説明

液体保持材

【課題】水などの液体と空気などの気体とを接触させるために用いる液体保持材において、十分な液体保持量を得ても圧力損失が低く、かつ液体と気体との接触面積が大きく、かつ接触効率の良い液体保持材を提供することを目的とする。
【解決手段】液体保持材11は、略六角形状の複数の開口12を有する2枚の編地13、14と、間隔をあけて2枚の編地を連結する複数の連結繊維15とを備え、編地および連結繊維間に液体を保持する立体編物により構成され、一方の編地13において一の開口12を画定する開口形成部21が有する複数の編目23のうちの少なくとも1つの編目から、他方の編地14において相対する一の開口12を画定する開口形成部22が有する編目24に、4本以上の連結繊維15が延在して、互いの開口を画定する編地が連結された構成を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水などの液体と空気などの気体とを接触させるために用いる液体保持材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の液体保持材には、一方の面から他の面に貫通する多数の連続気孔を有し、親水性ポリエステル樹脂にて被覆されたポリエステル繊維シートからなる加湿器用保水材が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
以下、その液体保持材について図11を参照しながら説明する。
【0004】
図11に示すように、加湿器用保水材101は親水性ポリエステル樹脂にて被覆されたポリエステル繊維シートにより構成されており、一方の面から他の面に貫通する多数の連続気孔を有している。また、この加湿器用保水材101は、気孔率が40〜90%、吸水率が40%以上、水滴吸収性が3秒以内で、曲げ強度が30kgf/cm以上である。具体的には、このシート状の加湿器用保水材101を適当な間隔102をあけて設置し、吸水性に富んだ天材103にそれぞれの保水材101を固定してユニット化する。給水パイプ104より天材103に水を供給することにより、天材103から保水材101全体に水を伝播させ、隣接する保水材101との間隔(空間)102に空気を導入することで、空気は保水材101と接触して加湿される。
【0005】
また、立体編地として、隣り合うウェール列の2本の連結糸が、表裏の相対する編目から離れた隣のウェール列の編目を互いに逆方向に斜めに連結した構造をとっているものが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
以下、その立体編地について、図12を参照しながら説明する。
【0007】
図12に示すように、立体編地201は、表裏編地202、203をモノフィラメントにて連結して構成され、隣り合うウェール列の2本の連結糸204が、表裏編地202、203の相対する編目から離れた隣のウェール列の編目を互いに逆方向に斜めに連結した構造をとっている。
【0008】
【特許文献1】特開平7−299893号公報
【特許文献2】特許第2720985号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に代表されるような従来の液体保持材では、シート内に設けた連続気孔(空気流路)に空気を通過させることにより、通過される空気と保持されている液体(水)との接触が行われる。このような構造の液体保持材において、空気と水との接触効率を向上させるためには、空気流路を、空気の導入方向に対して大きな角度をつけて変化させる必要がある。しかしながら、このように大きな角度を設けると、空気通過の際に生じる圧力損失が大幅に増大するという課題がある。このように圧力損失が増大すれば、空気を流すために多量のエネルギを必要とするため、空気と水との接触面積を増大して、かつ十分な液体保持量を得ながらも圧力損失を低減することができるような液体保持材、すなわち、より省エネルギにて気液接触を実現することが要求されている。
【0010】
また、特許文献2に代表されるような表裏編地をモノフィラメントで連結した従来の立体編地は、クッション材、ふとん、枕などの寝装分野や、資材分野の充填材として、適度な嵩高性、反発性及び通気性を有し軽量化することを目的として考案されたものである。従って、この立体編地をそのまま液体保持材として用いても、必ずしも好ましい結果は得られない。
【0011】
本発明は、このような従来の課題を解決するものであり、十分な液体保持量を得ても圧力損失が低く、かつ水などの液体と空気などの気体との接触面積が大きく、接触効率の良い液体保持材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は以下のように構成する。
【0013】
本発明によれば、複数の開口を有する2枚の編地と、間隔をあけて2枚の編地を連結する複数の連結繊維とを備え、編地および連結繊維間に液体を保持する立体編物により構成され、一方の編地において一の開口を画定する編地部分が有する複数の編目のうちの少なくとも1つの編目から、他方の編地において相対する一の開口を画定する編地部分が有する編目に、4本以上の連結繊維が延在して、互いの開口を画定する編地同士が連結されている、液体保持材を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、2枚の編地が間隔をあけて複数の連結繊維により連結された立体編物において、一方の編地において一の開口を画定する編地部分が有する複数の編目のうちの少なくとも1つの編目から、他方の編地において相対する一の開口を画定する編地部分が有する編目に、4本以上の連結繊維が延在して、互いの開口を画定する編地が連結されていることにより、2枚の編地において、相対する開口同士を連通させた構造を実現することができ、この連通された開口に気体を通過させることができる。したがって、気体通過時における圧力損失を低く抑えることができる。また、一方の編地の編目から、4本以上の連結繊維が他方の編地の編目に向けて延在するような構造が採用されていることにより、隣接する連結繊維間にて液体を保持させることができ、十分な液体保持量を確保することができる。さらに、このような連結繊維は、互いの開口が連結して形成されて気体の通過経路に接して配置されることとなるため、開口を通過する気体と、連結繊維間に保持されている液体との接触性を高めることができる。したがって、十分な液体保持量を得ながら圧力損失が低く、かつ水などの液体と空気などの気体との接触効率の良い液体保持材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明にかかる実施の形態を説明するに先立って、本発明の幾つかの態様について、その特徴および効果と関連付けてまず説明する。
【0016】
本発明の一の態様にかかる液体保持材は、複数の開口を有する2枚の編地と、間隔をあけて2枚の編地を連結する複数の連結繊維とを備え、編地および連結繊維間に液体を保持する立体編物により構成され、一方の編地において一の開口を画定する編地が有する複数の編目のうちの少なくとも1つの編目から、他方の編地において相対する一の開口を画定する編地が有する編目に、4本以上の連結繊維が延在して、互いの開口を画定する編地が連結されていることを特徴とする。なお、本発明において、「編地」とは、繊維部材を編むことによって作られた構造体、すなわち生地を意味する。
【0017】
一方の編地の編目から他方の編地の編目へと延在する連結繊維は4本以上50本以下の繊維束となっていることが好ましく、より好ましくは6本以上30本以下、さらに好ましくは8本以上26本以下である。繊維を液体に浸漬すると、繊維の表面には液体が付着する。複数の繊維を近接して並べると、繊維表面への付着に加えて、毛細管現象によって繊維間にも液体を保持することができる。すなわち、連結繊維はつねに4本以上の束になって編地間に存在しているために、繊維間に液体を保持することができ、単繊維の表面のみに液体を付着させて保持する場合に比べ、より多くの液体を保持できる。このような構造において、連結繊維の表面積を増加させれば、保持された液体と通過する気体との接触効率を増加させることができる。
【0018】
また、一方の編地の開口と、相対する他方の編地の開口とを連結させることにより、空気などの気体通路を確保することができ、液体保持による圧力損失の増大を抑制できるという効果が得られる。また、複数の連結繊維間に保持されている液体は、気体通路に接した状態とされるため、開口から導入した空気などの気体との効果的な接触を実現することができる。
【0019】
したがって、空気などの気体を流すために多量のエネルギを必要とせず、より省エネルギに気液接触させることができる液体保持材を提供することができる。特に、開口を有する2枚の編地、すなわち表面と裏面の編地を形成する繊維よりも、2枚の編地を連結する複数の連結繊維に、より多くの水を保持させることにより、圧力損失の低い液体保持材を得ることができる。これは、気体導入時の圧力損失が主に2枚の編地の形状と開口面積によって支配され、連結繊維の形状の影響は少ないためである。さらに、液体を、複数の連結繊維間に保持することにより、開口から導入した気体との接触面積を増大することができ、液体を気化させる用途においては、保持材からの液体の気化速度を高めることができる。気化させる液体としては、水の他、芳香剤、消臭剤などが挙げられる。また、気体を溶解する用途においては、その溶解速度を高めることができる。たとえば、車両などから排出されるガスを、亜硫酸ナトリウムや炭酸カルシウムなどのアルカリ性水溶液を保持する液体保持材に通過させれば、排ガスに含まれるNOxまたはSOxなどの成分を溶解し除去することができる。また、アンモニアなどの臭気成分を含む空気を、水やフィトンチッドなどの液体を保持した保持材に通過させれば、臭気成分を溶解除去し、清浄な空気を得ることができる。
【0020】
また、連結繊維の単繊維の断面の外周が45μm以上としてもよい。連結繊維の単繊維の断面の外周は45μm以上450μm以下であることが好ましく、より好ましくは80μm以上300μm、さらに好ましくは100μm以上250μmである。このような外周の単繊維は、連結繊維の少なくとも一部に用いられていればよく、異なる断面の外周の単繊維と複合されていても良い。
【0021】
また、複数の編目を有する多角形状の編地の開口は、その最長対角線が3mmより大きく形成されているようにしてもよい。また、この最長対角線が12mm以下であることが好ましい。最長対角線が3mmより大きければ、液体を保持したときに、開口に液膜を生じにくいという効果が得られる。液膜を生じると、急激な圧力損失上昇が起き、気体の効率的な通過を阻害する。また、最長対角線が12mm以下であれば、保持された液体に接触せず通過する空気の量を低減することができ、液体を保持した保持材と、開口から導入する気体との接触効率を高めることができるという効果が得られる。
【0022】
また、立体編物において、2.54cm角(すなわち1インチ四方)にある連結繊維のそれぞれの断面の総周が、700mm以上としてもよく、700mm以上3000mm以下であることが好ましい。連結繊維の断面の総周はより好ましくは750mm以上2500mm以下、さらに好ましくは800mm以上2000mm以下である。これにより、より多くの液体を保持できる。
【0023】
本発明において連結繊維のそれぞれの断面の外周(あるいは総周)は、例えば、立体編物の連結繊維を表裏の編地の中間部分で直角方向に切断し、この切断面の拡大写真から単繊維の断面の外周を求め、2.54cm角当たりの単繊維の本数に積算する方法や、単繊維が丸断面の場合は、単繊維の直径を厚み計や拡大写真から測定することにより断面の外周を求め、2.54cm角当たりの単繊維の本数に積算する方法等で算出できるものである。なお、連結繊維の断面の総周は、連結繊維の単繊維の断面の外周と単位面積(2.54cm角)当たりの単繊維の本数で決定される。単繊維の断面の外周が45μm以上450μm以下の繊維が4本以上50本以下収束した連結繊維としては、マルチフィラメントを用いるのが良い。マルチフィラメントの配合割合を増加させれば、単位体積あたりの繊維原材料の使用量を同等に保ちながら、液体保持材全体の表面積を増加させることができ、高効率で経済性に優れた液体保持材を得ることができる。また、単繊維径の外周を45μm以上にすることにより、適度な反発力と強度を有し、2枚の編地が形成する間隔、すなわち厚みを安定的に保つことができ、形状安定性に優れた液体保持材を得ることができる。
【0024】
また、断面の外周が45μm以上450μmの単繊維を単独もしくは異なる外周の単繊維と引き揃えて4本以上50本以下の繊維束とし、立体編物2.54cm角にある連結繊維の断面の総周が700mm以上3000mm以下とすることにより、より多くの液体を保持でき、かつ、表面積が増加し、保持された液体と通過する気体との接触効率を増加させることができる。
【0025】
また、立体編物の単位重量あたりの液体保持量が1.45g/g以上2.55g/g以下であり、前記液体保持状態において、2枚の編地の開口に対して気体を任意の面風速V(m/sec)で垂直に導入した際の液体保持時の単位厚みあたりの圧力損失P(Pa/mm)が(0.64×V−0.28×V)<P<(1.53×V+0.52×V)の範囲にあれば、液体保持量が適量であり、かつ、液体を保持した保持材と、開口から導入する気体との接触効率が適量であるために、多量のエネルギを必要とせず、より省エネに気液接触させることができる。
【0026】
また、編地を構成する繊維および/または連結繊維が合成樹脂を含むようにすることもでき、このような場合にあっては、柔軟性、耐候性、耐水性に優れた液体保持材を得ることができる。また、軽量化を実現することができる。吸水性の少ない合成繊維を選択した場合には、保持する液体が単繊維の深部まで入り込まないため、放しやすく、液体を気化させて空気などに移動させる場合には、そのスピードを高めることができる。同時に、液体を必要なところにだけ供給できるため、汚れを伝播しにくく、液体保持材を清潔に保つことができる。
【0027】
また、編地の開口形状が略正多角形であるようにすることもできる。このような構成では、表裏編面に、同じ形状または同じサイズの開口を連続して設けることができ、閉塞部を作ることなく連続的な開口を得ることができる。また、正多角形であれば、開口に液膜を生じにくいという効果も得られる。
【0028】
また、2枚の編地が形成する間隔、すなわち立体編物の厚みが2mm以上30mm以下であるようにしてもよい。気体の圧力損失は、主に表面と裏面の編地の形状と開口面積によって支配され、連結繊維の形状の影響は少ないと考えられる。厚みを2mm以上30mm以下とすることにより、圧力損失を低く保ちながら、表面と裏面の間に十分な液体量を保持することができる。また、保持された液体と、そこを通過する空気などの気体との接触時間も十分に得られる。
【0029】
また、2枚の編地が連結された状態において、連結繊維が曲線状の形態を有するようにしてもよい。すなわち、連結繊維にて連結される編目間の距離よりも連結繊維の長さを長くすることにより、連結繊維を曲線状の形態とすることができる。このような構成を採用することにより、開口に導入した気体が、連結繊維によって作られる曲線的な通路にそって移動するため、直線的である場合に比べて、厚みが同じであっても、液体と気体の接触時間を長くすることができ、コンパクトでも高い接触効率を得ることができる。また、液体保持量も向上することができる。
【0030】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0031】
(第1実施形態)
本発明の第1の実施形態にかかる液体保持材の構造を示す模式斜視図を図1に示す。図1の斜視図を示すように、液体保持材11は、略正六角形の複数の開口12を有する2枚の編地13、14と、それぞれの編地13、14を、間隔をあけて互いに連結する複数の連結繊維15とにより構成されている。この液体保持材11の大きさの一例を示すと、例えば、開口12の最長対角線Aは5mm、液体保持材11の厚みB、すなわち2枚の編地13、14の間隔Bは8mmである。連結繊維15には単繊維径55μm(330/10dtex)のポリエステルマルチフィラメントを使用している。このような液体保持材11の構成例において、立体編物2.54cm角(すなわち、1インチ四方)の中に、一方の編地を構成する編目が310個存在し、ひとつの編目から20本の繊維束として収束した連結繊維15が、他方の編地を構成する編目に延在しており、一方の編地の編目と他方の編地の編目とが、連結繊維15により連結されている。また、2.54cm角にある連結繊維15の断面の総周は1071mmである。
【0032】
ここで、図1の液体保持材11の模式部分拡大斜視図を図2に示す。図2においては、編地13の複数の開口12のうちの1つの開口12を形成(画定)する開口形成部21と、編地13の開口12と相対する編地14の開口12を形成(画定)する開口形成部22との複数の連結繊維15による連結構造を模式的に示している。なお、図2においては、以降の説明の理解を容易なものとするために、編地13、14および連結繊維15の一部を実線にて示し、一部を点線にて示している。
【0033】
図2に示すように、開口形成部21は、繊維部材が編み込まれて形成された大略環状の形状を有しており、複数の編目23を有している。開口形成部22は、開口形成部21と略同様な形状を有しており、複数の編目24を有している。また、一方の編地13の開口形成部21が有する複数の編目23のうちのひとつから、例えば4本の束状の連結繊維15が、他方の編地14の開口形成部22が有する編目24に延在して、対向する2つの開口形成部21、22が互いに連結されている。一方の開口形成部21の1つの編目23から、他方の開口形成部22の編目24へ延在する連結繊維15の束は、例えば、4本以上50本以下であればよい。また、開口形成部21、22において、必ずしも全ての編目23、24が連結繊維15の束により連結されている必要はなく、少なくとも1つの編目23と編目24とが連結されていればよい。また、図2に示す連結構造では、1つの編目23から延在する4本の束状の連結繊維15は、複数の編目24に分散するように連結されている。このような構造を採用することで、隣接する連結繊維15間に形成される間隙25の面積を大きくすることができる。なお、このような場合に代えて、1つの編目23から1つの編目24に4本の連結繊維15が連結されるような構成を採用することもできる。
【0034】
また、図2に示す液体保持材11では、互いに連結される開口形成部21の編目23と開口形成部22の編目22との間の距離寸法(図1に示す例えば、液体保持材11の厚みB)よりも、これらの編目21、22を連結する連結繊維15の長さが長くなるように設定している。このようにすることで、図2に示すように、連結繊維15を曲線状の形態とすることができ、隣接する連結繊維15間に形成される間隙25を大きくすることができ、間隙25の間に保持される液体の保持量を大きくすることができる。さらに、このように連結繊維15を曲線状の形態とすることで、開口形成部21、22を連結することで形成される2つの開口12間の気体通路を曲線的な通路とすることができる。この通路が直線的に形成される場合と比べ、2枚の編地間隔、すなわち厚みBが同じであっても、気体と保持液体との接触時間を長く得ることができる。また、開口形成部21を構成する編目23のうちのひとつから4本以上の連結繊維15が延在している構成において、連結繊維15の曲率を少しずつ変化させることで、液体保持量を増やすことができる。たとえば、硬さの異なるポリエステルとナイロンを束ねて連結繊維15とすることにより、曲率を変化させることができる。ただし、隣り合う連結繊維15同士の間隔が、その円弧においてもっとも離れた位置で3mmより広くなるような配置では、液体の保持は困難になることを考慮して、連結繊維の曲線状の形態を決定することが好ましい。
【0035】
このような液体保持材11の構成において、開口形成部21を構成する編目23のうちのひとつから4本以上50本以下の束の連結繊維15を他方の編目24に延在させる方法としては、連結繊維15にマルチフィラメントを用いる方法、あるいは複数本のモノフィラメントを束ねて用いる方法がある。モノフィラメントを複数本束ねて用いる場合には、マルチフィラメントを用いる場合に比べ、表面積が少なく、液体と通過する気体との接触効率が劣るが、形状安定性に優れた液体保持材を得ることができるという効果を得ることができる。このとき、単繊維の断面の外周が45μm以上のマルチフィラメントを用いれば、束状に存在する単繊維間に液体を保持し、より多くの液体を保持することができるとともに、適度な反発力と強度を有し、表面と裏面の距離、すなわち厚みを安定的に保つことができ、かつ形状安定性にも優れた液体保持材を得ることができる。また、モノフィラメントとマルチフィラメントを混在させて束ねて使用しても良い。その場合には、マルチフィラメントの配合割合を変化させることにより、強度と液体保持量のバランスを調整することができる。たとえば、マルチフィラメントを増加させれば、単位体積あたりの繊維原材料の使用量を同等に保ちながら、液体保持材全体の表面積を増加させることができ、高効率で経済性に優れた液体保持材を得ることができる。連結繊維の単繊維の断面形状は、丸、三角、四角、扁平、多角形、多葉形、中空、W型、I型などが挙げられる。連結繊維によって形成される間隙25に液体を保持する構成であれば、たとえば編地が撥水性であった場合でも、表面に水を付着させることなく連結繊維間に液体を保持させることもできるために、低い圧力損失を維持しながら、十分な液体量を保持することができる。
【0036】
また、連結繊維15が4本以上50本以下の束として設けられていれば、図13の模式図に示すように、複数の連結繊維15が近接して少なくとも4本以上の束になって並ぶために、繊維表面への付着に加えて、毛細管現象によって繊維間(すなわち間隙25)にも液体を保持することができる。単繊維の表面のみに液体を付着させて保持する場合に比べ、より多くの液体を保持できる。同時に、表面積を増加させることにより、液体と通過する気体との接触効率を増加させることができる。
【0037】
連結繊維15が50本より多い場合、図14の模式図(比較例)に示すように、液体保持量が過剰となる場合があり、気体導入時の圧力損失の増大につながるおそれがある。また、保持された液体が繊維束の体積以上の大きさをもつ滴になりやすく、このような場合にあっては十分な気液接触面積が得られないため、連結繊維の収束数は50本以下であることが望ましい。なお、図13および図14では、繊維間に保持される液体Wを図示ハッチング模様にて示している。
【0038】
開口12に液体が膜を形成すると、開口12に気体を導入する際の圧力損失が急激に増大するため、開口12は液体によってふさがれにくい形状またはサイズを選択するのが良い。
【0039】
開口12の形状としては、三角形や四角形、六角形などの多角形であれば、編地13、14において同じ形状およびサイズの開口を連続して設けることができ、編地における開口の配置としてはもっとも効率的である。また、たとえば同じ四角形であっても、長方形やひし形の開口に比べ、正方形の開口は対向する辺のすべてがもっとも離れた配置になるため、液膜の形成を避けることができる。
【0040】
開口12のサイズは、最長対角線Aが3mm以下の場合、保持した液体が膜を形成して開口をふさぐことがあるため、液体保持時の圧力損失上昇を抑えるためには、最長対角線Aを3mmより大きくすればよい。
【0041】
また、液体保持材11の厚みBが2mm以上であれば、厚み部分に存在する連結繊維15によって保持される液体量が十分に得られる。また、このような大きさに厚みBが設定されていれば、開口12に気体を通過させる際には、通過する気体と保持された液体との十分な接触時間が得られるため、たとえば液体を気化させる用途においては、液体保持材11からの液体の気化量を増大することができる。また、気体を液体に溶解する用途においては、その溶解量を増大することができる。なお、通過気体が液体保持材11を通過する際の面風速は5m/sec以下とするのが良い。面風速が5m/secより速い場合には、液体が液体のまま飛散する恐れがある。
【0042】
液体保持材11が保持する液体量は、1.45g/g以上2.55g/g以下が良い。立体編物の単位重量(すなわち液体保持材11の乾燥状態での単位重量)あたりの液体保持量が1.45g/gより少ない場合には、たとえば液体を気化させる用途においては、開口12から導入する空気などの気体に対し、十分な量の液体を気化させることができない。また、通過気体を液体保持材11に保持されている液体に溶解する用途においては、必要な液体量を保持することができない。いっぽう、液体保持量が2.55g/gより多いときには、保持された液体が繊維束の体積以上の大きさをもつ滴になりやすく、十分な気液接触面積が得られない。同時に、保持液体自身が圧力損失の原因となりうるため、空気などを通過させるために過剰なエネルギが必要になる。液体保持量が1.45g/g以上2.55g/g以下であれば、十分な液体保持量を得ても圧力損失が低く、かつ十分な気液接触面積が得られるため、効率が良い。
【0043】
また、液体保持状態において、気体を、2枚の編地13、14の開口12に対して垂直に面風速V(m/sec)で導入した際、単位厚みあたりの圧力損失P(Pa/mm)は(0.64×V−0.28×V)<P<(1.53×V+0.52×V)の範囲にあるのが良い。単位厚みあたりの圧力損失Pが(0.64×V−0.28×V)より小さい場合、液体を保持した液体保持材11と気体との接触面積が小さいために、液体と気体が十分に接触しない。また、単位厚みあたりの圧力損失Pが(1.53×V+0.52×V)より大きい場合、気体を通過させることが困難となり、液体を保持することはできても液体と気体との接触効率が著しく低下する。または、気体を通過させるために過大なエネルギの投入が必要となる。ここで、液体と気体が十分に接触できる液体保持材とは、たとえば気体を空気、液体を水としたときに、任意の風速において、温度20℃湿度40%RHの空気に対し、湿度を60%RHまで上昇させることができるものなどである。
【0044】
編地13、14を構成する繊維および連結繊維としては、ポリエステル、ナイロン、アクリル等の合成繊維、羊毛、綿等の天然繊維、あるいはキュプラ等の再生繊維など、各種材質を用いることができる。繊維の材質を選択することにより、たとえば、ポリエステルなど硬質の繊維を用いた場合には、開口12の形状や厚み、液体保持材11の形状を維持することが容易となる。また、連結繊維15に吸水性の繊維として綿を用いた場合には、液体保持量を増やすことができる。編地13、14を構成する繊維および/または連結繊維が合成繊維を含めば、液体保持材11の軽量化や耐久性の向上が期待できる。ポリエステルなど、それ自身にほとんど吸湿性のない繊維を用いれば、繊維間に保持した液体を放しやすいために、液体を気化させる用途においては、液体保持材11からの液体の気化速度を高めることができる。同時に、液体を必要なところにだけ供給できるため、汚れを伝播しにくく、液体保持材11を清潔に保つことができる。吸水性の有無については、JISL0105に定められる方法で測定した公定水分率にて判断すれば良い。たとえば、公定水分率が5.0%以下の繊維は吸水性がないものとすれば、ポリエステル(0.4%)やアクリル(2.0%)、ビニロン(5.0%)などが挙げられる。また、公定水分率が5.0%より大きいものを、吸水性を有する繊維とすれば、たとえば綿(8.5%)、アセテート(6.5%)、セルロース(11.0%)などが挙げられる。
【0045】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態にかかる液体保持材を図3の模式斜視図に示す。なお、図3においては、液体保持材31の一部断面も示している。図3に示すように、本第2実施形態の液体保持材31は、上記第1実施形態の液体保持材11を2枚重ね、これらの2枚の液体保持材11を円筒形状に成形したものである。すなわち、図3に示すように、円筒外面には、複数の開口12が配置されており、これらの開口12を通して、円筒の内外に気体を通過させることが可能とされている。なお、本第2実施形態において、上記第1実施形態と同じ構成部材には、同じ参照符号を付してその説明を省略する。
【0046】
液体保持材は、必ずしもブロック状やシート状である必要はなく、立体編物を重ねたり、様々な形状に成形したりするのも良い。複数の立体編物を重ねて液体保持材とする場合には、厚みの内部に、編地の重なる部分が形成されることにより、液体保持材の厚み、すなわち2枚の編地間距離を増大した場合にも、液体保持材が支えられ、連結繊維を長くして厚みを増す場合に比べ優れた形状および強度を維持することができる。また、重なりあう編地の開口のサイズを変えたり位置をずらしたりすることによって、気体の流れ方を制御することができ、圧力損失を変化させることもできる。
【0047】
また、液体保持材の形状としては、図3に示すように、たとえば円筒形状であれば、それを回転させることにより、液体を全体に均一に保持させることが容易になる。液体は、液体保持材31を液槽に浸しながら毛細管現象により自然に吸上げ供給しても良いし、回転して自ら水を汲み上げ掛けて供給しても良いし、また、周囲から散布しても良い。
【0048】
また、表面には液体保持性を向上させるための加工を施しても良い。たとえば、親水性の加工方法としては、PEG(ポリエチレングリコール)を、立体編物を構成する繊維の表面に塗布するなどの方法がある。
【0049】
また、液体保持材は抗菌剤または/および抗カビ剤を含んでいても良い。これらは繊維の製造段階で練りこんでも良いし、編地に塗布しても良い。これにより、液体保持材がつねに湿った状態に保たれても菌やカビの繁殖を抑制し、液体保持材を清潔に保つことができる。
【実施例】
【0050】
(実施例1)
最長対角線5mmの略正六角形の開口を有する2枚の編地を構成する編目のうちのひとつから4本以上の連結繊維が延びている液体保持材について、編目の大きさの制約から、その連結繊維の単繊維径および繊維量を変動させた液体保持材を作成した。ひとつの編目から延在する連結繊維の本数としては、4本、10本、12本、24本、36本、48本の6種類とし、連結繊維の本数の多い液体保持材は、単繊維径を小さく、連結繊維の本数の少ない液体保持材は、単繊維径を大きくした。液体保持材の厚みはすべて8mmである。各液体保持材がつねに湿った状態に保たれるよう連続的に水を供給しながら、温度20℃湿度40%RHの空気を、液体保持材に対し面風速0.86m/sec、1.55m/sec、2.07m/secで導入し、水を気化させ、液体保持材通過後の空気の相対湿度および圧力損失を測定した。その結果を図4に示す。
【0051】
図4に示すグラフにおいて、縦軸は液体保持材通過後の空気の相対湿度、横軸は液体保持材の圧力損失である。いずれの面風速においても、液体保持材通過後の空気の相対湿度は圧力損失に対して放物線を描き、放物線における圧力損失が低い領域と高い領域に60%RH以上の湿度が得られない領域を有する。液体を気化させる用途において、湿度が60%RHより低い空気は、通過させる空気量を大幅に増大させなければ十分な量の液体を気化させることができないため、決して加湿性能が高いとはいえない。圧力損失が低い領域では、液体を保持した液体保持材と通過する空気との接触面積が十分に得られない、または水が十分に保持されていないために十分に水を気化させることができない。また、圧力損失が高い領域では、液体を保持しすぎるために通過する空気との接触面積が十分に得られない、または空気を導入することが困難となるために十分に水を気化させることができない。この結果から、図4における放物線が、液体保持材通過後の湿度60%RHの直線と交わる2点が、湿度60%RH以上の空気を得ることのできる境界であり、すなわち、この2点が、液体保持材に保持された液体と通過気体との十分な接触面積を得るために必要な圧力損失の下限値および上限値となる。
【0052】
これらは図5に示すように、面風速に対して二次曲線を描く。図5における縦軸は、図4における圧力損失の値を液体保持材の厚みで除した値であり、単位厚みあたりの圧力損失として表したものである。十分に水を気化させるためには、液体の圧力損失は図5中の矢印で示すような圧力損失の上限と下限の間の領域にあれば良く、具体的には2枚の編地の開口に対して気体を面風速V(m/sec)で垂直に導入した際の液体保持時の単位厚みあたりの圧力損失P(Pa/mm)が(0.64×V−0.28×V)<P<(1.53×V+0.52×V)の範囲であれば良い。
【0053】
(実施例2)
連結繊維がマルチフィラメントであり、かつ編地の開口形状が略正六角形である液体保持材について、そのマルチフィラメントの単繊維径および開口の最長対角線を変動させた液体保持材を作成した。液体保持材の厚みはすべて8mmである。各液体保持材を10cm×10cmの大きさに切断し、全体を水槽に30秒間浸漬した後、液体保持材の角を持って静かに引き上げ、引き上げから30秒経過後の液体保持量を測定した。また、これらの液体保持材に面風速1m/secで温度20℃湿度40%RHの空気を流したときの、液体保持材通過後の空気の相対湿度を測定し、これを液体気化量として、液体保持量との関係を評価した。
【0054】
図6にその結果を示す。図6に示すグラフにおいて、縦軸は液体保持材通過後の空気の相対湿度すなわち液体気化量を示し、横軸は液体保持材の液体保持量を示す。液体保持量が増加し、その量が過剰になると、水は滴となって圧力損失の上昇原因となる。同時に、連結繊維上に過剰な水が存在するために、連結繊維の表面積が活用されず、流れる空気と接触する面積は水滴の表面積となるため、結果として、液体の気化量も減少する。反対に、液体保持量が減少すれば、流れる空気の含むことのできる液体量に対し、液体保持材上の液体量が不足し、十分な液体の気化量が得られない。十分な液体気化量、すなわち温度20℃湿度40%RHの空気を液体保持材に通過させ湿度60%RH以上の空気を得るためには、立体編物の単位重量あたりの液体保持量が1.45g/g以上2.55g/g以下であることが望ましい。
【0055】
(実施例3)
上記第1実施形態の液体保持材11に水を保持させ、開口12に対し面風速1m/secで温度20℃湿度40%RHの空気を流したときの、液体保持材通過後の空気の相対湿度および圧力損失を測定した。液体保持材は、最長対角線5mmの略正六角形の開口を有する2枚の編地を、単繊維径の異なるマルチフィラメントで連結したもので、連結繊維が空間に占める総体積は同等とした。つまり、単繊維径の小さいマルチフィラメントは、繊維数が多く、単繊維径の大きいマルチフィラメントは繊維数が少ないことになる。単繊維径としては、15μm、16μm、18μm、55μm、127μmの5種類を用いた。
【0056】
その結果を、図7に示す。図7に示すグラフにおいて、左縦軸は液体保持材通過後の空気の相対湿度、右縦軸は液体保持時の液体保持材の単位厚みあたりの圧力損失、横軸はマルチフィラメントの単繊維の断面の外周を示す。図7のグラフ中の黒四角印は液体保持材通過後の空気の相対湿度の測定結果を示し、白三角印は圧力損失の測定結果を示す。マルチフィラメントの外周が45μmより小さい場合には、繊維間に保水はできるものの、その保水量が過剰であり、水は滴となって圧力損失の上昇原因となる。同時に、連結繊維上に過剰な水が存在するために連結繊維の表面積が活用されず、流れる空気と接触する面積は水滴の表面積となるため、結果として、液体の気化量も減少する。また、マルチフィラメントの単繊維径が小さくなれば、弾力性も減衰していく。一方、マルチフィラメントの外周が450μmより大きい場合には、表面積が小さいために、十分な気液接触面積が得られない。また、編物の反発性が得られにくくなり、液体保持材をたとえば円筒形状にするなどの成形が困難になるため、液体保持材の厚みおよび形状を維持し、かつ低い圧力損失と液体気化量を両立するためには、マルチフィラメントの単繊維の断面の外周は45μm以上450μm以下であることが望ましい。
【0057】
(実施例4)
フッ素樹脂を塗布して撥水性に加工した直径0.69mmの針金を用いて、対角線長を任意に選択した正方形を作成し、この正方形状の針金を、擬似的に編地の開口と見なして、開口のサイズと水膜の形成との関係を評価した。具体的には、これらの正方形状の針金を、水に浸漬したときに、水膜が形成されるかどうか、また、水膜が形成された場合には、その水膜の壊れやすさを、水膜強度として評価した。
【0058】
その結果の一例を、図8に示す。図8に示すグラフにおいて、縦軸は水膜強度を表す。このとき、水膜強度とは、0:水膜ができない、1:すぐに消える、2:風を与えれば消える、3:強い風を与えないと消えない水膜を示す。撥水性処理を施した針金では、水膜は形成されにくく、対角線長が5mm以上のとき、水膜強度2以下であった。また、直径0.49mmの針金を用いた場合でも、同様に、撥水性の処理を施せば、対角線長が5mm以上のときに水膜強度は2以下であった。これらのデータから、液体保持材の編地の開口は、その対角線が3mmより大きければ、水が膜状になって開口をふさぐことがないために、液体保持時の圧力損失の上昇を抑制することができるといえる。また、最長対角線が12mm以下であれば、保持された液体に接触せずに通過する気体の量を低減することができ、液体を保持した保持材と、開口から導入する気体との接触効率を高めることができる。
【0059】
(実施例5)
上記第1実施形態の液体保持材11に水を保持させ、開口12に対し温度20℃湿度40%RHの空気を面風速1m/secおよび2.5m/secで流したときの、液体保持材通過後の空気の相対湿度を測定した。液体保持材は、最長対角線5mmの略正六角形の開口を有する2枚の編地を、単繊維径55μmの繊維を10本束ねたポリエステルマルチフィラメントで連結したものであり、厚みを4mm、6mm、8mmと変化させた。
【0060】
その結果を図9に示す。図9に示すグラフにおいて、縦軸は液体保持材通過直後の空気の相対湿度、すなわち、加湿性能を示す。加湿性能は、液体保持材の厚みを増す、もしくは通過空気の風速を低減することにより、空気と液体保持材上の水との接触時間を長くすることができるため向上する。ただし、液体保持材が風を受ける面積が一定の場合には、風速を低減していくと風量が減少するため、液体を気化させる用途においては、一定時間あたりの液体気化量が減少することになる。よって、この場合には、風速を低減するには限界があり、液体保持材の厚みが重要なパラメータとなる。風速を変化させたときにも液体保持材通過後に60%RH以上の空気の相対湿度を得るためには、2mm以上30mm以下の厚みとするのが良い。好ましくは4mm以上20mm以下の厚みが良い。
【0061】
(実施例6)
最長対角線5mmの略正六角形の開口を有する2枚の編地を、単繊維径55μmの繊維を10本束ねたポリエステルマルチフィラメントで連結し、厚みを4mm、6mm、8mmと変化させた液体保持材、および最長対角線を5mm、6mm、7mmと変化させた略正六角形の開口を有する2枚の編地を、前記マルチフィラメントで連結し厚みを8mmとした液体保持材を作成した。これらの液体保持材に水を保持させ、開口に対し面風速1m/secで空気を流したときの、圧力損失を測定した。
【0062】
その結果を図10に示す。図10に示すグラフにおいて、左縦軸は厚み、右縦軸は開口の最長対角線、横軸は圧力損失を示す。図10のグラフ中の黒四角印は厚みを示し、白丸印は開口の最長対角線を示す。気体の圧力損失を増減させるパラメータのうち、厚みは開口の最長対角線に比べて影響が小さいことがわかった。これは、圧力損失は主に2枚の編地の開口のサイズによって支配され、連結繊維の長さの影響は少ないということである。開口のサイズを増大すれば、導入空気の通路が確保されるため、圧力損失は顕著に低減する。しかし、実際には保持液体との接触効率も低減するため、開口のサイズを大きく増加させることにより低圧力損失を実現することは、液体保持材の用途として適当でない。いっぽう、連結繊維の長さが圧力損失に与える影響は小さく、液体保持材の厚みを増して連結繊維の長さを延ばした場合には、圧力損失は増大させずに十分な液体保持量を得ることができ、かつ導入空気との接触効率も高めることができる。これらのことから、十分に液体を保持しても圧力損失が低く、かつ水などの液体と空気などの気体との接触面積が大きい液体保持材を得るためには、厚みは増大し、かつ開口の最長対角線は小さくすることが望ましいといえる。
【0063】
なお、上記様々な実施形態のうちの任意の実施形態を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
液体と気体を接触させることにより、液体を気化させたり、気体を溶解させたりする用途において、高い気化速度または溶解速度が得られる液体保持材を提供することができる。また十分な液体保持量を得ても圧力損失が低く、かつ水などの液体と空気などの気体との接触面積が大きく、かつ接触効率の良い液体保持材を提供することができる。本発明の液体保持材は、加湿装置、芳香剤気化装置、脱臭成分剤気化装置、気化熱を利用した冷却装置、悪臭ガス溶解除去装置などのフィルタ用途に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の第1実施形態の液体保持材を示す模式斜視図
【図2】図1の液体保持材の模式部分拡大斜視図
【図3】本発明の第2実施形態の円筒形状の液体保持材を示す模式斜視図
【図4】実施例1の測定結果を示すグラフ
【図5】実施例1の測定結果を示すグラフ
【図6】実施例2の測定結果を示すグラフ
【図7】実施例3の測定結果を示すグラフ
【図8】実施例4の測定結果を示すグラフ
【図9】実施例5の測定結果を示すグラフ
【図10】実施例6の測定結果を示すグラフ
【図11】従来例1の加湿器用保水材を示す概略斜視図
【図12】従来例2の立体編物を示す概略斜視図
【図13】第1実施形態の液体保持材における液体保持状態を示す模式図
【図14】図13の液体保持材に対する比較例(連結繊維の本数をさらに増加させた液体保持材)における液体保持状態を示す模式図
【符号の説明】
【0066】
11 液体保持材
12 開口
13 編地
14 編地
15 連結繊維
21 開口形成部
22 開口形成部
23 編目
24 編目
25 間隙
31 液体保持材
101 加湿器用保水材
102 間隔
103 天材
104 給水パイプ
201 立体編地
202 表編地
203 裏編地
204 連結糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の開口を有する2枚の編地と、間隔をあけて2枚の編地を連結する複数の連結繊維とを備え、編地および連結繊維間に液体を保持する立体編物により構成され、一方の編地において一の開口を画定する部分が有する複数の編目のうちの少なくとも1つの編目から、他方の編地において相対する一の開口を画定する部分が有する編目に、4本以上の連結繊維が延在して、互いの開口を画定する編地同士が連結されている、液体保持材。
【請求項2】
連結繊維の単繊維の断面の外周が45μm以上である、請求項1に記載の液体保持材。
【請求項3】
複数の編目を有する多角形状の編地の開口は、その最長対角線が3mmより大きく形成されている、請求項1または2に記載の液体保持材。
【請求項4】
立体編物において、2.54cm角にある連結繊維のそれぞれの断面の総周が、700mm以上である、請求項1から3のいずれか1つに記載の液体保持材。
【請求項5】
立体編物の単位重量あたりの液体保持量が1.45g/g以上2.55g/g以下であり、液体保持状態において、2枚の編地の開口に対して気体を面風速V(m/sec)で垂直に流入させた際、単位厚みあたりの圧力損失P(Pa/mm)が、
(0.64×V−0.28×V)<P<(1.53×V+0.52×V)の範囲にある、請求項1から4のいずれか1つに記載の液体保持材。
【請求項6】
編地を構成する繊維または連結繊維が合成樹脂を含む、請求項1から5のいずれか1つに記載の液体保持材。
【請求項7】
編地の開口形状が略正多角形である、請求項1から6のいずれか1つに記載の液体保持材。
【請求項8】
連結されている2枚の編地の間隔である立体編物の厚みが、2mm以上30mm以下である、請求項1から7のいずれか1つに記載の液体保持材。
【請求項9】
曲線状の形態を有する複数の連結繊維により2枚の編地が連結されている、請求項1から8のいずれか1つに記載の液体保持材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−280927(P2009−280927A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−131889(P2008−131889)
【出願日】平成20年5月20日(2008.5.20)
【出願人】(000006242)パナソニックエコシステムズ株式会社 (36)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】