説明

液吐出不良検出装置及びインクジェット記録装置

【課題】発光素子の光ビームの出力を良好に調整することができる液吐出不良検出装置を提供する。
【解決手段】液吐出不良検出装置は、ノズルから吐出された液滴の飛行経路に発光素子から光ビームを照射し、当該光ビームと飛行する液滴とが衝突して生じる散乱光を受光素子で受光し、散乱光の光強度の変化に応じた波形データを取得する(ステップS1)。液吐出不良検出装置は、波形データのピーク値を取得する(ステップS2)。液吐出不良検出装置は、ピーク値を用いて、発光素子の光ビームの出力を調整する(ステップS5,S6)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液吐出不良検出装置及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、複数のノズルから吐出される液滴の飛行経路に発光素子から光ビームを照射し、当該光ビームが飛行する前記液滴に衝突して生じる散乱光を受光素子で受光し、前記散乱光の光強度の変化に応じた波形データを取得し、その波形からノズルの不良判別を行う検査装置が知られている。
【0003】
液滴の曲がり等を判定する場合、光ビームの出力が温度等の影響により変動すると、受光信号出力も大きく変動し、曲がり判定に大きな影響が現れる。そこで、光ビームの出力を調整する手段として、特許文献1や特許文献2に記載された装置が知られている。
【0004】
特許文献1には、光ビームの光軸から受光素子をオフセットした位置に置くことにより散乱光による不良検出を行う装置において、液不吐出時での受光素子の光ビームのフレア光による出力電圧値(オフセット電圧)の値を取得し、その値を光ビーム制御装置にフィードバックし、光ビーム出力を調整することで出力を調整し、正常な判別を行えるようにした装置が記載されている。
【0005】
特許文献2には、光ビームの光軸から受光素子をオフセットした位置に置くことにより散乱光による不良検出を行う装置において、液不吐出時での受光素子の出力電圧値(オフセット電圧)の値を取得し、その値に基づき受光素子の位置を再調整することで出力を調整し、正常な判別を行えるようにした装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−18022号公報
【特許文献2】特開2011−31532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の装置は、液不吐出時の光ビーム周囲に現れるフレア光により生じた受光素子のオフセット電圧値を基に出力調整をするものであるが、オフセット電圧値と液滴を飛ばしたときの出力値は相関性が少なく、外気温等の影響で光ビーム出力が変動を生じると、オフセット電圧値を一定値に調整しても、液滴を飛ばしたときの出力は温度変動前の出力と異なり、正常に判定を行えないという問題が生じる。
【0008】
また、特許文献2に記載の装置においても、液滴を吐出させたときの出力と相関性の少ないオフセット電圧値を用いていることから、特許文献1と同様の問題が起こりうる。
【0009】
さらに、上記各装置は、受光素子を光ビームよりオフセットさせる散乱光検知方式を前提としており、オフセットさせない遮蔽光方式には適用することができない。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、発光素子の光ビームの出力を良好に調整することができる液吐出不良検出装置及びインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の液吐出不良検出装置およびインクジェット記録装置は、ノズルから吐出された液滴の飛行経路に発光素子から光ビームを照射し、当該光ビームと飛行する前記液滴とが衝突して生じる散乱光を受光素子で受光し、前記散乱光の光強度の変化に応じた波形データを取得する第1の取得手段と、前記波形データのピーク値を取得する第2の取得手段と、前記ピーク値を用いて、前記発光素子の光ビームの出力を調整する調整手段と、を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、発光素子の光ビームの出力を良好に調整することができる液吐出不良検出装置及びインクジェット記録装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、第1の実施形態にかかる液吐出不良検出装置の主要部周辺の構成例を示す説明図である。
【図2】図2は、第1の実施形態にかかる受光部及び制御部の構成例を示す図である。
【図3】図3は、第1の実施形態にかかる波形データの一例を示すグラフである。
【図4】図4は、第1の実施形態にかかる光ビーム出力調整処理の一例を示すフローチャートである。
【図5】図5は、第2の実施形態にかかる光ビーム出力調整処理の一例を示すフローチャートである。
【図6】図6は、第3の実施形態にかかる波形データの一例を示すグラフである。
【図7】図7は、第4の実施形態にかかる光ビーム出力調整処理の一例を示すフローチャートである。
【図8】図8は、第5の実施形態にかかる液吐出不良検出装置を備えるインクジェット記録装置の一例の構成を正面から示す概念図である。
【図9】図9は、第5の実施形態にかかるインクジェット記録装置の一部を斜め上から観察した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態にかかる液吐出不良検出装置およびインクジェット記録装置について詳細に説明する。なお、以下の複数の実施形態には、同様の構成要素が含まれている。よって、以下では、それら同様の構成要素には共通の符号を付与するとともに、重複する説明を省略する。
【0015】
(第1の実施形態)
まずは、第1の実施形態を説明する。図1は、本実施形態にかかる液吐出不良検出装置の主要部周辺の構成例を示す説明図である。液吐出不良検出装置1は、記録ヘッド100の液吐出不良を検出する装置である。記録ヘッド100は、複数のノズル101を有し、各ノズル101からインク滴(液滴)を画像信号に応じて吐き出して用紙等の記録媒体に記録を行なうものである。液吐出不良検出装置1は、インクジェット記録装置に備えられている。
【0016】
具体的には、液吐出不良検出装置1は、レーザダイオード等の発光素子102を備えている。液吐出不良検出装置1は、複数のノズル101の中で不良判定を行うノズル101より液滴107を吐出させ、その液滴107の飛行経路にレーザダイオード等の発光素子102から平行光に補正するコリメートレンズ103を介して光ビーム104(レーザ光)を照射する。すなわち、液滴107の飛行経路の途上では、光ビーム104の光ビーム光軸105が略直交するように交わっている。別の言い方をすると、液吐出不良検出装置1は、ノズル101の中で特定の1つのノズル101より、光ビーム104のビーム径内に液滴107を吐出する。この時、光ビーム104と飛行する液滴107とが衝突して散乱光108、前方散乱光109が生じる。
【0017】
液吐出不良検出装置1は、受光部106を備えている。受光部106は、光ビーム光軸105のビーム径から外れた位置(オフセットした位置)で、光ビーム104が液滴107に衝突して角度θで生じる前方散乱光109を受光する。
【0018】
図2は、本実施形態にかかる受光部106、制御部110の構成例を示す図である。図2に示すように、液吐出不良を検出する際には、n1〜nNの複数のノズル101の中で、液吐出不良の検出を行うノズル101(nX)から所定の間隔で液滴107(d1〜dK)を吐出させる。吐出された液滴107は、ノズル101から距離H飛行したところで光ビーム104と交わる。この光ビーム104と液滴107との交わりにより、上述した散乱光108、前方散乱光109が生じる。生じた前方散乱光109は、光ビーム104の下に配置した受光部106により受光される。なお、距離Hは、記録ヘッド100のノズル101が設けられた底面から光ビーム光軸105までの高さであり、具体的には3mm〜7mm程度である。
【0019】
受光部106は、受光素子1061、電流電圧変換部1062、ハイパスフィルタ部1063、増幅部1064、A/D変換部1065を有する構成である。受光素子1061は、受光した光強度に応じた電流を出力するフォトダイオードなどである。電流電圧変換部1062は、入力された電流を電圧に変換する回路などであり、受光素子1061が出力する電流を電圧に変換して出力する。ハイパスフィルタ部1063は、電流電圧変換部1062より出力される電圧のDC成分(ノイズ成分)を除去・低減する。増幅部1064は、ハイパスフィルタ部1063より出力された電圧を増幅する。A/D変換部1065は、増幅部1064により増幅された電圧(アナログ)をディジタル変換して、液吐出不良検出装置1に設けられた制御部110へ出力する。
【0020】
これにより、制御部110は、前方散乱光109の光強度の変化に応じた電圧値(波形データ、受光信号出力)を取得する。図では受光部106は、光ビーム104の下に配置しており、光ビーム径と受光部106の受光面が重ならない位置で、できるだけ光ビーム光軸105の中心近くに受光素子1061を配設することにより、効率の良い検出が可能となる。また、受光部106は、この散乱光108、特に散乱光108の中で光強度が強い前方散乱光109を受光することにより、その光強度を電圧値として計測することができ、光ビーム104のビーム径内に1滴の液滴107が入れば十分にS/N比を持った電圧値を得ることができるため、1滴ごとの液滴107の挙動を電圧値の波形として捉えることができる。また、インク色による電圧値の出力差も生じないことから、インク色ごとに吐出条件等を変更する必要もない。
【0021】
制御部110は、複数の液滴107を吐出させて液滴107ごとの波形データを記憶手段としての記憶部1111に記憶する。制御部110は、記憶部1111に記憶した波形データを用いて液滴107が正常に吐出されたか否かを判定するノズル良否判定処理を行う。本実施形態では、一例として、制御部110は、記憶部1111に記憶した波形データが規定の波形データと略一致していれば液滴107が正常に吐出された(良)と判定する。一方、制御部110は、記憶部1111に記憶した波形データが規定波形データから規定量以上ずれている場合には液滴107が正常に吐出されていない(不良)と判定する。なお、この判定では、波形データの全体を判定に使用してもよいし、波形データの一部だけを使用してもよい。
【0022】
制御部110は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、タイマーなどを有するマイクロコンピュータシステムで構成され、ROMに格納されたプログラムをRAMに展開してCPUが順次実行することで、液吐出不良検出装置1の動作を中央制御する。ここで、本実施形態では、一例として記憶部1111は、上記のRAMの一部の領域によって構成されている。制御部110には、ノズル駆動部120および発光駆動部130が接続されている。ノズル駆動部120は、制御部110の制御を受けて記録ヘッド100を駆動する。発光駆動部130は、制御部110の制御を受けて発光素子102を駆動する。
【0023】
本実施形態では、制御部110は、ノズル良否判定処理を適正に行うために、ノズル良否判定処理に先だって、発光素子102の光ビーム104の出力(光ビーム104の強度)を調整する光ビーム出力調整処理を実行する。ここで、本実施形態では、この処理において使用される記録ヘッド100は、全てのノズル101が正常(良好)に液滴107を吐出できるものを想定している。この光ビーム出力調整処理において、制御部110は、CPUがプログラムを実行することで、図2に示すように、第1の取得部1112、第2の取得部1113、および調整部1114として機能する。
【0024】
第1の取得部1112は、第1の取得手段として機能し、ノズル101から吐出された液滴107の飛行経路に発光素子102から光ビーム104を照射し、当該光ビーム104と飛行する液滴107とが衝突して生じる散乱光を受光素子1061で受光し、その散乱光の光強度の変化に応じた波形データを取得する。この波形データは、記憶部1111に記憶される。この際、本実施形態では、一例として、第1の取得部1112は、複数のノズル101のうちの一つのノズル101(nX)に液滴107を吐出させる。一つのノズル101(nX)は、別の言い方をすると、特定のノズル101(nX)である。ここで、図3に波形データの一例を示す。
【0025】
第2の取得部1113は、第2の取得手段として機能し、第1の取得部1112が取得した波形データのピーク値(最大電圧値)を、取得する。第2の取得部1113は、波形データからピーク値を抽出(算出)することでピーク値を取得する。図3では、ピーク値がVpdで示されている。
【0026】
調整部1114は、調整手段として機能し、第2の取得部1113が取得した波形データのピーク値を用いて、発光素子102の光ビーム104の出力を調整する。これにより光ビーム104の強度が調整される。本実施形態では、一例として、調整部1114は、波形データのピーク値と基準値とを比較する。そして、調整部1114は、波形データのピーク値が基準値よりも大きい場合には発光素子102の光ビーム104の出力を減少させる。一方、調整部1114は、波形データのピーク値が基準値よりも小さい場合には発光素子102の光ビーム104の出力を増大させる。ここで、基準値は、一例として予め設定された、0よりも大きい電圧値である。また、調整部1114による発光素子102の光ビーム104の出力の調整量、つまりどの程度出力を増大させるか又は減少させるかは、波形データのピーク値に応じた調整量を予め設定したテーブルを用意することで求めることができる。
【0027】
次に、光ビーム出力調整処理の流れを図4を参照して説明する。図4は、本実施形態にかかる光ビーム出力調整処理の一例を示すフローチャートである。
【0028】
まずは、第1の取得部1112が波形データを取得する(ステップS1)。次に、第2の取得部1113が波形データのピーク値を取得する(ステップS2)。
【0029】
次に、調整部1114が、ピーク値と基準値とを比較する(ステップS3)。波形データのピーク値と基準値とが異なり(ステップS3のNo)、波形データのピーク値が基準値よりも大きい場合には(ステップS4のYes)、調整部1114は、出力減少命令を発光駆動部130に向けて出力する(ステップS6)。出力減少命令が入力された発光駆動部130は、発光素子102の光ビーム104の出力を減少させる。一方、波形データのピーク値が基準値よりも小さい場合には(ステップS4のNo)、調整部1114は、出力増大命令を発光駆動部130に向けて出力する(ステップS5)。出力増大命令が入力された発光駆動部130は、発光素子102を制御して発光素子102の光ビーム104の出力を増大させる(ステップS5)。このように、調整部1114は、発光駆動部130を介して発光素子102の光ビーム104の出力を調整する。なお、調整部1114は、ピーク値と基準値とを比較し、波形データのピーク値と基準値とが同じであれば(ステップS3のYes)、処理を終了する。
【0030】
以上、説明したとおり、本実施形態では、調整部1114が、波形データのピーク値を用いて、発光素子102の光ビーム104の出力を調整する。したがって、発光素子102の光ビームの出力104を良好に調整することができる。よって、ノズル良否判定を行うのに適した波形データ(受光信号出力)を得ることができる。
【0031】
また、本実施形態では、ノズル101から吐出させた液滴107の散乱光出力を用いて発光素子102の光ビーム104の出力調整を行っているので、発光素子102の光ビーム104の出力調整を高精度に行うことができる。
【0032】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態を説明する。
【0033】
本実施形態は、光ビーム出力調整処理の一部が第1の実施形態に対して異なる。本実施形態の液吐出不良検出装置1は、第1の取得部1112が行う波形データの取得、第2の取得部1113が行うピーク値の取得、および調整部1114が行う発光素子102の光ビーム104の出力の調整を含む一連の処理を、複数回行う。
【0034】
以下に、本実施形態の光ビーム出力調整処理の流れを図5を参照して説明する。図5は、本実施形態にかかる光ビーム出力調整処理の一例を示すフローチャートである。
【0035】
本実施形態では、ステップS5で調整部1114が発光駆動部130に向けて出力する出力増大命令の内容と、ステップS6で調整部1114が発光駆動部130に向けて出力する出力減少命令の内容とが、第1の実施形態と異なる。出力増大命令は、予め設定された微少な一定量だけ発光素子102の光ビーム104の出力を増大させる命令である。また、出力減少命令は、予め設定された微少な一定量だけ発光素子102の光ビーム104の出力を減少させる命令である。つまり、本実施形態では、第1の実施形態で説明したテーブルは用いない。
【0036】
そして、本実施形態では、制御部110は、ステップS5またはステップS6を実行した後に、調整部1114による発光素子102の光ビーム104の出力の調整回数が規定回数に達したかを判定する(ステップS7)。調整部1114による発光素子102の光ビーム104の出力の調整回数は、ステップS5の実行回数とステップS6の実行回数との和である。制御部110は、ステップS5の実行回数とステップS6の実行回数とをそれぞれカウントしており、これをステップS7で用いる。また、規定回数は、複数回である。制御部110は、調整部1114による発光素子102の光ビーム104の出力の調整回数が規定回数に達していない場合には(ステップS7のNo)、ステップS1へ戻り、再びステップS1以降の処理を繰り返し行う。この際、ステップS3においてピーク値と基準値とが一致しない場合には、ステップS4以降の処理が再びなされる。つまり、第1の取得部1112が行う波形データの取得、第2の取得部1113が行うピーク値の取得、および調整部1114が行う発光素子102の光ビーム104の出力の調整を含む一連の処理が、複数回行われる。これにより、波形データのピーク値が基準値に近づくまたは一致するようになる。
【0037】
制御部110は、調整部1114による発光素子102の光ビーム104の出力の調整回数が規定回数に達した場合には(ステップS7のYes)、処理を終了する。
【0038】
以上説明したとおり、本実施形態では、第1の取得部1112が行う波形データの取得、第2の取得部1113が行うピーク値の取得、および調整部1114が行う発光素子102の光ビーム104の出力の調整を含む一連の処理を複数回行うことにより、波形データのピーク値を基準値に近づけるまたは一致させることができる。これにより、第1の実施形態で説明した、ピーク値に応じた発光素子102の光ビーム104の出力を規定したテーブルを用意する必要がない。また、このように、本実施形態では、一連の処理を連続的に複数回行うことで発光素子102の光ビーム104の出力調整を行っているので、発光素子102の光ビーム104の出力調整をより高精度に行うことができる。
【0039】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態を説明する。
【0040】
本実施形態は、光ビーム出力調整処理の一部が第1の実施形態に対して異なる。なお、本実施形態は、第1の実施形態に限らず他の実施形態に適応してもよい。
【0041】
本実施形態では、図4で示したステップS1において、第1の取得部1112が、ノズル駆動部120を介して記録ヘッド100を制御して、一つのノズル101に複数の液滴107を吐出させて、複数の液滴107毎に波形データを取得する。吐出させる液滴107の数は、一例として予め決められた数である。ここで、図6に複数の液滴107の波形データ示す。図6では、N個の液滴107の波形データの例が示されている。
【0042】
第2の取得部1113は、図4で示したステップS2において、複数の液滴107の波形データ毎にピーク値を取得する。ここで、図6では、各液滴107のピーク値が、Vpd1,Vpd2,Vpd3,・・・VpdNで示されている。
【0043】
調整部1114は、複数の液滴107の波形データのピーク値の平均値と基準値とを用いて発光素子102の光ビーム104の出力を調整する。ここで、図6では、複数の液滴107の波形データのピーク値の平均値が、Vpdaで示されている。そして、調整部1114は、複数の液滴107の波形データのピーク値の平均値と基準値とを比較する。つまり、本実施形態では、図4のステップS4において、ピーク値に代えて上記の平均値を用いる。そして、その平均値が基準値よりも大きい場合には、図4のステップS6と同じく、出力減少命令を出力して発光素子102の光ビーム104の出力を減少させる。一方、調整部1114は、上記の平均値が基準値よりも小さい場合には、出力増大命令を出力して、発光素子102の光ビーム104の出力を増大させる。
【0044】
ここで、ノズル101から吐出された液滴107は、1滴目は不安定な場合があり、また液滴107の大きさも吐出毎にばらつきがあることから、それらの要因により、発光素子102の光ビーム104の出力調整が正常に行えない事態が生じることが考えられる。そこで、本実施形態では、調整部1114が、複数の液滴107の波形データのピーク値の平均値と基準値とを用いて発光素子102の光ビーム104の出力を調整する。これにより、発光素子102の光ビーム104の出力調整をより適切に行うことができる。つまり、より高精度に発光素子102の光ビーム104の出力調整を行うことができる。
【0045】
(第4の実施形態)
次に、第4の実施形態を説明する。
【0046】
本実施形態は、光ビーム出力調整処理の一部が第1の実施形態に対して異なる。なお、本実施形態は、第1の実施形態に限らず他の実施形態に適応してもよい。ここで、上記第1ないし第3の実施形態では、記録ヘッド100が良品であることを前提としていたが、本実施形態では、あるノズル101(nX)が異常(不良)であっても、発光素子102の光ビーム104の出力を良好に調整できるようにしている。
【0047】
図7は、本実施形態にかかる光ビーム出力調整処理の一例を示すフローチャートである。まずは、第1の実施形態と同様に、第1の取得部1112が波形データを取得し(ステップS1)、第2の取得部1113が波形データのピーク値を取得する(ステップS2)。
【0048】
次に、第2の取得部1113が、取得したピーク値を用いて一つのノズル101の液吐出が異常であるかを判定する(ステップS11)。別の言い方をすると、第2の取得部1113は、簡易的な吐出異常検査を行う。具体的には、第2の取得部1113は、液滴107が吐出されている否かを検査する。ステップS1で取得されて記憶部1111に記憶された波形データのピーク値が規定の電圧値を超えている場合は、吐出は異常ではなく、正常であると判定する(ステップS11のNo)。ここで、規定の電圧値は、所望(目標)のピーク値よりも低い値であり、一例として0.5Vである。なお、規定の電圧値は、別例として0Vであってもよい。一方、ステップS1で取得されて記憶部1111に記憶された波形データのピーク値が規定の電圧値以下の場合には、吐出が異常であると判定する(ステップS11のYes)。なお、第3の実施形態のように液滴107を複数吐出させる場合ならば、複数のピークの標準偏差で簡易的な異常検査を行ってもよい。
【0049】
そして、第2の取得部1113が一つのノズル101の液吐出が異常であると判定した場合(ステップS11のYes)、第1の取得部1112が、他のノズル101の波形データを取得する(ステップS12)。他のノズル101は、既に波形データを取得したノズル101とは別のノズル101である。そして、ステップS2に戻って、第2の取得部1113が、上記他のノズル101の波形データのピーク値を取得し、当該取得したピーク値を用いて他のノズル101の液吐出が異常であるかを判定する(ステップS11)。
【0050】
一方、第2の取得部1113が、ノズル101の液吐出は正常であると判定した場合(ステップS11のNo)、調整部1114がステップS3以降の処理を行う。ステップS3以降では、直近に取得したピーク値が用いられる。つまり、本実施形態では、調整部1114は、液吐出が正常であると第2の取得部1113が判定したノズル101の波形データのピーク値を用いて、発光素子102の光ビーム104の出力を調整する。このように、本実施形態では、記憶部1111に記憶された波形データから、まずは簡易的な吐出異常検査を行い、もし検査結果が不合格であれば、再度他のノズル101から液滴107を吐出させ、波形データを再取得する。
【0051】
以上説明したとおり、本実施形態では、第1の取得部1112は、第2の取得部1113が一つのノズル101の液吐出が異常であると判定した場合、他のノズル101の波形データを取得し、第2の取得部1113は、他のノズル101の波形データのピーク値を取得する。そして、調整部1114は、液吐出が正常であると第2の取得部1113が判定したノズル101の波形データのピーク値を用いて、発光素子102の光ビーム104の出力を調整する。したがって、本実施形態によれば、あるノズル101(nX)が異常(不良)であっても、発光素子102の光ビーム104の出力を良好に調整できる。つまり良品な記録ヘッド100を用いなくても発光素子102の光ビーム104の出力を良好に調整できる。ここで、上記第1ないし第3の実施形態では、記録ヘッド100が良品であることを前提としていたために、良品での検査後に記録ヘッド100を検査用ヘッドにつけかえる必要があるため、その手間が生じてしまう。これに対して、本実施形態では、検査用ヘッドでも発光素子102の光ビーム104の出力を調整することができるので、手間がかからないという利点がある。
【0052】
(第5の実施形態)
本実施形態は、インクジェット記録装置に、上述した液吐出不良検出装置1を設けた例である。なお、液吐出不良検出装置としては、第1ないし第4の実施形態のいずれの実施形態のものであってもよい。
【0053】
図8は、本実施形態にかかる液吐出不良検出装置1を備えるインクジェット記録装置2の一例の構成を正面から示す概念図である。図9は、本実施形態にかかるインクジェット記録装置2の一部を斜め上から観察した斜視図である。
【0054】
図8に示すように、インクジェット記録装置2の筐体10の左右の側板11、12には、ガイドシャフト13とガイド板14とが平行に掛け渡して設けられている。ガイドシャフト13およびガイド板14は、キャリッジ15に摺動可能に貫通される。キャリッジ15には、不図示の無端ベルトが取り付けられる。無端ベルトは、筐体10内の左右に設けられる図示しない駆動プーリと従動プーリに掛けまわされる。そして、駆動プーリの回転と共に従動プーリが従動回転されて無端ベルトを走行させる。これにより、キャリッジ15が、図8の矢印で示されるよう左右に移動される。
【0055】
キャリッジ15には、イエロ、シアン、マゼンタ、ブラックの4色のインクジェットヘッド16y、16c、16m、16b(以下、ヘッド16で代表させて記述する)が、キャリッジ15の移動方向に並列配置されている。各ヘッド16は、下向きのノズル面に複数のノズルを直線状に並べたノズル列を有する。図示しないが、直線状のノズル列は、キャリッジ15の移動方向と直交する方向に設けられる。
【0056】
そして、キャリッジ15が図8のように右端のホームポジションに存在するときには、各ヘッド16は、筐体10内の底板17上に設置する単独回復装置18と対向する。単独回復装置18は、液吐出不良検出装置1で液吐出不良を検出したノズルからインクを吸い出し、インクジェット記録装置2自身で単独で液体吐出不良を回復する装置である。
【0057】
液吐出不良検出装置1は、筐体10内の底板17上に、単独回復装置18に隣接して配置される。
【0058】
液吐出不良検出装置1に隣接する位置には、板状のプラテン22を設置する。プラテン22の背面側には、記録媒体である用紙23をプラテン22上に供給する給紙台24が斜めに立てて設けられる。また、図示を省略するが、給紙台24上の用紙23をプラテン22上に送り出す給紙ローラが備えられる。さらに、プラテン22上の用紙23を図9の矢示方向に搬送して正面側に排出する搬送ローラ25が設けられる。
【0059】
筐体10内の底板17上には、さらに左端に駆動装置26が設置される。駆動装置26は、不図示の給紙ローラや搬送ローラ25などを駆動するとともに、上述した駆動プーリを駆動することにより無端ベルトを走行させてキャリッジ15を移動する。
【0060】
そして、記録時は、駆動装置26で駆動されることにより用紙23がプラテン22上に移動され、所定位置に位置決めされる。また、キャリッジ15が移動されて用紙23上を走査され、左方向に移動しながら4色のヘッド16y、16c、16m、16bを用いて順にそれぞれのノズルから液滴が吐出され、用紙23上に画像が記録される。画像記録後、キャリッジ15が右方向に戻されるとともに、用紙23が図9の矢印の方向に所定量搬送される。
【0061】
次いで、再びキャリッジ15が左方向に移動されながら往路で4色のヘッド16y、16c、16m、16bを用いて順にそれぞれのノズルから液滴が吐出され、用紙23上に画像が記録される。そして、同様に画像記録後、キャリッジ15が右方向に戻されるとともに、用紙23が図9の矢印の方向に所定量搬送される。以下同様の動作が繰り返され、1枚の用紙23上に画像が記録される。
【0062】
以上説明したとおり、本実施形態のインクジェット記録装置2は、液吐出不良検出装置1を備えるので、発光素子102の光ビーム104の出力を良好に調整することができる。
【符号の説明】
【0063】
1…液吐出不良検出装置、2…インクジェット記録装置、100…記録ヘッド、101…ノズル、102…発光素子、107…液滴、108…散乱光、1061…受光素子、1111…記憶部、1112…第1の取得部、1113…第2の取得部、1114…調整部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルから吐出された液滴の飛行経路に発光素子から光ビームを照射し、当該光ビームと飛行する前記液滴とが衝突して生じる散乱光を受光素子で受光し、前記散乱光の光強度の変化に応じた波形データを取得する第1の取得手段と、
前記波形データのピーク値を取得する第2の取得手段と、
前記ピーク値を用いて、前記発光素子の光ビームの出力を調整する調整手段と、
を備える液吐出不良検出装置。
【請求項2】
前記ノズルは、複数設けられ、
前記第1の取得手段は、前記複数のノズルのうちの一つのノズルに液滴を吐出させる請求項1に記載の液吐出不良検出装置。
【請求項3】
前記調整手段は、前記ピーク値と基準値とを比較し、前記ピーク値が前記基準値よりも大きい場合には前記発光素子の光ビームの出力を減少させ、前記ピーク値が前記基準値よりも小さい場合には前記発光素子の光ビームの出力を増大させる請求項1または2に記載の液吐出不良検出装置。
【請求項4】
前記第1の取得手段は、前記一つのノズルに複数の液滴を吐出させて、前記複数の液滴毎に前記波形データを取得し、
前記第2の取得手段は、前記複数の液滴の前記波形データ毎に前記ピーク値を取得し、
前記調整手段は、前記複数の液滴の前記波形データのピーク値の平均値と基準値とを用いて前記発光素子の前記光ビームの出力を調整する請求項1または2に記載の液吐出不良検出装置。
【請求項5】
前記調整手段は、前記平均値と基準値とを比較し、前記平均値が前記基準値よりも大きい場合には前記発光素子の光ビームの出力を減少させ、前記平均値が前記基準値よりも小さい場合には前記発光素子の光ビームの出力を増大させる請求項4に記載の液吐出不良検出装置。
【請求項6】
前記第1の取得手段が行う前記波形データの取得、前記第2の取得手段が行う前記ピーク値の取得、および前記調整手段が行う前記発光素子の光ビームの出力の調整を含む一連の処理を複数回行う請求項1ないし5のいずれか一項に記載の液吐出不良検出装置。
【請求項7】
前記第2の取得手段は、前記ピーク値を用いて前記一つのノズルの液吐出が異常であるかを判定し、
前記第1の取得手段は、前記第2の取得手段が前記一つのノズルの液吐出が異常であると判定した場合、他の前記ノズルの前記波形データを取得し、
前記調整手段は、液吐出が正常であると前記第2の取得手段が判定した前記ノズルの波形データのピーク値を用いて、前記発光素子の光ビームの出力を調整する請求項2に記載の液吐出不良検出装置。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか一項に記載の液吐出不良検出装置を備えるインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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