説明

消耗電極アーク溶接電源

【課題】電源主回路PMの出力に直列に接続され、主巻線Nmに通電する電流値が所定電流値未満のときはインダクタンス値が大きくなり所定電流値以上のときは上記鉄芯が飽和状態になって非常に小さなインダクタンス値になる可飽和リアクトルを有する消耗電極アーク溶接電源において、アークスタート性を良好にする。
【解決手段】本発明は、可飽和リアクトルWL1に補助巻線Ncを新たに設け、この補助巻線Ncに補助電源PCを接続し、アークスタートに際し補助電源PCから補助巻線Ncに電流Icを通電することによって可飽和リアクトルWL1を飽和状態にしてインダクタンス値を非常に小さくし、送給によって消耗電極1が母材2に接触すると電源主回路PMから大電流値のホットスタート電流を主巻線Nmを通して消耗電極1に通電してアークスタートさせる消耗電極アーク溶接電源である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接電源の出力に直列に可飽和リアクトルを有する溶接電源においてアークスタート性を良好にすることができる消耗電極アーク溶接電源に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図13は、消耗電極アーク溶接電源の一般的な構成を示す図である。電源主回路PMは、外部からの起動信号Stに応動して交流商用電源(3相200V等)を入力としてインバータ制御、チョッパ制御等による出力制御を行いアーク溶接に適した出力電圧Vo及び溶接電流Iwを出力すると共に、消耗電極である溶接ワイヤ1の送給速度Fwを制御する。リアクトルWLは、上記の電源主回路PMの出力に直列に挿入されて、上記の出力電圧Vo及び溶接電流Iwを平滑する。このリアクトルWLの作用については図14及び図15で後述する。溶接電源の出力端子T1は溶接トーチの給電チップを介して溶接ワイヤ1と接続され、もう1つの出力端子T2は母材2と接続され、溶接ワイヤ1と母材2との間には溶接電圧Vwが印加する。溶接ワイヤ1は送給速度Fwで送給されて、母材2との間でアーク3が発生して溶接が行われる。
【0003】
図14は、消耗電極アーク溶接の1つであるパルスアーク溶接における溶接電流Iw及び溶接電圧Vwの波形図である。時刻t1〜t2のピーク期間Tp中は、同図(A)に示すように、溶滴移行させるための大電流値のピーク電流Ipを通電し、同図(B)に示すように、ピーク電圧Vpが溶接ワイヤ・母材間に印加する。時刻t2〜t3のベース期間Tb中は、同図(A)に示すように、溶滴を形成しないための小電流値のベース電流Ibを通電し、同図(B)に示すように、ベース電圧Vbが溶接ワイヤ・母材間に印加する。上記のピーク期間Tp及びベース期間Tbをパルス周期Tpbとして繰り返して溶接が行われる。
【0004】
一般的に、溶接電流Iwの値が数十A未満の小電流値になると、少しのアーク負荷変動によってアーク切れが発生しやすい。アーク切れが発生すると溶接状態が不安定になるために溶接品質が悪くなる。上述したように、ベース電流Ibの値は数十A未満と小電流値であるために、ベース期間Tb中はアーク切れが発生しやすい。このアーク切れを防止するための有力な方法として従来からリアクトルWLのインダクタンス値L[μH]を大きくする対策が取られている。この理由は以下のとおりである。アーク切れが発生する直前には溶接電流が急減する。この電流変化di/dtによってリアクトルWLに電圧E=L・di/dtが発生し、この電圧がアーク切れを防止することになるためである。したがって、インダクタンス値Lが大きければ上記の電圧Eも大きくなり、アーク切れが発生しにくくなる。
【0005】
他方、ピーク期間Tpに同期した良好な溶滴移行状態(いわゆる1パルス1溶滴移行の状態)にするためには、ピーク電流Ipの立上り及び立下り速度は速くなければならない。この立上り及び立下り速度は、インダクタンス値Lに略比例するために、ピーク期間Tp中のインダクタンス値Lは小さな値である必要がある。このように、ベース期間Tb中のインダクタンス値の適正値Lbとピーク期間Tp中のインダクタンス値の適正値Lpとは大きく異なり、Lb>Lpとなる。すなわち、リアクトルのインダクタンス値は、溶接電流Iwが小電流値のときは大きくなり大電流値のときは小さくなるのが理想的である。
【0006】
図15は、消耗電極アーク溶接の1つであるCO2/MAG溶接の短絡移行溶接における溶接電流Iw及び溶接電圧Vwの波形図である。短絡移行溶接では、時刻t1〜t2の短絡期間Tsと時刻t2〜t3のアーク期間Taとを交互に繰り返して溶接が行われる。短絡期間Ts中は溶接ワイヤと母材とが短絡状態にあり、同図(A)に示すように、次第に大きくなる短絡電流が通電し、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは数Vと低い値になる。上記のアーク期間Ta中は溶接ワイヤと母材との間にアークが発生しており、同図(A)に示すように、次第に小さくなるアーク電流が通電し、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは十数V〜数十Vのアーク電圧値となる。
【0007】
図15(A)において、アーク期間Taの後半部分の電流値は数十A未満になる場合もあり、上述したようにアーク切れが発生しやすくなる。したがって、溶接電流Iwが小電流値であるときにはリアクトルのインダクタンス値を大きくする必要がある。他方、溶接状態を安定化するためには、同図(A)に示す短絡期間Ts中の電流上昇率を速い速度の適正値にする必要がある。したがって、インダクタンス値は、溶接電流Iwが大電流値であるときは小さな値になる必要がある。
【0008】
上述したように、パルスアーク溶接、短絡移行溶接等の消耗電極アーク溶接においては、溶接電流の値に反比例してリアクトルのインダクタンス値が変化することが望ましい。このようなインダクタンス値の特性を有するリアクトルとして、下記の可飽和リアクトルがある。図16は、この可飽和リアクトルの構造の一例を示す図である。コ形状の鉄芯C1、C2によって閉ループの鉄芯が形成される。両鉄芯C1、C2の接触面には薄い非磁性体のスペーサGを挿入してギャップを設けている。溶接が通電する主巻線Nmは、鉄芯C1に導線を所定回数巻き付けて形成する。鉄芯が閉ループであるので、主巻線Nmを通電する電流値が所定電流値It以上になると鉄芯は飽和する。このために、可飽和リアクトルと呼ばれる。
【0009】
図17は、上述した可飽和リアクトルの電流値に対するインダクタンス値の変化を示す図である。同図に示すように、鉄芯が飽和する所定電流値It=40Aを境界値として、インダクタンス値は所定電流値It未満では急激に大きな値になり、所定電流値It以上では非常に小さな値になる。したがって、可飽和リアクトルは、電流値に略反比例してインダクタンス値が変化するので、小電流時のアーク切れを防止すると共に、大電流時は電流上昇率が大きくなり溶接状態も安定化する。上記の所定電流値Itは、スペーサの厚みによってギャプ長を変えることで調整することができる。主巻線の巻数Nmによってインダクタンス値の特性は変化する。
【0010】
電流値に反比例させてインダクタンス値を変化させる方法としては、上述した可飽和リアクトルを使用する方法以外に以下のような方法も提案されている。例えば、特許文献1、2の発明では、小電流用のリアクトルと大電流用のリアクトルとを設けることによって、電流値に応じてインダクタンス値を切り換えることができるようにしている。
【0011】
【特許文献1】特公昭59−16870号公報
【特許文献2】特開平11−28567号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
図18は、図13で上述した消耗電極アーク溶接電源におけるアークスタート時のタイミングチャートである。同図(A)は起動信号Stの、同図(B)は送給速度Fwの、同図(C)は溶接電流Iwの、同図(D)は溶接電圧Vwの時間変化を示す。同図は、リアクトルWlが上述した可飽和リアクトルの場合である。以下、同図を参照して説明する。
【0013】
時刻t1において、図18(A)に示すように、起動信号StがHighレベルになると、同図(B)に示すように、送給速度Fwは低速の初期送給速度となり、溶接ワイヤは母材方向へ送給される。同時に、同図(C)に示すように、電源主回路からの出力が開始されて大きな値の無負荷電圧が印加する。無負荷電圧となるのは、溶接ワイヤがまだ母材に到達しておらず、溶接ワイヤ・母材間が無負荷状態にあるためである。また、同図(D)に示すように、溶接ワイヤ・母材間が無負荷状態であるので、溶接電流Iwはまだ通電しない。
【0014】
時刻t2において溶接ワイヤが母材に接触すると、図18(C)に示すように、溶接電圧Vwは低い値の短絡電圧値に変化し、同図(D)に示すように、溶接電流Iwが通電を開始する。これに応動して、同図(B)に示すように、送給速度Fwは定常の送給速度に切り換えられる。同図(C)に示すように、時刻t2〜t3の期間中は溶接電流Iwの値は所定電流値It未満であるために、可飽和リアクトルのインダクタンス値は大きな値になる。このために、この期間中の電流上昇率は非常に緩やかになる。時刻t3において溶接電流Iwの値が所定電流値Itを超えると、可飽和リアクトルは飽和してインダクタンス値は非常に小さな値になるために、溶接電流Iwは急激に上昇して予め定めたホットスタート電流Ihが予め定めたホットスタート期間Thが終了する時刻t5まで通電する。溶接電流Iwが急上昇した直後の時刻t4においてアークが発生するので、同図(C)に示すように、時刻t4において溶接電圧Vwは短絡電圧値からアーク電圧値に変化する。時刻t5以降は、パルスアーク溶接又は短絡移行溶接の定常の溶接電流Iwが通電する。
【0015】
図18(D)に示すように、溶接ワイヤが母材に接触した時点t2から時刻t3までの期間中の溶接電流Iwの上昇率が緩やかであるために、時刻t2〜t4のスタート時短絡期間が長くなり、良好でないアークスタートとなる確率が高くなる。すなわち、溶接ワイヤと母材とが接触した直後の電流上昇率が速いほどスタート時短絡期間が短くなり、良好なアークスタートとなる確率が高くなる。スタート時短絡期間が長くなると、アークスタート時に大粒のスパッタが発生したりアークスタート部のビード外観が悪くなったりし、時にはアークスタートに失敗するケースも生じる。
【0016】
従来技術において、アークスタート時にリアクトルを電磁開閉器の接点によって短絡してインダクタンス値を小さくする方法が提案されている。すなわち、アークスタート時はリアクトルを接点で短絡してインダクタンス値を小さくし、アークスタート後は接点を開にしてリアクトルの短絡を解除して本来のインダクタンス値に戻す方法である。しかし、この方法では、接点は数百Aの溶接電流の通電を遮断する必要があるために、大きな容量の電磁開閉器が必要になる。このために、溶接電源のコストアップになる。さらに、アークスタート毎に大電流の遮断を繰り返し行うために接点の寿命が短くなるので、溶接電源の耐用寿命も短くなるという問題がある。
【0017】
そこで、本発明では、リアクトルとして可飽和リアクトルを使用する溶接電源において良好なアークスタート性を実現する消耗電極アーク溶接電源を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上述した課題を解決するために、第1の発明は、溶接電流及び溶接電圧を消耗電極に供給する電源主回路と、この電源主回路の出力に直列に接続され主巻線及び鉄芯から成るリアクトルとを備え、上記リアクトルは上記主巻線に通電する電流値が所定電流値未満のときはインダクタンス値が大きくなり上記所定電流値以上のときは上記鉄芯が飽和状態になって非常に小さなインダクタンス値になる可飽和リアクトルである消耗電極アーク溶接電源において、上記可飽和リアクトルに補助巻線を新たに設け、この補助巻線に接続された補助電源を設け、アークスタートに際し上記補助電源から上記補助巻線に電流を通電することによって上記可飽和リアクトルを飽和状態にしてインダクタンス値を非常に小さくし、続いて送給によって消耗電極が母材に接触すると上記電源主回路から大電流値のホットスタート電流を上記主巻線を通して消耗電極に通電してアークスタートさせ、続いて上記補助電源からの電流通電を停止して上記電源主回路から上記主巻線を通して定常の溶接電流を通電することを特徴とする消耗電極アーク溶接電源である。
【0019】
第2の発明は、溶接電流及び溶接電圧を消耗電極に供給する電源主回路と、この電源主回路の出力に直列に接続され主巻線及び鉄芯から成るリアクトルとを備え、上記リアクトルは上記主巻線に通電する電流値が所定電流値未満のときはインダクタンス値が大きくなり上記所定電流値以上のときは上記鉄芯が飽和状態になって非常に小さなインダクタンス値になる可飽和リアクトルである消耗電極アーク溶接電源において、 上記消耗電極アーク溶接電源の出力端子間に抵抗器及び短絡用スイッチング素子から成る直列回路を設け、アークスタートに際し上記短絡用スイッチング素子をオン状態にして出力端子間を短絡すると共に上記電源主回路から上記主巻線及び上記短絡用スイッチング素子を通して上記所定電流値以上の端子短絡電流を通電して上記可飽和リアクトルを飽和状態にしてインダクタンス値を非常に小さくし、続いて送給によって消耗電極が母材に接触すると上記短絡用スイッチング素子をオフ状態にすると共に上記電源主回路からの電流を大電流値のホットスタート電流に切り換えて上記可飽和リアクトルの上記主巻線を通して消耗電極に通電してアークスタートさせ、続いて上記電源主回路から上記主巻線を通して定常の溶接電流を通電することを特徴とする消耗電極アーク溶接電源である。
【0020】
第3の発明は、直流電流及び直流電圧を供給する電源主回路と、上記電源主回路の出力に直列に接続され主巻線及び鉄芯から成るリアクトルと、上記リアクトルは上記主巻線に通電する電流値が所定電流値未満のときはインダクタンス値が大きくなり上記所定電流値以上のときは上記鉄芯が飽和状態になって非常に小さなインダクタンス値になる可飽和リアクトルであり、上記リアクトルの出力に設けられ相対向する第1のスイッチング素子及び第4のスイッチング素子並びに相対向する第2のスイッチング素子及び第3のスイッチング素子からフルブリッジを形成し交流出力を消耗電極に供給する極性切換インバータ回路とを備えた消耗電極交流アーク溶接電源において、上記極性切換インバータ回路に並列に抵抗器及び短絡用スイッチング素子から成る直列回路を設け、アークスタートに際し、上記短絡用スイッチング素子をオン状態にすると共に上記極性切換インバータ回路の4つのスイッチング素子をオフ状態にして上記電源主回路から上記主巻線及び上記短絡用スイッチング素子を通して上記所定電流値以上の短絡電流を通電して上記可飽和リアクトルを飽和状態にしてインダクタンス値を非常に小さくし、続いて送給によって消耗電極が母材に接触すると上記短絡用スイッチング素子をオフ状態にすると共に上記極性切換インバータ回路の相対向する2組のスイッチング素子のどちらか1組をオン状態にして上記電源主回路からの直流電流を大電流値のホットスタート電流に切り換えて上記可飽和リアクトルの上記主巻線を通して消耗電極に通電してアークスタートさせ、続いて上記電源主回路から定常の直流電流を上記極性切換インバータ回路によって交流電流に変換して通電することを特徴とする消耗電極交流アーク溶接電源である。
【0021】
第4の発明は、直流電流及び直流電圧を供給する電源主回路と、上記電源主回路の出力に直列に接続され主巻線及び鉄芯から成るリアクトルと、上記リアクトルは上記主巻線に通電する電流値が所定電流値未満のときはインダクタンス値が大きくなり上記所定電流値以上のときは上記鉄芯が飽和状態になって非常に小さなインダクタンス値になる可飽和リアクトルであり、上記リアクトルの出力に設けられ相対向する第1のスイッチング素子及び第4のスイッチング素子並びに相対向する第2のスイッング素子及び第3のスイッング素子からフルブリッジを形成し交流出力を消耗電極に供給する極性切換インバータ回路とを備えた消耗電極交流アーク溶接電源において、上記極性切換インバータ回路の第1のスイッチング素子に並列に抵抗器及び第2の短絡用スイッチング素子から成る直列回路を設け、アークスタートに際し、上記短絡用スイッチング素子をオン状態にすると共に上記極性切換インバータ回路の第3のスイッチング素子をオン状態にして上記電源主回路から上記主巻線、上記短絡用スイッチング素子及び上記第3のスイッチング素子を通して上記所定電流値以上の短絡電流を通電して上記可飽和リアクトルを飽和状態にしてインダクタンス値を非常に小さくし、続いて送給によって消耗電極が母材に接触すると上記短絡用スイッチング素子及び第3のスイッチング素子をオフ状態にすると共に上記極性切換インバータ回路の相対向する2組のスイッチング素子のどちらか1組をオン状態にして上記電源主回路からの直流電流を大電流値のホットスタート電流に切り換えて上記可飽和リアクトルの上記主巻線を通して消耗電極に通電してアークスタートさせ、続いて上記電源主回路から定常の直流電流を上記極性切換インバータ回路によって交流電流に変換して通電することを特徴とする消耗電極交流アーク溶接電源である。
【0022】
第5の発明は、上記極性切換インバータ回路の第1のスイッチング素子に並列に抵抗器及び第2の短絡用スイッチング素子から成る第1の直列回路と第4のスイッチング素子に並列に抵抗器及び第3の短絡用スイッチング素子から成る第2の直列回路とを設け、アークスタートに際し、上記第2の短絡用スイッチング素子及び上記第3の短絡用スイッチング素子をオン状態にすると共に上記極性切換インバータ回路の第2のスイッチング素子及び第3のスイッチング素子及をオン状態にして上記電源主回路から上記主巻線、上記第2の短絡用スイッチング素子及び上記第3のスイッチング素子並びに上記第2のスイッチング素子及び第3の短絡用スイッチング素子を通して上記所定電流値以上の短絡電流を通電して上記可飽和リアクトルを飽和状態にしてインダクタンス値を非常に小さくし、続いて送給によって消耗電極が母材に接触すると上記第2の短絡用スイッチング素子、上記第3の短絡用スイッチング素子、第2のスイッチング素子及び第3のスイッチング素子をオフ状態にすると共に上記極性切換インバータ回路の相対向する2組のスイッチング素子のどちらか1組をオン状態にして上記電源主回路からの直流電流を大電流値のホットスタート電流に切り換えて上記可飽和リアクトルの上記主巻線を通して消耗電極に通電してアークスタートさせることを特徴とする請求項4記載の消耗電極交流アーク溶接電源である。
【発明の効果】
【0023】
第1の発明によれば、アークスタートに際して溶接ワイヤが母材に接触するまでに補助巻線電流を通電して補助巻線付可飽和リアクトルを飽和状態にすることによってインダクタンス値を非常に小さくし、ホットスタート電流の上昇率を非常に速くすることができるので、良好なアークスタート性を実現することができる。
【0024】
第2の発明によれば、アークスタートに際して溶接ワイヤが母材に接触するまでに端子短絡電流を通電して可飽和リアクトルを飽和状態にすることによってインダクタンス値を非常に小さくし、ホットスタート電流の上昇率を非常に速くすることができるので、良好なアークスタート性を実現することができる。
【0025】
第3の発明によれば、交流アーク溶接のアークスタートに際して溶接ワイヤが母材に接触するまでに短絡電流を通電して可飽和リアクトルを飽和状態にすることによってインダクタンス値を非常に小さくし、ホットスタート電流の上昇率を非常に速くすることができるので、交流アーク溶接において良好なアークスタート性を実現することができる。
【0026】
第4の発明によれば、交流アーク溶接機の2次インバータ回路は、同一容量のパワートランジスタを同一パッケージに2個配設されたパワートランジスタを使用しているために、新たに短絡用スイッチング素子を外部に設けることなく、パワートランジスタに配設された2個のうち1つを短絡用スイッチング素子として使用できるために、抵抗器1つを外部に設けるだけで直列回路が形成され、回路構成の簡略化が実現できる。
【0027】
第5の発明によれば、上記第4の発明の2次インバータ回路に、抵抗器を2つ外部に設けて直列回路を2つ形成し、上記2つの直列回路を用いて交流アーク溶接のアークスタートに際して溶接ワイヤが母材に接触するまでに短絡電流を通電するので可飽和リアクトルが飽和状態になりインダクタンス値が確実に小さくなり、交流アーク溶接において良好なアークスタート性を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0029】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1に係る消耗電極アーク溶接電源の構成図である。同図において上述した図13と同一の構成物には同一符号を付してそれらの説明は省略する。以下、図13とは異なる構成物について説明する。
【0030】
補助巻線付可飽和リアクトルWL1は、主巻線Nmに加えて補助巻線Ncを付加した可飽和リアクトルであり、詳細は図2で後述する。この補助巻線Ncには、定電流電源CC及び補助電源スイッチング素子TRcから成る補助電源PCが接続される。上記の定電流電源CCからは補助巻線付可飽和リアクトルWL1が飽和状態になる値の補助巻線電流Icを通電する。補助電源駆動回路DVCは、上記の駆動電源スイッチング素子TRcをオン/オフ制御する。同図におけるアークスタート時のタイミングチャートについては図3で後述する。
【0031】
図2は、上述した補助巻線付可飽和リアクトルWL1の構造の一例を示す図である。同図は、図16で上述した可飽和リアクトルに補助巻線Ncを付加したものである。主巻線Nmには溶接電流Iwが通電し、補助巻線Ncには補助巻線電流Icが通電する。巻数比Nm:Ncは、1:1〜1:5程度である。
【0032】
図3は、実施の形態1におけるアークスタート時のタイミングチャートである。同図は上述した図18と対応している。以下、同図を参照して説明する。
【0033】
時刻t1において、図3(A)に示すように、起動信号StがHighレベルになると、同図(B)に示すように、溶接ワイヤは初期送給速度での送給が開始される。同時に、同図(E)に示すように、補助電源スイッチング素子TRcがオンされて補助電源PCから補助巻線Ncに補助巻線電流Icが通電する。この電流値は、Ic・Nc>It・Nmとなり補助巻線付可飽和リアクトルが飽和状態になる値である。
【0034】
時刻t2において溶接ワイヤが母材に接触すると、図3(C)に示すように、溶接電圧Vwは無負荷電圧から短絡電圧へと変化する。溶接電圧Vwが予め定めた短絡判別電圧値Vt未満になったことを判別すると、同図(E)に示すように、補助巻線電流Icの通電を停止すると共に、同図(D)に示すように、大電流値のホットスタート電流Ihの通電を開始する。このときに、補助巻線付可飽和リアクトルは補助巻線電流Icの通電によって飽和状態にあるために、上記のホットスタート電流Ihの上昇率は非常に速い。この結果、短時間の短絡後の時刻t3においてアークが発生するので、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは短絡電圧からアーク電圧へと変化する。時刻t4においてホットスタート期間Thが終了すると、同図(D)に示すように、溶接電流Iwはホットスタート電流Ihからパルスアーク溶接又は短絡移行溶接の定常の溶接電流へと移行する。
【0035】
上述したように、実施の形態1では、溶接ワイヤが母材に接触するまでに補助巻線電流を通電して補助巻線付可飽和リアクトルを飽和状態にすることによって、ホットスタート電流の上昇率を非常に速くすることができるので、良好なアークスタート性を実現することができる。図3(E)に示すように、上記は補助巻線電流Icを時刻t2のアークスタート時に停止させる場合であるが、少し遅延させてから停止させても良い。
【0036】
[実施の形態2]
図4は、本発明の実施の形態2に係る消耗電極アーク溶接電源の構成図である。同図において上述した図13と同一の構成物には同一符号を付してそれらの説明は省略する。同図の可飽和リアクトルWLは、図16及び図17で上述した可飽和リアクトルと同一物であり、所定電流値It以上の電流の通電によって飽和する。以下、図13とは異なる構成物について説明する。
【0037】
出力端子T1、T2間に、抵抗器Rs及び短絡用スイッチング素子TRsから成る直列回路を接続する。そして、短絡駆動回路DVSは、上記の短絡用スイッチング素子TRsのオン/オフ制御を行う。上記の短絡用スイッチング素子TRsがオンされると、端子短絡電流Isが通電する。
【0038】
図5は、実施の形態2におけるアークスタート時のタイミングチャートである。同図は上述した図18及び図3と対応している。以下、同図を参照して説明する。
【0039】
時刻t1において、図5(A)に示すように、起動信号StがHighレベルになると、同図(B)に示すように、溶接ワイヤは初期送給速度での送給が開始される。同時に、電源主回路PMからの出力が開始されると共に短絡用スイッチング素子TRsがオンされて主巻線Nmを通して端子短絡電流Isが通電する。この電流値は、Is>Itとなり可飽和リアクトルが飽和状態になる値である。時刻t1〜t2の期間中の溶接電圧Vwは、同図(C)に示すように、略Is・Rsとなる。この電圧値が溶接ワイヤが母材に接触したときの短絡電圧値よりも大きな値になるように抵抗器Rsの抵抗値を選択する。これは、溶接ワイヤが母材に接触したことを判別するためである。
【0040】
時刻t2において溶接ワイヤが母材に接触すると、図5(C)に示すように、溶接電圧Vwは上記のIs・Rsから短絡電圧値へと変化する。溶接電圧Vwが予め定めた短絡判別電圧値Vt未満になったことを判別すると、同図(E)に示すように、短絡用スイッチング素子TRsをオフにして端子短絡電流Isの通電を停止すると共に、同図(D)に示すように、大電流値のホットスタート電流Ihの通電を開始する。このときに、可飽和リアクトルは端子短絡電流Isの通電によって飽和状態にあるために、上記のホットスタート電流Ihの上昇率は非常に速い。この結果、短時間の短絡後の時刻t3においてアークが発生するので、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは短絡電圧からアーク電圧へと変化する。時刻t4においてホットスタート期間Thが終了すると、同図(D)に示すように、溶接電流Iwはホットスタート電流Ihからパルスアーク溶接又は短絡移行溶接の定常の溶接電流に移行する。
【0041】
上述したように、実施の形態2では、溶接ワイヤが母材に接触するまでに端子短絡電流を通電して可飽和リアクトルを飽和状態にすることによってインダクタンス値を非常に小さくし、ホットスタート電流の上昇率を非常に速くすることができるので、良好なアークスタート性を実現することができる。上記において、溶接ワイヤが母材に接触したことを溶接電圧の変化で判別したが、溶接電流Iwの通電開始によって判別しても良い。
【0042】
[効果]
図6は、本発明の効果の一例を示す良好アークスタート率の比較図である。同図は、アルミニウム合金のパルスMIG溶接において、直径1.2mmの溶接ワイヤを使用し、平均溶接電流80Aで100回のアークスタートを繰り返し、アークスタートが良好であった比率を測定したものである。従来技術とは、上述した図13においてリアクトルを可飽和リアクトルにした場合であり、本発明とは実施の形態1及び2の場合である。アークスタートの良否は、溶接ワイヤが母材に接触したときのスタート時短絡期間が4ms未満であれば良好、4ms以上であれば良好でないと判定した。同図に示すように、良好アークスタート率は、従来技術では64%であったが、本発明では92%に大幅に改善された。
【0043】
[実施の形態3]
図7は、本発明の実施の形態3に係る消耗電極交流アーク溶接電源の構成図である。同図において上述した図13と同一の構成物には同一符号を付してそれらの説明は省略する。同図の可飽和リアクトルWLは、図16及び図17で上述した可飽和リアクトルと同一物であり、所定電流値It以上の電流の通電によって飽和する。以下、図13とは異なる構成物について説明する。
【0044】
図7において、下記に示す極性切換インバータ回路に並列に抵抗器Rs及び短絡用スイッチング素子TRsから成る直列回路を設け、上記極性切換インバータ回路(以後、2次インバータ回路という)は、上記可飽和リアクトルWLの出力側に第1のスイッチング素子TR1のコレクタと第2のスイッチング素子TR2のコレクタとを接続し、第2の出力端子T2に第1スイッチング素子TR1のエミッタと第2スイッチング素子TR2のコレクタとを接続し、第1の出力端子に第2スイッチング素子TR2のエミッタと第4スイッチング素子TR4のコレクタと接続し、上記電源主回路の出力側に第3のスイッチング素子TR3エミッタと第4スイッチング素子TR4のエミッタとを接続してなるフルブリッジを形成する。
【0045】
直流・交流モード設定回路MCは、直流モード又は交流モードを設定し、直流モードのときは直流・交流モード設定信号McをLowレベルにし、交流モードのときはHighレベルにする。極性切換回路TMは、2次インバータ回路の極性切換周波数及び極性比率を予め定めた値に設定して極性切換信号Tmとして出力する。そして、2次インバータ駆動回路SDは、上記直流・交流モード設定信号Mc及び極性切換信号Tmに応じて上記2次インバータ回路の相対向する4つのスイッチング素子及び上記直列回路の短絡用スイッチング素子TRsのオン/オフ制御を行う。
【0046】
図8は、交流モードのEP極性でアークスタートする時のタイミングチャートである。以下、同図を参照して説明する。
【0047】
時刻t1において、図8(A)に示すように、起動信号StがHighレベルになると、同図(G)に示すように、溶接ワイヤは初期送給速度での送給が開始される。同時に図7に示す、電源主回路PMからの出力が開始されると共に同図(B)に示す短絡素子駆動信号TrsをHighレベルにして、短絡用スイッチング素子TRsがオンされて主巻線Nmを通して短絡電流Isが通電する。この電流値は、Is>Itとなり可飽和リアクトルが飽和状態になる値である。時刻t1〜t2の期間中の溶接電圧Vwは、同図(H)に示すように、略Is・Rs1となる。この電圧値が溶接ワイヤが母材に接触したときの短絡電圧値よりも大きな値になるように抵抗器Rsを選択する。これは、溶接ワイヤが母材に接触したことを判別するためである。
【0048】
時刻t2において溶接ワイヤが母材に接触すると、図8(H)に示すように、溶接電圧Vwは上記の略Is・Rsから短絡電圧値へと変化する。溶接電圧Vwが予め定めた短絡判別電圧値Vt未満になったことを判別すると、短絡用スイッチング素子TRsをオフにして同図(J)に示す短絡電流Isの通電を停止すると共に第2素子駆動信号T2及び第3素子駆動信号T3をHighレベルにして、第2のスイッチング素子TR2及び第3のスイッチング素子TR3をオン状態にして同図(I)に示すように、大電流値のホットスタート電流Ihの通電を開始する。このときに、可飽和リアクトルは短絡電流Isの通電によって飽和状態にあるために、上記のホットスタート電流Ihの上昇率は非常に速い。この結果、短時間の短絡後の時刻t3においてアークが発生するので、同図(H)に示すように、溶接電圧Vwは短絡電圧からアーク電圧へと変化する。時刻t4においてホットスタート期間Thが終了すると、同図(I)に示すように、溶接電流Iwはホットスタート電流IhからEP極性の交流パルスアーク溶接の溶接電流に移行する。
【0049】
[実施の形態4]
図9は、本発明の実施の形態4に係る消耗電極交流アーク溶接電源の構成図である。同図において、上述した図13と同一の構成物には同一符号を付してそれらの説明は省略する。
【0050】
2次インバータ回路には、例えば、350Aの大電流を通電することが要求されるために大容量のパワートランジスタを必要する。しかし、大容量のパワートランジスタは高価であり品揃えも悪い。上記の対策として、図19に示す、200Aのスイッチング素子を同一パッケージに2個直列に配設して形成された標準パワートランジスタが一般的に使用され価格も安く、品揃えも良い。本発明の実施の形態4は、上記標準パワートランジスタを用いて、2次インバータ回路を形成したものである。
【0051】
本発明の実施の形態4の2次インバータ回路は上記標準パワートランジスタを用い、図9に示すように、リアクトルWLの出力側に第1の抵抗器R1及び第のスイッチング素子TR1bから成る第1の直列回路と第1のスイッチング素子TR1aのコレクタと第2スイッチング素子TR2aのコレクタと第2スイッチング素子TR2bのコレクタとを接続し、第2の出力端子T2に第1スイッチング素子TR1aのエミッタと第1スイッチング素子TR1bのエミッタと第3スイッチング素子TR3aのコレクタと第3スイッチング素子TR3bのコレクタとを接続し、第1の出力端子に第2スイッチング素子TR2aのエミッタと第2スイッチング素子TR2bのエミッタと第4スイッチング素子TR4aのコレクタと第4スイッチング素子TR4bのコレクタとを接続し、上記電源主回路の出力側に第3のスイッチング素子TR3aのエミッタと第3スイッチング素子TR3bのエミッタと第4スイッチング素子TR4aのエミッタと第4スイッチング素子TR4bのエミッタとを接続してフルブリッジを形成する。そして、2次インバータ駆動回路SDは、上記2次インバータ回路の相対向する各スイッチング素子及び上記直列回路の短絡用スイッチング素子TRsのオン/オフ制御を行う。
【0052】
図10は、交流モードのEP極性でアークスタートする時のタイミングチャートである。以下、同図を参照して説明する。
【0053】
時刻t1において、図10(A)に示すように、起動信号StがHighレベルになると、同図(J)に示すように、溶接ワイヤは初期送給速度での送給が開始される。同時に図9に示す、電源主回路PMからの出力が開始されると共に図10に示す第2短絡素子駆動信号T1b、第3素子駆動信号T3a及び第3素子駆動信号T3bをHighレベルにして、第2の短絡用スイッチング素子TR1b、第3のスイッチング素子TR3a及び第3のスイッチング素子TR3bがオンされて主巻線Nmを通して短絡電流Isが通電する。この電流値は、Is>Itとなり可飽和リアクトルが飽和状態になる値である。時刻t1〜t2の期間中の溶接電圧Vwは、同図(K)に示すように、略Is・R1となる。この電圧値が溶接ワイヤが母材に接触したときの短絡電圧値よりも大きな値になるように第1の抵抗器R1の抵抗値を選択する。これは、溶接ワイヤが母材に接触したことを判別するためである。
【0054】
時刻t2において溶接ワイヤが母材に接触すると、図10(K)に示すように、溶接電圧Vwは上記の略Is・Rsから短絡電圧値へと変化する。溶接電圧Vwが予め定めた短絡判別電圧値Vt未満になったことを判別すると、同図(C)に示す第2短絡素子駆動信号T1bをLowレベルにして第2の短絡用スイッチング素子TR1bをオフにすると共に第2素子駆動信号T2a、第2素子駆動信号T2b、第3素子駆動信号T3a及び第3素子駆動信号T3bをHighレベルにして、第2のスイッチング素子TR2a、第2のスイッチング素子TR2b、第3のスイッチング素子TR3a及び第3スイッチング素子TR3bをオン状態にして、同図(M)に示す端子短絡電流Isの通電を停止すると共に同図(L)に示すように、大電流値のホットスタート電流Ihの通電を開始する。このときに、可飽和リアクトルWLは短絡電流Isの通電によって飽和状態にあるために、上記のホットスタート電流Ihの上昇率は非常に速い。この結果、短時間の短絡後の時刻t3においてアークが発生するので、同図(K)に示すように、溶接電圧Vwは短絡電圧からアーク電圧へと変化する。時刻t4においてホットスタート期間Thが終了すると、同図(L)に示すように、溶接電流Iwはホットスタート電流IhからEP極性の交流パルスアーク溶接の溶接電流に移行する。
【0055】
上述より、消耗性電極交流アーク溶接において、EN極性時の実効電流値はEP極性時の実効電流値より小さい。よって、図9に示す、EN極性時に導通する2次側電流は第1のスイッチング素子のTR1aのみで供給でき、第1のスイッチング素子のもう一つのTR1bを第2の短絡用スイッチング素子として流用できるために、外部に新たな短絡用スイッチング素子を設ける必要がなくなる。
【0056】
[実施の形態5]
図11は、本発明の実施の形態5に係る消耗電極アーク溶接電源の構成図である。同図において、上述した図9及び図13と同一の構成物には同一符号を付してそれらの説明は省略する。
【0057】
図11に示す2次インバータ回路の第4のスイッチング素子TR4bのエミッタと電源主回路の出力との間に、第2の抵抗器R2を追加して第2の直列回路を新たに設けて本発明の実施の形態5の2次インバータ回路を形成している。
【0058】
図12は、交流モードのEP極性でアークスタートする時のタイミングチャートである。以下、同図を参照して説明する。
【0059】
時刻t1において、図12(A)に示すように、起動信号StがHighレベルになると、同図(J)に示すように、溶接ワイヤは初期送給速度での送給が開始される。同時に図11に示す、電源主回路PMからの出力が開始されると共に図12に示す第2短絡素子駆動信号T1b、第2素子駆動信号T2a、第2素子駆動信号T2b、第3素子駆動信号T3a、第3素子駆動信号T3b及び第3短絡素子駆動信号T4bをHighレベルにして、第2の短絡用スイッチング素子TR1b、第2のスイッチング素子TR2a、第2のスイッチング素子TR2b、第3のスイッチング素子TR3a、第3のスイッチング素子TR3b及び第3の短絡用スイッチング素子TR4bがオンされて主巻線Nmを通して短絡電流Isが通電する。この電流値は、Is>Itとなり可飽和リアクトルが飽和状態になる値である。時刻t1〜t2の期間中の溶接電圧Vwは、同図(K)に示すように略Is・(R1・R2/R1+R2)となる。この電圧値が溶接ワイヤが母材に接触したときの短絡電圧値よりも大きな値になるように第1の抵抗器Rs1及び第2の抵抗器R2の抵抗値を選択する。これは、溶接ワイヤが母材に接触したことを判別するためである。
【0060】
時刻t2において溶接ワイヤが母材に接触すると、図12(K)に示すように、溶接電圧Vwは上記の略Is・(R1・R2/R1+R2)から短絡電圧値へと変化する。溶接電圧Vwが予め定めた短絡判別電圧値Vt未満になったことを判別すると、第2の短絡用スイッチング素子TR1b及び第3の短絡用スイッチング素子TR4bをオフにして図12(M)に示す短絡電流Isの通電を停止すると共に同図(L)に示すように、大電流値のホットスタート電流Ihの通電を開始する。このときに、可飽和リアクトルは短絡電流Isの通電によって飽和状態にあるために、上記のホットスタート電流Ihの上昇率は非常に速い。この結果、短時間の短絡後の時刻t3においてアークが発生するので、同図(K)に示すように、溶接電圧Vwは短絡電圧からアーク電圧へと変化する。時刻t4においてホットスタート期間Thが終了すると、同図(L)に示すように、溶接電流Iwはホットスタート電流IhからEP極性の交流パルスアーク溶接に移行する。
【0061】
上述より、実施の形態4と同様にEN極性の実効電流値はEP極性の実効電流値より小さい。よって、図11に示す、EN極性時に導通する2次側電流は第1のスイッチング素子のTR1a及び第4のスイッチング素子TR4aで供給ができ、第1のスイッチング素子のTR1b及び第4のスイッチング素子のTR4bは、第2の短絡用スイッチング素子及び第3の短絡用スイッチング素子として流用できるために、外部に新たな2つの短絡用スイッチング素子を設ける必要がなくなる。
【0062】
上述したように、実施の形態3、実施の形態4及び実施の形態5の交流アーク溶接において、溶接ワイヤ1が母材2に接触するまでに短絡電流を通電して可飽和リアクトルWLを飽和状態にすることによってインダクタンス値を非常に小さくし、ホットスタート電流の上昇率を非常に速くすることができるので、良好なアークスタート性を実現することができる。上記において、溶接ワイヤが母材に接触したことを溶接電圧の変化で判別したが、溶接電流Iwの通電開始によって判別しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施の形態1に係る消耗電極アーク溶接電源の構成図である。
【図2】図1における補助巻線付可飽和リアクトルWL1の構造を示す図である。
【図3】図1におけるアークスタート時のタイミングチャートである。
【図4】本発明の実施の形態2に係る消耗電極アーク溶接電源の構成図である。
【図5】図4におけるアークスタート時のタイミングチャートである。
【図6】本発明の効果を示す良好アークスタート率の比較図である。
【図7】本発明の実施の形態3に係る消耗電極アーク溶接電源の構成図である。
【図8】図7におけるアークスタート時のタイミングチャートである。
【図9】本発明の実施の形態4に係る消耗電極アーク溶接電源の構成図である。
【図10】図9におけるアークスタート時のタイミングチャートである。
【図11】本発明の実施の形態5に係る消耗電極アーク溶接電源の構成図である。
【図12】図11におけるアークスタート時のタイミングチャートである。
【図13】従来技術の消耗電極アーク溶接電源の構成図である。
【図14】パルスアーク溶接の電流・電圧波形図である。
【図15】短絡移行溶接の電流・電圧波形図である。
【図16】従来技術における可飽和リアクトルの構造を示す図である。
【図17】図11の可飽和リアクトルの電流値に対するインダクタンス値の変化を示す図である。
【図18】課題を示す従来技術におけるアークスタート時のタイミングチャートである。
【図19】実施の形態4及び5に使用されている同一パッケージに2個直列に配設して 形成されたパワートランジスタの構成図である。
【符号の説明】
【0064】
1 溶接ワイヤ
2 母材
3 アーク
C1、C2 鉄芯
CC 定電流電源
DVC 補助電源駆動回路
DVS 短絡駆動回路
Fw 送給速度
G スペーサ
Ib ベース電流
Ic 補助巻線電流
Ih ホットスタート電流
Ip ピーク電流
Is 端子短絡電流(短絡電流)
It 所定電流値
Iw 溶接電流
L、Lb、Lp インダクタンス値
MC 直流・交流モード設定回路
Mc 直流・交流モード設定信号
Nc 補助巻線
Nm 主巻線
PC 補助電源
PM 電源主回路
Rs 抵抗器
R1 第1の抵抗器
R2 第2の抵抗器
SD 2次インバータ駆動回路
St 起動信号
TM 極性切換回路
Tm 極性切換信号
T1、T2 出力端子
TR1、1a、 第1のスイッチング素子
TR2、2a、2b 第2のスイッチング素子
TR3、3a、3b 第3のスイッチング素子
TR4、4a 第4のスイッチング素子
TRs 短絡用スイッチング素子
TR1b 第2の短絡用スイッチング素子
TR4b 第3の短絡用スイッチング素子
T1、1a 第1素子駆動信号
T2、2a、2b 第2素子駆動信号
T3、3a、3b 第3素子駆動信号
T4、4a、4b 第4素子駆動信号
Trs 短絡素子駆動信号
T1b 第2の短絡素子駆動信号
T4b 第3の短絡素子駆動信号
Ta アーク期間
Tb ベース期間
Th ホットスタート期間
Tp ピーク期間
Tpb パルス周期
TRc 補助電源スイッチング素子
TRs 短絡用スイッチング素子
Ts 短絡期間
Vb ベース電圧
Vo 出力電圧
Vp ピーク電圧
Vt 短絡判別電圧値
Vw 溶接電圧
WL リアクトル
WL 可飽和リアクトル(リアクトル)
WL1 補助巻線付可飽和リアクトル


【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接電流及び溶接電圧を消耗電極に供給する電源主回路と、この電源主回路の出力に直列に接続され主巻線及び鉄芯から成るリアクトルとを備え、前記リアクトルは前記主巻線に通電する電流値が所定電流値未満のときはインダクタンス値が大きくなり前記所定電流値以上のときは前記鉄芯が飽和状態になって非常に小さなインダクタンス値になる可飽和リアクトルである消耗電極アーク溶接電源において、前記可飽和リアクトルに補助巻線を新たに設け、この補助巻線に接続された補助電源を設け、アークスタートに際し前記補助電源から前記補助巻線に電流を通電することによって前記可飽和リアクトルを飽和状態にしてインダクタンス値を非常に小さくし、続いて送給によって消耗電極が母材に接触すると前記電源主回路から大電流値のホットスタート電流を前記主巻線を通して消耗電極に通電してアークスタートさせ、続いて前記補助電源からの電流通電を停止して前記電源主回路から前記主巻線を通して定常の溶接電流を通電することを特徴とする消耗電極アーク溶接電源。
【請求項2】
溶接電流及び溶接電圧を消耗電極に供給する電源主回路と、この電源主回路の出力に直列に接続され主巻線及び鉄芯から成るリアクトルとを備え、前記リアクトルは前記主巻線に通電する電流値が所定電流値未満のときはインダクタンス値が大きくなり前記所定電流値以上のときは前記鉄芯が飽和状態になって非常に小さなインダクタンス値になる可飽和リアクトルである消耗電極アーク溶接電源において、前記消耗電極アーク溶接電源の出力端子間に抵抗器及び短絡用スイッチング素子から成る直列回路を設け、アークスタートに際し前記短絡用スイッチング素子をオン状態にして出力端子間を短絡すると共に前記電源主回路から前記主巻線及び前記短絡用スイッチング素子を通して前記所定電流値以上の端子短絡電流を通電して前記可飽和リアクトルを飽和状態にしてインダクタンス値を非常に小さくし、続いて送給によって消耗電極が母材に接触すると前記短絡用スイッチング素子をオフ状態にすると共に前記電源主回路からの電流を大電流値のホットスタート電流に切り換えて前記可飽和リアクトルの前記主巻線を通して消耗電極に通電してアークスタートさせ、続いて前記電源主回路から前記主巻線を通して定常の溶接電流を通電することを特徴とする消耗電極アーク溶接電源。
【請求項3】
直流電流及び直流電圧を供給する電源主回路と、前記電源主回路の出力に直列に接続され主巻線及び鉄芯から成るリアクトルと、前記リアクトルは前記主巻線に通電する電流値が所定電流値未満のときはインダクタンス値が大きくなり前記所定電流値以上のときは前記鉄芯が飽和状態になって非常に小さなインダクタンス値になる可飽和リアクトルであり、前記リアクトルの出力に設けられ相対向する第1のスイッチング素子及び第4のスイッチング素子並びに相対向する第2のスイッチング素子及び第3のスイッチング素子からフルブリッジを形成し交流出力を消耗電極に供給する極性切換インバータ回路とを備えた消耗電極交流アーク溶接電源において、前記極性切換インバータ回路に並列に抵抗器及び短絡用スイッチング素子から成る直列回路を設け、アークスタートに際し、前記短絡用スイッチング素子をオン状態にすると共に前記極性切換インバータ回路の4つのスイッチング素子をオフ状態にして前記電源主回路から前記主巻線及び前記短絡用スイッチング素子を通して前記所定電流値以上の短絡電流を通電して前記可飽和リアクトルを飽和状態にしてインダクタンス値を非常に小さくし、続いて送給によって消耗電極が母材に接触すると前記短絡用スイッチング素子をオフ状態にすると共に前記極性切換インバータ回路の相対向する2組のスイッチング素子のどちらか1組をオン状態にして前記電源主回路からの直流電流を大電流値のホットスタート電流に切り換えて前記可飽和リアクトルの前記主巻線を通して消耗電極に通電してアークスタートさせ、続いて前記電源主回路から定常の直流電流を前記極性切換インバータ回路によって交流電流に変換して通電することを特徴とする消耗電極交流アーク溶接電源。
【請求項4】
直流電流及び直流電圧を供給する電源主回路と、前記電源主回路の出力に直列に接続され主巻線及び鉄芯から成るリアクトルと、前記リアクトルは前記主巻線に通電する電流値が所定電流値未満のときはインダクタンス値が大きくなり前記所定電流値以上のときは前記鉄芯が飽和状態になって非常に小さなインダクタンス値になる可飽和リアクトルであり、前記リアクトルの出力に設けられ相対向する第1のスイッチング素子及び第4のスイッチング素子並びに相対向する第2のスイッング素子及び第3のスイッング素子からフルブリッジを形成し交流出力を消耗電極に供給する極性切換インバータ回路とを備えた消耗電極交流アーク溶接電源において、前記極性切換インバータ回路の第1のスイッチング素子に並列に抵抗器及び第2の短絡用スイッチング素子から成る直列回路を設け、アークスタートに際し、前記短絡用スイッチング素子をオン状態にすると共に前記極性切換インバータ回路の第3のスイッチング素子をオン状態にして前記電源主回路から前記主巻線、前記短絡用スイッチング素子及び前記第3のスイッチング素子を通して前記所定電流値以上の短絡電流を通電して前記可飽和リアクトルを飽和状態にしてインダクタンス値を非常に小さくし、続いて送給によって消耗電極が母材に接触すると前記短絡用スイッチング素子及び第3のスイッチング素子をオフ状態にすると共に前記極性切換インバータ回路の相対向する2組のスイッチング素子のどちらか1組をオン状態にして前記電源主回路からの直流電流を大電流値のホットスタート電流に切り換えて前記可飽和リアクトルの前記主巻線を通して消耗電極に通電してアークスタートさせ、続いて前記電源主回路から定常の直流電流を前記極性切換インバータ回路によって交流電流に変換して通電することを特徴とする消耗電極交流アーク溶接電源。
【請求項5】
前記極性切換インバータ回路の第1のスイッチング素子に並列に抵抗器及び第2の短絡用スイッチング素子から成る第1の直列回路と第4のスイッチング素子に並列に抵抗器及び第3の短絡用スイッチング素子から成る第2の直列回路とを設け、アークスタートに際し、前記第2の短絡用スイッチング素子及び前記第3の短絡用スイッチング素子をオン状態にすると共に前記極性切換インバータ回路の第2のスイッチング素子及び第3のスイッチング素子をオン状態にして前記電源主回路から前記主巻線、前記第2の短絡用スイッチング素子及び前記第3のスイッチング素子並びに前記第2のスイッチング素子及び第3の短絡用スイッチング素子を通して前記所定電流値以上の短絡電流を通電して前記可飽和リアクトルを飽和状態にしてインダクタンス値を非常に小さくし、続いて送給によって消耗電極が母材に接触すると前記第2の短絡用スイッチング素子、前記第3の短絡用スイッチング素子、第2のスイッチング素子及び第3のスイッチング素子をオフ状態にすると共に前記極性切換インバータ回路の相対向する2組のスイッチング素子のどちらか1組をオン状態にして前記電源主回路からの直流電流を大電流値のホットスタート電流に切り換えて前記可飽和リアクトルの前記主巻線を通して消耗電極に通電してアークスタートさせることを特徴とする請求項4記載の消耗電極交流アーク溶接電源。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2006−43764(P2006−43764A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−343752(P2004−343752)
【出願日】平成16年11月29日(2004.11.29)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】