説明

海水利用の湿式石灰石−石膏法脱硫装置

【課題】高石灰石濃度、低Cl濃度、低温度の吸収液を排ガスに噴霧して排ガスの脱硫を効率的に行い、海水を利用することで排ガス脱硫に必要な工業用水を低減すること。
【解決手段】排ガス1中に含まれる硫黄酸化物・酸性ガスを石灰石スラリ16を用いて除去するために、排ガス流れ方向に複数段配置されたスプレ部6と液溜部5とからなる吸収塔4と、石灰石25と水とで石灰石スラリ16を生成するスラリタンク24と、液溜部5の吸収液を複数段のスプレ部6にそれぞれ送給する複数の循環ポンプ28,29と、を備えた湿式石灰石−石膏法脱硫装置であって、石灰石スラリ16を生成する水として海水27を用い、スプレ部6の最上段に吸収液を送給する循環ポンプ28の吸い込み側に、海水27を用いた石灰石スラリ16を供給するようにすること。この構成によって、海水利用と排ガス脱硫の効率化を同時に達成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火力発電所や工場等に設置されるボイラ等の燃焼設備から排出される排ガスを浄化するための排煙処理装置に係り、特に、ボイラ等の燃焼排ガス中に含まれる硫黄酸化物や、塩化水素、フッ化水素等の酸性ガスや、煤塵及び燃料中に含まれる微量成分等の人的に有害な物質、を低減する湿式排煙脱硫装置において、効率的に脱硫を行うとともに、脱硫に必要な工業用水を低減する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電設備における湿式排煙脱硫装置の一般的な系統を図5に示す。なお、後述する各図において同一機器には同一番号を付すこととする。図5において、火力発電所や工場等に設置されるボイラ等から排出される排ガス1は、電気集塵器19にて排ガス中のダストが除去された後、排ガスファン20により昇圧され、吸収塔ガス入口部3から吸収塔4に導入される。
【0003】
石灰石25とろ液18からなる石灰石スラリ16が吸収塔4の液溜部5に供給される。吸収塔4の液溜部5にあるスラリ状の吸収液は、吸収液循環ポンプ28,29により昇圧され、スプレノズル9から噴霧される吸収液と排ガス1との気液接触により、排ガス中の硫黄酸化物や塩化水素・フッ化水素等の酸性ガスが、吸収液の液滴表面に吸収される。その後、排ガスに同伴されるミストは、吸収塔4出口に設置したミストエリミネータ7により除去された後、最終的に煙突より排出される。吸収塔内部での蒸発や排水による水分損失は、図5に示す工業用水26を補給することにより補う。
【0004】
吸収塔液溜部5には、酸化用空気ブロワ17からの空気と硫黄酸化物から生成された亜硫酸カルシウムとの酸化反応により石膏スラリとなる。吸収塔4の液溜部5内の吸収液スラリは、吸収塔抜出しポンプ11により、石膏生成量に応じて、吸収塔4の液溜部5から石膏脱水設備12に抜き出され、石膏脱水設備12にて脱水された後、粉体の石膏14として回収される。このように、図5に示す脱硫装置系では、脱硫に必要な水として工業用水を利用している。上述の通り、ボイラ等から排出される排ガス中に含まれる硫黄酸化物、酸性ガス等を除去する手段として湿式脱硫装置としては一般的に公知であり、且つ実用化された技術である。
【0005】
また、上記の従来技術に関し、吸収塔補給水として海水を利用する発明として、例えば特許文献1が挙げられる。この特許文献1によれば、硫黄酸化物を含有するガスを湿式排煙脱硫処理するにあたり、カルシウム系化合物吸収液の形成に使用する水分として海水を使用し、かつ吸収液のpHを4.5未満に保持し、さらに吸収液中のMg濃度を1,000mg/L又はそれ以下とすることにより、湿式排煙脱硫に必要な良質の補給水の約80%を海水で代用できる旨が開示されている。
【0006】
また、石灰石と海水を用いて脱硫・脱塵する従来技術として、例えば特許文献2が挙げられ、この特許文献2によると、石灰石スラリの噴霧による一次脱硫スプレノズルと、一次脱硫スプレノズルより上方に配設されて海水を噴霧する二次脱硫スプレノズルとを備え、二次脱硫スプレノズルより噴霧される海水を受けて外部へ流出させるための海水回収部とをさらに備え、大半の脱硫を安価な石灰石で一次脱硫し、残りは水酸化マグネシウムあるいは海水を用いる旨が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−275648号公報
【特許文献2】特開2001−170444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上述した湿式排煙脱硫装置における従来技術において(図5を参照)、ボイラ等から排出される排ガス温度、吸収塔入口のガス温度は、120〜160℃と比較的高温であるため、吸収塔4内での気液接触により蒸発水量が多くなり、吸収塔液溜部5の液レベル、吸収液スラリ濃度を一定に維持し、脱硫装置全体の水バランスを維持するためには、吸収塔4に多量の工業用水26を補給する必要があるという課題があった。
【0009】
一方で、上記の特許文献1,2に開示されているように、補給水として海水を利用しようとした場合、工業用水中のCl濃度(塩素濃度)は数百ppmであるのに対し、海水中のCl濃度は約20,000ppmであり、吸収塔内での水分蒸発によって脱硫装置系内のClが濃縮し、これにより脱硫性能が低下(補給水として海水を用いた場合に海水が次第に濃縮され、海水中に含有される塩素濃度が高まり、限度を超えると石灰石溶解性が不十分となり脱硫性能が低下)するという課題がある。
【0010】
本発明の目的は、火力発電所等のプラント設備に設置する湿式排煙脱硫装置において、必要な工業用水量の低減を図るとともに、脱硫装置系内のCl濃度増加による脱硫性能低下を抑制する、海水利用の湿式石灰石−石膏法脱硫装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、本発明は次のような構成を採用する。
排ガス中に含まれる硫黄酸化物・酸性ガスを石灰石スラリを用いて除去するために、排ガス流れ方向に複数段配置されたスプレ部と液溜部とからなる吸収塔と、石灰石と水とで石灰石スラリを生成するスラリタンクと、前記液溜部の吸収液を前記複数段のスプレ部にそれぞれ送給する複数の循環ポンプと、を備えた湿式石灰石−石膏法脱硫装置であって、前記石灰石スラリを生成する水として海水を用い、前記スプレ部の最上段に前記吸収液を送給する循環ポンプの吸い込み側に、前記海水を用いた石灰石スラリを供給するように接続構成すること。
【0012】
また、前記海水利用の湿式石灰石−石膏法脱硫装置において、前記スプレ部の最上段への前記吸収液と前記石灰石スラリからなるスプレ量を、前記最上段以外のスプレ部への前記吸収液からなるスプレ量よりも少なくすること。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、吸収塔のスプレ部最上段の循環ポンプの吸い込み側に海水の混入した石灰石スラリを供給することにより、高石灰石濃度、低Cl濃度、低温度の吸収液を排ガスに噴霧できるので、排ガスの脱硫を効率的に行うことができる。さらに、海水を利用することで排ガス脱硫に必要な工業用水を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係る海水利用の湿式石灰石−石膏法脱硫装置における系統構成例を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係る海水利用の湿式石灰石−石膏法脱硫装置における他の系統構成例を示すブロック図である。
【図3】脱硫装置系内のCl濃度と石灰石溶解性の関連を示す特性図である。
【図4】本実施形態に係る脱硫装置による吸収液量/ガス量(L/G)への影響を、比較例と対比して説明する表である。
【図5】従来技術に関する工業用水利用の湿式石灰石−石膏法脱硫装置における系統構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態に係る海水利用の湿式石灰石−石膏法脱硫装置について、図1〜図4を参照しながら以下説明する。各図面の図示内容は、図面の簡単な説明欄に記述したとおりである。図面において、1はボイラ出口排ガス、2は脱硫装置ガス出口部、3は脱硫装置ガス入口部、4は吸収塔、5は吸収塔液溜部、6は吸収塔スプレ部(吸収部)、7はミストエリミネータ、8はスプレヘッダ、9はスプレノズル、10はバイパスライン、11は吸収液抜出しポンプ、12は石膏脱水設備、13は吸収液循環配管、14は石膏、15は酸化用攪拌機、16は石灰石スラリ、17は酸化用空気ブロワ、18はろ液、19は電気集塵器、20は排ガスファン、21はろ液回収タンク、22はろ液ポンプ、23は排水ライン、24は石灰石スラリタンク、25は石灰石、26は工業用水、27は海水、28は吸収塔上段循環ポンプ、29は吸収塔下段循環ポンプ、30は開閉バルブ、をそれぞれ表す。
【0016】
図1において、火力発電所や工場等に設置されるボイラ等からの排ガス1は、吸収塔ガス入口部3から吸収塔4に導入され、排ガス1中に含まれる硫黄酸化物や塩化水素・フッ化水素等の酸性ガスが、吸収塔4内を循環する吸収液の液滴表面に吸収され除去される、という基本構成を示している。ここで、本実施形態を表す図1では、石灰石スラリ16を生成するために海水27を利用し、さらに、吸収塔4のスプレ部(吸収部)6最上段に送給する循環ポンプ28の吸い込み側に石灰石スラリ16が供給される構成を備えている。なお、本実施形態に係る脱硫装置というのは、図1において、排ガスファン20以降の排ガス流れ系統と、酸化用空気ブロワ17、吸収液抜出しポンプ11を含めた構成系と、海水27を利用した石灰石スラリタンク24を含めた構成系と、からなるものであり、広義には石膏脱水設備12をもつ構成系を含めてもよい。
【0017】
図1に示す系統構成を更に詳しく説明すると、火力発電所や工場等に設置されるボイラ等から排出される排ガス1は、電気集塵器19にて排ガス中のダストが除去された後、排ガスファン20により昇圧され、吸収塔ガス入口部3から吸収塔4に導入される。ここで、火力発電所や工場等に設置されるボイラ等から排出される排ガス温度は、使用する燃料によっても異なるが、石炭焚きボイラの場合、通常は、120〜160℃の比較的高温のガス温度である。
【0018】
吸収塔4は液溜部5とスプレ部(吸収部)6から構成され、吸収塔4の液溜部5には、ボイラ等からの排ガス1に含まれる硫黄酸化物や塩化水素・フッ化水素等の酸性ガス(以後、硫黄酸化物等とも称する)の量に応じて、石灰石スラリタンク24より石灰石スラリ16が供給される。石灰石スラリタンク24では石灰石25と海水27により石灰石スラリ16の量及び濃度が調整される。吸収塔4の液溜部5にあるスラリ状(固体粒子が液体中に懸濁している流動体)の吸収液は、吸収液循環ポンプ28,29により昇圧され、吸収液循環配管13を経由して、吸収塔4内の上部の吸収部6に、ガス流れ方向に多段に設けたスプレヘッダ8に供給される。
【0019】
各スプレヘッダ8には、多数のスプレノズル9が設けられており、このスプレノズル9から噴霧される吸収液とボイラ等からの排ガス1との気液接触により、排ガス中に含まれる硫黄酸化物や塩化水素・フッ化水素等の酸性ガスが、吸収塔4内を循環する吸収液の液滴表面に吸収される。その後、排ガスに同伴されるミスト(気体中に分散した液状微粒子)は、吸収塔4出口に設置したミストエリミネータ7により除去された後、最終的に煙突より排出される。吸収塔内部での蒸発や、排水などによる系内の水分損失は、図1に示す海水27を補給することにより補うことができる。
【0020】
吸収塔4出口に設置されたミストエリミネータ7には、吸収塔4を循環する吸収液が飛散し、ミストエリミネータ7エレメントに付着するため、水洗装置を設けており、水洗水として海水27を用いてミストエリミネータ7エレメントの水洗を行っている。
【0021】
ボイラ等から排出される排ガス1中に含まれる硫黄酸化物等は、吸収液中のカルシウム化合物と反応し、中間生成物として亜硫酸カルシウムとなり、吸収塔液溜部5に流下する。一方、吸収塔液溜部5には、酸化用空気ブロワ17より空気を強制供給し、該空気と亜硫酸カルシウムとの酸化反応により、反応生成物として石膏スラリとなる。なお、その際に吸収塔液溜部5に供給する酸化空気は、吸収塔液溜部5内の吸収液を攪拌する酸化用攪拌機15により微細化されることにより、酸化空気の利用率を高めている。
【0022】
吸収塔4の液溜部5内の吸収液は概ね50℃程度であるが、酸化用空気ブロワ17出口の空気温度は、通常、120〜150℃であり、そのまま吸収塔4の液溜部5に供給すると吸収塔4の液溜部5の吸収液中に内挿した配管端部で乾・湿繰り返しが生じるため、図1に示すように、酸化用空気ブロワ17出口の空気は、工業用水26の噴霧により空気温度を低下させ、吸収塔4の液溜部5に供給される。
【0023】
吸収塔4の液溜部5内の吸収液スラリは、吸収塔抜出しポンプ11により、石膏生成量に応じて、吸収塔4の液溜部5から石膏脱水設備12に抜き出され、石膏脱水設備12にて脱水された後、粉体の石膏14として回収される。
【0024】
以上説明したように、図1に示す本実施形態の構成例において、吸収液となるスラリ状の石灰石スラリ16は石灰石スラリタンク24でその量と濃度が調整され、吸収塔スプレ部6の最上段に送給する循環ポンプ28の吸い込み側に供給される。そして、この石灰石スラリ供給ラインの経路中で補給水となる海水27を混入できるラインを設けることが、当該構成例の特徴の1つである。従来技術において、火力発電所や工場等に設置されるボイラ等からの排ガス1は、排ガス温度が120〜160℃と、比較的高温のまま、吸収塔4内に導入されるため、吸収塔4内での蒸発水量が多くなるといった課題がある。そのため、大量の吸収塔補給水が必要となるが、本実施形態においては、工業用水の代わりに海水を補給水として利用することで、使用できる工業用水が少ない地域においても、湿式石灰石‐石膏法脱硫装置を活用することが可能となる。
【0025】
さらに、図1に示す本構成例をその機能乃至作用とともに説明すると、ボイラ等からの排ガス1は、吸収塔4のスプレ部(吸収部)6に導入され、吸収液である石灰石スラリ16の液滴と気液接触することにより、排ガス中に含まれる硫黄酸化物が吸収液中に取り込まれて除去される。吸収液循環配管13の石灰石スラリ中には硫黄酸化物の他、副生成物である石膏14が含まれており、pHはおよそ5.5〜6.0に維持されている。滞留部5で生成した石膏は石膏脱水設備12によって連続的に抜き出される系統構成となっており、スプレされる吸収液中の石膏濃度はおよそ20%となっている。
【0026】
吸収液の脱硫性能については、石灰石濃度の高い方がpHも高くなり、より好条件となるため、石灰石スラリを吸収塔スプレ部6の最上部への循環ポンプ28の吸い込み側に直接供給することにより、石灰石濃度の高い吸収液を、滞留時間が最も高くなるようにスプレ部(吸収部)6で噴霧することができ、効率的に脱硫することができる。換言すると、石灰石スラリ16の供給ラインを吸収塔循環ポンプ28の吸い込み側に接続することは、高石灰石濃度の吸収液をスプレすることを可能にするため、海水利用による脱硫装置系内Cl濃度増加による脱硫性能低下を抑制できる。
【0027】
また、石灰石スラリ供給ラインの経路途中で海水(Cl濃度:約20,000ppm)を補給水として混入することで、脱硫装置系内で濃縮したCl濃度(100,000ppm)を低下させ、石灰石溶解性低下を抑え、脱硫性能低下を抑制できる。すなわち、石灰石スラリ16を供給する際に補給水となる海水27(Cl濃度:約20,000ppm)を同時に供給することで、系内で濃縮した吸収液中のCl濃度(100,000ppm)を低減することが可能となり、補給水として海水27を利用した際の脱硫性能低下を抑制する作用がある。図3には脱硫装置系内Cl濃度と石灰石溶解性の関係を示しているが、海水27(Cl濃度:約20,000ppm)の補給によって系内Cl濃度(100,000ppm)を低くすると石灰石溶解性が高くなり、脱硫性能が向上することを表している。
また、通常脱硫装置系内はおよそ50℃に維持されているが、およそ30℃の海水を吸収塔スプレ部最上段の循環ポンプ28吸い込み側に供給することにより、吸収液温度を低下させ、補給水として海水27を利用した際の脱硫性能低下を抑制する作用がある。ガス状の硫黄酸化物SOxが吸収液に溶解する溶解度は温度の低い方が高いので、吸収液の温度が低下すれば脱硫性能が良くなることは周知の事実である。
【0028】
以上のように、本実施形態に係る湿式排煙脱硫装置の石灰石スラリ供給ラインを、吸収塔のスプレ部最上段の循環ポンプの吸い込み側に接続し、石灰石スラリ供給ラインの経路中で海水を供給できるように接続することによって、高石灰石濃度、低Cl濃度、低温度の吸収液を噴霧することとと、海水を補給水として供給することが同時に達成される。
【0029】
次に、図1に示す系統構成における改良例を説明する。図1の系統において、石灰石スラリ16を循環ポンプ28の吸い込み側に供給しているが、その供給の仕方について改良するものである。すなわち、石灰石スラリ16を循環ポンプ28の吸い込み配管の内周壁側に供給する改良例とすること(すなわち、石灰石スラリ16を配管の中央部分に供給するのではなくて、配管内周壁の複数部位から吸収液流れ方向に内周壁に沿って供給すること)で、海水利用によるポンプ入り口の腐食環境を低減することができる。
【0030】
その低減の理由は、配管の内周壁にCl濃度が20,000ppmの海水27を流し、さらに、系内で濃縮したCl濃度(100,000ppm)をもつ吸収液が配管中央分に流れることによって、内周壁に低Cl濃度の石灰石スラリ層を作るようにして、配管の内周壁やポンプ入り口での塩素による腐食を緩和する作用があるからである。
【0031】
次に、本実施形態に係る海水利用の湿式石灰石−石膏法脱硫装置における他の系統構成例について、図2を参照しながら説明する。図2において、複数段設置された吸収塔循環ポンプ28,29,…の内で石灰石スラリ16が供給される最上段ポンプ28の吸い込み側と、他のポンプ29,…の吸い込み側との間にそれぞれバイパスライン10を設け、各バイパスラインに開閉バルブ(流路オンオフのバルブ)を設置する構成とする。
【0032】
ボイラの負荷変動(排ガスの流入量変動)に対して使用する循環ポンプを切り替える場合、例えば、全負荷の場合にはすべての循環ポンプを使用するが、部分負荷の場合にはポンプ28を止めて開閉バルブ30をオンにして石灰石スラリ16をポンプ29に供給する場合、使用する循環ポンプの中でスプレヘッダ最上段に噴霧するポンプへ高効率の吸収液を供給することが常に可能となる。
【0033】
次に、図1に示す本実施形態に係る海水利用の湿式石灰石−石膏法脱硫装置における系統構成例において最上段ポンプ28による吸収液循環量の差異による系統構成の効率的運用について、図4を参照しながら以下説明する。
【0034】
図1の系統構成において、吸収塔最上段循環ポンプ28での循環量を他段の循環ラインよりも低下させることにより、より高石灰石濃度の吸収液をスプレ部6最上段より噴霧させることができ、効率的運用可能な系統構成となる。図4には、特許文献1に示すような脱硫装置に海水を補給水として供給するシステム(比較例)と、本構成例によるシステムの吸収液量/ガス量(L/G)への影響を対比している。ここで、同一のガス量に対して吸収液量の少ない方が排ガスファン20や循環ポンプ28,29の動力も低減することを表している(L/Gの小の方が系統構成の効率的運用となる)。
【0035】
図4によると、本構成例と比較例とにおいて、液循環量はいずれのケースについても30,000[m/h]とし、その中に海水を補給水として200[m/h]供給する。また、系内Cl濃度については100,000ppmに設定した。スプレ段数は3段とし、スプレ量については比較例ケースでは各段にて10,000[m/h]と均等にスプレし、本構成例ケースにおいては上段のみ1,000[m/h]と低減し、他段については残りを均等に分配した循環量(各30,000−1,000/2[m/h])としている。スプレ量の各段での図4に示す流量調整は一例として各循環ポンプを制御することで為し得る。
【0036】
また、上段液循環量Qtopと、全液循環量Qtotalの比Qtop/Qtotalをそれぞれのケースにて示している。ここで、吸収塔最上段スプレ量を他段のスプレ量よりも低くし、Qtop/Qtotalを0.33→0.033にすることにより、脱硫性能に対する影響度合いを示すRTUが5%増加し、全体としてL/Gが5%低減できる。これにはCl濃度低下、石灰石濃度増加、吸収液温度低下等による上段スプレ部吸収液の性能向上が寄与している。
【0037】
図4によると、海水量(Cl濃度:20,000ppm)は本構成例と比較例とで同一量であり、且つ上段スプレ量については本構成例では、比較例との対比で、10,000[m/h]から1,000[m/h]へと低減しているので、本構成例は、上段のスプレについて、濃縮された100,000ppmCl濃度の吸収液の1,000[m/h]に占める割合は小さくなっており、すなわち低Cl濃度となっているので、脱硫性能低下を抑制できるのである。ここで、RTUはRelative transfer unitの略号であり、SO吸収性能の評価指数であるATU(Actual transfer unit)の比を表している。RTUは、脱硫性能に対する各影響因子の影響度合いを表す場合や、パイロット装置と実機のスケールアップファクタを表す指標として、二者間のATUの比を表すものである。
【0038】
次に、本発明の実施形態に係る海水利用の湿式石灰石−石膏法脱硫装置の作用効果について、敷衍して以下説明する。本実施形態によれば、スラリタンク24への補給水として工業用水の代わりに海水を利用することができるため、海水利用により、工業用水確保が困難な中東や東南アジア及び南米等の地域(この地域に限らない)において、湿式石灰石−石膏法脱硫を採用する上で有効な手法となる。例えば、1,000MW相当の排ガスを湿式石灰石−石膏法で処理する場合、図示する脱硫装置のガス入出力側に設けた不図示のガスガスヒータ(GGH)設置なしで合計約160ton/hの工業用水が必要となるが、このうち、酸化用空気ブロワ15出口の酸化空気増湿用と、ポンプ17のシール水に使用する約10ton/h以外の水を海水で補い、系内Cl濃度を100,000ppmに維持しようとした場合、約200ton/hの海水があればよい(図4に示す海水量200m/hに対応)。上述の160トンと200トンという合計の供給水量が変わってくるのは、工業用水と海水中のCl濃度が異なるため、系内Cl濃度を等しく維持するには供給水量と排水量で調節しなければならないためである。
【0039】
また、既設の火力発電所において、脱硫装置を追設する場合、必要工業用水を海水淡水化装置の追設により確保するよりも、海水を補給水として直接利用するほうがコストインパクトとしてより安価となる。
【0040】
工業用水確保が困難な地域においては、海水を脱硫剤としてワンスルーで使用する海水脱硫方式が採用されつつあるが、排水量が多量となり十分な排水処理がなされない状態で海洋に排出されるため、環境汚染の懸念がある。本実施形態では、海水は補給水として使用するが、吸収剤としては石灰石を使用し、排水処理設備も設置可能であるため、海水脱硫方式よりも環境負荷低減が可能な系統構成となる。
【0041】
海水を補給する方法として、石灰石スラリとともに吸収塔循環ポンプ吸い込み側より補給することで、石灰石濃度増加と、吸収液Cl濃度低下(系内Cl濃度:100,000ppmの場合)によって、より高性能な吸収液としてスプレすることが可能となる。
【0042】
また、通常脱硫装置系内はおよそ50℃に維持されているが、およそ30℃の海水を循環ポンプ吸い込み側で供給することにより、吸収液温度を低下させ、補給水として海水27を利用した際の脱硫性能低下を抑制する効果がある。
【0043】
そして、石灰石スラリ16供給配管を吸収塔上段循環ポンプ28の吸い込み側に接続することにより、高吸収性能の吸収液の滞留時間が最も長くなり(吸収液が排ガスに接触している時間が長くなり)、また、吸収塔上段循環ポンプ28での循環量を他段の循環ラインよりも低下させることで、より高石灰石濃度、低Cl濃度の吸収液をスプレ部6最上段より噴霧させることができ、より効率的に脱硫できる効果がある(図4の説明参照)。
【0044】
さらに、石灰石スラリを吸収塔スプレ部最上段の循環ポンプ吸い込み側に供給することにより、噴霧する吸収液スラリ中の石膏濃度を低下させ、飛散ミスト中の石膏濃度が低下し、ミストエリミネータへの石膏固着を低減できる効果がある。
【符号の説明】
【0045】
1 ボイラ出口排ガス
2 脱硫装置ガス出口部
3 脱硫装置(吸収塔)ガス入口部
4 吸収塔
5 吸収塔液溜部
6 吸収塔スプレ部(吸収部)
7 ミストエリミネータ
8 スプレヘッダ
9 スプレノズル
10 バイパスライン
11 吸収液抜出しポンプ
12 石膏脱水設備
13 吸収液循環配管
14 石膏
15 酸化用攪拌機
16 石灰石スラリ
17 酸化用空気ブロワ
18 ろ液
19 電気集塵器
20 排ガスファン
21 ろ液回収タンク
22 ろ液ポンプ
23 排水ライン
24 石灰石スラリタンク
25 石灰石
26 工業用水
27 海水
28 吸収塔上段循環ポンプ
29 吸収塔下段循環ポンプ
30 開閉バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排ガス中に含まれる硫黄酸化物・酸性ガスを石灰石スラリを用いて除去するために、排ガス流れ方向に複数段配置されたスプレ部と液溜部とからなる吸収塔と、石灰石と水とで石灰石スラリを生成するスラリタンクと、前記液溜部の吸収液を前記複数段のスプレ部にそれぞれ送給する複数の循環ポンプと、を備えた湿式石灰石−石膏法脱硫装置であって、
前記石灰石スラリを生成する水として海水を用い、
前記スプレ部の最上段に前記吸収液を送給する循環ポンプの吸い込み側に、前記海水を用いた石灰石スラリを供給するように接続構成する
ことを特徴とする海水利用の湿式石灰石−石膏法脱硫装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記スプレ部の最上段への前記吸収液と前記石灰石スラリからなるスプレ量を、前記最上段以外のスプレ部への前記吸収液からなるスプレ量よりも少なくする
ことを特徴とする海水利用の湿式石灰石−石膏法脱硫装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記循環ポンプの吸い込み側に前記石灰石スラリを供給する接続構成は、前記吸い込み側の配管の周壁複数部位から吸収液流れ方向に内周壁に沿って前記石灰石スラリを供給するように構成する
ことを特徴とする海水利用の湿式石灰石−石膏法脱硫装置。
【請求項4】
請求項1、2または3において、
前記複数の循環ポンプの内で前記スプレ部の最上段に液送給する循環ポンプの吸い込み側と、他の循環ポンプの吸い込み側との間を連結するバイパスラインをそれぞれ設けるとともに、各バイパスラインにそれぞれ開閉バルブを設け、
前記排ガスの流入量変動に対して使用する循環ポンプをオン・オフして切り替える場合に、バイパスライン毎の前記開閉バルブを選定してオン・オフする
ことを特徴とする海水利用の湿式石灰石−石膏法脱硫装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−86054(P2013−86054A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230751(P2011−230751)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(000005441)バブコック日立株式会社 (683)
【Fターム(参考)】