説明

溶融金属めっき浴用軸受装置

【課題】めっき浴に浸漬した際に軸受装置の内部に侵入しためっき浴が、当該軸装置の引上げ時に円滑に流出することが可能な軸受装置を提供する。
【解決手段】溶融金属めっき浴中に浸漬される回転体の軸部を回転自在に支承する溶融金属めっき浴用軸受装置9であって、一端から前記軸部が挿入される挿入部8aを有するセラミックス製の軸受8と、一方の開口を遮るように配置された部材を有するとともに他方の開口を通じて前記軸受が収納される中空部2aを有する金属製の収納部材2とを備え、前記収納部材は、その中空部の底面に開口する溶融金属めっき浴の排出口を有することを特徴とする溶融金属めっき浴用軸受装置1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融亜鉛や溶融アルミニウムその他溶融金属を鋼板の表面にめっきする溶融金属めっき装置において、回転体であるサポートロールやシンクロールを回転可能に支承するため溶融金属めっき浴に浸漬される溶融金属めっき浴用軸受装置に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
上記技術分野に係わる溶融金属めっき浴用軸受装置(以下、単に軸受装置と言う場合がある。)が組み込まれた、溶融金属めっき装置の概略構成図を図6に示す。図6に示すように、溶融金属めっき装置90は、溶融金属めっき浴(以下単に「めっき浴」と言う場合がある。)91が貯留されるめっき槽92と、めっき浴91の表層部分に浸漬されて、めっき浴91の内に導入される鋼板Wの酸化を防止するためのスナウト93と、めっき浴91の中に配置されたシンクロール98と、めっき浴91の内でシンクロール98の上方に位置する一対のサポートロール97と、めっき浴91の表面より僅か上方に位置するガスワイピングノズル96とを有している。シンクロール98自体には外部駆動力が付与されず、走行する鋼板Wとの接触による摩擦力で反時計回りに駆動される。またサポートロール97は、通例、外部のモーター( 図示せず) に連結された駆動ロールである。なお、サポートロール97には外部駆動力が付与されない無駆動タイプもある。溶融金属めっき浴用ロールであるシンクロール98及び一対のサポートロール97は、フレーム94・95に取り付けられた軸受装置1・1により各々回転自在に支持されており、常に一体としてめっき浴91の内に浸漬される。
【0003】
鋼板Wは、スナウト93を経てめっき浴91の内に斜方から進入し、シンクロール98を経由して上方に進行方向を変えられる。めっき浴91の中を上昇する鋼板Wは、当該鋼板Wを一定の力で押し付けた一対のサポートロール97に挟まれ、パスラインが保たれるとともに、反りや振動が防止される。ガスワイピングノズル96は、めっき浴91から出てきた鋼板Wに高速ガスを吹き付け、高速ガスのガス圧により、鋼板Wに付着した溶融金属めっきの厚さを均一に調整する。このようにして、溶融金属めっきが施された鋼板Wを得ることができる。
【0004】
ここで、軸受装置1は、溶融金属めっき浴(以下、単にめっき浴と言う場合がある。)91に浸漬された回転体であるサポートロール97やシンクロール98の各々の軸部は、軸受装置1により回転可能に支承しているが、腐食性の高いめっき浴に対する耐摩耗性および回転する軸部との摺動に対する耐摩耗性の高い軸受装置1の開発が要請されてきた。
【0005】
かかる問題を解消するため軸受装置が従来から提案されたおり、その一例が下記特許文献1に開示されている。特許文献1には、「溶融金属めっきラインにおける溶融金属浴中のサポートロールにおいて、前記サポートロールを無駆動とし、該サポートロール軸受と摺動接触するスリーブ外周部に自溶性合金溶射すると共に、内表面を鏡面仕上げした断面形状が凸状をなすブッシュを設け、前記ブッシュの外周を球面軸受としたことを特徴とする無駆動溶融金属浴中のサポートロール」が開示されており、軸受として機能するブッシュとブッシュ保持する収納部材としてのアームが軸受装置として機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−248298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に開示された軸受装置は、ブッシュの内周面と摺動するスリーブに外周部に自溶性合金層を設けることにより、めっき浴に対する耐蝕性および軸部の摺動に対する耐摩耗性を高めることができるが、セラミックスでブッシュ(軸受)を、金属でアーム(収納部材)を構成する場合には、以下のような問題があった。すなわち、特許文献1の軸受装置において、ブッシュはアームに形成された中空部の中に保持されている。そして、アームの中空部に保持された状態のブッシュの貫通孔に、サポートロールの軸部およびスリーブが嵌着されると、アーム、ブッシュおよび軸部は僅かな隙間を介して密着した状態となり、当該中空部はほぼ密閉された状態となる。ここで、上記の軸受装置をめっき浴の中に浸漬した場合には、アーム、ブッシュおよび軸部が熱膨張し、拡大したスリーブとブッシュの隙間およびブッシュとアームの隙間からしみ込んだめっき浴が、アームの中空部に浸入する。メンテナンス等を行う場合には、サポートロールおよび軸受装置はめっき浴から引上げられるが、上記密閉されたケースの中空部からは引上げ時にめっき浴が流出しがたく、当該中空部にめっき浴が残存する場合がある。引上げた後に軸受装置が冷却されると、中空部に残留しためっき浴が凝固するとともに、熱膨張係数の大きな金属製のケースはセラミックス製のブッシュよりも収縮する。このため、固化しためっき浴が収縮するケースで軸受に押し付けられ、その押付力で軸受を破損せしめる可能性がある。
【0008】
本発明は、上記従来技術の問題点を発明者が鋭意検討してなされたものであり、めっき浴中に浸漬されるシンクロール等の回転体の軸部が一端から挿入される挿入部を有するセラミックス製の軸受と、一方の開口を遮るように配置された部材を有するとともに他方の開口を通じて前記軸受が収納される中空部を有する金属製の収納部材とを備え、前記軸部を回転自在に支承する軸受装置であって、めっき浴に浸漬した際に軸受装置の内部に侵入しためっき浴が、当該軸装置の引上げ時に円滑に流出することが可能な軸受装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する本発明の一態様は、溶融金属めっき浴中に浸漬される回転体の軸部を回転自在に支承する溶融金属めっき浴用軸受装置であって、一端から前記軸部が挿入される挿入部を有するセラミックス製の軸受と、一方の開口を遮るように配置された部材を有するとともに他方の開口を通じて前記軸受が収納される中空部を有する金属製の収納部材とを備え、前記収納部材は、その中空部の底面に開口する溶融金属めっき浴の排出口を有することを特徴とする溶融金属めっき浴用軸受装置である。
【0010】
なお、前記軸受は、その下部に形成された切り欠き部を有し、前記排出口は、前記切り欠き部に対応する位置に形成されていることが望ましい。加えて、前記収納部材は、その上部または側部に形成された開口を有することが望ましい。
【0011】
さらに、前記軸受は、その上部に形成された下方に傾斜する傾斜面を有することが望ましい。
【0012】
さらに加えて、前記軸受は、前記挿入部の他端を塞ぐように配置された軸受端部を有し、前記軸受端部には溶融金属めっき浴の流通孔が形成されていることが望ましい。さらに、このような態様の軸受は、前記挿入部と軸受端部の間に介在するように配置された湯溜まり部を有することが望ましい。
【0013】
さらに加えて、前記中空部の内面と前記軸受の外周面との間には隙間が形成されていることが望ましい。前記隙間は、前記中空部の内面または前記軸受の外周面に形成された凸状部により形成されていることが望ましい。また、前記隙間は、前記中空部の内面または前記軸受の外周面に形成された凹状部により形成されていてもよい。
【0014】
さらに加えて、前記軸受の外周面または前記収納部材の中空部の内周面には、溶融金属めっき浴との濡れ性が低い被膜が形成されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、下記で詳細に述べるように、本発明の目的を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係わる一実施態様の軸受装置の斜視図である。
【図2】図1の正面図、背面図、右および左側面図である。
【図3】図1の軸受装置に組み込まれた軸受の軸芯に対し鉛直な平面Aおよび水平な平面Hに沿う断面図である。
【図4】図4(a)は図3のC−C断面図、図4(b)は図3のD矢視図である。
【図5】図2(b)のB−B断面図である。
【図6】図1の軸受装置が組み込まれた溶融金属めっき装置の概略構成図である。
【図7】図1の軸受装置の第1〜第3変形例に係わる軸受装置の底面図である。
【図8】図1の軸受装置の第4変形例に係わる軸受装置の正断面図である。
【図9】図1の軸受装置の第5〜第7変形例に係わる軸受装置の図である。
【図10】図1の軸受装置の第8・第9変形例に係わる軸受装置の図である。
【図11】図1の軸受装置の第10変形例に係わる軸受装置の側断面図である。
【図12】図1の軸受装置の第11変形例に係わる軸受装置の側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係わる軸受装置について、その一実施態様および当該実施態様の複数の変形例に基づき、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、本実施態様およびその変形例に係わる軸受装置は、上記図6を参照して説明した溶融金属めっき装置に組み込まれて使用されるが、本発明はこれに限定されることなく、その作用効果を奏する限り、同一性の範囲内で適宜変形して実施することができる。また、本実施態様およびその変形例に係わる軸受装置の各構成要素は、本発明の作用効果を奏する限り、適宜互いに組み合わせて実施することができる。さらに、以下の説明では、めっき浴中に浸漬される回転体としてサポートロールの軸部を回転自在に支承する軸受装置を例として説明するが、本発明は、シンクロールその他溶融金属めっき浴中に浸漬される回転体において、同様に実施することができる。
【0018】
本発明に係わる一実施態様の軸受装置について、図1〜5を参照して説明する。ここで、図1は軸受装置1の斜視図、図2(a)は図1の軸受装置1の右および左側面図、図2(b)はその正面図、図2(c)はその背面図、図3は、図1の軸受装置1に組み込まれた軸受8の軸芯Iに対し鉛直な平面Aおよび水平な平面Hに沿う軸受装置1の断面図、図4(a)は図3のC−C断面図、図4(b)は図3のD矢視図、図5は、図2(b)のB−B断面図である。なお、図1および2〜5に示すように、以下の説明では、軸受8の軸芯Iに沿う軸をX軸、X軸に直交するとともに軸芯Iに水平に交わる軸をY軸、X軸・Y軸に共に直交する軸芯Iに垂直に交わる軸をZ軸と称する。また、X軸方向については、図1において手前側を前方、奥側を後方と称する。
【0019】
本態様の軸受装置1は、図1および図2に示すように、一端から軸部97aが挿入される挿入部8aを有するセラミックス製の軸受8と、一方の開口を遮るように配置された平板状部材(部材)7を有するとともに他方の開口から上記軸受8が収納される中空部2aを有する金属製の収納部材2とを基本的な構成要素として備え、収納部材2は、その中空部2aの底面2bに開口するめっき浴の排出口4a〜7aとを有している。かかる構成の軸受装置1によれば、サポートロールとともにめっき浴中に軸受装置1が浸漬されると、収納部材2と軸受8との間にめっき浴が浸入する。その後、メンテナンス等のために軸受装置1がめっき浴から引上げられると、収納部材2と軸受8との間に浸入しためっき浴は、収納部材2に設けられた中空部2aの底面2bに開口した排出口4a〜7aを通じ流下し、排出される。しかして、収納部材2と軸受8との間に残留するめっき浴が抑制され、残留しためっき浴による軸受8の破損を抑制することが可能となる。以下、本態様の収納部材2および軸受8について、その構造を詳細に説明する。ここで、軸受装置1は、サポートロールの両端に2組配置されているが、両者の構成は同一であるので、一方の軸受装置1についてのみ説明し、他方の軸受装置1の説明は省略する。
【0020】
[収納部材]
図3に示すように、X軸に沿う断面形状がコの字形状の有底筒状をなす本態様の収納部材2は、図1に示すように、互いに直交するように矩形枠状に接合された4枚の平板状部材3〜6と、この矩形枠状に接合された平板状部材3〜6で形成される、軸芯Iに直交する断面形状、すなわちY−Z平面における断面形状が略矩形状の中空部2aの後方端(一端)の開口を遮るように、平板状部材3〜6の後方端面に接合された平板状部材7により形成されている。なお、中空部2aの前方端(他端)の開口を通じて軸受8は収納部材2に収納されるが、中空部2aに収納された軸受8は、収納部材2において平板状部材7と反対側の端面に固定されている固定部材9により、X軸方向の移動が規制されている。
【0021】
収納部材2の中空部2aの内面3c〜7c全体を平面とする必要はなく、後述するように軸受8の円弧形状の外面8b〜8hの頂部が接触する部分が平面であればよい。さらに、当該内面3c〜7cは必ずしも平面とする必要はなく、軸受8が挿着可能であれば曲面であってもよい。また、平板状部材7は、固定部材9とともに軸受8のX軸方向の移動を規制するために設けられているので、収納部材2の中空部2aを完全に閉塞する必要はなく、図2(c)に示すように、当該中空部2aの開口の一部が開放されるように平板状部材7に開口7aが形成されていてもよい。
【0022】
収納部材2を構成する金属製の平板状部材3〜7は、化学的腐蝕性の高いめっき浴に対し耐蝕性を有する材料で構成することが望ましく、例えばステンレス鋼などを選択するとよい。さらに、耐蝕性をより高めるためには、めっき浴との濡れ性の低いセラミックスやサーメットなどの皮膜を平板状部材3〜7の表面に形成しておくことが望ましい。
【0023】
次に、収納部材2に設けられためっき浴の排出口(以下、単に排出口と言う場合がある。)について説明する。本態様の排出口は、図1および図2に示すように、5枚の平板状部材3〜7の全てについて、略十の字形状をなすよう四隅を切り欠いて形成した開口のうち、中空部2aの底面2b(下方の平板状部材5の内面5cでもある。)に開口する、下方の平板状部材5に形成された4個の開口5a、ならびに左方、右方および後方の平板状部材4・6・7の下部に各々2個形成された開口4a・6a・7aが、主にめっき浴を排出する排出口となっている。すなわち、主排出口4a〜7aは、矩形断面を有する収納部材2の中空部2aおいて、その底面2bの四隅に開口するように設けられている。
【0024】
ここで、平板状部材4・6・7に開口4a・6a・7aを設けず、平板状部材5の4個の開口5aのみでも主排出口としてめっき浴を軸受装置1から排出することが可能であるが、排出口の断面積を大きくしてより円滑にめっき浴を排出するためには、平板状部材4・6・7にも主排出口として機能する開口4a・6a・7aを設けておくことが望ましい。なお、排出口は、収納部材2の中空部2aにおいて、その底面2bに開口するように設けてあればよく、その配置は特に限定されないが、本態様の矩形断面の中空部2のように角部を有する中空部2の場合には、当該角部にめっき浴が残留しないように、角部に対応した位置に開口4a〜7aを設け、それを排出口4a〜7aとすることが望ましい。この排出口の配置に係わる収納部材2の変形例については後述する。
【0025】
左方、右方および後方の平板状部材4・6・7の上部に各々2個形成された開口4d・6d・7dは、上記主たる排出口4a〜7aに対し、特に軸受装置1をめっき浴から引上げた初期段階において、軸受装置1の内部に大量に浸入しているめっき浴を、この開口4d・6d・7dを通じ円滑に流出させる副排出口としての機能を有している。すなわち、中空部2aの底面2bに開口する主排出口4a〜7aだけでも、当該中空部2aに浸入しためっき浴を排出することはできるが、中空部2aに大量のめっき浴が残留している軸受装置1の引き上げの初期段階において、主排出口4a〜7aだけではめっき浴の排出能が不足する虞があり、引き上げ途中に残留しためっき浴が凝固し、軸受8を破損させる可能性がある。一方で、主排出口4a〜7aと併せ、平板状部材4・6・7の上部に設けた副排出口4d・6d・7dからもめっき浴を排出させることにより、引き上げの初期段階においてもめっき浴をより円滑に中空部2aから排出することが可能となる。
【0026】
さらに、上記平板状部材4・6・7の上部に形成された開口4d・6d・7d、上方の平板状部材3の四隅に形成された開口3d、中空部2aに通じるよう上方の平板状部材3の中央部に形成された開口である貫通孔3bおよび中空部2aに通じるよう左右の平板状部材4・6の中央部に形成された開口である貫通孔4b・6bによれば、軸受装置1をめっき浴から引上げた後に、収納部材2の上部および側部に形成されたこれら開口を通じて外気が中空部2aに流入する。しかして、収納部材2と軸受8の間に残留しためっき浴は、何ら抵抗を受けることなく下部の主排出口4a〜7aから容易に排出される。なお、下記第1〜第3変形例のように、下方の平板状部材5以外の平板状部材に開口を設けない場合には、例えば、上方の平板状部材3の中央部に貫通孔3bを設けておけばよい。
【0027】
中空部2aから円滑にめっき浴を排出するという観点から、収納部材2の内面3c〜7cならびに主排出口4a〜7aおよび副排出口4d・6d・7dの表面にはめっき浴が付着しがたいことが望ましく、めっき浴との濡れ性の低いセラミックスやサーメットなどの皮膜をこれらに形成しておくことが望ましい。また、図1および2において、符号4b・6bは、円弧形状をなす軸受8の表面8c・8eの頂部(図4参照)に位置に対応し、平板状部材4・6のほぼ中央部に形成された貫通孔である。かかる貫通孔4b・6bの上記とは別の作用効果については、下記軸受8の説明の欄で詳述する。
【0028】
本態様の軸受装置1において、収納部材2に設けられた排出口4a〜7aは、上記のとおり平板状部材4〜7の四隅を切り欠き形成しているが、めっき浴を排出する排出口は中空部2aの底面2bに開口していればよく、貫通孔状に構成してもよい。以下、めっき世を排出する排出口に係わる第1〜第3変形例について図7を参照しつつ説明する。図7(a)〜(c)は、いずれも第1〜第3変形例に係わる収納部材の底面図である。なお、排出口の態様のみが異なる第1〜第3変形例の収納部材を示す図7において、上記収納部材2と同一の構成要素については同一符号を付しており、詳細な説明を省略する(図8〜12を参照しつつ説明する第4〜第11変形例に係わる軸受装置においても同様である)。
【0029】
図7(a)に示す第1変形例に係わる収納部材19は、側方および後方に配置された平板状部材12・14・21に排出口が設けられておらず、下方に配置された平板状部材20のみに中空部の底面に開口する排出口20aが形成されている。本態様の排出口20aは、Z軸方向に平板状部材20を貫く略円柱形状の内面を有する貫通孔であり、X軸方向において平板状部材20の両端部と中央部に3孔、Y軸方向においては平板状部材20の両端部に2孔、合計6孔設けられている。
【0030】
図7(b)に示す第2変形例に係わる収納部材23は、上記収納部材19と同様に、側方および後方に配置された平板状部材12・14・21に排出口が設けられておらず、下方に配置された平板状部材24のみに中空部の底面に開口する排出口24aが形成されている。本態様の排出口24aは、Z軸方向に平板状部材24を貫くX軸方向に延びる長孔状の貫通孔であり、Y軸方向において平板状部材24の両端部に2孔設けられている。
【0031】
図7(c)に示す第3変形例に係わる収納部材26は、上記収納部材19と同様に、側方および後方に配置された平板状部材12・14・21に排出口が設けられておらず、下方に配置された平板状部材24のみに中空部の底面に開口する排出口27aが形成されている。本態様の排出口27aは、Z軸方向に平板状部材24を貫くY軸方向に延びる長孔状の貫通孔であり、X軸方向において平板状部材24の両端の間に等間隔で5孔設けられている。
【0032】
[軸受]
軸受8について説明する。図4(a)に示すように、X軸方向に延びる四の外面8b〜8eを有する大略四角柱形状をなす本態様の軸受8は、軸芯Iに直交する断面視、すなわちY−Z平面において、その中央部に、X軸方向に延びる内周面が略円柱形状の挿入部8aが形成されている。そして、略円柱形状のサポートロールの軸部97aは、挿入部8aの開口する一端から当該挿入部8aに挿入され、その外周面は挿入部8aの内周面に接しつつ摺動することとなる。
【0033】
本態様の軸受8を側方から見た形態について説明する。図3に示すように、本態様の軸受8の四の外面8b〜8eには各々凸状部8fが設けられている。凸状部8fの外縁形状は、外側に凸である円弧形状をなしており、Z軸上およびY軸上のいずれの箇所でも図3で示す形状と同一である。すなわち、凸状部8fは全体として略蒲鉾形状をなしており、軸受8の外面8b〜8eでもあるその表面は外側に凸の一つの曲面となっている。そして、X軸方向において図3に示す軸受8の中央を切断したC−C断面図である図4(a)に示すように、軸部8は、凸状部8fの頂部において収納部材2の内面3c〜6cと接している。また、図3に示す軸受8の後端部のD矢視図である図4(b)に示すように、軸部8と収納部材2の接している部分を除き両者の間には隙間2cが形成されている。加えて、本態様の軸受装置1では、図3に示すように、X軸方向において軸受8の後方にも外面が円弧形状または略半球形状をなす凸状部8hが形成されており、この凸状部8hもその頂部で、収納部材2の後方に配置された平板状部材7の内面7cと接しており、両者の間には隙間2dが形成されている。なお、凸状部8fは、軸受8の四の外面8b〜8eの全ての面に必ずしも設ける必要はなく、収納部材2と軸受8との間に残留するめっき浴の状態に対応し、必要な外面8b〜8eに設けておけばよい。
【0034】
ここで、上記軸受装置1の第4変形例である軸受装置9の正断面図である図8に示すように、軸受15の外面15b〜15eおよび収納部材10の内面11c〜14cをいずれも平面状とし、収納部材10に軸受15を組み込んだときに両者を面全体で密着させてもよく、その場合には両者の間の僅かな隙間をめっき浴は流下し、下方の平板状部材13に形成された排出口13aを通じて外部へ排出される。
【0035】
しかしながら、図3に示す本態様の軸受装置1のように、軸受8と収納部材2の間に隙間2c・2dを設けることにより、外面8b〜8e・8hと内面3c〜7cとの間に侵入しためっき浴は両者の間に設けられた隙間2c・2dを流下し、排出口4a〜7aからより円滑に排出されるので望ましい。なお、このように軸受8の凸状部8f・8hの頂部は内面3c〜7cと接するよう構成されているため、その頂部と内面3c〜7cの接触部に存在するめっき浴は排出され難い可能性がある。この接触部に浸入しためっき浴を排出するため、上記収納部材の項で説明したように、頂部に位置に対応し、平板状部材4・6のほぼ中央部に形成された貫通孔4b・6bが設けられている。
【0036】
めっき浴を流下させるため軸受と収納部材との間に隙間を形成する形態が軸受装置1とは異なるその第4〜第9変形例について、図9〜11を参照しつつ説明する。
【0037】
第5変形例に係わる軸受装置28の正面図を図9(a)に示す。本態様の軸受装置28は、その軸受29が、収納部材2の内面3c〜6cに各々対面する平面状の外面29b〜29eと、外面29b〜29eの中央部に突起するよう形成された半球状の凸状部29fとを有する点で軸受装置1と相違している。そして、軸受29の半球状の凸状部29fの頂部は、収納部材2の内面3c〜6cと接するよう配置されており、軸受29と収納部材2との間には隙間2cが形成される。かかる軸受装置28によれば、収納部材の内面3c〜6cと凸状部29fとの接触面積が小さいため、軸受29の外面29b〜29eと収納部材の内面3c〜6cとの間の間隙が広く、めっき浴の排出性の面から有利である。
【0038】
第6変形例に係わる軸受装置30の側断面図を図9(b)に示す。なお、図9(b)において、軸受31の右端部は側面図となっている。図に示すように、本態様の軸受装置30は、その軸受31が、収納部材2の内面3c〜6c(側方の内面4c・6cは不図示)に対面する平面状の四の外面31b〜31e(左方の外面31cは不図示)と、各外面31b〜31eにおいてZ軸またはY軸に沿い突起するように形成された各々一条の凸状部31f・31sとを有する点で、軸受装置1と相違している。そして、軸受31の凸状部31f・31sの頂部は、収納部材2の内面3c〜6cと接するよう配置されており、軸受31と収納部材2との間には隙間2cが形成される。なお、本態様の軸受31の外面31eに形成された凸状部31sのように、めっき浴の排出状態に応じ、X軸方向において他の凸状部31fと異なる位置に凸状部を設けてもよい。
【0039】
第7変形例に係わる軸受装置32の側断面図を図9(c)に示す。本態様の軸受装置32は、基本的には、上記軸受8と同一の構成であるが、円弧形状をなす凸状部33fの頂部が、X軸方向において軸受33の中心Fより距離hだけ左側(軸部97aが挿入される挿入部8aの開口側)に偏位した位置に配置されている点で、軸受装置1と相違している。かかる軸受装置32によれば、X軸方向において、めっき浴が排出し難い収納部材2の中空部2aの後方の隙間2gを前方の隙間2cに対し大きくすることができ、めっき浴の排出性の面で有利である。また、軸受33の挿入部8aへの軸部97aの挿入や高温のめっき浴による軸部97aの熱変形により比較的損傷を受けやすい軸受33の左端部の厚みiを厚くでき、軸受33の長寿命化の面で有利である。
【0040】
第8変形例に係わる軸受装置34の側断面図を図10(a)に示す。本態様の軸受装置34は、凸状部が収納部材35に設けられている点で、軸受装置1と相違している。すなわち、本態様の軸受41は、上記軸受8と同様に、軸部97aが挿入される挿入部8aを有するが、その四の外面41b〜41e(側方の外面41c・41eは不図示)は互いに直交する平面となっている。一方で、支持部材35は、上記支持部材2と同様に、5枚の平板状部材36〜40(側方の平板状部材37・39は不図示)の略コの字形状に組合せ、軸受41を収納する中空部2aを形成するよう構成されているが、軸受41の外面41b〜41eに対面する収納部材35の内面36c〜39c(37c・39cは不図示)には、各々が対面する軸受41の外面41b〜41eと頂部が接する凸状部36dが設けられている。
【0041】
このように凸状部36dを支持部材35の内面36c〜39cに設けた構成によっても、上記軸受装置1と同様に、軸受41と収納部材35の間には間隙2cが形成されるので、当該間隙2cを通じ、軸受41と収納部材35の間に残留するめっき浴を円滑に排出することが可能となる。なお、本態様の軸受41は、外面41b〜41eが平面であるため加工等で形成することが容易であり、特に軸受41を難加工性のセラミックスで構成する場合に有利である。
【0042】
第9変形例に係わる軸受装置42の側断面図を図10(b)に示す。本態様の軸受装置42は、凸状部に替え凹状部によりめっき浴が流下する隙間を形成している点で、軸受装置1と相違している。すなわち、本態様の収納部材43は、上記支持部材2と同様に、5枚の平板状部材44〜48(側方の平板状部材45・47は不図示)の略コの字形状に組合せ、軸受49を収納する中空部2aを形成するよう構成されているが、軸受49の外面49b〜49eに対面する収納部材43の内面44c〜47c(45c・47cは不図示)には、X軸方向においてその両端に2条形成された凹状部44eが設けられている。この凹条部44eは、Y軸およびZ軸方向において平板状部材44〜47を貫くよう凹溝状に延設されている。そして、収納部材43の中空部2aに軸受49を挿着したとき、収納部材43の内面44c〜47cは軸受49の平面状の外面49b〜49eが接するように配置されるので、当該外面49b〜49eと凹状部44eとで隙間2cが形成される。なお、凹状部43eの形状、条数および配置には特段限定はないが、めっき浴の排出性を高めるためには、X軸方向において複数条設けることが好ましく、図に示すように軸受49の外面49b〜49eに、上記収納部材43の凹状部44eと同一形態の凹状部49pを設け隙間2cを形成してもよい。
【0043】
第10変形例に係わる軸受装置52の正面図を図11に示す。本態様の軸受装置52は、軸受の四の外面のうち二の外面を収納部材の内面に密着していない点で、軸受装置1と相違している。すなわち、本態様の軸受装置52では、収納部材53の中空部2aに軸受8が収納されたとき、軸受8の二の外面8b・8cに収納部材53の二の内面54c・55cは接することなく、両者の間にZ軸方向において幅aの隙間2cおよびY軸方向において幅bの隙間2cが形成され、軸受8の他の二の外面8d・8eは各々収納部材53の二の内面56c・57cに接するよう構成されている。かかる軸受装置52によれば、収納部材53と軸受8の間に残留しためっき浴は、上記隙間2cを通じて流下し、中空部2aの底面2bに開口した排出口から排出されることとなる。なお、本態様の軸受装置52では、各々の隙間2cの幅a・bが比較的大きく、中空部2aに安定して軸受8を固定するため平板状部材54・55に配置された固定部材である螺子58・59で軸受8を固定している。しかしながら、鋼板に付与された張力によりサポートロールの軸部97aには、矢印Eで示す方向に安定して力が作用しているので、隙間2cの幅a・bが小さい場合には、螺子58・59で軸受8を固定しなくてもよい。
【0044】
次に、好ましい態様である軸受8において、軸受8と軸部97aとの間に介在する潤滑媒体であるめっき浴の循環に関する構成について説明する。図3に示すように、本態様の軸受8には、稼動中にX軸方向へ移動するサポートロールに対し、その軸部97aの右端面を受けX軸方向の移動を規制するため、スラスト受けとしての軸受端部8kが右端に配置されている。一方で、このように軸受端部8kを設け軸受8の右端を閉塞すると、軸受装置1を引上げた際に軸受8の内部にめっき浴が残留し、残留しためっき浴が冷却凝固する過程で軸受8を破損せしめる可能性がある。このため、図に示すように、軸受端部8kに軸受8の中空部8aに通じる貫通孔状の流通孔8jを設け、軸受8の内部に流入しためっき浴が流通孔8jを通じて外部に排出されるよう構成することが望ましい。さらに、Z軸方向において、流通孔8jの下面を軸受8の摺動面(挿入部8aの内面)の下面より下方に位置するよう配置すれば好適である。なお、軸受8の内部からめっき浴を排出する貫通孔8jは、図3の形態に限定されず、軸受装置1の第11変形例である軸受装置50の側断面図である図12に示すように、中空部8aに通じるように上下方向に貫通した貫通孔51jを軸受51に設けてもよい。
【0045】
また、図3に示すように、軸受端部8hで軸受8の右端を閉塞すると、潤滑媒体であるめっき浴が軸受8と軸部97aの摺動面に円滑に供給されず、またドロスなどの異物が軸受8の内部に滞留する可能性がある。このため、挿入部8aの右端から軸受端部8kの間に介在するように配置された、挿入部8aと比べて内径の大きな湯溜まり部8iを軸受8に設けておくことが好ましい。この構成により、軸受8に軸部97aが挿入された場合であっても、めっき浴は、流通孔8jを通じて湯溜まり部8iと外部の間を循環し、ドロスを円滑に排除しつつ潤滑媒体として機能することとなる。
【0046】
好ましい態様である軸受8において、高温のめっき浴に浸漬することで生じる軸部97aの変形による軸受8の破損を防止する構成について説明する。図3に示すように、軸受8は、X軸方向において、挿入部8aの左端(一端)および右端(他端)に存する角部、すなわち挿入部8aの開口端の角部には、R面8gを設けておくことが好ましい。これにより、変形により傾いた軸部97aの外周面が、挿入部8aの開口端の角部に押し付けられ、その角部を破損させることを防止することができる。この角部に形成されるR面8gは、C面であってもよい。
【0047】
次いで、本態様の軸受8を正面から見た形態について説明する。図4(a)・(b)に示すように、軸受8は、その下部の2隅を切り欠き面8mで切り欠き形成された切り欠き部8nを有し、排出口である収納部材2の開口4a〜7a(開口7aは不図示)は、この切り欠き部8nに対応した位置である、その下方または側方に設けられている。このように軸受8の下部に切り欠き部8nを設けることにより、軸受8の側方の二の外面8c・8eと収納部材2の側方の二の内面4c・6cの各々の間に形成された隙間を流れるめっき浴は、切り欠き部8nを通じて排出口4a〜7aから排出されることとなる。ここで、上記軸受8と収納部材2との間の隙間に対し切り欠き部8nは大きな空間であるため、当該間隙の中を流れるめっき浴は停滞することなく切り欠き部8nに供給され、その後切り欠き部8nに対応した位置に設けられた排出口4a〜7aから円滑に排出される。さらに、図1の平面Bに沿う断面である図5に示すように、軸受8に設けた切り欠き部8nは、X軸方向に延びる軸受8と収納部材2との間の間隙となる。しかして、図4に示す、収納部材2の内面4c・6cに対し軸受8の外面8c・8eの対向する部分の面積が減じ、両者の間にめっき浴が残留することを抑制することが可能となる。
【0048】
さらに、本態様の軸受8は、図4(a)・(b)に示すように、その上部の2隅の角部に形成された下方に傾斜する傾斜面8Lを有している。このように軸受8の上部に傾斜面8Lを設けることにより、軸受8と収納部材2の各々上方に配置された面8bと内面3cの間に形成された隙間に残留するめっき浴は、この傾斜面8Lに沿い下方に流れ、排出口4a〜7aを通じて排出されることとなる。
【0049】
また、上記のように軸受8の上部と下部に各々傾斜面8Lおよび切り欠き面8mを設けることにより、軸受8の破損を防止できるという副次的な効果が生じる。すなわち、軸受8の隣接する外面8b〜8eが直接接続していると接続部に鋭角な角部が生じる。この角部には、軸受装置1のめっき浴への浸漬および引き上げ時の急激な加熱・冷却によりクラック等が生じ、軸受8の破損の原因となりやすい。一方で、本態様の軸受8のように傾斜面8Lおよび切り欠き面8mを設け鋭角な角部を消滅せしめることにより、軸受8の破損を抑制することができる。なお、傾斜面8Lおよび切り欠き面8mの形態は特段限定されないが、肉厚の急変部を減じ、加熱・冷却により発生する熱応力を低減するため、傾斜面8Lおよび切り欠き面8mの形状は、外側に膨出する円弧状とすることが望ましい。
【0050】
[軸受の材料構成]
めっき浴中に浸漬され軸部97aと摺動する軸受8には、めっき浴に対する耐蝕性と摺動に対する耐摩耗性が要求される。そのため、軸受8は、セラミックスで構成されている。以下、軸受8を構成するセラミックスについて、その好適な例を説明する。
【0051】
セラミックスとしては、サポートロールが使用される雰囲気その他の操業条件の要請による耐熱衝撃性・耐蝕性などに応じ、アルミナ・ジルコニア・シリカその他の酸化物系セラミックス、硼化ジルコニウム・硼化チタン・硼化ボロンその他の硼化物系セラミックス、炭化シリコン・炭化ボロンその他の炭化物系セラミックス、またはカーボンなどの無機材料を利用してよい。そして、軸受3は、めっき浴への浸漬および取出しの際に急熱・急冷されるため、耐熱衝撃性に優れている必要がある。そのため、軸受3を構成するセラミックスとしては、熱伝導率が高い窒化珪素・窒化アルミその他の窒化物系セラミックスが好ましく、めっき浴である溶融金属に対し高い耐溶損性および耐磨耗性を有し、高温強度に優れた窒化珪素系セラミックスが特に好ましい。以下、軸受3を構成するに好適な窒化珪素セラミックスについては、特開2001−335368号に記載のものと同じでよい。
【0052】
窒化珪素セラミックス中に存在するアルミニウム及び酸素はフォノン散乱源となり、熱伝導率を低減させる。窒化珪素セラミックスは、窒化珪素粒子とその周囲の粒界相とから構成され、アルミニウム及び酸素はこれらの相に含有される。アルミニウムは珪素に近いイオン半径を有するため、窒化珪素粒子内に容易に固溶する。アルミニウムの固溶により窒化珪素粒子自身の熱伝導率が低下し、窒化珪素セラミックスの熱伝導率は著しく低下する。従って、窒化珪素セラミックス中におけるアルミニウムの含有量はできるだけ少なくすることが望ましい。
【0053】
焼結助剤として添加する酸化物中の酸素の多くは粒界相に存在する。窒化珪素セラミックスの高熱伝導率化を達成するには、窒化珪素粒子に比べて熱伝導率が低い粒界相の量を低減することが必要である。焼結助剤の添加量の下限は、8.5%以上の相対密度を有する焼結体が得られる量である。焼結助剤の添加量をこの範囲内でできるだけ少なくすることにより、粒界相中の酸素量を低減させることが望ましい。
【0054】
酸素量の少ない窒化珪素粉末を原料とすると、粒界相中の酸素量が低減できるために粒界相の量自体を低減でき、焼結体の高熱伝導率化が達成されるが、焼結過程で生成するSiOの量の減少により難焼結性となる。ところが、他の酸化物より焼結性に優れたMgOを焼結助剤として用いると、焼結助剤の添加量を少なくして、緻密な焼結体を得ることができる。その結果、焼結体の熱伝導率は飛躍的に高くなる。
【0055】
マグネシウムとともに添加し得る焼結助剤としては、Y、La、Ce、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb,Lu等の周期律表第3族(後述)が挙げられる。なかでも、焼結温度及び圧力が高くなり過ぎないという点で、Y、La、Ce、Gd、Dy、Ybが好ましい。
【0056】
軸受8を構成する窒化珪素セラミックスの常温における熱伝導率は50W/(m・K)以上であり、より好ましくは60W/(m・K)以上である。従って、窒化珪素系セラミックス中の酸素含有量は、50W/(m・K)以上の熱伝導率を得るには5重量%以下であり、60W/(m・K)以上の熱伝導率を得るには3重量%以下である。また窒化珪素粒子中の酸素含有量は、50W/(m・K)以上の熱伝導率を得るには2.5重量%以下であり、60W/(m・K)以上の熱伝導率を得るには1.5重量%以下である。さらに窒化珪素系セラミックス中のアルミニウムの含有量は、50W/(m・K)以上の熱伝導率を得るには0.2重量%以下であり、60W/(m・K)以上の熱伝導率を得るには0.1重量%以下である。
【0057】
窒化珪素セラミックス中のマグネシウムMgOと周期律表第3族元素酸化物の合計量は0.6〜7重量%であるのが好ましい。その合計量が0.6重量%未満では、焼結体の相対密度が95%未満と不十分である。一方7重量%を超えると、熱伝導率の低い粒界相の量が過剰となり、焼結体の熱伝導率が50W/(m・K)未満となる。MgO+第3族元素酸化物は0.6〜4重量%であるのがより好ましい。
【0058】
MgO/第3族元素酸化物の重量比は1〜70が好ましく、1〜10がより好ましく、1〜5が最も好ましい。MgO/第3族元素酸化物が1未満では、粒界相中の希土類酸化物の割合が多すぎるため、難焼結性となり緻密な焼結体が得られない。また、MgO/第3族元素酸化物が70を超えると焼結時におけるMgの拡散を抑制できず、焼結体表面に色むらが生じる。MgO/第3族元素酸化物が1〜70の範囲にあると、1650〜1850℃での焼結により高熱伝導率化が著しい。焼結体を1800〜2000℃で熱処理すると、さらに高熱伝導率化される。熱処理による高熱伝導率化は、窒化珪素粒子の成長と蒸気圧の高いMgOの揮発による。
【0059】
窒化珪素粒子中のアルミニウム、マグネシウム及び周期律表第3族元素の合計量は1.0重量%以下であるのが好ましい。
【0060】
窒化珪素焼結体中のβ型窒化珪素粒子のうち、短軸径が5μm以上のβ型窒化珪素粒子の割合が10体積%超では、焼結体の熱伝導率は向上するが、組織中に導入された粗大粒子が破壊の起点として作用するため破壊強度が著しく低下し、700Mpa以上の曲げ強度が得られない。従って、窒化珪素焼結体中のβ型窒化珪素粒子のうち、短軸径が5μm以上のβ型窒化珪素粒子の割合は10体積%以下であるのが好ましい。同様に、組織中に導入された粗大粒子が破壊の起点として作用することを抑えるために、β型窒化珪素粒子のアスペクト比は15以下であるのが好ましい。
【0061】
軸受8を形成する窒化珪素セラミックスは、急激な温度変化に対して十分な抵抗力を有する必要がある。急激な温度変化に対する抵抗力は下記式(1):
R=αc(1−ν)/Eα ・・・(1)
( 但し、αc:常温における4点曲げ強度(MPa)、ν:常温におけるポアソン比、E:常温におけるヤング率(MPa)、α:常温から800℃までの平均熱膨張係数)
により表される係数で表される係数Rは600以上であるのが好ましく、700以上であるのがより好ましい。係数Rが600未満であると軸受3が破壊するおそれがある。係数Rは、軸受3から切り出した試験片に対して測定した常温における4点曲げ強度αc(MPa)、常温におけるポアソン比ν、常温におけるヤング率E(MPa)及び常温から800℃までの平均熱膨張係数αから求める。
【0062】
なお、セラミックスは、本来、めっき浴との濡れ性が低く不要の場合もあるが、軸受8を構成するセラミックスがめっき浴との濡れ性が高い場合には、軸受8と収納部材2との隙間をめっき浴が円滑に流動させる観点から、軸受8の外面8b〜8eにはめっき浴が付着しがたいことが望ましく、めっき浴との濡れ性の低いセラミックスやサーメットなどの皮膜をこれらに形成しておくことが望ましい。
【符号の説明】
【0063】
1(9、18、22、25、28、30、32、34、42、50、52)軸受装置
2(10、19、23、26、35、43、53、57) 収納部材
2a 中空部
2b 底面
2c(2d) 隙間
3(4〜7) 平板状部材
3a(4a〜7a、3d、4d、6d、7d) 開口
8(15、29、31、33、41、49、51) 軸受
8a 挿入部
8b(8c〜8e) 外面
8f(29f、31f、31s、33f、36d) 凸状部
49p 凹状部
8i 湯溜まり部
8j(51j) 排出孔
90 溶融金属めっき装置
91 溶融金属めっき浴
97 サポートロール
98 シンクロール
W 鋼板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属めっき浴中に浸漬される回転体の軸部を回転自在に支承する溶融金属めっき浴用軸受装置であって、一端から前記軸部が挿入される挿入部を有するセラミックス製の軸受と、一方の開口を遮るように配置された部材を有するとともに他方の開口を通じて前記軸受が収納される中空部を有する金属製の収納部材とを備え、前記収納部材は、その中空部の底面に開口する溶融金属めっき浴の排出口を有することを特徴とする溶融金属めっき浴用軸受装置。
【請求項2】
前記軸受は、その下部に形成された切り欠き部を有し、前記排出口は、前記切り欠き部に対応する位置に形成されている請求項1に記載の溶融金属めっき浴用軸受装置。
【請求項3】
前記軸受は、その上部に形成された下方に傾斜する傾斜面を有する請求項1または2のいずれかに記載の溶融金属めっき浴用軸受装置。
【請求項4】
前記収納部材は、その上部または側部に形成された前記中空部に通じる開口を有する請求項1乃至3のいずれかに記載の溶融金属めっき浴用軸受装置。
【請求項5】
前記軸受は、前記挿入部の他端を塞ぐように配置された軸受端部を有し、前記軸受端部には溶融金属めっき浴の流通孔が形成されている請求項1乃至4のいずれかに記載の溶融金属めっき浴用軸受装置。
【請求項6】
前記軸受は、前記挿入部と軸受端部の間に介在するように配置された湯溜まり部を有する請求項5に記載の溶融金属めっき浴用軸受装置。
【請求項7】
前記中空部の内面と前記軸受の外面との間には隙間が形成されている請求項1乃至6のいずれかに記載の溶融金属めっき浴用軸受装置。
【請求項8】
前記隙間は、前記中空部の内面または前記軸受の外面に形成された凸状部により形成されている請求項7に記載の溶融金属めっき浴用軸受装置。
【請求項9】
前記隙間は、前記中空部の内面または前記軸受の外面に形成された凹状部により形成されている請求項7に記載の溶融金属めっき浴用軸受装置。
【請求項10】
前記軸受の外面または前記収納部材の中空部の内面には、溶融金属めっき浴との濡れ性が低い皮膜が形成されている請求項1乃至9のいずれかに記載の溶融金属めっき浴用軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−53346(P2013−53346A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192553(P2011−192553)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】