説明

海藻粉末と乳酸菌を添加した養魚用飼料

【課題】病気に対する抵抗性を付与し、かつ、成長性に影響を与えない飼料添加物および飼料を提供すること。
【解決手段】 レッソニア、エクロニア又はコンブのいずれかの海藻粉末とラクトバチラス・プランタルム又はラクトバチラス・カゼイのいずれかの乳酸菌を、海藻粉末を乳酸菌発酵することなく添加した抗病性を有する魚介類の養殖用飼料である。海藻粉末は0.5〜3重量%、乳酸菌は10〜400億個/kg飼料添加するのが好ましい。この飼料はエクストルーダ等により加熱処理・成型を施した飼料とすることもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、病気に対する抵抗性を付与し、かつ、成長性に影響を与えない養魚用飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
養殖業においては魚病による養殖魚の死亡は致命的な損害になることも多く、重大な問題である。例えば、マダイは養殖魚の代表的な魚種であるが、イリドウイルス症などの魚病の発生により安定生産ができないこともある。安定した養殖ができるよう種苗、飼料、ワクチンなどの工夫がされている。
特許文献1には「ワカメやマコンブ、アラメ等の海藻類の抽出物を含有し、甲殻類、魚類、その他の脊椎動物、及びヒトの免疫機能活性化、感染症やアトピー性皮膚炎等の皮膚病、アレルギー性疾患の予防・治療効果、並びに抗腫瘍効果を発現することを特徴とする、動物・ヒト用免疫賦活調整剤。」と記載されている。
特許文献2には「トロロコンブ属藻類、カジメ属褐藻類、ジャイアントケルプ、アスコフィラム属藻類及びこれらの抽出物から選ばれる1種又は2種以上の成分を含有することを特徴とする、魚介類の感染予防及び/又は治療剤。」と記載されている。
特許文献3には「次の成分(A)及び(B)、(A)トロロコンブ属藻類、カジメ属藻類、ジャイアントケルプ、アスコフィラム属藻類、モズク、これらの抽出物及びフコイダンから選ばれる1種又は2種以上、(B)乳酸球菌及びポリフェノールから選ばれる1種又は2種以上、を含有することを特徴とする魚類の感染予防・治療剤。」と記載されている。
特許文献4には「海藻類を糖質分解酵素により処理した後又は該処理と同時に、Lactobacillus plantarum、Lactobacillus casei、Lactobacillus rhamnosus、Lactobacillus kefir、Lactobacillus fermentum及びLeuconostoc mesenteroidesからなる群から選ばれる1種又は2種以上の乳酸菌を用いて発酵させることを特徴とする魚介類用飼料の製造方法。」と記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開2002−12552号
【特許文献2】国際公開公報WO2002/092114
【特許文献3】特開2004−307346号
【特許文献4】特開2004−298080号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、病気に対する抵抗性を付与し、かつ、成長性に影響を与えない飼料添加物および飼料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、下記(1)〜(4)の養殖用飼料を要旨とする。
(1)レッソニア又はエクロニアのいずれかの海藻粉末とラクトバチラス・プランタルム又はラクトバチラス・カゼイのいずれかの乳酸菌を、海藻粉末を乳酸菌発酵することなく添加した抗病性を有する魚介類の養殖用飼料。
(2)レッソニア又はエクロニアのいずれかの海藻粉末を0.5〜3重量%添加した(1)の養殖用飼料。
(3)ラクトバチラス・プランタルム又はラクトバチラス・カゼイのいずれかの乳酸菌を10〜400億個/kg飼料添加した(1)又は(2)の養殖用飼料。
(4)飼料原料にレッソニア又はエクロニアのいずれかの海藻粉末とラクトコッカス・プランタルム又はラクトコッカス・カゼイのいずれかの乳酸菌を添加し、エクストルーダで加熱処理・成型を施した(1)、(2)又は(3)の養殖用飼料。
【発明の効果】
【0006】
本発明の魚類の養殖用飼料は、養殖魚等に摂餌させることにより抗病性を付加することができる。天然物であるから安全性が高い。成長率に影響はない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明で用いる海藻粉末、レッソニアは褐藻類、異型世代亜網、コンブ目、レッソニア科、レッソニア属のL. fuscencesである。チリ等で生産され、乾燥粉末として輸入されている。エクロニアは褐藻類、異型世代亜網、コンブ目、コンブ科、カジメ属のE. maximaである。南アフリカ等で生産され、乾燥粉末として輸入されている。コンブは褐藻類、異型世代亜網、コンブ目、コンブ科、コンブ属のL.japonicaである。海藻は乾燥粉末が取り扱いやすいが、生のままでも良いし、形状も原型を細断して使用することもできる。
海草粉末は飼料に対し0.5〜3重量%添加するのが好ましい。多すぎると成長性に影響を与えるので入れすぎないほうがよい。
【0008】
本発明で用いる乳酸菌は、ラクトバチラス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)又はラクトバチラス・カゼイ(Lactobacillus casei)である。これらの乳酸菌は単独で飼料に添加しても抗病性に影響を与えないが、海藻と併用することにより海藻の抗病作用を増強する。同じラクトバチラス属に属する乳酸菌でもラクトバチラス・サケイ(Lactobacillus sakei)ではその効果が見られない。乳酸菌は飼料1kgに対して10〜400億個添加するのが好ましい。特許文献4(特開2004−298080号)に海藻を糖質分解酵素で分解し、乳酸菌で発酵した飼料が記載されているが、本発明のレッソニア、エクロニアの抗病性の効果は乳酸菌を一緒に添加するだけで発揮されるので、発酵の有無により影響はなく、発酵する必要はない。
【0009】
本発明の飼料は魚類のイリドウイルスなどのウイルス性疾患等の予防に効果がある。本発明の飼料を継続的にさせることにより養殖魚の病気を予防することができる。添加する飼料はそれぞれの魚介類に通常投与する飼料の配合でよい。モイストペレット、ドライペレット、EPペレット等、飼料の形状は問わない。本発明のレッソニア、エクロニアとラクトバチラス・プランタルム、ラクトバチラス・カゼイの効果は熱によって影響を受けないので高温・高圧がかかるエクストルーダによって製造するEPペレットにしても効果は変わらない。投与対象となる魚類はタイ類、サケ類、マグロ類、フグ類、ブリ類などが例示される。
【0010】
以下に本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0011】
[方法]
試験用飼料として、表1のコントロール区に示した標準組成の飼料から、タンパク源となる原料のホワイトミール、ブラウンミールおよびオキアミミールを一定の比率で、飼料全体の1割削減し、その減らした部分を海藻またはそれらの乳酸発酵物で置き換えたものを作成した。
飼料の作製は、全ての原料を良く混合した後、適宜水を添加し、φ2.5mmのダイスをつけたペレッターに3回通し成形した。そして、この飼料は製造後、直ちに冷凍保存し、試験まで−20℃のストッカーで保存した。
実施例で用いた海藻レッソニアはアンデス貿易販売の商品名:チリ産海藻粉末で、エクロニアは同社販売の商品名:エクロニア粉末である。実施例で用いた乳酸菌は、特に表記していない場合、ラクトバチラス・プランタルムは東亜薬品工業の商品名:LP菌トーア、ラクトバチラス・カゼイは東亜薬品工業の商品名:LC菌トーア、ラクトバチルス・サケはD−1001株(日本国独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター、国際寄託IPOD FERM BP-08544)である。
【0012】
【表1】

【0013】
イリドウイルス攻撃試験
各試験区には3水槽を用い、平均体重30.9gのマダイを各槽25尾セットして試験を開始した。セット後1週間、各試験飼料で馴致した後、イリドウイルスを規定量打注することで攻撃し、その後の斃死数および摂餌量の推移で評価を行った。
結果を図1に示した。海藻乳酸発酵物を添加した試験区は、コントロール区に比較して良い結果となった。しかし、海藻と乳酸菌および酵素をそのまま添加した試験区についても同様の結果となり、乳酸発酵させることは必要ではないと考えられた。
一方、海藻と乳酸菌、海藻と酵素を添加した試験区は、海藻のみ添加した区、海藻乳酸発酵物添加区、海藻、乳酸菌および酵素を添加した試験区より良い結果となっていること、酵素および乳酸菌のみを添加した区ではコントロール区と同様に悪い結果となっていることなどから、マダイ稚魚の抗病性は海藻により高められ、これに加えて、酵素や乳酸菌などを適量加えることでさらに高まるものと考えられた。
【実施例2】
【0014】
実施例1と同様の方法で、海藻添加飼料の評価を行った。
試験区は表2に示すコントロール区(マダイ用市販飼料と同じ配合)と7つの試験区とした。具体的な組成は表3のとおりである。コントロールの組成中の主要なタンパク源となる魚粉を2%減らし、海藻のレッソニアとエクロニアに置き換えた。また乳酸菌はL.plantalumとL.sakeiおよびL.caseiを使用した。海藻は乳酸菌発酵せず、両者を飼料原料に配合し、よく混合し、ペレットを製造した後は、冷凍保存した。
【0015】
【表2】

【0016】
【表3】

【0017】
結果を図2、3に示した。No.1、No.2とNo.3〜No.6を比較すると、海藻に関してはレッソニアよりもエクロニアが抗病性を高める傾向が認められ、また乳酸菌に関しては、L.caseiには海藻との相乗効果が確認されたが(No.7)、L.sakei(No.6)ではそのような効果は認められなかった。さらに、乳酸菌の添加量は3750億個よりも375億個が良い傾向であった。
【実施例3】
【0018】
試験区は3回目試験と同様に、ニッスイマダイ用飼料の組成とほぼ同じものをコントロールとし、この組成中のタンパク源である魚粉の2%を海藻乳酸発酵物(塩を添加して乳酸発酵させたもの)で代替したものを、試験区No.1、2とした。またコントロールの組成にL.plantarumと海藻のレッソニア、エクロニア(魚粉の2%を代替)を組み合わせた試験区をNo.3、4とし、前回試験で最も効果があった魚粉を海藻で10%代替し、乳酸菌(L.casei)を添加した試験区をNo.5とした(表4)。ただし、No.5の乳酸菌添加量は1/10とした。
【0019】
【表4】

【0020】
結果を図4、5に示す。コントロール区および乳酸菌のみ添加した試験区は効果が認められなかったが、その他の試験区ではコントロール区と比較して生残率の改善が認められた。また海藻の種類で見ると、エクロニアがレッソニアより良い傾向であった。
【実施例4】
【0021】
<摂餌性への影響>
飼料中の海藻含量が2%以下の場合の成長に与える影響を確認した。
試験区、飼育方法
試験区は、表5に示すように飼料に海藻のレッソニアまたはエクロニアを2.0%、1.0%および0.5%添加したものとし、飼育方法は、各区100Lパンライト水槽3基に平均体重17.5gのマダイ稚魚を20尾ずつ収容し、注水を1000ml/分、毎日2回飽食給餌とし50日間の試験を行った。
結果
図6に示すように、成長および生残率について分散分析を行ったが有意差は認められず、飼料に海藻を2%以下添加しても魚の成長には影響がないことを確認した。
【0022】
【表5】

【実施例5】
【0023】
実施例2と同様の方法で海藻添加飼料の評価を行った。飼料組成も添加した海藻、乳酸菌の量以外は実施例2と同様である。
試験区は、コントロール区、海藻(エクロニア)1%(コントロールの魚粉を1%削減して海藻を添加)、海藻(エクロニア)1%+乳酸菌(L.plantarum)10億個/kg(コントロールの魚粉を1%削減して海藻を添加)の3区とした。
結果を図7に示した。他の実施例と同様に生残率は海藻と乳酸菌を併用した場合がもっとも高く、海藻添加区がそれに続いた。海藻は1%の添加でも効果が認められ、また、乳酸菌は10億個/kgでも効果が認められることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0024】
天然物である海藻、乳酸菌は安全性が高い飼料添加物であり、飼料に魚粉の代替品として添加することにより、成長性に影響することなく、抗病性を付加する飼料を提供することができる。海藻をあらかじめ乳酸菌で発酵する必要がないので、製造が容易で安価にできる。また、病気に対する抵抗性を高め、抗生物質等の使用を抑制することができる
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施例1のマダイのイリドウイルス攻撃試験における生残率の推移を示した図である。
【図2】実施例2のマダイのイリドウイルス攻撃試験における最終生残率を比較した図である。
【図3】実施例2のマダイのイリドウイルス攻撃試験における生残率の推移を示した図である。
【図4】実施例3のマダイのイリドウイルス攻撃試験における最終生残率を比較した図である。
【図5】実施例3のマダイのイリドウイルス攻撃試験における生残率の推移を示した図である。
【図6】実施例4の海藻を添加した飼料の成長性試験の結果を示した図である。
【図7】実施例5のマダイのイリドウイルス攻撃試験における生残率の推移を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レッソニア、エクロニア又はコンブのいずれかの海藻粉末とラクトバチラス・プランタルム又はラクトバチラス・カゼイのいずれかの乳酸菌を、海藻粉末を乳酸菌発酵することなく添加した抗病性を有する魚介類の養殖用飼料。
【請求項2】
レッソニア、エクロニア又はコンブのいずれかの海藻粉末を0.5〜3重量%添加した請求項1の養殖用飼料。
【請求項3】
ラクトバチラス・プランタルム又はラクトバチラス・カゼイのいずれかの乳酸菌を10〜400億個/kg飼料添加した請求項1又は2の養殖用飼料。
【請求項4】
飼料原料にレッソニア、エクロニア又はコンブのいずれかの海藻粉末とラクトバチラス・プランタルム又はラクトバチラス・カゼイのいずれかの乳酸菌を添加し、エクストルーダで加熱処理・成型を施した請求項1、2又は3の養殖用飼料。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−236386(P2007−236386A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−14941(P2007−14941)
【出願日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【出願人】(000004189)日本水産株式会社 (119)
【Fターム(参考)】