説明

液圧制御弁

【課題】 ボール式の液圧制御弁において、ボールの横振動、騒音を防止する。
【解決手段】 ボール2を支持するボールサポート30と、シート40とボールサポート30の間に画成される二次圧力室8と、ボールサポート30の下流側に画成される下流側圧力室9とを備えるボール式の液圧制御弁1において、ボールサポート30はその収容部22の内周面に摺接する複数の突起37と、各突起37の間にボールサポート30の軸方向に延びる溝36とを有し、各溝36と収容部22の内周面の間に二次圧力室8と下流側圧力室9を連通するサポートオリフィス11を形成し、各突起37及び各溝36がボールサポート30の周方向について略均等な間隔を持って軸方向に延び、かつ各突起37が収容部22の内周面に対する接触面積を各溝36の開口部が収容部22の内周面に面する非接触面積より小さくなるように形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弁体としてボールを用いるボール式の液圧制御弁の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の液圧制御弁として、例えば図7に示す液圧制御弁1は、シート40に対峙して作動液の流れを制御する球状のボール2と、このボール2を支持するボールサポート30と、このボールサポート30を介してボール2をシート40に押し付けるバネ5とを備える。ボール2の前後差圧が所定値を超えて上昇すると、ボール2がバネ5を圧縮しながらシート40からリフトし、作動液が図中矢印で示すようにシート40を通って本体20内へと流れる。
【0003】
ボールサポート30にはシート40との間に二次圧力室8を画成する鍔部32が形成され、この鍔部32の外周面と本体20の間に環状流路10が設けられる。ボール2のリフト時、二次圧力室8から流出する作動液の流れに対してこの環状流路10が抵抗を付与することによって、二次圧力室8の圧力が高められ、液圧制御弁1の圧力と流量の関係を示すオーバライド特性を任意に設定することができる。
【0004】
また、特許文献1に開示された液圧制御弁は、ボールサポートの外周面を本体側の内周面に摺接させ、ボール及びボールサポートの横振動を防止するようになっている。
【特許文献1】特開2002−39412号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、図7に示す液圧制御弁1において、鍔部32の外周面と本体20の間隙が大きい場合、環状流路10を流れる作動液の流れが周方向について不均一になると、ボール2及びボールサポート30が横振動して騒音等を発生する可能性があった。
【0006】
そして、環状流路10が互いに略平行に対峙する鍔部32の外周面と本体20の内周面の間に画成されているため、この間隙を小さくすると、ここでの圧力低下特性が作動液の粘性変化の影響を受けやすい平行隙間流れの特性となり、作動液の温度変化に応じて液圧制御弁の性能が大きく変化するという問題点があった。
【0007】
また、特許文献1に開示された液圧制御弁は、ボールサポートの外周面を本体側の内周面に摺接させるため、摩擦によるヒステリシスが大きくなり、液圧制御弁の静的な特性が悪化するという問題点があった。
【0008】
この液圧制御弁において、ボールサポートと本体間の隙間を大きくしてボールサポートの摺動性を向上させようとすると、ボール及びボールサポートが横振動して騒音等を発生する可能性があった。
【0009】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、ボール式の液圧制御弁において、ボールの横振動、騒音を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、液体が流れる流路に介装されるシートと、このシートに対峙して液体の流れを制御する球状のボールと、このボールを支持するボールサポートと、このボールサポートをその軸方向に摺動可能に収容する収容部と、ボールサポートを介してボールをシートに押し付けるバネと、シートの上流側に画成される上流側圧力室と、シートとボールサポートの間に画成される二次圧力室と、ボールサポートの下流側に画成される下流側圧力室とを備えるボール式の液圧制御弁に適用する。
【0011】
そして、ボールサポートは収容部の内周面に摺接する複数の突起と、この各突起と収容部の内周面の間に二次圧力室と下流側圧力室を連通するサポートオリフィスを形成し、各突起がボールサポートの周方向について略均等な間隔を持って軸方向に延び、かつ各突起が収容部の内周面に対する接触面積を各サポートオリフィスの開口部が収容部の内周面に面する非接触面積より小さくなるように形成したことを特徴とするものとした。
【発明の効果】
【0012】
この液圧制御弁は、ボールの前後差圧が所定値を超えて上昇すると、ボールがバネを圧縮しながらシートからリフトし、作動液が上流側圧力室、二次圧力室、サポートオリフィス、下流側圧力室を通って流れる。
【0013】
このとき、ボールサポートは各突起が収容部の内周面に摺接することにより、シートと同軸上を移動するように案内され、ボール及びボールサポートが径方向に横振動することが抑えられ、騒音の発生を防止できる。
【0014】
各突起がボールサポートの周方向について略均等な間隔を持って軸方向に延び、収容部の内周面との間に二次圧力室と下流側圧力室を連通するサポートオリフィスを形成することにより、ボールサポートのまわりに作用する流体圧力を均一化し、ボールサポートに作用する摩擦力を小さく抑えられる。
【0015】
そして、各突起が収容部の内周面に対する接触面積を各サポートオリフィスの開口部が収容部の内周面に面する非接触面積より小さくなるように形成することにより、粘性摩擦を含めてボールサポートに作用する摩擦力を小さく抑えられる。
【0016】
このため、液圧制御弁は、ボールサポートに作用する摩擦力によって開弁圧力が変化するヒステリシスが大きくなることを抑えられ、液圧制御弁の静的な特性を高められる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0018】
図1に示すように、ボール式の液圧制御弁1は、液体が流れる流路に介装されるシート40と、このシート40に対峙して液体の流れを制御する弁体として球状のボール2と、このボール2を支持するボールサポート30と、このボールサポート30を介してボール2をシート40に押し付けるバネ5とを備える。
【0019】
ボール式液圧制御弁1は、筒状の本体20を備え、この本体20内にボール2とボールサポート30及びバネ5等が収められるとともに、シート40がスリーブ39を介して固定される。本体20はスリーブ39が嵌合される内周面21と、ボール2及びボールサポート30等を収容する空間を画成する収容部22と、この収容部22に開口する通孔23とを有する。
【0020】
シート40はこれを貫通するシート穴41と、このシート穴41の途中に形成されるシートオリフィス(絞り)42と、シート40が開口し円錐状に窪むシート面43とを有し、このシート面43の内周縁部にボール2が着座することにより、シート穴41を通る液体の流れを止める。
【0021】
バネ5は線状のバネ材を螺旋状に巻回して形成される。バネ5はボールサポート30、ボール2、シート40と同軸上に配置され、所定量だけ圧縮された状態で本体20の底面24とボールサポート30の間に介装される。
【0022】
ボールサポート30はボール2を着座させる円錐状に窪むボール座31と、バネ5の一端を着座させるバネ座33を有する。
【0023】
液圧制御弁1において液体が流れる流路は、シート40の上流側に画成される上流側圧力室7と、シート40とボールサポート30の間に画成される二次圧力室8と、ボールサポート30の下流側に画成される下流側圧力室9とに分けられる。この上流側圧力室7と下流側圧力室9におけるボール2の前後差圧が所定値を超えて上昇すると、ボール2がバネ5を圧縮しながらシート40からリフトし、液体が図3中矢印で示すようにシート40内の上流側圧力室7を通って本体20内の下流側圧力室9へと流れる。
【0024】
ボールサポート30は本体20の収容部22の内周面に摺接する複数の突起37と、各突起37の間にボールサポート30の軸方向に延びる溝36とを有する。
【0025】
そして本発明の要旨とするところであるが、各溝36と本体20の収容部22の内周面の間に二次圧力室8と下流側圧力室9を連通するサポートオリフィス11を形成し、各突起37及び各溝36がボールサポート30の周方向について略均等な間隔を持って軸方向に延び、かつ各突起37が本体20の収容部22の内周面に対する接触面積を各溝36(サポートオリフィス11)の開口部が本体20の収容部22の内周面に面する非接触面積より小さくなるように形成する。
【0026】
図2の(a),(b)に示すように、ボールサポート30は円盤状に拡がる鍔部34を有し、この鍔部34はボールサポート30のボール座31より外周に位置する部位であり、その外径がボール2の外径より大きく形成され、シート40との間に二次圧力室8を画成する。
【0027】
図2の(a)に示すように、各突起37は歯車状の断面を有し、鍔部34の外周部に一定のピッチで形成される。各突起37は円筒面状に湾曲する先端面35を有し、この先端面35が本体20の収容部22の内周面に摺接する。
【0028】
各突起37はサポートオリフィス11より上流側に突出する導入部38を有し、この導入部38の間に二次圧力室8とサポートオリフィス11を連通する間隙12を形成し、液体の流れが二次圧力室8から各間隙12を通ってサポートオリフィス11へと流入する構成とする。
【0029】
各間隙12は各溝36の底部がボール座31より上流側の部位で切り欠かれて形成される。これにより、各間隙12はボール2に対峙して開口し、ボール2に沿って径方向に拡がる液体の流れが各間隙12を通ってサポートオリフィス11へと流入する構成とする。
【0030】
ボール式の液圧制御弁1は以上のように構成されて、ボール2の前後差圧が所定値を超えて上昇すると、ボール2がバネ5を圧縮しながらシート40からリフトし、液体が図3に矢印で示すように上流側圧力室7、シートオリフィス42、二次圧力室8、サポートオリフィス11、下流側圧力室9、通孔23を通って本体20の外側へと流れる。
【0031】
このとき、ボールサポート30は各突起37の先端面35が本体20の収容部22の内周面に摺接することにより、シート40と同軸上を移動するように案内され、ボール2及びボールサポート30が径方向に横振動することが抑えられ、騒音の発生を防止できる。
【0032】
各突起37及び各溝36がボールサポート30の周方向について略均等な間隔を持って軸方向に延び、各溝36と本体20の収容部22の内周面の間に二次圧力室8と下流側圧力室9を連通するサポートオリフィス11を形成することにより、ボールサポート30のまわりに作用する流体圧力を均一化し、ボールサポート30に作用する摩擦力を小さく抑えられる。
【0033】
そして、各突起37が本体20の収容部22の内周面に対する接触面積を各溝36(サポートオリフィス11)の開口部が本体20の収容部22の内周面に面する非接触面積より小さくなるように形成することにより、粘性摩擦を含めてボールサポート30に作用する摩擦力を小さく抑えられる。
【0034】
このため、液圧制御弁1は、ボールサポート30に作用する摩擦力によって開弁圧力が変化するヒステリシスが大きくなることを抑えられ、液圧制御弁1の静的な特性を高められる。
【0035】
二次圧力室8から各間隙12を通って各サポートオリフィス11に流入する液体は、段階的に絞られるとともに、ボール2に沿って径方向に拡がる液体の流れが各間隙12を通って各サポートオリフィス11へと円滑に流れ、キャビテーションの発生を抑えられる。
【0036】
これに対して間隙12を有さない構造の場合、二次圧力室8から各サポートオリフィス11に流入する液体は急に絞られるとともに、流れ方向が急に変わるため、各サポートオリフィス11の開口部の近傍でキャビテーションが発生しやすくなる。
【0037】
二次圧力室8の前後にシートオリフィス42とサポートオリフィス11が設けられているため、これらの開口面積等を変えることで二次圧力室8の圧力を広い範囲で調整でき、液圧制御弁1のオーバライド特性の設定自由度をひろげられる。
【0038】
なお、液圧制御弁1は、サポートオリフィス11の下流側にオリフィスを設けてもよい。
【0039】
次に図4、図5の(a),(b)に示す他の実施形態を説明する。なお、前記実施形態と同一構成部には同一符号を付す。
【0040】
ボールサポート30は各突起37の途中に切り欠き37bを形成し、サポートオリフィス11を上流側サポートオリフィス11aと下流側サポートオリフィス11bに分断する。上流側サポートオリフィス11aと下流側サポートオリフィス11bの間には環状流路11cが形成される。
【0041】
この場合、二次圧力室8から下流側圧力室9へと向かう液体は、間隙12、上流側サポートオリフィス11a、環状流路11c、下流側サポートオリフィス11bを通って段階的に絞られるため、キャビテーションの発生を抑えられ、液圧制御弁1の温度特性を一定にすることができる。
【0042】
上流側サポートオリフィス11aの通路長に対する導入部38の寸法比を大きく設定することが可能となり、キャビテーションの発生を有効に抑えられる。
【0043】
各突起37の途中に切り欠き37bを形成しすることにより、ボールサポート30の本体の収容部22に対する摺接面積を減らし、ボールサポート30に働く摩擦力を低減できるとともに、寸法管理が容易になる。
【0044】
次に図6の(a),(b)に示す他の実施形態を説明する。なお、前記実施形態と同一構成部には同一符号を付す。
【0045】
ボールサポート30はその断面外形を略六角形とし、6つの角部を各突起37としている。サポートオリフィス11は本体の収容部22の内周面とボールサポート30の外周面の間に半月状に形成される。
【0046】
各突起37の途中に切り欠き37bを形成し、サポートオリフィスを上流側サポートオリフィスと下流側サポートオリフィスに分断する。
【0047】
この場合、ボールサポート30の本体の収容部22に対する摺接面積を減らし、ボールサポート30に働く摩擦力を低減できるとともに、ボールサポート30に溝を形成する必要がなく、ボールサポート30の加工が容易になる。
【0048】
なお、各突起37の先端部にサポートオリフィスより上流側に突出する導入部を形成しても良い。
【0049】
本発明は上記の実施の形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、弁体としてボールを用いるボール式の液圧制御弁に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施の形態を示す液圧制御弁の断面図。
【図2】同じく(a)はボールサポートの正面図、(b)はボールサポートの断面図。
【図3】同じく液圧制御弁の模式図。
【図4】本発明の他の実施の形態を示す液圧制御弁の断面図。
【図5】同じく(a)はボールサポートの正面図、(b)はボールサポートの断面図。
【図6】本発明の他の実施の形態を示し、(a)はボールサポートの正面図、(b)はボールサポートの断面図。
【図7】従来例を示す液圧制御弁の模式図。
【符号の説明】
【0052】
1 液圧制御弁
2 ボール
4 本体
5 バネ
7 上流側圧力室
8 二次圧力室
9 下流側圧力室
11 サポートオリフィス
11a 上流側サポートオリフィス
11b 下流側サポートオリフィス
12 間隙
22 収容部
30 ボールサポート
35 先端面
36 溝
37 突起
37b 切り欠き
38 導入部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体が流れる流路に介装されるシートと、
このシートに対峙して液体の流れを制御する球状のボールと、
このボールを支持するボールサポートと、
このボールサポートをその軸方向に摺動可能に収容する収容部と、
前記ボールサポートを介してボールをシートに押し付けるバネと、
前記シートの上流側に画成される上流側圧力室と、
前記シートと前記ボールサポートの間に画成される二次圧力室と、
前記ボールサポートの下流側に画成される下流側圧力室とを備えるボール式の液圧制御弁において、
前記ボールサポートは前記収容部の内周面に摺接する複数の突起と、
この各突起と前記収容部の内周面の間に前記二次圧力室と前記下流側圧力室を連通するサポートオリフィスを形成し、
前記各突起が前記ボールサポートの周方向について略均等な間隔を持って軸方向に延び、かつ前記各突起が前記収容部の内周面に対する接触面積を前記各サポートオリフィスの開口部が前記収容部の内周面に面する非接触面積より小さくなるように形成したことを特徴とする液圧制御弁。
【請求項2】
前記各突起は前記各サポートオリフィスより上流側に突出する導入部を有し、
この導入部の間に前記二次圧力室と前記各サポートオリフィスを連通する間隙を形成し、
液体の流れが前記二次圧力室からこの各間隙を通って前記各サポートオリフィスへと流入する構成としたことを特徴とする請求項1記載の液圧制御弁。
【請求項3】
前記各間隙は前記ボールに対峙して開口し、
前記ボールに沿って径方向に拡がる液体の流れが前記各間隙を通って前記各サポートオリフィスへと流入する構成としたことを特徴とする請求項2記載の液圧制御弁。
【請求項4】
前記各突起の途中に切り欠きを形成し、
前記サポートオリフィスをこの切り欠きによって上流側サポートオリフィスと下流側サポートオリフィスに分断したことを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の液圧制御弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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