説明

渦流量計の渦検出部製造方法

【課題】センサ寿命を向上させることが可能な渦流量計の渦検出部製造方法を提供する。
【解決手段】バフ研磨によって素子カバーの内部及び/又は弾性母材の一部にそれまで存在していた加工変質層が除去される。若しくは、加工変質層が低減される。また、バフ研磨によって表面粗さが大きな凹凸から小さな凹凸になり、酸化する表面積が減少する。酸素雰囲気環境にて加熱処理が施されると、素子カバーの内部及び/又は弾性母材の一部に均一な保護皮膜が形成される。形成される保護皮膜は、安定した酸化皮膜であって、安定・緻密なCr皮膜が形成される。この酸化皮膜によって、高温使用環境下での金属表面からの酸化が抑えられる。酸化が抑えられると、圧電素子に影響を来す酸素濃度低下までの時間が延びる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、渦流量計を構成する渦検出センサにおける渦検出部の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
流管に流れる被測定流体の流量を計測するために渦流量計が用いられている。渦流量計は、周知のように、流体の流れの中に渦発生体を配設したとき、所定のレイノルズ数範囲では、渦発生体から単位時間内に発生するカルマン渦の数(渦周波数)が気体、液体に関係なく流量に比例することを利用したもので、この比例定数はストローハル数と呼ばれている。渦検出センサとしては、圧電センサ等が挙げられ、渦発生体により生じるカルマン渦に基づく渦変動差圧を検出することが可能なものになっている。渦流量計は、被測定流体の物性に影響されずに流量を測定できる簡易な流量計であって、気体や流体の流量計測に広く使用されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
従来の渦流量計にあっては、渦変動差圧を検出するために圧電素子(ニオブ酸リチウム(LiNbO))が上記の圧電センサとして用いられている。ニオブ酸リチウムの単結晶は、高いキュリー点をもつため、高温流体測定用の検出素子としての利用が可能であることが分かっている。但し、ニオブ酸リチウムは、高温状態でこの周囲の酸素分圧が低くなると、結晶中の酸素が放出されて結晶の性質が変化するような還元現象が起こってしまうことになる。
【特許文献1】特許第2869054号公報 (第3頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
圧電素子(ニオブ酸リチウム)は、通常、略柱状の弾性母材の端部に適宜手段で取り付けられている。また、この取り付けの部分は、密閉金属容器の内部に存在するようになっている。密閉金属容器は、ステンレス鋼を加工することにより製造されている。ところで、密閉金属容器の内面は、加工時に受けるストレスによって変質層が形成されている。また、表面粗さも大きな凹凸を有するような状態になっている。変質層は、本来の材料組成とは異なることから、耐食性(ここでは耐高温腐食性)の低下が生じてしまうことになる。従って、次のような問題点を有している。
【0005】
すなわち、密閉金属容器の内面は、高温の使用環境下において、変質層や表面粗さに起因して酸化が進み、結果、圧電素子では還元現象が起こってセンサ寿命が低下してしまうという問題点を有している。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、センサ寿命を向上させることが可能な渦流量計の渦検出部製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた請求項1記載の本発明の渦流量計の渦検出部製造方法は、ステンレス製の素子カバーの内部にステンレス製の弾性母材の一部を収納するとともに、該弾性母材の前記一部に圧電素子を設けてなる渦検出部を渦検出センサの一つの構成部材として備える渦流量計の前記渦検出部の製造方法において、前記素子カバーの前記内部及び/又は前記弾性母材の前記一部にバフ研磨を施すとともに、この後に酸素雰囲気環境にて加熱処理を施すことを特徴としている。
【0008】
このような特徴を有する本発明によれば、バフ研磨によってそれまで存在していた加工変質層が素子カバーの内部及び/又は弾性母材の一部から除去される。若しくは、加工変質層の量が低減される。また、バフ研磨によって表面粗さが大きな凹凸から小さな凹凸になり、酸化する表面積が減少する。研磨方法は幾つかあるが、本発明で採用するバフ研磨は特にコスト面や後述の酸化皮膜の形成に良好である(研磨液の完全除去が可能であれば電解研磨も可能である。本発明はバフ研磨以外の方法を除くものではない)。
【0009】
酸素雰囲気環境にて加熱処理が施されると、素子カバーの内部及び/又は弾性母材の一部に均一な保護皮膜が形成される。形成される保護皮膜は、安定した酸化皮膜であって、一般に言われるボロボロと剥がれ易いサビと呼ばれる酸化鉄のことではない。すなわち、簡単に剥がれない安定・緻密なCr皮膜が形成される。本発明によれば、この酸化皮膜によって、高温使用環境下での金属表面からの酸化を抑えることが可能になる。酸化を抑えることができれば、圧電素子に影響を来す酸素濃度低下までの時間が延びる。本発明によれば、センサ寿命が向上するような製造方法になる。
【0010】
請求項2記載の本発明の渦流量計の渦検出部製造方法は、請求項1に記載の渦流量計の渦検出部製造方法において、酸化クロムを主成分とする研磨粉を用いて前記バフ研磨を施すことを特徴としている。
【0011】
このような特徴を有する本発明によれば、加熱処理の後に均一な保護皮膜となる酸化クロム皮膜(Cr皮膜)が形成される。この形成された酸化クロム皮膜によって、高温使用環境下での金属表面からの酸化を抑えることが可能になる。
【0012】
請求項3記載の本発明の渦流量計の渦検出部製造方法は、請求項1又は請求項2に記載の渦流量計の渦検出部製造方法において、前記加熱処理の後に前記素子カバーの前記内部に乾燥空気を充填封入することを特徴としている。
【0013】
このような特徴を有する本発明によれば、酸化による酸素濃度低下までの時間が延びるようになる。本発明では、一例を挙げると、通常大気中酸素濃度より高い酸素濃度40%且つ湿気のない高純度な合成空気を充填封入することが好ましいものとする(酸素濃度40%は一例でありこれを超えても当然によいものとする。ここでは、製造時の作業環境を考慮して特に安全面から酸素濃度40%を一例として挙げている)。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、センサ寿命を向上させることができるという効果を奏する。また、より良い渦流量計を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら説明する。図1は本発明の一実施の形態を示す渦流量計の断面図である。また、図2(a)は振動管の断面図、(b)は渦検出センサの断面図、(c)は渦検出部の断面図である。
【0016】
図1において、引用符号1は本発明に係る渦流量計を示している。この渦流量計1は、測定管2と、渦発生体3と、渦検出センサ4と、この渦検出センサ4からの出力信号に基づいて被測定流体(図示省略)の流速又は流量(容積流量)を算出する流量変換器(図示省略)とを備えて構成されている。以下、図1及び図2を参照しながら上記の各構成について説明する。
【0017】
測定管2は、管断面が例えば円形状となる筒状に形成されている。測定管2は、被測定流体が流れる方向に沿って伸びるように形成されている。渦発生体3は、測定管2の内部に渦を発生させるための部分であって、被測定流体の流れに対向するように、この形状が形成されている。渦発生体3は、本形態において、三角柱形状に形成されている(形状は一例であるものとする。特許文献1の特許第2869054号公報には幾つかの例が開示されている)。渦発生体3には、一端が開口した計測室5が形成されている。計測室5は、渦発生体3の軸方向に形成されている。このような計測室5には、被測定流体の流れに対して直交方向に貫通する導圧孔6が形成されている。導圧孔6は、渦(カルマン渦)による変動圧を計測室5に導入するために形成されている。
【0018】
渦検出センサ4は、渦検出のためのセンサであって、ここでは圧電センサが用いられている(後述する)。渦検出セン4は、振動管7と渦検出部8とを備えて構成されている。振動管7は、計測室5に差し込まれる可動管部9と、この可動管部9の一端に連成される受圧板10と、可動管部9の他端に連成されて測定管2の固定部に固定される振動部取り付けフランジ11と、この振動部取り付けフランジ11に連成される振動管頭部12と、振動管頭部12から可動管部9の上記一端近傍にかけて形成される空洞部13とを有している。
【0019】
可動管部9は、計測室5の内周面に対して僅かな隙間があくような形状に形成されている。受圧板10は、導圧孔6の位置に合うように配置形成されている。振動部取り付けフランジ11には、ボルト穴14が形成されている。振動管頭部12には、渦検出部8を固定するための固定部15が形成されている。空洞部13には、渦検出部8が僅かな隙間をあけて差し込まれるようになっている。
【0020】
渦検出部8は、振動管7に対して着脱自在となるように構成されている。すなわち、渦検出センサ4は、渦検出部8に劣化が生じてもこの渦検出部8を交換すれば容易に正常復帰させることができるようになっている。また、渦検出センサ4は、被測定流体の流れを止めずにメンテナンスを行うことができるようになっている。渦検出部8は、振動管7が受けるカルマン渦による圧力変動を忠実に受けて電気信号に変換して流量変換器(図示省略)へ出力することができるように構成されている。具体的には、弾性母材16と、圧電素子板17と、電極板18と、端子19と、リード線20と、挿通管21と、バネ板22と、素子カバー23とを備えて構成されている。
【0021】
弾性母材16は、ステンレス鋼を加工することにより製造されている。弾性母材16は、異径の金属柱であって、上端部24と支持円柱部25とバネ取り付け部26とを有している。上端部24には、圧電素子板17が貼り付けによって取り付けられている。弾性母材16は、上端部24側が素子カバー23内に収容されるようになっている。支持円柱部25は、可動管部9に差し込まれる部分であって、空洞部13に対して僅かな隙間があくような形状に形成されている。支持円柱部25の上端には、上端部24が、また、支持円柱部25の下端には、バネ取り付け部26が連成されている。バネ取り付け部26は、支持円柱部25よりも小径であって、バネ板22が溶接等により連成されている。
【0022】
バネ板22は、空洞部13の端部に形成される係止凹部27に挿入され、そして、バネ作用によって支持可能となる部分であって、放射状のスリット(図示省略)が複数形成されている。バネ板22は、係止凹部27の径よりも若干大きな径となるように形成されている。
【0023】
圧電素子板17は、上端部24に形成された二つの面取り部に各々金ペースト等の導電性接着剤を用いて貼着された圧電素子(ニオブ酸リチウム(LiNbO))であって、非貼着面には、各々、例えば多孔板からなる電極板18が貼着されている。圧電素子板17は、端子19を介してリード線20に接続されている。
【0024】
素子カバー23は、ステンレス鋼を加工することにより製造されている。素子カバー23は、圧電素子板17、電極板18、及び端子19からなる検出素子部(符号省略)を密封するために備えられている。素子カバー23は、両端部が窄む略円筒体の形状に形成されている。素子カバー23の周囲には、素子カバーフランジ28が形成されている。渦検出部8は、素子カバーフランジ28を介して振動管頭部12の固定部15に固定されるようになっている。素子カバー23の上端部には、リード線20を挿通する挿通管21が気密に取り付けられている。また、素子カバー23の下端部には、上端部24と支持円柱部25の境界部分が溶接されている。素子カバー23の下端部からは、支持円柱部25とバネ板22とが突出するようになっている。素子カバー23は、上記検出素子部を収容するために二分割することができる形状に形成されている。引用符号29は分割部分の溶接部を示している。
【0025】
素子カバー23の内面には、酸化皮膜が形成されている。本形態において、この酸化皮膜は、酸化クロム皮膜(Cr皮膜)30であって、素子カバー23の内面全体に形成されている(一部であってもよいものとする)。酸化クロム皮膜30は、自然に形成されるものではなく、後述するが積極的に形成してなるものであって、本発明の特徴的な部分となっている。本形態において、素子カバー23内に存在する弾性母材16の一部にも同じ酸化クロム皮膜30が形成されている。尚、酸化クロム皮膜30の形成範囲は、最低条件として酸化する部分が従来よりも低減できればよく、最も好ましいのは内部全体に形成されることである。
【0026】
圧電素子としての圧電素子板17の周囲には、酸化クロム皮膜30が存在している。素子カバー23は、密閉金属容器となっており、この内部に乾燥空気が充填封入されている。本形態においては、特に限定するものではないが、通常大気中酸素濃度より高い酸素濃度40%且つ湿気のない高純度な合成空気が充填封入されている。
【0027】
ここで、図3を参照しながら酸化クロム皮膜30の形成について説明する。図3は皮膜形成に関する工程のフローチャートである。
【0028】
図3において、先ずはじめに素子カバー23の内面全体、及び弾性母材16の対象部分にバフ研磨を施す工程が行われる(ステップS1)。研磨粉は、酸化クロムを主成分とする研磨粉(一例であるものとする)が用いられるようになっている。バフ研磨を施すことにより、素子カバー23及び弾性母材16の製造加工時に受けるストレスによっての変質層が除去される。また、表面粗さも大きな凹凸が除去される(表面積が減少する)。
【0029】
バフ研磨の工程が終了すると、次に酸素雰囲気環境にて加熱処理を施す工程が行われる(ステップS2)。加熱処理は、渦流量計としての使用温度以上の温度で処理される。バフ研磨により金属表面が清浄な状態となり、そして使用温度以上で加熱処理が施されると、均一な保護皮膜となる酸化クロム皮膜(Cr皮膜)30が素子カバー23の内面全体及び弾性母材16の対象部分に形成される(酸化クロム皮膜30は積極的に形成される)。
【0030】
この形成された酸化クロム皮膜30によって、高温使用環境下での金属表面からの酸化が抑えられる。酸化が抑えられれば、圧電素子に影響を来す酸素濃度低下までの時間が延びることになる。
【0031】
続いて、上記構成に基づいて渦流量計1の作用等について簡単に説明する。
【0032】
渦検出センサ4は、渦検出部8を振動管7内に挿入して振動伝達可能に一体に固着されたものである。振動管7と渦検出部8との固着部分は、係止凹部27とバネ板22の外周のバネ力による接触部分、及び、振動管7の振動管頭部12の固定部15と素子カバーフランジ28とのボルト穴を介したボルト締めによる部分の二カ所となっている。
【0033】
測定管2の流路31に被測定流体(図示省略)が流れ、カルマン渦が左右交互に発生すると、変動圧力が生じ受圧板10が左右に振動する。これにより振動管7の可動管部9は、振動部取り付けフランジ11を支点として振動する。振動は、バネ板22を介して弾性母材16に伝達される。弾性母材16は、上端部24側が素子カバー23内に収容され、また、固着されていることから、上端部24側を支点として片持ち状に左右に振動して圧電素子板17に交番応力を生じさせる。渦検出センサ4は、渦に対応した電気信号を流量変換器(図示省略)に出力する。
【0034】
以上、図1ないし図3を参照しながら説明してきたように、本発明によれば、センサ寿命を従来よりも向上させることができる(使用温度460℃の時の耐久試験を行った結果、センサ寿命(アレニウスの定理より)は従来タイプ400日が本発明タイプ2560日までのびる)。また、本発明ではセンサ寿命を向上させることから、より良い渦流量計1を提供することができる。
【0035】
その他、本発明は本発明の主旨を変えない範囲で種々変更実施可能なことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施の形態を示す渦流量計の断面図である。
【図2】(a)は振動管の断面図、(b)は渦検出センサの断面図、(c)は渦検出部の断面図である。
【図3】皮膜形成に関する工程のフローチャートである。
【符号の説明】
【0037】
1 渦流量計
2 測定管
3 渦発生体
4 渦検出センサ
5 計測室
6 導圧孔
7 振動管
8 渦検出部
9 可動管部
10 受圧板
11 振動部取り付けフランジ
12 振動管頭部
13 空洞部
14 ボルト穴
15 固定部
16 弾性母材
17 圧電素子板
18 電極板
19 端子
20 リード線
21 挿通管
22 バネ板
23 素子カバー
24 上端部
25 支持円柱部
26 バネ取り付け部
27 係止凹部
28 素子カバーフランジ
29 溶接部
30 酸化クロム皮膜
31 流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス製の素子カバーの内部にステンレス製の弾性母材の一部を収納するとともに、該弾性母材の前記一部に圧電素子を設けてなる渦検出部を渦検出センサの一つの構成部材として備える渦流量計の前記渦検出部の製造方法において、
前記素子カバーの前記内部及び/又は前記弾性母材の前記一部にバフ研磨を施すとともに、この後に酸素雰囲気環境にて加熱処理を施す
ことを特徴とする渦流量計の渦検出部製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の渦流量計の渦検出部製造方法において、
酸化クロムを主成分とする研磨粉を用いて前記バフ研磨を施す
ことを特徴とする渦流量計の渦検出部製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の渦流量計の渦検出部製造方法において、
前記加熱処理の後に前記素子カバーの前記内部に乾燥空気を充填封入する
ことを特徴とする渦流量計の渦検出部製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−292466(P2007−292466A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−117082(P2006−117082)
【出願日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【出願人】(000103574)株式会社オーバル (82)