説明

液晶性ベンゾオキサジン系化合物及び液晶性ベンゾオキサジン系重合組成物

【課題】液晶性を有する液晶性ベンゾオキサジン系化合物及びその液晶性ベンゾオキサジン系化合物による高分子液晶の形成を容易化する液晶性ベンゾオキサジン系重合組成物を提供すること
【解決手段】ベンゾオキサジン環は、原子団Xと共に、本液晶性ベンゾオキサジン系化合物のメソゲンを形成する。言い換えれば、メソゲンの一部は、ベンゾオキサジン環で構成されている。ここで、ベンゾオキサジン環がメソゲンの端部に配置されると共に、分子構造中には1のベンゾオキサジン環のみを備えた構造となっており、更に、スペーサーとして原子団R1,R2を備えているので、ベンゾオキサジン系化合物であっても液晶性とすることができ、液晶性ベンゾオキサジン系化合物を提供できる。更にパラトルエンスルホン酸やイミダゾールを配合することで液晶温度範囲、重合温度範囲を調整でき、液晶状態での重合を容易化できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はベンゾオキサジン系化合物及びその重合組成物に関し、特に、液晶性を有する液晶性ベンゾオキサジン系化合物及びその液晶性ベンゾオキサジン系化合物を含む液晶性ベンゾオキサジン系重合組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ベンゾオキサジン系化合物は、フェノール類とアミン類とホルムアルデヒドとから合成することができる。フェノール類及びアミン類は多種多様なものが広く提供されているため、フェノール類およびアミン類を選択することにより、所望の特性を有する様々な種類のベンゾオキサジン系化合物を合成できる。このベンゾオキサジン系化合物は、加熱によって開環重合し、ポリベンゾオキサジンが生成するモノマーとなっている。ここで、原料となるフェノール類とアミン類とが多種にわたるので、生成するベンゾオキサジンモノマーについて自由度の高い設計を行うことができる。モノマーとなるベンゾオキサジン系化合物が多種にわたるので、生成する高分子について自由度の高い設計を行うことができ、多様な特性を有する高分子を実現(ポリベンゾオキサジンを製造)できる。このポリベンゾオキサジンは、分子構造中にフェノール構造を有するためにフェノール樹脂の一種とみなされている。
【0003】
一方で、樹脂材料に対し、更なる高機能化(高Tg、高耐熱性、高機械的強度等)が望まれており、このため、高分子液晶が検討されている。高分子液晶は、一般に、棒状または板状の剛直な構造を形成するメソゲン基と、柔軟性を付与するスペーサ基とを分子中に有することで、液晶性を発現するように設計された高分子である。高分子液晶は、外部からの電場や熱、成形条件などに応じて分子配向が生じ、その配向状態により、優れた機械的強度や耐熱性を実現することができる。更には、サーモトロピック型である場合、溶融粘度を低減させる性質があるため、機械的性質等が向上するにもかかわらず、成型加工性を損なうことがなく、成形材料、複合材料などの分野で幅広く用いられている。
【0004】
ここで、高分子液晶では分子運動が抑制されるため、低分子液晶に用いる電場や磁場、ラビング処理といった配向方法を利用しても、系全体の配向方向をそろえることが困難となることが多い。このため、その解決手法として、重合基を有する低分子液晶のバルク重合法が提案されている。低分子液晶のバルク重合法は、液晶相を発現しやすいメソゲン基に直接あるいはスペーサ基を介して重合基を導入することにより、高分子液晶の前駆体(液晶モノマー)を合成し、液晶状態で重合して高分子液晶を生成する方法である。
【0005】
現在知られている高分子液晶は、ポリエステル、ポリエステルアミド、ポリアゾメチン(以上サーモトロピック液晶)、ポリアミド、ポリベンゾチアゾール(以上ライオトロピック液晶)等があり、例えば、特表平8−509020号公報(特許文献1)には、液晶性ポリエステル樹脂が開示されている。特開2004−331811号公報(特許文献2)には、エポキシ樹脂にアゾメチン基のメソゲン骨格を導入することで放熱特性を向上させた液晶性エポキシ樹脂が提案されている。また、特開2004−225034号公報(特許文献3)には、熱伝導性の向上を目的としてエポキシ樹脂にメソゲン骨格が導入された液晶性エポキシ樹脂が提案されている。更には、特開平9−302070号公報(特許文献4)には、硬化剤或いは主剤のエポキシ樹脂にメソゲン骨格を導入することで、接着性を備えつつ、高温強度向上、熱歪及び吸水性を抑制できる液晶性エポキシ樹脂が提案されている。また、特開2006−306778号公報(特許文献5)には、エポキシ樹脂よりも高Tg、高耐熱性であるポリベンゾオキサジンについて、メソゲン骨格を分子中に導入したものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表平8−509020号公報
【特許文献2】特開2004−331811号公報
【特許文献3】特開2004−225034号公報
【特許文献4】特開平9−302070号公報
【特許文献5】特開2006−306778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1から4に記載された発明は、液晶性ポリエステル樹脂や、液晶性エポキシ樹脂に関するものであり、化学構造が大きく異なるベンゾオキサジン系化合物に係る技術を適用することはできない。従って、開示された技術から液晶モノマーのベンゾオキサジン系化合物を得ることはできないという問題点があった。
【0008】
また、上記特許文献5に記載された発明には、メソゲン基(剛直な構造)を導入したベンゾオキサジン系化合物を硬化させて得られる硬化物が、メソゲン基の効果によって機械的強度が向上することが示されているが、得られたベンゾオキサジン系化合物やその硬化物において液晶性は示されていない。
【0009】
つまり、メソゲン基を導入しても、ベンゾオキサジン環に起因する構造上の要因によって、液晶性を有するベンゾオキサジン系化合物(液晶モノマーとなるベンゾオキサジン系化合物、液晶性ベンゾオキサジン系化合物)を得ることは困難であるという問題点があった。その結果、多種多様な設計が可能なベンゾオキサジン系化合物において、液晶モノマーは未だ提供されていないのが現状である。
【0010】
更には、液晶性ベンゾオキサジン系化合物が創出されたとしても、創出された液晶性ベンゾオキサジン系化合物を単に加熱して重合させるだけでは、得られるベンゾオキサジン系樹脂が高分子液晶とならないことも十分に想定される。例えば、創出された液晶性ベンゾオキサジン系化合物の液晶温度範囲がベンゾオキサジン系化合物の重合温度より低温側に発現する場合には、液晶温度範囲や重合温度を調整できる重合系の設計が重要になる。しかし、液晶性ベンゾオキサジン系化合物の創出が困難である現状においては、その高分子液晶の生成を容易化するための重合系(液晶性ベンゾオキサジン系重合組成物)の設計は、更に困難になっているという問題点があった。
【0011】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、液晶性を有する液晶性ベンゾオキサジン系化合物及びその液晶性ベンゾオキサジン系化合物による高分子液晶の形成を容易化する液晶性ベンゾオキサジン系重合組成物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、請求項1記載の液晶性ベンゾオキサジン系化合物は、重合反応によって高分子量化するベンゾオキサジン系化合物において、ベンゾオキサジン環と、複数のベンゼン環を有し、且つ、その複数のベンゼン環が1方向に沿って配列するように該複数のベンゼン環が直接的または間接的に相互に連結されると共に、その一方の連結端のベンゼン環が前記ベンゾオキサジン環のベンゼン環に直接的または間接的に連結されている第1の原子団と、その第1の原子団における前記複数のベンゼン環の他方の連結端のベンゼン環または前記ベンゾオキサジン環のヘテロ環の少なくとも一方に結合され、分子に柔軟性を付与する第2の原子団とを備え、分子構造中に前記ベンゾオキサジン環が1つ含まれた非対称性の構造で形成され、液晶性を有するものである。
【0013】
尚、重合反応によって高分子量化するとは、反応によって分子量が増大することを意味するものであり、モノマーが高分子量化することのみならず、架橋反応によるネットワーク形成によって高分子量化することも含む概念である。
【0014】
また、ベンゾオキサジン環とは、骨格がベンゾオキサジン環構造で形成されているものを意味し、結合する水素原子が置換基で置換されているものをも含む概念である。
【0015】
更に、複数のベンゼン環が1方向に沿って配列するとは、複数のベンゼン環が大略的に1方向に伸びるように配置されることを意味しており、直線上に整列することのみを示すものではない。
【0016】
請求項2記載の液晶性ベンゾオキサジン系化合物は、請求項1に記載の液晶性ベンゾオキサジン系化合物において、前記第1の原子団は、前記複数のベンゼン環を結合するための官能基と、前記一方の連結端のベンゼン環と前記ベンゾオキサジン環とを結合するための官能基とを備えているものである。
【0017】
請求項3記載の液晶性ベンゾオキサジン系化合物は、請求項2に記載の液晶性ベンゾオキサジン系化合物において、前記官能基は、イミノ基またはエステル基の少なくとも一方を含むものである。
【0018】
請求項4記載の液晶性ベンゾオキサジン系化合物は、請求項2又は3に記載の液晶性ベンゾオキサジン系化合物において、前記複数のベンゼン環を結合するための官能基は、結合する前記ベンゼン環を介してパラ位に位置するものである。
【0019】
請求項5記載の液晶性ベンゾオキサジン系化合物は、請求項4に記載の液晶性ベンゾオキサジン系化合物において、前記第1の原子団は、下記の一般式(1)であらわされるものであり、イミノ基を介してベンゾオキサジン環と結合されるものである。
【0020】
【化1】

【0021】
請求項6記載の液晶性ベンゾオキサジン系化合物は、請求項4に記載の液晶性ベンゾオキサジン系化合物において、前記第1の原子団は、下記の一般式(2)であらわされるものであり、イミノ基を介してベンゾオキサジン環と結合されるものである。
【0022】
【化2】

【0023】
請求項7記載の液晶性ベンゾオキサジン系化合物は、請求項1から6のいずれかに記載の液晶性ベンゾオキサジン系化合物において、前記第2の原子団は、アルキル基またはアルコキシ基である。
【0024】
請求項8記載の液晶性ベンゾオキサジン系重合組成物は、請求項1から7のいずれかに記載の液晶性ベンゾオキサジン系化合物と、無機酸、無機塩基、有機酸、有機塩基のいずれかから選択される少なくとも1の添加物とを含有するものである。
【0025】
尚、無機酸、無機塩基、有機酸、有機塩基として、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、ギ酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、p−トルエンスルホン酸、ピリジン、トリアルキルアミン、ジアザビシクロウンデセン、ヒスチジン、イミダゾリウム化合物などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
請求項9記載の液晶性ベンゾオキサジン系重合組成物は、請求項8に記載の液晶性ベンゾオキサジン系重合組成物において、前記添加物はp−トルエンスルホン酸またはイミダゾールである。
【発明の効果】
【0027】
請求項1記載の液晶性ベンゾオキサジン系化合物によれば、第1の原子団は、複数のベンゼン環が1の方向に沿って配列するように、該複数のベンゼン環が直接的または間接的に相互に連結されている。一般に、直線性や平面性を有する分子構造は剛直な分子構造となり易いが、ベンゼン環の連結構造は、かかる直線性や平面性を有する剛直な分子構造を実現できるものである。更に、本化合物は分子に柔軟性を付与する第2の原子団を備えている。
【0028】
ここで、一般に、剛直性を付与する部位と柔軟性を付与する部位との両者を分子内に備えることは液晶性を発現する重要な要件とされているが、ベンゾオキサジン環を備えるベンゾオキサジン系化合物は、剛直性を付与する部位を形成するとされる原子団と、柔軟性を付与する部位を形成する原子団とを単純に分子内に導入しただけでは、液晶性となり難い。
【0029】
しかし、本化合物は、上記の第1の原子団と第2の原子団とを備えると共に、第1の原子団における連結端のベンゼン環がベンゾオキサジン環に直接的または間接的に連結されており、更に、その分子構造が、ベンゾオキサジン環を1つ含むものとなっている。このため、ベンゾオキサジン環を備えていても、当該ベンゾオキサジン環が、ベンゼン環の連結構造にて創出される直線性や平面性に与える影響を小さくすることができる。よって、従来困難であったベンゾオキサジン系化合物において液晶性を有する化合物、即ち液晶性ベンゾオキサジン系化合物を得ることができるという効果がある。
【0030】
請求項2記載の液晶性ベンゾオキサジン系化合物によれば、請求項1に記載の液晶性ベンゾオキサジン系化合物の奏する効果に加え、第1の原子団は、複数のベンゼン環を結合するための官能基と、一方の連結端のベンゼン環とベンゾオキサジン環とを結合するための官能基とを備えている。つまり、第1の原子団の複数のベンゼン環は、官能基を介して相互に結合され、また、第1の原子団とベンゾオキサジン環とも官能基を介して相互に連結される。よって、官能基を有する誘導体を用いて本化合物を容易に合成することができるという効果がある。また、官能基を有することで分極が大きくなるため、ベンゾオキサジン系化合物であっても、より一層、容易に液晶性とすることができるという効果がある。
【0031】
請求項3記載の液晶性ベンゾオキサジン系化合物によれば、請求項2に記載の液晶性ベンゾオキサジン系化合物の奏する効果に加え、前記官能基は、イミノ基またはエステル基の少なくとも一方を含むものである。ここで、イミノ基またはエステル基は、官能基の中でも分極の大きなものであるので、ベンゾオキサジン系化合物であっても、更に、より一層、容易に液晶性とすることができるという効果がある。
【0032】
請求項4記載の液晶性ベンゾオキサジン系化合物によれば、請求項2又は3に記載の液晶性ベンゾオキサジン系化合物の奏する効果に加え、複数のベンゼン環を結合するための官能基は、ベンゼン環を介してパラ位に位置するものであるので、第1の原子団の直線性を向上させることができることができ、液晶性のベンゾオキサジン系化合物を、更に、容易に創出することができるという効果がある。
【0033】
請求項5及び6に記載の液晶性ベンゾオキサジン系化合物によれば、請求項4に記載の液晶性ベンゾオキサジン系化合物の奏する効果に加えて、更に、容易に液晶性を発現させることができるという効果がある。
【0034】
請求項7記載の液晶性ベンゾオキサジン系化合物によれば、請求項1から6のいずれかに記載の液晶性ベンゾオキサジン系化合物の奏する効果に加え、第2の原子団は、アルキル基またはアルコキシ基であるので、サーモトロピック液晶性の発現に有効に寄与するという効果がある。
【0035】
請求項8記載の液晶性ベンゾオキサジン系重合組成物によれば、請求項1から7のいずれかに記載の液晶性ベンゾオキサジン系化合物と、無機酸、無機塩基、有機酸、有機塩基のいずれかから選択される少なくとも1の添加物とを含有するものであるので、該添加物が配合されない場合に比べて、ベンゾオキサジンの開環重合温度を変化させることができるという効果がある。更に、液晶性ベンゾオキサジン系化合物が液晶状態となる液晶温度範囲を変更することができるという効果がある。このため、液晶性ベンゾオキサジン系化合物の液晶温度範囲と、重合温度範囲とに隔たりがあった場合に、両者の温度範囲を調整でき、液晶状態での重合を容易化することができる。
【0036】
請求項9記載の液晶性ベンゾオキサジン系重合組成物によれば、請求項8に記載の液晶性ベンゾオキサジン系重合組成物の奏する効果に加え、添加物はp−トルエンスルホン酸またはイミダゾールであるので、重合反応を良好に行わせることができるという効果がある。また、p−トルエンスルホン酸またはイミダゾールを配合することで液晶温度範囲の上限温度を上昇させることができる。
【0037】
一般にベンゾオキサジン系化合物は、200℃〜230℃に加熱することで重合されるが、液晶性ベンゾオキサジン系化合物の液晶温度範囲がこれよりも低温にある場合に、p−トルエンスルホン酸またはイミダゾールを配合することで液晶温度範囲の上限温度を上昇させ、液晶状態での重合を容易化することができる。
【0038】
更に、添加物がp−トルエンスルホン酸である場合には、液晶性ベンゾオキサジン系化合物の液晶温度範囲を拡大できる。ここで、液晶性ベンゾオキサジン系化合物の重合温度は、更なる触媒の添加や、ベンゾオキサジン系化合物以外の他の共重合成分と共重合するといった手法で調整し得るが、液晶温度範囲で重合をおこなわせる場合に、液晶温度範囲が狭小であるほど厳格な重合温度の調整が要求され、その調整が高度になる上多大な労力が必要となる。しかし、p−トルエンスルホン酸が配合された本組成物によれば、液晶性ベンゾオキサジン系化合物の液晶温度範囲を拡大できるので、液晶状態で重合を進行させることのできる温度範囲を拡張でき、その温度範囲内で重合することを容易化できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施例1で生成した原料フェノールの1H NMRスペクトルを示した図である。
【図2】本発明の実施例3で生成した液晶性ベンゾオキサジン系化合物3の1H NMRスペクトルを示した図である。
【図3】本発明の実施例4で生成した原料フェノール(アゾメチンフェノール)の1H NMRスペクトルを示した図である。
【図4】本発明の実施例4で生成した液晶性ベンゾオキサジン系化合物4の1H NMRスペクトルを示した図である。
【図5】比較例1で生成したベンゾオキサジン系化合物1の1H NMRスペクトルを示した図である。
【図6】比較例2で生成したベンゾオキサジン系化合物2の1H NMRスペクトルを示した図である。
【図7】比較例3で生成したベンゾオキサジン系化合物4の1H NMRスペクトルを示した図である。
【図8】比較例4で生成したベンゾオキサジン系化合物5の1H NMRスペクトルを示した図である。
【図9】比較例5で生成したアルデヒド基含有ベンゾオキサジンの1H NMRスペクトルを示した図である。
【図10】比較例5で生成したベンゾオキサジン系化合物6の1H NMRスペクトルを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の液晶性ベンゾオキサジン系化合物は、フェノール類とアミン類とホルムアルデヒドとから合成できるベンゾオキサジン環構造を備えた下記の一般式(3)で示される化合物である。一般式(3)において、X(以下原子団Xと称す)及びR1(以下原子団R1と称す)は、ベンゾオキサジン環に結合する原子団であって、原子団Xはハードセグメントを形成するものであり、ベンゾオキサジン環と共にメソゲンとなるものである。原子団R1はスペーサとなる屈曲鎖である。更に、原子団Xに結合するR2(以下原子団R2と称す)もスペーサとなる屈曲鎖である。尚、一般式(3)においてXで示す原子団Xが請求項記載の第1の原子団に該当し、R1及びR2で示す原子団(原子団R1および原子団R2)が請求項記載の第2の原子団に該当する。
【0041】
【化3】

【0042】
本液晶性ベンゾオキサジン系化合物において、上記一般式(3)に示す原子団Xは、複数のベンゼン環が連結された構造を有している。各ベンゼン環は、分岐鎖ではなく、主鎖を形成するように結合されており、原子団Xの各ベンゼン環は1方向に沿って配列する構成となっている。
【0043】
本液晶性ベンゾオキサジン系化合物では、複数のベンゼン環を官能基を介して連結する場合、その官能基(連結基)は、剛直な結合を成し得る2価の官能基が望ましい。かかる2価の官能基としては、例えば、エステル基、ケトン基、イミノ基(イミン、アゾメチン)、アゾ基、ジイミド基等が例示される。好適には、エステル基、イミノ基である。
【0044】
また、複数のベンゼン環を結合する連結基は、上記のような官能基に限られるものではなく、ベンゼン環と共役する2価の有機基、例えば、アルケン基、アルキン基、ビニレン基、アリーレン基などであっても良い。更に、ビフェニルのように直接的にベンゼン環を結合する単結合であっても良い。
【0045】
尚、このように、ベンゼン環が官能基を介して連結されることが、請求項に記載の間接的に相互に連結されることに該当し、ビフェニル構造のようにベンゼン環が連結されることが、請求項に記載の直接的に相互に連結されることに該当する。
【0046】
原子団Xはメソゲンを形成するセグメントとなっており、分子に剛直性を付与する構造を有している。一般にメソゲンと称される液晶性を付与するための構造は、分子構造が平面性を有する板状であることや、直線性を有していること(棒状であること)が重要な因子とされている。
【0047】
ここで各ベンゼン環を連結する連結基の分子運動の自由度が大きいと、メソゲンとする原子団の分子構造の平面性や直線性に乱れが生じることとなり、その結果、液晶性の発現が困難となる。故に、共鳴効果にてベンゼン環と連結基とに多重結合の傾向を付与して分子運動を規制するべく、ベンゼン環を結合する連結基に上記した官能基やアルケン基などが選択されているのである。
【0048】
更に、原子団Xにおいて各ベンゼン環を連結するための結合手は、ベンゼン環を介してパラ位(ベンゼン環のパラ位)に位置することが望ましい。これによれば、ベンゼン環を連結する上記した官能基等は、ベンゼン環を介してパラ位に配置されるので、1のベンゼン環に対してその両側のベンゼン環は、官能基等を介してパラ位に配置されることとなる。故に、原子団Xの分子構造の直線性が向上し、より、液晶性を発現しやすい構造となる。尚、原子団Xは、複数のベンゼン環が、大略的に1方向に沿った構造を有していれば良く、必ずしも、ベンゼン環がパラ位に配置される構造に限定される必要はない。例えば、メタ配向の結合とオルト配向の結合とが繰り返される構造であっても良く、更には、部分的に、メタ配向やオルト配向の結合が含まれていても良い。
【0049】
かかる原子団Xにおいて主鎖を形成する上述の複数のベンゼン環の内、ベンゾオキサジン環に隣接するものは、上記した官能基やアルケン基等の連結基を介して、ベンゾオキサジン環のベンゼン環に結合されている。尚、1の液晶性ベンゾオキサジン系化合物に含まれる各連結基は、同じものであっても異なるものであっても良い。
【0050】
上記一般式(3)におけるベンゾオキサジン環は、ベンゼン環とヘテロ環との縮合環である。このベンゾオキサジン環の水素原子は、ハロゲンやアルキル基、更には、アリル基、ヒドロキシ基、チオール基、アルデヒド基、カルボキシル基、アシル基、アミノ基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、ホスホ基等で置換されていてもよい。また、置換される水素原子は、単数であっても複数であってもよい。
【0051】
かかるベンゾオキサジン環は、原子団Xと共に、本液晶性ベンゾオキサジン系化合物のメソゲンを形成するものである。言い換えれば、本液晶性ベンゾオキサジン系化合物のメソゲンの一部は、ベンゾオキサジン環で構成されているのである。
【0052】
一般に、原子団Xのように複数のベンゼン環をそのパラ位で連結すると、各ベンゼン環が高い直線性で配列された分子構造をとり易い。ところが、ベンゾオキサジン環はベンゼン環とヘテロ環との縮合環であり、ベンゾオキサジン環を含むメソゲンを形成すべく、ベンゼン環とベンゾオキサジン環とを結合させると屈曲した構造になる。つまり、分子構造の直線性を低下させてしまう。
【0053】
そこで、本液晶性ベンゾオキサジン系化合物は、ベンゾオキサジン環がメソゲンの端部に配置されると共に、分子構造中には1のベンゾオキサジン環のみを備えた構造となっているのである。
【0054】
例えば、メソゲンの両端にベンゾオキサジン環を備えると、一端にベンゾオキサジン環を備える場合よりも分子構造の直線性が低下する。直線性の低い分子構造はメソゲンとなり難く、かかる場合、化合物は、往々にして液晶性とならない。そこで、本液晶性ベンゾオキサジン系化合物は、1のベンゾオキサジン環のみをメソゲンの端部に導入した構造とすることにより、主鎖の軸方向に長くメソゲンの直線性を保持し、ベンゾオキサジン環が含まれていてもメソゲンとする構造部分の直線性の低下を抑制しているのである。
【0055】
上記一般式(3)における原子団R1は、上述したように、スペーサとなる屈曲鎖であり、1以上の炭素原子が単結合で結合した構造を有している。この原子団R1は、直鎖状であることが望ましいが、分岐鎖を備えていてもよく、また、構造中にヘテロ原子を含んでいてもよい。好適には、原子団R1はアルキル基で構成される。また、その鎖長nは1から19の範囲であって、好適には1から7の範囲である。
【0056】
また、上記一般式(3)における原子団R2も、上述したように、スペーサとなる屈曲鎖であり、原子団Xの端部のベンゼン環(ベンゾオキサジン環に隣接するベンゼン環とは反対側の端部のベンゼン環)に結合されている。結合位置は、その端部のベンゼン環を他のベンゼン環に結合するための結合手(上記の官能基やアルケン基などの連結基)に対してパラ位となる位置である。言い換えれば、原子団R2は、原子団Xの当該ベンゼン環のパラ位の水素原子と置換された置換基である。
【0057】
かかる原子団R2は、原子団Xの直線性を大きく阻害させるものでなければ良く、各種の一価の置換基を適宜選択することができる。好適には、アルキル基やアルコキシ基が用いられる。サーモトロピック液晶性の発現に有利に作用するからである。
【0058】
また、原子団R2がアルコキシ基で構成される場合、アルコキシ基を構成する炭素数を変更することで、液晶温度範囲を変更することができ、適宜その炭素数を選択することで、液晶温度範囲の上限値をより高温側へ上昇させることができる。
【0059】
例えば、高分子液晶のポリベンゾオキサジン系樹脂が所望される場合には、液晶性ベンゾオキサジン系化合物を液晶状態で重合することが非常に重要になる。しかし、液晶性ベンゾオキサジン系化合物の重合温度は200〜230℃といった比較的高温にあり、液晶温度範囲は、かかる重合温度よりも低温側となることが多い。後述する液晶性ベンゾオキサジン系重合組成物は、触媒の添加や共重合による重合温度の調整(低温化)によって液晶温度範囲と重合温度との温度差解消を図るものであるが、その温度差が大きいほど重合温度の調整は高度になる。本発明の液晶性ベンゾオキサジン系化合物は、スペーサとなる原子団R2の構造を僅かに変更することで、その液晶温度範囲を調整することができ、例えばその上限値をより高温側へ上昇させるといった調整ができる。その結果、重合温度の調整幅を小さくでき、液晶温度範囲と重合温度との温度差解消を容易化できるのである。
【0060】
尚、分子構造に柔軟性を付与するために、必ずしも、原子団R1,R2の両方を備えている必要はなく、少なくとも原子団R1,R2のいずれか一方を備えていれば良い。
【0061】
このように、本液晶性ベンゾオキサジン系化合物は、分子内に上記のように構成されたメソゲンとスペーサとを備えるので、ベンゾオキサジン系化合物であっても液晶性とすることができるのである。
【0062】
尚、本発明の液晶性ベンゾオキサジン系化合物は、上記一般式(3)の構造を有する1の化合物(単体)であっても、複数の化合物の混合体であってもよい。
【0063】
上記した液晶性ベンゾオキサジン系化合物の原料となるフェノール類とアミン類とホルムアルデヒドとは公知の物質である。その入手方法としては、市販品を用いても良く、また、公知の方法に基づいてそれぞれを製造、精製することで入手しても良い。
【0064】
フェノール類は、上記した原子団Xとベンゾオキサジン環のベンゼン環とを形成する原料であり、得ようとする液晶性ベンゾオキサジン系化合物の分子構造に応じて各種のものが適宜選択される。例えば、原子団Xとベンゾオキサジン環のベンゼン環とがアゾ基で連結された液晶性ベンゾオキサジン系化合物を所望する場合には、フェノール類としてメトキシベンジリデンヒドロキシアニリン(アゾメチン)やアゾメチンフェノールなどを用いることが例示でき、原子団Xとベンゾオキサジン環のベンゼン環とがエステル基で連結された液晶性ベンゾオキサジン系化合物を所望する場合には、4−ヒドロキシ安息香酸フェニルを用いることが例示できる。
【0065】
更には、4−ヒドロキシシアノビフェニルなどのビフェノール類を用いれば、原子団Xとベンゾオキサジン環のベンゼン環とが単結合で結合された液晶性ベンゾオキサジン系化合物を構築できる。又、これらの誘導体を用いれば、複数のベンゼン環が上記した連結基で連結された原子団Xを容易に構築できる。
【0066】
更に、液晶性を有するフェノール(R.A.Vora,R.S.Gupta,MolecularCrystals
and Liquid Crystals ,56,31(1979)を参照)を原料フェノールに用いても良い。尚、本液晶性ベンゾオキサジン系化合物を生成するためのフェノール類はこれらに限定されるものではない。
【0067】
また、本発明において液晶性ベンゾオキサジン系化合物の原料に用いられるアミン類(原子団Rを形成するアミン類)としては、脂肪族アミン、芳香族アミンや、その置換体、誘導体などから適宜選択される。また、かかるアミン類は、主鎖にヘテロ原子を含むものであっても良い。
【0068】
本液晶性ベンゾオキサジン系化合物の製造方法は、特に限定されないが、例えば、反応容器に上記の各必須成分(フェノール類、アミン類、ホルムアルデヒド)と任意成分(溶媒等)とを一度にまたは順次投入し、加熱、還流を行うことで製造する方法を適用することができる。
【0069】
また、予めベンゾオキサジン系化合物(例えばヒドロキシベンズアルデヒドを原料として生成されるアルデヒド基含有ベンゾオキサジン化合物)を製造し、次いで、原子団Xを付加するべく、その原料(例えばフェニレンジアミン等)を反応させて製造する方法を適用することができる。
【0070】
本液晶性ベンゾオキサジン系化合物においてベンゾオキサジン環は重合基であり、本液晶性ベンゾオキサジン系化合物は、そのベンゾオキサジン環の開環によって重合可能な液晶モノマーである。このため、液晶状態で重合して高分子を生成し得る。本液晶性ベンゾオキサジン系化合物をベンゾオキサジン環の開環重合により高分子化すると、フェノール樹脂(ポリベンゾオキサジン)となる。
【0071】
本液晶性ベンゾオキサジン系化合物は、通常、200〜230℃程度で10〜180分程度加熱することにより重合(硬化)される。
【0072】
一般に、ベンゾオキサジン系化合物の重合は、触媒の非存在下の加熱による開環重合で反応が進行させることができるので、触媒が必要ない上、重合過程で副生成物の発生はなく、ボイドのない寸法安定性の良いポリマーを得ることができる。
【0073】
本液晶性ベンゾオキサジン系化合物についても、当然、他のベンゾオキサジン系化合物と同様、無触媒下の加熱で重合できるが、一般に用いられる触媒を用いて重合を行っても良い。
【0074】
本発明の液晶性ベンゾオキサジン系重合組成物は、本発明の液晶性ベンゾオキサジン系化合物と添加物とを含んでなる混合物であり、最終的に高分子体を生成するための組成物である。特に、高分子液晶のポリベンゾオキサジン系樹脂が所望される場合には、液晶性ベンゾオキサジン系化合物を液晶状態で重合することが非常に重要になる。ところが、液晶性ベンゾオキサジン系化合物の液晶温度範囲は、その重合温度よりも低温側にあることも多い。そこで、液晶性ベンゾオキサジン系化合物に添加物を配合することで、重合温度を低下させ、液晶状態を保持したまま液晶性ベンゾオキサジン系化合物が重合されるように液晶性ベンゾオキサジン系重合組成物は設計されているのである。
【0075】
ここで、添加物は、無機酸、無機塩基、有機酸、有機塩基であって、好適にはベンゾオキサジンの開環重合を促進するものが用いられる。かかる添加物としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、ギ酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、p−トルエンスルホン酸、安息香酸、フェノール、チオフェノール、ピリジン、トリアルキルアミン、ジアザビシクロウンデセン、ヒスチジン、イミダゾリウム化合物などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0076】
更に好適には、重合触媒として汎用される塩酸、パラトルエンスルホン酸(p−トルエンスルホン酸)、安息香酸、フェノール、チオフェノール、2−エチル−4−メチルイミダゾールなどが上記添加物として用いられ、特に好適には、p−トルエンスルホン酸や、2−エチル−4−メチルイミダゾールが用いられる。
【0077】
かかる添加物の配合量は、添加物の種類に応じて適宜選択されるが、液晶ベンゾオキサジン系化合物100重量部に対して0.001重量部以上、50重量部以下とすることが望ましい。添加物の配合量が0.001重量部未満では、液晶温度範囲を拡大させることや、重合温度を低下させることができず、50重量部を超えると巨視的な相分離が起こりやすくなるためである。
【0078】
また、添加物がp−トルエンスルホン酸または2−エチル−4−メチルイミダゾールである場合など、液晶ベンゾオキサジン系化合物の液晶温度範囲調整を行うことができる。ここで液晶温度範囲の上限温度上昇を目的としてかかる添加物を配合する場合には、その配合量は、好適には液晶ベンゾオキサジン系化合物100重量部に対して、0.01重量部以上10重量部未満であり、更に好適には0.01重量部以上5重量部以下である。かかる範囲であれば、添加物の配合により、液晶上限温度の高温化や液晶温度範囲の拡大、重合温度低下を実現しつつ、重合生成物となるベンゾオキサジン系樹脂の耐熱性や誘電特性を大きく低下させない。
【0079】
ここで、配合量増加に伴って重合温度を低下させる添加物を用いる場合、重合温度と液晶温度範囲との乖離が大きいと多量の添加物配合が必要となって、重合生成物となるベンゾオキサジン系樹脂の耐熱性や誘電特性を低下させてしまうといった不具合を生じかねない。本液晶性ベンゾオキサジン系化合物は、上記したように、原子団R2の分子構造を変更することで液晶温度範囲の上限値を上昇させることができ、その結果、重合温度の調整幅を狭小化できる。このため、液晶性ベンゾオキサジン系重合組成物に配合される添加物の配合量を抑制することができ、重合生成物となるベンゾオキサジン系樹脂の耐熱性や誘電特性が、ベンゾオキサジン系樹脂以外の他の成分によって大きく低下してしまうといった事態を回避できる。
【0080】
また、本液晶性ベンゾオキサジン系重合組成物は、1種類の添加物が配合されたもののみならず、複数種類の添加物が配合されてもよい。また、上述した添加物以外の他の成分を含んで構成されても良い。かかる成分としては、例えば、アルミナ、チタニア、炭酸カルシウム等の各種フィラーや、液晶性ベンゾオキサジン系化合物と共重合する共重合成分等が例示される。
【0081】
本液晶性ベンゾオキサジン系重合組成物に配合される共重合成分としては、特に限定されないが、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0082】
また、本液晶性ベンゾオキサジン系化合物は、加熱した際にヒドロキシ基が生じるので、エポキシ樹脂やフェノール樹脂等のヒドロキシ基と反応性を有する官能基を有する樹脂と共架橋することができ、これらの樹脂の力学的特性等を大幅に改善できる。特に、エポキシ樹脂が簡便に硬化物を得ることができるという点からより好ましい。
【0083】
エポキシ樹脂としては、少なくとも1つのエポキシ基を有する化合物であれば特に限定されない。具体的には、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ヘキサヒドロビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールA、ピロカテコール、レゾルシノール、クレゾールノボラック、テトラブロモビスフェノールA、トリヒドロキシビフェニル、ビスレゾルシノール、ビスフェノールヘキサフルオロアセトン、テトラメチルビスフェノールF、ビキシレノール、ジヒドロキシナフタレン等の多価フェノールとエピクロルヒドリンとの反応によって得られるグリシジルエーテル型;グリセリン、ネオペンチルグリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の脂肪族多価アルコールとエピクロルヒドリンとの反応によって得られるポリグリシジルエーテル型;p−オキシ安息香酸、β−オキシナフトエ酸等のヒドロキシカルボン酸とエピクロルヒドリンとの反応によって得られるグリシジルエーテルエステル型;フタル酸、メチルフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラハイドロフタル酸、ヘキサハイドロフタル酸、エンドメチレンテトラハイドロフタル酸、エンドメチレンヘキサハイドロフタル酸、トリメリット酸、重合脂肪酸等のポリカルボン酸から誘導されるポリグリシジルエステル型;アミノフェノール、アミノアルキルフェノール等から誘導されるグリシジルアミノグリシジルエーテル型;アミノ安息香酸から誘導されるグリシジルアミノグリシジルエステル型;アニリン、トルイジン、トリブロムアニリン、キシリレンジアミン、ジアミノシクロヘキサン、ビスアミノメチルシクロヘキサン、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、4,4′−ジアミノジフェニルスルホン等から誘導されるグリシジルアミン型;さらにエポキシ化ポリオレフィン、グリシジルヒダントイン、グリシジルアルキルヒダントイン、トリグリシジルシアヌレート等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0084】
上述したように、本発明の液晶性ベンゾオキサジン系化合物によれば、上記構造を備えることにより、液晶性を付与することが困難であったベンゾオキサジン系化合物に液晶性を付与することができる。これによれば、液晶モノマーとして、ベンゾオキサジン系化合物を提供できる。また、かかる液晶性ベンゾオキサジン系化合物に起因する骨格を導入した高分子を生成することができる。更に、本発明の液晶性ベンゾオキサジン系重合組成物によれば、液晶性ベンゾオキサジン系化合物の重合温度を調整でき、液晶性ベンゾオキサジン系化合物を液晶状態で重合することを容易化できる。
【実施例】
【0085】
次に、実施例および比較例に基づいて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0086】
なお、下記の分析方法により各実施例及び比較例にて合成した化合物の構造決定と液晶性の評価とを行った。
【0087】
(構造決定)構造決定はプロトン核磁気共鳴(1H NMR)により行った。重水素化クロロホルムまたは重水素化ジメチルスルホキシドを測定溶媒として用い、室温で1H NMRを測定した。尚、図1から図10において、各図の上方には測定した化合物を示し、下方にその測定結果の1H NMRスペクトルを示している。また、図の上方に示された化合物の1H NMRスペクトルにて特定された部位は、同じ図の下方に示されている1H NMRスペクトルの対応するピークに付したアルファベット記号と同じ記号で指し示している。
【0088】
(液晶性評価試験)液晶性評価試験は示差走査熱量計(DSC)及び偏光顕微鏡により行った。DSC測定は、アルミニウムパンに封入したサンプルを窒素雰囲気下、5℃毎分(実施例13のみ10℃毎分)の速度で昇温及び降温測定を行った。また、偏光顕微鏡観察は、ガラス板で挟んだサンプルをホットステージ上で、5℃毎分の速度で昇温及び降温を行い、クロスニコル条件下で相状態を観察することで行った。
【0089】
(重合温度評価)重合温度評価は示差走査熱量計(DSC)により行った。DSC測定は、アルミニウムパンに封入したサンプルを窒素雰囲気下、5℃毎分の速度で昇温及び降温測定を行った。尚、重合は発熱反応として観察されるため、実施例においては、DSCにて上記条件で測定した場合に、昇温過程において発熱反応が開始される温度(重合開始温度)からその発熱反応が終了する温度(重合終了温度)までを重合温度とした。
【0090】
<実施例1>
まず式(4)に示す原料フェノール(液晶性を有するフェノール)の合成を、R. A.
Vora, R. S. Gupta, Molecular Crystals and Liquid Crystals,56,31(1979)を参照して行った。
【0091】
【化4】

【0092】
具体的には、三口フラスコに4−ヘプチルオキシ安息香酸(和光純薬工業社製)0.02molをとり、無水THF5gで溶解後、塩化チオニル0.2molを加え、DMF数滴を滴下した後、35℃で8時間反応を行った。トラップを2個つなげダイアフラムポンプで減圧し、未反応の塩化チオニルを2時間程度蒸留した。その後、反応温度を40℃とし、ロータリー真空ポンプに変えてさらに2時間蒸留した.窒素パージにて常圧に戻してから、無水THF20ml、p−ヒドロキシベンズアルデヒド(和光純薬工業社製)0.02molを加え、無水ピリジン0.02molを滴下した。そして、窒素雰囲気下、50℃で8時間反応を行った。次いで、メタノール20mlを加えた後、500mlの水に溶液を滴下し、再沈澱した。当該反応液をガラスフィルターでろ過し、回収した固体をアセトンに溶解後、無水硫酸ナトリウムで脱水した。
【0093】
無水硫酸ナトリウムをろ過で取り除き、減圧濃縮、真空乾燥(常温で数時間、更に80℃で数時間)を行い、収量5.06g、収率74.3%で白色固体(I)を得た。そして、得られた白色固体(I)0.015molを三口フラスコにとり、エタノール35mlで溶解させた後、p−アミノフェノール(和光純薬工業社製)0.015molを加えてから、オイルバスにて100℃に加温しながら5時間還流を行った。
【0094】
還流によって生じた沈澱を、ガラスフィルターを用いて吸引ろ過で集め、100mlのメタノールで洗浄後THFに溶解したものについて、ダイアフラムポンプで20分程度乾燥した後、更に真空乾燥(80℃で4時間)を行った。これにより、収量4.02g、収率62.5%で白色固体(II)を得た。得られた生成物(白色固体(II))の1H NMRスペクトルを図1に示す。
【0095】
図1からわかるように、10ppm付近のアルデヒド基のシグナルが消失し、アゾメチンのシグナルが8.4ppmに現れ、積分比も一致することから上記の式(4)に示す目的生成物(原料フェノール)であることを確認した。
【0096】
次に、50mlの3ツ口フラスコに10mlのクロロホルムをとり、ブチルアミン(和光純薬工業社製)2mmolを溶解し、氷浴中でホルマリン(37%水溶液)をホルムアルデヒド換算で4mmol加え、10分撹拌した。ここへ、合成した原料フェノールである白色固体(II)1mmol(0.43g)を加え、還流温度(約61℃)で12時間反応させた。反応終了後、100mlのメタノール中に反応溶液を滴下した後、沈澱物を濾別し、濾別した沈澱物を10mlのメタノールで洗浄、真空乾燥することで、式(5)に示す液晶性ベンゾオキサジン系化合物1の0.30g(収率58%)を得た。
【0097】
得られた液晶性ベンゾオキサジン系化合物1について、NMRにより構造決定を行ったところ、1H NMRスペクトルから、式(5)に示す目的の構造体であることを確認した。次いで、得られた液晶性ベンゾオキサジン系化合物1について、液晶性評価を行った。結果を表1に示す。
【0098】
【化5】

【0099】
<実施例2>
実施例1にて用いたブチルアミンをメチルアミン(キシダ化学社製)に変更した以外は、上記実施例1と同様の操作にて、式(6)に示す液晶性ベンゾオキサジン系化合物2を合成した。収率は50%前後であった。得られた液晶性ベンゾオキサジン系化合物2について、NMRにより構造決定を行ったところ、1H NMRスペクトルから、式(6)に示す目的の構造体であることを確認した。次いで、得られた液晶性ベンゾオキサジン系化合物2について、液晶性評価を行った。結果を表1に示す。
【0100】
【化6】

【0101】
<実施例3>
実施例1にて用いたブチルアミンをオクチルアミン(和光純薬工業社製)に変更した以外は、上記実施例1と同様の操作にて、式(7)に示す液晶性ベンゾオキサジン系化合物3を合成した。収率は、50%前後であった。
【0102】
【化7】

【0103】
図2は、実施例3の液晶性ベンゾオキサジン系化合物3の1H NMRスペクトルである。4.0ppm、4.95ppm付近にオキサジン環のメチレンプロトンのシグナルが確認でき、積分比も一致することから式(7)に示す液晶性ベンゾオキサジン系化合物3であることを確認した。次いで、得られた液晶性ベンゾオキサジン系化合物3について、液晶性評価を行った。結果を表1に示す。
【0104】
<実施例4>
まず式(8)に示す原料フェノール(アゾメチンフェノール)の合成を行った。
【0105】
【化8】

【0106】
具体的には、三口フラスコにテレフタルアルデヒド(和光純薬社製)0.01molをとり、THF40mlで溶解後、4−n−オクチルアニリン(東京化成工業社製)0.01molを加えて5時間還流してから、さらにp−アミノフェノール(和光純薬工業社製)0.01molを加えて5時間還流した。その後、減圧乾燥により溶媒を除いてから、メタノールで洗浄し、次いで、熱ヘキサンで洗浄した。そして、減圧乾燥を行い、黄色粉末状生成物を収率45%(1.86g)で得た。得られた黄色粉末状生成物の1H NMRスペクトルを図3に示す。
【0107】
図3からもわかるようにアゾメチンのシグナルが見られ、積分値も一致することから、得られた黄色粉末状生成物は、式(8)に示すアゾメチンフェノールであることを確認した。
【0108】
次に、50mlの3ツ口フラスコに10mlのクロロホルムをとり、オクチルアミン(和光純薬工業社製)2mmolを溶解し、氷浴中でホルマリン(37%水溶液)をホルムアルデヒド換算で4mmol加え、10分撹拌した。さらに、上記の操作で得られた式(8)に示すアゾメチンフェノール1mmol(0.41g)を加え、還流温度(約61℃)で12時間反応させた。反応終了後、100mlのメタノール中に反応溶液を滴下し、沈澱物を濾別し、濾別した沈澱物を10mlのメタノールで洗浄、真空乾燥することで式(9)に示す液晶性ベンゾオキサジン系化合物4の0.29g(収率51%)を得た。
【0109】
【化9】

【0110】
図4は、実施例4の液晶性ベンゾオキサジン系化合物4の1H NMRスペクトルである。4.0ppm、4.95ppm付近にオキサジン環のメチレンプロトンのシグナルが確認でき、積分比も一致することから式(9)に示す液晶性ベンゾオキサジン系化合物4であることを確認した。次いで、得られた液晶性ベンゾオキサジン系化合物4について、液晶性評価を行った。結果を表1に示す。
【0111】
<比較例1>
3つ口フラスコに、溶媒としてジオキサンを加え、ホルムアルデヒド0.04mol、1,4−ブタンジアミン(和光純薬工業社製)0.01mol、4,4’−ビフェノール(和光純薬工業社製)0.01molを順次添加し、100℃で6時間反応させた。1M−Na2CO3水溶液、水で生成物を各2回洗浄し、減圧乾燥後、エーテル中で再沈殿を行って精製し、更に、減圧乾燥することにより粉末状の物質を得た。精製後の収率は、75%程度であった。
【0112】
図5に示す1H NMRスペクトルから、得られた粉末状の物質は、式(10)に示すベンゾオキサジン系化合物1であることを確認した。
【0113】
【化10】

【0114】
また、サイズ除去クロマトグラフィーより分子量(ポリスチレン換算)を求めたところ数平均分子量は800程度で、重合度lは2程度であった。次いで、得られたベンゾオキサジン系化合物1について、液晶性評価を行った。結果を表1に示す。
【0115】
<比較例2>
3つ口フラスコに、溶媒としてクロロホルムを加え、ホルムアルデヒド0.04mol、ブチルアミン(和光純薬工業社製)0.02mol、4,4'−ビフェノール(和光純薬工業社製)0.02molを順次添加し、6時間還流した。
【0116】
生成物は3M−NaOH水溶液で1回洗浄後、0.5M〜1M−HCl水溶液で2〜3回洗浄し、更に、3M−NaOH水溶液で2〜3回洗浄後、最後に水で中性になるまで洗浄した。無水硫酸ナトリウムで脱水後、減圧乾燥し、白色結晶を得た。収率は、45%程度であった。
【0117】
図6に示す1H NMRスペクトルにおいて、4.0ppm、4.95ppm付近にオキサジン環のメチレンプロトンのシグナルが確認でき、積分比もアルキレン鎖、芳香環と一致することから、得られた白色結晶は、式(11)に示すベンゾオキサジン系化合物2(n=3)であることを確認した。
【0118】
また、上記ジアミンをブチルアミンからオクチルアミン(和光純薬工業社製)に変更して、同様に白色結晶を得た。図示を省略するが、1H NMRスペクトルから式(11)に示すベンゾオキサジン系化合物3(n=7)であることを確認した。次いで、得られたベンゾオキサジン系化合物2,3について、液晶性評価を行った。結果を表1に示す。
【0119】
【化11】

【0120】
<比較例3>
3つ口フラスコに、溶媒としてクロロホルムを加え、ホルムアルデヒド0.02mol、ブチルアミン(和光純薬工業社製)0.01mol、4−ヒドロキシ−4'−シアノビフェニル(東京化成工業社製)0.01molを順次添加し、10時間還流した。
【0121】
生成物は減圧乾燥後、ヘキサン中で再結晶することで精製した。尚、シアノビフェニルはアルカリ溶液に溶解するため、洗浄操作は省略した。精製後の収率は、24%程度であった。得られた黄色結晶の1H NMRスペクトルを図7に示す。
【0122】
図7からもわかるように4.0ppm、4.95ppm付近にオキサジン環のメチレンプロトンのシグナルが確認でき、積分比もアルキレン鎖、芳香環と一致することから式(12)に示す構造のベンゾオキサジン系化合物4であることを確認した。次いで、得られたベンゾオキサジン系化合物4について、液晶性評価を行った。結果を表1に示す。
【0123】
【化12】

【0124】
<比較例4>
クロロホルムを3つ口フラスコに取り、ホルムアルデヒド0.02mol、4−n−ブチルアニリン(東京化成工業社製)0.01mol、3−メトキシフェノール(東京化成工業社製)0.01molの順に加え、95℃で12時間還流を行った。生成物は0.5MのHCl水溶液、1MのNaOH水溶液でそれぞれ2回洗浄してから、中性になるまで水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで脱水し、室温で(15℃程度)減圧乾燥した。その後、さらにヘキサン中で再結晶することにより精製し、黄白色結晶を得た。得られた黄白色結晶の1H NMRスペクトルを図8に示す。
【0125】
図8からもわかるようにオキサジン環のシグナルが認められ、メトキシ基のメチル(図8中にSで示す)を基準とした時に積分値も一致することから、式(13)に示す構造のベンゾオキサジン系化合物5であることを確認した。次いで、得られたベンゾオキサジン系化合物5について、液晶性評価を行った。結果を表1に示す。
【0126】
【化13】

【0127】
<比較例5>
アルデヒド基含有ベンゾオキサジンの合成を行うべく、3つ口フラスコにクロロホルムをとり、ブチルアミン0.02mol、ホルムアルデヒド0.04molを加え、95℃で5時間還流させた。この中にヒドロキシベンズアルデヒド(和光純薬工業社製)0.02molを加え、さらに12時間還流させた。生成物は水で3回洗浄し、無水硫酸ナトリウムで脱水した後、室温(15℃程度)で減圧乾燥させることで収率95%でアルデヒド基含有ベンゾオキサジンを得た。
【0128】
図9に生成物(アルデヒド基含有ベンゾオキサジン)の1H NMRスペクトルを示す。図9からもわかるように、アルデヒド基の残存とオキサジン環の生成が認められた。更に、図9において、ベンズアルデヒドとアミンとが反応して生じるアゾメチンのプロトンが認められないことを確認した。また、積分値も理論値にほぼ一致していることから、生成物は、式(14)に示すアルデヒド基含有ベンゾオキサジンであった。
【0129】
【化14】

【0130】
次に、三つ口フラスコに溶媒THFをとり、得られたアルデヒド基含有ベンゾオキサジン0.01molと、フェニレンジアミン(和光純薬工業社製)0.005molと加え、95℃で10時間還流し、生成物を濃縮した後、ヘキサン中に再沈澱して収率53%で黄色結晶を得た。図10に、得られた黄色結晶の1H NMRスペクトルを示す。図10からもわかるように、アゾメチン基のプロトン(図10においてCで示す)の存在とオキサジン環の残存、更には、9.8ppm付近のアルデヒド基のシグナルの消失を確認し、積分値も理論値にほぼ一致していることから、式(15)に示す化学構造を有する目的のベンゾオキサジン系化合物6であることを確認した。次いで、得られたベンゾオキサジン系化合物6について、液晶性評価を行った。結果を表1に示す。
【0131】
【化15】

【0132】
表1に示すように、実施例1から実施例4において生成した化合物(液晶性ベンゾオキサジン系化合物1〜4)には、液晶性が認められた。表1には、液晶状態が検出されたものについてその温度範囲を表示している。また、表1において、「−」の表示は、DSC測定および偏光顕微鏡観察のいずれにおいても液晶状態が検出されなかったことを示しており、空欄は(昇温過程において硬化が生じたため)測定を行っていないことを示している。更に、表1における「*」の表示は、偏光顕微鏡観察において液晶状態が検出されなかったことを示している。尚、液晶性評価試験は、上記したようにDSC測定と偏光顕微鏡観察とを併用して行ったが、表1に記載した温度は、偏光顕微鏡観察から得られた結果を示している。
【0133】
【表1】

【0134】
具体的には、実施例1において合成した液晶性ベンゾオキサジン系化合物1は、降温過程において、76℃〜87℃の範囲でネマチック液晶となり、52℃〜76℃の範囲でスメクチック液晶となった。実施例2において合成した液晶性ベンゾオキサジン系化合物2は、昇温過程において90℃〜122℃の範囲でネマチック液晶となり、降温過程においても、62℃〜123℃の範囲でネマチック液晶、33℃〜62℃の範囲でスメクチック液晶となった。実施例3において合成した液晶性ベンゾオキサジン系化合物3は、昇温過程において64℃〜76℃の範囲でネマチック液晶となり、降温過程においては、30℃〜73℃の範囲でスメクチック液晶となった。実施例4において合成した液晶性ベンゾオキサジン系化合物4は、降温過程において、58℃〜71℃の範囲でスメクチック液晶となった。
【0135】
一方で、比較例1〜5で合成したいずれのベンゾオキサジン系化合物も、液晶性は示さなかった。表1の結果から明らかなように、本発明の液晶性ベンゾオキサジン系化合物は、液晶性を発現する構造を有しており、従来困難であった、液晶モノマーとし得るベンゾオキサジン系化合物を実現できる。
【0136】
<実施例5>
実施例1にて用いた4−ヘプチルオキシ安息香酸をp−アニス酸(東京化成工業社製)に変更した以外は、上記実施例1と同様の操作にて、式(16)に示す液晶性ベンゾオキサジン系化合物5を合成した。収率は50%前後であった。得られた液晶性ベンゾオキサジン系化合物5について、NMRにより構造決定を行ったところ、1H NMRスペクトルから、式(16)に示す目的の構造体であることを確認した。次いで、得られた液晶性ベンゾオキサジン系化合物5について、偏光顕微鏡観察により液晶性評価を行った。結果を表2に示す。
【0137】
【化16】

【0138】
<実施例6>
実施例5においてブチルアミンをメチルアミン(キシダ化学社製)に変更した以外は、上記実施例5と同様の操作にて、式(17)に示す液晶性ベンゾオキサジン系化合物6を合成した。収率は50%前後であった。得られた液晶性ベンゾオキサジン系化合物6について、NMRにより構造決定を行ったところ、1H NMRスペクトルから、式(17)に示す目的の構造体であることを確認した。次いで、得られた液晶性ベンゾオキサジン系化合物6について、偏光顕微鏡観察により液晶性評価を行った。結果を表2に示す。
【0139】
【化17】

【0140】
<実施例7>
実施例5においてブチルアミンをオクチルアミン(キシダ化学社製)に変更した以外は、上記実施例5と同様の操作にて、式(18)に示す液晶性ベンゾオキサジン系化合物7を合成した。収率は50%前後であった。得られた液晶性ベンゾオキサジン系化合物7について、NMRにより構造決定を行ったところ、1H NMRスペクトルから、式(18)に示す目的の構造体であることを確認した。次いで、得られた液晶性ベンゾオキサジン系化合物7について、偏光顕微鏡観察により液晶性評価を行った。結果を表2に示す。
【0141】
【化18】

【0142】
<実施例8>
実施例1にて用いた4−ヘプチルオキシ安息香酸を4−ブトキシ安息香酸(東京化成工業社製)に変更した以外は、上記実施例1と同様の操作にて、式(19)に示す液晶性ベンゾオキサジン系化合物8を合成した。収率は50%前後であった。得られた液晶性ベンゾオキサジン系化合物8について、NMRにより構造決定を行ったところ、1H NMRスペクトルから、式(19)に示す目的の構造体であることを確認した。次いで、得られた液晶性ベンゾオキサジン系化合物8について、偏光顕微鏡観察により液晶性評価を行った。結果を表2に示す。
【0143】
【化19】

【0144】
<実施例9>
実施例8においてブチルアミンをメチルアミン(キシダ化学社製)に変更した以外は、上記実施例8と同様の操作にて、式(20)に示す液晶性ベンゾオキサジン系化合物9を合成した。収率は50%前後であった。得られた液晶性ベンゾオキサジン系化合物9について、NMRにより構造決定を行ったところ、1H NMRスペクトルから、式(20)に示す目的の構造体であることを確認した。次いで、得られた液晶性ベンゾオキサジン系化合物9について、偏光顕微鏡観察により液晶性評価を行った。結果を表2に示す。
【0145】
【化20】

【0146】
<実施例10>
実施例9においてメチルアミンをオクチルアミン(キシダ化学社製)に変更した以外は、上記実施例9と同様の操作にて、式(21)に示す液晶性ベンゾオキサジン系化合物10を合成した。収率は50%前後であった。得られた液晶性ベンゾオキサジン系化合物10について、NMRにより構造決定を行ったところ、1H NMRスペクトルから、式(21)に示す目的の構造体であることを確認した。次いで、得られた液晶性ベンゾオキサジン系化合物10について、偏光顕微鏡観察により液晶性評価を行った。結果を表2に示す。
【0147】
【化21】

【0148】
表2に示す実施例2,5〜10において合成した化合物(液晶性ベンゾオキサジン系化合物2,5〜10)は、全て液晶性であった。実施例5,7,10において合成した化合物(液晶性ベンゾオキサジン系化合物5,7,10)には、降温過程でのみ液晶性が示された。尚、表2には、昇温過程で液晶状態が検出されたものについてその温度範囲を表示している。表2において、「−」の表示は、DSC測定および偏光顕微鏡観察のいずれにおいても液晶状態が検出されなかったことを示している。尚、液晶性評価試験は、上記したようにDSC測定と偏光顕微鏡観察とを併用して行ったが、表2に記載した温度は、偏光顕微鏡観察から得られた結果を示している。
【0149】
【表2】

【0150】
実施例5おいて合成した液晶性ベンゾオキサジン系化合物5、実施例8において合成した液晶性ベンゾオキサジン系化合物8は、原子団R2を構成するアルコキシ基の炭素数のみが異なる構造になっている。液晶性ベンゾオキサジン系化合物5、液晶性ベンゾオキサジン系化合物8のアルコキシ基の炭素数は、それぞれ、1、4である。
【0151】
液晶性ベンゾオキサジン系化合物5は、降温過程でのみ液晶性を示し昇温過程では液晶性を示さなかったが、液晶性ベンゾオキサジン系化合物8は、昇温過程において75℃〜95℃の範囲でネマチック液晶となった。
【0152】
また、実施例2において合成した液晶性ベンゾオキサジン系化合物2、実施例9において合成した液晶性ベンゾオキサジン系化合物9、実施例6において合成した液晶性ベンゾオキサジン系化合物6も、原子団R2を構成するアルコキシ基の炭素数のみが異なっており、その他の部分は同じ構造の化合物である。液晶性ベンゾオキサジン系化合物2、液晶性ベンゾオキサジン系化合物9、液晶性ベンゾオキサジン系化合物6のアルコキシ基の炭素数は、それぞれ、7、4、1である。
【0153】
液晶性ベンゾオキサジン系化合物2は、90℃〜122℃の範囲でネマチック液晶となった。液晶性ベンゾオキサジン系化合物9は、80℃〜136℃の範囲でネマチック液晶となった。液晶性ベンゾオキサジン系化合物6は、152℃〜161℃の範囲でネマチック液晶となった。液晶性ベンゾオキサジン系化合物2,6,9においては、アルコキシ基の炭素数が少なくなるほど、液晶温度範囲の上限値が上昇する傾向が示された。
【0154】
このように、スペーサとなるアルコキシ基の構造をわずかに変化(炭素数を変更)させることで、液晶特性を変化させ、その温度範囲についても変更(高温化)できることが示された。これによれば、構造に由来する液晶性以外のベンゾオキサジンの特性を保ちつつ、液晶温度範囲についての調整を行うことができる。
【0155】
<実施例11>
実施例2で作製した液晶性ベンゾオキサジン系化合物2に、添加物としてパラトルエンスルホン酸を加え液晶性ベンゾオキサジン系重合組成物を作製した。具体的には、液晶性ベンゾオキサジン系化合物2を5mlサンプル管瓶にとり、パラトルエンスルホン酸(和光純薬工業社製)を所定量加え、THF1mlで溶解した。真空乾燥により溶媒を除去し、液晶性ベンゾオキサジン系重合組成物となる白色固体試料を得た。本実施例では、液晶性ベンゾオキサジン系化合物2(100重量部)に対し、パラトルエンスルホン酸を、それぞれ0.4,2,4重量部添加した配合比の異なる3種類の液晶性ベンゾオキサジン系重合組成物を作製し、各々について液晶性評価を偏光顕微鏡観察にて行った。また、DSC測定により重合温度(重合温度範囲)を測定した。結果を表3に示す。
【0156】
【表3】

【0157】
表3に示すように、液晶性ベンゾオキサジン系化合物2にパラトルエンスルホン酸を配合した本液晶性ベンゾオキサジン系重合組成物では、パラトルエンスルホン酸を添加していない液晶性ベンゾオキサジン系化合物2に比べ広い液晶温度範囲を示した。
【0158】
具体的には、パラトルエンスルホン酸を0.4重量部配合した組成物は昇温過程において104℃〜161℃の範囲でネマチック液晶となり、パラトルエンスルホン酸を2重量部配合した組成物は105℃〜168℃の範囲でネマチック液晶となり、パラトルエンスルホン酸を4重量部配合した組成物は100℃〜170℃の範囲でネマチック液晶となった。また、示差走査熱量計(DSC)により各液晶性ベンゾオキサジン系重合組成物および液晶性ベンゾオキサジン系化合物2の重合温度範囲を測定した結果、パラトルエンスルホン酸が配合されることにより、液晶性ベンゾオキサジン系化合物2単体に比べ、重合終了温度が低温側に移行すること及び添加物量に比例してより低温側に移行することが認められた。
【0159】
このように、本液晶性ベンゾオキサジン系重合組成物を用いれば、液晶性ベンゾオキサジン系化合物の液晶温度範囲を拡張させ且つその上限温度を上昇させることができる。その上、液晶性ベンゾオキサジン系化合物単体を重合する場合に比べて、低温側で重合し得ることが示された。従って、液晶性ベンゾオキサジン系化合物の液晶温度範囲と重合温度との間に隔たりがあっても、本液晶性ベンゾオキサジン系重合組成物とすることで、液晶状態で液晶性ベンゾオキサジン系化合物を重合することを容易化することができる。
【0160】
<実施例12>
実施例2で作製した液晶性ベンゾオキサジン系化合物2に、添加物として2‐エチル‐4‐メチルイミダゾールを加え液晶性ベンゾオキサジン系重合組成物を作製した。具体的には、液晶性ベンゾオキサジン系化合物2を5mlサンプル管瓶にとり、2‐エチル‐4‐メチルイミダゾール(和光純薬工業社製)を所定量加え、THF1mlで溶解した。真空乾燥により溶媒を除去し、液晶性ベンゾオキサジン系重合組成物となる白色固体試料を得た。本実施例では、液晶性ベンゾオキサジン系化合物2(100重量部)に対し、2‐エチル‐4‐メチルイミダゾールを、それぞれ1,5重量部添加した配合比の異なる2種類の液晶性ベンゾオキサジン系重合組成物を作製し、各々について、液晶性評価を偏光顕微鏡観察にて行った。また、DSC測定により重合温度(重合温度範囲)を測定した。結果を表4に示す。
【0161】
<比較例6>
液晶性ベンゾオキサジン系化合物2に対し配合する2‐エチル‐4‐メチルイミダゾールを10重量部とした以外は、実施例12と同様に液晶性ベンゾオキサジン系重合組成物を作製し液晶性評価を偏光顕微鏡観察にて行った。また、DSC測定により重合温度(重合温度範囲)を測定した。結果を表4に示す。
【0162】
【表4】

【0163】
表4に示すように、実施例12で作製した液晶性ベンゾオキサジン系重合組成物、即ち、液晶性ベンゾオキサジン系化合物2に2‐エチル‐4‐メチルイミダゾールを配合したものでは、液晶温度範囲の上限温度が上昇することが認められた。また、液晶性ベンゾオキサジン系化合物2単体に比べ、重合終了温度が低温側に移行すること及び添加物量に比例してより低温側に移行することが認められた。
【0164】
具体的には、2‐エチル‐4‐メチルイミダゾールを1重量部配合した組成物は昇温過程において108℃〜135℃の範囲でネマチック液晶となり、5重量部配合した組成物は94℃〜126℃の範囲でネマチック液晶となった。
【0165】
このように、本液晶性ベンゾオキサジン系重合組成物を用いれば、液晶性ベンゾオキサジン系化合物の液晶温度範囲の上限温度を上昇させると共に、液晶性ベンゾオキサジン系化合物単体を重合する場合に比べて、より、低温側で重合し得ることが示された。
【0166】
一方で、比較例6の2‐エチル‐4‐メチルイミダゾールを10重量部配合した組成物は、80℃〜100℃の範囲でネマチック液晶となった。また、液晶性ベンゾオキサジン系化合物2単体に比べ、液晶温度範囲の上限温度が低下し、重合終了温度が高温側に移行した。これにより、2‐エチル‐4‐メチルイミダゾールを添加物とし、重合温度を低下させる目的で配合する場合には、最適配合範囲は10重量部未満であることが示された。
【0167】
<実施例13>
実施例2で合成した液晶性ベンゾオキサジン系化合物2をTHF中に溶解させ、さらにパラトルエンスルホン酸を液晶性ベンゾオキサジン系化合物2(100重量部)に対して0.4重量部加え、室温で撹拌した。1時間後には溶液が白濁した。得られた混合物のNMR測定を行ったところ、液晶性ベンゾオキサジン系化合物2の開環重合が一部進行していることがわかった。
【0168】
かかるTHF溶液をガラス板上にキャストしてフィルムを作成し、10℃毎分の昇温速度で偏光顕微鏡観察を行ったところ、ベンゾオキサジン環が一部開環重合した状態において、100〜160℃の温度範囲でネマチック液晶相を示した。パラトルエンスルホン酸の添加量を2及び4重量部に変更した以外は同様の手順で実験を行ったところ、いずれもがベンゾオキサジンの開環重合が進行した状態で、昇温過程においてネマチック液晶相を示した。具体的には、パラトルエンスルホン酸添加量2重量部の時には100〜170℃で、4重量部の時には95〜170℃の温度範囲で偏光顕微鏡観察においてネマチック液晶相が観測された。
【0169】
このように、液晶性ベンゾオキサジン系化合物と添加物とを含む本液晶性ベンゾオキサジン系重合組成物によれば、液晶性ベンゾオキサジン系化合物の重合温度を室温まで低下し得ることが示された。外部から供給されるエネルギーが大きくなるほど重合は進行しやすくなるため、通常、室温で重合するものは、より高温において更に容易に重合することが一般的である。従って、本重合組成物を、液晶相が観察された温度域において十分に重合し得る、即ち、液晶状態のまま重合させてポリベンゾオキサジン系樹脂を生成させることができる組成物として提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合反応によって高分子量化するベンゾオキサジン系化合物において、
ベンゾオキサジン環と、
複数のベンゼン環を有し、且つ、その複数のベンゼン環が1方向に沿って配列するように該複数のベンゼン環が直接的または間接的に相互に連結されると共に、その一方の連結端のベンゼン環が前記ベンゾオキサジン環のベンゼン環に直接的または間接的に連結されている第1の原子団と、
その第1の原子団における前記複数のベンゼン環の他方の連結端のベンゼン環または前記ベンゾオキサジン環のヘテロ環の少なくとも一方に結合され、分子に柔軟性を付与する第2の原子団とを備え、
分子構造中に前記ベンゾオキサジン環が1つ含まれた非対称性の構造で形成され、液晶性を有することを特徴とする液晶性ベンゾオキサジン系化合物。
【請求項2】
前記第1の原子団は、前記複数のベンゼン環を結合するための官能基と、前記一方の連結端のベンゼン環と前記ベンゾオキサジン環とを結合するための官能基とを備えているものであることを特徴とする請求項1に記載の液晶性ベンゾオキサジン系化合物。
【請求項3】
前記官能基は、イミノ基またはエステル基の少なくとも一方を含むものであることを特徴とする請求項2に記載の液晶性ベンゾオキサジン系化合物。
【請求項4】
前記複数のベンゼン環を結合するための官能基は、結合する前記ベンゼン環を介してパラ位に位置するものであることを特徴とする請求項2又は3に記載の液晶性ベンゾオキサジン系化合物。
【請求項5】
前記第1の原子団は、下記の一般式(1)であらわされるものであり、イミノ基を介してベンゾオキサジン環と結合されるものであることを特徴とする請求項4に記載の液晶性ベンゾオキサジン系化合物。
【化1】

【請求項6】
前記第1の原子団は、下記の一般式(2)であらわされるものであり、イミノ基を介してベンゾオキサジン環と結合されるものであることを特徴とする請求項4に記載の液晶性ベンゾオキサジン系化合物。
【化2】

【請求項7】
前記第2の原子団は、アルキル基またはアルコキシ基であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の液晶性ベンゾオキサジン系化合物。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の液晶性ベンゾオキサジン系化合物と、無機酸、無機塩基、有機酸、有機塩基のいずれかから選択される少なくとも1の添加物とを含有することを特徴とする液晶性ベンゾオキサジン系重合組成物。
【請求項9】
前記添加物はp−トルエンスルホン酸またはイミダゾールであることを特徴とする請求項8に記載の液晶性ベンゾオキサジン系重合組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−16787(P2011−16787A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−104965(P2010−104965)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【Fターム(参考)】