説明

溝加工方法

【課題】所定幅の溝Gの形成の生産性を向上させつつ、エンドミル10(20)の耐久性を維持すること。
【解決手段】エンドミル10(20)の先端中心を通る被加工物Wの表面の法線Nに対してエンドミル10(20)の軸心10c(20c)を傾斜させた状態で、エンドミル10(20)をその軸心10c(20c)周りに回転させつつ、エンドミル10(20)にその軸方向の切込み送りを与えて、エンドミル10(20)を所定方向に沿って被加工物に対して相対的に送り移動させること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物(ワーク)の表面に切削加工によって所定幅の溝を所定方向に沿って形成するための溝加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービン部品等の機械部品を製作する際には、機械部品の素材である被加工物(ワーク)の表面に切削加工によって溝を形成することがあり、溝の形成は種々の分野で利用されている。そして、図9(a)(b)(c)を参照して、被加工物Wの表面に切削加工によって所定幅の溝Gを所定方向(この従来例においてX軸方向)に形成するための一般的な溝加工方法について簡単に説明すると、次のようになる。
【0003】
図9(a)(b)(c)に示すように、例えば先端が平坦なフラットエンドミル10を用い、フラットエンドミル10をその軸心10c周りに回転させつつ、フラットエンドミル10にその軸方向(この従来例においてY軸方向)の切込み送りを与えて、フラットエンドミル10を所定方向に沿って被加工物Wに対して相対的に送り移動させる。これにより、被加工物Wの表面に切削加工を施して溝Gを所定方向に沿って形成することができる。
【0004】
続いて、フラットエンドミル10をその軸心10c周りに回転させつつ、フラットエンドミル10にその径方向(この従来例においてZ軸方向)の切込み送りを与えて、フラットエンドミル10を所定方向に沿って被加工物Wに対して相対的に送り移動させる。これにより、溝Gの壁面に切削加工を施して、溝Gの幅を所定幅に仕上げることができる(後述の本発明の第1実施形態に係る溝加工方法における第3切削工程と同様、図3(a)(b)(c)参照)。
【0005】
また、フラットエンドミル10の代わりに、先端が球面状を呈したボールエンドミルを用いた場合にも、前述と同様の操作を行うことにより、被加工物Wの表面に切削加工によって所定幅の溝GをX軸方向に形成することができる。
【0006】
なお、本発明に関連する先行技術として特許文献1から特許文献4に示すものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000ー141120号公報
【特許文献2】特開2004−202688号公報
【特許文献3】特開2008−213127号公報
【特許文献4】特開2008−279547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、所定幅の溝Gの形成の生産性を向上させるには、フラットエンドミル10等の切削速度を高めて、被加工物Wの表面に対して高速切削を行う必要がある。一方、フラットエンドミル10等の切削速度を高めると、フラットエンドミル10等によって被加工物Wの表面に最初の切削加工を施す際に、フラットエンドミル10等の先端側の外周面のうち半周分が被加工物Wに接触することもあって、フラットエンドミル10等に過度の温度上昇を招き易くなり、フラットエンドミル10等の耐久性が低下することになる。つまり、所定幅の溝Gの形成の生産性を向上させつつ、フラットエンドミル10等の耐久性の維持することは困難であるという問題がある。
【0009】
そこで、本発明は、前述の問題を解決することができる、新規な構成の溝加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の特徴は、被加工物の表面に切削加工によって所定幅の溝を所定方向に沿って形成するための溝加工方法において、先端が平坦なフラットエンドミル(肩にRを付けたラジアスエンドミルを含む)を用い、前記フラットエンドミルの先端中心を通る被加工物の表面の法線(法線方向)に対して前記フラットエンドミルの軸心を傾斜させた状態で、前記フラットエンドミルをその軸心周りに回転させつつ、前記フラットエンドミルにその軸方向(軸心方向)の切込み送りを与えて、前記フラットエンドミルを前記所定方向に沿って被加工物に対して相対的に送り移動させることにより、被加工物の表面に切削加工を施して前記所定幅よりも小さい幅の溝を前記所定方向に沿って形成する第1切削工程と、前記第1切削工程の終了後に、前記法線に対する前記フラットエンドミルの軸心の傾斜角を小さくして、前記フラットエンドミルにその径方向の切込み送りを与える度毎に、前記フラットエンドミルをその軸心周りに回転させつつ、前記所定方向に沿って被加工物に対して相対的に送り移動させることにより、被加工物の表面に切削加工を施して、前記溝の幅寸法を前記フラットエンドミルの先端の外径寸法以上に拡張する第2切削工程と、前記第2切削工程の終了後に、前記フラットエンドミルをその軸心周りに回転させつつ、前記フラットエンドミルにその径方向の切込み送りを与えて、前記フラットエンドミルを前記所定方向に沿って被加工物に対して相対的に送り移動させることにより、前記溝の壁面に切削加工を施して、前記溝の幅を前記所定幅に仕上げる第3切削工程と、を備えたことを要旨とする。
【0011】
第1の特徴によると、前記第1切削工程において、前記法線に対して前記フラットエンドミルの軸心を傾斜させた状態で、前記フラットエンドミルをその軸心周りに回転させているため、前記フラットエンドミルによって被加工物の表面に最初の切削加工を施す際に、前記フラットエンドミルの先端面の一部を被加工物の表面から浮かして、前記フラットエンドミルと被加工物との接触面積(接触長さ)を低減(短く)することができる。これにより、前記フラットエンドミルの切削速度を高めても、前記フラットエンドミルによって被加工物の表面に最初の切削加工を施す際に、前記フラットエンドミルに過度の温度上昇が発生することを十分に抑えることができる。
【0012】
本発明の第2の特徴は、被加工物に切削加工によって所定幅の溝を所定方向に沿って形成するための溝加工方法において、先端が球面状を呈したボールエンドミルを用い、前記ボールエンドミルの先端中心を通る被加工物の表面の法線(法線方向)に対して前記ボールエンドミルの軸心を傾斜させた状態で、前記ボールエンドミルをその軸心周りに回転させつつ、前記ボールエンドミルにその軸方向の切込み送りを与えて、前記ボールエンドミルを前記所定方向に沿って被加工物に対して相対的に送り移動させることにより、被加工物の表面に切削加工を施して前記所定幅よりも小さい幅の溝を前記所定方向に沿って形成する第1切削工程と、前記第1切削工程の終了後に、前記ボールエンドミルをその軸心周りに回転させつつ、前記ボールエンドミルにその径方向の切込み送りを与えて、前記ボールエンドミルを前記所定方向に沿って被加工物に対して相対的に送り移動させることにより、前記溝の壁面(被加工物の表面)に切削加工を施して、前記溝の幅を前記所定幅に仕上げる第2切削工程と、を備えたことを要旨とする。
【0013】
第2の特徴によると、前記第1切削工程において、前記法線に対して前記ボールエンドミルの軸心を傾斜させた状態で、前記ボールエンドミルをその軸心周りに回転させているため、前記ボールエンドミルによって被加工物の表面に最初の切削加工を施す際に、前記ボールエンドミルの先端面の一部を被加工物の表面から浮かして、前記ボールエンドミルと被加工物との接触面積(接触長さ)を低減(短く)することができる。これにより、前記ボールエンドミルの切削速度を高めても、前記ボールエンドミルによって被加工物の表面に最初の切削加工を施す際に、前記ボールエンドミルに過度の温度上昇が発生することを十分に抑えることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、前記フラットエンドミル等の切削速度を高めても、前記フラットエンドミル等によって被加工物の表面に最初の切削加工を施す際に、前記フラットエンドミル等に過度の温度上昇が発生することを十分に抑えることができるため、前記所定幅の前記溝の形成の生産性を向上させつつ、前記フラットエンドミル等の耐久性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1(a)は、本発明の第1実施形態に係る溝加工方法における第1切削工程を説明する平面図、図1(b)は、図1(a)におけるIB-IB線に沿った図、図1(c)は、図1(a)におけるIC-IC線に沿った図である。
【図2】図2(a)(b)(c)は、本発明の第1実施形態に係る溝加工方法における第2切削工程を説明する側面図である。
【図3】図3(a)は、本発明の第1実施形態に係る溝加工方法における第3切削工程を説明する平面図、図3(b)は、図3(a)におけるIIIB-IIIB線に沿った図、図3(c)は、図3(a)におけるIIIC-IIIC線に沿った図である。
【図4】図4(a)は、本発明の第1実施形態の変形例に係る溝加工方法における第1切削工程を説明する平面図、図4(b)は、図4(a)におけるIVB-IVB線に沿った図、図4(c)は、図4(a)におけるIVC-IVC線に沿った図である。
【図5】図5(a)(b)は、本発明の第1実施形態の変形例に係る溝加工方法における第2切削工程を説明する側面図である。
【図6】図6(a)は、本発明の第2実施形態に係る溝加工方法における第1切削工程を説明する平面図、図6(b)は、図6(a)におけるVIB-VIB線に沿った図、図6(c)は、図6(a)におけるVIC-VIC線に沿った図である。
【図7】図7(a)は、本発明の第2実施形態に係る溝加工方法における第2切削工程を説明する平面図、図7(b)は、図7(a)におけるVIIB-VIIB線に沿った図、図7(c)は、図7(a)におけるVIIC-VIIC線に沿った図である。
【図8】図8(a)は、本発明の第2実施形態の変形例に係る溝加工方法における第1切削工程を説明する平面図、図8(b)は、図8(a)におけるVIIIB-VIIIB線に沿った図、図8(c)は、図8(a)におけるVIIIC-VIIIC線に沿った図である。
【図9】図9(a)は、一般的な溝加工方法を説明する平面図、図9(b)は、図9(a)におけるIXB-IXB線に沿った図、図9(c)は、図9(a)におけるIXC-IXC線に沿った図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について図1から図3を参照して説明する。
【0017】
図1(a)(b)(c)に示すように、本発明の第1実施形態に係る溝加工方法は、マシニングセンタのテーブル(図示省略)にセットされた被加工物(ワーク)Wの表面に切削加工によって所定幅の溝Gを所定方向(第1実施形態においてX軸方向)に沿って形成するための方法であって、第1切削工程(1-1)、第2切削工程(1-2)、第3切削工程(1-3)、及び第4切削工程(1-4)を備えている。また、本発明の第1実施形態に係る溝加工方法の実施には、マシニングセンタのスピンドル(図示省略)に装着されかつ先端が平坦なフラットエンドミル(肩にRを付けたラジアスエンドミルを含む)10を用いている。ここで、フラットエンドミル10は、マシニングセンタの回転モータ(図示省略)の駆動によって軸心10c周りに回転であって、送り移動軸方向及び送り回転軸方向に被加工物Wに対して相対的に送り移動制御及び送り回転制御されるようになっている。なお、第1実施形態において、送り移動軸方向とは、相互に直交するX軸方向、Y軸方向、Z軸方向のことであって、送り回転軸方向とは、X軸方向に平行な軸心周りに回転する方向のA軸方向、Z軸方向に平行な軸心周りに回転する方向のB軸方向のことである。
【0018】
続いて、本発明の第1実施形態に係る溝加工方法における各工程の具体的な内容について説明する。
【0019】
第1切削工程(1-1)
図1(a)(b)(c)に示すように、フラットエンドミル10をX軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向に被加工物Wに対して相対的に送り移動制御することにより、被加工物Wの一側方に位置決めする。また、フラットエンドミル10をA軸方向に被加工物Wに対して相対的に送り回転制御することにより、フラットエンドミル10の軸心10cを所定の法線Nに対して送り移動方向(図1(a)において白抜き矢印の方向)に直交する側に傾斜させる。そして、回転モータを駆動し、かつフラットエンドミル10をX軸方向、Y軸方向に被加工物Wに対して送り移動制御することにより、フラットエンドミル10の軸心10cを所定の法線Nに対して送り移動方向に直交する側に傾斜させた状態で、フラットエンドミル10をその軸心10c周りに回転させつつ、フラットエンドミル10にその軸方向(第1実施形態においてY軸方向)の切込み送りを与えて、フラットエンドミル10を所定方向に沿って被加工物Wに対して相対的に送り移動させる。これにより、被加工物Wの表面に切削加工を施して所定幅よりも小さい幅の溝Gを所定方向に沿って形成することができる。
【0020】
ここで、所定の法線Nとは、フラットエンドミル10の先端中心を通る被加工物Wの表面の法線のことである。
【0021】
第2切削工程(1-2)
第1切削工程(1-1)の終了後に、図2(a)(b)(c)に示すように、フラットエンドミル10に所定の変化を与える度毎に、回転モータを駆動し、かつフラットエンドミル10をX軸方向に被加工物Wに対して相対的に送り移動制御することにより、フラットエンドミル10をその軸心10c周りに回転させつつ、所定方向に沿って被加工物Wに対して相対的に送り移動させる。これにより、被加工物Wの表面に切削加工を施して、溝Gの幅寸法をフラットエンドミル10の先端の外径寸法以上(第1実施形態においてフラットエンドミル10の先端の外径寸法)に拡張することができる。
【0022】
ここで、所定の変化とは、フラットエンドミル10をA軸方向に被加工物Wに対して相対的に送り回転制御することにより、所定の法線Nに対するフラットエンドミル10の軸心10cの傾斜角θ(図1(c)参照)を小さくて、フラットエンドミル10にその径方向(第1実施形態においてZ軸方向)の切込み送りを与えることをいう。
【0023】
第3切削工程(1-3)
第2切削工程(1-2)の終了後に、図3(a)(b)(c)に示すように、回転モータを駆動し、かつフラットエンドミル10をX軸方向及びZ軸方向に被加工物Wに対して相対的に送り移動制御することにより、フラットエンドミル10をその軸心10c周りに回転させつつ、フラットエンドミル10にその径方向の切込み送りを与えて、フラットエンドミル10を複数回繰り返して所定方向に沿って被加工物Wに対して相対的に往復送り移動させる。これにより、溝Gの両壁面に交互に切削加工を施して、溝Gの幅を所定幅に仕上げることができる。
【0024】
なお、第3切削工程(1-3)中に、フラットエンドミル10をA軸方向に被加工物Wに対して相対的に送り回転制御することにより、フラットエンドミル10の軸心10cを所定の法線Nに対して送り移動方向に直交する側に僅かに傾斜させても構わない。
【0025】
第4切削工程(1-4)
第3切削工程(1-3)の終了後に、第1切削工程(1-1)から第3切削工程(1-3)までを順次繰り返して実行する。これにより、溝Gの深さを深くして、所定深さの溝Gを形成することができる。
【0026】
続いて、本発明の第1実施形態の作用及び効果について説明する。
【0027】
第1切削工程(1-1)において、所定の法線Nに対してフラットエンドミル10の軸心10cを送り移動方向に直交する側に傾斜させた状態で、フラットエンドミル10をその軸心10c周りに回転させているため、フラットエンドミル10によって被加工物Wの表面に最初の切削加工を施す際に、フラットエンドミル10の先端面の一部を被加工物Wの表面から浮かして、フラットエンドミル10と被加工物Wとの接触面積(接触長さ)を低減(短く)することができる。これにより、フラットエンドミル10の切削速度を高めても、フラットエンドミル10によって被加工物Wの表面に最初の切削加工を施す際に、フラットエンドミル10に過度の温度上昇が発生することを十分に抑えることができる。
【0028】
従って、本発明の第1実施形態によれば、所定幅の溝Gの形成の生産性を向上させつつ、フラットエンドミル10の耐久性を維持することができる。
【0029】
(第1実施形態の変形例)
本発明の第1実施形態の変形例について図4及び図5を参照して説明する。
【0030】
本発明の第1実施形態の変形例においては、第1切削工程(1-1)において、フラットエンドミル10の軸心10cを所定の法線Nに対して送り移動方向に直交する側に傾斜させる代わりに、図4(a)(b)(c)に示すように、フラットエンドミル10をB軸方向に被加工物Wに対して相対的に送り回転制御することにより、フラットエンドミル10の軸心10cを所定の法線Nに対して送り移動方向側に傾斜させている。
【0031】
第2切削工程(1-2)において、フラットエンドミル10をA軸方向に被加工物Wに対して相対的に送り回転制御する代わりに、図5(a)(b)に示すように、B方向に被加工物Wに対して相対的に送り回転制御することにより、所定の法線Nに対するフラットエンドミル10の軸心10cの傾斜角θ(図4(b)参照)を小さくしている。
【0032】
そして、本発明の第1実施形態の変形例においても、フラットエンドミル10によって被加工物Wの表面に最初の切削加工を施す際に、フラットエンドミル10の先端面の一部を被加工物Wの表面から浮かして、フラットエンドミル10と被加工物Wとの接触面積を低減することができ、本発明の第1実施形態の効果と同様の効果を奏する。
【0033】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について図6及び図7を参照して説明する。
【0034】
図6(a)(b)(c)に示すように、本発明の第2実施形態に係る溝加工方法は、マシニングセンタのテーブル(図示省略)にセットされた被加工物(ワーク)Wの表面に切削加工によって所定幅の溝を所定方向(第2実施形態においてX軸方向)に沿って形成するための方法であって、第1切削工程(2-1)、第2切削工程(2-2)、及び第3切削工程(2-3)を備えている。また、本発明の第2実施形態に係る溝加工方法の実施には、マシニングセンタのスピンドル(図示省略)に装着されかつ先端が球面状を呈したボールエンドミル20を用いている。ここで、ボールエンドミル20は、マシニングセンタの回転モータ(図示省略)の駆動によって軸心20c周りに回転であって、送り移動軸方向(X軸方向、Y軸方向、Z軸方向)及び送り回転軸方向(A軸方向、B軸方向)に被加工物Wに対して相対的に送り移動制御及び送り回転制御されるようになっている。
【0035】
続いて、本発明の第2実施形態に係る溝加工方法における各工程の具体的な内容について説明する。
【0036】
第1切削工程(2-1)
図6(a)(b)(c)に示すように、ボールエンドミル20をX軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向に被加工物Wに対して相対的に送り移動制御することにより、被加工物Wの一側方に位置決めする。また、ボールエンドミル20をA軸方向に被加工物Wに対して相対的に送り回転制御することにより、ボールエンドミル20の軸心20cを所定の法線Nに対して送り移動方向(図6において白抜き矢印の方向)に直交する側に傾斜させる。そして、回転モータを駆動し、かつボールエンドミル20をX軸方向、Y軸方向に被加工物Wに対して送り移動制御することにより、ボールエンドミル20の軸心20cを所定の法線Nに対して送り移動方向に直交する側に傾斜させた状態で、ボールエンドミル20をその軸心20c周りに回転させつつ、ボールエンドミル20にその軸方向(第2実施形態においてY軸方向)の切込み送りを与えて、ボールエンドミル20を所定方向に沿って被加工物Wに対して相対的に送り移動させる。これにより、被加工物Wの表面に切削加工を施して所定幅よりも小さい幅の溝Gを所定方向に沿って形成することができる。
【0037】
ここで、所定の法線Nとは、ボールエンドミル20の先端中心を通る被加工物Wの表面の法線のことである。
【0038】
第2切削工程(2-2)
図7(a)(b)(c)に示すように、第1切削工程(2-1)の終了後に、回転モータを駆動し、かつボールエンドミル20をX軸方向及びZ軸方向に被加工物Wに対して相対的に送り移動制御することにより、ボールエンドミル20をその軸心20c周りに回転させつつ、ボールエンドミル20にその径方向(第2実施形態においてZ軸方向)の切込み送りを与えて、ボールエンドミル20を複数回繰り返して所定方向に沿って被加工物Wに対して相対的に往復送り移動させる。これにより、溝Gの両壁面に交互に切削加工を施して、溝Gの幅を所定幅に仕上げることができる。
【0039】
なお、第2切削工程(2-2)中に、ボールエンドミル20をA軸方向に被加工物Wに対して相対的に送り回転制御することにより、ボールエンドミル20の軸心20cを所定の法線Nに対して送り移動方向に直交する側に僅かに傾斜させても構わない。
【0040】
第3切削工程(2-3)
第2切削工程(2-2)の終了後に、第1切削工程(2-1)及び第2切削工程(2-2)を交互に繰り返して実行する。これにより、溝Gの深さを深くして、所定深さの溝Gを形成することができる。
【0041】
続いて、本発明の第2実施形態の作用及び効果について説明する。
【0042】
第2切削工程(2-2)において、所定の法線Nに対してボールエンドミル20の軸心20cを送り移動方向に直交する側に傾斜させた状態で、ボールエンドミル20をその軸心20c周りに回転させているため、ボールエンドミル20によって被加工物Wの表面に最初の切削加工を施す際に、ボールエンドミル20の先端面の一部を被加工物Wの表面から浮かして、ボールエンドミル20と被加工物Wとの接触面積(接触長さ)を低減(短く)することができる。これにより、ボールエンドミル20の切削速度を高めても、ボールエンドミル20によって被加工物Wの表面に最初の切削加工を施す際に、ボールエンドミル20に過度の温度上昇が発生することを十分に抑えることができる。
【0043】
従って、本発明の第2実施形態によれば、所定幅の溝Gの形成の生産性を向上させつつ、ボールエンドミル20の耐久性を維持することができる。
【0044】
(第2実施形態の変形例)
本発明の第2実施形態の変形例について図8を参照して説明する。
【0045】
本発明の第2実施形態の変形例においては、第1切削工程(2-1)において、ボールエンドミル20の軸心20cを所定の法線Nに対して送り移動方向に直交する側に傾斜させる代わりに、図8(a)(b)(c)に示すように、ボールエンドミル20をB軸方向に被加工物Wに対して相対的に送り回転制御することにより、ボールエンドミル20の軸心20cを所定の法線Nに対して送り移動方向側に傾斜させている。
【0046】
そして、本発明の第2実施形態の変形例においても、ボールエンドミル20によって被加工物Wの表面に最初の切削加工を施す際に、ボールエンドミル20の先端面の一部を被加工物Wの表面から浮かして、ボールエンドミル20と被加工物Wとの接触面積を低減することができ、本発明の第2実施形態の効果と同様の効果を奏する。
【0047】
なお、本発明は、前述の実施形態の説明に限られるものではなく、例えば、フラットエンドミル10の軸心10c又はボールエンドミル20の軸心20cを所定の法線Nに対して、送り移動方向に直交する側又は送り移動方向側に傾斜させる代わりに、送り移動方向に直交する側と送り移動方向側の中間側に傾斜させる等、その他、種々の態様で実施可能である。また、本発明に包含される権利範囲は、これらの実施形態に限定されないものである。
【符号の説明】
【0048】
W 被加工物
G 溝
N 所定の法線
10 フラットエンドミル
10c フラットエンドミルの軸心
20 ボールエンドミル
20c ボールエンドミルの軸心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物の表面に切削加工によって所定幅の溝を所定方向に沿って形成するための溝加工方法において、
先端が平坦なフラットエンドミルを用い、前記フラットエンドミルの先端中心を通る被加工物の表面の法線に対して前記フラットエンドミルの軸心を傾斜させた状態で、前記フラットエンドミルをその軸心周りに回転させつつ、前記フラットエンドミルにその軸方向の切込み送りを与えて、前記フラットエンドミルを前記所定方向に沿って被加工物に対して相対的に送り移動させることにより、被加工物の表面に切削加工を施して前記所定幅よりも小さい幅の溝を前記所定方向に沿って形成する第1切削工程と、
前記第1切削工程の終了後に、前記法線に対する前記フラットエンドミルの軸心の傾斜角を小さくして、前記フラットエンドミルにその径方向の切込み送りを与える度毎に、前記フラットエンドミルをその軸心周りに回転させつつ、前記所定方向に沿って被加工物に対して相対的に送り移動させることにより、被加工物の表面に切削加工を施して、前記溝の幅寸法を前記フラットエンドミルの先端の外径寸法以上に拡張する第2切削工程と、
前記第2切削工程の終了後に、前記フラットエンドミルをその軸心周りに回転させつつ、前記フラットエンドミルにその径方向の切込み送りを与えて、前記フラットエンドミルを前記所定方向に沿って被加工物に対して相対的に送り移動させることにより、前記溝の壁面に切削加工を施して、前記溝の幅を前記所定幅に仕上げる第3切削工程と、を備えたことを特徴とする溝加工方法。
【請求項2】
前記第3切削工程の終了後に、前記第1切削工程から前記第3切削工程を順次繰り返して実行することより、前記溝の深さを深くする第4切削工程と、を備えたことを特徴とする請求項1に記載の溝加工方法。
【請求項3】
被加工物に切削加工によって所定幅の溝を所定方向に沿って形成するための溝加工方法において、
先端が球面状を呈したボールエンドミルを用い、前記ボールエンドミルの先端中心を通る被加工物の表面の法線に対して前記ボールエンドミルの軸心を傾斜させた状態で、前記ボールエンドミルをその軸心周りに回転させつつ、前記ボールエンドミルにその軸方向の切込み送りを与えて、前記ボールエンドミルを前記所定方向に沿って被加工物に対して相対的に送り移動させることにより、被加工物の表面に切削加工を施して前記所定幅よりも小さい幅の溝を前記所定方向に沿って形成する第1切削工程と、
前記第1切削工程の終了後に、前記ボールエンドミルをその軸心周りに回転させつつ、前記ボールエンドミルにその径方向の切込み送りを与えて、前記ボールエンドミルを前記所定方向に沿って被加工物に対して相対的に送り移動させることにより、前記溝の壁面に切削加工を施して、前記溝の幅を前記所定幅に仕上げる第2切削工程と、を備えたことを特徴とする溝加工方法。
【請求項4】
前記第2切削工程の終了後に、前記第1切削工程及び前記第2切削工程を交互に繰り返して実行することより、前記溝の深さを深くする第3切削工程と、を備えたことを特徴とする請求項3に記載の溝加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−99829(P2013−99829A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245536(P2011−245536)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】