説明

溶接ロボットの制御装置

【課題】 予め溶接前にワークの位置ずれを検出する際、その検出動作を容易に実施することのできる、溶接ロボットの制御装置を提供する。
【解決手段】 溶接ロボット10の制御装置20は、ワークWに対して溶接を施すための溶接トーチを用いて予め教示された移動軌跡に基づいてワークWに対して溶接を施す溶接ロボットを制御する一方、所定位置に設置される複数のワークWの位置ずれを検出するためのものであって、移動軌跡を教示する際に併せて教示される溶接トーチ14の動作開始点Aと、その動作開始点AからワークWの方向にある方向指示点Bとを通る直線上を、溶接トーチ14をワークWに向けて移動させ、溶接トーチ14が移動されたことにより、溶接トーチ14がワークWの表面に接触したことが検出されたとき、そのときの溶接トーチ14の位置を、複数のワークWの位置ずれを検出するための位置データとして取得する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワーク(被溶接物)に対して溶接を行う溶接ロボットの制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、作業ロボットには、溶接の対象となる複数のワーク同士を例えばアーク溶接によって接合させる溶接ロボットがある。この溶接ロボットでは、いわゆるティーチング&プレイバック方式が用いられていることが多い。このティーチング&プレイバック方式は、ワークの溶接位置に沿った溶接トーチの移動軌跡が教示データとして予め作業員等によって設定され、あるいは例えばレーザセンサのセンシング動作によって溶接位置を検出することによりワークの溶接位置に沿った溶接トーチの移動軌跡が教示データとして設定され、その教示データをそれ以降の溶接トーチによる溶接作業に利用する方式である。
【0003】
一方、溶接作業においては、ワークを溶接するための溶接作業台等に設置する場合に、治具の締め付け具合等によってワークごとに位置ずれが生じることがある。例えば、特許文献1の公報には、溶接前に予めワークの位置ずれを検出して、検出された位置ずれ量を予め設定された教示データに反映させることにより、正確な移動軌跡で溶接を行い得る方法が提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開平5−200551号公報
【0005】
この公報における制御では、予め溶接前に位置ずれを検出する際、以下の方法が用いられている。すなわち、この溶接ロボットには、溶接トーチのほかにワークとの接触を検出するためのタッチセンサ及びピンが溶接トーチに略並設されて設けられている。ワークには、予めマーキングが施され、溶接ロボットのピンがそのマーキングに向かって移動するように、作業者等が手動で又はキーボード等を備える操作装置から移動量を入力する。ピンが被溶接物に接触すると、タッチセンサがそれを検出し、そのときのピンの位置を位置データとして取り込んで、予め入力された位置データと比較することにより位置ずれ量を算出するようにしている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記公報における制御では、ピンを被溶接物のマーキングに向かって移動させる際、その移動動作を手動又は操作装置からの入力操作によって行っていたために、非常に長時間を要するとともに、作業者等にとっては面倒な作業を発生させていた。
【0007】
本願発明は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、予め溶接前にワークの位置ずれを検出する際、その検出動作を容易に実施することのできる、溶接ロボットの制御装置を提供することを、その課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本願発明では、次の技術的手段を講じている。
【0009】
本願発明によって提供される溶接ロボットの制御装置は、被溶接物に対して溶接を施すための溶接トーチを用いて予め教示された移動軌跡に基づいて、前記被溶接物に対して溶接を施す溶接ロボットを制御する一方、所定位置に設置される複数の被溶接物の位置ずれを検出するための制御装置であって、前記移動軌跡を教示する際に併せて教示される前記溶接トーチの動作開始点と、その動作開始点から前記被溶接物の方向にある任意の空間上の点とを通る直線上を、前記溶接トーチを前記被溶接物に向けて移動させる移動手段と、前記移動手段によって前記溶接トーチが移動されたことにより、前記溶接トーチが前記被溶接物の表面に対して所定の位置関係に達したことを検出する検出手段と、前記検出手段によって前記溶接トーチが前記被溶接物の表面に対して所定の位置関係に達したことが検出されたとき、そのときの前記溶接トーチの位置を、複数の被溶接物の位置ずれを検出するための位置データとして取得する取得手段と、を備えることを特徴としている(請求項1)。
【0010】
なお、前記取得手段によって取得される位置データは、基準となる被溶接物に対する基準位置データと他の各被溶接物に対する位置データであり、各被溶接物に対して前記位置データと基準位置データとの差を算出し、その差データを用いて各被溶接物の移動軌跡の教示データを補正する補正手段をさらに備えるとよい(請求項2)。
【0011】
また、前記検出手段は、前記溶接トーチが前記被溶接物の表面と接触したことにより、前記溶接トーチが前記被溶接物の表面に対して所定の位置関係に達したことを検出するとよい(請求項3)。
【0012】
また、前記検出手段は、前記溶接トーチと前記被溶接物の表面との間の距離が所定の距離関係になったことにより、前記溶接トーチが前記被溶接物の表面に対して所定の位置関係に達したことを検出するとよい(請求項4)。
【0013】
この構成によれば、制御装置は、予め溶接前に被溶接物の位置ずれを検出するための位置データを取得しようとする際、例えば移動軌跡を教示する際、溶接トーチの動作開始点と、その動作開始点から前記被溶接物の方向にある任意の点とが例えば作業者等によって設定入力されると、この2点を通る直線上を、溶接トーチを被溶接物に向けて移動させる。次いで、溶接トーチが被溶接物の表面と、例えば接触したことが検出されると、その検出されたときの溶接トーチの位置を位置データとして取得する。
【0014】
上記動作が行われることにより、例えば予め溶接前に被溶接物の位置ずれを検出する際、位置ずれを検出するための位置データを容易にかつ確実に取得することができる。従来では、各被溶接物の位置ずれを検出するためのピン等の移動動作を、手動又は操作装置からの入力操作によって行っていたために、非常に長時間を要するとともに、作業者等にとっては面倒な作業を発生させていたが、上記の構成により、これらの問題点を解消することができる。
【0015】
また、位置データとしては、基準となる被溶接物に対する基準位置データと他の各被溶接物に対する位置データとが取得されるが、基準位置データを取り直すときは、既に先の基準位置データの取得の際に溶接トーチの移動方向を指示するための動作開始点と任意の点が教示されているので、改めてこれらの点を教示する必要がなく、直ちに溶接トーチを移動させて位置データを取得することができる。
【0016】
好ましい実施の形態によれば、前記溶接トーチの動作開始点と、その動作開始点から前記被溶接物の方向にある任意の点とを位置データとして記憶する記憶手段を備え、前記移動手段は、前記記憶手段によって記憶された位置データに基づいて、前記溶接トーチを前記被溶接物に向けて移動させるとよい(請求項5)。
【0017】
本願発明のその他の特徴及び利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本願発明の好ましい実施の形態を、添付図面を参照して具体的に説明する。
【0019】
図1は、本願発明に係る溶接ロボットの制御装置を含む制御システムを示す構成図である。この制御システムは、溶接ロボットに設けられた溶接トーチによりワーク(被溶接物)に対して溶接を行うものであり、特にこの制御システムは、複数のワークに対して溶接を行う前に各ワークの位置ずれを検出する制御、いわゆるプリセンシング制御における方法を提供するものである。
【0020】
この制御システムは、溶接ロボット10と、ロボット制御装置20と、溶接電源装置30とによって大略構成されている。
【0021】
溶接ロボット10は、ワークWに対して例えばアーク溶接を自動で行うものである。溶接ロボット10は、フロア等に固定されるベース部材11と、それに6本の軸を介して連結された6本のアーム12と、6本のアーム12の両端又は片端に設けられた6個の駆動モータ(サーボモータ)13(一部図示略)とによって構成されている。
【0022】
溶接ロボット10には、最も先端側に設けられたアーム12の先端部に、溶接トーチ14が設けられている。溶接トーチ14は、溶加材としての例えば直径1mm程度の溶接ワイヤ15をワークWの所定の溶接位置に導くものである。
【0023】
溶接ロボット10の上部には、ワイヤ送給装置16が設けられている。ワイヤ送給装置16は、溶接トーチ14に対して溶接ワイヤ15を送り出すためのものである。ワイヤ送給装置16は、溶接ワイヤ15が巻回された図示しないリールと、リールを回転させる送給モータ17とによって構成され、送給モータ17は、溶接電源装置30によって回転駆動される。
【0024】
ワイヤ送給装置16には、溶接ワイヤ15を案内するためのコイルライナ19が接続され、コイルライナ19の先端は、溶接トーチ14に接続されている。溶接ワイヤ15は、溶接トーチ14から外部に突出して消耗電極として機能する。すなわち、溶接電源装置30によって溶接ワイヤ15の先端とワークWとの間にアークを発生させてその熱で溶接ワイヤ15を溶融させることにより、ワークWに対して溶接が施される。
【0025】
6個の駆動モータ13は、それぞれロボット制御装置20からの駆動信号によって回転駆動され、この各駆動モータ13が回転駆動されることにより、各アーム12が変位し、結果的に溶接トーチ14が上下前後左右に移動可能とされる。
【0026】
なお、各駆動モータ13には、図示しないエンコーダが設けられている。エンコーダの出力は、ロボット制御装置20に与えられ、ロボット制御装置20では、エンコーダの出力によって各駆動モータ13の回転位置が検出される。従って、ロボット制御装置20では、各駆動モータ13の回転位置から各アーム12の変位状態と先端のアーム12に取り付けられた溶接トーチ14の現在位置を認識するようになっている。
【0027】
ロボット制御装置20は、溶接ロボット10の動作を制御するためのものである。ロボット制御装置20は、予め記憶されている作業プログラム及び図示しないエンコーダからの現在位置情報等に基づいて、溶接ロボット10の各駆動モータ13を駆動制御して、溶接トーチ14を動作開始点からワークWの溶接点、その溶接点から他の溶接点、あるいは溶接点から退避点(位置)に移動させる。
【0028】
溶接電源装置30は、図示しない溶接電源を備えており、溶接電源は溶接トーチ14とワークWとの間に溶接電圧を供給するものである。また、溶接電源装置30は、所定のタイミングでワイヤ送給装置16の送給モータ17を駆動させる機能をも有している。
【0029】
図2は、ロボット制御装置20及びその周辺機器の構成を示すブロック図である。ロボット制御装置20は、マイクロコンピュータ等によって構成される制御部21、メモリ部22、サーボ駆動部23、現在位置監視部24、溶接制御部25、及び接触検出部26によって構成されている。制御部21には、操作装置27が接続されている。サーボ駆動部23には、溶接ロボット10に設けられた6つの駆動モータ13がそれぞれ接続されている。現在位置監視部24には、6つの駆動モータ13にそれぞれ設けられた6つのエンコーダ28が接続されている。また、溶接制御部25及び接触検出部26には、溶接電源装置30が接続されている。
【0030】
制御部21は、本ロボット制御装置20の制御中枢となるものであり、予めメモリ部22に記憶された作業プログラム、操作装置27からの操作信号、あるいはエンコーダ28からの現在位置情報等に基づいて、所定のデータ処理を行い、サーボ駆動部23に動作指令を与えることにより、駆動モータ13を回転駆動させ、溶接トーチ14を移動させる。
【0031】
また、制御部21は、後述するように、プリセンシング制御において、作業者等によって入力される、溶接トーチ14の動作開始点A(図4参照)、及びその動作開始点Aを基準にして溶接トーチ14が移動する方向を示す方向指示点B(図4参照)を示す位置データに基づいて、溶接トーチ14を移動させる機能を有する。この溶接トーチ14の移動制御は、溶接トーチ14をワークWに接触させるためのものである。
【0032】
また、制御部21は、溶接トーチ14とワークWとが接触したことを検出する接触検出部26からの出力と、その検出時の6個の駆動モータ13のエンコーダ28からの出力とに基づいて、溶接トーチ14の接触位置を位置データとしてメモリ部22に記憶させる機能を有する。すなわち、制御部21は、溶接トーチ14がワークWに接触すると、溶接トーチ14の移動を停止させ、そのときの6個のエンコーダ28によって検出される各駆動モータ13の回転位置を位置データとしてメモリ部22に記憶させる。さらに、溶接トーチ14とワークWとが接触したときの溶接トーチ14の位置データに基づいて各ワークWの位置ずれを補正する機能を有する。これについては、後述する。
【0033】
メモリ部22には、溶接ロボット10の一連の移動や動作等を定めた作業プログラムが格納されている。作業プログラムには、そのような移動命令とともに、溶接を開始させる溶接開始命令や、衝突検出処理及び停止処理等が含まれている。
【0034】
また、メモリ部22には、この作業プログラムが実行される際に必要なデータが記憶される。例えば、メモリ部22には、上記した溶接トーチ14の動作開始点A、及び方向指示点Bを示す位置データが記憶される。また、ワークWの溶接部分である移動軌跡の教示点データが記憶される。さらには、各ワークWの位置ずれを補正するための位置データが記憶される(詳細は後述)。なお、動作開始点A及び方向指示点Bの位置データ、教示点データ及び位置ずれを補正するための位置データは、具体的には溶接トーチ14の先端を動作開始点A及び方向指示点Bや教示位置等にセットしたときの6個のエンコーダ28から出力される6個の駆動モータ26の回転位置を示すデータ群である。
【0035】
サーボ駆動部23は、制御部21からの駆動信号に基づいて各駆動モータ13に対して駆動信号を出力するものである。
【0036】
現在位置監視部24は、各駆動モータ13に配置されたエンコーダ28からの検出信号により、溶接トーチ14の現在位置を監視するものである。
【0037】
溶接制御部25は、制御部21からの各種命令及び現在位置監視部24からの位置信号に基づいて溶接電源装置30によって溶接トーチ14による溶接を行わせるものである。
【0038】
接触検出部26は、溶接電源装置30からの制御信号(電圧)に基づいて溶接トーチ14とワークWとの接触を検出するものである。具体的には、通電の有無の変化(「有」から「無」に変化する状態と「無」から「有」に変化する状態の両方を含む。)を検出することにより、溶接トーチ14とワークWとの接触位置が検出される。この接触検出部26からの検出信号は、制御部21に送られ、制御部21において溶接トーチ14とワークWとが接触したことが認識されるようになっている。
【0039】
操作装置27は、図略の複数の操作ボタンを有し、溶接時の自動運転モード又は手動モードの選択、起動、開始、停止等の各種動作をユーザによる操作によって可能にするものである。制御部21は、この操作装置27からの操作信号を受け取ることにより所定のデータ処理を行う。本実施形態では、例えば作業者等による操作によってこの操作装置27から、動作開始点A及び方向指示点Bを示す位置データが入力されたり、プリセンシング制御を行う旨が入力されたりする。
【0040】
次に、上記構成における作用について、図3の作業手順を示す図、図4のワークWの斜視図、並びに図5に示すフローチャートを参照して説明する。
【0041】
この実施形態では、溶接ロボット10によってワークWに溶接が施されるとき、ロボット制御装置20によって以下に示す手順で制御され、各ワークWにおける位置ずれが検出される。
【0042】
すなわち、図3に示すように、第1工程として、ロボット制御装置20を教示点データ入力モードに設定して基準となるワークW(以下、「基準ワークWs」という。)に対して実際に溶接する際に必要な教示点データが取得される。
【0043】
次いで、第2工程として、ロボット制御装置20を基準位置データ入力モードに設定して同一の基準ワークWsに対してプリセンシング制御によって基準となる位置データ(以下、「基準位置データ」という。)が取得される。
【0044】
次に、第3工程として、ロボット制御装置20を対象位置データ入力モードに設定して基準ワークWsとは異なる、本来溶接を行うべきワークW(以下、「溶接対象ワークWp」という。)に対してプリセンシング制御が自動で行われることによって、その溶接対象ワークWpにおける位置データ(以下、「対象位置データ」という。)が取得される。
【0045】
次に、第4工程として、ロボット制御装置20を教示点補正モードに設定して基準ワークWsの基準位置データと、溶接対象ワークWpの対象位置データとに基づいて新たな教示点データ(第1工程で取得された教示点データを補正したデータ)が算出される。そして、溶接モードにおいては、この新たな教示点データに基づいて、実際に溶接動作が行われる。
【0046】
以下、各工程について詳述する。まず、第1工程では、基準ワークWsが溶接作業台等に設置され、溶接ロボット10を手動又は操作装置27からの操作入力によって溶接トーチ14が実際の溶接軌跡に沿ってなぞられることにより、図4に示すように、複数の溶接教示点P1〜P5が教示点データとしてロボット制御装置20に取り込まれる。この教示点データは、メモリ部22に一旦記憶される。
【0047】
次いで、第2工程では、教示点データが取得された同一の基準ワークWsを用いてプリセンシング制御が行われる。具体的には、図5に示すように、ロボット制御装置20の制御部21によって、動作開始点A及び方向指示点Bの位置データが既に取得されているか否かが判別される(S1)。この判別は、対象位置データ入力モードや、例えば同一形状のワークWであってもロットが異なる場合には、教示点データを取り直すとともに、これに併せて基準位置データを取り直すことがあり、基準位置入力モードでも基準位置データを取り直す場合は、プリセンシング制御において既に動作開始点A及び方向指示点Bの位置データが取得されており、改めて取得する必要がないので、動作開始点A及び方向指示点Bの位置データの取得が必要であるか否かを判別するものである。
【0048】
動作開始点A及び方向指示点Bの位置データが未だ取得されていなければ(S1:NO)、続いて、ロボット制御装置20の制御部21によって、動作開始点A及び方向指示点Bの位置データが操作装置27を用いて作業者等によって入力されたか否かが判別される(S2)。一方、動作開始点A及び方向指示点Bの位置データが既に取得されていれば(S1:YES)、ステップS2の処理はスキップされる。
【0049】
ここで、方向指示点Bとは、動作開始点Aに位置する溶接トーチ14の動作方向を示す点であり、通常、作業者等によって例えば動作開始点Aと基準ワークWsとの間における任意の空間上の点に設定される。なお、方向指示点Bは、動作開始点Aと基準ワークWsとに間の空間上に位置するのであれば、その空間上の任意な位置に設定されればよい。すなわち、動作開始点Aから基準ワークWを見たときに、基準ワークWの輪郭の内側に位置する点であればよい。また、基準ワークWsを越える空間上の位置に方向指示点Bを設定するようにしてもよい。
【0050】
作業者等は、溶接トーチ14の先端が動作開始点Aに位置するように手動で溶接トーチ14を移動させ、動作開始点Aにおける溶接トーチ14の位置を動作開始点Aとすべき設定を行う。続いて、作業者等は、溶接トーチ14の先端が方向指示点Bに位置するように手動で溶接トーチ14を移動させ、方向指示点Bにおける溶接トーチ14の位置を方向指示点Bとすべき設定を行う。
【0051】
これにより、制御部21は、動作開始点A及び方向指示点Bの位置データが入力されたと判別し(S2:YES)、各位置における溶接トーチ14の位置データを取得している現在位置監視部24からの当該位置データをメモリ部22に記憶させる。
【0052】
なお、この動作開始点Aとしては、ロボット制御装置20が予め認識している溶接トーチ14の退避点(溶接動作を行わないときに溶接トーチ14を退避しておく予め定められた点)を採用するようにしてもよい。
【0053】
次に、制御部21は、位置データ(図4に示す点Cにおける位置データ)を取得する旨の操作が作業者等によって入力されたか否かを判別する(S3)。作業者等は、基準位置データを取得する旨の操作装置27の操作ボタンを押下すると、制御部21は、基準位置データを取得する旨の操作が作業者等によって入力されたと判別し(S3:YES)、予めメモリ部22に記憶されているサーチプログラムを読み出し、実行させる。ここで、サーチプログラムとは、位置ずれを補正するための基準位置データを取得するために、溶接トーチ14を移動させる処理を含むプログラムである。
【0054】
また、このサーチプログラムが実行されるときには、溶接トーチ14の移動速度(サーチ時の速度)、検出論理(ワークWが無しの状態から有りの状態を検出するのか、又はワークWが有りの状態から無しの状態を検出するのか)、無検出距離(ワークWを検出する最大距離)等を設定するようにしてもよい。なお、溶接トーチ14の移動速度は、適当な速度に変更可能とされてもよい。
【0055】
具体的には、制御部21は、溶接トーチ14を一旦、動作開始点Aに移動させ(S4)、溶接トーチ14の先端が方向指示点Bに向くように溶接トーチ14を移動させる(S5)。制御部21は、溶接トーチ14の先端が基準ワークWsに接触するまで溶接トーチ14を移動させる。なお、方向指示点Bに達するまでに溶接トーチ14が基準ワークWsに接触しない場合には、方向指示点Bを越えてその延長線上を基準ワークWsに向けて移動させる。
【0056】
次いで、制御部21は、溶接トーチ14が基準ワークWsの表面に接触するか否かを判別する(S6)。これは、溶接電源装置30からの制御信号に基づいて接触検出部26において溶接トーチ14と基準ワークWsとが図4に示すC点において接触したことが検出され、接触検出部26から制御部21にその旨の信号が送られたことにより判別される。制御部21は、溶接トーチ14が基準ワークWsの表面に接触したと判別すると(S6:YES)、溶接トーチ14の移動を停止させる(S7)。そして、現在位置監視部24において位置データが取得される(S8)。
【0057】
次いで、制御部21は、基準位置データ入力モードであるか否かを判別し(S9)、基準位置データ入力モードであれば(S9:YES)、取得した位置データを基準位置データとしてメモリ部22の基準位置データの記憶領域に記憶させる(S10)。なお、基準位置データが再度取り直しの場合は、新たに取得された基準位置データは、メモリ部22のすでに記憶されている基準位置データに上書きされる。一方、基準位置データ入力モードでなければ、すなわち、対象位置データ入力モードであれば(S9:NO)、取得した位置データを対象位置データとしてメモリ部22の対象位置データの記憶領域に記憶させる(S12)。
【0058】
次に、第3工程では、基準ワークWsに代えて、溶接すべき溶接対象ワークWpが溶接作業台等に設置され、対象位置データ入力モードが設定されて溶接対象ワークWpに対してプリセンシング制御が行われる。なお、基準ワークWsは、第2工程の終了後、教示データに基づいて溶接トーチ14が溶接部に沿って移動されることにより実際の溶接が行われてもよい。
【0059】
作業者等によって溶接対象ワークWpが溶接作業台等に設置され、対象位置データ入力モードが設定されると、制御部21は、図5のフローチャートに示したプリセンシング制御と同様の制御を行う。すなわち、制御部21は、動作開始点A及び方向指示点Bの位置データが既に取得されているか否かを判別する(S1)。対象位置データ入力モードでは、基準位置データ入力モードでの基準位置データを取得する処理において、動作開始点A及び方向指示点Bの位置データが既に取得されているから、ステップS1は常にYESとなり、制御部21は、ステップ2をスキップしてステップS3に移行する。
【0060】
ステップS3では、位置データ(図4に示す点Cにおける位置データ)を取得する旨の操作が作業者等によって入力されたか否かが判別され、作業者等が基準位置データを取得する旨の操作ボタンを押下すると(S3:YES)、制御部21は、予めメモリ部22に記憶されているサーチプログラム及び動作開始点A及び方向指示点Bの位置データを読み出す。
【0061】
そして、溶接トーチ14を動作開始点Aに移動させ(S4)、溶接トーチ14を動作開始点Aから方向指示点Bに向けて溶接トーチ14の先端が溶接対象ワークWpに接触するまで移動させる(S5)。
【0062】
次に、溶接トーチ14が溶接対象ワークWpの表面に接触するか否かが判別され(S6)、溶接トーチ14が方向指示点Bを越えて溶接対象ワークWpと接触すると、(S6:YES)、溶接トーチ14の移動を停止させる(S7)。そして、現在位置監視部24において位置データが取得される(S8)。
【0063】
次いで、制御部21は、基準位置データ入力モードであるか否かを判別し(S9)、基準位置データ入力モードであれば(S9:YES)、取得した位置データを基準位置データとしてメモリ部22の基準位置データの記憶領域に記憶させる(S10)。一方、基準位置データ入力モードでなければ、すなわち、対象位置データ入力モードであれば(S9:NO)、取得した位置データを対象位置データとしてメモリ部22の対象位置データの記憶領域に記憶させる(S12)。今回は、対象位置データ入力モードであるので、取得された位置データは対象位置データとしてメモリ部22の対象位置データの記憶領域に記憶される。
【0064】
次に、第4工程では、図6に示すように、第3工程で取得した溶接対象ワークWpの対象位置データと、第2工程において取得した基準ワークWsの基準位置データと比較し、その差(具体的には各駆動モータ13の基準位置における回転位置のデータと対象位置における回転位置のデータの差データ)を位置ずれ量として求める(S12)。そして、第1工程において教示して求めた教示点データを位置ずれ量のデータで補正して、実際に溶接動作を行う(S13)。
【0065】
より具体的には、図7に示すように、基準ワークWsの基準位置データ(C点参照)と溶接対象ワークWpの対象位置データ(C′点参照)との位置が異なる場合には、両者の差分ΔCを算出する。そして、第1工程において取得した基準ワークWsの教示点データを読み出して、上記差分ΔCを読み出した教示点データに加算し、新たな教示点データを算出する。そして、溶接対象ワークWpに対して溶接を行う際、新たな教示点データに基づいて溶接を行う。新たな教示点データには、位置ずれ量が補正されているため、正確な位置に溶接を行うことができる。
【0066】
このように、上記した制御処理では、予め溶接前にワークWの位置ずれを検出する際、予め動作開始点A及び方向指示点Bを設定しておけば、プリセンシング制御によって位置ずれを検出するための基準位置データや対象位置データを容易にかつ確実に取得することができる。したがって、従来では、各ワークWの位置ずれを表す位置データを手動又は操作装置27による入力によって行っていたために、非常に長時間を要するとともに、作業者等にとっては面倒な作業を発生させていたが、上記の構成により、これらの問題点を解消することができる。例えば、プリセンシングに要する時間は、従来の構成において要する時間に比べ、約1/2になるものと予想され、溶接軌跡を教示する時間(プリセンシングに要する時間を含む)全体に対してプリセンシングに要する時間は、約1/3〜1/2と推定されるので、全体として約25%の時間を削減されると推定される。
【0067】
特に、本実施形態に係るロボット制御装置20によれば、ワークWが同一形状でロットが異なる場合の基準位置データの取り直しや形状の類似した他のワークW等に対して基準位置データを取得する際、先のワークWについて基準位置データの取得処理が行われていると、その取得処理で取得された動作開始点A及び方向指示点Bに基づく溶接トーチ14の移動経路のデータを利用することができるので、この場合にも動作開始点A及び方向指示点Bを教示させる作業が不要となり、迅速に基準位置データを取得することができる。
【0068】
なお、溶接ロボット10では、溶接トーチ14を停止させるとき、慣性のためわずかに惰走する。そのため、溶接トーチ14とワークWとの接触点を検出する際、溶接ロボット10(溶接トーチ14)が惰走し、本来の正確な位置が検出されず誤差が乗ずることになるが、溶接部を教示する際にも溶接ロボット10(溶接トーチ14)が惰走するため、その誤差分がキャンセルされる。そのため、溶接部に対して正確な接触点を検出することができる。
【0069】
また、上記では、プリセンシング制御においてワークWに対して一つの接触点(図4のC点参照)における対象位置データを取得する場合を説明したが、これに代えて、図8に示すように、複数の接触点C1,C2,‥における補正データを取得するようにしてもよい。この場合、各接触点C1,C2,‥に対して、動作開始点A1,A2,‥及び方向指示点B1,B2,‥を設定すればよい。これにより、ワークWの溶接部における位置精度を上げることができる。
【0070】
また、上記のプリセンシング制御では、一次元の方向のみについて説明したが、これに代えて、二次元又は三次元の方向を組み合わせて行ってもよい。このようにすれば、ずれの方向が複数ある場合に、より精度よく対象位置データを取得することができる。例えば、図9に示すように、X方向、Y方向及びZ方向について複数の接触点C1,C2,‥における対象位置データを取得するようにしてもよい。
【0071】
もちろん、この発明の範囲は上述した実施の形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、溶接トーチ14をワークWに直接接触させて基準位置データや対象位置データを取得する方法に基づくプリセンシング制御について説明したが、これに代えて、光(例えばレーザ光)、磁気、又は静電容量等を用いた非接触型のセンサを用いて溶接トーチ14とワークWとが所定の位置関係に達したことを検出した上で、対象位置データを取得するようにしてもよい。すなわち、位置検出センサの先端を直接ワークWに接触させる方法(位置検出センサの先端からワークWまでの距離が「0」となる位置を検出する方法)であってもよく、位置検出センサの先端とワークWとの間の距離が所定の距離となる位置を検出する方法であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本願発明に係る溶接ロボットの制御装置を含む制御システムを示す構成図である。
【図2】ロボット制御装置とその周辺装置の構成を示すブロック図である。
【図3】プリセンシング制御の作業手順を説明するための図である。
【図4】ワークに対する動作開始点、方向指示点、接触点を説明するための図である。
【図5】本願発明の作用を説明するためのフローチャートである。
【図6】本願発明の作用を説明するためのフローチャートである。
【図7】接触点のずれ量を説明するための図である。
【図8】ワークに対する動作開始点、方向指示点、接触点を説明するための図である。
【図9】ワークに対する動作開始点、方向指示点、接触点を説明するための図である。
【符号の説明】
【0073】
10 溶接ロボット
14 溶接トーチ
20 ロボット制御装置
21 制御部
22 メモリ部
23 サーボ駆動部
24 現在位置監視部
25 溶接制御部
26 接触検出部
27 操作装置
30 溶接電源装置
A 動作開始点
B 方向指示点
C 接触点
W ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被溶接物に対して溶接を施すための溶接トーチを用いて予め教示された移動軌跡に基づいて、前記被溶接物に対して溶接を施す溶接ロボットを制御する一方、所定位置に設置される複数の被溶接物の位置ずれを検出するための制御装置であって、
前記移動軌跡を教示する際に併せて教示される前記溶接トーチの動作開始点と、その動作開始点から前記被溶接物の方向にある任意の空間上の点とを通る直線上を、前記溶接トーチを前記被溶接物に向けて移動させる移動手段と、
前記移動手段によって前記溶接トーチが移動されたことにより、前記溶接トーチが前記被溶接物の表面に対して所定の位置関係に達したことを検出する検出手段と、
前記検出手段によって前記溶接トーチが前記被溶接物の表面に対して所定の位置関係に達したことが検出されたとき、そのときの前記溶接トーチの位置を、複数の被溶接物の位置ずれを検出するための位置データとして取得する取得手段と、
を備えることを特徴とする、溶接ロボットの制御装置。
【請求項2】
前記取得手段によって取得される位置データは、基準となる被溶接物に対する基準位置データと他の各被溶接物に対する位置データであり、各被溶接物に対して前記位置データと基準位置データとの差を算出し、その差データを用いて各被溶接物の移動軌跡の教示データを補正する補正手段をさらに備える、請求項1に記載の溶接ロボットの制御装置。
【請求項3】
前記検出手段は、前記溶接トーチが前記被溶接物の表面と接触したことにより、前記溶接トーチが前記被溶接物の表面に対して所定の位置関係に達したことを検出する、請求項1又は2記載の溶接ロボットの制御装置。
【請求項4】
前記検出手段は、前記溶接トーチと前記被溶接物の表面との間の距離が所定の距離関係になったことにより、前記溶接トーチが前記被溶接物の表面に対して所定の位置関係に達したことを検出する、請求項1ないし3のいずれかに記載の溶接ロボットの制御装置。
【請求項5】
前記溶接トーチの動作開始点と、その動作開始点から前記被溶接物の方向にある任意の点とを位置データとして記憶する記憶手段を備え、
前記移動手段は、前記記憶手段によって記憶された位置データに基づいて、前記溶接トーチを前記被溶接物に向けて移動させる、請求項1ないし4のいずれかに記載の溶接ロボットの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−99166(P2006−99166A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−280971(P2004−280971)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【出願人】(000005197)株式会社不二越 (625)
【Fターム(参考)】