説明

渦電流探傷方法及び渦電流探傷システム

【課題】曲管部を有する配管の検査を円滑かつ検出性良く実施できる渦電流探傷方法及び渦電流探傷システムを提供すること。
【解決手段】センサ部202にチューブ部204を介して接続されたガイド部201を第1直管部106aの端部から挿入し、ガイド部201を第2直管部106bの端部から取り出し、ガイド部201又はチューブ部204を引っ張ることでセンサ部201を第2直管部106bの端部まで移動させ、第1直管部106aの端部からプローブ101を引っ張りながらセンサ部202により管内面を検査する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプローブを管内に挿入して検査する渦電流探傷方法及び渦電流探傷システムに関する。
【背景技術】
【0002】
渦電流探傷は、磁場を利用して被検査体の欠陥や減肉を検査する電磁非破壊検査技術の一つであり、主に表面検査として利用されている。渦電流探傷の検査対象物には、直線状に延びた部分(直管部)と、曲線状に曲がった部分(曲管部)を有する導電性の配管(管)がある。例えば、発電プラントの熱交換器には、1基につき数百本の伝熱管が規則的に配列されているが、当該伝熱管は、長さ数メートルの直管部と所定の曲率半径を有する曲管部で構成されたU字形状の細管である。
【0003】
この種の配管の内面を検査する場合には、センサを曲管部に通すため、探傷用のセンサと探傷装置とを可撓性を有する連結部材(例えば、チューブ)で連結したプローブが利用される。そして、配管の一方側の端部からセンサを挿入し、当該センサを当該連結部材で押し入れながら配管の他方側の端部まで移動させ、その後、当該連結部材を引っ張ることで配管内からセンサを引き抜きながら探傷する。
【0004】
このように曲管部を有する配管の検査を円滑に実施するためには、曲管部を通過し易いようにセンサを設計することが好ましい。すなわち、センサとしては、管の軸方向に短くかつ管の径方向に小さいもの(短軸小径のもの)が好ましい。しかし、検出性の観点からは、走査時の揺動が小さく、大径コイルで高感度な長軸大径のセンサが好ましい。これらの点を鑑みた技術として、管との摩擦の低減を図ったプローブが提案されている。例えば、特許文献1では、電気信号を伝える可撓性のケーブルの先端部に渦流探傷センサを設け、このケーブルの外周に多数の瘤体をその長さ方向に沿って所定の間隔を隔てて設けると共に、これらの瘤体の表面に管内面との摩擦を低減する摺動部材を備えた探傷装置が提案されている。また、特許文献2では、検査対象である導管の管軸方向に間隔をあけて配置される複数の探傷コイルと、当該探傷コイル間を連結する可撓性連結部材と、当該探傷コイルを外囲し、部分的に導管内周面に接触しながら探傷コイルを導管の軸線付近に保持する板ばねを備える検査装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−338829号公報
【特許文献2】特開平9−178711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記の各文献に記載されたプローブの構造は、摩擦を低減する部材が追加された複雑なものであるため、コイルを配置できる範囲が小さくなってしまい検出性の点でやはり課題が残る。特に、断面形状が曲管部で扁平に変化することを想定する場合には、寸法裕度をもたせた設計になるので、センサはさらに小さくなる。また、センサを短軸小径化しても、曲率半径の小さな曲管部では摩擦が大きくなるため、センサを管内に押し入れようとしたときに可撓性の連結部材(チューブ)が座屈してセンサを挿入できないこともある。
【0007】
本発明の目的は、曲管部を有する配管の検査を円滑かつ検出性良く実施できる渦電流探傷方法及び渦電流探傷システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明は、上記目的を達成するために、センサ部を有するプローブを直管部及び曲管部を有する管の中に挿入して検査する渦電流探傷方法において、前記センサ部に線状部材を介して接続されたガイド部を前記管の一方側の端部から挿入し、当該ガイド部を前記管の他方側の端部から取り出し、前記ガイド部又は前記線状部材を引っ張ることで前記センサ部を前記管の他方側の端部まで移動させ、前記管の一方側の端部から前記プローブを引っ張りながら前記センサ部により前記管を検査するものとする。
【0009】
(2)また、本発明は、上記目的を達成するために、直管部及び曲管部を有する管を検査対象とする渦電流探傷システムにおいて、センサ部、及び当該センサ部に線状部材を介して接続されたガイド部を有するプローブと、前記管の一方側の端部から挿入したガイド部を前記管の他方側の端部まで移動させるための移動手段と、前記センサ部を前記管の他方側の端部まで移動させるために、前記移動手段によって移動された前記ガイド部を引っ張るための第1牽引手段と、前記管の他方側の端部に移動された前記センサ部を前記管の一方側の端部から引き抜くための第2牽引手段と、前記センサ部の受信信号を処理するための探傷装置と、当該探傷装置による探傷結果を表示するための表示装置とを備えるものとする。
【0010】
(3)上記(2)において、好ましくは、前記ガイド部の直径は前記管及び前記センサ部の直径より小さく、前記ガイド部の軸長は前記センサ部の軸長より短いものとする。
【0011】
(4)上記(2)又は(3)において、好ましくは、前記管は、一方側の端部側に位置する直管部と、当該直管部に接続された曲管部とを備え、前記線状部材の長さは、前記直管部及び曲管部の長さの合計以上であるものとする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、単純な構造でセンサを長軸大径化できるため、曲管部を有する配管の検査を円滑かつ検出性良く実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態に係る渦電流探傷システムの概略構成図。
【図2】本発明の実施の形態に係るプローブの概略構成図。
【図3】本発明の実施の形態に係るプローブの走査手順を示すフローチャートと各手順におけるプローブの位置を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。ここでは、発電プラントの熱交換器における伝熱管を検査する場合を例に挙げて説明するが、曲管部を有する配管を検査対象としたものであれば本発明は適用可能である。
【0015】
図1は本発明の実施の形態に係る渦電流探傷システムの概略構成図である。この図に示す渦電流探傷システムは、プローブ101と、挿入・引き抜き機102と、探傷装置103と、表示装置104と、引っ張り機105を備えており、導電性を有する熱交換器の伝熱管(検査対象管)における直線状に延びる部分(直管部)106a,106bと、曲線状に曲がった部分(曲管部)107を探傷するためのものである。
【0016】
図に示した伝熱管は、当該伝熱管の両端に位置する2つの直管部106a,106bと、当該2つの直管部を連結する曲管部107を有している。ここでは、一方の直管部(第1直管部)106aの端部からプローブ101のセンサ部202(後述)を挿入して、他方の直管部(第2直管部)106bの端部まで移動させ、そこからセンサ部202を引っ張りながら管内面を探傷する場合について説明する。
【0017】
プローブ101について説明する。図2は本発明の実施の形態に係るプローブの概略構成図である。この図に示すプローブ101は、ガイド部材201と、センサ部202と、チューブ部204を備えている。
【0018】
ガイド部201は、プローブ101の先頭に設置される部材であり、検査対象管の曲管部の通過性を考慮して短軸小径の形状とすることが好ましい。ガイド部201は、センサ部202よりも短軸小径の滑らかな形状で形成することが好ましく、樹脂等の摩擦係数の低いものを利用することが好ましい。図に示したガイド部201の軸長(長軸方向の長さ)は、センサ部202の軸長よりも短い。また、ガイド部201の直径(長軸に直交する方向の長さ)は、伝熱管の直管部106及び曲管部107の直径より小さく、さらにセンサ部202の直径よりも小さい。
【0019】
センサ部202は、コイル又は磁場検出素子の配置された部位であり、伝熱管の直管部106と曲管部107を探傷する部分である。探傷方法には、渦電流探傷法、磁気飽和渦電流探傷法、リモートフィールド渦電流探傷法、パルス渦電流探傷法などがあり、探傷方法に応じてコイル又は磁場検出素子の配置は異なる。図に示したセンサ部202からはコイル配線205が出ており、当該コイル配線205は連結部203を介してケーブル線206に接続されている。連結部203は一般にセンサ部202の近傍に配置されている。ケーブル線206は挿入引き抜き機102を通過して探傷装置103に接続されている。センサ部202からの探傷信号はコイル配線205及びケーブル線206を介して探傷装置103に入力される。コイル配線205及びケーブル線206は、後述する挿入・引き抜き機102によるセンサ部202の管内への挿入し易さを向上する観点から、チューブ部材204と同様に可撓性を有する材料で被覆しても良い。なお、図に示した例ではセンサ部202は1つだけであるが、複数個のセンサ部202を線状部材204で連結した構造としても良い。
【0020】
チューブ部204は、ガイド部201とセンサ部202を連結する線状部材であり、可撓性と大きな引張強度を有している。チューブ部204の長さは、伝熱管の出口側の第2直管部106bと曲管部107の軸方向長さの合計以上となっている。このようにチューブ部204の長さを設定すると、センサ部202を第1直管部106aと曲管部107の境界に到達させたときに、ガイド部201を第2直管部106bの出口又は外部に位置させることができる。また、チューブ部204の長さは、ガイド部201を伝熱管に通して外部に出せば良いという観点に基づけば、最大でも伝熱管の全長以下とすれば足りる。なお、本実施の形態では、内部に中空部を有する硬質なチューブ部204を介してガイド部201とセンサ部202を接続しているが、ロープ及びケーブル等の可撓性及び所定の引張強度を有する線状部材(線状物)であれば代用可能である。
【0021】
図1に戻り、挿入・引き抜き機102は、センサ部202の管内への挿入及び管外への引き抜き(プローブ101の走査)を行うためのものである。本実施の形態では、センサ部202を第1直管部106aの端部から引き抜くための牽引手段(第2牽引手段)として機能するとともに、第1直管部106aの端部から挿入したガイド部201を第2直管部106bの端部まで移動させるための移動手段としても機能する。
【0022】
挿入・引き抜き機102の具体的構成としては、例えば、プローブ101のケーブル線を挟み込んだ2つプーリがある。当該2つのプーリを回転駆動することで、センサ部202及びガイド部201の伝熱管内への挿入又は伝熱管外への引き抜きを行うことができる。上記のようにチューブ部204の長さは曲管部107と第2直管部106bの合計の長さ以上であるので、挿入・引き抜き機102で第1直管部106aと曲管部107の境界までセンサ部202を移動させれば、ガイド部201を第2直管部106bの端部まで移動させることができる。なお、ガイド部201の移動手段として、加圧した空気等の流体を管内に挿入したセンサ部202に噴出するもの(流体噴射装置)を利用し、その圧力でセンサ部202を曲管部107に向かって押し込んでも良い。
【0023】
引っ張り機105は、挿入・引き抜き機102によって第2直管部106bの端部まで移動されたガイド部201を引っ張るための牽引手段(第1牽引手段)であり、ガイド部201を引っ張ることでセンサ部202を第2直管部106bの端部まで移動させるために利用される。引っ張り機105は、挿入・引き抜き機102と同様に2つのプーリによって構成しても良い。
【0024】
探傷装置103は、センサ部202から探傷信号を入力し、その探傷結果を表示装置104に表示するための各種演算処理を行うためのものである。表示装置104は、探傷システムに係る各機器の動作状態やプローブ101による探傷結果を表示するためのものであり、探傷装置103に接続されている。表示装置104における表示は、探傷装置104での分析や評価の結果や、探傷装置104に保存した過去の探傷信号なども表示可能にすることが好ましい。
【0025】
次に上記のように構成された渦電流探傷システムを利用した探傷方法について図を用いて説明する。図3は本発明の実施の形態に係る渦電流探傷方法の手順を示すフローチャートと各手順におけるプローブ(ガイド部201及びセンサ部202)の位置を示す模式図である。なお、簡略化のため、模式図中には、挿入・引き抜き機102と引っ張り機105のうち、プローブ走査に寄与している方のみを記載している。
【0026】
まず、フローチャートに示す手順を開始する前に、上記のように構成した渦電流探傷システムのセットアップを完了する。システムのセットアップとしては、例えば、基準試験管での探傷条件(ゲイン、位相など)の設定や規定寸法の模擬欠陥でのプローブ校正試験などが含まれる。
【0027】
システムのセットアップが完了したら図3に示した手順を開始し(S301)、プローブ101のガイド部201を第1直管部106aの端部(入口側)から伝熱管内に挿入する(S302)。なお、ガイド部201の第1直管部106aへの挿入は手作業でも良い。また、挿入・引き抜き機102から直管部106aの開口部までのガイド部201の導入を案内する治具を別途用意するなどして作業の円滑化を図っても良い。
【0028】
S302が完了したら、挿入・引き抜き機102のプーリを駆動してプローブ101のチューブ部204又はケーブル線を伝熱管内に送りこみ、ガイド部201を第2直管部106bの端部(出口側)に向かって押し入れる(S303)。チューブ部204は第2直管部106bと曲管部107の合計長さよりも長いので、挿入・引き抜き機102を駆動し続けると、センサ部202が第1直管部106aと曲管部107の境界に達する以前に、ガイド部201を第2直管部106bの端部から外部に排出できる。なお、第2直管部106bの端部までガイド部201が移動したことの確認の具体的方法としては、目視や、ガイド部201の検出機構を別途設けるものがある(後述するS306におけるセンサ部202の移動確認についても同様とする)。
【0029】
第2直管部106bからガイド部201が排出されたことを確認できたら(S304)、ガイド部201に連結されたチューブ部204を引っ張り機105で引っ張って、センサ部202を第2直管部106bの端部に向かって移動させる(S305)。このように第2直管部106bから出たガイド部201を引っ張ることでセンサ部202に曲管部107を通過させると、挿入・引き抜き機102でセンサ部202を押し込む必要が無いので、センサ部202を第2直管部106bの端部まで円滑に移動させることができる。なお、S305では、チューブ204の代わりにガイド部201を引っ張っても良く、当該引っ張り作業は引っ張り機105を省略して手作業で行っても良い。
【0030】
センサ部202が第2直管部106bの端部(出口側)まで移動したことが確認できたら(S306)、引っ張り機105からプローブ101を手作業などで取り外し、第1直管部106aの端部側に設置された挿入・引き抜き機102を駆動して(すなわちプーリを逆回転させる)、第1直管部106aの端部からセンサ部202を引き抜きながら伝熱管内の探傷を開始する。すなわち、第2直管部106bの端部(出口側)から曲管部107を介して第1直管部106aの端部(入口側)に向かってセンサ部202を走査する。センサ部202の走査中の探傷信号は探傷装置103で取得し、表示装置104に表示する。センサ部202を第1直管部106aの端部まで移動させたら、挿入・引き抜き機102を停止して検査を終了する(S307)。
【0031】
当該検査の終了後、他の検査対象管があれば(S308)、当該他の検査対象管において上記の各処理を繰り返して検査を行う。S308で他の検査対象管が無ければ、一連の処理を終了する(S309)。
【0032】
以上説明したように、本実施の形態によれば、第2直管部106bの端部(出口側)からガイド部201を先に取り出し、チューブ部204(又はガイド部201)を引っ張り機10で牽引することにより、センサ部202に曲管部107を容易に通過させることができる。これにより、曲管部が小さな曲率半径の場合でも、摩擦に抗してセンサ部202を通過させることができる。その結果、寸法裕度も抑えて単純な構造でセンサを長軸大径化できるため、検出性を向上することができる。
【0033】
なお、上記では、曲管部を1つだけ有するU字状の配管での検査について説明したが、曲管部を2つ以上有する配管についても本発明は適用可能である。ただし、この場合には、配管の一方側の端部からガイド部201を挿入しても、上記のような挿入・引き抜き機102を利用して当該配管の他方側の端部からガイド部201を取り出すことが難しくなる。そのため、チューブ部204の長さを配管の全長に相当する程度まで確保し、上記の流体噴射装置等で当該配管の一方側の端部から流体を導入してガイド部201を他方側の端部まで移動させることが好ましい。その後の手順は上記で説明した実施の形態と同様である。このように渦電流探傷システムを構成すれば、検査対象管の長さ及び形状に関わらず検査を実施することができる。
【符号の説明】
【0034】
101…プローブ、102…挿入・引き抜き機、103…探傷装置、104…表示装置、105…引っ張り機、106…直管部、107…曲管部、201…ガイド部、202…センサ部、203…連結部、204…チューブ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサ部を有するプローブを直管部及び曲管部を有する管の中に挿入して検査する渦電流探傷方法において、
前記センサ部に線状部材を介して接続されたガイド部を前記管の一方側の端部から挿入し、
当該ガイド部を前記管の他方側の端部から取り出し、
前記ガイド部又は前記線状部材を引っ張ることで前記センサ部を前記管の他方側の端部まで移動させ、
前記管の一方側の端部から前記プローブを引っ張りながら前記センサ部により前記管を検査することを特徴とする渦電流探傷方法。
【請求項2】
直管部及び曲管部を有する導電性の管を検査対象とする渦電流探傷システムにおいて、
センサ部、及び当該センサ部に線状部材を介して接続されたガイド部を有するプローブと、
前記管の一方側の端部から挿入したガイド部を前記管の他方側の端部まで移動させるための移動手段と、
前記センサ部を前記管の他方側の端部まで移動させるために、前記移動手段によって移動された前記ガイド部を引っ張るための第1牽引手段と、
前記管の他方側の端部に移動された前記センサ部を前記管の一方側の端部から引き抜くための第2牽引手段と、
前記センサ部の受信信号を処理するための探傷装置と、
当該探傷装置による探傷結果を表示するための表示装置とを備えることを特徴とする渦電流探傷システム。
【請求項3】
請求項2に記載の渦電流探傷システムにおいて、
前記ガイド部の直径は前記管及び前記センサ部の直径より小さく、前記ガイド部の軸長は前記センサ部の軸長より短いことを特徴とする渦電流探傷システム。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の渦電流探傷システムにおいて、
前記管は、一方側の端部側に位置する直管部と、当該直管部に接続された曲管部とを備え、
前記線状部材の長さは、前記直管部及び曲管部の長さの合計以上であることを特徴とする渦電流探傷システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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