説明

注入管構造

【課題】注入管集の地盤中に注入材を均一に注入できる注入管構造を提供する。
【解決手段】地盤中に設置される注入外管1と注入外管1内に設置される注入内管2とから構成する。注入外管1は注入外管本体1aと注入外管本体1aの外周に設置された透水性マット材5と透水性マット材5の外周に設置されたフィルム3とから構成する。注入外管本体1aに複数の注入材吐出口1bを形成する。フィルタ3の注入材吐出口1bと異なる位置に注入材吐出スリット3aを形成する。注入材吐出スリット3aは、透水性マット材5内に吐出された注入材の注入圧力の上昇と共に開口するように形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注入工法による地盤改良工法で用いられる注入管の構造に関し、注入管に設けられた注入材吐出スリットから注入材を均等に吐出させ、地盤中に均一に浸透注入させることができる。
【背景技術】
【0002】
地盤改良工法における注入工法は、地盤中に設置した注入管を介してセメント系の固化材や水ガラス系の薬液を注入して地盤を改良する方法であり、主に地盤の止水性の向上、強度増加、空洞部の充填等を目的に行われる。その注入工法のひとつとして、ダブルパッカー工法が知られている。
【0003】
この場合の注入管は、例えば、図4(a),(b)に図示するように、地盤中に設置された注入外管1と、注入外管1内に設置された注入内管2とから構成され、特に注入外管1は注入外管本体1aとその外周に設置されたゴムシール等のフィルム3とから構成されている。
【0004】
注入外管本体1aには複数の注入材吐出口1bが形成され、フィルム3には注入材吐出口1bと異なる位置に複数の注入材吐出スリット3aが形成されている。また、注入内管2の先端には注入材吐出口2aと注入材吐出口2aを挟んでその上下両側にパッカー4,4が取り付けられている。
【0005】
フィルム3は、注入外管本体1aの注入材吐出口1bが形成された一定範囲(1ステージ)を被覆し、地盤中の注入材が注入材吐出口1bから注入管内に逆流するのを阻止する働きをするものである。
【0006】
また、パッカー4,4は、注入材を注入する際に、注入外管1内に吐出された注入材が注入外管1内を上下に逸送するのを防止する働きをするものである。
【0007】
このような構成において、パッカー4,4を膨張させて注入外管1と注入内管2間の注入材吐出口2aの上下両端を密閉して、注入内管2内に注入材を圧送すると、注入材は注入材吐出口2aから注入外管1内のパッカー4,4間に吐出される。
【0008】
そして、そこから注入外管1の注入材吐出口1a、さらにフィルム3の注入材吐出スリット3aを通って周囲の地盤中に注入される。その際、注入外管1内で注入内管2を上下に移動させて注入ステージを変えることにより、地層の性状に応じて各ステージに最適な注入を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平09−143976号公報
【特許文献2】特開平09−143977号公報
【特許文献3】特開平09−111747号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上記するような注入管構造では、注入外管本体1aとフィルム3との間に注入材が流れるような注入材流路が特に設けられているわけではないため、注入材吐出口1bから注入外管本体1aとフィルム3との間に吐出された注入材は、注入材吐出口1b近くのスリット3aからしか地盤中に注入されない。このため、注入材を地盤全体に均一に浸透させて地盤全体を均一に改良することはきわめて困難であった。
【0011】
また、注入材の吐出量を多くすると注入圧が高くなり、このため割裂注入状態に陥って均一な浸透注入ができなくなるだけでなく、注入材が無駄に注入されてコストが嵩む等の課題があった。
【0012】
本発明は、以上の課題を解決するためになされたもので、注入管周囲の地盤中に注入材を均一に注入できるようにした注入管構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1記載の注入管構造は、地盤中に設置された注入外管と注入外管内に設置された注入内管とからなる注入管構造において、注入外管は注入外管本体と注入外管本体の外周に設置された透水性マット材と透水性マット材の外周に設置されたフィルムとから構成され、注入外管本体に複数の注入材吐出口が、フィルムの注入材吐出口と異なる位置に注入材吐出スリットがそれぞれ設けられてなることを特徴とするものである。
【0014】
本発明は、フィルムに設けられた注入材吐出スリットから注入材が均等に吐出されて、注入管周囲の地盤中に注入材が均一に浸透注入されるようにしたものであり、本発明によれば、透水性マット材に吐出された注入材が、透水性マット材内で所定の注入圧力まで上昇して各注入材吐出スリットから地盤中に注入されるため、注入材を地盤全体に均一に注入することができる。
【0015】
すなわち、透水性マット材によって被覆された注入外管本体の全域で注入材の均一な吐出が可能となり、1吐出口当たりの注入速度が小さい浸透注入形態でありながら、全体として1ステージ当りの注入速度を大きくすることができる。
【0016】
また、フィルムの内側に設置された透水性マット材により、注入圧を上げて注入材の吐出量を多くしても低圧浸透注入は可能であり、脈状注入状態に陥ることもないので、これまで0.3〜0.5mであった1ステージの注入長を2倍以上の1〜2m程度と長くすることも可能なため、注入材の注入をきわめて効率的かつ経済的に行うことができる。
【0017】
請求項2記載の注入管構造は、請求項1記載の注入管構造において、注入材吐出スリットは、透水性マット材内に吐出された注入材の注入圧力の上昇と共に開口し、かつ注入材の注入が終了した時点で閉口するように形成されてなることを特徴とするものである。
【0018】
本発明によれば、透水性マット材内に吐出された注入材が透水性マット材の全体に充填され、かつ透水性マット材内の注入圧力が所定の圧力まで上昇することにより注入材吐出スリットが開口することで、注入材を全ての注入材吐出スリットから均等に吐出させることができ、これにより周囲の地盤中に注入材を均一に浸透させることができる。
【0019】
また、注入終了と同時に注入材吐出スリットが開口することにより、隣接する注入管からの注入材の流入を防止することができる。また、同じ注入管の上位または下位への注入時においても、注入材の流入を防止することができる。
【0020】
さらに、注入外管を削孔した孔内に立て込んで地盤中に設置する際や、削孔した孔内に立て込んだ注入外管の周囲にシール材を充填する際などに、土砂が注入材吐出スリットを介して注入管内に入り込むのを防止することができる。この場合、フィルムをゴム等の弾性素材で形成すれば、注入材吐出スリットに上記するような機能を付与することができる。
【0021】
請求項3記載の注入管構造は、請求項1または2記載の注入管構造において、注入材吐出スリットは注入外管本体の長軸方向または周方向に長く形成され、かつ各スリットの長さが異なることを特徴とするものである。
【0022】
本発明は、フィルムによって被覆された注入外管本体において、注入材吐出スリットの開口率を変えることにより、注入材の注入形態(形状)を変えられるようにしたものである。注入材吐出スリットの開口率は、各注入材吐出スリットの長さを適宜設定することにより自由に変えることができる。
【0023】
例えば、図2(a)に図示するように、各注入材吐出スリットの長さを全て同一にすると、注入材の吐出量は全て均一となるため、注入管周囲の地盤を柱状形態に改良することができる。
【0024】
また、図2(b)に図示するように、注入材吐出スリットの長さをステージ中央部で一番長く、中央部より上方向と下方向に徐々に短くすると、注入材の吐出量はステージ中央で最も多く、中央部より上方向と下方向に徐々に少なくなるため、注入管周囲の地盤を球状形態に改良することができる。さらに、図3(a),(b)に図示するように、注入材吐出スリットは管本体の周方向に長く形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、透水性マット材に吐出された注入材が、透水性マット材内で注入圧力が上昇して各注入材吐出スリットから地盤中に注入されるため、注入材を地盤全体に均一に浸透注入させることができる等の効果を有する。
【0026】
また、フィルムの内側に設置された透水性マット材により、注入圧を上げて注入材の吐出量を多くしても浸透注入は可能であり、脈状注入状態に陥ることもないので、1ステージの注入長をこれまでの2倍以上に長くすることも可能なため、注入材の注入をきわめて効率的かつ経済的に行うことができる等の効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の注入管構造の一実施形態を示し、(a)はその一部縦断面図、(b)は(a)におけるイ−イ線断面図である。
【図2】フィルムに管本体の軸方向に長く設けられた注入材吐出スリットの配置例を示し、(a)は同一長さの注入材吐出スリットが所定間隔で設けられた注入外管の一部正面図、(b)は長さの異なる注入材吐出スリットが所定間隔で設けられた注入外管の一部正面図である。
【図3】フィルムに管本体の周方向に長く設けられた注入材吐出スリットの配置例を示し、(a)は同一長さの注入材吐出スリットが所定間隔で設けられた注入外管の一部正面図、(b)は長さの異なる注入材吐出スリットが所定間隔で設けられた注入外管の一部正面図である。
【図4】従来の注入管構造の一例を示し、(a)はその一部縦断面図、(b)は(a)におけるロ−ロ線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1(a),(b)は、本発明の一実施形態を示し、図において、地盤中に注入外管1が設置され、注入外管1内に注入内管2が設置されている。注入外管1は、注入外管本体1aと注入外管本体1aの外周に設置された透水性マット材5と透水性マット材5の外周に設置されたフィルム3とから構成されている。
【0029】
注入外管本体1aは外周部に複数の注入材吐出口1bを有し、例えば孔開き塩ビパイプや孔開き鋼管などから形成されている。透水性マット材5は注入材吐出口1bから吐出された注入材を注入外管本体1aとフィルム3との間に保持すると共に、注入材に注入外管本体1aの上下方向および円周方向にスムーズな流れを付与する働きをするもので、織布、不織布、ジオニット、ジオネット、ジオグリッド、またはこれらの複合製品などの透水性の高い材料で形成されている。
【0030】
フィルム3は、注入外管本体1aの管軸方向または周方向に長い複数の注入材吐出スリット3aを有し、例えばゴムまたはポリエチレン等から形成されている。
【0031】
注入内管2は、図4(a),(b)で説明した従来例のものとほぼ同じであり、注入内管2の先端に注入材吐出口2aと注入材吐出口2aを挟んでその上下両側にパッカー4,4をそれぞれ備えている。
【0032】
このような構成において、注入内管2のパッカー4,4を膨張させて注入外管1と注入内管2間の注入材吐出口2aの上下両側を密閉し、注入内管2内に注入材を圧送すると、注入材は注入材吐出口2aから注入外管1内のパッカー4,4間に吐出され、そこから注入外管1の注入材吐出口1bを通って透水性マット材5内に吐出される。そして、透水性マット材5からさらにフィルム3の各注入材吐出スリット3aを通って周囲の地盤中に注入される。
【0033】
その際、注入外管本体1aとフィルム3との間に透水性マット材5によって注入材を保持すると共に、注入外管本体1aの円周方向および上下方向に注入材が流れるようなスペースが確保されているので、透水性マット材5内の注入材はステージ全長から注入材吐出スリット3aを介して周囲の地盤中に均一に浸透させることができる。
【0034】
また、注入外管1内で注入内管2を上下に移動させて注入ステージを変えることにより、各ステージにおける地層の性状に応じた最適な注入を行うことができる。
【0035】
図2(a),(b)は、本発明の他の実施形態を示し、フィルム3によって被覆された注入外管本体1aにおいて、注入材吐出スリット3aの開口率を変えることにより、注入材の注入形態(形状)を変えられるようにしたものである。注入材吐出スリット3aの開口率は、各注入材吐出スリット3aの長さを適宜設定することにより自由に変えることができる。
【0036】
例えば、図2(a)に図示するように、各注入材吐出スリット3aの長さを全て同一にすると、注入材の吐出量は全て均一となるため、注入管周囲の地盤を柱状形態に改良することができる。
【0037】
また、図2(b)に図示するように、注入材吐出スリット3aの長さをステージ中央部で一番長く、中央部より上方向と下方向に徐々に短くすると、注入材の吐出量はステージ中央で最も多く、中央部より上方向と下方向に徐々に少なくなるため、注入管周囲の地盤を球状形態に改良することができる。
【0038】
また、図3(a),(b)は、注入材吐出スリット3aが管本体の周方向に長く形成されたものを示したものである。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、注入管周囲の地盤中に注入材を均等に浸透注入させることができる。
【符号の説明】
【0040】
1 注入外管
1a 注入外管本体
1b 注入材吐出口
2 注入内管
2a 注入材吐出口
3 フィルム
3a 注入材吐出スリット
4 パッカー
5 透水性マット材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤中に設置される注入外管と注入外管内に設置される注入内管とからなる注入管構造において、注入外管は注入外管本体と注入外管本体の外周に設置された透水性マット材と透水性マット材の外周に設置されたフィルムとから構成され、注入外管本体に複数の注入材吐出口が設けられ、フィルムの注入材吐出口と異なる位置に注入材吐出スリットが設けられてなることを特徴とする注入管構造。
【請求項2】
注入材吐出スリットは、透水性マット材内に吐出された注入材の注入圧力の上昇と共に開口し、かつ注入材の注入が終了した時点で閉口するように形成されてなることを特徴とする請求項1記載の注入管構造。
【請求項3】
注入材吐出スリットは注入外管本体の長軸方向または周方向に長く形成され、かつ各スリットの長さが異なることを特徴とする請求項1または2記載の注入管構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−17160(P2011−17160A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−161599(P2009−161599)
【出願日】平成21年7月8日(2009.7.8)
【出願人】(391019740)三信建設工業株式会社 (59)
【Fターム(参考)】