説明

湿式破砕機

【課題】破砕効率を低下させること無く、摩耗する部品(破砕歯)の寿命を延命して交換頻度を低減出来る様な湿式破砕機の提供。
【解決手段】回転軸(3)の円周上に固定された回転破砕歯(1)と、該回転破砕歯(1)と協働する固定破砕歯(2)とを設け、該固定破砕歯(2)は回転破砕歯(1)との隙間(図9の符号δ)を調整可能に構成し、前記回転破砕歯(1)を正逆何れの方向(図2の矢印βで示す時計方向及び反時計方向)にも回転可能とし、正逆何れの回転方向に対しても被破砕物(M:例えば、土砂中に混在する塊や礫等)を破砕する機能を有する構成であることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、泥水シールド工法で使用される湿式破砕機に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、地山に礫分を有する現場で泥水シールド工法を行う際には、破砕機としては、固定歯と動歯を持つ湿式ジョークラッシャーを用いることが主流であった。
しかし、ジョークラッシャーは間欠的に破砕を行うため、処理能力という面から見ると効率が低いという問題を有している。
【0003】
また、泥水シールド工法や砕石の分野では、一定方向にのみ回転する回転破砕歯と、当該回転破砕歯と協働する固定破砕歯とを有する湿式ロール破砕機も使用されている。
しかし、一方向のみに回転する従来型のロール破砕機では、回転破砕歯及び固定破砕歯において、回転方向について前方の部分のみが常時使用され、破砕を行う部分(チップ)が比較的早期に摩滅してしまう。そして、摩耗量が増大して、回転破砕歯と固定破砕歯との間隙が間隙調整代を超えてしまうと、部品(チップ)を交換しなければならない。
【0004】
かかる部品の交換作業は煩雑であると共に、工事の進行を滞らせる一因ともなりかねないので、出来る限り部品交換の頻度を少なくしたいと言う要請が存在する。
これに対して、交換頻度を低減させるために摩耗量の少ない素材を使用することも考えられるが、その様な素材は高価であり、工事全体のコストアップに繋がるので、好ましくない。
そのため、回転破砕歯や固定破砕歯の寿命を延命して、摩耗による部品交換の頻度を低減する技術が望まれている。
【0005】
その他の従来技術として、例えば、泥水圧により切羽を保持しつつ、切羽で発生した掘削土を泥水と混合して排泥ラインを通して坑外に排出し、坑内掘削土を破砕機により破砕する技術が提案されている(特許文献1参照)。
しかし、かかる技術では、坑外までの流体搬送が困難であり、かつ回転破砕歯や固定破砕歯の寿命を延命して摩耗による部品交換の頻度を低減することは出来ない。
【特許文献1】特開2000−303791号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、破砕効率を低下させること無く、摩耗する部品(破砕歯)の寿命を延命して交換頻度を低減出来る様な湿式破砕機の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の湿式破砕機(100)は、回転軸(3)の円周上に固定された回転破砕歯(1)と、該回転破砕歯(1)と協働する固定破砕歯(2)とを設け、前記固定破砕歯(2)は回転破砕歯(1)との隙間(図9の符号δ)を調整可能に構成し、該回転破砕歯(1)を正逆何れの方向(図2の矢印βで示す時計方向及び反時計方向)にも回転可能とし、正逆何れの回転方向に対しても被破砕物(M:例えば、土砂中に混在する塊や礫等)を破砕する機能を有する構成であることを特徴としている(請求項1)。
【0008】
正逆何れの方向に回転しても被破砕物(M:例えば、土砂中に混在する塊や礫等)を破砕するため、本発明においては、前記回転破砕歯(1)の破砕用のチップ(112)は半径方向に延在する軸線(図10における軸Y)について実質的に線対称になる様に構成されており、前記固定破砕歯(2)は、前記回転破砕歯(1)の回転中心を含む垂直軸線(図2の鉛直軸Y)について実質的に線対称な複数の位置(図2においては左右2箇所)に設けられているのが好ましい(請求項2)。
【0009】
また、本発明において、被破砕物(M:土砂中に混在する塊や礫等)を回転破砕歯(1)と固定破砕歯(2)との間の領域(図2における領域41Lと領域41R)へ誘導するための機構(図2の肩部42或いは突起)を(ケーシング4の内壁面4iに)設けているのが好ましい(請求項3)。
【0010】
さらに本発明において、破砕されるべき被破砕物(M:土砂中に混在する塊や礫等)と破砕する必要性の無いものとを分級する(篩い分ける)ためのスクリーン(8)を有しているのが好ましい。
【0011】
本発明において、回転破砕歯(1)は、油圧または電気等のモータ駆動されるのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
上述する構成を具備する本発明によれば、回転破砕歯(1)と固定破砕歯(2)による連続破砕機であるため、処理能力の点においては無駄な運転時間が無く、効率が良く、被破砕物(M:土砂中に混在する塊や礫等)の排出流体中の密度が概略一定となる。
【0013】
また、本発明の破砕機(100)では、正逆回転の何れにおいても被破砕物(M:土砂中に混在する塊や礫等)を破砕することが出来るので(図2における領域41Lと領域41Rの双方で破砕が可能なので)、回転破砕歯(1)と固定歯(2)の摩滅により隙間調整機能が発揮できなくなった場合に、回転破砕歯(1)の回転方向を逆転することにより、回転破砕歯(1)において使用されていない部分と、それまで破砕に寄与していなかった固定破砕歯(2)とによる破砕が行われる。
そのため、回転破砕歯(1)と固定破砕歯(2)の双方において破砕歯の摩滅していない部分(ビット11,12)で被破砕物(M)を破砕することが可能となり、その結果、回転破砕歯(1)と固定破砕歯(2)の双方の寿命を延命することが可能となる。
【0014】
上述した様に、一方の回転方向で作用する破砕歯の部分(ビット11、12)が摩滅してから逆転しても良いが、破砕機(100)の運転における所定時間毎に回転方向を逆転する様にしても(時間による交互運転)、寿命を延命することが出来る。
【0015】
ここで、破砕機では、破砕部に被破砕物(土砂中に混在する塊や礫等)を効率良く導入することが要求される。当該被破砕物を破砕する必要が無いサイズにまで破砕することは、破砕機を駆動する原動機(駆動機)の負荷が増大するばかりか、破砕歯の摩滅を促進し、流体輸送機器や配管の摩耗にも多大な影響を与えてしまうからである。
しかし、従来の破砕機では、被破砕物(土砂中に混在する塊や礫等)は全てが破砕されるものではなく、被破砕物が回転破砕歯と固定破砕歯の間に侵入せずに、図4で示す様に、投入側に集団で移動して滞留してしまう(いわゆる「競り上がる」状態)場合も存在する。或いは、破砕の瞬間に、図5で示す様に、被破砕物の投入側に跳ね返ってしまうものが存在する。
【0016】
これに対して本発明において、(ケーシング4内部に)被破砕物(M:土砂中に混在する塊や礫等)を回転破砕歯(1)と固定破砕歯(2)との間の領域(図2における領域41Lと領域41R)へ誘導するための機構(図2の肩部42或いは突起)を設ければ(請求項3)、投入側に競り上がり、或いは跳ね上がってしまった被破砕物(M)を、回転破砕歯(1)と固定破砕歯(2)との間に誘導することが出来る。そのため、「破砕部に被破砕物を効率良く導入する」という破砕機に要求される条件を充足させることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
なお、図面において、同様な部材には同様な符号を付して、重複説明を省略している。
【0018】
図1、図2は、本発明の湿式破砕機100の構成を模式的に示している。
本発明の破砕機100は、図3で示す様に、泥水シールド工法の施工に際して、掘削マシン(或いはシールドマシン)50の後方(羽口60側)で、土砂排出ポンプ70の前方の切羽側に位置して使用される。ここで、泥水シールド工法では、上述した機器が配管80(給水ライン)、90(排出ライン)で連結されて、クローズド回路が構成される。
【0019】
湿式破砕機100は泥水シールド工事で使用されるため、泥水の存在下で使用に耐える必要が有る。かかる必要性に対応するべく、軸受に泥水が浸入しない様に、シール構造の軸受が採用されている。
また、内部に泥水が侵入して圧力が作用する(例えば、1MPaの圧力が内部に作用する)ので、機構全体が耐圧構造となっている。
さらに、破砕機100に連通する配管80については、図示しないポンプで泥水の圧送を行うので、密閉構造となっている。
【0020】
図1、図2において、湿式破砕機100は、ケーシング4と回転破砕歯1と固定破砕歯2とを有し、回転破砕歯1は両端をケーシング4の長手方向の端部で且つケーシング4の高さ方向の中程に設けた軸受30に軸支された回転軸3に固定されている。
前記ケーシング4の長手方向における一方の端面上方には流体投入口5が形成され、長手方向における他方の端面下方には流体排出口6が形成されている。
【0021】
図3で示したシールドマシン50で掘削した塊や礫を含む土砂は、湿式破砕機100の流体投入口5を通過し、回転破砕歯1と固定破砕歯2との間に誘導され、塊や礫Mは規定以下の大きさに破砕され、流体排出口6を経て、図3で示した土砂排出ポンプ70へ送られる。
ここで、回転軸3は図示しないモータ(または油圧モータ)で駆動されている。一方、固定破砕歯2は、隙間調整機構を有している。その隙間調整機構については、図9を用いて後述する。
【0022】
回転破砕歯1が固定されている回転軸3は、図2の矢印βで示す様に、図2における時計方向にも反時計方向にも(正逆両方向に)回転可能に構成されている。従って、回転破砕歯1も、図2における時計方向にも反時計方向にも(正逆両方向に)回転可能である。
【0023】
図2に示すように、ケーシング4の断面形状は、垂直の中心線Yに対して略左右対称形となっている。ケーシング4の内壁4iは上方から徐々に3段に拡幅され、その最も幅の広い壁面は、回転軸3と略同じ高さ位置から下方に下がるに従って、断面中央に向いつつ幅が徐々に狭まるように傾斜面4sを形成している。
【0024】
図2の符号41L、41Rは、前記傾斜部4sの一部を含み、被破砕物である塊や礫Mを破砕する箇所であり、回転破砕歯1と固定破砕歯2との間の空間を示している。
【0025】
そして、図2の矢印βで示す様に、時計方向にも反時計方向にも(正逆両方向に)回転可能に構成されており、前記回転破砕歯1の回転中心を含む垂直軸線(図2の鉛直軸Y)について実質的に線対称な複数の位置(図2においては左右2箇所)に設けられている。そのため、被破砕物を破砕する領域も、図2で示す領域41Lと領域41Rとの2箇所となる。
【0026】
換言すれば、図示の実施形態に係る破砕機では、
(1) 図2における時計方向或いは反時計方向の何れか一方のみに回転して、領域41Lと領域41Rの何れか一方の領域で塊や礫等の被破砕物Mを破砕し、回転破砕歯1及び/又は固定破砕歯2が摩耗したならば、逆方向に回転する、或いは、
(2) 所定の運転時間毎に、回転破砕歯1或いは回転軸3の回転方向を、図2における時計方向、反時計方向に(正逆何れかの方向に)、交互に切り換える、
という方式の何れかを採用することにより、回転破砕歯1及び固定破砕歯2の寿命を延ばす(延命する)ことが出来る、という効果が有る
【0027】
図2における時計方向或いは反時計方向の双方に回転可能で、且つ、その回転方向を変更自在に構成するためには、例えば、回転破砕歯1或いは回転軸3の回転駆動源として、回転方向を切換可能な原動機を採用すれば良い。或いは、回転駆動源の回転方向は一方向のみであっても、回転駆動源から回転破砕歯1或いは回転軸3へ回転を伝達する伝達系に、回転方向を逆転可能な変速機を介装すれば良い。その他、公知、市販の手段を用いて、回転破砕歯1或いは回転軸3の回転方向を、図2における時計方向或いは反時計方向の双方に自在に切り換えることが可能である。
【0028】
ここで、図14で示す様な乾式破砕機、例えば陸上に設置されたクラッシャー110では、クラッシャー110の下方は開放された構成となっており、例えば、破砕された土砂搬送用のベルトコンベア120がクラッシャー110の開放された部分111の下方にセットされる。そして、クラッシャー110の上方がシュート或いはホッパー112を構成している。
そして、図14で示す様な乾式破砕機においても、クラッシャーにジャム(引っ掛かりによる回転停止)が発生した際に、ジャム解消のため、逆転させる例が存在する。
【0029】
しかし、図示の実施形態では、ジャミング解消時にのみ逆転するのではなく、図2の符号βで示す時計方向回転、反時計方向回転の何れでも破砕を行う点に特徴がある。換言すれば、逆転可能に構成された図14で示す様な乾式破砕機は、逆回転時には塊や礫等を破砕しないが、図示の実施形態によれば、回転方向が何れであろうとも、土砂中に混在する塊や礫等を破砕することが出来る。
【0030】
破砕機のケーシング4の内壁4iには、破砕する際に塊(M)の跳ね返りを防止するために、図2において、符号42(図2では4箇所:符号42は2箇所のみ図示)で示す様な肩部(前述の拡幅した角部、或いは突起)を設けている。
被破砕物M(掘削された土砂に混在する塊や礫等)を破砕するためには、回転破砕歯1と固定破砕歯2との間の隙間(図2における領域41L及び/又は領域41R)へ押し込む必要がある。
【0031】
肩部42を設けたことにより、図4で示す様に、破砕するべき礫等の被破砕物Mが上方へ競り上がってしまうことが防止される。
或いは、図5で示す様に、大きな被破砕物(塊等)Mが上方へ跳ね上がってしまうことが防止される。図5において、折れ曲がった矢印Ykは、一端上昇した被破砕物(塊等)Mが肩部42によって下方に落下する際の軌跡を示している。
ここで、肩部42に代えて、突起や凸部をケーシング4の内部に形成しても良い
【0032】
回転破砕歯1と固定破砕歯2については、図6〜図8において、その詳細が示されている。
図6は、図1の上方から回転破砕歯1と固定破砕歯2(図6では、一方の固定破砕歯2のみを示す)を見た状態を示している。
図中、符号3cは図示しない回転軸の中心を示す。
図6から明らかな様に、回転破砕歯1は、複数枚の比較的大径のアウタ回転ビット11と、複数枚の比較小径のインナ回転ビット12とを、長手方向(図6の矢印L方向)へ交互に重ねて構成している。そして、固定破砕歯2も、アウタ回転ビット11に対応する位置に設ける複数枚のアウタ用固定ビット21と、インナ回転ビット12に対応する位置に設ける複数枚のインナ用固定ビット22とを、長手方向へ交互に重ねて構成している。換言すると、アウタ回転ビット11と同じ数のアウタ用固定ビット21が存在し、インナ回転ビット12と同じ数のインナ用固定ビット22が存在するのである。
【0033】
図6において、アウタ用固定ビット21とインナ用固定ビット22とを長手方向へ交互に重ねて構成した固定破砕歯2が、長手方向Lに移動することを防止するため、固定ビット横移動防止用ボルト13が複数本設けられている。該固定ビット横移動防止用ボルト13は、1対の押圧板15を介してビットの集合体の両端部を押圧してビット集合体の長手方向の移動を拘束している。
なお、アウタ回転ビット11は図7に詳細が示されており、インナ回転ビット12は図8に詳細が示されている。
【0034】
図2を参照して説明したように、破砕するべき塊や礫等の被破砕物Mは、回転破砕歯1と固定破砕歯2の間の領域41L、41Rに誘導されて破砕されるが、かかる領域41L、41Rにおける回転破砕歯1と固定破砕歯2との間隔は、調節可能に構成されている。具体的には、固定破砕歯2を図2の水平方向Hに移動可能に構成して、回転破砕歯1と固定破砕歯2との間隔を調節する。
図9には、固定破砕歯2を図2の水平方向Hに移動して、回転破砕歯1との間隔(図9における符号「δ」)を調節するための機構が示されている。
【0035】
図9において、固定破砕歯2の回転破砕歯1から離隔した側(図9においては右側)には、固定破砕歯2を水平方向Hについて移動するための「押引用ボルト」(アジャスタボルト)23が設けられている。明確には図示されていないが、当該「押引用ボルト」(アジャスタボルト)23は、複数のアウタ用固定ビット11及びインナ用固定ビット12の各々について1本ずつ設けられている。
ケーシング4において、上下方向について回転軸3の中心点3oよりもやや下方よりの位置に、固定破砕歯2の調整溝4nが形成されている。この溝4nに沿って、固定破砕歯2は水平方向Hに沿って(図9においては左右に)スライドする様に構成されている。
【0036】
例えば、固定破砕歯2が摩耗して間隔δが大きくなった場合には、「押引用ボルト」23を「押」方向に回転して、固定破砕歯2を図9において左側へ移動し、以って、間隔δを適正な数値に保つことが出来る。
固定破砕歯2は、例えば10mm〜40mmの範囲で移動可能である。換言すれば、回転破砕歯1と固定破砕歯2との間の隙間δも、10mm〜40mmに対応して調節可能である。
図9中、2点鎖線は間隙調整後の固定破砕歯2の位置を示す。
【0037】
なお、回転破砕歯1も固定破砕歯2も、塊や礫等の被破砕物Mを破砕する以下に詳述するチップは、図7においてハッチングを付して示す部分(刃先)のみを超硬材Kで構成している。
【0038】
次に、図7、図8を参照して、回転破砕歯1について説明する。
図示の実施形態では、アウタ回転ビット11(図7)は各々2本の取付けボルト113で、回転軸3に固定された3つのパート111を有している。一方、インナ回転ビット12(図8)は、図示しない取付けボルトで回転軸3に固定された3つのパート121を有している。
アウタ回転ビット11のパート111において、回転軸3に固定された際に半径方向に突出する様にチップ112が形成されている。同じくインナ回転ビット12のパート121において、回転軸3に固定された際に半径方向に突出する様にチップ122が形成されている。
各チップ112、122のハッチングを付した箇所は、超硬材Kで構成されている。なお、図7及び図8において、符号K2は固定破砕歯2に設けられた超硬材を示す。
【0039】
図10において、上述したチップは符号112で示されており、チップ112の中央を通る半径方向軸線(図10における軸Y)について線対称な形状に構成されている。
チップ112は、その中央を通る半径方向軸線Yについて線対称な形状に構成し、当該軸線の両側に超硬材Kより成る部分を設けたことにより、図2における時計方向、或いは反時計方向に回転したとしても(正逆両方向に回転しても)、チップ112の超硬材Kは、固定破砕歯2の超硬材K2(図8、図9参照)と協働して被破砕物を破砕するのである。
【0040】
ここで、破砕ビットのチップ形状について、図11〜図13を参照して説明する。
図11は図示の実施形態における破砕ビットのチップ形状である。図11の形状では、両側のハッチング部分Kのみが超硬材で構成されている。そして、固定破砕歯2の超硬材部分(図7のハッチング部分K2)と協働して、土砂中に混在する塊や礫等の被破砕物Mを破砕する。
図11の例では、チップ全体を超硬材で構成していないので、材料費、製造コストを抑制出来る。また、超硬材で構成された部分Kの隅部分が、比較的欠け難い様に、角部が鈍角形状に構成されている。
【0041】
図12はチップ112D全体を超硬材Kで構成し、且つ、その断面形状を長方形としている。この形状は、チップの隅部Cが欠けてしまう可能性が高い。換言すれば、超硬チップ112Dは硬いだけに直角の隅部Cは欠け易い。
【0042】
図13はチップ112E全体を超硬材Kで構成し、且つ、その断面形状を半円形或いは曲面断面としている。図13の断面形状では、長硬チップ112Eが欠けてしまう危険性は小さいが、チップの1部分のみを超硬材とすることは困難である。そのため、図13のチップ112Eでは、ビット全体を超硬材Kで形成しなくてはならず、製造コストが高価となるという問題を有している。
【0043】
前述したように、アウタ回転ビット11(図7)も、インナ回転ビット12(図8)も、破砕用のチップ112、122を有する3つの「パート」111(図7)、121(図8)が3つ集まって、一つのビットを構成する。超硬材Kは、超硬材以外の「パート」111、121にロウ付けされている。なお、超硬材以外の「パート」111、121は一体成形されている。
【0044】
図7、図8を参照すれば明らかな様に、回転軸3の断面形状は正6角形である。
従来の湿式破砕機では、回転軸の断面形状は、例えば12角形があり、断面形状が円形に近かった。
しかし、断面形状が円形に近いと、破砕用のチップを備えたパートの内周面が、回転軸の外周面を滑ってしまうので、回転軸が(チップを備えた)パートを保持する機能が比較的弱かった。
これに対して、図示の実施形態では、(回転破砕歯1の)回転軸3の断面形状を6角形に構成したので、破砕用のチップ112、122を備えたパート111、121の内周面111i、121iが、回転軸3の外周面と確実に係合する。すなわち、破砕用のチップ112、122を備えたパート111、121を回転軸3の外周部へ保持する力が強くなる。
【0045】
なお、回転軸3の断面形状を4角形に形成した場合には、破砕用のチップを設けたパートの内周側(回転軸3の外周面に係合する側)の形状が複雑となってしまい、その加工が困難である。
すなわち、図示の実施形態では、回転軸3の断面形状としては、破砕用のチップ112、122を設けたパート111、121をその外周面で確実に係合出来るという条件と、当該パートの加工が複雑に成り過ぎないという条件を同時に満たすものとして、6角形と言う(断面)形状を採用した。
【0046】
図7において、前述したように、各パート毎に、2本の固定ボルト113でパート111を回転軸3に固定(締結)している。
固定ボルト113が1本のみでは、破砕用のチップを有するパート111と回転軸3との間に作用する剪断力や、パート111側に伝達するべきトルクを考慮すると、強度的に厳しい。一方、1つのパートに3本のボルト113を用いるのでは、構造が煩雑となってしまうからである。
【0047】
従来は、回転軸3と平行な方向(図7で紙面と垂直な方向)から締結用ボルトを挿入して、アウタ回転ビット及びインナ回転ビットを回転軸に締結していた。
かかる構成では、破砕用のチップを交換する際に、交換するべきチップを設けたアウタ回転ビット或いはインナ回転ビットを取り出すためには、先ず、回転軸を抜く必要がある。
しかし、回転軸を抜いてしまうと、チップを交換して再び組み立てるまでに費やされる労力が大きい。
これに対して、図示の実施形態では、図7の半径方向に挿入されているパート締結用のボルト113を外せば、交換するべきチップ112を設けたパート111を取り出すことが出来る。すなわち、回転軸3を抜かなくても、破砕用のチップ112を交換できるので、摩耗した破砕用のチップ112の交換作業に費やされる労力を極めて軽減することができる。
【0048】
なお、ボルト113は図7のアウタ回転ビット11について図示されているが、図8で示すインナ回転ビット12についても同様に設けられている。
【0049】
ここで、図7において、(パート111を回転軸3へ締結する)ボルト113の挿入孔114は、当該ボルト113を挿入後、図示しないコーキング材で挿入孔114を密封する様にシールされる。
上述した様に、摩耗したチップ112を交換する際に、ボルト113の取り外しを容易に行うため、当該ボルト113は六角孔付ボルトで構成されている。この六角孔に泥が入らないようにコーキング材でシールするのである。
パートを回転軸3へ締結するボルトの挿入孔に当該ボルトを挿入後、コーキング材で挿入孔を密封する様にシールする構成は、図8のインナ回転ビット12についても同様である。
【0050】
再び図1、図2において、流体投入口5から回転破砕歯1との間には、流体内に含有される塊や礫等の被破砕物Mを分級するために、スクリーン8が設けられている。
このスクリーン8を透過する様な小径なものであれば、回転破砕歯1及び固定破砕歯2による破砕が為されない。従って、スクリーン8を設ける箇所如何により、回転破砕歯1及び固定破砕歯2において、歯が摩耗しない領域が生じる。
なお、図1における符号7は、スクリーン8を設けるための支持部材である。
【0051】
この支持部材7は複数設けられており、スクリーン8によって細かい粒子の多くが被破砕物Mより遠方に行くのでスクリーン8の位置を図における左側から右側に順次移動して取り付ければ、破砕歯1の摩耗に対し効率的とすることが出来る。
【0052】
図示の実施形態はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではないことを付記する。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施形態に係る湿式破砕機の構成を説明する断面図。
【図2】図1のX−X断面矢視図。
【図3】泥水シールド工法の機械装置を説明する模式図。
【図4】実施形態に係る被破砕物の競り上がりを防止する構造を説明する部分断面図。
【図5】実施形態に係る被破砕物の競り上がり防止構造によって被破砕物の跳ね返り防止を説明する部分断面図。
【図6】実施形態に係る湿式破砕機の上方から回転破砕歯と固定破砕歯を見た状態を示した図。
【図7】本発明の実施形態に係り回転破砕歯のアウタ回転ビットの構造を説明する図。
【図8】本発明の実施形態に係り回転破砕歯のインナ回転ビットの構造を説明する図。
【図9】本発明の実施形態に係り固定破砕歯の調整機構を説明する部分立面図。
【図10】本発明の実施形態に係り回転破砕歯の回転ビットにおけるチップの構造を説明する図。
【図11】本発明の実施形態に係りチップの形状の一実施例示す正面図。
【図12】本発明の実施形態に係りチップの形状の第1の変形例を示した正面図。
【図13】本発明の実施形態に係りチップの形状の第2の変形例を示した正面図。
【図14】従来技術における乾式破砕機の要部を示した模式図。
【符号の説明】
【0054】
1・・・回転破砕場
2・・・固定破砕場
3・・・回転軸
4・・・ケーシング
5・・・流体投入口
6・・・流体排出口
7・・・支持部材
8・・・スクリーン
11・・・アウタ回転ビット
12・・・インナ回転ビット
23・・・押し引き用ボルト/アジャスタボルト
100・・・湿式破砕機
111、121・・・パート
112、122・・・チップ
113・・・取付けボルト
114・・・挿入孔
K・・・超硬材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸の円周上に固定された回転破砕歯と、該回転破砕歯と協働する固定破砕歯とを設け、該固定破砕歯は回転破砕歯との隙間を調整可能に構成し、前記回転破砕歯を正逆何れの方向にも回転可能とし、正逆何れの回転方向に対しても被破砕物を破砕する機能を有する構成であることを特徴とする湿式破砕機。
【請求項2】
前記回転破砕歯の破砕用のチップは半径方向に延在する軸線について実質的に線対称になる様に構成されており、前記固定破砕歯は、前記回転破砕歯の回転中心を含む垂直軸線について実質的に線対称な複数の位置に設けられている請求項1の湿式破砕機。
【請求項3】
被破砕物を回転破砕歯と固定破砕歯との間の領域へ誘導するための機構を設けている請求項1、2の何れかの湿式破砕機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate