説明

流量調整器

【課題】簡単な構成で、ヒステリシスを抑制することができる電磁駆動の流量調整器を得ること。
【解決手段】流体の入口ポート11、出口ポート12及び両ポートを連通させる連通路13に位置する弁座14cを有するハウジング10、プランジャガイド筒20、先端部に弁体32を有し、プランジャ30、弁体32が弁座14cに当接する方向に付勢するばね手段、及びこのばね手段に抗してプランジャを開弁方向に移動させる電磁手段27を備えた流量調整器において、プランジャ30とプランジャガイド筒20の間には、両者の軸線が一致した状態で両者を完全に非接触とし摺動抵抗をゼロとするに十分な隙間が存在し、弁体32は球からなり、弁体32と弁座14cの一方は剛体、他方は弾性材料からなり、ばね手段は、プランジ30ャと同心の圧縮コイルばね34からなり、プランジャガイド筒20の固定部分と、プランジャ30側の可動部分との間に張設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁力により流量を調整する流量調整器に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の流量調整器として、弁体(プランジャ)を弁座にばね付勢して常時は流路を閉じ、弁体を電磁力で吸引移動させることで、開弁する流量調整器が知られている。弁体の開弁方向への移動量は、電磁力(電流)の大小で調整することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】EP0565292A1号公報
【特許文献2】特開2011-99563号公報
【特許文献3】特開2007-107451号公報
【特許文献4】特開平8-270824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の電磁駆動の流量調整器(弁)では、弁体を開弁方向へ移動させるとき(電流を増加させていくとき)と、閉弁方向へ移動させるとき(電流を減少させるとき)とで、同じ電流値でありながら、弁開度が異なってしまうヒステリシスが問題となっている。例えば特許文献1では、先端部に弁体を有するプランジャをプランジャガイド内に非接触で挿入する一方、プランジャの外周一部とプランジャガイド内壁との間に弾性リング部材を介在させている。しかし、この弾性リング部材は明らかにヒステリシスの原因となる。また、特許文献1では、プランジャ先端の弁体の弁座に対するセンタリング(調心性)が保証されず、これが閉弁時の僅かな弁漏れの原因となっている。
【0005】
本発明は、簡単な構成で、ヒステリシスを抑制することができる電磁駆動の流量調整器を得ることを目的とする。また本発明は、ヒステリシスを抑制しながら、閉弁時の弁漏れも最小限にすることができる流量調整器を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ヒステリシスを抑制するために、プランジャとプランジャガイドは非接触とする(プランジャとプランジャガイドに、その軸線が一致しているとき両者の間に環状の隙間が形成されるに十分な径の差を与える)一方、プランジャ(弁体)と弁座との調心性は、コイルばねと、球状弁体と環状弁座とによって確保するという着眼に基づいてなされたものである。
【0007】
本発明は、流体の入口ポート、出口ポート及び両ポートを連通させる連通路に位置する弁座を有するハウジング;このハウジングに結合されたプランジャガイド筒;先端部に上記弁座に接離する弁体を有し、上記プランジャガイド筒に軸方向移動自在に挿入されたプランジャ;上記プランジャを弁体が弁座に当接する方向に付勢するばね手段;及びこのばね手段に抗して上記プランジャを開弁方向に移動させる電磁手段;を備えた流量調整器において、上記プランジャの外周面とプランジャガイド筒の内周面との間には、両者の軸線が一致した状態で両者を完全に非接触とし摺動抵抗をゼロとするに十分な隙間が存在すること;上記弁体は球からなり、該弁体と弁座の一方は剛体、他方は弾性材料からなること;及び上記ばね手段は、プランジャと同心の圧縮コイルばねからなり、プランジャガイド筒の固定部分と、プランジャ側の可動部分との間に張設されていること;を特徴としている。
【0008】
プランジャの先端部には、該プランジャとは別部材からなる弁体ホルダを結合し、この弁体ホルダに、上記球からなる弁体の先端一部を弁座側に突出させる内面テーパ孔を形成し、上記弁体をこの内面テーパ孔から突出させる方向に付勢する、上記圧縮コイルばねと同心の主弁圧縮コイルばねを設けることができる。
【0009】
弁座は、ハウジングに軸方向の位置調節を自在に結合した弁座ノズルの弁体側端部に設けることで、不感帯の微調整ができる。
【0010】
プランジャの外周面とプランジャガイド筒の内周面との間の隙間は、具体的には、プランジャ外径を3.3〜3.7mm、プランジャガイド筒内径を4.1〜4.5mmとしたとき、0.2〜0.6mmとする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、簡単な構成で、ヒステリシスを抑制することができ、かつ閉弁時の弁漏れも最小限とすることができる電磁駆動の流量調整器が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明による流量調整器の一実施形態を示す縦断面図である。
【図2】図1のII-II線に沿う断面図である。
【図3】本発明による流量調整器と比較例のヒステリシス線図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1、図2は、本発明による流量調整器(弁)の一実施形態を示している。ブロック状のハウジング10には、流体の入口ポート11、出口ポート12及び両ポートを連通させる連通路13が形成されている。連通路13は、軸線13Xを有する断面円形の孔であって図の下部に雌ねじ部13fを有している。この連通路13には、その軸線を軸線13Xに一致させた円柱状の弁座ノズル14が挿入されており、この弁座ノズル14の図の下端の雄ねじ14mがハウジング10の雌ねじ部13fと螺合している。弁座ノズル14は、雌ねじ部13fに対する螺合位置の調整により連通路13内の軸方向位置の調整ができ、ロックナット(六角ナット)15により、調整後の位置に固定できる。
【0014】
金属(剛体)からなる弁座ノズル14には、その軸線の軸通路14aと、この軸通路14aに連通する径通路14bが形成されていて、軸通路14aは、弁座ノズル14の軸方向位置に拘わらず、入口ポート11に連通し、径通路14bは出口ポート12に連通している。軸通路14aの先端部は環状弁座14cを構成している。符号16は、入口ポート11から軸通路14a、径通路14bを経て出口ポート12に至る流体以外の流体の漏れを防ぐOリングである。
【0015】
ハウジング10上には、ストッパリング21を介してプランジャガイド筒20が固定されている。プランジャガイド筒20の軸線20Xは、弁座ノズル14の軸線14Xと一致しており、その下端部の大径筒状部20aは、ハウジング10の上端部の段付円形段部10a内に挿入されており、ストッパリング21はハウジング10にねじ結合されていて、そのフランジ21fが大径筒状部20aを段付円形段部10aに押し込み固定する。符号22は、大径筒状部20aと段付円形段部10aの間をシールするOリングである。
【0016】
プランジャガイド筒20の上部は、大径筒状部20aと同心の小径筒状部20bを構成しており、この小径筒状部20bの上部に形成した雌ねじ部20fに、強磁性材からなるプランジャ受けロッド23の雄ねじ23mが螺合固定されている。プランジャ受けロッド23の軸方向の位置は雌ねじ部20fに対する雄ねじ23mの螺合位置を変化させることで調整できる。符号24はその螺合部からの流体漏れを防ぐOリングである。プランジャ受けロッド23の外周には、コイルハウジング(ヨーク)25とコイル26からなるソレノイド(電磁手段)27が位置しており、ホルダ28によってその位置が固定されている。符号29は、プランジャ受けロッド23の軸方向位置を調整後固定するロックナット(六角ナット)である。
【0017】
プランジャガイド筒20の小径筒状部20b内には、強磁性材からなるプランジャ30が位置している。図2に強調したように、プランジャ30の外径と小径筒状部20bの内径とは、プランジャ30の軸線と小径筒状部20bの軸線とが一致した状態で、該プランジャ30の外周面と小径筒状部20bの内周面とを完全に非接触とし摺動抵抗をゼロとするに十分な隙間cが存在するように設定されている。具体的に、例えば、プランジャ30の外径dを3.3〜3.7mmとし、小径筒状部20bの内径Dを4.1〜4.5mmとしたとき、隙間cは0.2〜0.6mm((D-d)/2)である。より好ましくは、外径dを3.4〜3.6mm、内径Dを4.2〜4.4mmとしたとき、隙間cは0.3〜0.5mmである。
【0018】
プランジャ30の先端部(図1の下端部)に形成した雄ねじ部30mには、弁体ホルダ31に形成した雌ねじ部31fが同心に螺合固定されている。弁体ホルダ31は、雌ねじ部31fを有する筒状部の図の下端に、軸線直交平面部31pを有しており、この軸線直交平面部31pの中心部(軸線20X上)に内面テーパ孔31tが形成されている。この内面テーパ孔31tは、中心に行くに従って軸線直交平面部31pの肉厚を減ずる回転対称形状をなし、その中心部には球状弁体32を突出させる孔が形成されている。また、弁体ホルダ31には、球状弁体32の背面に流体圧を及ぼす(球状弁体32の表裏に圧力差を発生させない)ための空気孔31hが穿設されている。球状弁体32は、この実施形態ではゴム(例えば、シリコーンゴム、ニトリルゴム、フッ素ゴム)からなっており、プランジャ30と球状弁体32の間には、球状弁体32を内面テーパ孔31tから突出させる方向に付勢する主弁圧縮コイルばね33が挿入されている。またプランジャガイド筒20の大径筒状部20a(プランジャガイド筒の固定部分)と、弁体ホルダ31の軸線直交平面部31p(プランジャ側の可動部分)との間には、プランジャ30を環状弁座14c側に移動付勢する、プランジャ30(主弁圧縮コイルばね33)と同心の圧縮コイルばね34が挿入されている。
【0019】
上記構成の本流量制御器は、次のように作動する。ソレノイド27(コイル26)への非通電状態では、主弁圧縮コイルばね33と圧縮コイルばね34の力により、球状弁体32は環状弁座14cに着座し、入口ポート11と出口ポート12の間の連通を断っている。球状弁体32と環状弁座14cによる閉弁構造は、球状弁体32の球形による求心(調心)作用が存在し、かつ、主弁圧縮コイルばね33と圧縮コイルばね34にも求心(調心)作用が存在するため、閉弁状態でプランジャ30の外周面と小径筒状部20bの内周面とが接触する(プランジャ30が動くときに摺動抵抗が発生する)可能性は極めて低い。また、球状弁体32と環状弁座14cのいずれか一方(この実施形態では球状弁体32)を弾性材料から構成することで、閉弁時の流体漏れを最少にすることができる。
【0020】
この閉弁状態において、コイル26への通電を開始すると、プランジャ30に対して吸引上昇力が作用し始める。図3において、時点xは、この吸引上昇力が主弁圧縮コイルばね33と圧縮コイルばね34の力に打ち勝って、開弁が始まる時点である。コイル26への通電量を増やすと、流量が通電量にほぼ比例して増加し、逆に通電量を減らすと、流量が減少する。この通電量増加時と通電量減少時の同一電流値における流量の差がヒステリシスであり、この差が小さい程、流量制御器として好ましい。図3のAは、本実施形態によるヒステリシスの例であり、同Bは、プランジャ30と小径筒状部20bとの間に摺動抵抗が存在する場合のヒステリシスの例である。本実施形態の流量制御器は、ヒステリシスが小さいことが確認された。
【0021】
図3において、電流を流し始めてから開弁が開始される時点x迄の弁が開かない電流の範囲yは「不感帯」と称されている。この電流の範囲yは、球状弁体32を環状弁座14cに押し付けるばね力の初期設定によって調整可能である。本実施形態では、弁座ノズル14の軸方向の位置を調整することで、球状弁体32の環状弁座14cに対するばね押付力の大小をさらに調節することができるので、電流の範囲yを微調整することができる。
【0022】
さらに、本実施形態では、球状弁体32が直接的には主弁圧縮コイルばね33によって、環状弁座14cに押し付けられ、さらに圧縮コイルばね34によって環状弁座14cに押し付けられる二重の付勢構造となっている。
【0023】
この二重の付勢構造によると、次の作用を得ることができる。
1)主弁圧縮コイルばね33の力により、球状弁体32を環状弁座14cに係合させて求心(プランジャ30の軸線を小径筒状部20bの軸線に一致させる作用)する。
2)圧縮コイルばね34の力により弁体ホルダ31(プランジャ30)の軸線を軸線20Xに一致させて求心する。
3)圧縮コイルばね34の力で、図3の電流と流量のグラフの傾きを調整し、かつコイル26への非通電状態で、球状弁体32を僅かに環状弁座14cに接触(当接)させる(必ずしも閉弁させる必要はない)。
4)圧縮コイルばね34の力より弱い力の主弁コイルばね33により、球状弁体32を環状弁座14cに着座させ(閉弁し)、感度を向上させる。つまり、図3の不感帯の長さyを小さくすることができる。
【0024】
弁体ホルダ31と主弁圧縮コイルばね33は設けることが好ましいが、省略することも可能である(プランジャ30の先端に直接球状弁体32を設けて圧縮コイルばね34のみで球状弁体32(及びプランジャ30)を移動付勢しても、一定の求心作用を得ることができる)。
【0025】
また、プランジャ受けロッド23の図1の下端部と、プランジャ30の上端部との間のギャップgの大きさは、ソレノイド27によるプランジャ30の吸引力の大きさに関係する。このギャップgの大きさは、小径筒状部20bの雌ねじ部20fに対するプランジャ受けロッド23の雄ねじ23mの螺合量及びロックナット29によって調整することができる。
【0026】
以上の実施形態では、球状弁体32をゴム製とし、弁座14c(弁座ノズル14)を金属(剛体)としたが、弁体を鋼球とし、弁座をゴム製としても同様の作用を得ることができる。
【符号の説明】
【0027】
10 ハウジング
11 入口ポート
12 出口ポート
13 連通路
14 弁座ノズル
14c 環状弁座(弁座)
15 ロックナット
16 Oリング
20 プランジャガイド筒
21 ストッパリング
22 Oリング
23 プランジャ受けロッド
25 コイルハウジング
26 コイル
27 ソレノイド
29 ロックナット
30 プランジャ
31 弁体ホルダ
31t 内面テーパ孔
32 球状弁体(弁体)
33 主弁圧縮コイルばね
34 圧縮コイルばね(ばね手段、コイルばね)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の入口ポート、出口ポート及び両ポートを連通させる連通路に位置する弁座を有するハウジング;
このハウジングに結合されたプランジャガイド筒;
先端部に上記弁座に接離する弁体を有し、上記プランジャガイド筒に軸方向移動自在に挿入されたプランジャ;
上記プランジャを弁体が弁座に当接する方向に付勢するばね手段;及び
このばね手段に抗して上記プランジャを開弁方向に移動させる電磁手段;
を備えた流量調整器において、
上記プランジャの外周面とプランジャガイド筒の内周面との間には、両者の軸線が一致した状態で両者を完全に非接触とし摺動抵抗をゼロとするに十分な隙間が存在すること;
上記弁体は球からなり、該弁体と弁座の一方は剛体、他方は弾性材料からなること;及び
上記ばね手段は、プランジャと同心の圧縮コイルばねからなり、プランジャガイド筒の固定部分と、プランジャ側の可動部分との間に張設されていること;
を特徴とする流量調整器。
【請求項2】
請求項1記載の流量調整器において、上記プランジャの先端部には、該プランジャとは別部材からなる弁体ホルダが結合されており、この弁体ホルダは、上記球からなる弁体の先端一部を弁座側に突出させる内面テーパ孔を有し、上記弁体をこの内面テーパ孔から突出させる方向に付勢する、上記圧縮コイルばねと同心の主弁圧縮コイルばねがさらに設けられている流量調整器。
【請求項3】
請求項1または2記載の流量調整器において、上記弁座は、ハウジングに軸方向の位置調節を自在に結合した弁座ノズルの弁体側端部に設けられている流量調整器。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項記載の流量調整器において、上記プランジャの外周面とプランジャガイド筒の内周面との間の隙間は、プランジャ外径を3.3〜3.7mm、プランジャガイド筒内径を4.1〜4.5mmとしたとき、0.2〜0.6mmである流量調整器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−87905(P2013−87905A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230608(P2011−230608)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(000005175)藤倉ゴム工業株式会社 (120)
【Fターム(参考)】