説明

注射器用指掛け補助具

【課題】注射器用指掛け補助具において、注射器の組立時、指掛け補助具の注射器本体長さ方向の向き及び姿勢を識別する必要がなく、いずれの向きで組み付けても、正常姿勢に組み付けられるようにすることを目的としている。
【解決手段】注射器本体1は、先端に針取付部5を有すると共に基端にフランジ6を有している。指掛け補助具9は、前記フランジ6の厚みに略対応する間隔をおいて略平行に配置された一対の端壁板10と、該両端壁板10を一体に結合する一対の連結板13から構成されている。前記各端壁板10は、前記注射器本体1の外周面1aに対応する円弧形内周縁を有する本体部11と、該本体部11の外周端から外方に延びる一対の翼部12と、をそれぞれ有する同一形状に形成されると共に、両端壁板10は、両端壁板10間の中央面Hに対して対称となるように、前記一対の連結板13により連結されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、先端に針取付部を有すると共に基端にフランジを有する筒状の注射器本体の前記フランジに装着される注射器用指掛け補助具に関し、主として、注射器本体がガラスで製作され、薬液が予め充填された状態で出荷される医療用プレフィルド注射器に適した注射器用指掛け補助具に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の医療用注射器において、注射器本体が樹脂で製作されている場合には、注射器本体の基端のフランジに、一対の翼状の指掛け部を一体に形成している構造が多い。
【0003】
ところが、容量の小さい注射器では、衛生面及び強度の面で、注射器本体をガラス製としていることが多く、注射器本体をガラス製としている場合、樹脂製の注射器本体のように指掛け部を一体に形成すると、製造に手間がかかると共に、製作時又は取扱時に割れるおそれがある。そのため、注射器本体をガラス製としている場合には、注射器本体とは別体に樹脂製の指掛け補助具を製作し、注射器組立時に、注射器本体の基端フランジに指掛け補助具を取り付けている。
【0004】
図9及び図10は、注射器本体と別体に指掛け補助具を製造する第1の従来例(特許文献1)を示しており、図10において、指掛け補助具100は、部分円筒部101と、円弧状の本体部102と、一対の翼部103と、を一体に樹脂成形した構造となっている。図9のように、注射器本体110の外周面に部分円筒部101が嵌合され、注射器本体110の基端フランジ111に本体部102が嵌合されている。注射器本体101内にはプランジャロッド105が挿入されている。
【0005】
図11は、注射器本体と別体に指掛け補助具を製造する第2の従来例(特許文献2)を示しており、指掛け補助具200は、1対の半割円筒部材201から構成され、各半割円筒部材201の長さ方向の両端部には、翼状及び鍔状の指掛け部202,203がそれぞれ一体に成形されている。各半割円筒部材201は、注射器本体210の外周面に径方向の両側から被せられ、鍔状の指掛け部203は、注射器本体210のフランジ211に嵌合されている。注射器本体210内にはプランジャロッド205が挿入されている。
【0006】
図12は第3の従来例3(特許文献3)を示しており、プランジャロッド301が注射器本体310から抜け落ちないように、注射器本体310のフランジ311に安全補助具300を取り付けた構造であり、この安全補助具300は、指掛け補助具としても利用されている。図13は、図12の安全補助具300の拡大斜視図であり、所定間隔置いて平行に配置された一対の端壁板305,306と、該両端壁板305,306を一体に結合する一対の連結部307とから構成されている。一方の端壁板305の内周縁305aは、図12の注射器本体310の外周面に対応する寸法の円弧形に形成されており、他方の端壁板306の内周縁306aは、図12のプランジャロッド301の抜けを防止するために、前記一方の端壁板305の内周縁305aよりも小さな半径の円弧形に形成されている。すなわち、両端壁板305、306は異なった形状に形成されている。
【特許文献1】特開平8−731号公報
【特許文献2】実開平4−77949号公報
【特許文献3】特開平8−294533号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記第1,第2及び第3の従来例に記載されたいずれの注射器も、医療用プリフィルド注射器として利用する場合には、工場における組立時、プランジャロッドロッド105,205,301を挿入すると共に、注射器本体110,210、310に薬液を吸入し、かつ、別体の指掛け補助具100,200及び安全補助具300を注射器本体110,210、310に組み付けており、この組立作業は、一般に、自動組立装置により行っている。
【0008】
ところが、いずれの指掛け補助具100,200及び安全補助具300の形状も、注射器本体長さ方向の中央面に対して、非対称となっているので、それらを注射器本体110,210,310のフランジ111、211、311に組み付ける際には、各指掛け補助具100,200及び安全補助具300の注射器本体長さ方向の向きを識別し、向きが逆な場合には、注射器本体110,210、310に対して正常な取付向きとなるように姿勢を修正して、取り付けなければならない。そのためには、指掛け補助具100,200及び安全補助具300の注射器本体長さ方向の向きを識別する姿勢識別機構並びにそれらの向きを正常な向きに修正する姿勢制御機構が必要となり、組立作業工程が増えると共に、組立装置が複雑化し、コストも高くなる。
【0009】
特に、第3の従来例の安全補助具300では、注射器本体長さ方向の向きが逆向きの状態で供給される可能性が大きく、頻繁に、安全補助具300の注射器本体長さ方向の向きを修正しなければならない。
【0010】
[発明の目的]
本発明は、注射器の組立時、指掛け補助具の注射器本体長さ方向の向き(姿勢)を識別する必要がなく、いずれの向きで組み付けても、正常な取付状態に取り付けることができ、かつ、製造が簡単な注射器用指掛け補助具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本願請求項1記載の発明は、先端に針取付部を有すると共に基端にフランジを有する筒状の注射器本体の前記フランジに装着される注射器用指掛け補助具であって、前記フランジの厚みに略対応する間隔をおいて略平行に配置された一対の端壁板と、該両端壁板を一体に結合する一対の連結板から構成されており、前記各端壁板は、前記注射器本体の外周縁に対応する円弧形内周縁を有する本体部と、該本体部の外周端から外方に延びる一対の翼部と、をそれぞれ有する同一形状に形成されると共に、両端壁板は、両端壁板間の中央面に対して対称となるように、前記一対の連結板により連結されている。
【0012】
上記構成によると、指掛け補助具は注射器本体長さ方向に対称な形状となっているので、指掛け補助具を注射器本体に組み付ける際、指掛け補助具の向きが逆であっても、正常な取付状態として取り付けることができる。したがって、従来例のように、姿勢識別機構及び姿勢制御機構により、指掛け補助具の向きを識別し、修正する必要はなくなり、それらの作業工程が省略できると共に、組立装置を簡素化でき、組立装置のコストも低減できる。
【0013】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の注射器用指掛け補助具において、前記本体部の円弧形内周縁は、中心角が180°より大きい優弧である。
【0014】
上記構成によると、注射器本体に対して、指掛け補助具を強固に固定することができるので、指掛け補助具に径方向の外力が加わっても脱落するおそれは少ない。
【0015】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の注射器用指掛け補助具において、前記各本体部の外周縁は、前記円弧形内周円と同心の円弧形に形成されている。
【0016】
上記構成によると、指掛け部材の製造が容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1〜図5は、プリフィルド型医療用注射器及び本発明に係る指掛け補助具の第1の実施の形態であり、これらの図面に基づいて、第1の実施の形態を説明する。
【0018】
図1は指掛け補助具9を取り付ける前の状態を示す注射器及び指掛け補助具9の斜視図、図2は指掛け補助具9を取り付けた状態を示す注射器及び指掛け補助具9の斜視図、図3は注射器及び指掛け補助具9の図1のIII矢視図、図4は注射器に取り付けた状態を示す指掛け補助具9の図3のIV矢視図、図5は図3のV-V断面図である。図1において、注射器は、円筒状のガラス製注射器本体1と、樹脂製のプランジャロッド2と、金属製の注射針3と、から構成されており、注射器本体1の長さ方向の先端には、小径の管状の針取付部5が一体に形成され、注射器本体1の長さ方向の基端には、外向きの円環状のフランジ6が一体に形成されている。注射器を使用する時には、針取付部5に注射針3が装着されるが、工場での組立時、出荷時並びに使用するまでの保管時には、注射針3の代わりに、樹脂製のキャップ4が針取付部5に嵌着されている。なお、説明の都合上、注射器本体1の長さ方向を「軸方向」と称し、この軸方向の針取付部5側を「軸方向先端側」、軸方向のフランジ6側の「軸方向基端側」と称して、以下、説明する。
【0019】
フランジ6に取り付けられる指掛け補助具9は、一対の端壁板10と、両端壁板10を一体に結合する一対の連結板13と、を一体に樹脂成形したものであり、前記一対の端壁板10は、注射器本体1のフランジ6の軸方向の厚みと略同じ間隔をおいて互いに平行に配置されると共に、互いに同一形状に形成されている。
【0020】
図3は端壁板10の軸方向に見た形状(平面形状)を詳細に示しており、各端壁板10は、円弧形の内周縁11aを有する本体部11と、該本体部11の外周縁11bから外方に突出する一対の翼部12と、から構成されている。本体部11の内周縁11aの半径r1は、注射器本体1の外周面1aの半径r2と略同じ寸法に設定されており、内周縁11aの中心角θは、180°より大きい角度、たとえば270°に設定されている。本体部11の外周縁11bは、内周縁11aと同心(O1)に形成されている。本体部11の両開口端縁11c間の周方向の幅dは、径方向の外方に行くに従い広くなるように形成されており、これにより、両開口端縁11cを、ガイド面として利用できるようになっている。
【0021】
一対の翼部(指掛け部)12は、前記中心O1回りに180°の間隔をおいて配置され、本体部11の開口部Sの近傍に本体部11と一体成形されている。各翼部12の表面には、指の滑りを防止するための筋状の滑り止め突起16がそれぞれ一体に形成されている。
【0022】
前述のように両端壁板10は、軸方向に見た形状(平面形状)が両者同一形状となっており、かつ、各端壁板10は、前記中心O1及び開口部Sの中心を通る面Mに対して、対称形状となっている。
【0023】
図5において、両連結板13も互いに同一形状となっており、各連結板13により各翼部12の径方向の外方端部同士を一体に結合している。
【0024】
前述のように、両端壁板10が同一形状に形成され、かつ、互い平行に配置されていることにより、指掛け補助具9は、軸方向の中央面Hを対称面として、対称な形状に形成されていることになる。
【0025】
[組立]
(1)医療用プリフィルド注射器の組立作業は、工場において自動組立装置により行われ、この組立作業においては、図1のように、注射器本体1内にプランジャロッド2を挿入し、次にプランジャロッド2を引くことにより針取付部5の孔から注射器本体1内に所定量の薬液を吸い込み、そして針取付部5にキャップ4を嵌める。
【0026】
(2)上記薬液注入作業の後、または薬液注入作業の前に、図2のように、注射器本体1の径方向の外方から、フランジ6に指掛け補助具9を取り付ける。この取付作業において、指掛け補助具9は、両端壁板10が同一形状で、かつ、図3のように、両端壁板10の中心面Hを対称面として軸方向に対称形状になっているので、一対の端壁板10のうち、いずれの端壁板10が軸方向先端側に位置した姿勢であっても、正常な取付状態として取り付けることができ、指掛け補助具9の軸方向の向きを識別する必要はない。要するに、指掛け補助具9が軸方向に裏向きに供給され、取り付けられたとしても、正常な取り付け状態で取り付けられたことになる。これにより、組み付けが容易になると共に、姿勢識別機構及び姿勢修正機構は不要となり、装置のコストも安くなる。
【0027】
(3)図2のように、指掛け補助具9をフランジ6に取り付けた状態では、フランジ6は両端壁板10間で挟持されている。しかも、図3のように、本体部11の内周縁11aの中心角θを180°より大きくしていることにより、少なくとも、開口端縁11cの間隔dの最小部分は、注射器本体1の外径よりも小さくなっているので、図2のように、指掛け補助具9を樹脂製本体部11の弾性力に抗してフランジ6に嵌め込んだ後は、内周縁11aの開口端縁11cが抜け止め部として機能し、指掛け補助具9が振動又は外力により径方向の外方に抜けるのを防止する。また、本体部11の開口端縁11cの幅dを、径方向の外方に行くにしたがい広くなるように形成しているので、指掛け補助具9を注射器本体1のフランジ6に取り付ける際、指掛け補助具9の中心O1が注射器本体1の中心から多少ずれていても、開口端縁11cがガイドの役目を果たし、円滑にフランジ6に取り付けることができる。
【0028】
(別の実施の形態)
図6〜図8は、本発明の別の実施の形態であり、図6は注射器及び指掛け補助具9を軸方向に見た図、図7は注射器に取り付けた状態を示す指掛け補助具の図6のVII矢視図、図8は図6のVIII-VIII断面図である。図8において、前記第1の実施の形態と異なる構造は、各端壁板10の本体部11に、内周縁11aと同心(O1)の内周面を有する部分円筒部18をそれぞれ一体成形してある。その他の構造は第1の実施の形態と同様であり、同じ部品及び部分には同じ符号を付している。
【0029】
図6において、両部分円筒部18の内周面の半径は、本体部11の内周縁11aの半径r1と同一に設定され、かつ、中心角も内周縁11aの中心角θと同一に形成されている。
【0030】
図8において、両部分円筒部18も互いに同一形状に形成されると共に、前記対称面Hに対して対称に配置しており、したがって、該実施の形態においても、指掛け補助具9は、前記対称面Hに対して対称な形状となっている。
【0031】
図7は、指掛け補助具9をフランジ6に取り付けた状態を詳しく記載しており、取付状態において、軸方向先端側の部分円筒部18は注射器本体1の外周面1aに嵌合しており、これにより、注射器本体1に対する指掛け補助具9の取付状態を安定させている。
【産業上の利用可能性】
【0032】
(その他の実施の形態)
(1)注射器本体を樹脂製とすることもできる。
【0033】
本発明は、医療用注射器に取り付ける指掛け補助具には限定されず、その他の注射器にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】指掛け補助具を取り付ける前の状態を示す注射器及び指掛け補助具の斜視図である。
【図2】指掛け補助具を取り付けた状態を示す注射器及び指掛け補助具の斜視図である。
【図3】注射器及び指掛け補助具の図1のIII矢視図である。
【図4】注射器に取り付けた状態を示す指掛け補助具の図3のIV矢視図である。
【図5】図5は図3のV-V断面図である。
【図6】本発明の別の実施の形態であり、注射器及び指掛け補助具を軸方向に見た図である。
【図7】注射器に取り付けた状態を示す指掛け補助具の図6のVII矢視図である。
【図8】図6のVIII-VIII断面図である。
【図9】第1の従来例であって、指掛け補助具を取り付けた注射器の側面図である。
【図10】図6の指掛け補助具のVII矢視図である。
【図11】第2の従来例であって、指掛け補助具を取り付ける前の注射器の斜視図である。
【図12】第3の従来例であって、指掛け補助具を取り付けた注射器の側面図である。
【図13】図12の指掛け補助具のXIII矢視図である。
【符号の説明】
【0035】
1 注射器本体
2 プランジャロッド
3 注射針
5 針取付部
9 指掛け補助具
10 端壁板
11 本体部
11a 本体部の内周縁
11b 本体部の外周縁
12 翼部
13 連結板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に針取付部を有すると共に基端にフランジを有する筒状の注射器本体の前記フランジに装着される注射器用指掛け補助具であって
前記フランジの厚みに略対応する間隔をおいて略平行に配置された一対の端壁板と、該両端壁板を一体に結合する一対の連結板から構成されており、
前記各端壁板は、前記注射器本体の外周面に略対応する円弧形内周縁を有する本体部と、該本体部の外周縁から外方に延びる一対の翼部と、をそれぞれ有する同一形状に形成されると共に、両端壁板は、両端壁板間の中央面に対して対称となるように、前記一対の連結板により連結されていることを特徴とする注射器用指掛け補助具。
【請求項2】
前記各本体部の円弧形内周縁は、中心角が180°より大きい優弧であることを特徴とする請求項1記載の注射器用指掛け補助具。
【請求項3】
前記各本体部の外周縁は、前記円弧形内周縁と同心の円弧形に形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の注射器用指掛け補助具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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