説明

液体ポンプ

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、液体ポンプに係り、詳しくはこのインペラと一体的に回転可能に設けられた従動側磁石を回転磁界で回転駆動することによりインペラを回転駆動するようにした液体ポンプに関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、車両等のエンジン冷却装置では、エンジン部内で加熱された冷却水をラジエータに圧送して強制的に冷却している。この冷却水の圧送には、電動式ウォータポンプが用いられているものがある。図6,7に示すように、このポンプ50のインペラ51は、インペラ本体52が従動側磁石53を保持するように構成されている。駆動用モータにて駆動側磁石54が回転駆動されると、従動側磁石53に回転磁界が作用する。この回転磁界によりインペラ本体52が従動側磁石53とともに回転する。すると、流入口55から加熱された冷却水がポンプ室56に導入され、流出口57からラジエータ側に圧送される。
【0003】インペラ本体52は胴部58に上側フランジ59と下側フランジ60を備え、モールド成形により一体成形されている。上側フランジ59の上面に複数の羽根61が形成されている。従動側磁石53は貫通孔62を有する円筒状に形成されている。従動側磁石53には、耐錆性及び価格の点からフェライト磁石が使用されている。又、従動側磁石53の厚さ、外径及び内径は必要な回転トルクの大きさに応じて決定されている。
【0004】従動側磁石53は、その貫通孔62が胴部58に嵌挿されるとともに、両フランジ59,60にて挟持される状態でインペラ本体52に一体回転可能に固定されている。従動側磁石53の外周面53a及び下面外周部はポンプ室56に露出され、温水に直接さらされるようになっている。
【0005】このようなポンプ50を備えた車両において、エンジンが始動されエンジン側の冷却水の温度が所定の値を越えるとポンプ50が作動される。従って、ポンプ50が作動した時点では、従動側磁石53の温度が低い状態でポンプ室56に加熱された冷却水が導入されることになる。図10は、このときの経過時間tに対するポンプ室56の冷却水の温度TW 、及び、従動側磁石53の内周面62aの温度TI1と外周面53aの温度TO1の温度変化を表したグラフである。ポンプ室56に温度の高い冷却水が導入されると、その温水で従動側磁石53の温度が上昇する。このとき、従動側磁石53では、温水に直接さらされる外周面53aの温度TO1は急速に上昇するが、直接さらされない内周面62aの温度TI1は遅れて上昇する。その結果、温水が導入された直後における従動側磁石53の外周面53aと内周面62aとの温度差(TO1−TI1)が一時的に大きくなる。この温度差は、寒冷地においては100°近くに達する。
【0006】円筒状の従動側磁石53において、その内周面62aと外周面53aとの温度差があると、内周面62a側においては円周方向の引っ張り応力σ1 が発生し、外周面53a側においては円周方向の圧縮応力σ2 が発生する。この各応力は、下記に示す計算モデルで計算することができる。
【0007】即ち、従動側磁石53の内周半径をr1 、外周半径をr2 、同じくヤング率をE、熱膨張率をα、ポアソン比をνとする。そして、その内周面温度をt1 、同じく外周面温度をt2 とする。
【0008】
σ1 =(E/(1−ν))・α・(t2 −t1
×(r22/(r22−r12)−1/(2・log (r2 /r1 )))
σ2 =(E/(1−ν))・α・(t2 −t1
×(r12/(r22−r12)−1/(2・log (r2 /r1 )))
ここで、従動側磁石53の内周半径をr1 =0.65〔cm〕、外周半径をr2 =1.90〔cm〕とする。又、フェライト磁石のヤング率をE=1.47×105 〔MPa 〕(=1.5×106 kgf/cm2 )、熱膨張率をα=10×10-6、ポアソン比をν=0.3とする。この各値を上記各式に代入すると、σ1 =0.0908×(t2 −t1 ) 〔MPa 〕
=0.926×(t2 −t1 ) 〔kgf/cm〕
σ2 =−1.448×(t2 −t1 ) 〔MPa 〕
=−14.77×(t2 −t1 ) 〔kgf/cm〕
となる。
【0009】図12は、横軸に温度差Δt(=t2 −t1 )を取り、縦軸に内周円周方向引張応力σ1 及び外周円周方向圧縮応力σ2 を取って、上記の各式を表したグラフである。又、このグラフで、σT はフェライト磁石の引張許容応力(代表値)であり、σP は同じく圧縮許容応力(同じく代表値)である。従って、上記各式との交点に対応する温度差値Δtが許容温度差になるため、この従動側磁石53の許容温度差は内周側引張応力σ1 に対応するほぼ100°Cであることが分かる。即ち、寒冷地におけるエンジン始動時において、従動側磁石53の内周面62aと外周面53aの温度差が100°Cを超えると、従動側磁石53の内周面62a側にクラックが発生することになる。
【0010】上記のポンプ50では、従動側磁石53の内周部がインペラ本体52に保持されているだけであるため、内周面62a側に発生したクラックが外周面53aに到達すると従動側磁石53がインペラ本体52から脱落することになる。この結果、ポンプ50の機能が損なわれるため、問題があった。
【0011】そこで、外周面53aに達するクラックが発生しても、従動側磁石53の一部がインペラ本体52から脱落しないようにしたポンプが提案されている。つまり、図8に示すポンプ70では、インペラ本体71のモールド成形時に従動側磁石53を完全にモールドし従動側磁石53が全く温水に接触しないようになっている。従って、図11のグラフに示すように内周面温度TI2は従来のように上昇するが、外周面温度TO2の上昇率が抑制される。その結果、ポンプ70の作動直後における従動側磁石53の内周面62aと外周面53aとの温度差(TO2−TI2)が前記ポンプ50のときよりも小さくなるため、内周円周方向引張応力σ1 及び外周円周方向圧縮応力σ2 の大きさが小さくなりクラックの発生が抑制されるようになっている。
【0012】しかし、このように従動側磁石53を完全にインペラ本体71内に埋設した場合、インペラ本体71を形成する合成樹脂とフェライト磁石とのそれぞれの熱膨張係数が異なるため、加熱及び冷却の繰り返しによりインペラ本体71の特定の箇所に応力が集中し、インペラ本体71が破損することがある。従って、破損したインペラ本体71から内部に侵入した温水で従動側磁石53が破損する可能性があるため、信頼性が不十分であった。
【0013】そこで、このようなインペラ本体71の破損を防止するため、図9に示すポンプ80では、従動側磁石53の外周面53a及び下面をインペラ本体81とは別部材のカバー82で覆うようにしている。このポンプ80では、従動側磁石53を保持するインペラ本体81と、カバー82とが別部材であるため、インペラ本体81及びカバー82の特定の箇所に大きな応力が集中しないように形成することができる。従って、熱膨張係数の差によるインペラ本体81又はカバー82の破損を防止することができる。そして、従動側磁石53の外周面53a及び下面がカバー82で覆われ温水が直接接触しないため、図11に示すように、その外周面温度TO3の上昇率は図6に示すポンプ50の外周面温度T01より抑制される。その結果、外周面53aと内周面62aとの温度差(TO3−TI3)が小さくなるため、クラックの発生が抑制される。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このポンプ80では、カバー82を形成する合成樹脂とフェライト磁石の熱膨張係数の差によるカバー82への応力の集中を考慮してカバー82の従動側磁石53に対する大きさを決定しなければならず、設計が難しくなる。又、インペラ本体81に別部材としてカバー82が増えるため、部品点数及び組立工数が増加する問題がある。さらに、外周面53aの温度上昇率が前記前記ポンプ70の場合よりも高くなり、温度差が大きくなる。
【0015】又、図示しない別のポンプでは、ポンプ室56の内周面とインペラ部の外周側の間において、インペラ部の羽根側と従動側磁石53の間にラビリンス構造を設けているものがある。このポンプでは、このラビリンス構造によりポンプ室56に導入された温水が従動側磁石53側に殆ど回らず、そのまま流出口から排出されるようにしている。従って、このポンプでは、図11に示すように、内周温度TI4と外周温度TO4が共に殆ど温度差のない状態で低い上昇率で上昇する。従って、従動側磁石53における内周円周方向引張応力σ1 及び外周円周方向圧縮応力σ2 を効果的に抑制することができる。
【0016】しかし、このポンプでは、ラビリンス構造によりポンプ室56の構造、及び、インペラの構造が複雑化するため、部品単価が高くなるとともに組立工数が増加する問題がある。
【0017】本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、部品点数、部品単価及び組立工数の増大を招くことなく、熱応力による従動側磁石さらにはインペラ本体の破損を効果的に防止することができる流体ポンプを提供することにある。
【0018】
【課題を解決するための手段】上記問題点を解決するため、請求項1に記載の発明は、液体が導入される流入口と、液体が排出される排出口とを備えたポンプ室と、前記ポンプ室において回転可能に支持され、液体を流入口から導入して流出口から排出させるインペラ本体と、前記インペラ本体に一体的に回動可能に設けられる円筒状の従動側磁石と、前記従動側磁石に作用する回転磁界を発生させる回転磁界発生手段とを備え、回転磁界発生手段が発生させる回転磁界により従動側磁石とともにインペラ本体を回転駆動するようにした液体ポンプにおいて、インペラ本体は、ポンプ室に固設される支持軸に回転可能に支持される軸部と、軸部の外周面から外周側へ放射状に延出するように形成され、その外周側端部を従動側磁石の貫通孔の内周面に当接して従動側磁石を径方向に支持し、軸部の外周面と貫通孔の内周面との間に内周面の大部分をその内部に露出させる空間部を形成する複数の支持片と、軸部、又は、複数の支持片の上部に固着され、その下面が従動側磁石の上面に当接されるとともに、その上側に複数の羽根が形成され、さらに前記従動側磁石の外径よりも小さくその外径が形成されている上側フランジと、軸部、又は、複数の支持部の下部に固着され、その上面が従動側磁石の下面に当接されるとともに、前記従動側磁石の外径よりも小さくその外径が形成されている下側フランジとを備え、従動側磁石の外周面と内周面とをそれぞれポンプ室に露出させた。
【0019】請求項1に記載の発明によれば、回転磁界発生手段にて従動側磁石とともにインペラ本体が回動する。インペラ本体の回動により、流入口から液体がポンプ室に導入され排出口から排出される。このとき、従動側磁石の外周面及び内周面がそれぞれポンプ室に露出されているため、温度の高い液体が導入されると、外周面の温度と内周面の温度は同時的に急速に上昇し、両者間の温度差は大きくならない。従って、円筒状の従動側磁石において、外周面と内周面との温度差による熱応力の発生が効果的に抑制されるため、熱応力による従動側磁石の破損を防止することが可能になる。又、保持する従動側磁石の外周面及び内周面を共にポンプ室に露出させるだけの構造であるため、インペラ本体を単体で形成することが可能になる。さらに、従動側磁石がインペラ本体の内部に完全に収容されずその外周面及び内周面がポンプ室に露出されるため、両者の熱膨張係数の違いによる伸縮量の差によりインペラ本体の特定箇所へ応力が集中することを回避するようにインペラ本体を設計することが容易に可能になる。
【0020】又、請求項2に記載の発明は、上側フランジ側には、空間部をポンプ室に連通する開口部を設けた。
【0021】請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の作用に加えて、上側フランジ側に形成される開口部にて空間部がポンプ室に連通されるため、従動側磁石の内周面がポンプ室に露出する。その結果、ポンプ室に導入された液体は従動側磁石の外周面に接触するとともに、従動側磁石の内周面に接触する。温度が高い液体がポンプ室に導入されると、従動側磁石の外周面と内周面の温度がほぼ同時に上昇し、その温度差が大きくなることはない。
【0022】又、請求項3に記載の発明は、下側フランジ側には、空間部をポンプ室に連通する開口部を設けた。請求項3に記載の発明によれば、請求項に記載の発明の作用に加えて、ポンプ室から上側フランジ側の開口部を通って空間部内に導入された液体は、下側フランジ側の開口部から再びポンプ室に誘導される。その結果、貫通孔の内周面には、流入口から導入される新たな液体が接触して流れる。従って、温度が高い液体がポンプ室に導入されると、内周面には温度が高い液体が接触して流れる。そのため、内周面の温度上昇率が外周面の温度上昇率に近づき、両者間の温度差が小さくなる。
【0023】
【発明の実施の形態】以下、本発明を電動ウォータポンプに具体化した一実施の形態を図1〜図4に従って説明する。
【0024】図1,3に示すように、電動ウォータポンプ(以下、単にポンプという)1は、駆動部2及びポンプ部3とから構成されている。駆動部2は、駆動用モータ4と回転磁界発生部5とから構成されている。駆動用モータ4は、公知の直流モータである。駆動用モータ4の回転軸6は、回転磁界発生部5のハウジング7にて形成される駆動側磁石室8に挿通されている。
【0025】駆動側磁石室8において、回転軸6の先端には支持板9が固着され、この支持板9の上面には駆動側磁石10が固着されている。本実施の形態では、駆動用モータ4及び駆動側磁石10にて回転磁界発生手段が構成されている。
【0026】回転磁界発生部5の上側には、非磁性材からなる仕切り板11を隔ててポンプ部3が設けられている。このポンプ部3は、ケース12にてポンプ室13が形成されている。このケース12の上側には流入口14が形成され、ケース12の側方には流出口15が形成されている。ポンプ室13において仕切り板11の上面の流入口14の真下には、支持軸16が固着されている。この支持軸16には回転軸17が回転可能に支持され、この回転軸17は係止部18にて支持軸16から抜けないように固定されている。回転軸17にはインペラ19が固着されている。
【0027】図2に示すように、インペラ19は、インペラ本体20及び従動側磁石21とから構成されている。インペラ本体20は、モールド成形にて一体的に成形された合成樹脂からなっている。インペラ本体20は軸部としての円柱状の支持筒22を備え、その支持筒22の外周面からは板状の支持片23が放射状に等角度間隔で複数延出形成されている。各支持片23の上側外周端間には、円環状の上側フランジ24が形成されている。上側フランジ24は、その外径が従動側磁石21の外径よりも小さく形成されている。上側フランジ24と支持筒22との間には、各支持片23にて区画される開口部25が複数個形成されている。上側フランジ24の上面には、複数個の羽根26が等角度間隔で形成されている。
【0028】又、各支持片23の下側外周端間には、円環状の下側フランジ27が形成されている。下側フランジ27は、その外径が従動側磁石21の外径よりも小さく形成されている。下側フランジ27と支持筒22との間には、各支持片23にて区画される開口部28が複数個形成されている。下側フランジ27の下面と、仕切り板11との間には隙間が形成され、この隙間にて開口部28とポンプ室13が連通されている。
【0029】従動側磁石21は、貫通孔29を有する円筒状に形成されている。従動側磁石21は、貫通孔29の内周面29aに前記各支持片23の外周端が当接して径方向に支持されるとともに、両フランジ24,27の間に挟持される状態でインペラ本体20に一体化されている。支持筒22の外周面と従動側磁石21の貫通孔29の内周面29aとの間には、各支持片23にて区画される空間部が複数形成されている。この各空間部内には、内周面29aの大部分が露出されている。各空間部は開口部25にてインペラ19の上方に連通され、又、開口部28にてインペラ19の下方に連通されている。又、従動側磁石21の外周面21aと上面外周部及び下面外周部はポンプ室13に露出されている。
【0030】前記駆動側磁石10が回転駆動されると、従動側磁石21に回転磁界が作用する。すると、インペラ本体20が従動側磁石21とともに回転する。インペラ19が回転すると、流入口14から係止部18と各羽根26との間に冷却水が導入される。そして、その冷却水は各羽根26による遠心作用によりインペラ19の外周側に誘導され流出口15からラジエータ側に圧送される。尚、本実施の形態のポンプ1は、渦巻き型の遠心ポンプである。
【0031】次に、以上のように構成された電動ウォータポンプの作用について説明する。本実施の形態のポンプ1では、インペラ本体20がモールド成形による一体成形で形成されている。又、インペラ19及びポンプ室13は、ラビリンス構造等が設けられていない単純な形状で形成されている。従って、部品点数及び部品単価が最小限となり、その組立工数も最小限となる。
【0032】さて、電動ウォータポンプ1が作動されていない状態では、従動側磁石21の全体の温度はポンプ室13の加熱されていない冷却水の温度と同じになっている。ポンプ1が作動され駆動用モータ4が回転すると、駆動側磁石10が回転して従動側磁石21に回転磁界が作用する。この結果、従動側磁石21を含むインペラ19が支持軸16に対して回転する。すると、各羽根26の作用により、ポンプ室13の冷却水が流出口15から外部に排出されるとともに、流入口14から加熱された冷却水(以下、温水という)がポンプ室13に導入される。
【0033】ポンプ室13に導入された温水は、係止部18の外周部から各羽根26の間を通ってインペラ19の外周側とケース12の内周面との間に誘導され、さらに流出口15に誘導されてポンプ室13から排出される。このとき、温水は従動側磁石21の外周面21aを含む外周部表面に接触する状態で流れる。その結果、従動側磁石21の外周面21aの温度は急速に上昇する。
【0034】又、ポンプ室13に導入された温水の一部は各開口部25から支持筒22と貫通孔29の内周面29aとの間の空間部に誘導され、各開口部28を通って再びポンプ室13に誘導される。ポンプ室13に誘導された温水は、流出口15に誘導されてポンプ室13から排出される。従って、ポンプ室13に導入された温水は、外周面21aに接触して流れるとほぼ同時に空間部内に露出された内周面29aの大部分に接触して流れる。その結果、従動側磁石21の内周面29aの温度は、外周面21aの温度と同時的に急速に上昇する。このことから、従動側磁石21の外周面21aと内周面29aの温度差は大きくなることはない。
【0035】図4は、ポンプ室13に温水が導入されてからの経過時間tに対するポンプ室13の温水温度TW 、従動側磁石21の内周面29aの温度TI 、及び、同じく外周面21aの温度TO を表したグラフである。グラフから分かるように、温水が導入されてから、外周面21aの温度TO 、及び、内周面29aの温度TI は殆ど同じ高い上昇率で急速に上昇し、その温度差(TO −TI )は極めて小さくなっている。
【0036】従って、寒冷地においてエンジンが冷えた状態でエンジン始動した直後にポンプ1が作動したときにおいても、従動側磁石21の外周面21aと内周面29aとの温度差が過度に大きくなることはない。その結果、円筒状の従動側磁石21において、外周面21aと内周面29aとの温度差により生じる内周側における円周方向引張応力、及び、外周側における円周方向圧縮応力の大きさが抑制される。このため、熱応力による従動側磁石21でのクラックの発生を防止することが可能になる。
【0037】又、インペラ本体20に対して、従動側磁石21が完全にその内部に収容されず、従動側磁石21の内周部が保持されているだけであるため、両者の熱膨張係数の違いによる伸縮量の差により、インペラ本体20及び従動側磁石21の特定の箇所に無理な応力が集中することはない。その結果、インペラ本体20及び従動側磁石21の破損を防止することが可能になる。
【0038】以上詳述したように、本実施の形態の電動ウォータポンプによれば、以下の効果を得ることができる。
(a) ポンプ室13に導入された温水は、従動側磁石21の外周面21aを含む外周部に接触する状態で流れるとともに、開口部25を通って空間部内に露出する従動側磁石21の貫通孔29の内周面29aに接触する状態で流れる。その結果、温水の導入とともに従動側磁石21の外周面21aの温度TO と内周面29aの温度TI がほぼ同じ上昇率で急速に上昇し、両者間に大きな温度差が生じない。従って、従動側磁石21において、その外周面21aと内周面29aとの温度差により発生する内周側における円周方向引張応力、及び、外周側における円周方向圧縮応力の大きさを抑制することができるため、クラックの発生を防止することができる。
【0039】(b) 単体で形成されるインペラ本体20は従動側磁石21の内周部のみを保持し、インペラ本体20に従動側磁石21を完全に収容しない構造にした。従って、インペラ本体20を形成する合成樹脂と従動側磁石21の熱膨張係数の差による応力がインペラ本体20及び従動側磁石21の特定の箇所に集中しない。従って、熱膨張係数の差によるインペラ本体20及び従動側磁石21の破損を防止することができる。そのため、インペラ本体20の設計に当たり、熱応力の集中を考慮した設計が要求されないため、設計が容易になる。
【0040】(c) インペラ本体20で従動側磁石21の内周部を保持してその外周面21a及び内周面29aをポンプ室13に露出させるだけの構造であるため、インペラ本体20を一体成形による単体で形成することができる。又、ケース12の構造が単純になる。従って、部品点数及び部品単価を最小限にすることができるとともに、組立工数を最小限にすることができる。
【0041】尚、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、以下のように構成することもできる。
(1) 上記実施の形態では、下側フランジ27を円環状に形成し、支持筒22の外周面と下側フランジ27との間に各支持片23にて区画される開口部28を形成した。そして、この各開口部28により、内周面29aに接触した温水がインペラ19の下方を通って流出口15に誘導されるようにした。これを、図5に示すように、下側フランジ40を支持筒22の外周面から径方向に広がるように形成し、支持筒22と下側フランジ40との間に開口部28を設けない構成としてもよい。この場合でも、ポンプ室13に導入された温水は各開口部25を通って支持筒22と貫通孔29の間に導入されるため、内周面29aの温度TI は外周面21aの温度TO と同じ程度の上昇率で上昇する。
【0042】(2) 上側フランジ24の外径、又は、下側フランジ27の外径を従動側磁石21の外径に等しく形成してもよい。この場合でも、従動側磁石21の外周面21aと内周面29aとが温水に接触するため、両者間における温度差を小さくすることができる。
【0043】(3) 駆動用モータ4で回転される駆動側磁石10を設ける代わりに、回転磁界発生部5に複数の励磁コイルを配設する。そして、各励磁コイルに位相がずれた励磁電圧を供給することにより、電気的に回転磁界を生成するように構成してもよい。
【0044】(4) 回転軸17とインペラ本体20とを一体化した構造としてもよい。
(5) 各支持片23の形状を平板状とせず、湾曲した形状としてもよい。又、その数は2個以上のいくつでもよい。
【0045】(6) 電動ウォータポンプ1に限らず、エンジンの動力で駆動されるタイプのウォータポンプに実施してもよい。又、ウォータポンプに限らず、ウォッシャ用ポンプ等に実施してもよい。
【0046】さらに、車両用のポンプに限らず、電動ポット用ポンプ、アクアリウム用ポンプ等に実施してもよい。上記実施の形態から把握できる請求項以外の技術的思想について、以下にその効果とともに記載する。
【0047】(1) 請求項1に記載の液体ポンプを車両用の電動ウォータポンプとする。この構成によれば、車両の寒冷地における使用において、従動側磁石21さらにはインペラ本体20の破損を確実に防止することができる。
【0048】
【発明の効果】以上詳述したように、請求項1〜請求項3の何れかに記載の発明によれば、部品点数、部品単価及び組立工数の増大を招くことなく、熱応力による従動側磁石さらにはインペラ本体の破損を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 電動ウォータポンプの断面図。
【図2】 ポンプ部の縦断面図。
【図3】 ポンプ部の平断面図。
【図4】 経過時間に対する温度特性を示すグラフ。
【図5】 別例の電動ウォータポンプのポンプ部の断面図。
【図6】 従来例のウォータポンプのポンプ部の平断面図。
【図7】 ポンプ部の縦断面図。
【図8】 ポンプ部の縦断面図。
【図9】 ポンプ部の縦断面図。
【図10】 経過時間に対する温度特性を示すグラフ。
【図11】 同じく温度特性を示すグラフ。
【図12】 温度差に対する引張応力及び圧縮応力の特性を示すグラフ。
【符号の説明】
4…回転磁界発生手段としての駆動用モータ、10…同じく駆動側磁石、13…ポンプ室、14…流入口、15…流出口、16…支持軸、20…インペラ本体、21…従動側磁石、21a…外周面、22…軸部としての支持筒、23…支持片、24…上側フランジ、25…開口部、26…羽根、27…下側フランジ、28…開口部、29…貫通孔、29a…内周面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 液体が導入される流入口と、液体が排出される排出口とを備えたポンプ室と、前記ポンプ室において回転可能に支持され、液体を流入口から導入して流出口から排出させるインペラ本体と、前記インペラ本体に一体的に回動可能に設けられる円筒状の従動側磁石と、前記従動側磁石に作用する回転磁界を発生させる回転磁界発生手段とを備え、回転磁界発生手段が発生させる回転磁界により従動側磁石とともにインペラ本体を回転駆動するようにした液体ポンプにおいて、インペラ本体は、ポンプ室に固設される支持軸に回転可能に支持される軸部と、軸部の外周面から外周側へ放射状に延出するように形成され、その外周側端部を従動側磁石の貫通孔の内周面に当接して従動側磁石を径方向に支持し、軸部の外周面と貫通孔の内周面との間に内周面の大部分をその内部に露出させる空間部を形成する複数の支持片と、軸部、又は、複数の支持片の上部に固着され、その下面が従動側磁石の上面に当接されるとともに、その上側に複数の羽根が形成され、さらに前記従動側磁石の外径よりも小さくその外径が形成されている上側フランジと、軸部、又は、複数の支持部の下部に固着され、その上面が従動側磁石の下面に当接されるとともに、前記従動側磁石の外径よりも小さくその外径が形成されている下側フランジとを備え、従動側磁石の外周面と内周面とをそれぞれポンプ室に露出させた液体ポンプ。
【請求項2】 側フランジ側には、空間部をポンプ室に連通する開口部を設けた請求項1に記載の液体ポンプ。
【請求項3】 下側フランジ側には、空間部をポンプ室に連通する開口部を設けた請求項2に記載の液体ポンプ。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【特許番号】特許第3431363号(P3431363)
【登録日】平成15年5月23日(2003.5.23)
【発行日】平成15年7月28日(2003.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−231768
【出願日】平成7年9月8日(1995.9.8)
【公開番号】特開平9−79172
【公開日】平成9年3月25日(1997.3.25)
【審査請求日】平成12年8月4日(2000.8.4)
【出願人】(000101352)アスモ株式会社 (1,622)
【参考文献】
【文献】特開 昭62−284995(JP,A)
【文献】実開 昭48−102603(JP,U)