説明

溶接ロボット

【課題】円筒材の溶接において、多間接ロボットの各々の間接を同時に動かして、溶接トーチの先端の速度および軌跡の制御を行う必要がなく、また、ポジショナーを使用することもなく、高速で高精度の円筒溶接を行う溶接ロボットを提供すること。
【解決手段】円筒材と円筒材との溶接または円筒材と平板との溶接を行う溶接ロボットにおいて、溶接トーチと、マニピュレータの先端に回動自在に備えられ上記溶接トーチを直線移動自在に滑動的に移動させるリニアガイド機構とを備えた溶接ロボット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒材と円筒材との溶接または円筒材と平板との溶接を行う溶接ロボットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、円筒材と円筒材との溶接または円筒材と平板との溶接を行う溶接ロボットは、多間接ロボットであって、各々の軸を駆動制御させること、または、溶接ロボットを固定しポジショナーを用いて加工物を回転させることで円筒材の円周上の所望の位置を溶接していた(特許文献1及び2参照)。
【0003】
図4乃至図8を用いて従来の一般的な円筒材10と円筒材10との溶接または円筒材10と平板11との溶接を行う溶接ロボットを説明する。
図4は円筒材10と円筒材10とを溶接するときの溶接トーチ1の状態を示す図であり、図5は円筒材10と平板11とを溶接するときのトーチ1の状態を示す図である。
図4及び図5に示すように、円筒材10と円筒材10との溶接または円筒材10と平板11との溶接を行う場合、溶接トーチ1の先端にある溶接ワイヤを接続部Wに接触させて溶接を行う必要がある。また、円筒材10の溶接を行う場合、接続部Wに沿って円周上に溶接を行う。
そこで従来技術では次のような方法によって溶接を行っていた。
図6は、円筒材10と円筒材10とを溶接する溶接ロボット本体であるマニピュレータ2の先端に備えた溶接トーチ1の状態を示す図である。溶接ロボットは全体の図示を省略するが、6軸多間接ロボットであって、各々の軸(6軸)を駆動させることによって溶接トーチを自在な姿勢に駆動させ、円筒材10と円筒材10との接続部Wに溶接トーチ1の先端にある溶接ワイヤ(図示省略)を接触させて接続部の円周上の溶接を行っている。(以下の説明では、溶接ワイヤを省略して、単に溶接トーチの先端という。)
図7は、従来の他の溶接方法を示す図であって、円筒材10をポジショナー20に固定させて、溶接トーチ1の先端を接続部Wに接触させて溶接トーチを固定し、ポジショナーを中心軸Oを中心に回転させることで接続部Wの円周上の溶接を行うものである。
図8は、従来の他の溶接方法を示す図である。マニピュレータ2には、予め溶接トーチ1とマニピュレータ2の先端部との間にオフセット量OFだけオフセットさせるブラケット21が回動自在に設けてあり、この状態で溶接トーチ1の先端を接続部Wに接触させる。ここで、円筒材10の中心軸Oと、ブラケット21を介した溶接トーチ1とマニピュレータ2との接続部の中心とを一致させるようにブラケット21のオフセット量OFは設定されている。以上のような構成で、ブラケット21に接続された溶接トーチ1は、中心軸Oを中心に回転させるだけで、他のロボットの軸を駆動させることなく円筒材の溶接を行うことができる。
【特許文献1】特開平9−267172号公報
【特許文献2】特開平11−267832号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図6に示す従来技術では、マニピュレータ2の各々の駆動軸である間接(6軸多間接ロボットであれば6軸)を同時に動かして、溶接トーチ1の先端の速度および軌跡の制御を行うため、演算速度の限界、機械精度の限界により、小円弧に対してある速度以上になると速度が変動し、軌跡精度が悪くなる。
また、図7に示す従来技術では、溶接トーチ1を固定して、ポジショナー20で円筒材10を回転させて溶接を行うために、常にポジショナー20が必要になり、ポジショナー20の大きさによっては、小円弧の円筒に対する高速での回転が困難となり、また、高速回転するには大きな駆動源(モータなど)が必要になり、コストがかかる。
また、図8に示す従来技術では、円筒材10の半径が変わるたびに、ブラケット21を取り替える必要があり、溶接トーチ先端の位置調整を再度行うなど調整が面倒であり、自動化に適さない。
【0005】
本発明の目的は、円筒材の溶接において、多間接ロボットの各々の間接を同時に動かして、溶接トーチの先端の速度および軌跡の制御を行う必要がなく、また、ポジショナーを使用することもなく、高速で高精度の円筒溶接を行う溶接ロボットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施の形態は、円筒材と円筒材との溶接または円筒材と平板との溶接を行う溶接ロボットにおいて、溶接トーチと、マニピュレータの先端に回動自在に備えられ上記溶接トーチを直線移動自在に滑動的に移動させるリニアガイド機構とを備えた溶接ロボットである。
【0007】
好ましい実施の形態は、リニアガイド機構が、リニアガイドと、エンコーダとブレーキとを備え上記溶接トーチの移動量の検出及び上記溶接トーチの直線移動の停止をする位置検出器とからなるものである。
【発明の効果】
【0008】
以上のように、本発明によれば、溶接トーチをリニアガイド機構によって、滑動的で直線移動自在に移動させることによって、容易に円筒材の半径方向に溶接トーチの先端を移動させることができ、円筒材の半径方向の大きさにあわせて、自在にトーチ先端のワイヤの位置を移動及び固定させることができる。そのため、容易に接続部に溶接ワイヤを当接させることができ、従来技術のように6軸多間接ロボットの6つの間接を同時に動かすような複雑な制御を行う必要がなく、また、ポジショナーを使用することもなく、高速で高精度の円筒溶接を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1は、本発明に係わるマニピュレータの先端部を示す要部拡大図である。同図において、マニピュレータ2の先端にフランジ36を介して回動自在に取付けられたリニアガイド機構3は、リニアガイド31、位置検出器32等を備えており、溶接トーチ1の先端が所望の位置となるように、滑動的で直線移動自在に位置調整することができる。
【0010】
図2は、本発明のリニアガイド機構3の要部拡大一部断面図である。同図に示すように、溶接トーチ1はブラケット35を介してリニアガイド31に固定されている。リニアガイド31はスライド軸34に沿って設置されており、ボールネジ33を回転させながら直線移動させることができる。ここで、ボールネジ33は、位置検出器32内のブレーキ321及びエンコーダ322に取付けられており、このエンコーダ322によってボールネジ33の回転量を検出する。ここで、エンコーダ322は一般的に用いられる例えば、パルスエンコーダであって、ボールネジ33の回転量に応じてパルスを発生させる。位置検出器32はこのパルスのカウント数を後述するロボット制御装置に出力する。ロボット制御装置はこのパルスのカウント数からリニアガイド31の移動量を算出する。この移動量を算出することによって、リニアガイド31にブラケット35を介して取付けられた溶接トーチ1の先端の位置を検出することができる。
なお、リニアガイド31はスライド軸34に沿って設置されており、ボールネジ33と滑動的にかみ合わされた構造となっており、非常に小さな圧力によって矢示AまたはBの方向に駆動することができる。すなわち、溶接トーチ1は矢示AまたはBの方向に容易に移動させることができる。
【0011】
図2において、例えば、矢示Aの方向から溶接トーチを押圧すると、リニアガイド31はスライド軸34に沿って矢示Aの方向に移動する。このときのボールネジ33の回転量を位置検出器32内にあるエンコーダ322が検出して、後述するロボット制御装置に出力する。この検出された値から溶接トーチ1の位置を算出して、所望の位置となった時点でロボット制御装置は位置検出器32内にあるブレーキ321を駆動させてボールネジの回転を停止させ溶接トーチ1を停止させる。
【0012】
前述した矢示AまたはBの方向に押圧する方法は、例えば手動により押圧する方法、マニピュレータ2を駆動させて、図2に示す矢示AまたはBの面に溶接トーチ1の周辺にある壁面、治具の一部等に押圧させて駆動させる方法等があり、適宜、溶接するときのマニピュレータ2の状態、被加工物の状況等にあわせて容易に対応することができる。
【0013】
図3は本発明の溶接ロボットを用いて円筒材10同士を溶接する方法を示す図である。
同図において、リニアガイド機構3とマニピュレータ2の先端とを回動自在に接続しているフランジ36の中心と、円筒材10の中心軸Oとを予め一致させておく。
円筒材10の半径rが予め認識できている場合は、次のような手順で位置決めを行う。
予め、円筒材10の半径rを位置検出器32と電気的に接続されたロボット制御装置4に記憶させておく。次に、溶接トーチ1を予め設定されたスタート位置(ここでは円筒材10の中心軸Oから距離L離れた位置)から矢示Aの方向に押圧することによって、円筒材の中心軸Oからの距離Lが円筒材10の半径rとなる位置、すなわち円筒材10の側面に溶接トーチの先端が当接する位置となったときに、位置検出器32内のエンコーダ322はリニアガイド31の移動距離を検出してこの移動距離をロボット制御装置4に入力する。この移動距離を入力したロボット制御装置4は、溶接トーチ1の位置データをスタート位置から円筒材10の側面に当接する位置に変換し、変換した位置において、溶接を開始させるようにマニピュレータ2を駆動制御する。
【0014】
次に、円筒材10の半径rが予め認識できていない場合は、次のような手順で位置決めを行う。
溶接トーチ1を予め設定されたスタート位置(ここでは円筒材10の中心軸Oから距離L離れた位置)とする。次に溶接トーチを矢示Aの方向に押圧する。溶接トーチ1の先端が円筒材10の側面に当接する位置となったときに、位置検出器32内のエンコーダ322はこのときリニアガイド31が移動した距離aを検出して、この移動距離aをロボット制御装置4に入力する。予め設定されたスタート位置である円筒材10の中心軸Oからの距離Lと検出した距離aとの差を演算して得た距離rをロボット制御装置4は円筒材10の半径と認識して、溶接トーチ1の位置データをスタート位置から距離a移動させた位置に変換して、変換した位置において溶接を開始させるようにマニピュレータ2を駆動制御する。
【0015】
以上のように、マニピュレータ2の先端に備えた溶接トーチ1の先端をスタート位置から円筒材10の所望の位置に当接させる。このときリニアガイド機構3とマニピュレータ2の先端とを回動自在に接続しているフランジ36の中心軸と、円筒材10の中心軸Oとは予め一致されている。そのため、中心軸Oを中心にリニアガイド3を回転させることによって、円筒材10の円周上を容易に溶接することができる。
すなわち、前述したように各々の中心軸を一致させ、中心軸Oからの一定の距離を隔てたスタート位置を予め記憶することで、円筒材10の大きさが変わった場合でも容易に溶接トーチの位置調整を行うことができる。
また、溶接ロボットの各々の駆動軸(6軸多間接ロボットであれば6軸)を同時に動かして、溶接トーチの先端の速度および軌跡の制御を行う必要がなく、また、ポジショナーを使用することもなく、高速で高精度の円筒溶接を行うことができる。
【0016】
なお、本発明の実施例では円筒材10と円筒材10とを溶接する方法を示しているが、前述した図5に示す円筒材10と平板11とを溶接する方法にも適用できることができる。
【0017】
また、本発明では、溶接トーチ1をリニアガイド機構によって直線移動させる場合に、溶接トーチ1を手動により押圧する方法、マニピュレータ2を駆動させて、図2に示す矢示AまたはBの面に溶接トーチ1の周辺にある壁面、治具の一部等に押圧させて駆動させる方法で説明しているが、位置検出器内にモータを備えて、モータによってボールネジの回転、すなわち溶接トーチの移動を駆動制御する機構とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係わるマニピュレータの先端部を示す要部拡大図である。
【図2】本発明のリニアガイド機構の要部拡大一部断面図である。
【図3】本発明のマニピュレータを用いて円筒材を溶接する方法を示す図である。
【図4】従来の円筒材と円筒材とを溶接するときの溶接トーチの状態を示す図である。
【図5】従来の円筒材と平板とを溶接するときの溶接トーチの状態を示す図である。
【図6】従来の円筒材と円筒材とを溶接するマニピュレータ先端の溶接トーチの状態を示す図である。
【図7】従来の円筒材をポジショナーに固定させて溶接する方法を示す図である。
【図8】従来の円筒材と円筒材とを溶接する他のマニピュレータによる溶接方法を示す図である。
【符号の説明】
【0019】
1 溶接トーチ
2 マニピュレータ
3 リニアガイド機構
10 円筒材
11 平板
20 ポジショナー
31 リニアガイド
32 位置検出器
321 ブレーキ
322 エンコーダ
33 ボールネジ
34 スライド軸
W 接続部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒材と円筒材との溶接または円筒材と平板との溶接を行う溶接ロボットにおいて、溶接トーチと、マニピュレータの先端に回動自在に備えられ前記溶接トーチを直線移動自在に滑動的に移動させるリニアガイド機構とを備えた溶接ロボット。
【請求項2】
前記リニアガイド機構が、リニアガイドと、エンコーダとブレーキとを備え前記溶接トーチの移動量の検出及び前記溶接トーチの直線移動の停止をする位置検出器とからなる溶接ロボット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−88207(P2006−88207A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−278642(P2004−278642)
【出願日】平成16年9月27日(2004.9.27)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】