説明

液晶フィルムの製造方法および光学素子用積層フィルム

【課題】厳しい環境試験においても、液晶配向層にクラックや積層フィルムに層間剥離などの外観異常を発生させない超薄型の液晶フィルムを提供する。
【解決手段】 配向基板上に形成された液晶配向が固定化された液晶物質層を、多官能(メタ)アクリレートを25〜60質量部含有する接着剤1を介して仮基板1と貼合し接着剤1を硬化せしめた後、配向基板を剥離して液晶物質層を仮基板1に転写した後、露出した液晶物質層を、粘着剤を介してセパレーターと接着せしめることにより、仮基板1/接着剤層1/液晶物質層/粘着剤層/セパレーターからなる積層体(A)を得る第1工程、前記積層体(A)の接着剤層1/液晶物質層間で剥離することにより、液晶物質層/粘着剤層/セパレーターで構成される液晶フィルムを得る第2工程、の各工程を少なくとも経て得られることを特徴とする液晶フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種光学素子に有用な液晶フィルムの製造方法および該方法で得られる液晶フィルムを積層した光学素子用積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置に用いられる光学フィルムに対しては、優れた光学的性能に加えて、より高耐久性が要求されている。とりわけ、携帯電話などの携帯機器用や車載用の液晶表示装置に対しては、各種の使用条件を想定した厳しい環境試験に合格することが求められている。
液晶化合物の配向層からなる薄膜(フィルム)、とりわけネマチック構造、ねじれネマチック構造、あるいはネマチックハイブリッド構造を固定化した液晶物質からなるフィルムは、液晶表示素子用の波長板、色補償や視野角補償用の素子として、また旋光性光学素子等として優れた性能を有し、各種表示素子の高性能化、軽量化に寄与している。これらのフィルムの製造法としては、配向性基板上に形成された液晶物質からなる層を、支持基板を兼ねる透光性基板上に転写する方法が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照。)。
【0003】
さらに、液晶表示用素子に求められる過酷な耐久性試験に耐えるための対策として、またより一層の薄型化、軽量化のために、支持基板フィルムを用いない液晶物質からなる光学素子の製造方法も提案されている(例えば、特許文献4〜6参照)。かかる製造法によれば、配向性基板上に配向形成された液晶物質よりなる層を、接着剤を介して一旦仮基板に転写させた後に、該仮基板を剥離することにより、支持基板フィルムのない液晶物質層からなる光学素子の製造が可能になった。
【0004】
通常、これらのフィルムは偏光板、あるいはさらに位相差フィルムと貼り合わせて使用される。液晶化合物の配向層から製造される光学フィルムは、例えば高温環境試験や高温高湿環境試験に加えて両者の環境を長時間ごとに繰り返すサイクル試験において、偏光板や位相差フィルムの熱変形に追随できずに液晶配向層に割れ(クラック)や変形などの外観異常が発生しやすいという問題があった。この解決策として、ガラス転移温度範囲を規定した硬化アクリル樹脂層からなる保護層を2層用いる方法が提案されている(特許文献7参照)。
しかしながら、硬化アクリル樹脂層からなる保護層を2層用いた上記形態の場合、高温曝露と低温曝露とを交互に繰り返すヒートショック試験において硬化アクリル樹脂層が原因となるクラックの発生や、配向を固定化した液晶物質層/硬化アクリル系樹脂層間の密着力不足が原因で、当該界面で剥れ易いなどの問題を抱えていた。
【0005】
【特許文献1】特開平4−57017号公報
【特許文献2】特開平4−177216号公報
【特許文献3】特開平6−242434号公報
【特許文献4】特開平8−278491号公報
【特許文献5】特開2004−117522号公報
【特許文献6】特開2004−138697号公報
【特許文献7】特開2006−284735号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ヒートショック試験のような厳しい環境試験においても、液晶配向層にクラックや積層フィルムに層間剥離などの外観異常等の発生しない光学素子用積層フィルムと該フィルムを構成する液晶フィルムの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、特定の製造方法により得られる液晶フィルムを用いることにより前記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、上記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
【0008】
[1]配向基板上に形成された液晶配向が固定化された液晶物質層を、分子量800以下の多官能(メタ)アクリレートを25〜60質量部含有する接着剤1を介して仮基板1と貼合し接着剤1を硬化せしめた後、配向基板を剥離して液晶物質層を仮基板1に転写した後、露出した液晶物質層を、粘着剤を介してセパレーターと接着せしめることにより、仮基板1/接着剤層1/液晶物質層/粘着剤層/セパレーターからなる積層体(A)を得る第1工程、前記積層体(A)の接着剤層1/液晶物質層間で剥離することにより、液晶物質層/粘着剤層/セパレーターで構成される液晶フィルムを得る第2工程、の各工程を少なくとも経て製造されることを特徴とする液晶フィルムの製造方法。
【0009】
[2]配向基板上に形成された液晶配向が固定化された液晶物質層を、分子量800以下の多官能(メタ)アクリレートを25〜60質量部含有する接着剤1を介して仮基板1と貼合し接着剤1を硬化せしめた後、配向基板を剥離して液晶物質層を仮基板1に転写した後、露出した液晶物質層を、分子量800以下の多官能(メタ)アクリレートを25〜60質量部含有する接着剤2を介して仮基板2と接着せしめることにより、仮基板1/接着剤層1/液晶物質層/接着剤層2/仮基板2からなる積層体(B)を得る第1工程、
前記積層体(B)から接着剤層1/液晶物質層間で剥離させ、液晶物質層に粘着剤を介してセパレーターと粘着せしめ、ついで液晶物質層/接着剤層2間で剥離させることによりセパレーター/粘着剤層/液晶物質層で構成される液晶フィルムを得る第2工程、の各工程を少なくとも経て製造されることを特徴とする液晶フィルムの製造方法。
【0010】
[3]配向を固定化した液晶物質層が、液晶転移点以上の温度で液晶配向し、液晶転移点以下の温度でガラス状態となる高分子液晶物質からなることを特徴とする前記[1]または[2]に記載の液晶フィルムの製造方法。
【0011】
[4]配向を固定化した液晶物質層が、低分子または高分子液晶が配向した液晶物質層を光架橋または熱架橋したものであることを特徴とする前記[1]または[2]に記載の液晶フィルムの製造方法。
【0012】
[5]仮基板1または仮基板2が光学的に等方性であることを特徴とする前記[1]〜[4]に記載の液晶フィルムの製造方法。
【0013】
[6]前記[1]〜[5]のいずれかの製造方法で得られる液晶フィルムの液晶物質層に粘着剤あるいは接着剤を介して偏光フィルムおよび/または位相差フィルムと積層したのち、セパレーターを剥離することにより得られる、またはセパレーターを剥離した面にさらに位相差フィルムを積層することにより得られる光学素子用積層フィルム。
【0014】
なお、上記の層構成の記載において、「/」は各層の界面を表すものであり、以下同様に表記する。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、厳しい環境試験においても、液晶配向層にクラックや積層フィルムに層間剥離などの外観異常を発生させない超薄型の液晶フィルムを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で用いられる液晶の配向が固定化された液晶物質層は、配向状態にある液晶物質を固定化する手段を用いることにより固定化された層である。液晶の配向を固定化する手段としては、高分子液晶物質の場合は配向状態から急冷してガラス化状態にして固定する方法、反応性官能基を有する低分子液晶物質または高分子液晶物質を配向させた後、前記官能基を反応せしめ(硬化・架橋等)固定化する方法などが挙げられる。
前記反応性官能基としては、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、ビニルオキシ基、オキシラニル基、オキセタニル基、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、イソシアナート基、酸無水物基等が挙げられ、それぞれの基に適した方法で反応が行われる。
【0017】
液晶物質層に使用することのできる液晶物質は、液晶フィルムが目的とする用途や製造方法により、低分子液晶物質、高分子液晶物質を問わず広い範囲から選定することができるが、高分子液晶物質が好ましい。さらに液晶物質の分子形状は、棒状であるか円盤状であるかを問わない。例えば、ディスコティックネマチック液晶性を示すディスコティック液晶化合物も使用することができる。
【0018】
固定化前の液晶物質層の液晶相としては、ネマチック相、ねじれネマチック相、コレステリック相、スメクチック相、ディスコティックネマチック相等が挙げられる。また、配向状態としては、配向基板に水平に配向するホモジニアス配向や垂直に配向するホメオトロピック配向、両者の中間状態と考えられるチルト配向やハイブリッド配向が例示される。
【0019】
低分子液晶物質としては、飽和ベンゼンカルボン酸類、不飽和ベンゼンカルボン酸類、ビフェニルカルボン酸類、芳香族オキシカルボン酸類、シッフ塩基型類、ビスアゾメチン化合物類、アゾ化合物類、アゾキシ化合物類、シクロヘキサンエステル化合物類、ステロール化合物類などの末端に前記反応性官能基を導入した液晶性を示す化合物や前記化合物類のなかで液晶性を示す化合物に架橋性化合物を添加した組成物などが挙げられる。
また、ディスコティック液晶化合物としては、トリフェニレン系、トルクセン系等が挙げられる。
【0020】
高分子液晶物質としては、各種の主鎖型高分子液晶物質、側鎖型高分子液晶物質、またはこれらの混合物(組成物)を用いることができる。
主鎖型高分子液晶物質としては、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリカーボネート系、ポリイミド系、ポリウレタン系、ポリベンズイミダゾール系、ポリベンズオキサゾール系、ポリベンズチアゾール系、ポリアゾメチン系、ポリエステルアミド系、ポリエステルカーボネート系、ポリエステルイミド系等の高分子液晶物質、またはこれらの混合物等が挙げられる。なかでも合成の容易さ、配向性、ガラス転移点などの面から液晶性ポリエステルが好ましく、前記の反応性官能基を結合していてもよい。
【0021】
主鎖型液晶性ポリエステルは、芳香族ジオール単位(以下、構造単位(A)という。)、芳香族ジカルボン酸単位(以下、構造単位(B)という。)および芳香族ヒドロキシカルボン酸単位(以下、構造単位(C)という。)のうち少なくとも2種を必須単位として含む主鎖型液晶性ポリエステルである。
以下に、構造単位(A)、(B)および(C)に付いて順次説明する。
【0022】
構造単位(A)を導入するための化合物としては下記一般式(a)で表される化合物が好ましく、具体的には、カテコール、レゾルシン、ヒドロキノン等若しくはそれらの置換体、4,4’―ビフェノール、2,2’,6,6’−テトラメチル−4,4’−ビフェノール、2,6−ナフタレンジオールなどが挙げられ、特に、カテコール、レゾルシン、ヒドロキノン等若しくはそれらの置換体が好ましい。
【0023】
【化1】

【0024】
ただし、式中の−Xは、−H、−CH、−C、−CHCHCH、−CH(CH、−CHCHCHCH、−CHCH(CH)CH、−CH(CH)CHCH、−C(CH、−OCH、−OC、−OC、−OCH、−F、−Cl、−Br、−NO、または−CNのいずれかの基であり、特に下記式(a’)で表される化合物が好ましい。
【0025】
【化2】

【0026】
構造単位(B)を導入するための化合物としては下記一般式(b)で表される化合物が好ましく、具体的には、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸等若しくはそれらの置換体、4,4'−スチルベンジカルボン酸若しくはその置換体、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4'−ビフェニルジカルボン酸などが挙げられ、特に、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸等若しくはそれらの置換体が好ましい。
【0027】
【化3】

【0028】
ただし、式中の−Xは、−H、−CH、−C、−CHCHCH、−CH(CH、−CHCHCHCH、−CHCH(CH)CH、−CH(CH)CHCH、−C(CH、−OCH、−OC、−OC、−OCH、−F、−Cl、−Br、−NO、または−CNのいずれかの基を表す。
【0029】
構造単位(C)を導入するための化合物としては下記一般式(c)で表される化合物が好ましく、具体的には、ヒドロキシ安息香酸若しくはその置換体、4'−ヒドロキシ−4−ビフェニルカルボン酸若しくはその置換体、4'−ヒドロキシ−4−スチルベンカルボン酸若しくはその置換体、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、4−ヒドロキシ桂皮酸などが挙げられ、特に、ヒドロキシ安息香酸およびその置換体、4'−ヒドロキシ−4−ビフェニルカルボン酸若しくはその置換体、4'−ヒドロキシ−4−スチルベンカルボン酸若しくはその置換体が好ましい。
【0030】
【化4】

【0031】
ただし、式中の−X、−X1、−X2は、それぞれ個別に、−H、−CH、−C、−CHCHCH、−CH(CH、−CHCHCHCH、−CHCH(CH)CH、−CH(CH)CHCH、−C(CH、−OCH、−OC、−OC、−OCH、−F、−Cl、−Br、−NO、または−CNのいずれかの基を表す。
【0032】
主鎖型液晶性ポリエステルは、構造単位として、(A)芳香族ジオール単位、(B)芳香族ジカルボン酸単位、および(C)芳香族ヒドロキシカルボン酸単位のうちから少なくとも2種を含み、サーモトロピック液晶性を示すものであればよく、他の構造単位はこれら条件を満足する限り特に限定されるものではない。
【0033】
主鎖型液晶性ポリエステルを構成する構造単位(A)、(B)および(C)の全構造単位に占める割合は、構造単位(A)、(B)および(C)がジオールあるいはジカルボン酸あるいはヒドロキシカルボン酸として全モノマーの仕込み量に対して占める重量和の比率で表した場合、通常20〜99%、好ましくは30〜95%、特に好ましくは40〜90%の範囲である。20%より少ない場合には、液晶性を発現する温度領域が極端に狭くなるおそれがあり、また99%を越える場合には、液晶相発現温度が高くなりすぎる恐れがある。
【0034】
主鎖型液晶性ポリエステルは、前記の(A)、(B)および(C)以外の構造単位を含有することができる。含有することができる他の構造単位としては、特に限定はなく当該分野で公知の化合物(モノマー:(D))を使用することができる。例えば、ナフタレンカルボン酸、ビフェニルカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸およびこれら化合物にハロゲン基、アルキル基やアルコキシ基を導入した化合物や、ビフェノール、ナフタレンジオール、脂肪族ジオールおよびこれら化合物にハロゲン基、アルキル基やアルコキシ基を導入した化合物等を挙げることができる。
【0035】
また、主鎖型液晶性ポリエステルを構成する単位の原料として光学活性な化合物を用いた場合、該主鎖型液晶性ポリエステルにカイラルな相を付与せしめることが可能となる。かかる光学活性な化合物としては特に制限はないが、例えば、光学活性な脂肪族アルコール(C2n+1OH、ただしnは4から14の整数を表す。)、光学活性な脂肪族基を結合したアルコキシ安息香酸(C2n+1O−Ph−COOH、ただしnは4から14の整数、Phはフェニレン基を表す。)、メントール、カンファー酸、ナプロキセン誘導体、ビナフトール、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチルブタンジオール、2−クロロブタンジオール、酒石酸、メチルコハク酸、3−メチルアジピン酸などを挙げることができる。
【0036】
主鎖型液晶性ポリエステルの分子量は、フェノール/テトラクロロエタン混合溶媒(質量比60/40)中、30℃で測定した対数粘度ηが0.03〜0.50dl/gであることが好ましく、より好ましくは0.05〜0.15dl/gである。ηが0.03dl/gより小さい場合には、主鎖型液晶性ポリエステルの溶液粘度が低く、フィルム化する際に均一な塗膜が得られない恐れがある。また、0.50dl/gより大きい場合には、液晶配向時に要する配向処理温度が高くなり、配向性を低下させる危険性がある。
【0037】
本発明において、主鎖型液晶性ポリエステルの分子量制御は専ら仕込み組成により決定される。具体的には分子両末端を封印する形で反応する1官能性モノマー、すなわちヒドロキシル基またはカルボキシル基を1個有する構造単位(前記(D)等)を導入することで、全仕込み組成における相対的な含有量により、得られる主鎖型液晶性ポリエステルの平均的な重合度(構造単位(A)〜(D)の平均結合数)が決定される。したがって、所望の対数粘度を有する主鎖型液晶性ポリエステルを得るためには、仕込みモノマーの種類に応じて仕込み組成を調整する必要がある。
【0038】
主鎖型液晶性ポリエステルの合成方法としては、通常のポリエステルを合成する際に用いられる方法を採ることができ、特に限定されるものではない。例えば、カルボン酸単位を酸クロリドやスルホン酸無水物などに活性化し、それを塩基の存在下でフェノール単位と反応させる方法(酸クロリド法)、カルボン酸単位とフェノール単位をDCC(ジシクロヘキシルカルボジイミド)などの縮合剤を用いて直接縮合させる方法、フェノール単位をアセチル化して、これとカルボン酸単位とを溶融条件下で脱酢酸重合する方法などを用いることが出来る。また、重合反応により得られた粗主鎖型液晶性ポリエステルを、再結晶、再沈などの方法により精製してもよい。さらに上記の主鎖型液晶性ポリエステルは、末端に前述の反応性官能基を有していてもよい。
【0039】
前記の側鎖型高分子液晶物質としては、ポリアクリレート系、ポリメタクリレート系、ポリビニル系、ポリシロキサン系、ポリエーテル系、ポリマロネート系、ポリエステル系等の直鎖状または環状構造の骨格鎖を有する物質に側鎖としてメソゲン基が結合した高分子液晶物質、またはこれらの混合物が挙げられる。
これらの中でも下記一般式(1)で表される反応性基を結合したポリ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0040】
【化5】

【0041】
式(1)において、Rは、それぞれ独立に、水素またはメチル基を表し、Rは、それぞれ独立に、水素、メチル基、エチル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、デシルオキシ基、ドデシルオキシ基、シアノ基、ブロモ基、クロロ基、フルオロ基またはカルボキシル基を表し、Rは、それぞれ独立に、水素、メチル基またはエチル基を表し、Rは、炭素数1から24までの炭化水素基を表し、Lは、それぞれ独立に、単結合、−O−、−O−CO−、−CO−O−、−CH=CH−または−C≡C−を表し、pは、1から10までの整数を表し、qは、0から10までの整数を表し、a、b、c、d、eおよびfは、ポリマー中の各ユニットのモル比(a+b+c+d+e+f=1.0、ただし、c+d+e=0ではない)を表す。
【0042】
式(1)で表される側鎖型高分子液晶物質を構成する各成分のモル比は、a+b+c+d+e+f=1.0、c+d+e=0ではなく、かつ、液晶性を示すことが必要である。この要件を満たせば各成分のモル比は任意でよいが、以下のとおりであることが好ましい。
a:好ましくは0〜0.80、より好ましくは0.05〜0.50
b:好ましくは0〜0.90、より好ましくは0.10〜0.70
c:好ましくは0〜0.50、より好ましくは0.10〜0.30
d:好ましくは0〜0.50、より好ましくは0.10〜0.30
e:好ましくは0〜0.50、より好ましくは0.10〜0.30
f:好ましくは0〜0.30、より好ましくは0.01〜0.10
【0043】
これらのポリ(メタ)アクリレート中の各成分は、上記の条件を満たせば、6種類の成分すべてが存在する必要もない。
また、Rは、好ましくは、水素、メチル基、ブチル基、メトキシ基、シアノ基、ブロモ基、フルオロ基であり、特に好ましくは、水素、メトキシ基またはシアノ基であり、Lは、好ましくは、単結合、−O−、−O−CO−または−CO−O−であり、Rは、好ましくは、炭素数2、3、4、6、8、10および18の炭化水素基を表す。
さらに、一般式(1)で表される側鎖型高分子液晶物質は、各成分a〜fのモル比や配向形態により複屈折率が変化するが、ネマチック配向をとった場合の複屈折率は0.001〜0.300であることが好ましく、より好ましくは0.05〜0.25である。
【0044】
上記の側鎖型高分子液晶物質の各成分に該当するそれぞれの(メタ)アクリル化合物は、通常の有機化学の合成方法により得ることができる。
オキセタニル基を有する(メタ)アクリル化合物は、例えば、ウィリアムソンのエーテル合成や、縮合剤を用いたエステル合成などの手段でオキセタニル基を持つ部位と(メタ)アクリロイル基を持つ部位を結合させることで、オキセタニル基と(メタ)アクリロイル基と全く異なる2つの反応性基を持つオキセタニル基を有する(メタ)アクリレートを合成することができる。ただし反応にあたっては、オキセタニル基がカチオン重合性を有するため、強い酸性条件下では、重合や開環などの副反応を起こすことを考慮して、反応条件を選ぶ必要があるが、これらの反応条件は後述の一般式(2)で表される化合物の合成に詳述する範囲等から適宜選択すればよい。
上記の側鎖型高分子液晶物質は、各成分に該当する上記方法で得られたそれぞれの(メタ)アクリル化合物の(メタ)アクリル基をラジカル重合またはアニオン重合により共重合することにより容易に合成することができる。重合条件は特に限定されるものではなく、通常の条件を採用することができる。
【0045】
ラジカル重合の例としては、各成分に該当する(メタ)アクリル化合物をジメチルホルムアミド(DMF)、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどの溶媒に溶かし、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)や過酸化ベンゾイル(BPO)などを開始剤として、60〜120℃で数時間反応させる方法が挙げられる。また、液晶相を安定に出現させるために、臭化銅(I)/2,2’−ビピリジル系や2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシ・フリーラジカル(TEMPO)系などを開始剤としたリビングラジカル重合を行い、分子量分布を制御する方法も有効である。これらのラジカル重合は脱酸素条件下に行う必要がある。
【0046】
アニオン重合の例としては、各成分に該当する(メタ)アクリル化合物をテトラヒドロフラン(THF)などの溶媒に溶かし、有機リチウム化合物、有機ナトリウム化合物、グリニャール試薬などの強塩基を開始剤として反応させる方法が挙げられる。また、開始剤や反応温度を最適化することでリビングアニオン重合とし、分子量分布を制御することもできる。これらのアニオン重合は、脱水かつ脱酸素条件で行う必要がある。
【0047】
側鎖型高分子液晶物質は、重量平均分子量が1,000〜200,000であるものが好ましく、3,000〜50,000のものが特に好ましい。この範囲外では強度が不足したり、配向性が悪化したりして好ましくない。
【0048】
また、前述の円盤状の液晶分子、すなわちディスコチック液晶性分子は、様々な文献(C. Destrade et al., Mol. Crysr. Liq. Cryst., vol. 71, page 111 (1981) ;日本化学会編、季刊化学総説、No.22、液晶の化学、第5章、第10章第2節(1994);B. Kohne et al., Angew. Chem. Soc. Chem. Comm., page 1794 (1985);J. Zhang et al., J. Am. Chem. Soc., vol. 116, page 2655 (1994))等に記載されている。ディスコティック液晶性分子の重合については、特開平8−27284号公報等に記載がある。
【0049】
さらに、液晶物質中に熱または光架橋反応等によって反応しうる官能基または部位を有している各種化合物を液晶性の発現を妨げない範囲で配合しても良い。架橋反応しうる官能基としては、前述の各種の反応性官能基などが挙げられる。
例えば、前記式(1)で表されるポリ(メタ)アクリレートを用いた場合は下記一般式(2)で表されるジオキセタン化合物を含有させることが好ましい。
【0050】
【化6】

【0051】
式(2)において、Rは、それぞれ独立に、水素、メチル基またはエチル基を表し、Lは、それぞれ独立に、単結合または−(CH−(nは1〜12の整数)を表し、Xは、それぞれ独立に、単結合、−O−、−O−CO−または−CO−O−を表し、Mは、式(3)または式(4)で表されるいずれかであり、式(3)および式(4)中のPは、それぞれ独立に式(5)から選ばれる基を表し、Pは式(6)から選ばれる基を表し、Lは、それぞれ独立に単結合、−CH=CH−、−C≡C−、−O−、−O−CO−または−CO−O−を表す。
−P−L−P−L−P− (3)
−P−L−P− (4)
【0052】
【化7】

【化8】

【0053】
式(5)および式(6)において、Etはエチル基を、iPrはイソプロピル基を、nBuはノルマルブチル基を、tBuはターシャリーブチル基をそれぞれ表す。
より具体的には、M基から見て左右のオキセタニル基を結合している連結基は異なっても(非対称型)同一でも(対称型)よく、特に2つのLが異なる場合や他の連結基の構造によっては液晶性を示さないこともあるが、使用には制約とならない。
一般式(2)で表される化合物は、M、LおよびXの組み合わせから多くの化合物を例示することができるが、好ましくは、下記の化合物を挙げることができる。
【0054】
【化9】

【0055】
これらの化合物は有機化学における通常の合成方法に従って合成することができ、合成方法は特に限定されるものではない。
合成にあたっては、オキセタニル基がカチオン重合性を有するため、強い酸性条件下では、重合や開環などの副反応を起こすことを考慮して、反応条件を選ぶ必要がある。なお、オキセタニル基は類似のカチオン重合性官能基であるオキシラニル基などと比べて、副反応を起こす可能性が低い。さらに、類似したアルコール、フェノール、カルボン酸などの各種化合物をつぎつぎに反応させることもあり、適宜保護基の活用を考慮してもよい。
【0056】
より具体的な合成方法としては、例えば、ヒドロキシ安息香酸を出発化合物として、ウィリアムソンのエーテル合成法等によりオキセタニル基を結合させ、次いで得られた化合物と本発明に適したジオールとを、酸クロリド法やカルボジイミドによる縮合法等を用いて結合させる方法や、逆に予めヒドロキシ安息香酸の水酸基を適当な保護基で保護し、本発明に適したジオールと縮合後、保護基を脱離させ、適当なオキセタニル基を有する化合物(オキセタン化合物)、例えばハロアルキルオキセタン等と水酸基とを反応させる方法などが挙げられる。
【0057】
オキセタン化合物と水酸基との反応は、用いられる化合物の形態や反応性により適した反応条件を選定すればよいが、通常、反応温度は−20℃〜180℃、好ましくは10℃〜150℃が選ばれ、反応時間は10分〜48時間、好ましくは30分〜24時間である。これらの範囲外では反応が充分に進行しなかったり、副反応が生じたりして好ましくない。また、両者の混合割合は、水酸基1当量につき、オキセタン化合物0.8〜1.2当量が好ましい。
【0058】
反応は、無溶媒でも可能であるが、通常は適当な溶媒下で行われる。使用される溶媒は目的とする反応を妨害しなければ特に制限はなく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、ジブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、酢酸エチル、安息香酸エチル等のエステル類、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素類やこれらの混合物が挙げられる。
【0059】
本発明において用いられる液晶物質は前記の液晶性化合物単独であっても、種々の液晶性化合物の混合物や各種の活性化剤や添加剤を含む組成物であっても、全体が液晶性を示せばよい。これらの液晶性組成物は、前記の低分子液晶物質または高分子液晶物質を少なくとも10質量%以上、好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上含み、液晶性を示す組成物である。低分子液晶物質または高分子液晶物質の含有量が10質量%未満では組成物中に占める前記の液晶性を示す化合物の濃度が低くなり、組成物が液晶性を示さなくなる場合があり好ましくない。
【0060】
本発明における液晶性組成物では、前述のように低分子液晶物質または高分子液晶物質の他に、液晶性を損なわずに混和し得る種々の化合物を含有することができる。含有することができる化合物としては、ビニル基、(メタ)アクリロイル基等のラジカル重合性基やオキセタニル基、オキシラニル基、ビニルオキシ基などのカチオン重合性基を有する各種の重合性化合物、カルボキシル基、アミノ基、イソシアナート基などの反応性基を有する化合物、フィルム形成能を有する各種の高分子化合物などを配合することもできる。また、界面活性剤、消泡剤、レベリング剤などを、さらに反応性の官能基を有する化合物や低分子または高分子液晶物質を用いた場合は、それぞれの官能基に適した反応開始剤や活性化剤、増感剤等を本発明の目的を逸脱しない範囲内で添加してもよい。
反応性基を有する液晶性組成物は、所望の配向を実現させた後、当該反応性基を反応させるに適した条件下で反応を行わしめ、架橋や分子量増大等により、目的とする最終製品の機械強度等の向上に寄与させることもできる。
【0061】
前記の反応開始剤としては、一般のラジカル重合に使用される有機過酸化物類、アゾ化合物や各種の光重合開始剤などが例示される。
光重合開始剤には、適当な光により開裂してラジカルを発生する光ラジカル開始剤、適当な光により開裂してカチオンを発生する光カチオン発生剤を挙げることができる。また必要によっては適当な温度に加熱されることによりカチオンを発生できる熱カチオン発生剤なども使用することができる。
【0062】
光ラジカル開始剤としては、一般に公知の紫外線(UV)硬化型塗料、UV硬化型接着剤、ネガ型レジスト等に使用される市販のベンゾインエーテル類、アシルホスフィンオキシド類、トリアジン誘導体類、ビイミダゾール誘導体類等が挙げられる。
光カチオン発生剤としては、有機スルフォニウム塩系、ヨードニウム塩系、フォスフォニウム塩系などを例示することが出来る。これら化合物の対イオンとしては、アンチモネート、フォスフェート、ボレートなどが好ましく用いられる。具体的な化合物としては、ArSbF、ArBF、ArPF(ただし、Arはフェニル基または置換フェニル基を示す。)などが挙げられる。また、スルホン酸エステル類、トリアジン類、ジアゾメタン類、β−ケトスルホン、イミノスルホナート、ベンゾインスルホナートなども用いることができる。
また、熱カチオン発生剤としては、例えば、ベンジルスルホニウム塩類、ベンジルアンモニウム塩類、ベンジルピリジニウム塩類、ベンジルホスホニウム塩類、ヒドラジニウム塩類、カルボン酸エステル類、スルホン酸エステル類、アミンイミド類、五塩化アンチモン−塩化アセチル錯体、ジアリールヨードニウム塩−ジベンジルオキシ銅、ハロゲン化ホウ素−三級アミン付加物などを挙げることができる。
【0063】
これらの反応開始剤の液晶性組成物中への添加量は、用いる液晶化合物を構成するメソゲン部分やスペーサ部分の構造、分子量、液晶の配向条件などにより異なるため一概には言えないが、液晶化合物に対し、通常100質量ppm〜20質量%、好ましくは1000質量ppm〜10質量%、より好ましくは0.5質量%〜7質量%の範囲である。100質量ppmよりも少ない場合には、反応開始剤から発生する活性種の量が十分でなく反応が進行しないおそれがあり、また20質量%よりも多い場合には、液晶性組成物中に残存する反応開始剤の分解残存物等が多くなり着色したり、耐光性などが悪化するおそれがあるため好ましくない。
【0064】
以下に、液晶物質層の形成方法について説明するが、液晶物質層の形成方法としてはこれらに限定されるものではない。
まず、本発明の液晶性組成物を配向基板上に展開する。
配向基板としては、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、トリアセチルセルロース、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等のフィルムが例示できる。
【0065】
これらのフィルムは製造方法によっては改めて配向能を発現させるための処理を行わなくとも本発明に使用される液晶物質に対して十分な配向能を示すものもあるが、配向能が不十分、または配向能を示さない等の場合には、これらのフィルムを適度な加熱下に延伸する、フィルム面をレーヨン布等で一方向に擦るいわゆるラビング処理を行う、フィルム上にポリイミド、ポリビニルアルコール、シランカップリング剤等の公知の配向剤からなる配向膜を設けてラビング処理を行う、酸化珪素等の斜方蒸着処理、あるいはこれらを適宜組み合わせるなどして配向能を発現させたフィルムを用いても良い。
また配向基板として、表面に規則的な微細溝を多数設けたアルミニウム、鉄、銅などの金属板や各種ガラス板等も使用することができる。
【0066】
ここで、配向基板に施される配向処理の方向(向き)は特に限定されず、上記の各処理を任意の方向に行うことにより適宜選択できる。とりわけ、長尺の配向基板上に液晶物質層を形成する場合には、その長尺フィルムの長さ方向(MD)に対して所望の角度を選択し、配向処理を施すことが望ましい。所望の角度方向に配向処理することにより、液晶フィルムを最適な光学特性が発揮できるような軸配置で偏光板や位相差フィルムに積層する際に、長尺フィルムのMDを揃えた状態での貼合(いわゆるロールtoロール貼合)が可能になる、あるいは製品の取り効率が高まるなどの点から極めてメリットがある。
【0067】
液晶性組成物を配向基板上に展開して液晶物質層を形成する方法としては、液晶性組成物を溶融状態で直接配向基板上に塗布する方法や、液晶性組成物の溶液を配向基板上に塗布後、塗膜を乾燥して溶媒を留去させる方法が挙げられる。
溶液の調製に用いる溶媒に関しては、液晶性組成物に使用される各種化合物を溶解でき適当な条件で留去できる溶媒であれば特に制限はなく、一般的にアセトン、メチルエチルケトン、イソホロン、シクロヘキサノンなどのケトン類、ブトキシエチルアルコール、ヘキシルオキシエチルアルコール、メトキシ−2−プロパノール、ベンジルオキシエチルアルコールなどのエーテルアルコール類、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのグリコールエーテル類、酢酸エチル、乳酸エチル、γ−ブチロラクトンなどのエステル類、フェノール、クロロフェノールなどのフェノール類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド類、クロロホルム、テトラクロロエタン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン系などやこれらの混合系が好ましく用いられる。また、配向基板上に均一な塗膜を形成するために、界面活性剤、消泡剤、レベリング剤などを溶液に添加してもよい。
【0068】
液晶性組成物を直接塗布する方法でも、溶液を塗布する方法でも、塗布方法については、塗膜の均一性が確保される方法であれば、特に限定されることはなく公知の方法を採用することができる。例えば、フレキソ印刷方式、オフセット印刷方式、ディスペンサー方式、グラビアコート方式、マイクログラビア方式、バーコート方式、スクリーン印刷方式、リップコート方式、ダイコート方式など挙げることができる。これらの中でグラビアコート方式、キスコート方式やリップコート方式とダイコート方式が好ましい。
【0069】
液晶性組成物の溶液を塗布する方法では、塗布後に溶媒を除去するための乾燥工程を入れることが好ましい。この乾燥工程は、塗膜の均一性が維持される方法であれば、特に限定されることなく公知の方法を採用することができる。例えば、ヒーター(炉)、温風吹きつけなどの方法が挙げられる。
塗布膜厚は、用いる液晶性組成物や得られる複屈折層の用途等により調整されるため一概には決められないが、乾燥後の膜厚で0.1〜50μm、好ましくは0.2〜20μm、さらに好ましくは0.3〜10μmである。膜厚がこの範囲外では、目的とする効果が得られない、配向が不十分になる、などして好ましくない。
【0070】
続いて、配向基板上に形成された液晶物質層を、熱処理などの方法で液晶を配向させた後、必要により光照射および/または加熱処理で反応性基を反応させ当該配向を固定化する。最初の熱処理では、使用した液晶性組成物の液晶相発現温度範囲内で所望の温度に加熱することで、該液晶性組成物が本来有する自己配向能により液晶を配向させる。熱処理の条件としては、用いる液晶性組成物の液晶相挙動温度(転移温度)により最適条件や限界値が異なるため一概には言えないが、通常10〜300℃、好ましくは20℃〜250℃の範囲であり、該液晶性組成物のガラス転移点(Tg)以上の温度、さらに好ましくはTgより10℃以上高い温度で熱処理するのが好ましい。あまり低温では、液晶配向が充分に進行しないおそれがあり、また高温では液晶性組成物や配向基板に悪影響を与えるおそれがある。また、熱処理時間については、通常3秒〜30分、好ましくは10秒〜10分の範囲である。3秒より短い熱処理時間では、液晶配向が充分に完成しないおそれがあり、また30分を超える熱処理時間では、生産性が悪くなるため、どちらの場合も好ましくない。
【0071】
該液晶物質層を上記の方法により配向を形成したのち、反応性基を含有する液晶性組成物を用いた場合は、当該液晶配向状態を保ったまま液晶性組成物を組成物中に含まれる反応開始剤の機能を発現させ反応性基を反応させて配向を固定化する。
【0072】
反応開始剤が光の照射により開始剤の機能を発現する場合、光照射の方法としては、用いる反応開始剤の吸収波長領域にスペクトルを有するようなメタルハライドランプ、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、低圧水銀灯、キセノンランプ、アークランプ、レーザーなどの光源からの光を照射し、反応開始剤を活性化させる。1平方センチメートルあたりの照射量としては、積算照射量として通常1〜2000mJ、好ましくは10〜1000mJの範囲である。ただし、当該反応開始剤の吸収領域と光源のスペクトルが著しく異なる場合や、液晶性組成物自身に光源波長光の吸収能がある場合などはこの限りではない。これらの場合には、適当な光増感剤や、吸収波長の異なる2種以上の反応開始剤を混合して用いるなどの方法を採ることもできる。
光照射時の温度は、該液晶性組成物が液晶配向をとる温度範囲が好ましく、反応の効果を充分にあげるためには、該液晶材料のTg以上の液晶相温度で光照射を行うのが好ましい。
【0073】
次に、配向基板上に形成された液晶物質層を仮基板(仮基板1および仮基板2)上に移行させる方法について述べる。
本発明に使用される仮基板1および仮基板2としては、それぞれ、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(4−メチルペンテン−1)、アモルファスポリオレフィン、ポリ(シクロオレフィン)等のポリオレフィン系樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリケトンサルファイド、ポリスルホン、ポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、ポリアセタール、一軸延伸ポリエステル、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール、ポリメチルメタクリレート、ポリアリレート、トリアセチルセルロース、あるいはエポキシ樹脂等のフィルムが使用できる。
【0074】
とりわけ、光学的欠陥の検査性に優れる透明性で光学的に等方性のフィルムとして、ポリ(4−メチルペンテン−1)、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、アモルファスポリオレフィン、ポリ(シクロオレフィン)、トリアセチルセルロース、あるいはエポキシ樹脂などのプラスチックフィルムが好ましく使用される。
【0075】
また、これらフィルムの厚みとしては、望ましくは10〜100μm、特に望ましくは25〜50μmがよい。厚みが厚すぎると剥離に際して剥離ポイントが安定せず剥離性が悪化する恐れがあり、一方薄すぎるとフィルムの機械強度が保てなくなるため、製造中に引き裂かれるなどのトラブルが生じる恐れがある。
【0076】
セパレーターとしては該用途として公知のフィルムを使用することができ、また上記の仮基板1および仮基板2に例示したフィルムから適宜選定してもよく、シリコーン処理等の易剥離性処理が施されていてもよい。
また本発明では、仮基板1や仮基板2は、接着剤層と接着された形態で剥離工程が行われる必要があるため、接着剤層との適度な接着性が要求される。接着力を調整する目的で、予めその表面に有機薄膜又は無機薄膜を形成しておいたり、コロナ放電処理等を施しておいても良い。
【0077】
本発明に使用される接着剤(接着剤1および接着剤2)は、分子量800以下の多官能(メタ)アクリレートを接着剤全成分量の25〜60質量部含有する接着剤である。
多官能(メタ)アクリレートの官能基数は2,3,4,5,6等のものがあり、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート。1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリス((メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。なお、(メタ)アクリレートとは、アクリレートとメタクリレートとを意味する。
【0078】
また、接着剤の親水性・新油性バランスをとる目的で、エチレンオキサイドあるいはプロピレンオキサイドで変性した多官能(メタ)アクリレートを用いてもよい。
【0079】
上記多官能(メタ)アクリレートの含有量は、接着剤全成分量の25〜60質量部であるが、望ましくは30〜50重量部である。含有量が少なすぎる場合、含有させた効果が認められない恐れがあり、また多すぎる場合には接着剤硬化時に収縮が激しくなる恐れがあるため望ましくない。
【0080】
また、接着剤には必要に応じてその他の公知の(メタ)アクリル基を1個有する(メタ)アクリルモノマーや、(メタ)アクリルオリゴマーなどの他、各種添加剤、例えば、光重合開始剤、表面改質剤、粘度調整剤、粘着性付与剤、ブロッキング防止剤、酸化防止剤、帯電防止剤、熱安定剤、耐衝撃性改良剤などを含有させてもよい。
【0081】
(メタ)アクリルモノマーとしては、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート等を挙げることができ、(メタ)アクリルオリゴマーとしては、例えばポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらは混合物であってもよい。また、(メタ)アクリロイル基と共重合可能なモノマー、例えばN−ビニルホルムアミド、N−ビニルモルフォリン、N−ビニルピロリドン、スチレン等を併用してもよい。また、(メタ)アクリルモノマーは、接着剤の親水性・新油性バランスをとる目的で、エチレンオキサイドあるいはプロピレンオキサイドで変性させたものを用いることもできる。
【0082】
光重合開始剤としては、公知の光重合開始剤、例えば、ベンゾインアルキルエーテル類、ベンジルメチルケタール、ヒドロキシフェニルケトン、1,1−ジクロロアセトフェノン、チオキサントン類、ヘキサアリールビイミダゾール類、アシルフォスフィンオキシド類あるいはアミン併用のベンゾフェノン類などが例示される。これらは混合物として使用してもよく、また必要によっては増感剤を併用しても良い。光重合開始剤の使用量は接着剤の0.1〜10質量%、好ましくは0.5〜7質量%の範囲が好ましい。この範囲外では、重合が進行しがたい、解裂した開始剤残片による耐光性が悪化する、などして好ましくない。
【0083】
表面改質剤を添加すると液晶物質層との界面でよりスムーズな剥離ができる。表面改質剤としては、接着剤との相溶性がよく接着剤の硬化性や硬化後の光学性能に影響を及ぼさない限り特に限定されず、イオン性または非イオン性の水溶性界面活性剤、油溶性界面活性剤、高分子界面活性剤、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、有機金属系界面活性剤、反応性界面活性剤等が使用できる。中でも、フッ素系界面活性剤やシリコーン系界面活性剤は、剥離力低減効果が大きく好ましい。
【0084】
上記表面改質剤を添加する場合の添加量としては、添加前の接着剤量を100質量部とした時、0.01質量部〜15質量部、望ましくは0.05質量部〜12質量部、更に望ましくは0.1質量部〜10質量部である。添加量が少なすぎる場合、添加効果が殆ど認められない恐れがあり、また多すぎる場合には接着剤層の形成時に気泡が混入したりする恐れがあるため好ましくない。
【0085】
接着剤層1および接着剤層2の厚みは、いずれもそれぞれ0.5〜50μm、望ましくは0.5〜20μm、さらに望ましくは1〜10μmである。厚みがこれ以上薄すぎると、液晶物質層と剥離するときの加工が困難となり、また厚すぎると接着剤層の硬化に時間がかかる、剥離不良が発生しやすいなどして好ましくない。
【0086】
本発明に使用される粘着剤は、光学的に透明なものあるいは光拡散性のもので構成することができる。粘着剤は、感圧式接着剤とも呼ばれ、押さえるだけで他物質の表面に接着し、またこれを被着面から引き剥がす場合には、被着物に強度さえあればほとんど痕跡を残さずに除去できる粘弾性体である。粘着剤には、アクリル系のもの、塩化ビニル系のもの、合成ゴム系のもの、天然ゴム系のもの、シリコーン系のもの等が使用でき、これらのなかから、透明で光学的に等方性のものを選択して用いればよい。これらの粘着剤は光硬化型であってもよい。
とりわけ、アクリル系の粘着剤は、ハンドリング性や透明性などの点から好ましいものの一つである。
【0087】
光拡散性の粘着剤は、上記の如き粘着剤中に微粒子を分散させて、光拡散性を発現させたものである。光拡散性を発現させるために配合される微粒子として、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、シリカなどからなるものが挙げられる。
粘着剤層を光拡散性のもので構成する場合、そのヘイズは20%以上であるのが好ましく、さらには40%以上、とりわけ60%以上であるのが一層好ましい。ヘイズは、JIS K 7105 に規定される値であって、(拡散透過率/全光線透過率)×100(%) で表される。
【0088】
また、粘着剤の厚みは、いずれもそれぞれ0.5〜50μm、望ましくは1〜30μm、さらに望ましくは3〜20μmである。厚みがこれ以上薄すぎると、液晶物質層と粘着させることが困難となり、また厚すぎると薄肉という要求性能を満たす上で好ましくない。
【0089】
本発明の液晶フィルムの製造方法を工程ごとに説明する。
第1工程では、まず配向基板上に形成された液晶物質層を仮基板1に接着剤1を用いて移行させる。移行には、上記の接着剤1を用いて液晶物質層上に接着剤層1を形成し仮基板1を貼り合せた後、あるいは上記接着剤層1が形成された仮基板1を液晶物質層に貼合した後、接着剤層1を適宜な方法で硬化させて接着後、配向基板を剥離すれば容易に移行(転写)ができ、仮基板1/接着剤層1/液晶物質層の構成の積層体が得られる。
【0090】
接着剤層の硬化方法について述べる。
硬化方法は特に限定されないが、例えば、加熱硬化、レドックス系常温硬化、嫌気硬化、紫外線や電子線などの活性線硬化などが例示される。好ましい硬化方法は、紫外線、電子線などの活性線による硬化法である。活性線による硬化方法は、反応が速く配向を固定化された液晶物質層への影響が少ないため特に好ましい。硬化は、前述の光重合開始剤が添加された接着剤層へ、メタルハライドランプ、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、低圧水銀灯、キセノンランプ、アークランプ、レーザー、シンクロトロン放射光源などの光源からの光を照射して行うことができる。単位面積(1平方センチメートル)当たりの照射量としては、積算照射量として通常1〜2000mJ、好ましくは10〜1000mJの範囲である。ただし、光重合開始剤の吸収領域と光源のスペクトルが著しく異なる場合や、あるいは反応すべき化合物自身に光源波長の吸収能がある場合などはこの限りではない。これらの場合には、適当な光増感剤や、あるいは吸収波長の異なる2種以上の光開始剤を混合して用いるなどの方法を採ることも出来る。電子線による硬化の場合の加速電圧は、通常10kV〜200kV、好ましくは20kV〜100kVである。
【0091】
ついで、液晶物質層上に上述の粘着剤層、または接着剤層1と同様の接着剤層2を形成した後、セパレーターまたは仮基板2と貼り合わせる、あるいは粘着剤層/セパレーターの積層体、または接着剤層2/仮基板2の積層体を、液晶物質層と貼り合わせた後、必要により硬化させて、以下のような積層体(A)または(B)を得ることができる。なお、積層体(B)の場合、仮基板1と仮基板2の少なくともどちらかが光学的に等方性であることが液晶物質層の欠陥やムラの検査をする上で望ましい。
積層体(A): 仮基板1/接着剤層1/液晶物質層/粘着剤層/セパレーター
積層体(B): 仮基板1/接着剤層1/液晶物質層/接着剤層2/仮基板2
【0092】
使用する接着剤は、仮基板1や仮基板2とはある程度十分な接着力を有するものでかつ、液晶物質層とは容易に剥離できる程度の低接着力であるものが望ましい。仮基板1側の接着剤と仮基板2側の接着剤は必要に応じて異なる種類のものを使用することもできる。
【0093】
仮基板1/接着剤層1間の接着力に関しては、製造方法、表面状態や使用される接着剤との濡れ性などにより変化するため一概には決定できないが、該界面での剥離力(180゜剥離、剥離速度30cm/分、室温下測定)が、通常2.0N/m以上、好ましくは3.7N/m以上であることが望ましい。接着力がこの値より低い場合には、仮基板1と接着剤層1とを液晶物質層から剥離する際、仮基板1/接着剤層1間で浮きや剥れが発生し、所望する界面(接着剤層1/液晶物質層間)での良好な剥離状態が得られない恐れがあり好ましくない。
【0094】
仮基板1側に使用する接着剤層1と液晶物質層との間の接着力としては、該界面での剥離力(180゜剥離、剥離速度30cm/分、室温下測定)が、通常0.38〜7.7N/m、好ましくは0.77〜5.8N/mであることが望ましい。剥離力がこの値より低い場合には、配向基板を剥離して液晶物質層を仮基板1に転写する際、接着剤層1と液晶物質層の間で剥離できないため好ましくない。
【0095】
一方、仮基板2/接着剤層2間の接着力に関しては、製造方法、表面状態や使用される接着剤との濡れ性などにより変化するため一概には決定できないが、該界面での剥離力(180゜剥離、剥離速度30cm/分、室温下測定)が、通常2.0N/m以上、好ましくは3.7N/m以上であることが望ましい。接着力がこの値より低い場合には、仮基板2と接着剤層2とを液晶物質層から剥離する際、仮基板2/接着剤層2間で浮きや剥れが発生し、所望する界面(接着剤層2/液晶物質層間)での良好な剥離状態が得られない恐れがあり好ましくない。
【0096】
さらに、仮基板2側に使用する接着剤層2と液晶物質層との間の接着力としては、該界面での剥離力(180゜剥離、剥離速度30cm/分、室温下測定)が、通常0.38〜7.7N/m、好ましくは0.77〜5.8N/mであることが望ましい。剥離力がこの値より低い場合には、仮基板1側を剥離する加工途中などに接着剤層2/液晶物質層間で浮きや剥れが発生する恐れがあり好ましくない。また、剥離力が高すぎる場合には、接着剤層2/液晶物質層間で剥離する際に、液晶物質層の破壊、あるいは所望する層との界面で剥離ができないなどして好ましくない。
【0097】
第2工程について説明する。
前記積層体(A)の場合は、接着剤層1/液晶物質層間で剥離することにより、液晶物質層/粘着剤層/セパレーターで構成される本発明の液晶フィルムを製造することができる。また、積層体(B)を用いた場合は、積層体(B)から接着剤層1/液晶物質層間で剥離させ、液晶物質層に粘着剤を介してセパレーターと接着せしめ、ついで液晶物質層/接着剤層2間で剥離させることによりセパレーター/粘着剤層/液晶物質層からなる本発明の液晶フィルムを製造することができる。
【0098】
以上の方法で得られる本発明の液晶フィルムは、液晶表示素子用の色補償板や視野角補償用などとして使用される時には通常、液晶フィルムからセパレーターが剥離され、液晶物質層と粘着剤層からなる形態として液晶セル基板等と積層される。
【0099】
本発明の光学素子用積層フィルムについて説明する。
本発明の光学素子用積層フィルムは、上記のようにして得られた本発明の液晶フィルムの液晶物質層に、粘着剤層あるいは接着剤層(以下、粘・接着剤層という)を介して偏光フィルムや位相差フィルムを積層した後、セパレーターを剥離する、または本発明の液晶フィルムのセパレーターを剥離した面に位相差フィルムを積層することにより製造することができる。ここで、粘・接着剤層を構成する粘・接着剤としては、公知の光学用の粘着剤又は接着剤を用いることができる。なお、必要によりセパレーターは次の加工までに粘着剤層をごみや汚れから保護するために仮付けしておいてもよい。
こうして例えば、本発明の光学素子用積層フィルムの構成として、
(1)偏光フィルム/粘・接着剤層/液晶物質層/粘着剤層(/セパレーター)
(2)偏光フィルム/粘・接着剤層/位相差フィルム/粘・接着剤層/液晶物質層/粘着剤層(/セパレーター)
(3)偏光フィルム/粘・接着剤層/液晶物質層/粘着剤層/位相差フィルム
(4)偏光フィルム/粘着剤層/液晶物質層/粘・接着剤層/位相差フィルム
(5)液晶物質層/粘着剤層/位相差フィルム
などが例示される。更に、位相差板を複数枚積層することもできる。
【0100】
前記偏光フィルムとしては、特に限定されず、液晶表示装置に通常用いられる偏光フィルムを適宜使用することができるが、好ましくは近年開発上市された薄膜型のものが望ましい。具体的には、ポリビニルアルコール(PVA)や部分アセタール化PVAのようなPVA系偏光フィルム、エチレン−酢酸ビニル共重合体の部分ケン化物等からなる親水性高分子フィルムにヨウ素および/または2色性色素を吸着して延伸した偏光フィルム、PVAの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物のようなポリエン配向フィルムなどからなる偏光フィルムなどを使用することができる。また、反射型の偏光フィルムも使用することができる。
【0101】
偏光フィルムは、偏光フィルム単独で使用しても良いし、強度向上、耐湿性向上、耐熱性の向上等の目的で偏光フィルムの片面または両面に透明な保護層等を設けたものであっても良い。透明な保護層としては、ポリエステル、ポリ(シクロオレフィン)やトリアセチルセルロース等の透明プラスチックフィルムを直接または粘・接着剤層を介して積層したもの、樹脂の塗布層、アクリル系やエポキシ系等の光硬化型樹脂層などが挙げられる。これら透明な保護層を偏光フィルムの両面に被覆する場合、両面に同じ材料からなる保護層を設けても良いし、また異なる材料からなる保護層を設けても良い。
【0102】
前記の位相差フィルムとしては、高分子延伸フィルムや液晶の配向を固定化したフィルム(支持体の有無を問わない)などが挙げられる。高分子延伸フィルムとしては、セルロース系、ポリカーボネート系、ポリアリレート系、ポリスルホン系、ポリビニルアルコール(PVA)系、ポリアクリル系、ポリエーテルスルホン系、シクロ(ポリオレフィン)系等からなる1軸、または2軸延伸位相差フィルムを例示することができる。中でもポリカーボネート系、ノルボルネン系などのシクロ(ポリオレフィン)系の1軸延伸フィルムが製造の容易さやフィルムの均一性、あるいは光学特性面から好ましい。
ここで、延伸の方向としては特に限定されず、任意の方向に行うことにより適宜選択できる。とりわけ、長尺の高分子延伸フィルムを扱う場合には、その長尺な連続フィルムのMDに対して所定の角度で必要に応じて斜め方向(斜め延伸)、あるいはTDに延伸(横延伸)処理されることが望ましい。所定の角度の方向に延伸処理することにより、延伸フィルムを液晶フィルムや偏光板と最適な光学特性が発揮できるような軸配置で積層する際に、長尺フィルムのMDを揃えた状態での貼合(いわゆるロール to ロール貼合)が可能になる、あるいは製品の取り効率が高まるなどの点から極めてメリットがある。
また、液晶の配向を固定化したフィルム(支持体の有無を問わない)としては、ネマチック配向、ねじれネマチック配向、チルト配向、ハイブリッド配向、ホメオトロピック配向などの配向を種々の方法で固定化したものを挙げることができる。
【0103】
本発明の光学素子用積層フィルムは、液晶物質層の光学パラメーターに応じて、各種液晶表示装置の補償部材、楕円偏光板、円偏光板として機能することができる。
すなわち光学素子用積層フィルムを構成する液晶物質層が、例えばネマチック配向、ねじれネマチック配向を固定化した液晶物質層は位相差板として機能することから、当該液晶物質層を構成部材とする本発明の光学素子用積層フィルムは、STN型、TN型、OCB型、HAN型等の透過または反射型液晶表示装置の補償板として使用することができる。
【0104】
またネマチックハイブリッド配向を固定化した液晶物質層は、正面から見たときのリタデーションを利用して、位相差フィルムや波長板として利用することができ、またリタデーション値の向き(フィルム厚さ方向の分子軸の傾き)による非対称性を生かしてTN型液晶表示装置の視野角改善部材などにも利用することができる。
さらにホメオトロピック配向を固定化した液晶物質層は、偏光板の光学異方性の補償に使用でき、またVA型やIPS型の液晶表示装置の補償板として使用することができる。
【0105】
また1/4波長板機能を有する液晶物質層は、本発明の如く偏光板と組み合わせることにより、円偏光板や反射型の液晶表示装置やEL表示装置の反射防止フィルター等として用いることができる。とりわけ、可視光領域の広帯域にわたって機能する広帯域1/4波長板を得る為には、550nmの単色光での複屈折光の位相差が略1/4波長である1/4波長板と550nmの単色光での複屈折光の位相差が略1/2波長である1/2波長板とを、それらの遅相軸が交差した状態で積層することが有効であることが一般に知られており、実際に反射型の液晶表示装置などで広く用いられている。
【0106】
すなわち、本発明のように薄肉の光学素子用積層フィルムを得る技術を用いれば、従来の高分子延伸フィルムだけでは困難であった薄型の広帯域1/4波長板が得られることになる。ここで、1/4波長板のリタデーション値は、通常70nm〜180nm、好ましくは90nm〜160nm、特に好ましくは120nm〜150nmの範囲である。また、1/2波長板のリタデーション値は、通常180nm〜320nm、好ましくは200nm〜300nm、特に好ましくは220nm〜280nmの範囲である。1/4波長板と1/2波長板のリタデーション範囲が上記から外れた場合、液晶表示装置に不必要な色付きが生じる恐れがある。
【0107】
さらに本発明の光学素子用積層フィルムにおいては、当該積層体を構成する液晶物質層がコレステリック配向やスメクチック配向を固定化したものであれば、輝度向上用の偏光反射フィルム、反射型のカラーフィルター、選択反射能に基因する視角による反射光の色変化を生かした各種偽造防止素子や装飾フィルムなどに利用することができる。
【実施例】
【0108】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例で用いた各分析方法は以下の通りである。
【0109】
(1)相挙動の観察
相挙動はメトラー社製ホットステージFP82HT上で、試料を加熱しつつ、オリンパス光学(株)製BH2偏光顕微鏡で観察した。
相転移温度は、Perkin−Elmer社製示差走査熱量計DSC7により測定した。
(2)高分子液晶物質の対数粘度の測定
ウッベローデ型粘度計を用いて、フェノール/テトラクロロエタン(60/40:質量比)混合溶媒中、30℃で測定した。
(3)分子量の測定(GPCの測定)
化合物をテトラヒドロフランに溶解し、東ソー社製8020GPCシステムで、TSK−GEL SuperH1000、SuperH2000、SuperH3000、SuperH4000を直列につなぎ、溶出液としてテトラヒドロフランを用いて測定した。分子量の較正にはポリスチレンスタンダードを用いた。
(4)液晶フィルムのパラメータ測定
配向した液晶物質層等のリタデーション値(Δnd)は、波長550nmの光を用いて王子計測機器(株)製のKOBRA−21ADHで測定した。
(5)膜厚測定
SLOAN社製SURFACE TEXTURE ANALYSIS SYSTEM Dektak 3030STを用いた。また、干渉波測定(日本分光(株)製 紫外・可視・近赤外分光光度計V−570)と屈折率のデータから膜厚を求める方法も併用した。
【0110】
[調製例1]
テレフタル酸50mmol、2,6−ナフタレンジカルボン酸50mmol、メチルヒドロキノンジアセテート40mmol、カテコールジアセテート60mmolおよびN−メチルイミダゾール60mgを用いて窒素雰囲気下、270℃で12時間重縮合を行った。次に得られた反応生成物をテトラクロロエタンに溶解した後、メタノールで再沈殿を行って精製し、液晶性ポリエステル14.6gを得た。この液晶性ポリエステル(ポリマー1)の対数粘度は0.16dl/g、液晶相としてネマチック相を持ち、等方相−液晶相転移温度は250℃以上、示差走査熱量計(DSC)によるガラス転移温度は112℃であった。
20gのポリマー1を80gのN−メチル−2−ピロリドンに溶解させ溶液を調製した。この溶液を、レーヨン布にてラビング処理したポリイミドフィルム(商品名「カプトン」、デュポン社製)上にスピナーにて塗布し、溶媒を乾燥除去した後、210℃で20分熱処理することでネマチック配向構造を形成させた。熱処理後、室温下まで冷却してネマチック配向構造を固定化し、ポリイミドフィルム上に実膜厚0.7μmの均一に配向した液晶物質層1を得た。
なお、液晶物質層1のΔndを測定するために、粘着剤付きのトリアセチルセルロースフィルムの粘着剤層面と液晶物質層1を貼着後、ポリイミドフィルムを剥離した。得られた積層フィルムのΔndを測定し、別途測定した粘着剤付きのトリアセチルセルロースフィルムのΔnd値を補正した結果、液晶物質層1のΔndは128nmであった。
【0111】
[調製例2]
(液晶性組成物溶液の調製)
液晶物質層2の製造に使用する液晶性組成物溶液を以下のようにして調製した。
下記式(7)で示される液晶性高分子を通常のラジカル重合により合成した。分子量はポリスチレン換算で、数平均分子量(Mn)=8000、重量平均分子量(Mw)=15000であった。
この液晶性高分子200.0gを、1800mlのシクロヘキサノンに溶かし、暗所でトリアリルスルフォニウムヘキサフルオロアンチモネート50%プロピレンカーボネート溶液(アルドリッチ社製、試薬)20gを加えた後、孔径0.45μmのポリテトラフルオロエチレン製フィルターで濾過して液晶性組成物溶液を調製した。
なお、下記式(7)はブロックコポリマーの形態で表示しているが、重合時のモノマー組成比(mol比)を表示するものである。
【0112】
【化10】

【0113】
(配向膜の形成)
幅650mm、長さ1000mのポリエチレンナフタレートフィルム(PEN:帝人デュポンフィルム(株)製、商品名Q51)に室温下、グラビアコーターにより乾燥膜厚が約1μmとなるように、ポリビニルアルコール〔PVA;(日本酢ビ・ポバール(株)製、商品名A−T,組成:PVA成分53%、水分47%からなる粉末)〕溶液(PVA 4mass%,溶媒組成:水/イソプロピルアルコール=80/20質量比)溶液を連続的に塗布した。塗布膜の乾燥は、50℃、70℃、90℃および130℃に設定した熱風循環式乾燥機で相対乾燥風速600m/分で連続的に行い、配向膜付き長尺フィルムを得た。
【0114】
(ラビング処理)
上記で得られた配向膜付き長尺フィルムを20m/分の速度で搬送しながら、配向膜面をラビング布を巻き付けた直径150mmのラビングロールをフィルムのMDに対して45度に設定し、ラビング布の毛先の押し込みを500μmとして1500rpmで回転させる(周速比35)ことにより連続的にラビングをし、ロールに巻き取りを行った。
【0115】
(液晶物質層2の調製)
上記で得た液晶性組成物溶液を、上記ラビング処理をした長尺フィルム上に、ロールコーターを用いて配向・硬化後の液晶物質層厚が1μmとなるように塗布した後、60℃で乾燥後、140℃で2分間加熱処理をして液晶物質層を配向させ、ついで雰囲気温度が70℃に維持された高圧水銀ランプを備えた紫外線照射装置にて300mJ/cmの紫外光を照射して配向を固定化し室温に冷却し、液晶物質層2/PVA層/PEN層構成のフィルムを得た。
調製例1と同様に、液晶物質層2のΔndを測定するために、粘着剤付きのトリアセチルセルロースフィルムの粘着剤層面と液晶物質層2を貼着後、液晶物質層2とPVA層間で剥離した。得られた積層フィルムのΔndを測定し、別途測定した粘着剤付きのトリアセチルセルロースフィルムのΔnd値を補正した結果、液晶物質層2のΔndは92nmであった。
【0116】
〔実施例1〕
調製例1で得られた液晶物質層1の上に、UV硬化型アクリル系接着剤(東亞合成(株)製UV−3400)50質量部にトリメチロールプロパントリアクリレートを50質量部添加したUV硬化型アクリル系接着剤1を5μmの厚さにアクリル系樹脂層1として塗布し、この上に厚み50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム((株)東レ製)をラミネートし、約600mJのUV照射により該アクリル系樹脂層1を硬化させた。この後、PETフィルム/硬化アクリル系樹脂層1/液晶物質層1/ポリイミドフィルムが一体となった積層体からポリイミドフィルムを剥離することにより液晶物質層をPETフィルム上に転写し、PETフィルム/硬化アクリル系樹脂層1/液晶物質層1からなる積層体を得た。
【0117】
さらに、該積層体の液晶物質層1上に上記のUV硬化型アクリル系接着剤1をUV硬化型アクリル系接着剤2として5μmの厚さにアクリル系樹脂層2として塗布し、この上に厚さ40μmのトリアセチルセルロース(TAC)フィルム(富士フイルム(株)製)をラミネートし、約600mJのUV照射により該アクリル系樹脂層2を硬化させ、PETフィルム/硬化アクリル系樹脂層1/液晶物質層1/硬化アクリル系樹脂層2/TACフィルムからなる積層体を得た。
【0118】
ついで、該積層体のPETフィルムと硬化アクリル系樹脂層1とを剥離した。露出した液晶物質層1面に、予め厚み38μmのセパレーターの上に厚み25μmの粘着剤層を形成したフィルムを貼り合わせ、セパレーター/粘着剤層/液晶物質層1/硬化アクリル系樹脂層2/TACフィルムからなる積層体を得た。
【0119】
次に、積層体から液晶物質層1/硬化アクリル樹脂層2界面でTACフィルム側を剥離して、液晶フィルムを得た。予め所望の角度に貼合された面内位相差140nmのゼオノアフィルム(ゼオン(株)製)と偏光板(住友化学(株)製)とを厚み20μmの粘着剤を介して貼合することにより、偏光板/粘着剤層/ゼオノア/粘着剤層/液晶物質層1/粘着剤層(/セパレーター)からなる光学素子用積層フィルムを得た。
硬化アクリル系樹脂層1/液晶物質層1および液晶物質層1/硬化アクリル系樹脂層2の剥離力はともに1.5〜2.1N/mであった。
【0120】
〔実施例2〕
実施例1で使用したUV硬化型アクリル系接着剤1および2に替えて、UV硬化型アクリル系接着剤(東亞合成(株)製UV−3400)65質量部にイソシアヌルトリアクリレートを35質量部含有したUV硬化型アクリル系接着剤を用いた以外は実施例1と同様に行い、偏光板/粘着剤層/ゼオノア/粘着剤層/液晶物質層1/粘着剤層(/セパレーター)からなる光学素子用積層フィルムを得た。
硬化アクリル系樹脂層1/液晶物質層1および液晶物質層1/硬化アクリル系樹脂層2の剥離力はともに2.7〜3.2N/mあった。
【0121】
〔実施例3〕
実施例1で使用したUV硬化型アクリル系接着剤1および2に替えて、UV硬化型アクリル系接着剤(東亞合成(株)製UV−3400)75質量部にイソシアヌルトリアクリレートを25質量部含有したUV硬化型アクリル系接着剤を用いた以外は実施例1と同様に行い、偏光板/粘着剤層/ゼオノア/粘着剤層/液晶物質層1/粘着剤層(/セパレーター)からなる光学素子用積層フィルムを得た。
硬化アクリル系樹脂層1/液晶物質層1および液晶物質層1/硬化アクリル系樹脂層2の剥離力はともに4.0〜4.6N/mであった。
【0122】
〔実施例4〕
調製例1で得られた液晶物質層1の上に、実施例1のトリメチロールプロパントリアクリレートに替えてイソシアヌルトリアクリレートを50質量部含有したUV硬化型アクリル系接着剤1を5μmの厚さにアクリル系樹脂層1として塗布し、この上に厚さ40μmのトリアセチルセルロース(TAC)フィルム(富士フイルム(株)製)をラミネートし、約600mJのUV照射により該アクリル系樹脂層1を硬化させた。この後、TACフィルム/硬化アクリル系樹脂層1/液晶物質層1/ポリイミドフィルムが一体となった積層体からポリイミドフィルムを剥離することにより液晶物質層をTACフィルム上に転写し、TACフィルム/硬化アクリル系樹脂層1/液晶物質層1からなる積層体を得た。
ついで、露出した液晶物質層1面に、予め表面に易剥離性処理を施した厚さ38μmのセパレーター上に厚み25μmの粘着剤層を形成したフィルムを貼り合わせ、TACフィルム/硬化アクリル系樹脂層1/液晶物質層1/粘着剤層/セパレーターからなる積層体を得た。
次に、該積層体から液晶物質層1/硬化アクリル樹脂層1界面でTACフィルム側を剥離して液晶フィルムを得た。液晶物質層1側に予め所望の角度に貼合された面内位相差のゼオノアフィルム(ゼオン(株)製)と偏光板(住友化学(株)製)とを厚み20μmの粘着剤を介して貼合することにより、偏光板/粘着剤層/ゼオノア/粘着剤層/液晶物質層1/粘着剤層(/セパレーター)からなる光学素子用積層フィルムを得た。
硬化アクリル樹脂層1/液晶物質層1の剥離力は1.5〜2.1N/mであった。
【0123】
〔実施例5〕
調製例2で得られた液晶物質層2の上に実施例1のトリメチロールプロパントリアクリレートに替えてペンタエリスリトールテトラアクリレートを50質量部含有したUV硬化型アクリル系接着剤1を5μmの厚さにアクリル系樹脂層1として塗布し、この上に厚み50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム((株)東レ製)をラミネートし、約600mJのUV照射により該アクリル系樹脂層1を硬化させた。この後、PETフィルム/硬化アクリル系樹脂層1/液晶物質層2/PVA層/PENフィルムが一体となった積層体からPVA層/PENフィルムを剥離することにより液晶物質層2をPETフィルム上に転写し、PETフィルム/硬化アクリル系樹脂層1/液晶物質層2からなる積層体を得た。
【0124】
さらに、該積層体の液晶物質層2上に上記のUV硬化型アクリル系接着剤1をを5μmの厚さにアクリル系樹脂層2として塗布し、この上に厚さ40μmのトリアセチルセルロース(TAC)フィルム(富士フイルム(株)製)をラミネートし、約600mJのUV照射により該アクリル系樹脂層2を硬化させ、PETフィルム/硬化アクリル系樹脂層1/液晶物質層2/硬化アクリル系樹脂層2/TACフィルムからなる積層体を得た。
【0125】
ついで、該積層体のPETフィルムと硬化アクリル系樹脂層1とを剥離し、液晶物質層2/硬化アクリル系樹脂層2/TACフィルムからなる積層体を得た。この積層体を、2枚の偏光板の吸収軸が直交になるように配置した偏光板間に挿入して液晶物質層2の検査を行ったところ、液晶物質層2は均一であり検査は容易であった。次いで露出した液晶物質層2面に、予め厚み38μmの表面に易剥離性処理を施したセパレーター上に厚み25μmの粘着剤層を形成したフィルムを貼り合わせ、セパレーター/粘着剤層/液晶物質層2/硬化アクリル系樹脂層2/TACフィルムからなる積層体を得た。
【0126】
次に、該積層体から液晶物質層2/硬化アクリル樹脂層2界面でTACフィルム側を剥離して液晶フィルムを得た。液晶物質層2側に、予め所望の角度に貼合された面内位相差140nmのゼオノアフィルム(ゼオン(株)製)と偏光板(住友化学(株)製)とを厚み20μmの粘着剤を介して貼合することにより、偏光板/粘着剤層/ゼオノア/粘着剤層/液晶物質層2/粘着剤層(/セパレーター)からなる光学素子用積層フィルムを得た。
硬化アクリル系樹脂層1/液晶物質層2および液晶物質層2/硬化アクリル系樹脂層2の剥離力はともに1.5〜2.1N/mであった。
【0127】
〔実施例6〕
調製例1で得られた液晶物質層1の上に、UV硬化型アクリル系接着剤(東亞合成(株)製UV−3400)50質量部にイソシアヌルトリアクリレート50質量部およびフッ素系表面改質剤(サーフロンS−386、セイミケミカル(株)製)2質量部を添加したUV硬化型アクリル系接着剤1を5μmの厚さにアクリル系樹脂層1として塗布し、この上に厚み50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム((株)東レ製)をラミネートし、約600mJのUV照射により該アクリル系樹脂層1を硬化させた。この後、PETフィルム/硬化アクリル系樹脂層1/液晶物質層1/ポリイミドフィルムが一体となった積層体からポリイミドフィルムを剥離することにより液晶物質層をPETフィルム上に転写し、PETフィルム/硬化アクリル系樹脂層1/液晶物質層1からなる積層体を得た。
【0128】
さらに、該積層体の液晶物質層1の上にUV硬化型アクリル系接着剤(東亞合成(株)製UV−3400)50質量部にイソシアヌルトリアクリレート50質量部およびフッ素系界面活性剤2質量部含有したUV硬化型アクリル系接着剤2を5μmの厚さにアクリル系樹脂層2として塗布し、この上に厚さ40μmのトリアセチルセルロース(TAC)フィルム(富士フイルム(株)製)をラミネートし、約600mJのUV照射により該アクリル系樹脂層2を硬化させ、PETフィルム/硬化アクリル系樹脂層1/液晶物質層1/硬化アクリル系樹脂層2/TACフィルムからなる積層体を得た。
【0129】
ついで、該積層体のPETフィルムと硬化アクリル系樹脂層1とを剥離した後、露出した液晶物質層1面に、予め厚み38μmの表面に易剥離性処理を施したセパレーター上に厚み25μmの粘着剤層を形成したフィルムを貼り合わせ、セパレーター/粘着剤層/液晶物質層1/硬化アクリル系樹脂層2/TACフィルムからなる積層体を得た。
【0130】
次に、該積層体から液晶物質層1/硬化アクリル樹脂層2界面でTACフィルム側を剥離して液晶フィルムを得た。液晶物質層1側に、予め所望の角度に貼合された面内位相差140nmのゼオノアフィルム(ゼオン(株)製)と偏光板(住友化学(株)製)とを厚み20μmの粘着剤を介して貼合することにより、偏光板/粘着剤層/ゼオノア/粘着剤層/液晶物質層1/粘着剤層(/セパレーター)からなる光学素子用積層フィルムを得た。
硬化アクリル系樹脂層1/液晶物質層1および液晶物質層1/硬化アクリル系樹脂層2の剥離力はともに1.2〜1.5N/mであった。
【0131】
〔実施例7〕
実施例6のフッ素系界面活性剤2質量部に替えてシリコーン系表面改質剤(ペインタッド32、東レ・ダウコーニング(株)製)2質量部を用いた以外は実施例6と同様に行い、偏光板/粘着剤層/ゼオノア/粘着剤層/液晶物質層1/粘着剤層(/セパレーター)からなる光学素子用積層フィルムを得た。
硬化アクリル系樹脂層1/液晶物質層1および液晶物質層1/硬化アクリル系樹脂層2の剥離力はともに1.2〜1.5N/mであった。
【0132】
〔比較例1〕
調製例1で得られた液晶物質層1の上に、UV硬化型アクリル系接着剤(東亞合成(株)製UV−3400)30質量部にイソシアヌルトリアクリレートを70質量部添加したUV硬化型アクリル系接着剤1を5μmの厚さにアクリル系樹脂層1として塗布し、この上に厚み50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム((株)東レ製)をラミネートし、約600mJのUV照射により該アクリル系樹脂層1を硬化させた。この後、PETフィルム/硬化アクリル系樹脂層1/液晶物質層1/ポリイミドフィルムが一体となった積層体からポリイミドフィルムを剥離しようとしたところ、硬化アクリル系樹脂層1/液晶物質層1間で剥離してしまった。
【0133】
〔比較例2〕
調製例1で得られた液晶物質層1の上に、UV硬化型アクリル系接着剤(東亞合成(株)製UV−3400)85質量部にイソシアヌルトリアクリレートを15質量部添加したUV硬化型アクリル系接着剤1を5μmの厚さにアクリル系樹脂層1として塗布し、この上に厚み50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム((株)東レ製)をラミネートし、約600mJのUV照射により該アクリル系樹脂層1を硬化させた。この後、PETフィルム/硬化アクリル系樹脂層1/液晶物質層1/ポリイミドフィルムが一体となった積層体からポリイミドフィルムを剥離することにより液晶物質層をPETフィルム上に転写し、PETフィルム/硬化アクリル系樹脂層1/液晶物質層1からなる積層体を得た。
さらに、該積層体の液晶物質層1の上にイソシアヌルトリアクリレートを15質量部含有した上記のUV硬化型アクリル系接着剤を5μmの厚さにアクリル系樹脂層2として塗布し、この上に厚さ40μmのトリアセチルセルロース(TAC)フィルム(富士フイルム(株)製)をラミネートし、約600mJのUV照射により該アクリル系樹脂層2を硬化させ、PETフィルム/硬化アクリル系樹脂層1/液晶物質層1/硬化アクリル系樹脂層2/TACフィルムからなる積層体を得た。
ついで、該積層体のPETフィルムと硬化アクリル系樹脂層1を剥離しようとしたところ、いずれの界面においても適度に接着しているため、界面できれいに剥離することが出来なかった。
【0134】
〔比較例3〕
調製例1で得られた液晶物質層1の上に、UV硬化型アクリル系接着剤(東亞合成(株)製UV−3400)をUV硬化型アクリル系接着剤1として5μmの厚さにアクリル系樹脂層1として塗布し、この上に厚み50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム((株)東レ製)をラミネートし、約600mJのUV照射により該アクリル系樹脂層1を硬化させた。この後、PETフィルム/硬化アクリル系樹脂層1/液晶物質層1/ポリイミドフィルムが一体となった積層体からポリイミドフィルムを剥離することにより液晶物質層をPETフィルム上に転写し、PETフィルム/硬化アクリル系樹脂層1/液晶物質層1からなる積層体を得た。
【0135】
さらに、該積層体の液晶物質層1上に上記のUV硬化型アクリル系接着剤をUV硬化型アクリル系接着剤2として5μmの厚さにアクリル系樹脂層2として塗布し、この上に厚さ40μmのトリアセチルセルロース(TAC)フィルム(富士フイルム(株)製)をラミネートし、約600mJのUV照射により該アクリル系樹脂層2を硬化させ、PETフィルム/硬化アクリル系樹脂層1/液晶物質層1/硬化アクリル系樹脂層2/TACフィルムからなる積層体を得た。
【0136】
ついで、該積層体のPETフィルムを剥離し、硬化アクリル系樹脂層1面に、予め厚み38μmのセパレーターの上に厚み25μmの粘着剤層を形成したフィルムを貼り合わせ、セパレーター/粘着剤層/硬化アクリル系樹脂層1/液晶物質層1/硬化アクリル系樹脂層2/TACフィルムからなる積層体を得た。
【0137】
次に、積層体から硬化アクリル樹脂層2/TACフィルム界面でTACフィルムを剥離し、予め所望の角度に貼合された面内位相差140nmのゼオノアフィルム(ゼオン(株)製)と偏光板(住友化学(株)製)とを厚み20μmの粘着剤を介して貼合することにより、偏光板/粘着剤層/ゼオノア/粘着剤層/硬化アクリル系樹脂層2/液晶物質層1/硬化アクリル系樹脂層1/粘着剤層/セパレーターからなる光学素子用積層フィルムを得た。
【0138】
[性能試験]
実施例1〜7及び比較例3で得られた各光学素子用積層フィルムから一片5cmの正方形に切り出したチップからセパレーターを剥がして厚さ2mmのソーダガラスに貼合し、オートクレーブ処理(50℃、5kgf/cm、20分間)を行なった試験片を用いて、ヒートショック試験を行った。
結果を表1にまとめた。
【0139】
(ヒートショック試験)
85℃(30分間)と−40℃(30分間)とを交互に繰り返すサイクルを50回繰り返す毎に、試験片のクラック発生などの外観異常の有無を目視観察した。
【0140】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
配向基板上に形成された液晶配向が固定化された液晶物質層を、分子量800以下の多官能(メタ)アクリレートを25〜60質量部含有する接着剤1を介して仮基板1と貼合し接着剤1を硬化せしめた後、配向基板を剥離して液晶物質層を仮基板1に転写した後、露出した液晶物質層を、粘着剤を介してセパレーターと接着せしめることにより、仮基板1/接着剤層1/液晶物質層/粘着剤層/セパレーターからなる積層体(A)を得る第1工程、前記積層体(A)の接着剤層1/液晶物質層間で剥離することにより、液晶物質層/粘着剤層/セパレーターで構成される液晶フィルムを得る第2工程、の各工程を少なくとも経て製造されることを特徴とする液晶フィルムの製造方法。
【請求項2】
配向基板上に形成された液晶配向が固定化された液晶物質層を、分子量800以下の多官能(メタ)アクリレートを25〜60質量部含有する接着剤1を介して仮基板1と貼合し接着剤1を硬化せしめた後、配向基板を剥離して液晶物質層を仮基板1に転写した後、露出した液晶物質層を、分子量800以下の多官能(メタ)アクリレートを25〜60質量部含有する接着剤2を介して仮基板2と接着せしめることにより、仮基板1/接着剤層1/液晶物質層/接着剤層2/仮基板2からなる積層体(B)を得る第1工程、前記積層体(B)から接着剤層1/液晶物質層間で剥離させ、液晶物質層に粘着剤を介してセパレーターと粘着せしめ、ついで液晶物質層/接着剤層2間で剥離させることによりセパレーター/粘着剤層/液晶物質層で構成される液晶フィルムを得る第2工程、の各工程を少なくとも経て製造されることを特徴とする液晶フィルムの製造方法。
【請求項3】
配向を固定化した液晶物質層が、液晶転移点以上の温度で液晶配向し、液晶転移点以下の温度でガラス状態となる高分子液晶物質からなることを特徴とする請求項1または2に記載の液晶フィルムの製造方法。
【請求項4】
配向を固定化した液晶物質層が、低分子または高分子液晶が配向した液晶物質層を光架橋または熱架橋したものであることを特徴とする請求項1または2に記載の液晶フィルムの製造方法。
【請求項5】
仮基板1または仮基板2が光学的に等方性であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の液晶フィルムの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかの製造方法で得られる液晶フィルムの液晶物質層に粘着剤あるいは接着剤を介して偏光フィルムおよび/または位相差フィルムと積層したのち、セパレーターを剥離することにより得られる、またはセパレーターを剥離した面にさらに位相差フィルムを積層することにより得られる光学素子用積層フィルム。

【公開番号】特開2009−116002(P2009−116002A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−288219(P2007−288219)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】