説明

注型樹脂モールド型電装品

【課題】電装品本体を収容したケース内に樹脂を注型した際に樹脂層から突出したターミナル板の基部付近にターミナル板へのコネクタの接続に支障を来すフィレット部が形成されるのを防ぐ。
【解決手段】端部からターミナル板16が突出した電装品本体がケース10内に収容されて、ケース内に絶縁樹脂20が注型され、ターミナル板16の各部のうち、相手側コネクタを接続するために露呈させておく必要がある部分が注型樹脂から外部に突出した状態で配置されている注型樹脂モールド型電装品において、ターミナル板16の注型樹脂20との界面をなす部分にスリット16d〜16fを形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用点火装置に用いる点火コイル、点火装置や燃料噴射装置の駆動回路部及び制御部を構成する電子式制御ユニット等の内燃機関用電装品、或いは車載の電装品として用いるのに好適な注型樹脂モールド型電装品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関には、点火装置に用いる点火コイル、点火コイルとともに点火装置を構成する点火回路の構成部品と点火時期等を制御する制御部を構成する電子部品(マイクロコンピュータなど)とをユニット化した電子式制御ユニット等の各種の電装品が付属する。また内燃機関により駆動される車両等には、車載の機器を駆動または制御する各種の電装品が搭載される。この種の電装品においては、電装品本体を周囲環境から保護するため、特許文献1に示されているように、電装品本体をケース内に収容して、ケース内に絶縁樹脂を注型することにより、電装品本体をモールドすることがよく行われている。特許文献1には、一次コイル及び二次コイルを鉄心に巻装して構成した点火コイル本体を、樹脂製のケース内に収容して、該ケース内に注型した樹脂により一次コイル及び二次コイルの部分をモールドした点火コイルが示されている。
【0003】
この種の注型樹脂モールド型電装品では、電装品を構成する回路を外部の回路に接続したり、電源に接続したりするために、電装品本体にターミナル板が取り付けられることがある。このターミナル板には、外部回路につながる相手側コネクタが接続されるため、樹脂を注型する際には、ターミナル板の所要部分(相手側コネクタを接続するために用いられる部分)を樹脂モールド層から露出した状態にしておく必要がある。
【0004】
図5及び図6は、従来の注型樹脂モールド型電装品の一部を示したものである。同図において1は図示しないケース内に収容された図示しない電装品本体(例えば点火コイル)に取り付けられた刃型のターミナル板、2はケース内に注型された樹脂により形成された樹脂モールド層である。ターミナル板1は、図示しない電装品本体に一端が固定された基部1aと、基部1aの他端に一体に形成された電極部1bとからなっていて、電極部1bに相手側のコネクタが接続される。
【0005】
ケース内に樹脂を注型する際には、樹脂の上面が電装品本体を覆い、更にターミナル板1の基部付近を覆うレベルに達したところで樹脂の注型を停止して、ターミナル板1の所要部分を樹脂モールド層2から外部に突出させた状態にする。
【0006】
ケース内に樹脂を注型する際には、注型樹脂とターミナル板との界面で樹脂に働く界面張力により、樹脂がターミナル板の板面に沿って引き上げられる現象が起きるため、ターミナル板の基部側にターミナル板を覆う樹脂のフィレット部2aが形成される。特に製造ラインにおいて、ケース内に樹脂を注型した後、樹脂が未硬化の状態で、樹脂が注型されたケースを次工程に搬送した際には、樹脂の液面が振動により揺れるため、大きなフィレット部2aが形成されやすく、フィレット部の一部が電極部1aにかかることがあった。
【特許文献1】特開平11−154617号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、電装品本体を収容したケース内に樹脂を注型して電装品本体をモールドした従来の電装品では、モールド層から突出したターミナル板の基部付近に大きいフィレット部2aが形成されて、該フィレット部の一部がターミナル板の電極部1bにかかることがあり、このフィレット部が、ターミナル板1へのコネクタの接続に支障を来すことがあった。
【0008】
本発明の目的は、電装品本体を収容したケース内に樹脂を注型した際に樹脂とターミナル板との界面で生じる界面張力を低減して、樹脂層から突出したターミナル板の基部付近に、ターミナル板へのコネクタの接続に支障を来すようなフィレット部が形成されるのを防ぐことができるようにした注型樹脂モールド型電装品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、端部からターミナル板が突出した電装品本体がケース内に収容されて、ケース内に絶縁樹脂が注型され、ターミナル板の各部のうち、相手側コネクタを接続するために露呈させておく必要がある部分が注型樹脂から外部に突出した状態で配置されている注型樹脂モールド型電装品に係わるものである。
【0010】
本発明においては、ターミナル板の注型樹脂との界面をなす部分にターミナル板を板厚方向に貫通した孔またはスリットを形成した。
【0011】
ケース内に樹脂を注型した際にターミナル板と注型樹脂との界面で樹脂液に働く界面張力は、樹脂液が接触する板面の面積に比例する。上記のように、ターミナル板の注型樹脂との界面をなす部分に孔またはスリットを形成しておくと、ケース内に樹脂を注型した際に樹脂液との界面をなすターミナル板の板面の面積を縮小することができるため、樹脂液に働く界面張力を低減することができる。従って、樹脂を注型した際にターミナル板と樹脂液との界面で生じる界面張力により樹脂液が引き上げられるのを抑制することができ、ターミナル板の基部付近に、ターミナル板へのコネクタの接続に支障を来すような大きいフィレット部が形成されるのを防ぐことができる。
【0012】
本発明は、内燃機関用点火装置に用いる点火コイル、点火コイルの一次電流を制御する制御回路と点火時期制御部を構成するマイクロコンピュータ等の電子部品とを一体化した電子式制御ユニット(ECU)など、内燃機関に付属させる電装品の他、車載の機器を駆動または制御するために用いる車載の電装品など、注型樹脂によりモールドされる電装品に広く適用することができる。
【0013】
本発明の好ましい態様では、ターミナル板が、電装品に一端が固定された基部と、該基部の他端に一体に設けられて相手側のコネクタが接続される電極部とからなり、ターミナル板の幅方向の中央部でターミナル板の長手方向に延びるスリットを含む少なくとも1つのスリットが、ターミナル板の基部を板厚方向に貫通して形成される。そして、ターミナル板の幅方向の中央部に形成されたスリットは、その先端が電極部の領域にかかるように設けられる。
【0014】
上記のように、ターミナル板の幅方向の中央部でターミナル板の長手方向に延びるスリットを含む少なくとも1つのスリットをターミナル板の基部に形成して、ターミナル板の幅方向の中央部に形成されたスリットを、その先端が電極部の領域にかかるようにしておくと、ターミナル板の基部に形成されるフィレット部の上端がターミナル板の電極部の領域に達して、コネクタの接続に支障を来すような大きいフィレット部が形成されるのを確実に防ぐことができる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、ターミナル板の注型樹脂との界面をなす部分に孔またはスリットを形成して、ケース内に樹脂を注型した際に樹脂液が接触するターミナル板の板面の面積を縮小したため、樹脂液に働く界面張力を低減することができる。従って、樹脂を注型した際にターミナル板と樹脂との界面で樹脂が上昇するのを抑制することができ、ターミナル板の基部付近に、ターミナル板へのコネクタの接続に支障を来すような大きいフィレット部が形成されるのを防ぐことができる。
【0016】
特に請求項2に記載された発明によれば、ターミナル板の幅方向の中央部でターミナル板の長手方向に延びるスリットを含む少なくとも1つのスリットをターミナル板の基部に形成して、ターミナル板の幅方向の中央部に形成するスリットを、その先端が電極部の領域にかかるように設けたので、ターミナル板の基部に形成されるフィレット部の上端がターミナル板の電極部の領域に達して、コネクタの接続に支障を来すような大きいフィレット部が形成されるのを確実に防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
図1ないし図4は、本発明を内燃機関用の点火コイルに適用した実施形態を示したもので、図1(A)及び(B)はそれぞれ点火コイルの外観を示した上面図及び正面図である。また図2は点火コイルの一次コイルの一端に接続されるターミナル板の拡大正面図、図3は樹脂を注型した状態でのターミナル板付近の拡大断面図、図4は図3のIV−IV線断面図である。
【0018】
図1及び図2において、10は底部10aと、側壁部10bとを有し、上端が開口した点火コイルのケースで、このケースは樹脂の成型品からなっている。底部10bには、点火コイルの鉄心の一端を嵌合させて位置決めする凹部を内側に有する突出部10cが形成されている。ケース10内には、I字形の鉄心11に一次コイル12及び二次コイル13を巻装した点火コイル本体14が収容されている。一次コイルを巻くボビンの一端に一体に設けられた鍔板部15に、点火コイルの軸線方向の一端から突出して延びるターミナル板16が取り付けられ、このターミナル板16に一次コイル12の一端が接続されている。一次コイル12の他端は鉄心11に接地されている。
【0019】
図示の例では、点火コイル本体の二次コイル13の一端が接地され、二次コイルの他端は、鍔板部15に一体に形成された筒状の高圧コード接続部17内に設けられた二次出力端子18に接続されている。高圧コード接続部17内に図示しない高圧コードの一端が挿入されて、該高圧コードの心線が二次出力端子18に接続され、高圧コードの他端が図示しない内燃機関の気筒に取り付けられた点火プラグに接続される。
【0020】
図2に示したように、図示のターミナル板16は、鍔板部15に固定された幅広の基部16aと、基部16aの他端に一体に形成された幅狭の電極部16bとからなり、電極部16bには孔16cが形成されている。
【0021】
点火コイル本体14(この例での電装品本体)は、そのボビンの鍔板部15をケースの開口部側に位置させた状態でケース内に挿入される。点火コイルをケース10内に挿入した後、ケース10内にエポキシ樹脂などの絶縁樹脂20が注型されて硬化され、この注型樹脂により点火コイル14がモールドされる。ケース内への樹脂の注型は、樹脂の上面が点火コイルのボビンの鍔板部15を覆い、更にターミナル板16の基部付近を覆うレベルに達するまで行われ、ターミナル板16の所要部分が樹脂モールド層2から外部に突出した状態にされる。点火コイル本体14と、ケース10と、ケース10内に注型された樹脂20とにより点火コイル21が構成されている。なお鍔板部15は、ケース10内への樹脂の注型を妨げないように、ケース10の内面との間に樹脂液の流路を確保する形状を有するように構成されている。
【0022】
ターミナル板16の電極部16bには、点火回路につながるコネクタが接続される。点火回路は、点火信号が与えられたときに点火コイルの二次コイルに点火用の高電圧を誘起させるために、点火コイルの一次電流に急激な変化を生じさせる回路で、この点火回路と、該点火回路に点火信号を与える時期を制御する点火時期制御部と、点火コイル20とにより内燃機関用点火装置が構成される。
【0023】
本発明においては、樹脂とターミナル板との界面で樹脂液に働く界面張力を低減するために、ターミナル板16の注型樹脂20との界面をなす部分に孔またはスリットが形成される。本実施形態では、図2に示したようにターミナル板16の基部16aを貫通させて、ターミナル板の長手方向に平行に延びる3本のスリット16d、16e及び16fが形成されている。3本のスリット16d〜16fのうち、両端のスリット16d及び16fは同じ長さを有して基部16a内に位置するように設けられ、中央のスリット16eは、その先端(電極部16b側の端部)が両側のスリット16d,16fの先端の位置を越えて電極部16bの領域に達するように、両側のスリット16d,16fよりも長く形成されている。
【0024】
樹脂液とターミナル板との界面で樹脂液に働く界面張力により樹脂を引き上げようとする力をγとし、樹脂が接触しているターミナル板の板面の面積をS、樹脂液の密度をρ、ターミナル板に接している樹脂に働く重力をg、比例定数をkとすると、樹脂を引き上げようとする力γは、下記の(1)式により与えられる。
γ=k・ρ・S・g …(1)
【0025】
上記のように、ケース10内に樹脂20を注型した際にターミナル板16と注型樹脂との界面で樹脂液に働く界面張力により樹脂を引き上げようとする力は、樹脂液が接触する板面の面積Sに比例するため、ターミナル板の注型樹脂との界面をなす部分にスリット16d〜16fを形成して、ケース内に樹脂を注型した際に樹脂液が接触する板面の面積を縮小しておくと、樹脂液に働く界面張力を低減することができる。従って、樹脂を注型した際にターミナル板と樹脂との界面で樹脂が界面張力により引き上げられるのを抑制することができ、これにより、ターミナル板16の基部付近に形成される樹脂のフィレット部20aがターミナル板16の電極部16bの領域に達する大きさになるのを防いで、フィレット部20aがターミナル板へのコネクタの接続に支障を来す大きさになるのを防ぐことができる。
【0026】
ケース内に樹脂を注型した際に樹脂に働く界面張力により形成されるフィレット部の高さは、ターミナル板の幅方向の中央寄りで最も高くなる傾向があるため、上記の実施形態のように、ターミナル板に複数のスリット16d〜16fを設けて、ターミナル板の幅方向の中央寄りに位置するスリット16eの高さをその両側のスリットの高さよりも高くしておく(好ましくは、ターミナル板の幅方向の中央寄りに設けるスリット16eの上端がターミナル板の電極部にかかるようにしておく)と、ターミナル板の基部に形成されるフィレット部20aの上端がターミナル板の電極部bの領域に達して、コネクタの接続に支障を来すような大きいフィレット部が形成されるのを確実に防ぐことができる。
【0027】
上記の例では、ターミナル板の基部に3本のスリットを設けているがスリットの数は任意であり、ターミナル板の通電性能及び機械的強度に支障を来さない範囲でスリットの数を更に増やすこともできる。またスリットは1つだけ設けるようにしてもよい。スリットを1つだけ設ける場合には、ターミナル板の幅方向の中央部にターミナル板の電極部に一部がかかるようにスリット(上記の実施形態で設けたスリット16eと同様のスリット)を設けるのが好ましい。
【0028】
ターミナルのコネクタが接続される部分(電極部)に樹脂が付着しないようにして、ターミナル板へのコネクタの接続に支障を来さないようにするためには、ターミナル板の樹脂との界面をなす部分の面積を縮小すればよいため、ターミナル板の基部付近にスリットを設ける代わりに、ターミナル板の注型樹脂との界面をなす部分(ターミナル板の基部付近)を貫通した適宜の形状の孔を設けるようにしてもよい。
【0029】
上記の例では、点火コイルに本発明を適用したが、点火コイル以外の電装品にも本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1(A)及び(B)は本発明の実施形態に係わる点火コイルの外観を示した上面図及び正面図である。
【図2】図2は図1の点火コイルで用いられている点火コイルの一次コイルの一端に接続されるターミナル板の拡大正面図である。
【図3】図3は図1の点火コイルにおいて、ケース内に樹脂を注型した状態でのターミナル板付近の拡大断面図である。
【図4】図4は図3のIV−IV線断面図である。
【図5】図5は、従来の点火コイルのターミナル板付近の構造を概略的に示した断面図である。
【図6】図6は、図5のVI−VI線断面図である。
【符号の説明】
【0031】
10 ケース
11 点火コイルの鉄心
14 点火コイル本体(電装品本体)
16 ターミナル板
16a ターミナル板の基部
16b ターミナル板の電極部
16d〜16f スリット
20 注型樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
端部からターミナル板が突出した電装品本体がケース内に収容されて、前記ケース内に絶縁樹脂が注型され、前記ターミナル板の各部のうち、相手側コネクタを接続するために露呈させておく必要がある部分が注型樹脂から外部に突出した状態で配置されている注型樹脂モールド型電装品において、
前記ターミナル板の前記注型樹脂との界面をなす部分にターミナル板を板厚方向に貫通した孔またはスリットが形成されていることを特徴とする注型樹脂モールド型電装品。
【請求項2】
端部からターミナル板が突出した電装品本体がケース内に収容されて、前記ケース内に絶縁樹脂が注型され、前記ターミナル板の各部のうち、相手側コネクタを接続するために露呈させておく必要がある部分が注型樹脂から外部に突出した状態で配置されている注型樹脂モールド型電装品において、
前記ターミナル板は、前記電装品に一端が固定された基部と、該基部の他端に一体に設けられて前記コネクタが接続される電極部とからなり、
前記ターミナル板の幅方向の中央部で前記ターミナル板の長手方向に延びるスリットを含む少なくとも1つのスリットが、前記ターミナル板の前記基部を板厚方向に貫通して形成され、
前記ターミナル板の幅方向の中央部に形成されたスリットは、その先端が前記電極部の領域にかかるように設けられていること、
を特徴とする樹脂注型モールド型電装品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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