説明

湿潤時にベンチレーション効果を呈する衣服

【課題】湿潤時にベンチレーション効果を呈することにより、発汗時の着用快適性に優れた衣服を提供する。
【解決手段】織編物で構成される衣服であって、湿潤により寸法が可逆的に拡大する部位を部分的に有することを特徴とする湿潤時にベンチレーション効果を呈する衣服。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発汗時の着用快適性に優れた衣服に関する。さらに詳しくは、織編物から構成され、湿潤により寸法が可逆的に拡大する部位を部分的に有することにより、湿潤時にベンチレーション効果を呈する衣服に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、合成繊維や天然繊維などからなる織編物を、スポーツウエアーやインナーウエアーなどの衣服として用いると、肌からの発汗によりムレやベトツキが発生するという問題があった。
【0003】
このような発汗によって生じるムレやベトツキを解消する方法として、衣服の一部を通気性のよいメッシュ状織編物で構成する方法が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。かかる衣服は、通気性のよいメッシュ状部分を設けることにより、効果的に外気を衣服内に取り入れ、また、衣服内の蒸れた空気を外に排出し、快適性を得ようとするものである。
【0004】
しかしながら、室内スポーツ等の風が吹かない場所では、衣服内に外気が入り難く、衣服内の蒸れた空気も排出されず快適性が得られないという問題があった。また、アウトドアースポーツのように風が吹く場所であっても、サイズ的にゆとりがなく衣服と肌との間の空間がほとんどない場合や、発汗により衣服と肌とが密着した状態では、衣服と肌との間の空気層に対流が発生しないため、メッシュ状になった部分であっても外気がほとんど衣服内にはいらず、また衣服内の蒸れた空気が排出されず、快適性が得られないという問題があった。
【0005】
なお本発明者らは、特願2004−256628号において、ポリエステル成分とポリアミド成分とが接合された複合繊維からなる捲縮糸であって、湿潤時に捲縮率が低下することによりみかけの糸長が性能のよく向上する複合繊維を提案している。
【0006】
【特許文献1】特開2003−41462号公報
【特許文献2】特開平10−77544号公報
【特許文献3】特開2002−180323号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、湿潤時にベンチレーション効果を呈することにより発汗時の着用快適性に優れた衣服を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、織編物で衣服を構成する際、湿潤により寸法が可逆的に拡大する部位を部分的に配すことにより所望の衣服が得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0009】
かくして、本発明によれば「織編物で構成される衣服であって、湿潤により寸法が可逆的に拡大する部位を部分的に有することを特徴とする湿潤時にベンチレーション効果を呈する衣服。」が提供される。
その際、湿潤により寸法が可逆的に拡大する部位が、脇部、側体部、胸部、背部、肩部からなる群より選択される1部位または2部位以上であることが好ましい。
【0010】
前記湿潤により寸法が可逆的に拡大する部位において、部位一つの面積が1cm以上であることが好ましい。また、該部位が丸編物またはメッシュ状の織編物からなることが好ましい。また、該部位に、ポリエステル成分とポリアミド成分とがサイドバイサイド型に接合された複合繊維であって、潜在捲縮性能が発現してなる捲縮を有する複合繊維が含まれることが好ましい。さらには、該部位において、湿潤時に乾燥時よりも10%以上寸法が大きくなることが好ましい。
【0011】
本発明の衣服は、アウター用衣服、スポーツ用衣服、インナー用衣服などの衣服として好適に使用することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、湿潤時にベンチレーション効果を呈することにより発汗時の着用快適性に優れた衣服が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の衣服は、織編物で構成される衣服であって、湿潤により寸法変化しない部位と、湿潤により寸法が可逆的に拡大する部位とを有する。ここで、湿潤により寸法が可逆的に拡大する織編物のみからなる衣服の場合、衣服自体の寸法が大きくなるといった問題があるだけでなく、寸法変化したほどには衣服と肌との間の空間体積が大きくならず(ヨコ方向の寸法変化は空間体積の向上に寄与するが、タテ方向の寸法変化は寄与しないため)、本発明の主目的である湿潤時のベンチレーション効果が十分に得られない。
【0014】
本発明のように、湿潤に対して寸法変化しない部位と、湿潤により寸法が可逆的に拡大する部位とで構成される衣服を着用すると、多量に発汗した際、湿潤により寸法が可逆的に拡大する部位が盛り上がり、衣服と肌との間の空間体積が大きくなり、ベンチレーション効果が向上する。
【0015】
本発明において、「湿潤に対して寸法変化しない」および「湿潤に対して寸法変化する」とは以下に定義する性質である。すなわち、織編物を温度20℃、湿度65RH%の環境下に24時間放置(以下、乾燥時という。)した後に試料(経20cm×緯20cmの正方形)を織編物と同じ方向に裁断し、乾燥時の面積(cm)とする。一方、該試料を、水温20℃の水中に5分間浸漬した後(以下、湿潤時という。)、試料を2枚のろ紙の間にはさみ、490N/m(50kgf/m)の圧力で1分間加重し、繊維間に存在する水分を取り除いた後、試料の面積を測定し、湿潤時の面積(cm)とする。そして、下記式で定義する面積変化率が5%未満の場合「湿潤に対して寸法変化しない」とし、一方、面積変化率が5%以上の場合「湿潤に対して寸法変化(拡大)する」と定義する。なお、湿潤に対して面積が低下する場合も「湿潤に対して寸法変化しない」に含めるものとする。
面積変化率(%)=((湿潤時の面積)−(乾燥時の面積))/(乾燥時の面積)×100
【0016】
湿潤に対して寸法変化しない前記織編物としては、従来から知られている通常の繊維からなる通常の織編物でよい。例えば、繊維の種類としては、綿、羊毛、麻などの有機天然繊維、ポリエステル、ナイロン、及びポリオレフィン繊維などの有機合成繊維、セルロースアセテート繊維などの有機半合成繊維及、ビスコースレーヨン繊維などの有機再生繊維から選ばれるものであり、特にその種類は限定されない。
【0017】
なかでも、繊維強度や取り扱い性の点でポリエステル繊維が好適である。ポリエステル繊維は、ジカルボン酸成分と、ジグリコール成分とから製造される。ジカルボン酸成分としは、主としてテレフタル酸が用いられることが好ましく、ジグリコール成分としては主としてエチレングリコール、トリメチレングリコール及びテトラメチレングリコールから選ばれた1種以上のアルキレングリコールを用いることが好ましい。また、ポリエステルには、前記ジカルボン酸成分及びグリコール成分の他に第3成分を含んでいてもよい。第3成分としては、カチオン染料可染性アニオン成分、例えば、ナトリウムスルホイソフタル酸;テレフタル酸以外のジカルボン酸、例えばイソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸;及びアルキレングリコール以外のグリコール化合物、例えばジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールスルフォンの1種以上を用いることができる。
【0018】
かかる繊維には、必要に応じて艶消し剤(二酸化チタン)、微細孔形成剤(有機スルホン酸金属塩)、着色防止剤、熱安定剤、難燃剤(三酸化二アンチモン)、蛍光増白剤、着色顔料、制電剤(スルホン酸金属塩)、吸湿剤(ポリオキシアルキレングリコール)、抗菌剤、その他の無機粒子の1種以上を含有させてもよい。
【0019】
かかる繊維の形態は特に限定されず、長繊維(マルチフィラメント)、短繊維いずれでもよいが、柔軟な風合いを得る上で長繊維が好ましい。さらには、通常の仮撚捲縮加工、撚糸、インターレース空気加工が施されていてもよい。繊維の繊度は特に限定されないが、柔軟な風合いを得る上で単繊維繊度は0.1〜3dtex、フィラメント数は20〜150、総繊度は30〜300dtexであることが好ましい。単繊維の断面形状には制限はなく、通常の円形断面のほかに三角、扁平、十字形、六様形、あるいは中空形の断面形状を有していてもよい。
【0020】
湿潤に対して寸法変化しない前記織編物の組織も特に限定されず、通常のものでよい。例えば、織物の織組織としては、平織、斜文織、朱子織等の三原組織、変化組織、変化斜文織等の変化組織、たて二重織、よこ二重織等の片二重組織、たてビロードなどが例示される。編物の種類は、よこ編物であってもよいしたて編物であってもよい。よこ編組織としては、平編、ゴム編、両面編、パール編、タック編、浮き編、片畔編、レース編、添え毛編等が好ましく例示され、たて編組織としては、シングルデンビー編、シングルアトラス編、ダブルコード編、ハーフトリコット編、裏毛編、ジャガード編等が例示される。
【0021】
本発明の衣服は、湿潤により寸法が可逆的に拡大する部位を部分的に有しており、その他の部分は、前記の湿潤に対して寸法変化しない織編物で構成される。湿潤により寸法が可逆的に拡大する部位としては、比較的発汗の多い個所が好適である。例えば、図1、図2に模式的に示す胸部、図3に模式的に示す側体部、背部、肩部、およびこれらの組合せが好適である。かかる湿潤により寸法が可逆的に拡大する部位の面積としては、部位の一つの面積が1cm以上、部位の総面積で500〜10000cmであることが好ましく、面積比率としては衣服の総面積に対して5〜70%の範囲が好適である。該面積比率が5%よりも小さいと、湿潤時に衣服と肌との間の空間体積があまり大きくならず、十分なベンチレーション効果が得られない恐れがある。逆に、該面積比率が70%よりも大きいと、湿潤時に衣服全体の寸法が変化する恐れがある。
【0022】
湿潤により寸法が可逆的に拡大する部位を構成する布帛としては、特に限定されないが、特願2004−281494号で提案された織編物が好適である。
すなわち、ポリエステル成分とポリアミド成分とがサイドバサイド型に接合された複合繊維を織編物の全重量に対して10重量%以上(より好ましくは40重量%以上)含む織編物である。
【0023】
ここで、ポリエステル成分としては、他方のポリアミド成分との接着性の点で、スルホン酸のアルカリまたはアルカリ土類金属、ホスホニウム塩を有し、かつエステル形成能を有する官能基を1個以上もつ化合物が共重合された、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンタレフタレート等の変性ポリエステルが好ましく例示される。なかでも、汎用性およびポリマーコストの点で、前記化合物が共重合された、変性ポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。その際、共重合成分としては、5−ナトリウムスルホイソフタル酸およびそのエステル誘導体、5−ホスホニウムイソフタル酸およびそのエステル誘導体、p−ヒドロキシベンゼンスルホン酸ナトリウムなどがあげられる。なかでも、5−ナトリウムスルホイソフタル酸が好ましい。共重合量としては、2.0〜4.5モル%の範囲が好ましい。該共重合量が2.0モル%よりも小さいと、優れた捲縮性能が得られるものの、ポリアミド成分とポリエステル成分との接合界面にて剥離が生じるおそれがある。逆に、該共重合量が4.5モル%よりも大きいと、延伸熱処理の際、ポリエステル成分の結晶化が進みにくくなるため、延伸熱処理温度を上げる必要があり、その結果、糸切れが多発するおそれがある。
【0024】
一方のポリアミド成分としては、主鎖中にアミド結合を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、ナイロン−4、ナイロン−6、ナイロン−66、ナイロン−46、ナイロン−12などがあげられる。なかでも、汎用性、ポリマーコスト、製糸安定性の点で、ナイロン−6およびナイロン−66が好適である。
【0025】
なお、前記ポリエステル成分およびポリアミド成分には、公知の添加剤、例えば、顔料、顔料、艶消し剤、防汚剤、蛍光増白剤、難燃剤、安定剤、帯電防止剤、耐光剤、紫外線吸収剤等が含まれていてもよい。
【0026】
前記のサイドバイサイド型に接合された複合繊維は、任意の断面形状および複合形態をとることができ、サイドバイサイド型や偏心芯鞘型であってもよい。さらには、三角形や四角形、その断面内に中空部を有するものであってもよい。なかでも、サイドバイサイド型であると、湿潤時に優れたベンチレーション効果を呈しやすく好ましい。両成分の複合比は任意に選定することができるが、通常、ポリエステル成分とポリアミド成分の重量比で30:70〜70:30(より好ましくは40:60〜60:40)の範囲内であることが好ましい。
【0027】
前記複合繊維の単糸繊度、単糸数(フィラメント数)としては特に限定されないが、単糸繊度1〜10dtex(より好ましくは2〜5dtex)、単糸数10〜200本(より好ましくは20〜100本)の範囲内であることが好ましい。
【0028】
また、前記複合繊維は、潜在捲縮性能が発現してなる捲縮構造を有している必要がある。異種ポリマーがサイドバイサイド型に接合された複合繊維は、通常、潜在捲縮性能を有しており、後記のように、染色加工等で熱処理を受けると潜在捲縮性能が発現する。捲縮構造としては、ポリアミド成分が捲縮の内側に位置し、ポリエステル成分が捲縮の外側に位置していることが好ましい。かかる捲縮構造を有する複合繊維は、後記の製造方法により容易に得ることができる。複合繊維がこのような捲縮構造を有していると、湿潤時に、内側のポリアミド成分が膨潤、伸張し、外側のポリエステル成分はほとんど長さ変化を起こさないため、捲縮率が低下する(複合繊維の見かけの長さが長くなる。)。一方、乾燥時には、内側のポリアミド成分が収縮し、外側のポリエステル成分はほとんど長さ変化を起こさないため、捲縮率が増大する(複合繊維の見かけの長さが短くなる。)。このように、湿潤時に、複合繊維の捲縮率が可逆的に低下し見かけの糸長が増大するため、織編物の寸法が大きくなる。
【0029】
前記の複合繊維は、湿潤時に、容易に捲縮が低下しみかけの糸長が増大する上で、無撚糸、または300T/m以下の撚りが施された甘撚り糸であることが好ましい。特に、無撚糸であることが好ましい。強撚糸のように、強い撚りが付与されていると、湿潤時に捲縮が低下しにくく好ましくない。なお、交絡数が20〜60ケ/m程度となるようにインターレース空気加工および/または通常の仮撚捲縮加工が施されていてもさしつかえない。
【0030】
湿潤により寸法が可逆的に拡大する部位の織編物構造としては、その織編組織、層数は特に限定されるものではない。例えば、平織、綾織、サテンなどの織組織や、天竺、スムース、フライス、鹿の子、そえ糸編、デンビー、ハーフなどの編組織が好適に例示される。特に丸編物またはメッシュ状の織編物が好ましい。
【0031】
かかる部位の寸法変化量は、前記の面積変化率で10%以上(より好ましくは15〜30%)であることが好ましい。該面積変化率が10%未満では、湿潤時に衣服と肌との間の空間体積があまり大きくならず、ベンチレーション効果が得られないおそれがある。
かかる部位を構成する織編物は、例えば下記の製造方法によって容易に得ることができる。
【0032】
まず、固有粘度が0.30〜0.43(オルソクロロフェノールを溶媒として35℃で測定)の、5−ナトリウムスルホイソフタル酸が2.0〜4.5モル%共重合された変性ポリエステルと、固有粘度が1.0〜1.4(m−クレゾールを溶媒として30℃で測定)のポリアミドとを用いてサイドバイサイド型に溶融複合紡糸する。その際、ポリエステル成分の固有粘度が0.43以下であることが特に重要である。ポリエステル成分の固有粘度が0.43よりも大きいと、ポリエステル成分の粘度が増大するため、複合繊維の物性がポリエステル単独糸に近くなり好ましくない。逆に、ポリエステル成分の固有粘度が0.30よりも小さいと、溶融粘度が小さくなりすぎて製糸性が低下するとともに毛羽発生が多くなり、品質および生産性が低下するおそれがある。
【0033】
溶融紡糸の際に用いる紡糸口金としては、特開2000−144518号公報の図1のような、高粘度側と低粘度側の吐出孔を分離し、かつ高粘度側吐出線速度を小さくした(吐出断面積を大きくした)紡糸口金が好適である。そして、高粘度側吐出孔に溶融ポリエステルを通過させ、低粘度側吐出孔に溶融ポリアミドを通過させ冷却固化させることが好ましい。その際、ポリエステル成分とポリアミド成分との重量比は、前述のとおり、30:70〜70:30(より好ましくは40:60〜60:40)の範囲内であることが好ましい。
【0034】
また、溶融複合紡糸した後、一旦巻き取った後に延伸する別延方式を採用してもよいし、一旦巻き取らずに延伸熱処理を行う直延方式を採用してもよい。その際、紡糸・延伸条件としては、通常の条件でよい。例えば、直延方式の場合、1000〜3500m/分程度で紡糸した後、連続して100〜150℃の温度で延伸し巻き取る。延伸倍率は最終時に得られる複合繊維の切断伸度が10〜60%(好ましくは20〜45%)、切断強度が3.0〜4.7cN/dtex程度となるよう、適宜選定すればよい。
【0035】
ここで、前記の複合繊維が、下記の要件(1)および(2)を同時に満足することが好ましい。
(1)乾燥時における複合繊維の捲縮率DCが1.5〜13%(好ましくは2〜6%)の範囲内である。
(2)捲縮率DCと、乾燥時における複合繊維の捲縮率HCとの差(DC−HC)が0.5%以上(好ましくは1〜5%)である。
【0036】
ただし、乾燥時とは、試料を温度20℃、湿度65%RH環境下に24時間放置した後の状態であり、一方、湿潤時とは、試料を温度20℃の水中に2時間浸漬した直後の状態であり、乾燥時における捲縮率DCおよび湿潤時における捲縮率HCは、下記の方法で測定した値を用いることとする。
【0037】
まず、枠周:1.125mの巻き返し枠を用いて、荷重:49/50mN×9×トータルテックス(0.1gf×トータルデニール)をかけて一定の速度で巻き返し、巻き数:10回の小綛をつくり、該小綛をねじり2重の輪状にしたものに49/2500mN×20×9×トータルテックス(2mg×20×トータルデニール)の初荷重をかけたまま沸水中に入れて30分間処理し、該沸水処理の後100℃の乾燥機にて30分間乾燥し、その後さらに初荷重をかけたまま160℃の乾熱中に入れ5分間処理する。該乾熱処理の後に初荷重を除き、温度20℃、湿度65%RH環境下に24時間以上放置した後、前記の初荷重および98/50mN×20×9×トータルテックス(0.2gf×20×トータルデニール)の重荷重を負荷し、綛長:L0を測定し、直ちに重荷重のみを取り除き、除重1分後の綛長:L1を測定する。さらにこの綛を初荷重をかけたまま温度20℃の水中に2時間浸漬した後取り出し、ろ紙にて0.69mN/cm(70mgf/cm)の圧力で軽く水を拭き取った後、初荷重および重荷重を負荷し綛長:L0’を測定し、直ちに重荷重のみを取り除き、除重1分後の綛長:L1’を測定する。以上の測定数値から下記の計算式にて、乾燥時の捲縮率(DC)、湿潤時の捲縮率(HC)、乾燥時と湿潤時の捲縮率差(DC−HC)を算出する。
乾燥時の捲縮率DC(%)=((L0−L1)/L0)×100
湿潤時の捲縮率HC(%)=(L0’−L1’)/L0’)×100
【0038】
前記の湿潤時における複合繊維の捲縮率HCとしては、0.5〜10.0%(好ましくは1〜3%)の範囲内であることが好ましい。
ここで、乾燥時における複合繊維の捲縮率DCが1.5%よりも小さいと、湿潤時の捲縮変化量が小さくなるおそれがある。逆に、乾燥時における複合繊維の捲縮率DCが13%よりも大きい場合は、捲縮が強すぎて湿潤時に捲縮が変化しにくくなるおそれがある。
【0039】
次いで、前記複合繊維を単独で用いるか、他の繊維も同時に用いて織編物を織編成した後、染色加工などの熱処理により前記複合繊維の捲縮を発現させる。
ここで、織編物を織編成する際、前述のように、重量基準で織編物全重量に対して、10重量%以上(好ましくは40重量%以上)であることが肝要である。また、織編組織は特に限定されず、前述のものを適宜選定することができる。
【0040】
前記染色加工の温度としては100〜140℃(より好ましくは110〜135℃)、時間としてはトップ温度のキープ時間が5〜40分の範囲内であることが好ましい。かかる条件で、織編物に染色加工を施すことにより、前記複合繊維は、ポリエステル成分とポリアミド成分との熱収縮差により捲縮を発現する。その際、ポリエステル成分とポリアミド成分として、前述のポリマーを選定することにより、ポリアミド成分が捲縮の内側に位置する捲縮構造となる。
【0041】
染色加工が施された織編物には、通常、乾熱ファイナルセットが施される。その際、乾熱ファイナルセットの温度としては120〜200℃(より好ましくは140〜180℃)、時間としては1〜3分の範囲内であることが好ましい。かかる、乾熱ファイナルセットの温度が120℃よりも低いと、染色加工時に発生したシワが残り易く、また、仕上がり製品の寸法安定性が悪くなるおそれがある。逆に、該乾熱ファイナルセットの温度が200℃よりも高いと、染色加工の際に発現した複合繊維の捲縮が低下したり、繊維が硬化し生地の風合いが硬くなるおそれがある。
【0042】
また、かかる織編物に吸水加工を施すことが好ましい。織編物に吸水加工を施すことにより、少量の汗でも通気性が向上しやすくなる。かかる吸水加工としては特に限定されず、ポリエチレングリコールジアクリレートやその誘導体、または、ポリエチレンテレフタレート−ポリエチレングリコール共重合体などの吸水加工剤を織編物に、織編物の重量に対して0.25〜0.50重量%付着させることが好ましく例示される。吸水加工の方法としては、例えば染色加工時に染液に吸水加工剤を混合する浴中加工法や、乾熱ファイナルセット前に、織編物を吸水加工液中にデイッピングしマングルで絞る方法、グラビヤコーテング法、スクリーンプリント法といった塗布による加工方法等が例示される。
【0043】
本発明の衣服は、前記の湿潤に対して寸法変化しない織編物と湿潤により寸法が可逆的に拡大する織編物とを用いて、通常の方法により縫製されたものである。その際、各々の織編物には、前述のように染色加工、吸水加工、さらには、常法の起毛加工、紫外線遮蔽あるいは抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤、撥水剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。
【0044】
本発明の衣服を着用すると、発汗の際、湿潤により寸法が可逆的に拡大する部位の寸法が大きくなり、運動中に当該部位がはためくベンチレーション効果(ふいご効果)を呈し、発汗によって生じるムレやベトツキを解消することができ、優れた着用快適性が得られる。
【0045】
本発明の衣服は、アウター用衣服、スポーツ用衣服、インナー用衣服などとして好適に使用することができる。なお、本発明の衣服には、ボタンなどの付属品が付属していても何らさしつかえない。
【実施例】
【0046】
以下、実施例をあげて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。なお、実施例中の各物性は下記の方法により測定したものである。
【0047】
<ポリエステルの固有粘度>オルソクロロフェノールを溶媒として使用し温度35℃で測定した。
<ポリアミドの固有粘度>m−クレゾールを溶媒として使用し温度30℃で測定した。
<破断強度、破断伸度>繊維試料を、雰囲気温度25℃、湿度60%RHの恒温恒湿に保たれた部屋に一昼夜放置した後、サンプル長さ100mmで(株)島津製作所製引張試験機テンシロンにセットし、200mm/minの速度で伸張し、破断時の強度(cN/dtex)、伸度(%)を測定した。なお、n数5でその平均値を求めた。
【0048】
<複合繊維の捲縮率>枠周:1.125mの巻き返し枠を用いて、荷重:49/50mN×9×トータルテックス(0.1gf×トータルデニール)をかけて一定の速度で巻き返し、巻き数:10回の小綛をつくり、該小綛をねじり2重の輪状にしたものに49/2500mN×20×9×トータルテックス(2mg×20×トータルデニール)の初荷重をかけたまま沸水中に入れて30分間処理し、該沸水処理の後100℃の乾燥機にて30分間乾燥し、その後さらに初荷重をかけたまま160℃の乾熱中に入れ5分間処理した。該乾熱処理の後に初荷重を除き、温度20℃、湿度65%RH環境下に24時間以上放置した後、前記の初荷重および98/50mN×20×9×トータルテックス(0.2gf×20×トータルデニール)の重荷重を負荷し、綛長:L0を測定し、直ちに重荷重のみを取り除き、除重1分後の綛長:L1を測定した。さらにこの綛を初荷重をかけたまま温度20℃の水中に2時間浸漬した後取り出し、ろ紙(大きさ30cm×30cm)にて0.69mN/cm(70mgf/cm)の圧力を5秒間かけて軽く水を拭き取った後、初荷重および重荷重を負荷し綛長:L0’を測定し、直ちに重荷重のみを取り除き、除重1分後の綛長:L1’を測定する。以上の測定数値から下記の計算式にて、乾燥時の捲縮率DC(%)、湿潤時の捲縮率HC(%)、乾燥時と湿潤時の捲縮率差(DC−HC)(%)を算出した。なお、n数は5で平均値を求めた。
乾燥時の捲縮率DC(%)=((L0−L1)/L0)×100
湿潤時の捲縮率HC(%)=(L0’−L1’)/L0’)×100
【0049】
<寸法変化量>織編物を温度20℃、湿度65RH%の環境下に24時間放置した後に試料(経20cm×緯20cmの正方形)を織編物と同じ方向に裁断し、乾燥時の面積(cm)とする。一方、該試料を、水温20℃の水中に5分間浸漬した後(以下、湿潤時という。)、試料を2枚のろ紙の間にはさみ、490N/m(50kgf/m)の圧力で1分間加重し、繊維間に存在する水分を取り除いた後、試料の面積を測定し、湿潤時の面積(cm)とする。そして、下記式で定義する面積変化率により寸法変化量(%)を算出した。
面積変化率(%)=((湿潤時の面積)−(乾燥時の面積))/(乾燥時の面積)×100
【0050】
[実施例1]
固有粘度[η]が1.3のナイロン6と、固有粘度[η]が0.39で2.6モル%の5−ナトリウムスルフォイソフタル酸を共重合させた変性ポリエチレンテレフタレートとをそれぞれ270℃、290℃にて溶融し、特開2000−144518号公報の図1と同様の複合紡糸口金を用い、それぞれ12.7g/分の吐出量にて押し出し、サイドバイサイド型複合繊維を形成させ、冷却固化、油剤を付与した後、糸条を速度1000m/分、温度60℃の予熱ローラーにて予熱し、ついで、該予熱ローラーと、速度3050m/分、温度150℃に加熱された加熱ローラー間で延伸熱処理を行い、巻取り、84dtex/24filの複合繊維を得た。該複合繊維において、破断強度3.4cN/dtex、破断伸度40%であった。また、該複合繊維に沸水処理を施して捲縮率を測定したところ、乾燥時の捲縮率DCが3.3%、湿潤時の捲縮率HCが1.6%、乾燥時の捲縮率DCと湿潤時の捲縮率HCとの差(DC−HC)が1.7%であった。
【0051】
次いで、前記の複合繊維(沸水処理されておらず、捲縮は発現していない。無撚糸)だけを用いて、28ゲージのダブル丸編機を使用して、65コース/2.54cm、37ウエール/2.54cmの生機密度にて天竺組織の丸編物を編成した。
【0052】
そして、該丸編物を、温度130℃、キープ時間15分で染色加工し、複合繊維の潜在捲縮性能を顕在化させた。次いで、該丸編物に、温度160℃、時間1分で乾熱ファイナルセットを施した。
【0053】
得られた編物(湿潤により寸法が可逆的に拡大する編物)において、目付け120g/m、編密度は71コース/2.54cm、61ウエール/2.54cm、寸法変化量は21%(タテ方向7%、ヨコ方向13%)であった。
【0054】
一方、28ゲージのダブル編機にて、ポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸(56dtex/72fil)を用いて、45コース/2.54cm、41ウエール/2.54cmの生機密度にてスムース組織の丸編物を編成し同様に染色加工した後、該編物(湿潤に対して寸法変化しない編物)を裁断縫製し、半そでシャツを作製した。
【0055】
次いで、このシャツの胸部のみをカットし(タテ15cm、ヨコ20cm)、その個所に前記の湿潤により寸法が可逆的に向上する編物をカットして図2のように胸部に縫製した。
【0056】
得られたシャツを試験者が着用し、温度28℃、湿度50%に調整された室内にて、下記の着用工程にて着用テストを行い、その間の衣服内(肌と衣服の間)の湿度を測定した。結果は図4に示す通りで、運動中もベンチレーション効果によりムレ難く、運動後も風があたるとベンチレーション効果によりムレ感が非常に少なく快適であった。
(着用工程)
安静5分(有風1.5m/s)、ランニング15分(10km/h)、安静10分(無風)、安静20分(有風1.5m/s)
【0057】
[比較例1]
実施例1で用いたポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸(56dtex/72fil)だけを用いて作製したシャツを試験者が着用し実施例1と同様の着用テストを行った。結果は図4に示す通りで、着用感も運動中のベンチレーション効果をほとんど呈さないためムレ感が強く、運動後もムラ感が長く続き不快感であった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明によれば、湿潤時にベンチレーション効果を呈することにより発汗時の着用快適性に優れた衣服が得られ、その工業的価値は極めて大である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の衣服において、湿潤により寸法が可逆的に拡大する部位(複数)が胸部である場合を模式的に示すものである。
【図2】本発明の衣服において、湿潤により寸法が可逆的に拡大する部位(単数)が胸部である場合を模式的に示すものである。
【図3】本発明の衣服において、湿潤により寸法が可逆的に拡大する部位が側体部である場合を模式的に示すものである。
【図4】衣服内(肌と衣服の間)の湿度を測定した結果である。
【符号の説明】
【0060】
1−1 湿潤により寸法が可逆的に拡大する部位(胸部)
1−2 湿潤により寸法が可逆的に拡大する部位(胸部)
1−3 湿潤により寸法が可逆的に拡大する部位(側体部)
1−4 湿潤により寸法が可逆的に拡大する部位(側体部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
織編物で構成される衣服であって、湿潤により寸法が可逆的に拡大する部位を部分的に有することを特徴とする湿潤時にベンチレーション効果を呈する衣服。
【請求項2】
湿潤により寸法が可逆的に拡大する部位が、脇部、側体部、胸部、背部、肩部からなる群より選択される1部位または2部位以上である、請求項1に記載の湿潤時にベンチレーション効果を呈する衣服。
【請求項3】
湿潤により寸法が可逆的に拡大する部位の一つの面積が1cm以上である、請求項1または請求項2に記載の湿潤時にベンチレーション効果を呈する衣服。
【請求項4】
湿潤により寸法が可逆的に拡大する部位が丸編物またはメッシュ状の織編物からなる、請求項1〜3のいずれかに記載の湿潤時にベンチレーション効果を呈する衣服。
【請求項5】
湿潤により寸法が可逆的に拡大する部位に、ポリエステル成分とポリアミド成分とがサイドバイサイド型に接合された複合繊維であって、潜在捲縮性能が発現してなる捲縮を有する複合繊維が含まれる、請求項1〜4のいずれかに記載の湿潤時にベンチレーション効果を呈する衣服。
【請求項6】
湿潤により寸法が可逆的に拡大する部位において、湿潤時に乾燥時よりも10%以上寸法が大きくなる、請求項1〜5のいずれかに記載の湿潤時にベンチレーション効果を呈する衣服。
【請求項7】
衣服が、アウター用衣服、スポーツ用衣服、インナー用衣服からなる群より選択されるいずれかの衣服である、請求項1〜6のいずれかに記載の湿潤時にベンチレーション効果を呈する衣服。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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