説明

減塩食品用風味向上剤、減塩食品の風味向上方法、及び風味のよい減塩食品

【課題】食塩含量を低減した食品において風味を向上できる物質、該物質を用いる減塩食品の風味向上方法、または風味のよい減塩食品を提供する。
【解決手段】ギ酸及び/又はその塩を有効成分として含有する減塩食品用風味向上剤、並びに、減塩食品に、低減された食塩1重量部あたり0.05〜0.3重量部のギ酸が含まれるように、該風味向上剤に添加することを含む、減塩食品の風味向上方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減塩食品用の風味向上剤、減塩食品の風味向上方法、及び風味のよい減塩食品に関する。
【背景技術】
【0002】
食塩(塩化ナトリウム)は、食品の調味や加工において、古来より広く使用されている調味料の一つである。食塩を構成する成分である、ナトリウム及び塩素も人体の必須栄養素であり、我々の生活にはなくてはならない調味料である。
【0003】
しかし、その一方で、食塩の構成成分であるナトリウムは、その過剰摂取により高血圧などの症状を示すことが示唆されており、さらには脳卒中などの循環器系疾患の発症リスクを高めるといわれている。
【0004】
日本においては、1日あたりの食塩摂取量は国の目標値(10g)を超え、慢性的な食塩過剰摂取の傾向にあるため、対応が必要とされている。また、日本においては、食品に減塩、低塩と表記するためには、食品100gあたり120mg以下までナトリウムを減らす必要があると、厚生労働省の栄養表示基準に定められている。しかし、醤油、味噌、漬物、ドレッシング、佃煮、味噌汁、スープ等の食塩含有量の高いとされる食品では、該食品中の食塩含有量を低減させた場合、特に10%以上低減させた場合は、該食品に必要とされる塩味以外の風味も低下してしまうことがあり、何らかの工夫が必要である。
【0005】
食塩の含有量を低減させた食品の食塩の代替方法として、食塩のかわりに塩化カリウム及び糖アルコール(特許文献1)、トレハロース(特許文献2)、酸性ペプチド(特許文献3)、酸性アミノ酸、塩基性アミノ酸及びコハク酸(特許文献4)、黒麹や黄麹の混合物を消化分解して得られる分解液(特許文献5)、セチルピリジニウム塩又はセチルピリジニウム塩と塩基性アミノ酸との混合物(特許文献6)等の塩味を増強する成分が添加されることがある。しかしながら、これらの方法では、低下した塩味以外の風味の補完は十分になされず、また、塩化カリウムや塩化アンモニウムのように、塩味増強成分自体の風味がその食品の風味に悪影響を及ぼす場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭62-32855号公報
【特許文献2】特開平10-66540号公報
【特許文献3】国際特許公開01-39613パンフレット
【特許文献4】特開2002-345430号公報
【特許文献5】特開平2-53456号公報
【特許文献6】特表平3-502517号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、減塩食品、特に減塩即席食品、具体的には食塩の含有量を低減した即席スープや即席めんのスープ等において、塩味以外の風味も向上できる物質、該物質を用いた減塩食品の風味向上方法、及び風味のよい減塩食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の特徴を包含する。
(1) ギ酸又はその塩を有効成分として含有する、減塩食品用風味向上剤。
(2) 食塩含量が低減された減塩食品に、低減された食塩1重量部あたり0.05〜0.3重量部のギ酸が含まれるように、上記(1)の風味向上剤を添加することを含む、減塩食品の風味向上方法。
(3) 減塩食品は即席めん又は即席スープである、上記(2)の方法。
(4) 食塩含量が低減された減塩食品であって、低減された食塩1重量部あたり0.05〜0.3重量部のギ酸を含む、減塩食品。
(5) 減塩食品は即席めん又は即席スープである、上記(4)の減塩食品。
(6) 喫食時のスープ中の食塩濃度X%(w/v)及びギ酸濃度Y%(w/v)が次式を満たすように食塩及びギ酸を含む、即席スープ。
【数1】

(7) 喫食時のスープ中の食塩濃度X%(w/v)及びギ酸濃度Y%(w/v)が次式を満たすように食塩及びギ酸を含む、汁物タイプの即席めん。
【数2】

【0009】
なお、本明細書で使用する「減塩食品」とは、通常の食品の食塩濃度、又は通常の食品の喫食時の食塩濃度に対し、10%以上、好ましくは20〜50%食塩の含量を低減させた当該食品をいう。例えば、食塩濃度が1重量%である通常の食品に関し、減塩食品は0.9重量%未満、好ましくは0.8〜0.5重量%の食塩濃度を有している。
【0010】
本発明において、「重量部」、「重量%」及び「%(w/v)」で特定されるギ酸の量及び濃度は、酸形態のギ酸の量及び濃度を示している。したがって、例えばギ酸としてギ酸ナトリウムが使用される場合、「1重量部のギ酸」とは、HCOONaをHCOOHに換算した量が1重量部であることを指す。
【0011】
「喫食時」とは、即席食品など、喫食前に製品説明書に従って調理される食品にあっては、調理後の食塩濃度を指すことを意図している。
【0012】
また、即席食品とは、熱湯や水を加えることで調理可能な食品をいい、即席のコンソメスープ、ポタージュスープ、中華スープ、味噌汁、吸い物、汁物タイプの即席めんなどを含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、減塩食品、特に減塩即席食品において、塩味の他、減塩により低下する塩味以外の風味も向上させることのできる風味向上剤、減塩食品の風味向上方法、及び風味のよい減塩食品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、ギ酸を利用した、減塩食品用風味向上剤、及び減塩食品の風味向上方法(以下、単に本発明の方法とも称する)に関する。本明細書で使用する「風味向上」とは、塩味の他、うま味、酸味、甘味、濃厚感、辛味、嗜好性の少なくとも1つが、ギ酸を添加しない減塩食品に比較して改善されることをいう。
【0015】
本発明に用いるギ酸は、どのような形態のものであってもよく、例えば、酸又は塩形態のギ酸をそのまま用いることができる。塩形態のギ酸としては、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等を挙げることができるが、これに限定されるものではない。特にナトリウム塩を使用することが好ましい。
【0016】
ギ酸は、現在までに様々な製造方法が報告されており、例えば特許公開第2008-273915号公報、特許公開第2002-193854号公報、特許公開第2001-288137号公報などに記載される方法を用いて製造することができる。あるいは、市販のギ酸製品を使用してもよい。
【0017】
本発明に用いるギ酸は、酸又は塩形態のギ酸を含む組成物の形態で用いることもできる。ギ酸を含む組成物としては、これに限定されるものではないが、たとえば動物蛋白質、植物蛋白質、微生物由来の蛋白質、好ましくは植物蛋白質(大豆蛋白質、小麦蛋白質など)、の塩酸、硫酸等による酸加水分解物などを挙げることができる。
【0018】
蛋白質を酸により加水分解処理する場合、例えば、蛋白質を0.1〜6mol/lの酸の存在下、80〜120℃で、0.5〜48時間、好ましくは5〜24時間、加熱処理する方法が挙げられる。
【0019】
こうして取得した蛋白質加水分解物は、必要に応じて、急冷却、蒸留塔による分離などの処理に供することによって、ギ酸について濃縮することができる。
【0020】
本発明の風味向上剤は、ギ酸又はその塩を有効成分として含有し、減塩食品に対して使用することを特徴とする。
【0021】
本発明の風味向上剤は、ギ酸又はその塩のみを含むものであってもよいし、必要に応じて、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の無機塩、グルタミン酸ナトリウム、グリシン、アラニン等のアミノ酸、イノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウム等の核酸、ショ糖、ブドウ糖、乳糖等の糖、醤油、味噌、畜肉エキス、家禽エキス、魚介エキス、酵母エキス、蛋白質加水分解物等の天然調味料、スパイス類、ハーブ類等の香辛料、水、デキストリン、各種澱粉等の賦形剤等の、食品に使用可能な添加物を含有する組成物であってもよい。調味料等の各種食品添加物を含有する本発明の風味向上剤は、減塩食品用調味料として好適に用いられる。
【0022】
ギ酸以外の成分を含有する場合、本発明の風味向上剤は、ギ酸の含有量が少なすぎると使用量が多くなり、上記成分が対象とする食品の風味等に影響を及ぼす恐れがある。したがって本発明の風味向上剤におけるギ酸又はその塩の含有量は、有効量として3〜100重量%であることが好ましい。
【0023】
本発明の風味向上剤の形態は特に制限されず、固体、半固体、又は液体のいずれの形態であってもよい。
【0024】
本発明の方法は、減塩食品に、上記風味向上剤を添加することを特徴とする。本発明において、減塩食品は、上記の通り、通常の食品から10%以上減塩されたものであるが、10%程度の減塩であっても塩味はかなり弱くなると共に、風味も悪くなり、美味しくないものになってしまう。本発明の方法によれば、上記風味向上剤の添加により、減塩に起因する塩味及び風味の喪失を補完することができる。
【0025】
添加すべき風味向上剤の量は、減塩食品において減塩された食塩の量に応じて設定することができる。具体的には、減塩食品に、低減された食塩1重量部あたり0.05〜0.3重量部、好ましくは0.05〜0.2重量部のギ酸が含まれるように、上記風味向上剤を添加する。 例えば、減塩食品において、通常の食品中の喫食時の食塩含量1重量%が0.9重量%まで低減されている場合(すなわち食塩含量が10%低減されている場合)には、該減塩食品のギ酸濃度が0.005〜0.03重量%となるように上記風味向上剤を添加することにより、減塩に起因する塩味及び風味の喪失を補完することができる。なお、添加量の下限値「0.05重量部」は、下記実施例で示されるように、低減された食塩1重量部に対して、当該減塩に起因する塩味及び風味の補完効果を得るのに必要なギ酸添加量の最小値として規定したものである。一方、上限値「0.3重量部」を超えると風味に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0026】
本発明の方法において、上記風味向上剤はいずれの段階で添加することもできる。加工食品の場合には、食品の製造時に原料に添加しても、製造工程中に添加してもよく、また、消費者が調理時や喫食時に添加して用いることもできる。
【0027】
本発明の方法は、特に制限なくどのような食品に対しても使用可能であるが、通常の製品において塩分を多く含む食品、例えば、各種スープやソース(焼そばソースやミートソース等)、タレ(焼肉のタレ等)、キムチ、ドレッシング等、好ましくは即席食品、より好ましくは喫食時に液状の即席食品に好適に用いられる。例えば、即席スープ(即席のポタージュスープ、コンソメスープ、中華スープ、味噌汁、吸い物等)、特に、即席めんのスープに対して好適に用いられる。
【0028】
以下、本発明の方法において減塩食品として即席めんを使用する場合を例示する。
【0029】
通常市販されているレギュラーサイズの汁物のカップ入り即席めんの場合、1食当り概ねスープに2.5g〜5g程度の食塩を含有し、喫食時のスープ中の食塩濃度としては、大盛り等サイズに関係なく、スープ中の食塩の濃度は概ね1%(w/v)前後となっている。
【0030】
例えば、先述したスープ中の食塩濃度を20〜50%低減した即席めん、すなわち、喫食時のスープ中の食塩濃度Xが0.5〜0.8%(w/v)である汁物の即席めんの場合、上記風味向上剤を、喫食時のスープ中のギ酸濃度Yが次式を満たすように添加することにより、減塩による塩味及び風味の喪失を補完することができる。
【0031】
【数3】

【0032】
このような即席めんの製造方法としては、喫食時の濃度が前記のような食塩及びギ酸の濃度となるように、麺塊と共に同封される粉末スープ又は濃縮スープを、そのスープの製造時において、食塩や醤油等の添加量を低減するとともに本発明の風味向上剤を添加して製造すればよい。
【0033】
本発明はさらに、上記方法により風味が向上された減塩食品(以下、単に本発明の減塩食品とも称する)を包含する。
【0034】
本発明の減塩食品中に含まれる喫食時の食塩及びギ酸濃度は、当業者に公知の方法のいずれかを用いて測定することができる。例えば、食塩の濃度は、モール法、電位差法、原子吸光光度法等を用いて測定することができる。市販の塩分濃度計を用いてもよい。ギ酸濃度は、例えば各種クロマトグラフィー、キャピラリー電気泳動等によって測定することができる。
【0035】
即席スープ及び汁物タイプの即席めんの場合、例えば、喫食時のスープ中の食塩濃度が0.8〜0.5%(w/v)であり、かつギ酸濃度が0.025〜0.06%(w/v)である即席スープ及び即席めんは、本発明の減塩食品の一例として挙げることができる。
【0036】
本発明によれば、減塩食品において、減塩に起因する塩味以外の風味をも増強することにより、減塩しない通常の食品とほぼ同等の風味を提供することができる。
【0037】
また本発明において、ギ酸は、低減される食塩の量に対して非常に少量で使用されるため、ナトリウム塩の形態で使用する場合であっても、減塩食品中のナトリウム濃度は、通常の当該食品に比較して低いままである。
【0038】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0039】
[実施例1]
表1に示した配合で即席めん(担担麺)用のスープを調製した(対照区、減塩区)。対照区と減塩区のそれぞれの食塩濃度を定量したところ、それぞれ1.1%(w/v)および0.8%(w/v)であった。
【0040】
【表1】

【0041】
減塩区のスープにギ酸ナトリウム(表中ではギ酸Naと表示)を表2に示す量となるように添加しギ酸ナトリウム添加区とした。
【0042】
対照区、減塩区、ギ酸ナトリウム添加区のそれぞれに対して「塩味」、「嗜好性」の項目について8名のパネラーにより官能評価を行なった。
【0043】
評価は、力価が強い(嗜好性に関してはよい)ものは「++」、やや強いものは「+」、弱い(嗜好性に関してはわるい)ものは「±」とした。結果を表2に示す。
【0044】
【表2】

【0045】
表2に示すとおり、減塩した食塩1重量部あたりギ酸として0.05重量部以上添加した試験区では塩味および嗜好性が向上した。
【0046】
[実施例2]
実施例1で調製したスープ(減塩区)にギ酸ナトリウムを0.03%(w/v)となるように添加した(ギ酸ナトリウム添加区)。
【0047】
対照区、減塩区、ギ酸ナトリウム添加区のそれぞれに対して「うま味」、「塩味」、「酸味」、「甘味」、「濃厚感」、「辛味」、「嗜好性」の項目について8名のパネラーにより官能評価を行なった。
【0048】
評価は順位法で行い、もっとも力価が強い(嗜好性に関してはよい)ものは、「3点」、中間のものは「2点」。もっとも弱い(嗜好性に関しては悪い)ものは、「1点」として評価した。各パネラーの点数の合計点を表3に示した。これらの合計点について、クレーマーの検定により、有意差検定を実施した(有意差の危険率は5%とした)。
【0049】
【表3】

【0050】
表3に示すとおり、減塩区で有意に低下した塩味、酸味、辛味、嗜好性は、ギ酸ナトリウムを添加することにより、減塩していない対照区とほぼ同等のものとなり、また、うま味、甘味、濃厚感についても、同様の傾向が認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギ酸又はその塩を有効成分として含有する、減塩食品用風味向上剤。
【請求項2】
食塩含量が低減された減塩食品に、低減された食塩1重量部あたり0.05〜0.3重量部のギ酸が含まれるように、請求項1記載の風味向上剤を添加することを含む、減塩食品の風味向上方法。
【請求項3】
減塩食品は即席めん又は即席スープである、請求項2記載の方法。
【請求項4】
食塩含量が低減された減塩食品であって、低減された食塩1重量部あたり0.05〜0.3重量部のギ酸を含む、減塩食品。
【請求項5】
減塩食品は即席めん又は即席スープである、請求項4記載の減塩食品。
【請求項6】
喫食時のスープ中の食塩濃度X%(w/v)及びギ酸濃度Y%(w/v)が次式を満たすように食塩及びギ酸を含む、即席スープ。
【数1】

【請求項7】
喫食時のスープ中の食塩濃度X%(w/v)及びギ酸濃度Y%(w/v)が次式を満たすように食塩及びギ酸を含む、汁物タイプの即席めん。
【数2】


【公開番号】特開2011−92066(P2011−92066A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−248122(P2009−248122)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(000226976)日清食品ホールディングス株式会社 (127)
【出願人】(505144588)キリン協和フーズ株式会社 (50)
【Fターム(参考)】