説明

溝加工方法及び金属部品

【課題】金属部品Pにおけるラビリンス溝LG周辺の強度を十分に確保すること。
【解決手段】兼用バイト20の先端の両側に逃げを付けた状態で、溝深さ方向に沿って一定の溝幅を有したリング溝Gを形成し、兼用バイト20の先端の片側に逃げを付けた状態で、溝幅が溝底Gb側から外側に向かって拡がるようにリング溝Gの溝壁Ga,Gcを整形し、溝底切削用バイト30の先端の両側に逃げを付けた状態で、リング溝Gの溝底GbをR形状に整形すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溝幅が溝底側から外側に向かって拡がるように設定されたリング溝(例えばラビリンス溝)を金属部品の外周面に形成するための溝加工方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
図9(a)に示すように、ガスタービンに用いられるガスタービン回転部品(金属部品の一例)Pとガスタービン静止部品(図示省略)との間のシール性を確保するために、ガスタービン回転部品Pの外周面に複数のラビリンス溝LGをガスタービン回転部品Pの軸方向(図9(a)において左右方向)に沿って間隔を置いて形成することがある。ここで、ラビリンス溝LGは、溝幅が溝底側から外側(径方向外側)に向かって拡がるように設定された設定リング溝の一つである。そして、ガスタービン回転部品Pの外周面にラビリンス溝LGを形成する場合には、次のように行われている。
【0003】
図9(b)に示すように、先端側にラビリンス溝LGの断面形状に合わせた形状の切刃10eを有した総形バイト(総形の溝入れ用バイト)10を用い、ガスタービン回転部品Pをその軸心(ガスタービン回転部品Pの軸心)Ps周りに回転させた状態で、総形バイト10をガスタービン回転部品Pの軸心Psに接近する方向へ送り移動させる。これにより、総形バイト10の切刃10eによってガスタービン回転部品Pの外周面に切削加工を施して、ラビリンス溝LGを形成することができる。
【0004】
なお、本発明に関連する先行技術として特許文献1及び特許文献2に示すものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−274397号公報
【特許文献2】特開2002−233912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、総形バイト10をガスタービン回転部品Pの軸心Psに接近する方向へ送り移動させると、総形バイト10に送り移動方向の切込み(換言すれば、溝深さ方向の切込み)を与えるだけでなく、送り移動方向に直交する方向の切込み(換言すれば、溝幅方向の切込み)を与えることになり、また、その直交する方向の切込みは、送り方向の切込みに比べて、非常に小さいものである。そのため、ガスタービン回転部品Pの溝加工中に、総形バイト10とガスタービン回転部品Pとの間(具体的には、総形バイト10の先端の側面とガスタービン部品Pに形成された切断溝との間)に擦りが発生して、摩擦熱によってラビリンス溝LGの溝壁(溝壁側)に大きな引張応力が残留する傾向にあり、ガスタービン回転部品Pにおけるラビリンス溝LG周辺の強度低下を招くという問題がある。
【0007】
なお、前述の問題は、チタン合金等、熱伝導率の小さい材料構成されるガスタービン回転部品Pの外周面にラビリンス溝LGを形成する場合に、顕著であるが、ラビリンス溝LG等の設定リング溝をガスタービン回転部品P以外の金属部品の外周面に形成する場合にも、同様に生じるものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の特徴は、溝幅が溝底側から外側(径方向外側)に向かって拡がるように設定されたリング溝(設定リング溝)を金属部品の外周面に形成するための溝加工方法において、先端側に切刃を有した溝入れ用バイトを用い、前記金属部品をその軸心(前記金属部品の軸心)周りに回転させた状態で、前記溝入れ用バイトの先端の両側に逃げを付けながら、前記溝入れ用バイトを前記金属部品の軸心に接近する方向へ送り移動させることにより、前記溝入れ用バイトの前記切刃によって前記金属部品の外周面に切削加工を施して、溝深さ方向(前記金属部品の径方向)に沿って一定の溝幅を有したリング溝を形成する第1切削工程と、前記第1切削工程の終了後に、先端コーナ側に切刃(コーナ切刃)を有した溝壁切削用バイトを用い、前記金属部品をその軸心周りに回転させた状態で、前記溝入れ用バイトの先端の両側に逃げを付けながらながら、前記溝壁切削用バイトを前記リング溝の溝壁の縁側から溝底側に向かって送り移動させることにより、前記溝壁切削用バイトの前記切刃によって前記リング溝の溝壁に切削加工を施して、溝幅が溝底側から外側に向かって拡がるように前記リング溝の溝壁を整形する第2切削工程と、を備えたことを要旨とする。
【0009】
ここで、溝幅が溝底側から外側に向かって拡がるように設定されたリング溝とは、ラビリンス溝を含む意であって、ラビリンス溝に限定するものではない。また、前記溝入れ用バイトと前記溝壁切削用バイトとして共通の兼用バイトを用いても構わない。
【0010】
本発明の第1の特徴によると、前記溝加工方法は、前記溝入れ用バイトの先端の両側に逃げを付けた状態で、溝深さ方向に沿って一定の溝幅を有した前記リング溝を形成する工程と、前記溝壁切削用バイトの先端の片側に逃げを付けた状態で、溝幅が溝底側から外側に向かって拡がるように前記リング溝の溝壁を整形する工程とに分かれているため、前記溝入れ用バイト及び前記溝壁切削用バイトに送り移動方向に直交する方向の切込みを与えることなく、前記設定されたリング溝を前記金属部品の外周面に形成することができる。
【0011】
本発明の第2の特徴は、金属部品において、第1の特徴からなる溝加工方法によって前記設定されたリング溝が外周面に形成されていることを要旨とする。
【0012】
第2の特徴によると、第1の特徴による作用と同様の作用を奏する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、前記溝入れ用バイト及び前記溝壁切削用バイトに送り移動方向に直交する方向の切込みを与えることなく、前記設定されたリング溝を前記金属部品の外周面に形成できるため、前記金属部品の溝加工中に、前記溝入れ用バイト等と前記金属部品との間の擦りの発生を抑えつつ、前記設定されたリング溝の溝壁(溝壁側)に大きな引張応力が残留することがなくなって、前記金属部品における前記設定されたリング溝周辺の強度を十分に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の第1及び第2実施形態に係る溝加工方法における第1切削工程を説明する図である。
【図2】図2(a)(b)は、本発明の第1実施形態に係る溝加工方法における第2切削工程を説明する図である。
【図3】図3(a)(b)は、本発明の第1実施形態に係る溝加工方法における第3切削工程を説明する図である。
【図4】図4(a)(b)は、本発明の第2実施形態に係る溝加工方法における第2切削工程を説明する図である。
【図5】図5は、本発明の第2実施形態に係る溝加工方法における第3切削工程を説明する図である。
【図6】図6(a)(b)は、本発明の第2実施形態に係る溝加工方法における第4切削工程を説明する図である。
【図7】図7は、本発明の実施形態の変形例に係る溝加工方法における第1切削工程を説明する図である。
【図8】図8(a)(b)は、本発明の実施形態の変形例に係る溝加工方法における第2切削工程を説明する図である。
【図9】図9(a)は、ガスタービン回転部品の外周面に複数のラビリンス溝を形成した様子を示す図、図9(b)は、ガスタービン回転部品の外周面にラビリンス溝を形成するための一般的な方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1実施形態)
本発明の実施形態について図面を参照して説明する。ここで、本願の図面中、「FF」は、前方向、「FR」は、後方向、「L」は、左方向、「R」は、右方向、「U」は、上方向、「D」は、下方向を指してある。また、本願の明細書の説明中、「X軸方向」とは、前後方向、「Z軸方向」とは、左右方向、「Y軸方向」とは、上下方向、「C軸方向」とは、Y軸方向に平行な軸心周りの回転方向のことである。なお、図1から図6(a)(b)は、ガスタービン回転部品Pの外周面に1つ目のラビリンス溝LGを形成した後に、2つ目のラビリンス溝LGを形成する様子を示している。
【0016】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について図1、図2、及び図3(a)(b)を参照して説明する。
【0017】
本発明の第1実施形態に係る溝加工方法は、チタン合金、ニッケル合金、又はコバルト合金により構成されたガスタービン回転部品(金属部品の一例)Pの外周面にラビリンス溝(設定リング溝の一例)LGを形成するための方法であって、第1切削工程(1-1)、第2切削工程(1-2)、及び第3切削工程(1-3)を備えている。そして、本発明の第1実施形態に係る溝加工方法における各工程の具体的な内容は、次のようになる。
【0018】
第1切削工程(1-1)
図1に示すように、旋盤のタレット型刃物台(図示省略)をX軸方向、Z軸方向、Y軸方向、及びC軸方向へ移動制御することにより、タレット型刃物台に装着された溝入れ用バイトとしての兼用バイト20を旋盤のワーク主軸(図示省略)にセットしたガスタービン回転部品Pの外周面に接近した位置(図1において仮想線で示す位置)に位置させる。ここで、兼用バイト20は、先端側から先端両コーナ側にかけて切刃20eを有し、兼用バイト20のバイト幅は、兼用バイト20の先端に向かって拡がってあって、兼用バイト20の切刃20eの先端両コーナ側部分は、R形状を呈している。次に、回転モータ(図示省略)の駆動によりガスタービン回転部品Pをその軸心(ガスタービン回転部品Pの軸心)Ps周りにワーク主軸と一体的に回転させる。そして、タレット型刃物台をX軸方向へ移動制御することにより、ガスタービン回転部品Pをその軸心Ps周りに回転させた状態で、兼用バイト20の先端の両側(左右両側)に逃げを付けながら、兼用バイト20をガスタービン回転部品Pの軸心Psに接近する方向(前方向)へ送り移動させる。これにより、兼用バイト20の切刃20eによってガスタービン回転部品Pの外周面に切削加工を施して、溝深さ方向に沿って一定の溝幅を有したリング溝Gを形成することができる。
【0019】
第2切削工程(1-2)
第1切削工程(1-1)の終了後に、図2(a)に示すように、タレット型刃物台のX軸方向及びZ軸方向へ移動制御することにより、溝壁切削用バイトとしての兼用バイト20をリング溝Gの左溝壁Gaの縁側に接近した位置(図2(a)において仮想線で示す位置)に位置させる。そして、タレット型刃物台をX軸方向、Z軸方向、及びC軸方向へ移動制御することにより、ガスタービン回転部品Pをその軸心Ps周りに回転させた状態で、兼用バイト20の先端の片側(左側)に逃げを付けながら、兼用バイト20をリング溝Gの左溝壁Gaの縁側から溝底Gb側に向かって送り移動させる。これにより、兼用バイト20の切刃20eによってリング溝Gの左溝壁Gaに切削加工を施して、溝幅が溝底Gb側から外側に向かって拡がるようにリング溝Gの左溝壁Gaを整形することができる。
【0020】
同様に、図2(b)に示すように、タレット型刃物台のX軸方向及びZ軸方向へ移動制御することにより、兼用バイト20をリング溝Gの右溝壁Gcの縁側に接近した位置(図2(b)において仮想線で示す位置)に位置させる。そして、タレット型刃物台のX軸方向、Z軸方向、及びC軸方向へ移動制御することにより、ガスタービン回転部品Pをその軸心Ps周りに回転させた状態で、兼用バイト20の先端の片側(右側)に逃げを付けながら、兼用バイト20をリング溝Gの右溝壁Gcの縁側から溝底Gb側に向かって送り移動させる。これにより、兼用バイト20の切刃20eによってリング溝Gの右溝壁Gcに切削加工を施して、溝幅が溝底Gb側から外側に向かって拡がるようにリング溝Gの右溝壁Gcを整形することができる。
【0021】
なお、第2切削工程(1-2)において、兼用バイト20を用いる代わりに、先端コーナ側にR形状の切刃(コーナ切刃)を有した別の溝壁切削用バイト(図示省略)を用いても構わない。
【0022】
第3切削工程(1-3)
第2切削工程(1-2)の終了後に、図3(a)に示すように、タレット型刃物台のX軸方向、Z軸方向、及びC軸方向へ移動制御することにより、タレット刃物台に装着された溝底切削用バイト30をリング溝Gに接近した位置(図3(a)において仮想線で示す位置)に位置させる。ここで、溝底切削用バイト30は、先端側にR形状の切刃30eを有し、溝底切削用バイト30の先端の両側面(左側面及び右側面)は、先細りのテーパ形状を呈してあって、溝底切削用バイト30の先端側の大きさは、ラビリンス溝LGの断面の大きさよりも僅かに小さくなっている。そして、タレット型刃物台のX軸方向へ移動制御することにより、ガスタービン回転部品Pをその軸心Ps周りに回転させた状態で、溝底切削用バイト30の先端の両側(左右両側)に逃げを付けながら、溝底切削用バイト30をガスタービン回転部品Pの軸心Psに接近する方向へ送り移動させる。これにより、溝底切削用バイト30の切刃30eによってリング溝Gの溝底Gbに切削加工を施して、リング溝Gの溝底GbをR形状に整形しつつ、リング溝Gをラビリンス溝LGに最終的に仕上げることができる(図9(a)参照)。
【0023】
なお、第2切削工程(1-3)において、溝底切削用バイト30を用いる代わりに、図3(b)に示すように、先端側にR形状の切刃40eを有しかつ先端の両側面がストレート形状を呈した別の溝底切削用バイト40を用いても構わない。
【0024】
続いて、本発明の第1実施形態の作用及び効果について説明する。
【0025】
本発明の第1実施形態に係る溝加工方法は、兼用バイト20の先端の両側に逃げを付けた状態で、溝深さ方向に沿って一定の溝幅を有したリング溝Gを形成する工程と、兼用バイト20の先端の片側に逃げを付けた状態で、溝幅が溝底Gb側から外側に向かって拡がるようにリング溝Gの溝壁Ga,Gcを整形する工程と、溝底切削用バイト30の先端の両側に逃げを付けた状態で、リング溝Gの溝底GbをR形状に整形する工程とに分かれているため、兼用バイト20及び溝底切削用バイト30に送り移動方向に直交する方向の切込みを与えることなく、ガスタービン回転部品Pの外周面にラビリンス溝LGを形成することができる。
【0026】
従って、本発明の実施形態によれば、ガスタービン回転部品Pの溝加工中に、兼用バイト20等とガスタービン回転部品Pとの間の擦りの発生を抑えつつ、ラビリンス溝LGの溝壁(溝壁側)に大きな引張応力が残留することがなくなって、ガスタービン回転部品Pにおけるラビリンス溝LG周辺の強度を十分に確保することができる。
【0027】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について図4(a)(b)、図5、及び図6(a)(b)を参照して説明する。
【0028】
本発明の第2実施形態に係る溝加工方法は、チタン合金、ニッケル合金、又はコバルト合金により構成されたガスタービン回転部品Pの外周面にラビリンス溝LGを形成するための方法であって、第1切削工程(2-1)、第2切削工程(2-2)、第3切削工程(2-3)、及び第4切削工程を備えている。そして、本発明の第2実施形態に係る溝加工方法における各工程の具体的な内容は、次のようになる。
【0029】
第1切削工程(2-1)
本発明の第1実施形態に係る溝加工方法における第1切削工程(1-1)と同様の処理を実行することにより、溝入れ用バイトとしての兼用バイト20の切刃20eによってガスタービン回転部品Pの外周面に切削加工を施して、溝深さ方向に沿って一定の溝幅を有したリング溝Gを形成することができる(図1参照)。
【0030】
第2切削工程(2-2)
第1切削工程(2-1)の終了後に、図4(a)に示すように、タレット型刃物台のX軸方向及びZ軸方向へ移動制御することにより、溝壁切削用バイトとしての兼用バイト20をリング溝Gの左溝壁Gaに接近した位置(図4(a)において仮想線で示す位置)に位置させる。そして、タレット型刃物台をX軸方向、Z軸方向、及びC軸方向へ移動制御することにより、ガスタービン回転部品Pをその軸心Ps周りに回転させた状態で、兼用バイト20の先端の片側(左側)に逃げを付けながら、兼用バイト20をリング溝Gの左溝壁Gaの縁側から溝底Gb側に向かって送り移動させる。これにより、兼用バイト20の切刃20eによってリング溝Gの左溝壁Gaに切削加工を施して、リング溝Gの左溝壁Gaに余肉Tを残した状態で、溝幅が溝底Gb側から外側に向かって拡がるようにリング溝Gの左溝壁Gaを整形することができる。
【0031】
同様に、図4(b)に示すように、タレット型刃物台のX軸方向及びZ軸方向へ移動制御することにより、溝壁切削用バイトとしての兼用バイト20をリング溝Gの右溝壁Gcに接近した位置(図4(b)において仮想線で示す位置)に位置させる。そして、タレット型刃物台のX軸方向、Z軸方向、及びC軸方向へ移動制御することにより、ガスタービン回転部品Pをその軸心Ps周りに回転させた状態で、兼用バイト20の先端の片側(右側)に逃げを付けながら、兼用バイト20をリング溝Gの右溝壁Gcの縁側から溝底Gb側に向かって送り移動させる。これにより、兼用バイト20の切刃20eによってリング溝Gの右溝壁Gcに切削加工を施して、リング溝Gの右溝壁Gcに余肉Tを残した状態で、溝幅が溝底Gb側から外側に向かって拡がるようにリング溝Gの右溝壁Gcを整形することができる。
【0032】
第3切削工程(2-3)
第2切削工程(2-2)の終了後に、図5に示すように、タレット型刃物台のX軸方向、Z軸方向、及びC軸方向へ移動制御することにより、タレット刃物台に装着された溝底切削用バイトとしての兼用バイト50をリング溝Gに接近した位置(図5において仮想線で示す位置)に位置させる。ここで、兼用バイト50は、先端側にR形状の切刃50eを有し、兼用バイト50の先端の両側面(左右両側面)は、先細りのテーパ形状を呈してあって、兼用バイト50の先端側の大きさは、ラビリンス溝LGの断面の大きさの略半分になっている。そして、タレット型刃物台のX軸方向へ移動制御することにより、ガスタービン回転部品Pをその軸心Ps周りに回転させた状態で、兼用バイト50の先端の両側(左右両側)に逃げを付けながら、兼用バイト50をガスタービン回転部品Pの軸心Psに接近する方向へ送り移動させる。これにより、兼用バイト50の切刃50eによってリング溝Gの溝底Gbに切削加工を施して、リング溝Gの溝底Gbに余肉Tを残した状態で、リング溝Gの溝底GbをR形状に整形することができる。
【0033】
第4切削工程(2-4)
第3切削工程(2-3)の終了後に、図6(a)に示すように、タレット型刃物台のX軸方向及びZ軸方向へ移動制御することにより、仕上げ用バイトとしての兼用バイト50をリング溝Gの左溝壁Gaに接近した位置(図6(a)において仮想線示す位置)に位置させる。そして、タレット型刃物台をX軸方向、Z軸方向、及びC軸方向へ移動制御することにより、ガスタービン回転部品Pをその軸心Ps周りに回転させた状態で、兼用バイト50の先端の片側(左側)に逃げを付けながら、兼用バイト50をリング溝Gの左溝壁Gaの縁側から溝底Gb側に向かって送り移動させる。これにより、兼用バイト20の切刃20eによってリング溝Gの左溝壁Gaの縁側から溝底Gb側にかけて余肉Tを除去することができる。
【0034】
同様に、図6(b)に示すように、タレット型刃物台のX軸方向及びZ軸方向へ移動制御することにより、仕上げ用バイトとしての兼用バイト50をリング溝Gの右溝壁Gcに接近した位置(図6(b)において仮想線示す位置)に位置させる。そして、タレット型刃物台のX軸方向、Z軸方向、及びC軸方向へ移動制御することにより、ガスタービン回転部品Pをその軸心Ps周りに回転させた状態で、兼用バイト50の先端の片側(右側)に逃げを付けながら、兼用バイト50をリング溝Gの右溝壁Gcの縁側から溝底Gb側に向かって送り移動させる。これにより、兼用バイト50の切刃50eによってリング溝Gの右溝壁Gcの縁側から溝底Gb側にかけて余肉Tを除去して、リング溝Gをラビリンス溝LGに最終的に仕上げることができる。
【0035】
次に、本発明の第2実施形態の作用及び効果について説明する。
【0036】
本発明の第2実施形態に係る溝加工方法は、兼用バイト20の先端の両側に逃げを付けた状態で、溝深さ方向に沿って一定の溝幅を有したリング溝Gを形成する工程と、兼用バイト20の先端の片側に逃げを付けた状態で、溝幅が溝底Gb側から外側に向かって拡がるようにリング溝Gの溝壁Ga,Gcを整形する工程と、兼用バイト50の先端の両側に逃げを付けた状態で、リング溝Gの溝底GbをR形状に整形する工程と、兼用バイト50の先端の片側に逃げを付けた状態で、リング溝Gの溝壁Ga,Gcの縁側から溝底Gb側にかけて余肉Tを除去する工程とに分かれているため、兼用バイト20,50に送り移動方向に直交する方向の切込みを与えることなく、ガスタービン回転部品Pの外周面にラビリンス溝LGを形成することができる。
【0037】
リング溝Gの溝壁Ga,Gcに余肉Tを残した状態で、溝幅が溝底Gb側から外側に向かって拡がるようにリング溝Gの溝壁Ga,Gcを整形し、リング溝Gの溝底Gbに余肉Tを残した状態で、リング溝Gの溝底GbをR形状に整形した後に、兼用バイト20の切刃20eによってリング溝Gの溝壁Ga,Gcの縁側から溝底Gb側にかけて余肉Tを除去しているため、ラビリンス溝LGの溝壁Ga,Gcに加工段差(加工ミスマッチ)が付くことがない。
【0038】
従って、本発明の第2実施形態によれば、兼用バイト20,50に送り移動方向に直交する方向の切込みを与えることなく、ガスタービン回転部品Pの外周面にラビリンス溝LGを形成できるため、ガスタービン回転部品Pの溝加工中に、兼用バイト20,50とガスタービン回転部品Pとの間の擦りの発生を抑えつつ、ラビリンス溝LGの溝壁(溝壁側)に大きな引張応力が残留することがなくなって、ガスタービン回転部品Pにおけるラビリンス溝LG周辺の強度を十分に確保することができる。特に、ラビリンス溝LGの溝壁Ga,Gcに加工段差(加工ミスマッチ)が付くことがないため、ガスタービン回転部品Pにおけるラビリンス溝LG周辺の強度をより十分に確保することができる。
【0039】
(変形例)
本発明の実施形態の変形例について図7及び図8(a)(b)を参照して説明する。
【0040】
本発明の第1実施形態における溝加工方法における第1切削工程(1-1)及び本発明の第2実施形態における溝加工方法における第1切削工程(2-1)は、次のように実行しても構わない。
【0041】
図7に示すように、ガスタービン回転部品Pの外周面に1つ目のリング溝(右側のリング溝)Gを形成した後に、タレット型刃物台のZ軸方向へ移動制御することにより、兼用バイト20にガスタービン回転部品Pの軸方向の横送り(ピッチ送り)を与える。そして、ガスタービン回転部品Pをその軸心Ps周りに回転させた状態で、兼用バイト20の先端の両側(左右両側)に逃げを付けながら、兼用バイト20をガスタービン回転部品Pの軸心Psに接近する方向(前方向)へ送り移動させることにより、兼用バイト20の切刃20eによってガスタービン回転部品Pの外周面に切削加工を施す。これにより、ガスタービン回転部品Pの外周面に2つ目のリング溝(左側のリング溝)Gを形成しつつ、Z軸方向に隣接するリング溝G間に環状のフィンFを区画形成することができる。
【0042】
本発明の第1実施形態における溝加工方法における第2切削工程(1-2)及び本発明の第2実施形態における溝加工方法における第1切削工程(2-2)は、次のように実行しても構わない。
【0043】
フィンFを間にして一方のリング溝(右側のリング溝)Gの左溝壁Gaと他方のリング溝(左側のリング溝)Gの右溝壁Gcに切削加工を施す場合に、タレット型刃物台のX軸方向、Z軸方向、及びC軸方向へ移動制御することにより、兼用バイト20を一方のリング溝Gの左溝壁Gaの縁側から溝底Gb側に向かって送り移動させる動作と、兼用バイト20を他方のリング溝Gの右溝壁Gcの縁側から溝底Gb側に向かって送り移動させる動作とを交互に繰り返して行う。これにより、フィンFの倒れ(変形)を抑えつつ、溝幅が溝底Gb側から外側に向かって拡がるように一方のリング溝Gの左溝壁Ga及び他方のリング溝Gの右溝壁Gcを整形することができる。
【0044】
続いて、本発明の実施形態の変形例の作用及び効果について説明する。
【0045】
フィンFを間にして一方のリング溝Gの左溝壁Gaと他方のリング溝Gの右溝壁Gcに切削加工を施す場合に、フィンFの倒れ(変形)を抑えつつ、溝幅が溝底Gb側から外側に向かって拡がるように一方のリング溝Gの左溝壁Ga及び他方のリング溝Gの右溝壁Gcを整形できるため、兼用バイト20とガスタービン回転部品P(具体的には、フィンF)との間の擦りの発生をより十分に抑えて、本発明の第1及び第2実施形態の効果をより高めることができる。
【0046】
なお、本発明は、前述の実施形態の説明に限られるものではなく、例えば、本発明の実施形態に係る溝加工方法をガスタービン回転部品P以外の金属部品の外周面に設定リング溝を形成する場合に適用する等、その他、種々の態様で実施可能である。また、本発明に包含される権利範囲は、本発明の実施形態に限定されものでなく、例えば本発明の実施形態に係る溝加工方法によってラビリンス溝LG等の設定リング溝が外周面に形成されたガスタービン回転部品等の金属部品にも及ぶものである。
【符号の説明】
【0047】
P ガスタービン回転部品
Ps ガスタービン回転部品の軸心
LG ラビリンス溝
G リング溝
Ga リング溝の左溝壁
Gb リング溝の溝底
Gc リング溝の右溝壁
F フィン
T 余肉
10 総形バイト
10e 総形バイトの切刃
20 兼用バイト
20e 兼用バイトの切刃
30 溝底切削用バイト
30e 溝底切削用バイトの切刃
40 溝底切削用バイト
40e 溝底切削用バイトの切刃
50 兼用バイト
50e 兼用バイトの切刃

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溝幅が溝底側から外側に向かって拡がるように設定されたリング溝を金属部品の外周面に形成するための溝加工方法において、
先端側に切刃を有した溝入れ用バイトを用い、前記金属部品をその軸心周りに回転させた状態で、前記溝入れ用バイトの先端の両側に逃げを付けながら、前記溝入れ用バイトを前記金属部品の軸心に接近する方向へ送り移動させることにより、前記溝入れ用バイトの前記切刃によって前記金属部品の外周面に切削加工を施して、溝深さ方向に沿って一定の溝幅を有したリング溝を形成する第1切削工程と、
前記第1切削工程の終了後に、先端コーナ側に切刃を有した溝壁切削用バイトを用い、前記金属部品をその軸心周りに回転させた状態で、前記溝壁切削用バイトの先端の片側に逃げを付けながら、前記溝壁切削用バイトを前記リング溝の溝壁の縁側から溝底側に向かって送り移動させることにより、前記溝壁切削用バイトの前記切刃によって前記リング溝の溝壁に切削加工を施して、溝幅が溝底側から外側に向かって拡がるように前記リング溝の溝壁を整形する第2切削工程と、を備えたことを特徴とする溝加工方法。
【請求項2】
前記第2切削工程の終了後に、先端側にR形状の切刃を有した溝底切削用バイトを用い、前記金属部品をその軸心周りに回転させた状態で、前記溝底切削用バイトの先端の両側に逃げを付けながら、前記溝底切削用バイトを前記リング溝の溝底側に向かって送り移動させることにより、前記溝底切削用バイトの前記切刃によって前記リング溝の溝底に切削加工を施して、前記リング溝の溝底をR形状に整形する第3切削工程と、を備えたことを特徴とする溝加工方法。
【請求項3】
前記第2切削工程は、前記溝壁切削用バイトの前記切刃によって前記リング溝の溝壁に切削加工を施して、前記リング溝の溝壁に余肉を残した状態で、溝幅が溝底側から外側に向かって拡がるように前記リング溝の溝壁を整形するものであって、
前記第3切削工程は、前記溝底切削用バイトの前記切刃によって前記リング溝の溝底に切削加工を施して、前記リング溝の溝底に余肉を残した状態で、前記リング溝の溝底をR形状に整形するものであって、
前記第3切削工程の終了後に、先端側にR形状の切刃を有した仕上げ切削用バイトを用い、前記金属部品をその軸心周りに回転させた状態で、前記仕上げ切削用バイトの先端の片側に逃げを付けながら、前記仕上げ切削用バイトを前記リング溝の溝壁の縁側から溝底側に向かって送り移動させることにより、前記仕上げ切削用バイトの前記切刃によって前記リング溝の溝壁の縁側から溝底側にかけて余肉を除去して仕上げる第4切削工程と、を備えたことを特徴とする請求項2に記載の溝加工方法。
【請求項4】
前記第1切削工程は、前記金属部品の外周面に1つ目の前記リング溝を形成した後に、前記溝入れ用バイトに前記金属部品の軸方向の横送りを与えて、前記溝入れ用バイトの前記切刃による切削加工を施すことにより、前記金属部品の外周面に2つ目の前記リング溝を形成しつつ、前記軸方向に隣接する前記リング溝間に環状のフィンを区画形成するものであって、
前記第2切削工程は、前記フィンを間にして一方の前記リング溝の溝壁と他方の前記リング溝の溝壁に切削加工を施す場合に、前記溝壁切削用バイトを一方の前記リング溝の溝壁の縁側から溝底側に向かって送り移動させる動作と、前記溝壁切削用バイトを他方の前記リング溝の溝壁の縁側から溝底側に向かって送り移動させる動作とを交互に繰り返して行うものであることを特徴とする請求項1から請求項3のうちのいずれかの請求項に記載の溝加工方法。
【請求項5】
前記金属部品は、チタン合金、ニッケル合金、又はコバルト合金により構成されていることを特徴とする請求項1から請求項4のうちのいずれかの請求項に記載の溝加工方法。
【請求項6】
前記設定されたリング溝は、ラビリンス溝であることを特徴とする請求項1から請求項5のうちのいずれかの請求項に記載の溝加工方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6のうちにいずれかの請求項に記載の溝加工方法によって前記設定されたリング溝が外周面に形成されていることを特徴とする金属部品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2013−111683(P2013−111683A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259012(P2011−259012)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】