説明

浮桟橋の設置方法及び浮桟橋

【課題】
コンクリートのひび割れC及びベースプレートの発錆Rを防止又は抑制し、耐久性を向上した浮桟橋1の設置方法及び浮桟橋を提供する。
【解決手段】
ベースプレート10に浮体側キープレート11を溶接して固定する工場溶接工程と、ベースプレート10を浮体本体6の側面に埋め込まれるようにコンクリートを打設して浮体本体6を建造するコンクリート打設工程と、ベースプレート10とフランジ20をボルトで連結する仮止め工程と、浮体側キープレート11に対応する形状を有する架台側キープレート21を、フランジ20に溶接して固定する現場溶接工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河口、海岸、水路、貯木場等に設置する浮桟橋の設置方法及び浮桟橋に関するものである。
【背景技術】
【0002】
船舶、フェリー、ボートの乗降や漁船の物上げ、係船等に浮桟橋を利用している。この浮桟橋は、水上に浮かべた浮体と、浮体を一定の範囲内の位置に係留する係留構造により構成されている。この係留構造は、浮体と海底をチェーンで連結したチェーン係留方式や、開口部等を形成した浮体に海底まで到達する係留杭を貫通させて、浮体が流れないように固定する杭係留方式等がある(例えば特許文献1参照)。特許文献1に記載の浮桟橋は、4隅を切欠いた形状とした浮体を、4本の係留杭で拘束する構成を有している。
【0003】
次に、浮桟橋を水上に設置する工事方法について説明する。図5に、従来の浮桟橋1Xを設置する際の様子を示す。浮桟橋1Xは、浮体2と、係留金物架台3と、係留杭4を有している。浮体2は、工場でコンクリートを打設して建造した浮体本体6と、浮体本体6の打設時にコンクリートに埋め込まれるように固定されたベースプレート10Xと、ベースプレート10Xの下方に固定された下端キープレート5と、ベースプレート10Xに形成されたボルト穴(浮体側)13と、浮体本体6の上面に設置した係留ローラ(浮体側)12を有している。ここで、11Xは、浮体本体6と係留金物架台3を連結する際に使用するキープレート11Xを示している。
【0004】
係留金物架台3は、ベースプレート10Xとボルトで連結するフランジ20と、フランジ20に形成されたボルト穴(架台側)23と、係留杭4に接触する係留ローラ(架台側)22を有している。なお、ベースプレート10X及びフランジ20は、鉄板やステンレス鋼(SUS)等の金属材料で構成している。また、x軸、y軸、z軸は、直交する三次元座標の軸を示している。更に、図5手前側に設置すべき係留杭4は、省略している。
【0005】
次に、浮体2と係留金物架台3の連結の作業手順について説明する。まず、浮桟橋1Xの設置現場で水に浮かべた浮体2に、係留金物架台3を接近させる。その後、ベースプレート10Xとフランジ20のボルト穴13、23の位置を合わせ、ボルト(図示しない)で固定する。
【0006】
図6に、ベースプレート10Xとフランジ20の接合部の拡大図を示す。このベースプレート10Xとフランジ20をボルトで固定した後、フランジ20上方の角にそれぞれL字型のキープレート11Xを配置する。このキープレート11Xとベースプレート10Xを、溶接により固定する。なお、ベースプレート10Xに示した破線は、キープレート11X及びフランジ20の設置位置を模式的に示したものである。
【0007】
図7に、キープレート11Xを、ベースプレート10Xに溶接で固定した様子を示す。PXは、溶接部を示している。この構成により、ベースプレート10Xとフランジ20の間に発生する鉛直方向zのせん断力を、キープレート11Xで支持することができる。その結果、浮桟橋1Xの耐久性(耐用年数)を向上することができる。このとき、ボルトは、x軸方向の引っ張り力のみに抗する。
【0008】
なお、このキープレート11Xを設置しない場合は、複数のボルトのうち特定のものにせん断力が集中し、1本ずつボルトが破断するという事故につながる可能性がある。また、ボルトでせん断力を支持する構造の場合は、浮体本体6側とフランジ20側のボルト穴の位置を正確に合わせる必要がある。つまり、ボルト穴の加工に高い精度が要求され、コスト高の原因となる。
【0009】
以上より、従来の浮桟橋1Xは、製造コストを抑制しながら、一定の耐久性を有するように構成されていた。
【0010】
しかしながら、上記の浮桟橋1Xはいくつかの問題点を有している。第1に、浮体本体6を構成するコンクリートにひび割れCが発生するという問題を有している(図7参照)。このひび割れCは、溶接の熱がベースプレート10Xを介してコンクリートに伝達されるために発生する。このひび割れCにより、コンクリートの耐久性が低下する。また、ひび割れC内に海水又は水等が浸入した場合は、コンクリートの更なる耐久性の低下を引き起こす。
【0011】
第2に、ベースプレート10Xに錆Rが発生するという問題を有している。これは、溶接の熱によりベースプレート10Xが変形して、浮体本体6のコンクリートから浮き上がり、外気にさらされるためである。
【0012】
以上より、従来の浮桟橋1Xは、コンクリートのひび割れC及びベースプレート10Xの発錆Rにより、耐久性が低下している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平10−8419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記の問題を鑑みてなされたものであり、その目的は、コンクリートのひび割れ及びベースプレートの発錆を防止又は抑制し、耐久性を向上した浮桟橋の設置方法及び浮桟橋を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的を達成するための本発明に係る浮桟橋の設置方法は、浮体と、係留金物架台と、係留杭を有する浮桟橋で、前記浮体が、コンクリートを打設して建造した浮体本体と、前記浮体本体に埋め込まれるように固定されたベースプレートを有し、前記係留金物架台が、前記ベースプレートとボルトで連結するフランジと、前記係留杭に接触する係留ローラを有した浮桟橋の設置方法において、前記ベースプレートに浮体側キープレートを溶接して固定する工場溶接工程と、前記ベースプレートを前記浮体本体の側面に埋め込まれるようにコンクリートを打設して前記浮体本体を建造するコンクリート打設工程と、前記ベースプレートと前記フランジをボルトで連結する仮止め工程と、前記浮体側キープレートに対応する形状を有する架台側キープレートを、前記フランジに溶接して固定する現場溶接工程を有することを特徴とする。
【0016】
この構成により、浮体本体を構成するコンクリートにひび割れが発生することを防止又は抑制することができる。これは、浮桟橋を設置する現場で、ベースプレートに対する溶接を行わず、フランジに対して溶接を行うためである。つまり、溶接の熱が、フランジで拡散されコンクリートに伝わりにくいため、浮体本体のひび割れを防止することができる。
【0017】
また、ベースプレートの変形を防止又は抑制することができる。これは、上記と同様、溶接の熱がベースプレートに伝わりにくいためである。このベースプレートの変形防止に
より、ベースプレートの側面が外気にさらされ、錆が発生する等の問題を抑制することができる。
【0018】
上記の浮桟橋の設置方法において、前記浮体側キープレート及び前記架台側キープレートの一方が凹型のキープレートであり、他方が前記凹型のキープレートに対応する凸型のキープレートであることを特徴とする。この構成により、浮体と係留金物架台の間に発生するせん断力(y軸方向及びz軸方向)を支持することができる。
【0019】
上記の目的を達成するための本発明に係る浮桟橋は、浮体と、係留金物架台と、係留杭を有する浮桟橋で、前記浮体が、コンクリートを打設して建造した浮体本体と、前記浮体本体に埋め込まれるように固定されたベースプレートを有し、前記係留金物架台が、前記ベースプレートとボルトで連結するフランジと、前記係留杭に接触する係留ローラを有した浮桟橋において、前記浮体が、前記ベースプレートに溶接により固定された浮体側キープレートを有し、前記係留金物架台が、前記浮体側キープレートに対応する形状を有であり且つ前記フランジに溶接により固定された架台側キープレートを有することを特徴とする。この構成により、前述と同様の作用効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る浮桟橋の設置方法及び浮桟橋によれば、コンクリートのひび割れ及びベースプレートの発錆を防止又は抑制し、耐久性を向上した浮桟橋の設置方法及び浮桟橋を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る実施の形態の浮桟橋のベースプレートを示した概略図である。
【図2】本発明に係る実施の形態の浮桟橋を設置する際の様子を示した概略図である。
【図3】本発明に係る実施の形態の浮桟橋を設置した際の様子を示した概略図である。
【図4】本発明に係る異なる実施の形態の浮桟橋を設置した際の様子を示した概略図である。
【図5】従来の浮桟橋を設置する際の様子を示した概略図である。
【図6】従来の浮桟橋を設置する際の様子を示した概略図である。
【図7】従来の浮桟橋を設置した際の様子を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る実施の形態の浮桟橋及びその設置方法について、図面を参照しながら説明する。図1に、本発明に係る実施の形態の浮桟橋1(図示しない)のベースプレート10及び浮体側キープレート11を示す。浮桟橋1を建造する場合、まず、工場にてベースプレート10に、例えば凹型の浮体側キープレート11を溶接する(工場溶接工程)。P1は、工場で溶接作業を行った工場溶接部P1を示している。その後、枠体等にベースプレート10を配置し、コンクリートを打設して浮体本体6を製造する(コンクリート打設工程)。以上が、工場における作業である。
【0023】
図2に、浮桟橋1を設置する現場の水上にて、浮体本体6にフランジ20を取り付ける際の様子を示す。浮体2は、工場でコンクリートを打設して建造した浮体本体6と、浮体本体6の打設時にコンクリートに埋め込まれるように固定されたベースプレート10と、コンクリート打設前にベースプレート10に溶接されたキープレート11を有している。
【0024】
係留金物架台3は、フランジ20と、浮体側キープレート11に対応する凸型に形成した架台側キープレート21を有している。なお、ベースプレート10と浮体側キープレー
ト11の溶接(工場溶接部P1参照)は、浮体本体6のコンクリート打設前に行っているため、コンクリートのひび割れ及びベースプレート10の変形は発生していない。
【0025】
次に、ベースプレート10とフランジ20の連結について説明する。まず、係留金物架台3を浮体2に接近させ、ベースプレート10とフランジ20の内面側を接触させ、ボルトで固定する(仮止め工程)。その後、図3に示すように、凸型の架台側キープレート21を、浮体側キープレート11の凹部に嵌合させ、且つフランジ20の外面側に接触するように配置する。このとき、架台側キープレート21とフランジ20を溶接する(現場溶接工程)。この浮桟橋1の設置現場で行った溶接を、現場溶接部P2で示している。以上が、現場における作業である。ここで、浮体側キープレート11と架台側キープレート21は、嵌合により浮体2と係留金物架台3の間に発生する鉛直方向z及び水平方向yのせん断力を支持する状態となっている。また、図示していないが、1つの係留金物架台3に対して、2組のキープレート11、12を設置することが望ましい。
【0026】
上記の構成により、以下の作用効果を得ることができる。第1に、浮体本体6を構成するコンクリートにひび割れCが発生することを防止又は抑制することができる。これは、現場での溶接(現場溶接部P2参照)が、フランジ20と架台側キープレート21の間で行われるからである。つまり、溶接の熱は、フランジ20で拡散し、直接ベースプレート10に伝達されない。
【0027】
第2に、ベースプレート10に錆Rが発生することを防止又は抑制することができる。これは、架台側キープレート21を溶接する際の熱が、ベースプレート10に直接伝達されず、熱によるベースプレート10の変形を抑制することができるからである。つまり、ベースプレート10に変形が発生せず、不必要に外気にさらされないからである。
【0028】
なお、工場において、ベースプレート10と浮体側キープレート11の溶接により発生したベースプレート10のひずみは、工場での作業であるため、容易に取り除くことができる。つまり、変形や歪みを取り除いたベースプレート10を、浮体本体6のコンクリートに埋め込むことができる。
【0029】
第3に、浮桟橋1を設置する際の施工時間の短縮、及び現地補修費の抑制を実現することができる。これは、ひび割れC及びベースプレートの変形等が発生する危険性が低く、溶接作業をスムーズに行うことができるからである。また、ひび割れC及び発錆Rを抑制することができるため、補修が必要となる頻度が著しく低下する。加えて、浮桟橋1を設置する現場で架台側キープレート21を、フランジ20に溶接する構成により、ボルト穴の加工精度がある程度低くても、現場にて浮体2と係留金物架台3の最終的な位置合わせを行うことができる。以上より、浮桟橋1の耐久性を向上することができる。
【0030】
図4に、本発明の異なる実施の形態の浮桟橋1Aを設置した際の様子を示す。浮体2Aは、浮体本体6と、予め工場で凸型の浮体側キープレート11Aを溶接(工場溶接部P1参照)したベースプレート10Aを有している。係留金物架台3Aは、フランジ20と、浮体側キープレート11Aに対応する凹型に形成した架台側キープレート21Aを有している。図3に示した実施例と同様に、浮桟橋1Aの設置現場では、フランジ20と架台側キープレート21Aの間の溶接(現場溶接部P2参照)を行う。この構成により、前述と同様の作用効果を得ることができる。
【0031】
なお、浮体側キープレート11と架台側キープレート12の構成は、図3及び図4に示した形状に限られず、浮体2と係留金物架台3の間に発生する鉛直方向z及び水平方向yのせん断力を支持する構成を有していればよい。例えば、ベースプレート10の上方に設置した浮体側キープレート11と、その下方に位置するようにフランジ20に溶接した架
台側キープレート21を採用することができる。このとき、キープレート11、12の強度にもよるが、1つの係留金物架台3の設置について、1組のキープレート11、12の設置で実現することもできる。
【0032】
同様に、浮体側キープレート11と架台側キープレート12を、任意の形状に変更することができる。例えば、従来ベースプレート10に設置していた下端キープレート5(図5参照)を設置した場合、浮体側キープレート11及び架台側キープレート21は、対応する凹型及び凸型のキープレート以外にも、対応する台形状の2つのキープレートで構成することができる。
【符号の説明】
【0033】
1 浮桟橋
2 浮体
3 係留金物架台
4 係留杭
6 浮体本体
10 ベースプレート
11、11A 浮体側キープレート
20 フランジ
21、21A 架台側キープレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮体と、係留金物架台と、係留杭を有する浮桟橋で、
前記浮体が、コンクリートを打設して建造した浮体本体と、前記浮体本体に埋め込まれるように固定されたベースプレートを有し、
前記係留金物架台が、前記ベースプレートとボルトで連結するフランジと、前記係留杭に接触する係留ローラを有した浮桟橋の設置方法において、
前記ベースプレートに浮体側キープレートを溶接して固定する工場溶接工程と、
前記ベースプレートを前記浮体本体の側面に埋め込まれるようにコンクリートを打設して前記浮体本体を建造するコンクリート打設工程と、
前記ベースプレートと前記フランジをボルトで連結する仮止め工程と、
前記浮体側キープレートに対応する形状を有する架台側キープレートを、前記フランジに溶接して固定する現場溶接工程を有することを特徴とする浮桟橋の設置方法。
【請求項2】
前記浮体側キープレート及び前記架台側キープレートの一方が凹型のキープレートであり、他方が前記凹型のキープレートに対応する凸型のキープレートであることを特徴とする浮桟橋の設置方法。
【請求項3】
浮体と、係留金物架台と、係留杭を有する浮桟橋で、
前記浮体が、コンクリートを打設して建造した浮体本体と、前記浮体本体に埋め込まれるように固定されたベースプレートを有し、
前記係留金物架台が、前記ベースプレートとボルトで連結するフランジと、前記係留杭に接触する係留ローラを有した浮桟橋において、
前記浮体が、前記ベースプレートに溶接により固定された浮体側キープレートを有し、
前記係留金物架台が、前記浮体側キープレートに対応する形状を有であり且つ前記フランジに溶接により固定された架台側キープレートを有することを特徴とする浮桟橋。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate