説明

液吐出不良検出装置およびインクジェット記録装置

【課題】液滴の吐出不良をより簡易に検出可能な液吐出不良検出装置およびインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】光軸から外側に向けて光強度が減少し、液滴を吐出するノズルから観察したときに光強度が減少する部分が液滴の飛行経路上で互いに交差する複数の光ビームを照射する発光素子30と、複数の光ビームが液滴に衝突して生じる散乱光を受光する受光素子103と、散乱光の光強度に基づいて液滴の吐出不良を検出する検出部104と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液吐出不良検出装置およびインクジェット記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置では、微細なノズルから微小な各色インク滴を吐出する各色のインクジェットヘッドを備え、用紙等の記録媒体に対してそのインクジェットヘッドを移動させながらインク滴を吐出することで記録媒体上に画像形成を行う。高解像度の画像形成のためには、ノズルを微細化してインク滴サイズを微小化する必要がある。この場合、ノズルが微細なため、印刷停止時にインクが乾燥するなどによりノズル詰まりが起きてインク滴の吐出不良が発生し、画像にドット抜けなどが生じて画像品質の低下を引き起こしてしまう。
【0003】
従来より、このノズル詰まりによる画像品質の低下を防ぐために、液吐出不良を検出する液吐出不良検出装置がインクジェット記録装置に備えられていた。例えば、特許文献1では、光学フィルタで光ビームの強度を変化させ、強度が変化する部分のうち液滴が通過した位置により受光素子の出力が異なることを利用して、その出力から液滴の飛翔経路の曲がりを検出する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−184161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法では、光学フィルタおよび2個の受光素子を用いることを前提としているため、構成が複雑になりコストが増大するという問題があった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、液滴の吐出不良をより簡易に検出可能な液吐出不良検出装置およびインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、光軸から外側に向けて光強度が減少し、液滴を吐出するノズルから観察したときに光強度が減少する部分が前記液滴の飛行経路上で互いに交差する複数の光ビームを照射する発光手段と、複数の前記光ビームが前記液滴に衝突して生じる散乱光を受光する受光手段と、前記散乱光の光強度に基づいて前記液滴の吐出不良を検出する検出手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、液滴の吐出不良をより簡易に検出できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、第1の実施の形態にかかる液吐出不良検出装置を備えるインクジェットプリンタ(インクジェット記録装置)の正面図を示す。
【図2】図2は、第1の実施の形態にかかるインクジェットプリンタの機能構成の一例を示すブロック図である。
【図3】図3は、ノズルnxの吐出方向から観察した複数の発光素子と複数の受光素子との位置関係の一例を示す図である。
【図4】図4は、光ビームの交差点付近を拡大した図を示す。
【図5】図5は、発光素子から発する光ビームの強度分布を示す図である。
【図6】図6は、発光素子から発する光ビームの強度分布を示す図である。
【図7】図7は、図4の位置a〜位置iの各点をインク滴が通過したときの受光素子の出力例を示す図である。
【図8】図8は、第2の実施の形態にかかるインクジェットプリンタの機能構成の一例を示すブロック図である。
【図9】図9は、ノズルnxの吐出方向から観察した複数の発光素子と1つの受光素子との位置関係の一例を示す図である。
【図10】図10は、光ビームの交差点付近を拡大した図を示す。
【図11】図11は、1つの受光素子の出力信号から散乱光に対応する信号を分離する様子を示す図である。
【図12】図12は、出力信号の周波数スペクトルの一例を示す図である。
【図13】図13は、マスクを備えた変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる液吐出不良検出装置およびインクジェット記録装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【0011】
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態にかかる液吐出不良検出装置を備えるインクジェットプリンタ(インクジェット記録装置)100の正面図を示す。
【0012】
図1に示すように、インクジェットプリンタ100の筐体10の左右の側板11、12には、ガイドシャフト13とガイド板14とが平行に掛け渡して設けられている。ガイドシャフト13およびガイド板14は、キャリッジ15に摺動可能に貫通される。キャリッジ15には、不図示の無端ベルトが取り付けられる。無端ベルトは、筐体10内の左右に設けられる図示しない駆動プーリと従動プーリに掛けまわされる。そして、駆動プーリの回転とともに従動プーリが従動回転されて無端ベルトを走行する。これにより、キャリッジ15が、図1の矢印で示されるよう左右に移動される。
【0013】
キャリッジ15には、イエロ、シアン、マゼンタ、ブラックの4色のインクジェットヘッド16y、16c、16m、16b(以下、単にヘッド16という)が、キャリッジ15の移動方向に並列配置されている。各ヘッド16は、下向きのノズル面に複数のノズルを直線状に並べたノズル列を有する。図示しないが、直線状のノズル列は、キャリッジ15の移動方向と直交する方向に設けられる。
【0014】
そして、キャリッジ15が図1のように右端のホームポジションに存在するときには、各ヘッド16は、筐体10内の底板17上に設置する単独回復装置18と対向する。単独回復装置18は、液吐出不良検出装置20でインク滴吐出不良を検出したノズルからインクを吸い出し、インクジェットプリンタ100自身で単独で液体吐出不良を回復する装置である。
【0015】
液吐出不良検出装置20は、筐体10内の底板17上に、単独回復装置18に隣接配置される。液吐出不良検出装置20の詳細については後述する。
【0016】
液吐出不良検出装置20に隣接する位置には、板状のプラテン22を設置する。プラテン22の背面側には、記録媒体である用紙23をプラテン22上に供給する給紙台24が斜めに立てて設けられる。また、図示を省略するが、給紙台24上の用紙23をプラテン22上に送り出す給紙ローラが備えられる。さらに、プラテン22上の用紙23を矢示方向に搬送して正面側に排出する搬送ローラ25が設けられる。
【0017】
筐体10内の底板17上には、さらに左端に駆動装置26が設置される。駆動装置26は、不図示の給紙ローラや搬送ローラ25などを駆動するとともに、上述した駆動プーリを駆動することにより無端ベルトを走行してキャリッジ15を移動する。
【0018】
そして、記録時は、駆動装置26で駆動されることにより用紙23がプラテン22上に移動され、所定位置に位置決めされる。また、キャリッジ15が移動されて用紙23上を走査され、左方向に移動しながら4色のヘッド16y、16c、16m、16bを用いて順にそれぞれのノズルからインク滴が吐出され、用紙23上に画像が記録される。画像記録後、キャリッジ15が右方向に戻されるとともに、用紙23が所定量搬送される。
【0019】
次いで、再びキャリッジ15が左方向に移動されながら往路で4色のヘッド16y、16c、16m、16bを用いて順にそれぞれのノズルからインク滴が吐出され、用紙23上に画像が記録される。そして、同様に画像記録後、キャリッジ15が右方向に戻されるとともに、用紙23が所定量搬送される。以下同様の動作が繰り返され、1枚の用紙23上に画像が記録される。
【0020】
次に、第1の実施の形態にかかるインクジェットプリンタ100の機能構成について説明する。図2は、第1の実施の形態にかかるインクジェットプリンタ100の機能構成の一例を示すブロック図である。第1の実施の形態にかかるインクジェットプリンタ100は、ヘッド16と、吐出制御部101と、発光制御部102と、発光素子30と、受光素子103と、検出部104と、を主に備えている。
【0021】
第1の実施の形態のインクジェットプリンタ100は、ノズルnx(1≦x≦N、Nはノズルの個数)からインク滴が正常に吐出するか否かを検出する液吐出不良検出処理を行う。液吐出不良検出処理では、インク滴の飛行経路に対して発光素子30から光ビームを出射し、出射した光ビームにノズルnxからインク滴を吐出して、インク滴による散乱光を発生させる。この散乱光を受光素子103が受光し、受光して得られる出力電圧によって検出部104がインク滴が正常に吐出されたか否かを検出する。
【0022】
なお、図2では、主に液吐出不良検出処理に関連する機能を備えた構成部を記載しており、画像の記録に関連する構成部は図示を省略している。
【0023】
吐出制御部101は、ヘッド16の各ノズルからインク滴を吐出する吐出処理を制御する。
【0024】
発光制御部102は、発光素子30を発光させる発光処理を制御する。例えば液吐出不良検出処理では、発光制御部102は、一定電圧値の発光制御信号を送出して、発光素子30を連続点灯させる。
【0025】
発光素子30は、例えば、半導体レーザ等の発光素子であって、発光制御部102から送出される発光制御信号にしたがって点灯し、光ビームを発生する。発光素子30は、特にインク滴に触れると前方散乱光を強く発するレーザダイオードが好ましい。光ビームの幅は、通過させるインク滴よりも十分大きくとるものとする。ヘッド16が短尺である場合には、発光素子30としてLEDを用いてコスト低減を図ることもできる。
【0026】
なお、図2では、発光素子30を1つのみ表示しているが、本実施の形態では、複数の発光素子30から複数の光ビームを発生する。複数の発光素子30のそれぞれは、光軸から外側に向けて光強度が減少する光ビームを照射する。そして、発光素子30のそれぞれは、ノズル側から観察したときに、光ビームの光強度が減少する部分が液滴の飛行経路上で互いに交差するように光ビームを照射する。
【0027】
受光素子103は、発光素子30から発光された光ビームがインク滴に衝突して生じる散乱光を受光する受光素子である。
【0028】
受光素子103は、例えば、フォトダイオード等の受光素子により構成できる。受光素子103は、受光する光の強度に比例する電流を発生し、発生させた電流を電圧に変換して、受光した光強度を表す電圧値(以下、出力信号ともいう)を出力する。なお、電流を電圧に変換する機能を受光素子の外部に備えるように構成してもよい。
【0029】
図2では、受光素子103を1つのみ表示しているが、本実施の形態では、複数の発光素子30にそれぞれ対応する複数の受光素子103を備える。複数の受光素子103は、対応する発光素子30から照射された光ビームがインク滴に衝突して生じる散乱光をそれぞれ受光する。
【0030】
検出部104は、受光素子103から出力された出力信号から、インク滴の吐出不良を検出する。検出部104による吐出不良検出処理の詳細については後述する。
【0031】
次に、複数の発光素子30と複数の受光素子103との位置関係について説明する。図3は、ノズルnxの吐出方向から観察した複数の発光素子30と複数の受光素子103との位置関係の一例を示す図である。図3では、2つの発光素子30a、30bから、ほぼ直角に交差する光ビーム31a、31bがそれぞれ照射される例が示されている。
【0032】
発光素子30a、30bは、例えば、ノズルnxからのインク滴の吐出方向と直角に交わる平面上で、インク滴の飛行経路との交点で略直角に交差するように光ビーム31a、31bを照射する。なお、インク滴を吐出するノズルから観察したときにインク滴の飛行経路上で互いに交差していれば、光ビーム31a、31bは異なる平面上に照射されてもよい。また、少なくとも交差する角度が特定できれば、光ビーム31a、31bが交差する角度は直角でなくてもよい。
【0033】
光ビーム31a、31bがインク滴と衝突して生じる散乱光は、それぞれ2つの受光素子103a、103bで受光される。受光素子103a、103は、それぞれ光ビーム31a、31bのビーム径を外れた位置に配置される。例えば、受光素子103a、103bは、受光面が光ビーム31a、31bのビーム径と重ならない位置で、できるだけ光軸の中心近くにオフセットして配設される。これにより、効率の良い検知が可能となる。
【0034】
図4は、光ビームの交差点付近を拡大した図を示す。図5および図6は、それぞれ発光素子30a、30bから発する光ビームの強度分布を示す図である。図5および図6に示すように、以下では、光ビーム31a、31bの強度分布は、ガウシアン分布であると仮定する。図5および図6内のa〜iは、それぞれ図4の位置a〜位置iに対応する。
【0035】
図4の位置eは、正常に吐出されたときにインク滴が通過する位置を表す。図5および図6に示すように、光ビーム31a、31bは、光軸から遠ざかるに従い光強度が減少する強度分布となっている。本実施の形態では、強度分布が減少している予め定められた勾配部分(特定勾配部分)の範囲内にインク滴が着弾するように光ビーム31a、31bを照射する。図4の例では、インク滴は、少なくとも位置a〜位置iを含む領域401内に着弾する。ノズルnxの評価時には、ノズルnxを位置eに対応する位置に合わせる。
【0036】
図5は、光ビーム31aの光軸上、光軸と外周部との略中心、および、外周部にそれぞれ存在する位置a、d、g、位置b、e、h、および位置c、f、iをインク滴が通過した場合に受光素子103aで出力される電圧値が、それぞれV1、V2、およびV3であることを示している。
【0037】
同様に、図6は、光ビーム31bの光軸上、光軸と外周部との略中心、および、外周部にそれぞれ存在する位置i、h、g、位置f、e、d、および位置c、b、aをインク滴が通過した場合に受光素子103bで出力される電圧値が、それぞれV1、V2、およびV3であることを示している。
【0038】
次に、検出部104がインク滴の飛行経路の曲がり(ずれ)の方向、および、曲がりの距離を検出する方法について説明する。図7は、図4の位置a〜位置iの各点をインク滴が通過したときの受光素子103a、103bの出力例を示す図である。なお、図7の各グラフの横軸は時間を表す。
【0039】
図4の位置eを通過した場合、受光素子103a、103bはそれぞれ図7(e)のような電圧値を出力する。図7(e)に示すように、受光素子103a、103bの出力がいずれもV2であるため、検出部104は、インク滴が正常に吐出されたと判断することができる。インク滴が位置e以外の点を通過した場合、検出部104は、例えば受光素子103a、103bそれぞれから出力された電圧値を、インク滴が正常に吐出された場合の電圧値の基準値(図7(e)の電圧値)と比較することにより、インク滴が通過した位置が、各光ビームの光軸側または外周部側のいずれの方向にずれているか、および、ずれの量(距離)を特定することができる。各光ビーム31a、31bに対して求められるこれらの方向および距離から、検出部104は、位置eを基準とするインク滴の飛行経路の曲がりの方向および曲がりの距離を特定することができる。
【0040】
なお、図4〜図7では、受光素子103a、103bが出力する電圧値に対応する位置がa〜iの9個の点に対応する例を示したが、電圧値と座標点との対応をさらに細かく取ることにより、曲がりの方向および曲がりの距離の検出精度を向上させることができる。
【0041】
このように、第1の実施の形態の液吐出不良検出装置では、複数の発光素子から発する光ビームが交差する領域であって、各光ビームの特定勾配部分が重なった領域に限定して液滴を落とすことにより、受光素子の出力信号を液滴の着弾位置に応じて変えることが可能となる。各光ビームに対する複数の出力信号の組み合わせは液滴の着弾位置と1対1の関係にあるため、液滴の曲がりの方向と距離の特定が可能となる。
【0042】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態の液吐出不良検出装置は、2つの発光素子と1つの受光素子とを用いてインク滴の吐出不良を検出する。
【0043】
図8は、第2の実施の形態にかかるインクジェットプリンタ200の機能構成の一例を示すブロック図である。第2の実施の形態にかかるインクジェットプリンタ200は、ヘッド16と、吐出制御部101と、発光制御部102と、発光素子230と、受光素子203と、検出部204と、を主に備えている。
【0044】
第2の実施の形態では、発光素子230、受光素子203、および検出部204の機能が第1の実施の形態と異なっている。その他の構成および機能は、第1の実施の形態にかかるインクジェットプリンタ100の構成を表すブロック図である図2と同様であるので、同一符号を付し、ここでの説明は省略する。
【0045】
発光素子230は、第1の実施の形態と同様に複数の発光素子230a、230bからなるが、発光素子230aおよび発光素子230bのそれぞれから照射される光ビームのビーム径が相互に異なる点が第1の実施の形態と異なる。
【0046】
受光素子203は、本実施の形態では1つの素子からなる点が、第1の実施の形態の受光素子103と異なる。受光素子203は、発光素子230a、230bから発光された光ビームがインク滴に衝突して生じる2つの散乱光を共に受光する。
【0047】
検出部204は、受光素子203から出力された出力信号から、各発光素子230a、230bが照射した光ビームに対応する散乱光の信号を分離し、分離した信号から、インク滴の吐出不良を検出する。検出部204による吐出不良検出処理の詳細については後述する。
【0048】
次に、複数の発光素子230と1つの受光素子203との位置関係について説明する。図9は、ノズルnxの吐出方向から観察した複数の発光素子230と1つの受光素子203との位置関係の一例を示す図である。
【0049】
発光素子230a、230bの位置関係は、第1の実施の形態での位置関係を表す図3と同様である。本実施の形態では、受光素子203を光ビームの交点近傍に設置する。これにより、複数の光ビーム231a、231bがインク滴と衝突して生じる散乱光を1つの受光素子203で受光できる。
【0050】
図10は、光ビームの交差点付近を拡大した図を示す。なお、第2の実施の形態の光ビーム231a、231bの強度分布は、それぞれ第1の実施の形態の光ビーム31a、31bの強度分布を示す図5および図6と同様であるため省略する。
【0051】
図10に示すように、本実施の形態では、発光素子230a、230bが、ノズルから観察したときの光ビームの長さ(幅)(RW1、RW2)およびインク滴の吐出方向の長さ(高さ)(RH1、RH2)が相互に異なる光ビーム231a、231bをそれぞれ照射する。なお、少なくとも吐出方向の長さ(径)が異なっていれば光ビームの幅は同一でもよい。
【0052】
これにより、受光素子203が光ビーム231a、231bそれぞれに対応する散乱光を単独で受光したときに得られる出力信号の周期(周波数成分)が相互に異なるようにすることができる。図11は、1つの受光素子203の出力信号から光ビーム231a、231bそれぞれに対する散乱光に対応する信号を分離する様子を示す図である。
【0053】
図11の左上のグラフに示すように、発光素子230bを消灯した状態で発光素子230aから発する光ビーム231aに対して、インク滴が位置eを通過したときに得られる出力信号はW1となる。また、図11の左下のグラフに示すように、発光素子230aを消灯した状態で発光素子230bから発する光ビーム231bに対して、インク滴が位置eを通過したときに得られる出力信号はW2となる。このように、本実施の形態では、複数の発光素子230が照射した光ビームに対して、周期(周波数成分)が相互に異なる出力信号が得られる。
【0054】
発光素子230aおよび発光素子230bを共に点灯して発光された光ビーム231a、231bに対して、インク滴が位置eを通過したときに得られる出力信号W12は、出力信号W1と出力信号W2との和になる(図11中央のグラフ)。
【0055】
検出部204は、出力信号W12をバンドパスフィルタ1(BPF1)およびバンドパスフィルタ2(BPF2)を用いて2つの信号W1’およびW2’に分離する。BPF1およびBPF2は、それぞれ出力信号W1およびW2の周波数を通すように構成する。
【0056】
図12は、出力信号W1およびW2の周波数スペクトルの一例を示す図である。本実施の形態では、発光素子230は、出力信号W1およびW2の周波数スペクトルWS1およびWS2が相互に干渉しないようにビーム径を調整した光ビームを照射する。
【0057】
これにより、BPF1およびBPF2により取り出される出力信号W1’およびW2’は出力信号W1およびW2と同等の信号となる。すなわち、検出部204は、分離後の出力信号W1’およびW2’を、それぞれ光ビーム231a、231bに対応する散乱光の光強度を表す出力信号として、第1の実施の形態と同様の方法によりインク滴の吐出不良を検出できる。すなわち、検出部204は、図10の位置a〜位置iの各点と、各点を通過したときのフィルタ分離後の出力信号の振幅値とを対応付けることにより、インク滴が通過した位置が特定できる。
【0058】
このように、第2の実施の形態の液吐出不良検出装置では、複数の発光素子から発する光ビームのインク滴の吐出方向の径を相互に変更する。これにより、それぞれの光ビームをインク滴が通過したときの受光素子の出力信号の周期(周波数成分)を変えることが可能となる。複数の発光素子から発する光ビームの交点付近に設置した1つの受光素子は、複数の発光素子から発する複数の光ビームをインク滴が通過したときの散乱光の出力信号の和を出力するが、複数の光ビームに対応する出力信号の周波数成分が異なるため、フィルタで分離して取り出すことができる。フィルタで分離後の出力信号の振幅値は第1の実施の形態で得られる信号と同等であるため、第1の実施の形態と同様の方法でインク滴の吐出不良を検知可能となる。また、第2の実施の形態では、光ビームごとに受光素子を備える必要がないため、さらに構成を簡略化し、コストを低減することが可能となる。
【0059】
(変形例)
上述の各実施の形態では、インク滴が光ビームの特定勾配部分の重なった領域の外に吐出された場合、吐出不良が正常に判別できない場合がある。例えば、図4の光ビーム31aの光軸に対して位置eと対称となる位置の近傍をインク滴が通過した場合、位置eと同等の出力信号が得られ、正常に吐出されたと誤って判定する可能性がある。
【0060】
そこで、インク滴が所望の領域外を通過しないようにインク滴の飛行経路を光ビームに衝突する手前で遮断するマスク(遮断部材)を備えるように構成してもよい。図13は、このようなマスク301を備えた変形例を示す図である。このようなマスク301を設けることにより、光ビームが交差する領域の範囲外に吐出されたインク滴による出力信号が出力されないようにすることが可能となる。
【0061】
図13では、さらにインク滴に電荷を持たせ、マスク301をグランド302に接地し、検出部104(検出部204)が、マスク301に流れる電流を検知するように構成した例が示されている。
【0062】
単にマスク301を設けるだけでは、インク滴が吐出されなかったのか、インク滴が吐出されたがインク滴が大きく曲がって範囲外に出たのかの区別がつかない。電流を検知する構成とすれば、この区別が可能となる。すなわち、検出部104(検出部204)は、電荷を有するインク滴がマスク301に衝突したときに生じる電流が検知されたときに、インク滴が範囲外に曲がって吐出されたことを検出する。
【符号の説明】
【0063】
10 筐体
11、12 側板
13 ガイドシャフト
14 ガイド板
15 キャリッジ
16y、16c、16m、16b インクジェットヘッド
17 底板
18 単独回復装置
20 液吐出不良検出装置
22 プラテン
23 用紙
24 給紙台
25 搬送ローラ
26 駆動装置
30、230 発光素子
100、200 インクジェットプリンタ
101 吐出制御部
102 発光制御部
103 受光素子
104 検出部
203 受光素子
204 検出部
301 マスク
302 グランド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光軸から外側に向けて光強度が減少し、液滴を吐出するノズルから観察したときに光強度が減少する部分が前記液滴の飛行経路上で互いに交差する複数の光ビームを照射する発光手段と、
複数の前記光ビームが前記液滴に衝突して生じる散乱光を受光する受光手段と、
前記散乱光の光強度に基づいて前記液滴の吐出不良を検出する検出手段と、
を備えることを特徴とする液吐出不良検出装置。
【請求項2】
前記発光手段は、正常に吐出された場合の前記液滴が前記光ビームの光強度が減少する部分の略中心を通過する前記光ビームを照射し、
前記検出手段は、前記光ビームが前記略中心を通過した場合に受光される前記散乱光の光強度を表す予め定められた基準値と、前記受光手段により受光された前記散乱光の光強度とを比較し、比較結果に基づいて前記飛行経路のずれの方向および距離を検出すること、
を特徴とする請求項1に記載の液吐出不良検出装置。
【請求項3】
前記発光手段は、前記液滴の吐出方向の長さが互いに異なる複数の前記光ビームを照射し、
前記受光手段は、複数の前記光ビームが前記液滴に衝突して生じる前記散乱光の光強度に応じた出力信号を出力し、
前記検出手段は、フィルタを用いて前記出力信号を複数の前記光ビームそれぞれの光強度を表す複数の信号に分離し、前記基準値と分離した複数の信号が表す光強度それぞれとを比較し、比較結果に基づいて、前記飛行経路のずれの方向および距離を検出すること、
を特徴とする請求項2に記載の液吐出不良検出装置。
【請求項4】
前記受光手段は、複数の前記光ビームそれぞれに対応して複数備えられ、
複数の前記受光手段のそれぞれは、対応する前記光ビームが前記液滴に衝突して生じる前記散乱光を受光し、
前記検出手段は、前記基準値と、複数の前記受光手段によって受光された複数の前記散乱光の光強度それぞれとを比較し、比較結果に基づいて、前記飛行経路のずれの方向および距離を検出すること、
を特徴とする請求項2に記載の液吐出不良検出装置。
【請求項5】
複数の前記光ビームが交差する領域外に吐出された前記液滴の飛行経路を、前記複数の前記光ビームに衝突する手前で遮断する遮断部材をさらに備えたこと、
を特徴とする請求項1に記載の液吐出不良検出装置。
【請求項6】
前記検出手段は、さらに、電荷を有する前記液滴が前記遮断部材に衝突したときに生じる電流を検知し、前記電流が検知されたときに、前記液滴の吐出不良が生じたことを検出すること、
を特徴とする請求項5に記載の液吐出不良検出装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つに記載の液吐出不良検出装置を備えることを特徴とするインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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