説明

浴室排水装置

【課題】ヘアキャッチャー内の毛髪等のゴミが該ヘアキャッチャーの側周面部及び底面部に絡み付きにくく、旋回流形成時にゴミがヘアキャッチャーの中央に集まり易いと共に、清掃時にヘアキャッチャー内からゴミを容易に排出することができる浴室排水装置を提供する。
【解決手段】ヘアキャッチャー30の側周面部32のうち、少なくとも該側周面部32と底面部31とが交わるコーナー部36(側周面部32の下端)から該側周面部32の全高Hの20%の高さまでの範囲Pは無孔となっている。無孔範囲Pの上端は、コーナー部36から側周面部32の高さ方向の20%以上98%以下、特に50%以上95%以下であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浴槽排水及び洗い場排水を排水トラップに流入させて排出する浴室排水装置に係り、特に、排水トラップの受入室に浴槽排水を略接線方向に受け入れて旋回流を形成させるよう構成された浴室排水装置に関する。
【背景技術】
【0002】
洗い場排水を受け入れる洗い場排水受入口が上部に設けられていると共に、浴槽排水を側周面から受け入れてトラップ内に旋回流を形成させるようにした排水トラップが特許第3886055号、特開2008−82115号に記載されている。このトラップの洗い場排水受入口には、上方が開放したカゴ(篭)状のヘアキャッチャーが着脱自在に装着されている。このヘアキャッチャーは、トラップ内の軸心部付近に垂下している。浴槽排水がトラップ内に流入し、トラップ内の水位が上昇して旋回流が形成されると、このヘアキャッチャーが旋回流に浸漬され、ヘアキャッチャー内の毛髪などのゴミがヘアキャッチャーの中心に集められる。これにより、ゴミを摘んで捨てることができるようになる。また、ヘアキャッチャーの内外面が旋回流に浸漬されて浄化され、ヌメリ等が除去される。
【0003】
上記特開2008−82115号には、ヘアキャッチャーの側周面部と底面部とが交わる部分を無孔部(孔無し部)とすることが記載されている。このようにヘアキャッチャーの側周面部と底面部との交わり部分を無孔とすると、側周面部の内面に沿って流れてきた毛髪がそのまま底孔から下方へ流出することが防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3886055号
【特許文献2】特開2008−82115号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献2の浴室排水装置にあっては、ヘアキャッチャーの側周面部の下端の直近部分にも孔が設けられている。そのため、ヘアキャッチャーの側周面部の下部の孔から、ヘアキャッチャーの底部に溜まった毛髪などの一部が通り抜け易い。その孔から一部抜け出た毛髪は碇のように孔に絡み付く。また、トラップ内の渦水位が上昇してきたときに、ヘアキャッチャーの底面部の孔からだけでなく、側周面部の孔からも水がヘアキャッチャー内に侵入するため、該底面部の孔からの流入水が側周面部の孔からの流入水によって撹乱され、この底面部の孔からの流入水の水勢が弱くなり、ヘアキャッチャーの底面部に付着した毛髪が十分に引き剥がされない。そのため、旋回流により毛髪が十分にヘアキャッチャー中央に集まりにくくなると共に、清掃時にヘアキャッチャー内からゴミを容易に排出できなくなるおそれがあった。
【0006】
本発明は、旋回流形成式排水トラップを備えた浴室排水装置において、ヘアキャッチャー内の毛髪等のゴミが該ヘアキャッチャーの側周面部及び底面部に絡み付きにくく、旋回流形成時にゴミがヘアキャッチャーの中央に集まり易いと共に、清掃時にヘアキャッチャー内からゴミを容易に排出することができる浴室排水装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明(請求項1)の浴室排水装置は、上部から洗い場排水が流入する排水トラップと、浴槽排水を該排水トラップに導入する浴槽排水流路とを有する浴室排水装置であって、該排水トラップは、洗い場排水の受入口を上部に有すると共に、該浴槽排水流路が略接線方向に接続されており、該浴槽排水流路からの浴槽排水を略接線方向に受け入れて旋回させる受入室を備えており、該受入口を通って受入室内にヘアキャッチャーが差し込まれて装着されており、該ヘアキャッチャーは、それぞれ複数の孔を有した側周面部と底面部とを有している浴室排水装置において、該ヘアキャッチャーの該側周面部の下端から側周面部の高さ方向の少なくとも20%の範囲は無孔となっていることを特徴とするものである。
【0008】
請求項2の浴室排水装置は、請求項1において、前記ヘアキャッチャーの側周面部の下端は、側周面部の鉛直方向の接線の仰角が30°以上であることを特徴とするものである。
【0009】
請求項3の浴室排水装置は、請求項1又は2において、前記無孔の範囲の上端は、前記ヘアキャッチャーの側周面部の下端から側周面部の高さ方向の20%以上98%以下であることを特徴とするものである。
【0010】
請求項4の浴室排水装置は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記側周面部の外周面の表面積に対する該側周面部の孔の合計の開口面積の割合は1〜40%であることを特徴とするものである。
【0011】
請求項5の浴室排水装置は、請求項1ないし4のいずれか1項において、前記側周面部の孔は、該側周面部の周方向に延在していることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明(請求項1)の浴室排水装置にあっては、ヘアキャッチャーの側周面部の下端から少なくとも該側周面部の高さ方向の20%までの範囲は無孔となっているので、ヘアキャッチャーの底部に溜まった毛髪などが側周面部に絡み付くことが防止される。また、受入室内の渦水位が上昇してきたときには、この渦水位が側周面部の孔の高さに達するまでは、底面部の孔からのみヘアキャッチャー内に水が流入するため、この底面部からの流入水が側周面部からの流入水に撹乱されず、底面部から強い水勢にてヘアキャッチャー内に水が流入するので、底面部に付着していた毛髪などが十分に底面部から引き剥がされる。これにより、ヘアキャッチャー内の毛髪等のゴミは、全く又は殆どヘアキャッチャーに絡み付くことなく、旋回流により良好にヘアキャッチャーの底面中央部に集められる。
【0013】
受入室内の渦水位が側周面部の孔の高さ以上となると、この側周面部の孔さらには側周面部の上端を乗り越えてヘアキャッチャー内に水が流入し、ヘアキャッチャーが旋回流中に漬かり、この旋回流により、ヘアキャッチャー中央にゴミが集められる。なお、このとき、側周面部の孔よりヘアキャッチャー内へ、該側周面部の略接線方向にノズル状に水が流入するため、ヘアキャッチャー内に効率良く旋回流が形成される。
【0014】
ヘアキャッチャーを掃除する場合には、ヘアキャッチャー内の毛髪等のゴミは、ヘアキャッチャーの底面部や側周面部に全く又は殆ど絡み付くことなく、該ヘアキャッチャーの底面中央部に集められているので、このゴミを容易にヘアキャッチャー外に排出することができる。
【0015】
請求項2の通り、本発明においては、ヘアキャッチャーの側周面部の下端とは、側周面部の鉛直方向の接線の仰角が30°以上となっている部分であることが好ましい。このように規定することにより、例えばヘアキャッチャーが略半球状など、底面部と側周面部との境界部が不明瞭な形状であるときでも、明確に無孔範囲を設定することができる。
【0016】
請求項3の通り、この無孔範囲の上端は、ヘアキャッチャーの側周面部の下端から側周面部の高さ方向の20%以上98%以下であることが好ましい。これにより、浴槽からの排水量が比較的少ないときでも、ヘアキャッチャー内に十分に水を流入させて旋回流を形成することができる。
【0017】
請求項4のように、側周面部の外周面の表面積に対する該側周面部の孔の合計の開口面積の割合を1〜40%と制限することにより、この側周面部の孔を通る水の流速が高められるので、この側周面部の孔から強い水勢にてヘアキャッチャー内に水が流入するようになる。これにより、ヘアキャッチャー内に強力な旋回流が形成され、この旋回流によってヘアキャッチャーの中央に効果的にゴミが集められるようになる。
【0018】
請求項5のように、側周面部の孔は、該側周面部の周方向に延在していることが好ましい。このように構成することにより、側周面部の孔は、受入室内の旋回流の旋回方向と略平行方向に延在したものとなるので、ヘアキャッチャーの周囲の旋回流が側周面部の孔を介して該ヘアキャッチャー内の水に伝わり易く、ヘアキャッチャー内に強く旋回流が形成されるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施の形態に係る浴室排水装置の模式的な縦断面図である。
【図2】図1の浴室排水装置の排水トラップの斜視図である。
【図3】図2のIII−III線に沿う断面図斜視図である。
【図4】図1の浴室排水装置のヘアキャッチャーの斜視図である。
【図5】図4のV−V線に沿う鉛直断面図である。
【図6】別の実施の形態に係る浴室排水装置のヘアキャッチャーの斜視図である。
【図7】図2のVII−VII線に沿う鉛直断面図である。
【図8】別の実施の形態に係る浴室排水装置のヘアキャッチャーの斜視図である。
【図9】図8のIX−IX線に沿う鉛直断面図である。
【図10】別の実施の形態に係る浴室排水装置のヘアキャッチャーの斜視図である。
【図11】図10のXI−XI線に沿う鉛直断面図である。
【図12】本発明の効果を検証する実験結果を示すグラフである。
【図13】本発明の効果を検証する実験結果を示すグラフである。
【図14】本発明の効果を検証する実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
<第1の実施の形態(第1図〜第5図)>
第1図は、浴室の床部に設置された、実施の形態に係る浴室排水装置の模式的な断面図、第2図はこの浴室排水装置の排水トラップの具体的な斜視図、第3図は第2図のIII−III線に沿う断面図、第4図はヘアキャッチャーの斜視図、第5図は第4図のV−V線に沿う鉛直断面図である。
【0022】
浴室1の洗い場パン2の浴槽3側に排水枡4が一体形成されている。この排水枡4に対し下側から排水トラップ10が連結されている。排水トラップ10は、軸心線方向を鉛直方向とした略円筒形の受入室11を有している。
【0023】
この受入室11の側面の流入口12と浴槽3の底面の排水口3aとが接続部5を介して接続されている。この流入口12は受入室11に対し接線方向に水を流入させるように設けられている。
【0024】
受入室11の上面部には、洗い場パン2側からの排水が排水枡4を通り流入する洗い場排水受入口13が設けられている。
【0025】
排水枡4は洗い場パン2と一体状に凹み状に形成されている。その上面には排水目皿(図示略)が覆設されている。
【0026】
排水枡4の底部の開口には円筒形のフランジ部材14がパッキン(図示略)を介して内嵌状に取り付けられ、このフランジ部材14にネジ込み方式により、排水トラップ10の上端が取り付けられている。フランジ部材14を通して、受入口13内に上方から着脱可能にヘアキャッチャー30が差し込まれている。フランジ部材14の上端の外周側は鍔状となっており、この鍔状部が排水枡4の底面開口の縁部に上側から重なっている。
【0027】
このヘアキャッチャー30は、上面が開いたカゴ(篭)状である。この実施の形態では、ヘアキャッチャー30は下方側へ向かって縮径する略逆円錐台形状を有する。このヘアキャッチャー30の詳細については後述する。ヘアキャッチャー30は、その下端が排水トラップ10内の封水面Wよりも若干上方に位置するようにフランジ部材14に支持されている。なお、ヘアキャッチャー30は、排水トラップ10内に形成される旋回流によって上方に押されても浮き上がらないようにフランジ部材14の係止部(図示略)に係止されている。
【0028】
第1,3図に明示の通り、受入室11の底面の中央に流出口16が設けられている。受入室11の下側に流出室17が設けられており、流出口16は、この流出室17に連通している。流出室17は、受入室11の側面に沿って立ち上がる立上室18に連なっている。
【0029】
この実施の形態では、立上室18は流入口12と反対側に設けられているが、これに限定されない。立上室18は、受入室11の外側面に沿って封水面Wよりも上方にまで立ち上がっている。この立上室18の上部に、排水流路としての排水管接続部20が連なっている。この排水管接続部20に排水管21が接続される。この排水管接続部20の底面のレベルが封水面Wとなっている。
【0030】
立上室18内と浴室内とを連通するように通気管22,23が設けられている。この通気管23はヘアキャッチャー30と一体に上下方向に設けられている。通気管23は、その下端が通気管22の上端に着脱自在に嵌合している。通気管22は、受入室11内から、その側周壁を貫いて立上室18内に延在している。この通気管22の下端部は、大径筒状となっており、その底面に複数の小孔22aが設けられている。立上室18内に水が流れると、通気管22,23を通って流水に気泡が混入する。
【0031】
なお、通気管22,23が嵌合することにより、受入室11内の旋回流がヘアキャッチャー30に作用しても、ヘアキャッチャー30は旋回しない。
【0032】
第4,5図に示すように、この実施の形態では、ヘアキャッチャー30は、略円形の底面部31と、該底面部31の周縁部から略上方に立ち上がる略円筒形の側周面部32と、該底面部31及び側周面部33にそれぞれ複数個設けられた通水用の孔33,34と、該側周面部32の上端から側方に突設された鍔部35と、前記通気管23等を有している。この実施の形態では、側周面部32と底面部31とが交わるコーナー部36(第5図)が該側周面部32の下端である。ヘアキャッチャー30の装着時には、鍔部35がフランジ部材14の前記係止部に係合する。
【0033】
第5図の通り、この実施の形態では、底面部31は、中央側ほど低位となる略円錐形状となっている。側周面部32は、上端側ほど径が大きくなるテーパ形状となっている。通気管23は、この側周面部32を略鉛直方向に貫通したものとなっている。
【0034】
底面部31の孔33は、該底面部31を略上下方向に貫通している。この孔33は、底面部31の略全体に満遍なく分布している。
【0035】
側周面部32の各孔34は、この実施の形態では、側周面部32の周方向に延在したスリット状となっている。各孔34は、側周面部32の前記コーナー部36から略同高さに、該側周面部32の周方向に所定の間隔をおいて一直線状に設けられている。この実施の形態では、該孔34は、ヘアキャッチャー30の中央側から外方へ向って略水平方向に側周面部32を貫通している。
【0036】
第5図の通り、各孔34は、前記コーナー部36から該側周面部32の全高Hの20%の高さよりも該側周面部32の上端側に配置されている。なお、この側周面部32の全高Hとは、該コーナー部36から前記鍔部35の下端までの鉛直方向の高さをいう。即ち、側周面部32のうち、少なくともコーナー部36から該側周面部32の全高Hの20%の高さまでの範囲Pは無孔となっている。この無孔範囲Pの上端は、コーナー部36から側周面部32の全高Hの20%以上、特に50%以上の高さに位置していることが好ましい。なお、コーナー部36から側周面部32の高さ方向の98%よりも高位の範囲まで無孔となっていると、浴槽3からの排水量が比較的少ないときにヘアキャッチャー30内に旋回流が十分に形成されないおそれがあるため、この無孔範囲Pの上端は、コーナー部36から側周面部32の高さ方向の20%以上98%以下、特に50%以上95%以下の高さに位置していることが好ましい。
【0037】
側周面部32のコーナー部36からの全高Hは10mm以上特に20mm以上であることが好ましい。また、全高Hが100mm以上になると、ヘアキャッチャー30が極端に深いものとなるので、側周面部32のコーナー部36からの全高Hは100mm以下特に50mm以下であることが好ましい。
【0038】
底面部31の直径Db(第5図)は40〜90mm特に50〜80mmであることが好ましい。
【0039】
側周面部32の外周面の表面積に対する孔34の合計の開口面積の割合は1〜40%特に5〜15%であることが好ましい。孔34の合計の開口面積をこのように制限することにより、これらの孔34を通る水の流速が高められるので、これらの孔34から強い水勢にてヘアキャッチャー30内に水が流入するようになる。これにより、ヘアキャッチャー30内に強力な旋回流が形成され、この旋回流によってヘアキャッチャー30の中央に効果的にゴミが集められるようになる。なお、側周面部32の外周面の表面積に対する孔34の合計の開口面積の割合を40%よりも大きくすると、これらの孔34を通る水の流速を高める効果が低下するため、ヘアキャッチャー30内に形成される旋回流の水勢が弱まり、ヘアキャッチャー30の中央に効果的にゴミを集められなくなるおそれがある。
【0040】
なお、孔34の配置は、この無孔範囲Pよりも高位に位置していれば、図示の配置に限定されない。また、孔34の形状も、図示の形状に限定されない。
【0041】
孔34を側周面部32の周方向(即ち旋回流の旋回方向と略平行方向)に延在したスリット状とすることにより、ヘアキャッチャー30の周囲の旋回流が該ヘアキャッチャー30内の水に伝わり易く、ヘアキャッチャー30内に強く旋回流が形成されるようになる。この場合、側周面部32の周方向に隣り合う孔34,34同士の間の支柱状の部分34aの本数を4〜32本特に4〜16本とすることにより、これらの支柱状部分34aによってヘアキャッチャー30の周囲の旋回流がヘアキャッチャー30内の水に伝わりにくくなることを抑制することができる。
【0042】
このように構成された浴室排水装置の作動について次に説明する。
【0043】
水を張った浴槽3の排水口3aの排水栓を抜くと、浴槽3内の水が流入口12から排水トラップ10の受入室11内に流入し、この受入室11内に渦状の旋回流を形成する。受入室11内の水位は次第に上昇し、ヘアキャッチャー30あるいはさらに排水枡4が旋回流に浸水した状態となる。これにより、排水枡4の内面やヘアキャッチャー30に付着しているゴミがこすり落とされて、毛髪等のゴミは渦の中心に集められ、ヘアキャッチャー30の底面中央部に集められる。
【0044】
この浴室排水装置にあっては、ヘアキャッチャー30の側周面部32の下端(コーナー部36)から少なくとも該側周面部32の全高Hの20%の高さまでの範囲Pは無孔となっているので、ヘアキャッチャー30の底部に溜まった毛髪などが側周面部32に絡み付くことが防止される。また、受入室11内の渦水位が上昇してきたときには、この渦水位が側周面部32の孔34の高さに達するまでは、底面部31の孔33からのみヘアキャッチャー30内に水が流入するため、この底面部31の孔33からの流入水が側周面部32の孔34からの流入水によって撹乱されず、この底面部31の孔33から強い水勢にてヘアキャッチャー30内に水が流入するので、底面部31に付着していた毛髪などが十分に底面部31から引き剥がされる。これにより、ヘアキャッチャー30内の毛髪等のゴミは、全く又は殆どヘアキャッチャー30に絡み付くことなく、旋回流により良好にヘアキャッチャー30の底面中央部に集められる。
【0045】
受入室11内の渦水位が側周面部32の孔34以上となると、該孔34さらには側周面部32の上端を乗り越えてヘアキャッチャー30内に水が流入し、ヘアキャッチャー30が旋回流中に漬かる。
【0046】
この実施の形態では、該無孔範囲Pの上端はヘアキャッチャー30の側周面部32の下端から側周面部32の高さ方向の20%以上98%以下となっているので、浴槽3からの排水量が比較的少ないときでも、ヘアキャッチャー30内に十分に水が流入して旋回流が形成される。
【0047】
受入室11内で旋回している水の一部は、渦の中心付近から受入室11の底部中央の流出口16を通って流出室17に流れ落ち、該流出室17、立上室18及び排水管接続部20を経て排水管21へ流出する。
【0048】
流出室17及び立上室18内に水が流れると、通気管23,22及び小孔22aを介して流水に気泡が混入する。これにより、排水管21に生じる負圧が軽減される。この結果、排水トラップ10の流出室17及び立上室18内の水が殆どすべて排水管21へ吸い出されて排水トラップ10が破封することが防止される。
【0049】
浴槽3からすべての水が流出すると、旋回流は停止し、排水トラップ10内には封水面Wのレベルの封水が残る。また、通気管22内にも小孔22aから水が流入し、通気管22内にも封水面Wまで封水が存在する。
【0050】
これにより、排水管21側と洗い場及び浴槽3側とはいずれも封水によって隔絶されることになり、排水管21の臭気が洗い場や浴槽3へ逆流することが防止される。
【0051】
ヘアキャッチャー30を掃除する場合には、排水目皿を取り外し、通気管23を摘んでヘアキャッチャー30を取り出し、ヘアキャッチャー30内のゴミを捨てることができる。
【0052】
前述の通り、この浴室排水装置にあっては、ヘアキャッチャー30内の毛髪等のゴミは、ヘアキャッチャー30の底面部31や側周面部32に全く又は殆ど絡み付くことなく、該ヘアキャッチャー30の底面中央部に集められているので、このゴミを容易にヘアキャッチャー30外に排出することができる。
【0053】
[実験例]
<実験1> 上記の浴室排水装置において、側周面部32の下端からの無孔範囲Pの上端の高さを変えると、受入室11内の旋回流によりヘアキャッチャー30の中央部に集められる毛髪量がどのように変化するか検証する実験を行った。
【0054】
ヘアキャッチャー30の上端部の直径Dt(第5図)を105mmとし、底面部31の直径Dbを65mmとし、コーナー部36からの側周面部32の全高Hを25mmとした。コーナー部36からの無孔範囲Pの上端の高さを側周面部32の全高Hの0%、20%、40%、60%、80%、100%と変化させ、それぞれにおいて、ヘアキャッチャー30内に毛髪を入れた状態で浴槽3内から100L(リットル)の水を排出し、受入室11内で形成された旋回流によりヘアキャッチャー30の中央部に集められた毛髪量を計測した。結果を第12図に示す。
【0055】
第12図から明らかなように、無孔範囲Pの上端の高さがコーナー部36から側周面部32の全高Hの20%を超えると、ヘアキャッチャー30の中央部に集められる毛髪量が顕著に増大する。なお、統計的に、平均的な家族構成の家庭において平均的な使用頻度にて通常の使用方法により1週間浴室を使用した場合、ヘアキャッチャー30内に乾燥重量で2.0g(グラム)前後の毛髪が溜まる。そのため、一般的に、ヘアキャッチャー30内に2.0g程度の毛髪が入っている状態で排水したときに、この毛髪の全量をヘアキャッチャー30の中央に集められるか否かが旋回流形成式排水トラップの性能の良悪の目安とされる。
【0056】
<実験2> 上記の浴室排水装置において、側周面部32の周方向に隣り合う孔34,34同士の間の支柱状部分34aの本数を2本、4本、8本、16本、32本と変化させ、それぞれにおいて、コーナー部36からの無孔範囲Pの上端の高さを側周面部32の全高Hの80%とし、ヘアキャッチャー30内に毛髪を入れた状態で浴槽3内から100L(リットル)の水を排出し、受入室11内で形成された旋回流によりヘアキャッチャー30の中央部に集められた毛髪量を計測した。他の緒元値は実験1と同様である。結果を第13図に示す。
【0057】
第13図から明らかなように、支柱状部分34aの本数が4〜16本のときに、ヘアキャッチャー30の中央部に集められる毛髪量が顕著に多いものとなる。
【0058】
<実験3> 上記の浴室排水装置において、側周面部32の外周面の表面積に対する孔34の合計の開口面積の割合を0%、5%、10%、20%、40%、60%と変化させ、それぞれにおいて、コーナー部36からの無孔範囲Pの上端の高さを側周面部32の全高Hの80%とし、ヘアキャッチャー30内に毛髪を入れた状態で浴槽3内から100L(リットル)の水を排出し、受入室11内で形成された旋回流によりヘアキャッチャー30の中央部に集められた毛髪量を計測した。他の緒元値は実験1と同様である。結果を第14図に示す。
【0059】
第14図から明らかなように、側周面部32の外周面の表面積に対する孔34の合計の開口面積が5〜40%のときに、ヘアキャッチャー30の中央部に集められる毛髪量が顕著に多いものとなる。
【0060】
なお、側周面部32の外周面の表面積に対する孔34の合計の開口面積が40%を超えると、ヘアキャッチャー30の中央部に集められる毛髪量が著しく減少する。
【0061】
<第2の実施の形態(第6図及び第7図)>
第6図は、別の実施の形態に係る浴室排水装置のヘアキャッチャーの斜視図、第7図は第6図のVII−VII線に沿う鉛直断面図である。
【0062】
上記の第1の実施の形態のヘアキャッチャー30においては、側周面部32の上端近傍にのみ孔34が設けられているが、側周面部32の下端(コーナー部36)から該側周面部32の全高Hの20%よりも高位の範囲内であれば、孔34の配置はこれに限定されない。
【0063】
第6,7図のヘアキャッチャー30Aにおいては、側周面部32の周方向に延在するスリット状の孔34が上下多段に(この実施の形態では3段。ただし、2段であっても、4段以上であってもよい。孔34は、側周面部32の周方向に延在するスリット状でなくてもよい。)設けられている。最下段の孔34は、コーナー部36から側周面部32の全高Hの20%の高さかそれよりも若干(例えば2〜5mm)高位に位置し、最上段の孔34は、好ましくはコーナー部36から側周面部32の全高Hの98%特に好ましくは95%の高さよりも低位に位置している。ヘアキャッチャー30Aにおいては、該コーナー部36とこの最下段の孔34との間が無孔範囲Pとなっている。
【0064】
このヘアキャッチャー30Aのその他の構成は、前述の第1の実施の形態におけるヘアキャッチャー30と同様である。
【0065】
このヘアキャッチャー30Aを備えた浴室排水装置にあっても、第1の実施の形態の浴室排水装置と同様の作用効果が奏される。
【0066】
このヘアキャッチャー30Aにあっては、最下段の孔34は、コーナー部36から側周面部32の全高Hの20%の高さかそれよりも若干高位に位置しているので、浴槽3からの排水量が少なくても十分にヘアキャッチャー30A内に水が流入する。また、このヘアキャッチャー30Aにあっては、孔34が上下多段に設けられているので、ヘアキャッチャー30Aの周囲の旋回流が十分にヘアキャッチャー30A内の水に伝わり、ヘアキャッチャー30A内に強力な旋回流が形成される。
【0067】
<第3の実施の形態(第8図及び第9図)>
第8図は、別の実施の形態に係る浴室排水装置のヘアキャッチャーの斜視図、第9図は第8図のIX−IX線に沿う鉛直断面図である。
【0068】
上記の第1及び第2の実施の形態のヘアキャッチャー30,30Aにおいては、底面部31が略平坦なものであると共に側周面部32が略円筒状となっており、これらがコーナー部36において略L字形に交わったものとなっているが、ヘアキャッチャーの形状はこれに限定されない。
【0069】
第8,9図のヘアキャッチャー30Bは、その底部中央付近から上端近傍まで連続して略半球面状に湾曲したものとなっている。本発明においては、このように底面部31と側周面部32との境界が不明瞭である略半球形状のヘアキャッチャー30Bにあっては、第9図の通り、その底部中央部から上端近傍に至るまでの間で、その鉛直断面内における接線Sの水平方向に対する仰角θが30°以上となる部分を底面部31と側周面部32との境界部とする。第9図の符号37は、この底面部31と側周面部32との境界部を示している。なお、この境界部37よりもヘアキャッチャー30Bの底面中央側が底面部31であり、それよりもヘアキャッチャー30Bの上端側が側周面部32である。この境界部37が側周面部32の下端となる。
【0070】
このヘアキャッチャー30Bにおいては、該境界部37から側周面部32の全高Hの20%の高さよりも該側周面部32の上端側に孔34が設けられている。この実施の形態では、前述の第1の実施の形態におけるヘアキャッチャー30と同様に、孔34は側周面部32の周方向に延在したスリット状であり、複数の該孔34が側周面部32の前記境界部37から略同高さに、該側周面部32の周方向に所定の間隔をおいて一直線状に設けられている。
【0071】
このヘアキャッチャー30Bのその他の構成は、前述の第1の実施の形態におけるヘアキャッチャー30と同様である。
【0072】
このヘアキャッチャー30Bを備えた浴室排水装置にあっても、第1の実施の形態の浴室排水装置と同様の作用効果が奏される。
【0073】
<第4の実施の形態(第10図及び第11図)>
第10図は、別の実施の形態に係る浴室排水装置のヘアキャッチャーの斜視図、第11図は第10図のXI−XI線に沿う鉛直断面図である。
【0074】
上記の第3の実施の形態のヘアキャッチャー30Bにおいては、側周面部32の上端近傍にのみ孔34が設けられているが、側周面部32の下端(境界部37)から該側周面部32の全高Hの20%よりも高位の範囲内であれば、孔34の配置はこれに限定されない。
【0075】
第10,11図のヘアキャッチャー30Cにおいては、前述の第2の実施の形態のヘアキャッチャー30Aと同様に、側周面部32の周方向に延在するスリット状の孔34が上下多段に(この実施の形態でも3段。ただし、2段であっても、4段以上であってもよい。孔34は、側周面部32の周方向に延在するスリット状でなくてもよい。)設けられている。最下段の孔34は、境界部37から側周面部32の全高Hの20%の高さかそれよりも若干(例えば2〜5mm)高位に位置し、最上段の孔34は、好ましくは境界部37から側周面部32の全高Hの98%特に好ましくは95%の高さよりも低位に位置している。ヘアキャッチャー30Cにおいても、該境界部37とこの最下段の孔34との間が無孔範囲Pとなっている。
【0076】
このヘアキャッチャー30Cのその他の構成は、前述の第3の実施の形態におけるヘアキャッチャー30Bと同様である。
【0077】
このヘアキャッチャー30Cを備えた浴室排水装置にあっても、第1の実施の形態の浴室排水装置と同様の作用効果が奏される。
【0078】
また、このヘアキャッチャー30Cにあっては、最下段の孔34は、境界部37から側周面部32の全高Hの20%よりも若干高位に位置しているので、浴槽3からの排水量が少なくても十分にヘアキャッチャー30C内に水が流入する。また、このヘアキャッチャー30Cにあっては、孔34が上下多段に設けられているので、ヘアキャッチャー30Cの周囲の旋回流が十分にヘアキャッチャー30C内の水に伝わり、ヘアキャッチャー30C内に強力な旋回流が形成される。
【0079】
上記実施の形態は本発明の一例であり、本発明は図示以外の態様をもとりうる。
【符号の説明】
【0080】
11 受入室
12 流入口
16 流出口
18 流出室
19 流出口部材
20 排水管接続部
21 排水管
22,23 通気管
30,30A,30B,30C ヘアキャッチャー
31 底面部
32 側周面部
33 底面部の孔
34 側周面部の孔
36 底面部と側周面部とが交わるコーナー部
37 底面部と側周面部との境界部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部から洗い場排水が流入する排水トラップと、
浴槽排水を該排水トラップに導入する浴槽排水流路と
を有する浴室排水装置であって、
該排水トラップは、洗い場排水の受入口を上部に有すると共に、該浴槽排水流路が略接線方向に接続されており、該浴槽排水流路からの浴槽排水を略接線方向に受け入れて旋回させる受入室を備えており、
該受入口を通って受入室内にヘアキャッチャーが差し込まれて装着されており、
該ヘアキャッチャーは、それぞれ複数の孔を有した側周面部と底面部とを有している浴室排水装置において、
該ヘアキャッチャーの該側周面部の下端から側周面部の高さ方向の少なくとも20%の範囲は無孔となっていることを特徴とする浴室排水装置。
【請求項2】
請求項1において、前記ヘアキャッチャーの側周面部の下端は、側周面部の鉛直方向の接線の仰角が30°以上であることを特徴とする浴室排水装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記無孔の範囲の上端は、前記ヘアキャッチャーの側周面部の下端から側周面部の高さ方向の20%以上98%以下であることを特徴とする浴室排水装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記側周面部の外周面の表面積に対する該側周面部の孔の合計の開口面積の割合は1〜40%であることを特徴とする浴室排水装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記側周面部の孔は、該側周面部の周方向に延在していることを特徴とする浴室排水装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−203167(P2010−203167A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−50928(P2009−50928)
【出願日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)
【Fターム(参考)】