説明

液吐出不良検出装置、およびインクジェット記録装置

【課題】吐出不良検出時のインクの消費量を低減する。
【解決手段】複数のノズルから吐出される液滴の飛行経路に光ビームを照射する発光素子30と、光ビームが液滴に衝突して生じる散乱光を受光する受光素子33と、散乱光を受光して得られる出力電圧に基づいて液滴の吐出不良を検出する検出部104と、複数のノズルのそれぞれから、発光素子30または受光素子33と、ノズルとの距離に応じて定められる大きさの液滴を吐出する吐出制御部101と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液吐出不良検出装置、およびインクジェット記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置では、微細なノズルから微小な各色インク滴を吐出する各色のインクジェットヘッドを備え、用紙等の記録媒体に対してそのインクジェットヘッドを移動させながらインク滴を吐出することで記録媒体上に画像を形成する。高解像度の画像形成のためにはノズルを微細化してインク滴サイズを微小化する必要がある。しかし、ノズルが微細なため、印刷停止時にインクが乾燥する等してノズル詰まりが起きてインク滴の吐出不良が発生し、画像にドット抜け等が生じて画像品質が低下する問題がある。
【0003】
この問題を解決するため、インクジェット記録装置には、液吐出不良を検出する液吐出不良検出装置が備えられている。例えば、ノズルから吐出するインク滴等の液滴に、レーザーダイオード等の発光素子から射出したレーザー光を照射して散乱光を発生させ、その散乱光をフォトダイオード等の受光素子で受光し、受光素子が得る出力電圧と基準電圧値とを比較して、インク滴が正常に吐出されたか否かを判定する液吐出不良検出装置が知られている。
【0004】
また、特許文献1では、フォトセンサの検出領域を通過するように各インクノズルからインク滴を吐出し、フォトセンサの受光量の低下に基づき、インク滴が吐出されたか否かを判定するインク吐出検出方法が提案されている。特許文献1の方法では、通常印字動作時に比べ、インク滴の単位時間当たりの吐出量(滴数)を多く、もしくは吐出間隔を短く、もしくはインク重量(滴径)を大きくすることにより、検知性能の向上を図っている。
【0005】
また、特許文献2では、複数のノズルから検出光の光路に向けてインク滴を順次時系列的に吐出制御する技術が提案されている。特許文献2の方法では、各ノズルから吐出するインク滴数を変更可能とするとともに、受光手段による出力レベルが光路上の全ノズルに亘って同一になるように、受光手段側のノズルに比べ、発光手段側のノズルの方を多く吐出制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−78051号公報
【特許文献2】特開2006−7447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1および2の方法では、ラインヘッドプリンタなどのノズル数が多いヘッドを備えたインクジェット記録装置の場合、インクの消費量が多くなり、コストが増大するという問題があった。例えば特許文献2の方法では、ノズル数が多いヘッドの場合、発光素子側のノズルは受光手段から遠くなるため、より多くのインク滴数を吐出しなければならず、コスト高となる。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、吐出不良検出時のインクの消費量を低減することができる液吐出不良検出装置およびインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる液吐出不良検出装置、およびインクジェット記録装置は、複数のノズルから吐出される液滴の飛行経路に光ビームを照射する発光手段と、前記光ビームが前記液滴に衝突して生じる散乱光を受光する受光手段と、前記散乱光を受光して得られる出力電圧に基づいて前記液滴の吐出不良を検出する検出手段と、複数の前記ノズルのそれぞれから、前記発光手段または前記受光手段と、前記ノズルとの距離に応じて定められる大きさの前記液滴を吐出する吐出制御手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、光ビームが液滴に衝突して生じる散乱光により液滴の吐出不良を検出するときに、光ビームの発光手段または受光手段と各ノズルとの距離に応じた大きさの液滴を吐出するため、吐出不良検出時のインクの消費量を低減することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本実施の形態にかかる液吐出不良検出装置を備えるインクジェットプリンタの正面図を示す。
【図2】図2は、インクジェットプリンタの一部を斜め上から観察した図を示す。
【図3】図3は、本実施の形態にかかるインクジェットプリンタの構成の一例を示すブロック図である。
【図4】図4は、本実施の形態の液吐出不良検出処理の概略を示す説明図である。
【図5】図5は、光ビームの水平方向および垂直方向の光強度分布を示す図である。
【図6】図6は、光ビームとノズルから吐出されたインク滴との位置関係を示す説明図である。
【図7】図7は、散乱光を受光した受光素子によって得られる散乱光出力値を示す図である。
【図8】図8は、ヘッドと受光素子との位置関係を示す図である。
【図9】図9は、受光素子から各ノズルまでの距離と散乱光出力値との関係を示す図である。
【図10】図10は、各ノズルから同じ大きさのインク滴を吐出した場合の散乱光出力値の出力分布の一例を示す図である。
【図11】図11は、散乱光出力値の一例を示す図である。
【図12】図12は、散乱光出力値の一例を示す図である。
【図13】図13は、ヘッドと光ビームと受光素子との位置関係を示す図である。
【図14】図14は、受光素子から各ノズルまでの距離とビーム密度との関係を示す図である。
【図15】図15は、散乱光出力値の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる液吐出不良検出装置、およびインクジェット記録装置の最良な実施の形態を詳細に説明する。
【0013】
図1は、本実施の形態にかかる液吐出不良検出装置を備えるインクジェットプリンタ(インクジェット記録装置)100の正面図を示す。また、図2は、インクジェットプリンタ100の一部を斜め上から観察した図を示す。
【0014】
図1に示すように、インクジェットプリンタ100の筐体10の左右の側板11、12には、ガイドシャフト13とガイド板14とが平行に掛け渡して設けられている。ガイドシャフト13とガイド板14で、キャリッジ15が支持される。キャリッジ15には、不図示の無端ベルトが取り付けられる。無端ベルトは、筐体10内の左右に設けられる図示しない駆動プーリと従動プーリに掛けまわされる。そして、駆動プーリの回転とともに従動プーリが従動回転されて無端ベルトを走行する。これにより、キャリッジ15が、図1の矢印で示されるよう左右に移動される。
【0015】
キャリッジ15には、イエロ、シアン、マゼンタ、ブラックの4色のインクジェットヘッド16y、16c、16m、16b(以下、単にヘッド16という)が、キャリッジ15の移動方向に並べて搭載される。各ヘッド16は、下向きのノズル面に複数のノズルを直線状に並べたノズル列を有する。図示しないが、直線状のノズル列は、キャリッジ15の移動方向と直交する方向に設けられる。
【0016】
そして、キャリッジ15が図1のように右端のホームポジションにあるときには、各ヘッド16は、筐体10内の底板17上に設置する単独回復装置18と対向する。単独回復装置18は、液吐出不良検出装置20でインク滴吐出不良を検出したノズルからインクを吸い出し、インクジェットプリンタ100自身で単独で液体吐出不良を回復する装置である。
【0017】
液吐出不良検出装置20は、筐体10内の底板17上に、単独回復装置18の隣りに設置される。液吐出不良検出装置20の詳細については後述する。
【0018】
液吐出不良検出装置20に隣接する位置には、板状のプラテン22を設置する。プラテン22の背面側には、記録媒体である用紙23をプラテン22上に供給する給紙台24が斜めに立てて設けられる。また、図示を省略するが、給紙台24上の用紙23をプラテン22上に送り出す給紙ローラが備えられる。さらに、プラテン22上の用紙23を矢示方向に搬送して正面側に排出する搬送ローラ25が設けられる。
【0019】
筐体10内の底板17上には、さらに左端に駆動装置26が設置される。駆動装置26は、不図示の給紙ローラや搬送ローラ25などを駆動するとともに、上述した駆動プーリを駆動することにより無端ベルトを走行してキャリッジ15を移動する。
【0020】
そして、記録時は、駆動装置26で駆動されることにより用紙23がプラテン22上に移動され、所定位置に位置決めされる。また、キャリッジ15が移動されて用紙23上を走査され、左方向に移動しながら4色のヘッド16y、16c、16m、16bを用いて順にそれぞれのノズルからインク滴が吐出され、用紙23上に画像が記録される。画像記録後、キャリッジ15が右方向に戻されるとともに、用紙23が図2の矢印の方向に所定量搬送される。
【0021】
次いで、再びキャリッジ15が左方向に移動されながら往路で4色のヘッド16y、16c、16m、16bを用いて順にそれぞれのノズルからインク滴が吐出され、用紙23上に画像が記録される。そして、同様に画像記録後、キャリッジ15が右方向に戻されるとともに、用紙23が図2の矢印の方向に所定量搬送される。以下同様の動作が繰り返され、1枚の用紙23上に画像が記録される。
【0022】
次に、本実施の形態にかかるインクジェットプリンタ100の構成について説明する。図3は、本実施の形態にかかるインクジェットプリンタ100の構成の一例を示すブロック図である。本実施の形態にかかるインクジェットプリンタ100は、ヘッド16と、吐出制御部101と、発光制御部102と、発光素子30と、受光部103と、検出部104とを主に備えている。
【0023】
本実施の形態のインクジェットプリンタ100は、ノズルnx(1≦x≦N、Nはノズルの個数)からインク滴が正常に吐出するか否かを検出する液吐出不良検出処理を行う。液吐出不良検出処理では、インク滴の飛行経路に対して発光素子30から光ビームを出射し、出射した光ビームにノズルnxからインク滴を吐出して、インク滴による散乱光を発生させる。この散乱光を受光素子33が受光し、受光して得られる出力電圧によって検出部104がインク滴が正常に吐出されたか否かを検出する。
【0024】
なお、図3では、主に液吐出不良検出処理に関連する機能を備えた構成部を記載しており、画像の記録に関連する構成部は図示を省略している。なお、液吐出不良検出装置20は、図3の構成部のうち、少なくとも発光素子30と、受光部103と、検出部104と、吐出制御部101とを備えている。
【0025】
吐出制御部101は、ヘッド16の各ノズルからインク滴を吐出する吐出処理を制御する。例えば液吐出不良検出処理では、吐出制御部101は、ヘッド16のノズルnxから、発光素子30とノズルnxとの距離、または、受光素子33とノズルnxとの距離に応じて定められる大きさのインク滴を吐出するように制御する。吐出制御部101による吐出制御処理の詳細については後述する。
【0026】
発光制御部102は、発光素子30を発光させる発光処理を制御する。例えば液吐出不良検出処理では、発光制御部102は、一定電圧値の発光制御信号を送出して、発光素子30を連続点灯させる。
【0027】
発光素子30は、例えば、半導体レーザ等の発光素子であって、発光制御部102から送出される発光制御信号にしたがって点灯し、光ビームを発生する。ヘッド16が短尺である場合には、発光素子30としてレーザダイオードを用いてコスト低減を図ることもできる。
【0028】
受光部103は、図3に示すように、受光素子33と、信号処理部110と、を主に備えている。
【0029】
受光素子33は、例えば、フォトダイオード等の受光素子であって、受光する光の強度に比例して電流を発生させる。受光素子33は、図4に示すように、発光素子30が発生した光ビーム31の光軸35から角度θずれ、ノズル直下よりも発光素子30から離れた位置に配置される。受光素子33は、液吐出不良検出処理では、インク滴36が光ビーム31に照射されて散乱光S1〜S7が発生した場合に、光ビーム31の光軸方向に散乱された前方散乱光S1〜S3を受光し、受光した光の強度に応じた電流を発生させる。受光素子33は、他の態様として、発生させた電流を電圧に変換する電流電圧変換部を備え、電圧を出力するように構成してもよい。
【0030】
図3に示すように、信号処理部110は、I/V変換部111と、1段目増幅部112と、HPF(ハイパスフィルター)113と、2段目増幅部114と、を主に備えている。
【0031】
I/V変換部111は、受光素子33で発生した電流を電流値の大きさに応じた電圧に変換する。
【0032】
1段目増幅部112は、I/V変換部111で電流電圧変換された電圧を増幅する。液吐出不良検出処理では、1段目増幅部112により出力信号TP1が得られる。この出力信号TP1によりオフセット電圧を計測することができる。オフセット電圧を監視することにより、光ビーム31の光軸35と受光素子33とが、正確に液吐出不良検出処理を実行可能な位置関係であることを確認するように構成してもよい。
【0033】
HPF13は、DC成分(ノイズ成分)を除去・低減する。
【0034】
2段目増幅部114は、HPF113で得られた電圧を増幅する。液吐出不良検出処理では、2段目増幅部114により散乱光に応じた出力電圧(散乱光出力値)を表す出力信号TP2が出力される。
【0035】
なお、図3のような受光部103の構成は一例であり、受光した光ビーム31に応じた出力電圧(出力信号TP2)を出力するものであれば、あらゆる構成を適用できる。
【0036】
検出部104は、受光部103から出力された出力信号TP2から、インク滴の吐出不良を検出する。例えば、検出部104は、出力信号TP2と、不良吐出を判定するための基準電圧として予め定められた閾値VSHとを比較し、出力信号TP2が閾値VSHより小さい場合に、インク滴に曲がりが発生したことを検出する。検出部104が、閾値VSHより小さい所定の閾値より出力信号TP2が小さい場合に、不吐出の状態であることを検出するように構成してもよい。また、検出部104が、散乱光のパルス波形と基準電圧(閾値VSH)とを比較するときに、ヒステリシスを掛けることにより、ノイズ成分による出力のばたつきをなくすように構成してもよい。
【0037】
次に、図4〜図7を用いて、本実施の形態の液吐出不良検出装置20の動作原理について説明する。
【0038】
図4は、本実施の形態の液吐出不良検出処理の概略を示す説明図である。図4のノズルn1、n2、・・・、nx、・・・、nNは、キャリッジ15に搭載する1つのヘッド16で、1つのノズル列を構成する各ノズルである。本実施の形態の液吐出不良検出装置20が備えられたインクジェットプリンタ100では、このノズル列のうち1つのノズルnxからインク滴36が吐出される。
【0039】
発光素子30として半導体レーザを用いた場合、垂直・水平方向にそれぞれ発散角度(一般的な例として、垂直方向に14°および水平方向に30°)を持つ拡散光が出射される。この拡散光はコリメートレンズ32により平行光である光ビーム31に変換される。ここで、光ビーム31の光軸35は、インク滴36の吐出方向と直行するように配置されている。受光素子33は、その受光面が光ビーム31の径内に入らないようにする一方、できるだけ光ビーム31の光軸35に近付けて光軸35から所定距離だけオフセットした位置に配置する。すなわち、受光素子33は、発光素子30が発する光ビーム31が直接受光面に入らず、その光ビーム31がインク滴36に衝突したときに生ずる散乱光の一部、例えば図示例では前方散乱光S1〜S3を効率よく受光し得る位置に配置する。
【0040】
ここで、ヘッド16のノズルnxからインク滴36を吐出すると、インク滴36が正常に吐出されている場合は、光ビーム31がインク滴36に照射されて散乱光S1〜S7が発生する。散乱した前方散乱光S1〜S3が受光素子33に入射し、受光素子33が発生する電流値を変化させる。
【0041】
一方、インク滴36が正常に吐出されていない場合には、光ビーム31がインク滴36に照射されず、従って散乱光も発生させずに、光ビーム31はそのまま直進するため、受光素子33は電流を発生させない。検出部104は、受光素子33から出力された出力信号TP2(散乱光出力値)により、インク滴36が吐出したか否かおよびインク滴36の曲がりを判定する。すなわち、検出部104は、受光素子33の受光光量の大小を判別し、受光光量が大きいことからインク滴36の正常吐出を確認する一方、受光光量が小さいことからインク滴36の吐出不良を検出する。
【0042】
なお、本実施の形態の液吐出不良検出装置20は、ノズル列の複数のノズルから順次インク滴36を吐出させ、所定の基準電圧と、得られた出力信号TP2とを比較することにより、液吐出不良検出処理を各ノズルに対して行う。
【0043】
図5は、光ビーム31の、水平方向および垂直方向の光強度分布を示す図である。ここで、水平方向とは、光軸35の方向である。また、垂直方向とは、光軸35に直行する方向およびノズルnxからインク滴36が吐出される方向である。図5に示すように、光ビーム31の光強度は、光軸35上のビーム中心の位置で最大であり、光軸35から光ビーム31の外縁に向かうにつれて低下し、正規分布となっている。
【0044】
図6は、光ビーム31とノズルnxから吐出されたインク滴との位置関係を示す説明図である。図6は、図4で、ノズルnxから吐出されたインク滴36を吐出方向すなわち垂直下方向から観察した図である。図6では、光ビーム31内に、図面奥手に配置されたノズルnxから吐出された、正常吐出時におけるインク滴36aおよび吐出不良時の一例におけるインク滴36bが示されている。ノズル列は、光軸35がノズル列の直下になるようにヘッド16に配置されている。このため、正常に吐出されたインク滴36aは、ノズルnxの吐出方向上、すなわちノズルnxの直下に吐出され、光ビーム31の中心である光軸35上を通過する。一方で、例えば吐出後に曲がりなどの吐出不良が発生した場合のインク滴36bは、ノズルnxの吐出方向からずれた位置に吐出され、光ビーム31の中心からずれた位置を通過する。この状態で印刷を行うと、印刷用紙の狙った位置にインク滴が滴下されず、印刷のブレや印刷ムラの原因となる。また、インク滴36が不吐出の場合には、インク滴36が吐出されず光ビーム31内も通過しない。
【0045】
図7は、インク滴36が光ビーム31を通過した場合に発生する散乱光を受光した場合に受光素子33によって得られる出力電圧(散乱光出力値)である出力信号TP2を示す図である。正常吐出であるインク滴36aは、図5に示したように、光強度が最大となる光ビーム31の中心を通過するため、散乱光の光強度も大きくなり、電圧値V’を最大値とする出力電圧を発生させる(図7実線)。これに対し、不良吐出時に吐出方向がずれたインク滴36bは、光ビーム31の中心から外れた位置を通過するため、図5に示したように、光強度が光ビーム31の中心と比べて低下し、最大値V’より小さい電圧値V’’を最大値とする出力電圧を発生させる(図7点線)。液滴不吐出の場合は、光ビーム31内をインク滴が通過しないため、散乱光も発生せず、出力電圧が得られない(図7一点鎖線)。
【0046】
ここで、不良吐出を判定するための閾値をVSH(図7点線)とすると、インク滴36aは正常吐出と判断でき、インク滴36bは曲がりが発生したと検出することができる。また、閾値VSHをV’’より低くすることにより、不吐出の状態を検出することができる。
【0047】
次に、吐出制御部101による吐出制御処理の詳細について図8〜図15を用いて説明する。
【0048】
図8は、ラインヘッドプリンタとしてインクジェットプリンタ100を構成した場合のヘッド16と受光素子33との位置関係を示す図である。図8では、発光素子30側のノズルn1およびノズルn1から吐出されるインク滴36−1と、受光素子33側のノズルnNおよびノズルnNから吐出されるインク滴36−Nのみを示しているが、ノズルn1からノズルnNの間にも複数のノズルnxが存在し、ノズルnxからはインク滴36−xが吐出される。
【0049】
図8に示すように、ラインヘッドプリンタの場合、受光素子33からノズルn1までの距離と、受光素子33からノズルnNまでの距離とは大きく異なる。この場合、受光素子33の近傍のノズルからインク滴を吐出したときの散乱光出力値は、他のノズルnxと比較すると低くなる。
【0050】
図9は、受光素子33から各ノズルnxまでの距離(XPD)と散乱光出力値(TP2)との関係を示す図である。図9は、径が異なる2種類のインク滴(大滴B、小滴B)を吐出した場合に得られる散乱光出力値の一例を示している。
【0051】
図9に示すように、大滴Bと小滴Bとでは、散乱光出力値のピーク部の大きさを表すVL1およびVS1が異なっている。これは散乱光の強度が滴径によって異なるためである。また、大滴Bと小滴Bとではピーク部の現れる位置も異なっている。散乱光の強度分布は、光ビーム31の照射方向からの角度(図4のθ)に依存しており、後方になるに連れて散乱光強度が低下していく。滴径によって角度依存特性は異なり、大滴Bの場合は特に強く現れる。すなわち、受光素子33とノズルnxまでの距離が近いと、散乱光の強度の強い部分は光ビーム31の中に隠れているため受光素子33で検出できず、散乱光出力値が低くなる。反対に、距離がある程度離れると、散乱光の強度の強い部分が光ビーム31の中から現れるため、散乱光出力値は徐々に大きくなる。また、距離が離れすぎると散乱光が拡散するため、散乱光出力値が低くなる。
【0052】
なお、大滴Bの径が約40μm、小滴Bの径が約20μmの場合、図中のx(小滴Bのピーク部に対応する距離)は約100mm、x(大滴Bのピーク部に対応する距離)は約350mm、x(大滴Bと小滴Bの散乱光出力値の大きさが入れ替わる距離)は約150mmとなる。
【0053】
図10は、図8に示すような構成で各ノズルn1〜nNから同じ大きさ(大滴B)のインク滴36−1〜36−Nを吐出した場合の散乱光出力値の出力分布の一例を示す図である。なお、図10のXn1およびXnNは、それぞれ受光素子33からノズルn1およびnNまでの距離を表す。
【0054】
図9で示したように、0からxまでの間は、大滴吐出時の散乱光出力値と小滴吐出時の散乱光出力値とがほぼ同じ値となる。そこで、吐出制御部101は、例えばノズルn1からxに相当するノズルnxまでは小滴Bを吐出し、それ以外は大滴Bを吐出するように制御する。すなわち、吐出制御部101は、受光素子33からの距離が予め定められた閾値(第1閾値)より小さいノズルnxから、それ以外のノズルより小さいインク滴を吐出するように制御する。
【0055】
図11は、このように吐出制御した場合に得られる散乱光出力値の一例を示す図である。図11に示すように、吐出制御部101が受光素子33と各ノズルnxとの距離に応じて吐出するインク滴の大きさを変更するように制御することで、大滴吐出時(図10)とほぼ同じような散乱光出力値を得ることができる。
【0056】
これにより、通常の検知で使用するインク滴(大滴B)より小さい滴径を使用することができるため、インクコストの大幅な削減が可能となる。また、ラインヘッドプリンタのようなノズル数が多いヘッド16の場合にはインク削減の効果が大きくなる。
【0057】
(変形例1)
なお、図10のような散乱光出力値が得られている場合、曲がりを検出する場合には、各ノズルに合わせた複数の閾値を設定する必要が生じる。そのため、判定回路の複雑化や不良の誤検出を招く可能性がある。
【0058】
そこで、吐出制御部101が、例えばノズルn1からxに相当するノズルnxまでは小滴Bを吐出し、それ以外は大滴Bを吐出するように構成してもよい。すなわち、吐出制御部101が、発光素子30からの距離が予め定められた閾値(第2閾値)より小さいノズルnxから、それ以外のノズルより小さいインク滴を吐出するように構成してもよい。
【0059】
図12は、このように吐出制御した場合に得られる散乱光出力値の一例を示す図である。これにより、図12の実線のような散乱光出力値を得ることができる。すなわち、全ノズルでの散乱光出力値を平均化することができる。
【0060】
これにより、通常の検知で使用するインク滴(大滴B)より小さい滴径を使用することができるため、インクコストの大幅な削減が可能となる。さらに、曲がり検出の閾値を例えば1つ設定するだけでよいため、判定回路の複雑化を招くことなく、不良吐出や曲がりを正常に検出できるようになる。すなわち、全ノズルに対し安定的にインク滴の不良を検出することができる。また、ラインヘッドプリンタのようなノズル数が多いヘッド16の場合にはこのような効果が大きくなる。
【0061】
なお、これまでは2種類の大きさのインク滴36を用いる例を説明したが、例えば大滴B、中滴B、小滴Bなどのように、インク滴36の大きさの段階を増やしても同様の効果を得ることができる。
【0062】
(変形例2)
また、上記実施の形態では、光ビームが略平行光である場合について説明した。これに対し、光ビームウェストを有する光ビームを用いるように構成することも可能である。図13は、このように構成した場合のヘッド16と光ビーム51と受光素子33との位置関係を示す図である。図13に示すように、本変形例では、発光素子30が、受光素子近傍に光ビームウェスト56を有する光ビーム51を出射する。
【0063】
図14は、このような光ビーム51を出射した場合の、受光素子33から各ノズルnxまでの距離(XPD)とビーム密度(BM)との関係を示す図である。図14に示すように、光ビームウェスト56を有する光ビーム51を用いる場合、各ノズルn1〜nNに相当する位置(Xn1〜XnN)での光ビーム31のビーム密度BMは、光ビームウェスト56の位置に近づくにつれて高くなっていることがわかる。
【0064】
なお、光ビームウェスト56は、コリメートレンズ32と発光素子30との距離を所定距離より若干長くしたり、別のレンズを追加したりする方法等により生成できる。
【0065】
図15は、本変形例のような構成の場合に得られる散乱光出力値の一例を示す図である。図15の一点鎖線は、光ビームウェスト56を持たせた光ビーム51により得られる散乱光出力値を表している。また、図15の点線は、光ビームに光ビームウェスト56を持たせない場合に得られる散乱光出力値を表している。
【0066】
ビーム密度BMが高くなると、吐出したインク滴36による散乱光強度も高くなるため、受光素子33で受光する散乱光出力値も高くなる。したがって、光ビームウェスト56を持たせない場合は受光素子33に近い位置での散乱光出力値が低くなるが(点線)、光ビームウェスト56を持たせることにより、各ノズルで散乱光出力値の差を小さくすることができる(一点鎖線)。
【0067】
図15の実線は、光ビームウェスト56を持たせた光ビーム51を用い、さらに、ノズルnxごとにインク滴36の大きさを変えるように制御した場合(例えば、発光素子30側の近傍のノズルからは小滴を吐出する場合)に得られる散乱光出力値を表している。この場合は、全ての位置で同等の検出結果(散乱光出力値)を得ることができる。これにより、インクコストの大幅な削減とともに、不良吐出や曲がりの検出精度の向上を実現できる。
【符号の説明】
【0068】
10 筐体
11、12 側板
13 ガイドシャフト
14 ガイド板
15 キャリッジ
16y、16c、16m、16b インクジェットヘッド
17 底板
18 単独回復装置
20 液吐出不良検出装置
22 プラテン
23 用紙
24 給紙台
25 搬送ローラ
26 駆動装置
30 発光素子
31、51 光ビーム
32 コリメートレンズ
33 受光素子
35 光軸
36 インク滴
56 光ビームウェスト
100 インクジェットプリンタ
101 吐出制御部
102 発光制御部
103 受光部
104 検出部
110 信号処理部
111 I/V変換部
112 1段目増幅部
113 HPF
114 2段目増幅部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズルから吐出される液滴の飛行経路に光ビームを照射する発光手段と、
前記光ビームが前記液滴に衝突して生じる散乱光を受光する受光手段と、
前記散乱光を受光して得られる出力電圧に基づいて前記液滴の吐出不良を検出する検出手段と、
複数の前記ノズルのそれぞれから、前記発光手段または前記受光手段と、前記ノズルとの距離に応じて定められる大きさの前記液滴を吐出する吐出制御手段と、
を備えることを特徴とする液吐出不良検出装置。
【請求項2】
前記吐出制御手段は、前記受光手段との距離が予め定められた第1閾値より小さい前記ノズルから、前記距離が前記第1閾値以上の前記ノズルより小さい前記液滴を吐出すること、
を特徴とする請求項1に記載の液吐出不良検出装置。
【請求項3】
前記吐出制御手段は、前記発光手段との距離が予め定められた第2閾値より小さい前記ノズルから、前記距離が前記第2閾値以上の前記ノズルより小さい前記液滴を吐出すること、
を特徴とする請求項1に記載の液吐出不良検出装置。
【請求項4】
前記発光手段は、前記受光手段に近づくほど密度が大きい前記光ビームを照射すること、
を特徴とする請求項1に記載の液吐出不良検出装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の液吐出不良検出装置を備えることを特徴とするインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−253771(P2010−253771A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−105470(P2009−105470)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(000006932)リコーエレメックス株式会社 (708)
【Fターム(参考)】