度変化によって生じる、集光レンズ14の膨張及び収縮による焦点距離の変化(図6の実線)と、屈折率の変化による焦点距離の変化(図6の破線)と、を合わせて示している。この一点鎖線が、実際の集光レンズ14の温度変化に対する焦点距離の関係を示している。
そして、この一点鎖線から、温度変化して集光レンズ14の形状が膨張及び収縮して発生した焦点距離の変化を、温度変化による屈折率の変化によって生じる焦点距離の変化で打ち消すことによって、温度が変化しても焦点距離がほぼ一定となることが分かる。さらに、上式(1)において、f1≒f1’であるためΔX≒0となり、ミラーアレイ15のミラー上での光の集光位置は温度変化が発生してもずれない。このように、集光レンズ14は温度変化によって、レンズ形状も変化するが、屈折率も変化する。そして、集光レンズ14の焦点距離の値は、温度変化によって様々な変化を示す。ここで、温度が変化しても焦点距離をほぼ一定にするには以下の式(2)を満たすことが好ましい。
−2<(df1a/dT)/(df1b/dT)<0 (2)
【0035】
上式(2)において、df1a/dTは温度変化に対する屈折率変化による集光レンズ14の焦点距離の変化であり、df1b/dTは温度変化に対する形状変化による集光レンズ14の焦点距離の変化である。
図9は、いろいろな材料を集光レンズ14に用いた場合の温度に対する屈折率の変化を示すグラフである。図9の縦軸は、測定温度における屈折率ntと20°Cにおける屈折率n20との差である。図9に示すように、集光レンズ14に用いられる材料は、SF14のような温度上昇によって屈折率が大きくなる性質を持つ材料ばかりではない。すなわち、温度上昇によって、屈折率が小さくなる材料や、変化が無い、又は変化が緩い材料等、様々な特性を示す材料が存在する。なお、図9中に示す材料名は、シリコン以外はいずれも商標である。
【0036】
図10は、図9に示した材料についての式(2)中の各値の計算結果、及び、式(2)で指定する範囲を満たすか否かの判定結果を示す表である。図10の判定結果において、○印は式(2)の条件を満たし、×印は式(2)の条件を満たしていないことをそれぞれ示す。
図10に示すように、材料によって計算結果は様々な値を示している。式(2)の条件を満たす材料で構成した集光レンズ14を用いれば、焦点距離の変化をほぼ一定にすることができ、ΔX≒0にする事が可能となる。
【0037】
ここで、集光レンズ14は、単レンズの正レンズを用いて説明してきたが、これに限定される物ではない。例えば、図11のような接合レンズタイプの集光レンズ24や、図12のような2枚のレンズを使用したタイプの集光レンズ34や、図示してはいないが複数のレンズを使用したタイプを用いても良い。このような接合レンズや複数のレンズで構成された集光レンズ14であっても、式(2)を満たす事ができれば、焦点距離の変化をほぼ一定にすることができ、ΔX≒0にする事が可能となる。なお、集光レンズが複数のレンズにより構成される場合、集光レンズの焦点距離とは、集光レンズを構成する複数のレンズ全体の合成の焦点距離を意味する。ここで、図11は、変形例に係る集光レンズ24の構成を示す上面図である。図12は、別の変形例に係る集光レンズ34の構成を示す上面図である。
【0038】
温度変化によって集光レンズ14の形状が膨張及び収縮する変化量ΔLは、線膨張係数αを用いて次の式(3)によって求められる。線膨張係数αの値は、図13に示すように、材質によって様々な値を示している。図13は、図9、図10に対応する材料の線膨張係数を示す表である。
ΔL=αΔTL (3)
ここで、ΔTは温度差、Lは基準長さである。基準長さとは、例えば、温度変化する前の集光レンズ14の光軸上の肉厚や、温度変化する前の集光レンズ14の曲率半径などが挙げられる。
【0039】
集光レンズ14が1つのレンズで構成されている場合、集光レンズ14の温度変化に対する屈折率変化をdn/dtで表わし、集光レンズ14の材質として次式(4)のような関係式を満たすような材質を選定するとΔX≒0にする事が可能となる。
0<(dn/dT)/α<1 (4)
【0040】
ここで、上式(2)〜(4)の物理的な意味について説明する。
レンズの焦点距離fは、屈折率n、レンズ厚さd、及び曲率半径Rによって求めることができ、この3つの値が温度によって変化すれば、焦点距離も変化する。式(2)のdf1a/dTは、ある温度における集光レンズ14の屈折率変化に対する焦点距離の変化であるため、式(4)のdn/dTに対応する。
【0041】
また、式(2)のdf1b/dTは、ある温度における集光レンズ14の形状変化に対する焦点距離の変化であって、以下の式(7)、(8)から算出でき、dR/dT、dd/dTに対応する。なお、dR/dTとは、温度変化に対するレンズの曲率半径の変化を意味し、dd/dTは、温度変化に対するレンズ厚さの変化を意味する。
dR=R・α・ΔT (7)
dd=d・α・ΔT (8)
したがって、焦点距離の変化df1b/dTは線膨張係数αによって求める事ができる。
このように、式(2)から式(4)を式展開で求めなくとも、df1a/dTがdn/dTに対応し、df1b/dTがαに対応することが分かる。
【0042】
図14は、図9及び図10に対応する様々な材料についての式(3)の各値の計算値及び式(3)の範囲を満たすか否かの判定結果を示す表である。図14に示すように、式(3)の値は材質によって様々な値を示している。図14の判定結果において、○印は式(3)の条件を満たし、×印は式(3)の条件を満たしていないことをそれぞれ示す。式(3)の条件に入っている材質を選定することにより、焦点距離の変化をほぼ一定にすることができ、ΔX≒0にする事が可能となる。
【0043】
集光レンズ14に複数のレンズを使用した場合、単レンズの場合と同様に、それぞれの集光レンズを構成しているレンズが正の焦点距離を持っているときは、レンズの材質を式(4)の関係式を満たした材質を選定すると、焦点距離の変化をほぼ一定にすることができ、ΔX≒0にする事が可能となる。
また、複数のレンズの中に負の焦点距離を持つレンズが含まれているときは、負レンズの材質を次式(5)の関係式を満たした材質を選定する事で、単レンズタイプの集光レンズ14の場合と同様に、焦点距離の変化をほぼ一定にすることができ、ΔX≒0にする事が可能となる。
−1<(dn/dT)/α<0 (5)
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上のように、本発明に係る波長選択スイッチは、温度変化による集光レンズの形状変化で起きる焦点距離の変化の影響を抑えたい場合に有用である。
【符号の説明】
【0045】
11 入出力ポート
11a、11b、11c、11d 入力ポート
11e 出力ポート
12 レンズアレイ
13 分散素子
14 集光レンズ
15 ミラーアレイ
15m ミラー
16a、16b、16c ビームスポット
24 集光レンズ
34 集光レンズ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長多重された光を入射させる少なくとも一つの入力部と、
前記入力部からの前記光を受光し、前記光を分散させる分散素子と、
前記分散素子により波長ごとに分散された分散光を集光する集光要素と、
前記集光要素によって集光された前記分散光を、前記波長ごとに独立に偏向可能な複数の反射光学素子を有する光偏向部材と、
前記光偏向部材によって偏向された前記分散光を受光する少なくとも一つの出力部と、を備え、
温度変化に対して、前記集光要素の膨張による焦点距離の変化を、屈折率の変化による焦点距離の変化によりほぼ相殺する硝材で構成することを特徴とする波長選択スイッチ。
【請求項2】
前記集光要素の温度変化に対する屈折率変化による焦点距離の変化がdf1a/dT、
前記集光要素の温度変化に対する形状変化による焦点距離の変化がdf1b/dT、であるときに、次式(2)を満足することを特徴とする請求項1に記載の波長選択スイッチ。
−2<(df1a/dT)/(df1b/dT)<0 (2)
【請求項3】
前記集光要素は、少なくとも1つの正レンズを含み、
前記正レンズの温度変化に対する屈折率変化がdn/dT、前記正レンズの線膨張係数がα、であるとき、次式(4)を満足することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の波長選択スイッチ。
0<(dn/dT)/α<1 (4)
【請求項4】
前記集光要素は、少なくとも1つの負レンズを含み、
前記負レンズの温度変化に対する屈折率変化がdn/dT、前記負レンズの線膨張係数がα、であるとき、次式(5)を満足することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の波長選択スイッチ。
−1<(dn/dT)/α<0 (5)
【請求項1】
波長多重された光を入射させる少なくとも一つの入力部と、
前記入力部からの前記光を受光し、前記光を分散させる分散素子と、
前記分散素子により波長ごとに分散された分散光を集光する集光要素と、
前記集光要素によって集光された前記分散光を、前記波長ごとに独立に偏向可能な複数の反射光学素子を有する光偏向部材と、
前記光偏向部材によって偏向された前記分散光を受光する少なくとも一つの出力部と、を備え、
温度変化に対して、前記集光要素の膨張による焦点距離の変化を、屈折率の変化による焦点距離の変化によりほぼ相殺する硝材で構成することを特徴とする波長選択スイッチ。
【請求項2】
前記集光要素の温度変化に対する屈折率変化による焦点距離の変化がdf1a/dT、
前記集光要素の温度変化に対する形状変化による焦点距離の変化がdf1b/dT、であるときに、次式(2)を満足することを特徴とする請求項1に記載の波長選択スイッチ。
−2<(df1a/dT)/(df1b/dT)<0 (2)
【請求項3】
前記集光要素は、少なくとも1つの正レンズを含み、
前記正レンズの温度変化に対する屈折率変化がdn/dT、前記正レンズの線膨張係数がα、であるとき、次式(4)を満足することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の波長選択スイッチ。
0<(dn/dT)/α<1 (4)
【請求項4】
前記集光要素は、少なくとも1つの負レンズを含み、
前記負レンズの温度変化に対する屈折率変化がdn/dT、前記負レンズの線膨張係数がα、であるとき、次式(5)を満足することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の波長選択スイッチ。
−1<(dn/dT)/α<0 (5)
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−150308(P2012−150308A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−9448(P2011−9448)
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
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