説明

溶融成形可能なフッ素樹脂の製造方法

【課題】パーフルオロオクタン酸アンモニウム以外の特定の含フッ素乳化剤を用いて、フッ素樹脂の分子量を高くすることができ、フッ素樹脂の着色を防ぐことができる溶融成形可能なフッ素樹脂の製造方法を提供する。
【解決手段】
式(1) CFCFOCFCFOCFCOONH
で表される含フッ素乳化剤を含有させた水性媒体中で、含フッ素モノマー又は含フッ素モノマーとオレフィンを乳化重合して溶融成形可能なフッ素樹脂を製造する方法であって、該溶融成形可能なフッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレンのモル比が95/5〜90/10のテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)のモル比が99.7/0.3〜97/3のテトラフルオロエチレン/パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)共重合体等の溶融成形可能なフッ素樹脂であることを特徴とする溶融成形可能なフッ素樹脂の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の含フッ素乳化剤を用いた溶融成形可能なフッ素樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳化重合による溶融成形可能なフッ素樹脂の製造には、乳化剤としてパーフルオロオクタン酸アンモニウム(以下、APFOという。)が広く用いられている。
しかし、APFOは、生物蓄積性が指摘され、APFOの排出には環境面での懸念が表明されており、APFOの代替する乳化剤が求められている。
そこで、APFO以外の各種の乳化剤を用いて水性媒体中で、含フッ素モノマー単独または含フッ素モノマーとその他のモノマーを共重合させて、溶融成形可能なフッ素樹脂を製造する方法が提案されている(例えば、特許文献1および2を参照)。
特許文献1の乳化重合方法では、得られるフッ素樹脂の分子量の低下、フッ素樹脂の着色等、溶融成形可能なフッ素樹脂の製造への適用性が必ずしも充分に高くなかった。
特許文献2の実施例には、極微量のヘキサフルオロプロピレンで変性したポリテトラフルオロエチレンの製造に、重合用乳化剤としてCFCFOCFCFOCFCOONHの使用が開示されているが、溶融成形性フッ素樹脂への適用については記載がない。
特許文献3の実施例には、重合用乳化剤としてCFCFOCF(CF)CFOCF(CF)COONHが開示されているが、該乳化剤は生物蓄積性がAPFOよりも高いことがわかった。
特許文献4の実施例には、重合用乳化剤としてF(CFOCF(CF)COONH等が開示されている。
【特許文献1】特開2002−308913号公報
【特許文献2】特公昭39−24263号公報
【特許文献3】特開2003−119204号公報
【特許文献4】特開2002−317003号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、APFO以外の特定の含フッ素乳化剤を用いて、フッ素樹脂の分子量を高くすることができ、フッ素樹脂の着色を防ぐことができる溶融成形可能なフッ素樹脂の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討をした結果、一般式(1)で表される特定の含フッ素乳化剤を用いて含フッ素モノマーを乳化重合することにより、上記課題を解決できることを見出し、その知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下を特徴とする要旨を有する。
(1)一般式(1): XCFCF(O)CFCFOCFCOOA
(式中、Xは水素原子またはフッ素原子、Aは水素原子、アルカリ金属またはNHであり、mは0〜1の整数である。)で表される含フッ素乳化剤を含有させた水性媒体中で、含フッ素モノマーを乳化重合することを特徴とする溶融成形可能なフッ素樹脂の製造方法。
【0005】
(2)前記含フッ素モノマーが、テトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、CF=CFOR(式中、Rは、エーテル性の酸素原子を含んでもよい炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基である。)で表されるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、クロロトリフルオロエチレン、ポリフルオロアルキルエチレン、パーフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)、パーフルオロ(4−アルキル−1,3−ジオキソール)およびCF=CFO(CFCF=CF(式中、nは1または2である。)からなる群より選ばれる少なくとも1種である上記(1)に記載の溶融成形可能なフッ素樹脂の製造方法。
【0006】
(3)前記溶融成形可能なフッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンおよびクロロトリフルオロエチレンからなる群より選ばれる少なくとも1種の含フッ素モノマーとエチレンとの共重合体である上記(1)に記載の溶融成形可能なフッ素樹脂の製造方法。
【0007】
(4)前記溶融成形可能なフッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/フッ化ビニリデン共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、ポリフッ化ビニリデンまたはクロロトリフルオロエチレン/エチレン共重合体である上記(1)に記載の溶融成形可能なフッ素樹脂の製造方法。
(5)含フッ素乳化剤の含有量が水性媒体に対して0.01〜10質量%である上記(1)〜(4)のいずれかに記載の溶融成形可能なフッ素樹脂の製造方法。
(6)前記一般式(1)で表される含フッ素乳化剤が、CFCFOCFCFOCFCOONHである上記(1)〜(4)のいずれかに記載の溶融成形可能なフッ素樹脂の製造方法。
特に、本発明は、以下を特徴とする要旨を有する。
(7)式(1) CFCFOCFCFOCFCOONH
で表される含フッ素乳化剤を含有させた水性媒体中で、含フッ素モノマー又は含フッ素モノマーとオレフィンを乳化重合して溶融成形可能なフッ素樹脂を製造する方法であって、該溶融成形可能なフッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレンのモル比が95/5〜90/10のテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)のモル比が99.7/0.3〜97/3のテトラフルオロエチレン/パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン/エチレンのモル比が65/35〜50/50のテトラフルオロエチレン/エチレン共重合体、クロロトリフルオロエチレン/エチレンのモル比が65/35〜50/50のクロロトリフルオロエチレン/エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/フッ化ビニリデンのモル比が35〜75/5〜15/20〜50のテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/フッ化ビニリデン共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/エチレンのモル比が35〜65/5〜15/30〜50のテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)のモル比が88〜94.8/5〜10/0.2〜2のテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、及びポリフッ化ビニリデンから選ばれる溶融成形可能なフッ素樹脂であることを特徴とする溶融成形可能なフッ素樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、環境に悪影響を与える懸念のあるAPFOを用いることなく、分子量の高い、溶融成形可能なフッ素樹脂が製造できる。また、得られたフッ素樹脂に付着している含フッ素乳化剤を水洗により容易に除去でき、得られたフッ素樹脂を成形品にした場合、着色を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明において用いる含フッ素乳化剤は、一般式(1)で表される含フッ素乳化剤である。
一般式(1) XCFCF(O)CFCFOCFCOOA
(式中、Xは水素原子またはフッ素原子、Aは水素原子、アルカリ金属またはNHであり、mは0〜1の整数である。)
【0010】
一般式(1)において、Xはフッ素原子であることが重合の安定性の点で好ましい。また、mの値は1であることが重合の安定性およびPTFE水性乳化液の機械的安定性の点で好ましい。
Aの具体例として、H、Li、Na、K、NH等が挙げられるが、特に、NHの場合には水中への溶解性が良く、金属イオン成分がフッ素樹脂中に不純物として残留することがなく、好ましい。
一般式(1)の含フッ素乳化剤のうち特に好ましい例は、CFCFCFCFOCFCOONH、CFCFOCFCFOCFCOONH(以下、EEAという。)であり、EEAがより好ましい。
【0011】
一般式(1)の含フッ素乳化剤は、相当する非含フッ素カルボン酸または部分フッ素化カルボン酸のエステルを用い、液相中でフッ素と反応させる液相フッ素化法、フッ化コバルトを用いるフッ素化法、または電気化学的フッ素化法等の公知のフッ素化法によりフッ素化し、得られたフッ素化エステル結合を加水分解し、精製後にアンモニアで中和して得ることができる。
本発明の製造方法においては、上記含フッ素乳化剤を含有させた水性媒体中で、含フッ素モノマーを乳化重合して、溶融成形可能なフッ素樹脂の水性乳化液が得られる。
一般式(1)の含フッ素乳化剤の水性媒体中の含有量は、水性媒体に対して好ましくは0.01〜10.0質量%であり、より好ましくは0.1〜5質量%であり、最も好ましくは0.2〜3質量%である。
【0012】
水性媒体としては、イオン交換水、純水、超純水等の水が挙げられる。水性媒体には、水溶性の有機溶剤を含んでもよい。有機溶剤としては、アルコール類、ケトン類、エーテル類、エチレングリコール類、プロピレングリコール類などが挙げられる。有機溶剤の含有量は、水の100質量部に対して1〜50質量部が好ましく、3〜20質量部がより好ましい。なお、含フッ素乳化剤の含有量の基準となる水性媒体の量には、重合開始剤などの他の添加剤の含有量は含まない。
【0013】
本発明において使用する含フッ素モノマーは、テトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、CF=CFOR(式中、Rは、エーテル性の酸素原子を含んでもよい炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基である。)で表されるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、クロロトリフルオロエチレン、ポリフルオロアルキルエチレン、パーフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)、パーフルオロ(4−アルキル−1,3−ジオキソール)およびCF=CFO(CFCF=CF(式中、nは1または2である。)からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0014】
としては、エーテル性の酸素原子を含んでもよい炭素数1〜10のパーフルオロアルキル基が好ましく、炭素数1〜8のパーフルオロアルキル基がより好ましい。パーフルオロアルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。その具体例としては、CF、C、CFCFCF、(CFCFCFCF、CFCFOCFCF、CFCFCFOCF(CF)CF等が挙げられる。
【0015】
本発明の製造方法において、前記含フッ素モノマーに加えて、さらにエチレン、プロピレン、ブテン等のオレフィンを共重合することも好ましい。該オレフィンとしては、好ましくはエチレンである。該オレフィンは、テトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンおよびクロロトリフルオロエチレンからなる群より選ばれる少なくとも1種と共重合することが好ましく、テトラフルオロエチレンおよびクロロトリフルオロエチレンからなる群より選ばれる少なくとも1種と共重合することがより好ましい。
全モノマーの使用量は、水性媒体の量に対して、1〜100質量%が好ましく、10〜80質量%がより好ましい。
【0016】
乳化重合で使用される重合開始剤としては、通常のラジカル重合開始剤を用いることができ、特に水溶性重合開始剤が好ましい。水溶性重合開始剤の具体例としては、過硫酸アンモニウム塩などの過硫酸類、過酸化水素およびこれらと亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウムなどの還元剤との組合わせからなるレドックス重合開始剤、さらにこれらに少量の鉄、第一鉄塩(例えば、硫酸第一鉄塩など)、硫酸銀などを共存させた系の無機系重合開始剤、またはジコハク酸過酸化物、アゾビスイソブチルアミジン二塩酸塩などの有機系重合開始剤等を例示することができる。
重合開始剤は、乳化重合の最初から添加してもよいし、乳化重合の途中から添加してもよい。重合開始剤の添加量は、重合に用いるモノマーの全質量に対して、0.0001〜3質量%が好ましく、0.001〜1質量%が特に好ましい。
【0017】
レドックス重合開始剤を用いる場合は水性媒体中のpHをレドックス反応性を損なわない範囲に調整するため、pH緩衝剤を用いることが望ましい。pH緩衝剤としては、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、炭酸ナトリウムなどの無機塩類を用いることができ、リン酸水素二ナトリウム2水和物、リン酸水素二ナトリウム12水和物が好ましい。
また、レドックス重合開始剤を用いる場合の、レドックス反応する金属イオンとしては複数のイオン価をもつ各種の金属を用いることができる。具体例としては、鉄、銅、マンガン、クロムなどの遷移金属が好ましく、特に鉄が好ましい。
【0018】
さらに、レドックス反応する金属を水性媒体中に安定に存在させるために、金属キレート剤を用いることが好ましい。金属キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸類が好ましく、水溶性の観点からエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム2水和物がより好ましい。
レドックス重合開始剤を用いる場合のレドックス反応試薬としては、還元性化合物を用いることが好ましい。還元性化合物としては、各種硫酸性硫黄含有化合物を用いることができ、特にロンガリット(化学式:CH(OH)SONa・2HO)が好ましい。
還元性化合物は、重合中に適宜連続的に添加することが好ましく、添加の際に重合媒体のpHを乱さないために重合媒体と同じpHに調整しておくことが好ましい。
【0019】
含フッ素モノマーの重合において、分子量を制御する連鎖移動剤を使用できる。
連鎖移動剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン、1,1−ジクロロ−1−フルオロエタン等のクロロフルオロハイドロカーボン、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン等のハイドロカーボン等が挙げられる。
連鎖移動剤の添加量は、重合に用いるモノマーの全質量に対して、0.001〜10質量%が好ましく、0.01〜10質量%がより好ましい。
【0020】
本発明における乳化重合条件は、使用するモノマーの種類、共重合比率、重合開始剤の分解温度などによって適宜選択される。
乳化重合の重合温度は、0〜100℃が好ましく、10〜80℃がより好ましい。重合圧力は0.01〜20MPaGが好ましく、0.3〜10MPaGがより好ましく、0.3〜5MPaGが最も好ましい。
また、乳化重合には、回分式、半回分式、連続式等の形式が用いられるが、モノマーを連続的に添加する半回分式が、得られるフッ素樹脂の組成が均一であることから、好ましい。得られる水性乳化液中のフッ素樹脂の濃度は、1〜50質量%が好ましく、5〜40質量%がより好ましい。
【0021】
本発明の製造方法により得られるフッ素樹脂の水性乳化液に、凝集剤を添加して、フッ素樹脂を凝集させることができる。また、フッ素樹脂水性乳化液を凍結させて凝集させることもできる。
凝集剤としては、APFO等の乳化剤を用いたフッ素樹脂の水性乳化液の凝集に通常使用されているものが、いずれも使用できる。例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウムなどの水溶性塩、硝酸、塩酸、硫酸などの酸類、アルコール、アセトンなどの水溶性有機液体類などが挙げられる。凝集剤の添加量は、フッ素樹脂水性乳化液の100質量部に対して、0.001〜20質量部が好ましく、0.01〜10質量部が特に好ましい。凝集に用いる水性乳化液中のフッ素樹脂の濃度は、1〜50質量%が好ましく、5〜40質量%がより好ましい。
【0022】
凝集された含フッ素樹脂は、ロ別され、洗浄水で洗浄することが好ましい。洗浄水としては、イオン交換水、純水、超純水などが挙げられる。洗浄水の量は、フッ素樹脂の質量の1〜10倍量が好ましい。このように少量であっても、フッ素樹脂に付着している、上記一般式(1)で表される含フッ素乳化剤は、1回の洗浄で十分に低減できる。洗浄回数は、少ないほど作業性の観点からは好ましく、5回以下が好ましく、1〜3回がより好ましい。洗浄温度は、通常10〜40℃が好ましい。
【0023】
本発明の製造方法により得られるフッ素樹脂水性乳化液を凝集させた後の廃液中に含まれる、上記一般式(1)で表される含フッ素乳化剤は、公知の方法で回収し、再利用できる。回収法としては、強塩基性アニオン交換樹脂または弱塩基性アニオン交換樹脂に吸着させる方法、合成吸着剤に吸着させる方法、活性炭に吸着させる方法、層状複水酸化物に内包させる方法、排水を濃縮する方法等が挙げられる。また、上記の方法により回収した含フッ素乳化剤は公知の方法で再生することができる。
【0024】
溶融成形可能なフッ素樹脂の具体例としては、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(以下、FEPともいう。)、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)共重合体(以下、PFAともいう。)、テトラフルオロエチレン/エチレン共重合体(以下、ETFEともいう。)、ポリフッ化ビニリデン(以下、PVDFともいう。)、クロロトリフルオロエチレン/エチレン共重合体(以下、ECTFEともいう。)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/フッ化ビニリデン共重合体(以下、THVともいう。)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/エチレン共重合体(以下、EFEPともいう。)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(以下、EPAともいう。)、ポリフッ化ビニリデン(以下、PVDFともいう。)、クロロトリフルオロエチレン/エチレン共重合体(以下、ECTFEともいう。)が挙げられる。
【0025】
FEPの組成は、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレンのモル比が97/3〜80/20が好ましく、さらに好ましくは95/5〜90/10である。PFAの組成は、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)のモル比が99.9/0.1〜95/5が好ましく、さらに好ましくは99.7/0.3〜97/3である。ETFEの組成は、テトラフルオロエチレン/エチレンのモル比が70/30〜40/60が好ましく、さらに好ましくは65/35〜50/50である。THVの組成は、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/フッ化ビニリデンのモル比が25〜85/5〜15/10〜60が好ましく、さらに好ましくは35〜75/5〜15/20〜50である。
【0026】
EFEPの組成は、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/エチレンのモル比が20〜75/5〜20/20〜60が好ましく、さらに好ましくは35〜65/5〜15/30〜50である。EPAの組成は、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)のモル比が82〜96.9/3〜15/0.1〜3が好ましく、さらに好ましくは88〜94.8/5〜10/0.2〜2である。ECTFEの組成は、クロロトリフルオロエチレン/エチレンのモル比が70/30〜40/60が好ましく、さらに好ましくは65/35〜50/50である。
【0027】
溶融成形可能なフッ素樹脂の分子量の目安として、MFR(メルトフローレート)が一般に用いられている。MFRが小さい程、分子量が大きいことを表わす。MFRの測定温度は融点以上、分解点以下の温度で測定可能であるが、フッ素樹脂の種類により一定の温度が通常用いられる。例えば、PFA、FEP、EPAでは372℃、ETFE、ECTFEでは297℃、THVでは265℃、EFEPでは230℃、PVDFでは235℃が通常用いられる。MFRの好ましい範囲は0.1〜100g/分で、さらに好ましくは0.5〜50g/分、最も好ましくは1〜30g/分である。
溶融成形可能なフッ素樹脂の室温での引張強度は、10MPa以上、好ましくは15MPa以上、最も好ましくは20MPaであり、室温での引張伸度は100%以上、好ましくは150%以上、最も好ましくは200%以上である。
【実施例】
【0028】
次に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、これらは何ら本発明を限定するものではない。
各項目の評価方法を以下に示す。
〔PFAの組成分析〕
PFAをプレス成形して作成した厚み30μmのフィルムを用いた。赤外分光器分析により測定した993cm−1における吸光度を、2350cm−1における吸光度で割り、0.95を掛けた値として、PFA中のパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)の基づく重合単位の含有量(質量%)を求めた。
【0029】
〔FEPの組成分析〕
FEPをプレス成形して作成した厚み30μmのフィルムを用いた。赤外分光器により測定した980cm−1における吸光度を、2350cm−1における吸光度で割り、3.2を掛けた値として、FEP中のヘキサフルオロプロピレンの基づく重合単位の含有量(質量%)を求めた。
〔ETFEの組成分析〕
19F溶融NMR分析とフッ素含有量分析によりETFEの共重合組成を求めた。
【0030】
〔MFR(単位:g/分)の測定〕
ASTM D2116に準拠して、メルトインデクサ(宝工業社製)を用いて、MFR(容量流速ともいう。)を測定した。PFA、FEPの場合は372℃、荷重5kgで測定した。ETFEの場合は297℃、荷重5kgで測定した。PVDFの場合は235℃、荷重5kgで測定した。
【0031】
〔参考例1〕CFCFOCF(CF)CFOCF(CF)COONHの製造例
容量200mlのハステロイC製オートクレーブにCsFの2.58gおよびテトラグライムの13.06gを仕込み、これを脱気した後、CFCOFの20.83gを導入した。次に、該オートクレーブを−20℃に冷却した後、密閉撹拌下、ヘキサフルオロプロペンオキシドの57.5gを約1時間かけて導入した。初期圧力0.6MPaを示した。圧力の減少がなくなるまで約1時間を続けた後、常温に戻し反応粗液の78.57gを得た。これをGC分析したところ、目的物であるCFCFOCF(CF)CFOCF(CF)COFの49.7%に加えて、CFCFOCF(CF)COFの19.1%及びCFCFO(CF(CF)CFO)CF(CF)COFの12.8%が含まれていた。
【0032】
同様の反応をCFCOFの32.26gを用いて行った。得られた目的物を含有する、反応粗液の2バッチ分を合わせて蒸留精製を行った。還流器およびヘリパックNo.1を充填した30cmの蒸留塔を用い、沸点71℃/400torrの目的物の52.47gを得た。該目的物をPTFE製反応器に仕込み、撹拌しながら水の2.32gを滴下し加水分解を行った。次いで、窒素バブリングによる脱HFを行い、CFCFOCF(CF)CFOCF(CF)COOHの粗液の50.45gを得た。該粗液をガラス製単蒸留装置により単蒸留して、CFCFOCF(CF)CFOCF(CF)COOHの40gを得た。
【0033】
次いで、CFCFOCF(CF)CFOCF(CF)COOHの40gを用いてアンモニウム塩化を行った。ガラス製反応器を用い、上記カルボン酸の40gをCClF2CF2CHClFの150gに溶解し、次いで、これに28%アンモニア水の10.89gを室温下に滴下しアンモニウム塩化した。その後、溶媒のCClF2CF2CHClFを留去した後、減圧乾燥により39.4gのCFCFOCF(CF)CFOCF(CF)COONHを白色固体として得た。
【0034】
〔参考例2〕1−オクタノール/水分配係数(LogPOW)の測定
OECDテストガイドライン117に準拠して、HPLC(高速液体クロマトグラフィー法)を用いて、含フッ素乳化剤の、1−オクタノール/水分配係数(LogPOW)を測定した。
測定条件は、カラム:TOSOH ODS−120Tカラム(Φ4.6mm×250mm)、溶離液:アセトニトリル/0.6質量%HClO4水溶液=1/1(vol/vol%)、流速:1.0ml/分、サンプル量:300μL、カラム温度:40℃、検出光:UV210nm、であった(国際公開WO2005−42593参照)。
【0035】
1−オクタノール/水分配係数が既知の標準物質(ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸およびデカン酸)について、HPLCを行い、各溶出時間と各標準物質のオクタノール/水分配係数から検量線を作成した。この検量線に基づき、含フッ素乳化剤のHPLCの溶出時間から、1−オクタノールと水との間の分配係数(LogPOW)の値を算出した。結果を表1に示す。
EEAは、LogPOWの値がパーフルオロオクタン酸アンモニウム(APFO)に比較して小さいことから、生物蓄積性が低いことがわかる。一方、参考例1で合成したCF3CFOCF(CF3)CFOCF(CF3)COONHは、EEAと構造が類似するが、そのLogPOWの値が、生物蓄積性が懸念されているAPFOよりも大きく、生物への蓄積性が高いことがわかった。
【0036】
なお、一般に、化学物質が生物体内に蓄積されやすいものであるかどうかを判定するための、1−オクタノールと水との間の分配係数(LogPOW)の測定試験法が規定されている。該試験方法としては、OECDテストガイドライン107及び日本工業規格Z7260−107(2000)「分配係数(1−オクタノール/水)の測定−フラスコ振とう法」に加え、OECDテストガイドライン117に規定され、公表されているHPLC法(高速液体クロマトグラフィー法)が採用される。分配係数の値が大きい化合物は生物蓄積性が大きく、小さい化合物は生物蓄積性が小さいことを示す。LogPOWの値が3.5未満の場合には高濃縮性ではない、と判断することが適当とされており、生物蓄積性も小さいと考えられる。
【0037】
【表1】

【0038】
〔例1〕PFAの製造
1.3Lの撹拌機付き重合槽を脱気し、EEAの3gを溶かしたイオン交換水の600g、メタノールの1.0g、CF=CFOCFCFCF(パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)、以下、PPVEという。)の35g、および過硫酸アンモニウム塩(以下、APSという。)の0.1gを仕込み、撹拌回転数を300rpmとして撹拌した。重合槽内を65℃に昇温し、テトラフルオロエチレン(以下、TFEという。)を仕込み、重合槽内の圧力を1.0MPaとして、重合を開始させた。重合中圧力が一定になるようにTFEを連続的に仕込み、TFEの連続仕込み量が200gになった時点で重合槽内を室温に冷却し、未反応TFEをパージした。重合槽を開放し、得られた水性乳化液を凍結させて、破壊して共重合体を析出させた後1000mlのイオン交換水(25℃)で洗浄を三回繰り返した。次いで、150℃で12時間乾燥させて、205gのTFE/PPVE共重合体を得た。得られた共重合体は、融点が305℃、MFRが15g/分、共重合体中のPPVEに基づく重合単位の含有量が3.9質量%(1.47モル%)であり、溶融成形可能なフッ素樹脂であった。340℃で加圧プレスし、着色のない白色のシートが得られた。厚み1.5mmのシートからミクロダンベルを打ち抜き引張試験を行った。引張強度が28MPa、引張伸度が400%であった。
【0039】
〔例2〕FEPの製造
例1と同じ重合槽を脱気し、EEAを3g溶かしたイオン交換水の600g、ヘキサフロロプロピレン(以下、HFPという。)の200gおよびAPSの0.3gを仕込み、撹拌回転数を300rpmとして撹拌した。重合槽内を65℃に昇温し、TFEを仕込み、重合槽内の圧力を1.5MPaとして重合を開始させた。重合中圧力が一定になるようにTFEを連続的に仕込み、TFEの連続仕込みが150gになった時点で重合槽内を室温に冷却し、未反応モノマーをパージした。重合槽を開放し、得られた水性乳化液を凍結させて、破壊して共重合体を析出させた後、1000mlのイオン交換水(25℃)で洗浄を三回繰り返した。次いで、150℃で12時間乾燥させて、160gのTFE/HFP共重合体が得られた。得られた共重合体は、融点が261℃、MFRが17g/分、共重合体中のHFPに基づく重合単位の含有量が11.8質量%(7.9モル%)であり、溶融成形可能なフッ素樹脂であった。340℃で加圧プレスし、着色のない白色のシートが得られた。厚み1.5mmのシートからミクロダンベルを打ち抜き引張試験を行った。引張強度が25MPa、引張伸度が380%であった。
【0040】
〔例3〕ETFEの製造
例1と同じ重合槽を脱気し、EEAの6g溶かしたイオン交換水の600g、ターシャリーブタノールの60g、(パーフルオロブチル)エチレン(以下、PFBEという。)の2.4g、APSの0.15gを仕込み、撹拌回転数を300rpmとして撹拌した。TFEの111g、エチレン(以下、Eという。)の8gを仕込み重合槽内を65℃に昇温して重合を開始させた。重合圧力は2.9MPaであった。重合中圧力が一定になるようにTFE/E=53/47モル比の混合モノマーを連続的に仕込み、混合モノマーを10g仕込むごとに0.3gのPFBEを仕込んだ。混合モノマーの連続仕込みが270gになった時点で重合槽内を室温に冷却し、未反応モノマーをパージした。重合槽を開放し、得られた水性乳化液を凍結させて、破壊して共重合体を析出させた後、1000mlのイオン交換水(25℃)で洗浄を三回繰り返した。次いで、150℃で12時間乾燥させて、285gのTFE/E共重合体が得られた。得られた共重合体は、融点が262℃、MFRが8g/分、共重合体中のTFEに基づく重合単位/Eに基づく重合単位/PFBEに基づく重合単位のモル比が52.5/46.7/0.8であり、溶融成形可能なフッ素樹脂であった。300℃で加圧プレスし、着色のない白色のシートが得られた。厚み1.5mmのシートからミクロダンベルを打ち抜き引張試験を行った。引張強度が32MPa、引張伸度が320%であった。
【0041】
〔例4〕PVDFの重合
例1と同じ重合槽を脱気し、EEAの3g溶かしたイオン交換水の600g、アセトンの1.2g、APSの0.3g、フッ化ビニリデン(以下、VDFという。)の40gを仕込み、撹拌回転数を300rpmとして撹拌した。重合槽内を65℃に昇温して重合を開始させた。重合圧力は2.0MPaであった。重合中圧力が一定になるようにVDFを連続的に仕込み、VDFの連続仕込みが180gになった時点で重合槽内を室温に冷却し、未反応モノマーをパージした。重合槽を開放し、得られた水性乳化液を凍結させて、破壊して共重合体を析出させた後、1000mlのイオン交換水(25℃)で洗浄を三回繰り返した。次いで、150℃で12時間乾燥させて、170gのPVDFが得られた。PVDFは、融点が166℃、MFRが3.2g/分であり、溶融成形可能なフッ素樹脂であった。
300℃で加圧プレスし、着色のない白色のシートが得られた。厚み1.5mmのシートからミクロダンベルを打ち抜き引張試験を行った。引張強度が45MPa、引張伸度が340%であった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の製造方法で得られる溶融成形可能なフッ素樹脂は、従来のフッ素樹脂と同様に種々の用途に利用できる。具体例としては、電線被覆、電線ジャケット、薬液や純水用チューブ、コピーロールカバー、燃料ホース、農業用や構造材料、離型用フィルム等の押出成形品、バルブ、ポンプハウジング、自動車部品、コピー機部品、半導体製造装置部品等の射出成形品、タンクライニング等の粉体成形品等が挙げられる。

なお、2005年10月20日に出願された日本特許出願2005−305659号の明細書、特許請求の範囲、及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1) CFCFOCFCFOCFCOONH
で表される含フッ素乳化剤を含有させた水性媒体中で、含フッ素モノマー又は含フッ素モノマーとオレフィンを乳化重合して溶融成形可能なフッ素樹脂を製造する方法であって、該溶融成形可能なフッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレンのモル比が95/5〜90/10のテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)のモル比が99.7/0.3〜97/3のテトラフルオロエチレン/パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン/エチレンのモル比が65/35〜50/50のテトラフルオロエチレン/エチレン共重合体、クロロトリフルオロエチレン/エチレンのモル比が65/35〜50/50のクロロトリフルオロエチレン/エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/フッ化ビニリデンのモル比が35〜75/5〜15/20〜50のテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/フッ化ビニリデン共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/エチレンのモル比が35〜65/5〜15/30〜50のテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)のモル比が88〜94.8/5〜10/0.2〜2のテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、及びポリフッ化ビニリデンから選ばれる溶融成形可能なフッ素樹脂であることを特徴とする溶融成形可能なフッ素樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記溶融成形可能なフッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンおよびクロロトリフルオロエチレンからなる群より選ばれる少なくとも1種の含フッ素モノマーとエチレンとの共重合体である請求項1に記載の溶融成形可能なフッ素樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記含フッ素乳化剤の含有量が水性媒体に対して0.01〜10質量%である請求項1又は2に記載の溶融成形可能なフッ素樹脂の製造方法。

【公開番号】特開2013−100532(P2013−100532A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−8770(P2013−8770)
【出願日】平成25年1月21日(2013.1.21)
【分割の表示】特願2007−540985(P2007−540985)の分割
【原出願日】平成18年10月17日(2006.10.17)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】