説明

滑り止め付きマットの製造方法

【課題】下面に形成する滑り止め用の凸部の形状の選択自由度が高く、パイル生地のパイルをしっかりと立たせることができ、パイル生地がゴムシートから剥離しにくい滑り止め付きマットの製造方法の提供。
【解決手段】未加硫の第一ゴムシート31を下型10にセットして上型20を下降させ、第一ゴムシートの上面を高圧でプレスしながら加硫することにより、第一ゴムシートの下面に滑り止め用の凸部を形成する第一加硫工程と、第一加硫工程を終えた第一ゴムシートにおける上面に未加硫の第二ゴムシート32を敷いてさらにその上面に編織地33を敷き、編織地の上面を低圧でプレスしながら第二ゴムシートを加硫することにより、編織地を第一ゴムシートと一体化させる第二加硫工程とを経て、滑り止め付きマットを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、玄関マットなどとして好適に使用することのできる滑り止め付きマットを製造するための滑り止め付きマットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
玄関マットなどに用いられる滑り止め付きマットとして、床面や地面などの設置面に接触する下面側の滑り止め層がゴムで形成され、上面に複数のパイルが設けられたもの(以下、「パイルタイプの滑り止め付きマット」と呼ぶことがある。)が知られている(例えば、特許文献1〜12)。パイルタイプの滑り止め付きマットは、設置面に対して動きにくいだけでなく、靴底の汚れなどを前記パイルで掻き出して除去することができるため、一般家庭や店舗などの玄関に敷かれる玄関マットを始め、様々な用途に用いられている。
【0003】
パイルタイプの滑り止め付きマットの製造方法は、いくつか提案されていが、なかでも、下型の上面に未加硫のゴムシートを敷いて、このゴムシートの上面にパイル生地を敷き、該パイル生地の上方から上型を下降させてパイル生地の上面を上型でプレスしながら下型及び/又は上型を加熱することにより、前記ゴムシートを加硫して前記ゴムシートに一体化させる製造方法が一般的となっている。下型の上面には、通常、ゴムシートの下面に滑り止め用の凸部を形成するための凹部が形成されている。
【0004】
ところが、上記の滑り止め付きマットの製造方法は、ゴムシートの下面に形成する滑り止め用の凸部の形状の選択自由度が低いという欠点があった。というのも、上記製造方法において、ゴムシートの下面に形成する滑り止め用の凸部を複雑な形状にしようとすると、ゴムシートを加硫する際にゴムシートを高圧でプレスする必要が生じるが、このように高圧でプレスすると、ゴムシートを形成する原料ゴムがパイル生地の上部まで入り込んでしまい、パイル生地のパイルがゴムシートにくっついたままで立てらなくなるという不具合が生じるからである。パイル生地のパイルが寝たままであると、滑り止め付きマットの汚れ除去性能はあまり期待できなくなる。
【0005】
これに対し、ゴムシートを加硫する際の上型の圧力を低く設定すると、ゴムシートを形成する原料ゴムがパイル生地の上部まで入り込むのを防止することはできるものの、その原料ゴムは、上型の上面に形成された凹部にまで入り込みにくくなってしまう。この傾向は、凹部が複雑な形状である場合や、凹部が深く形成されている場合に特に顕著となる。このように、上記製造方法では、複雑な形状の滑り止め用の凸部をゴムシートの下面に形成することと、パイル生地のパイルを立たせることを両立させることができず、滑り止め用の凸部の形状が簡素なものに限定される結果となっていた。したがって、上記製造方法では、得られる滑り止め付きマットの防滑性能を高めるのにも大きな制約があった。
【0006】
ところで、これまでには、上記製造方法のように、未加硫のゴムシートをパイル生地とともにプレスするのではなく、加硫後のゴムシートの上面にパイル生地を接着剤で接着することにより、滑り止め付きマットを製造する方法も提案されている。この接着剤を用いる製造方法によれば、ゴムシートの下面の滑り止め用の凸部の形成を、パイル生地の接着と独立して行うため、複雑な形状の滑り止め用の凸部を形成することと、パイル生地のパイルを立たせることとを両立させることができる。
【0007】
しかし、ゴムシートとパイル生地を接着剤で接着するパイルタイプの滑り止め付きマットは、ゴムシートとパイル生地との接着強度に難があった。特に、滑り止め付きマットを風雨にさらされる屋外で使用するような場合には、接着剤が劣化して、パイル生地がゴムシートから自然と剥離することも考えられる。
【0008】
ゴムシートの下面に形成する滑り止め用の凸部の形状の選択自由度が高くその防滑性能を容易に高めることができ、パイル生地のパイルをしっかりと立たせて優れた汚れ除去性能を発揮させることができ、パイル生地がゴムシートから剥離しにくく耐候性や耐久性にも優れた滑り止め付きマットに対する需要はあるものの、これら全ての条件を兼ね備えた滑り止め付きマットは、これまでに提案されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】実公平07−006848号公報
【特許文献2】実開平05−056059号公報
【特許文献3】特開平05−329092号公報
【特許文献4】特開平05−245098号公報
【特許文献5】特開平08−047475号公報
【特許文献6】特表平10−509341号公報
【特許文献7】特開平08−215131号公報
【特許文献8】特開平10−225423号公報
【特許文献9】特開2000−070107号公報
【特許文献10】特開2000−350696号公報
【特許文献11】特開2005−237800号公報
【特許文献12】特許第4356082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その下面に形成する滑り止め用の凸部の形状の選択自由度が高く、その防滑性能を容易に高めることができるだけでなく、パイル生地のパイルをしっかりと立たせて優れた汚れ除去性能を発揮させることができ、さらには、パイル生地がゴムシートから剥離しにくく耐候性や耐久性にも優れた滑り止め付きマットを製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、[1]未加硫の第一ゴムシートを下型にセットして上型を下降させ、第一ゴムシートの上面を高圧でプレスしながら加硫することにより、第一ゴムシートの下面に滑り止め用の凸部を形成する第一加硫工程と、[2]第一加硫工程を終えた第一ゴムシートにおける上面に未加硫の第二ゴムシートを敷いてさらにその上面に編織地(パイル生地の上位概念)を敷き、編織地の上面を低圧でプレスしながら第二ゴムシートを加硫することにより、編織地を第一ゴムシートと一体化させる第二加硫工程と、を経ることを特徴とする滑り止め付きマットの製造方法を提供することによって解決される。
【0012】
ここで、第一加硫工程における「高圧でプレス」という記載と、第二加硫工程における「低圧でプレス」という記載は、あくまで相対的な記載であり、第一加硫工程におけるプレス圧力(第一加硫圧力)が、第二加硫工程におけるプレス圧力(第二加硫圧力)よりも高いということを示しているに過ぎない。このように、二段階でプレス(加硫)を行うことにより、複雑な形状の滑り止め用の凸部を形成するだけでなく、第一ゴムシートや打にゴムシートを形成する原料ゴムが編織地の上部まで入り込まないようにすることが可能になる。したがって、滑り止め効果が高いだけでなく、足裏に付着した汚れや水分を確実に除去することのできる滑り止め付きマットを提供することが可能になる。また、編織地は、第二ゴムシートを加硫することにより第一ゴムシートに一体化されるので、編織地が第一ゴムシートから剥離しにくく、耐候性や耐久性に優れた滑り止め付きマットを提供することも可能になる。
【0013】
本発明の滑り止め付きマットの製造方法において、第一加硫圧力の具体的な値は、第一ゴムシートに使用するゴムの種類や、第一ゴムシートの寸法などによっても異なり、特に限定されない。しかし、第一加硫圧力を低くしすぎると、第一ゴムシートの下面に複雑な形状の凸部を形成できなくなるおそれがある。このため、第一加硫圧力は、通常、5MPa以上とされる。第一加硫圧力は、8MPa以上とすると好ましく、10MPa以上とするとより好ましい。一方、第一加硫圧力を高くしすぎると、滑り止め付きマットの生産性が低下するおそれがある。このため、第一加硫圧力は、通常、30MPa以下とされる。第一加硫圧力は、25MPa以下であると好ましく、20MPa以下であるとより好ましい。
【0014】
また、第二加硫圧力は、第一加硫圧力よりも低いのであれば特に限定されない。しかし、第二加硫圧力を第一加硫圧力に近くしすぎると、二段階でプレス(加硫)を行う意義が低下する。このため、第二加硫圧力は、通常、第一加硫圧力よりも1MPa以上低く設定される。第二加硫圧力は、第一加硫圧力よりも3MPa以上低いと好ましく、5MPa以上低いとより好ましい。
【0015】
第二加硫圧力の具体的な値は、第二ゴムシートに使用するゴムの種類や、第二ゴムシートの寸法などによっても異なり、特に限定されない。しかし、第二加硫圧力を低くしすぎると、編織地が第一ゴムシートと一体化しにくくなり、編織地が第一ゴムシートから剥がれやすくなるおそれがある。このため、第二加硫圧力は、通常、1MPa以上とされる。第二加硫圧力は、1.5MPa以上であると好ましく、2MPa以上であるとより好ましい。一方、第二加硫圧力を高くしすぎると、第二加硫工程の際に、第二ゴムシートを形成する未加硫状態のゴムが編織地の上部まで入り込んでしまうおそれがある。このため、第二加硫圧力は、通常、10MPa以下とされる。第二加硫圧力は、5MPa以下であると好ましく、4MPa以下であるとより好ましい。
【0016】
本発明の製造方法において、使用する編織地の種類は、汚れや水分などを除去できるものであれば特に限定されないが、パイル生地であると好ましい。ここで、「パイル生地」とは、少なくとも片面に輪奈(ループパイル)や毛羽(カットパイル)が形成された編織地のことをいう。このように、滑り止め付きマットの上面を形成する編織地をパイル生地とすることにより、滑り止め付きマットを汚れや水分などをさらに除去しやすいものとして、得られた滑り止め付きマットを玄関マットなどとしてさらに好適に使用できるものとすることが可能になる。加えて、パイル生地は、その形態から、未加硫のゴムシートに強く押し付けると、未加硫のゴムがその目に入り込みやすく、本発明の構成を採用する意義も深まる。
【0017】
本発明の製造方法において、第一加硫工程で第一ゴムシートの下面に形成する凸部の高さは、製造する滑り止め付きマットの用途などによっても異なり、特に限定されない。しかし、第一ゴムシートの下面の凸部が低すぎると、本発明の製造方法を採用する意義が低下する。このため、第一ゴムシートの下面の凸部の高さは、通常、0.5mm以上とされる。第一ゴムシートの下面の凸部の高さは、0.8mm以上であると好ましく、1mm以上であるとより好ましい。一方、第一ゴムシートの下面の凸部が高すぎると、本発明の製造方法により製造された滑り止め付きマットが敷物としての用途に適さなくなるおそれがある。このため、第一ゴムシートの下面の凸部の高さは、通常、10mm以下、好ましくは7mm以下、より好ましくは5mm以下とされる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によって、その下面に形成する滑り止め用の凸部の形状の選択自由度が高く、その防滑性能を容易に高めることができるだけでなく、パイル生地のパイルをしっかりと立たせて優れた汚れ除去性能を発揮させることができ、さらには、パイル生地がゴムシートから剥離しにくく耐候性や耐久性にも優れた滑り止め付きマットを製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】未加硫の第一ゴムシートを下型にセットした状態を、第一ゴムシートに垂直な平面で切断した断面図である。
【図2】図1の状態から上型を下降させ、第一ゴムシートを上型で高圧プレスしながら加硫している状態(第一加硫工程)を、第一ゴムシートに垂直な平面で切断した断面図である。
【図3】図2の状態から上型を上昇させ、第一加硫工程を終了させた状態を、第一ゴムシートに垂直な平面で切断した断面図である。
【図4】図3の状態の第一ゴムシートの上面に未加硫の第二ゴムシートを敷いた状態を、第一ゴムシートに垂直な平面で切断した断面図である。
【図5】図4の状態の第二ゴムシートの上面に編織地を敷いた状態を、第一ゴムシートに垂直な平面で切断した断面図である。
【図6】図5の状態から上型を下降させ、編織地の上面を上型で低圧プレスしながら第二ゴムシートを加硫している状態(第二加硫工程)を、第一ゴムシートに垂直な平面で切断した状態を示した断面図である。
【図7】図6の状態から上型を上昇させ、第二加硫工程を終了させた状態を、第一ゴムシートに垂直な平面で切断した断面図である。
【図8】本発明の製造方法により製造された滑り止め付きマットを、該滑り止め付きマットに垂直な平面で切断した状態を示した断面図である。
【図9】本発明の製造方法により製造された滑り止め付きマットの下面を拡大して示した底面図である。
【図10】図9における一の凸部の周辺をさらに拡大して示した底面図である。
【図11】本発明の製造方法により製造された滑り止め付きマットの下面に形成された一の滑り止め用の凸部を該凸部に垂直な平面で切断した状態を示した断面図である。
【図12】本発明の別の実施態様の製造方法により製造された滑り止め付きマットの下面を拡大して示した底面図である。
【図13】図12における一の凸部の周辺をさらに拡大して示した底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
0.滑り止め付きマットの製造方法の概要
本発明の滑り止め付きマットの製造方法の好適な実施態様について、図面を用いてより具体的に説明する。本発明の滑り止め付きマットの製造方法は、第一加硫工程と第二加硫工程の2つの加硫工程を経て、滑り止め付きマット30(図8を参照)を製造するものとなっている。第一加硫工程と第二加硫工程について、順次詳しく説明する。
【0021】
1.第一加硫工程
第一加硫工程は、次のように行う。まず、図1に示すように、未加硫の第一ゴムシート31を下型10にセットする。図1は、未加硫の第一ゴムシート31を下型10にセットした状態を、第一ゴムシート31に垂直な平面で切断した断面図である。下型10の上面には、第一ゴムシート31の下面に滑り止め用の凸部31a(図2を参照。)を形成するための複数の凹部11が形成されている。下型10は、熱伝導性に優れた金属によって形成されており、その温度を容易に高めることができるようになっている。
【0022】
下型10に形成されたそれぞれの凹部11は、第一ゴムシート31の下面に設けられる凸部31a(図8を参照)を反転させた形状となる。第一ゴムシート31の下面に設ける凸部31aの形状は、滑り止め効果を奏するのであれば特に限定されない。それぞれの凸部31aの下面形状(凸部31aにおける敷設面(地面や床面など)に接触する面の形状)は、得られる滑り止め付きマットの用途などに応じて適宜決定される。それぞれの凸部31aの下面形状としては、三角形や四角形などの多角形のほか、円形や楕円形や勾玉形など、少なくともその辺の一部が曲線により形成された非多角形などが例示される。複数の凸部31は、点状に設けてもよいし、線状(直線状や曲線状)に設けてもよい。凸部31を線状に形成する場合には、それぞれの線状の凸部を複数方向に交差させてマトリックス状に設けてもよい。
【0023】
本実施態様の製造方法においては、図9と図10に示すように、その下面形状が略V字状の凸部31aが繰り返し設けられた滑り止め付きマット30を製造する。図9は、本発明の製造方法により製造された滑り止め付きマット30の下面を拡大して示した底面図である。図10は、図9における一の凸部31aの周辺をさらに拡大して示した底面図である。それぞれの凸部31aは、同じ向きで配された複数の凸部31aからなるいずれかの凸部列に属している。一の凸部列は、該一の凸部列と隣り合う他の凸部列と逆を向けて形成している。これにより、滑り止め付きマット30を複数方向での防滑性能に優れたものとすることが可能になる。また、隣り合う凸部31aの間に形成した隙間は、全て連続させている。これにより、滑り止め付きマット30とマット敷設面との間に水などが溜まらないようにすることが可能となっている。この構成は、水のかかる場所(屋外や浴室やプールなど)で滑り止め付きマット30を使用する場合に好適である。
【0024】
それぞれの凸部31aの屈曲角度θ(図10を参照)は、0°よりも大きく、180°よりも小さければ特に限定されない。しかし、屈曲角度θを小さくしすぎると、凸部31aの屈曲部が防滑に効きにくくなるおそれがあるし、凸部31aの隙間に水が溜まりやすくなるおそれもある。このため、屈曲角度θは、通常、30°以上とされる。屈曲角度θは、40°以上であると好ましく、50°以上であるとより好ましい。一方、屈曲角度θを大きくしすぎると、凸部31aの強度が低下するおそれがあるし、凸部31aの長手方向での防滑性能が低下するおそれもある。このため、屈曲角度θは、通常、150°以下とされる。屈曲角度θは、140°以下であると好ましく、130°以下であるとより好ましい。
【0025】
また、本実施態様の製造方法においては、図11に示すように、凸部31aの付根近傍の一対の側壁αを傾斜して形成する。図11は、本発明の製造方法により製造された滑り止め付きマット30の下面に形成された一の滑り止め用の凸部31aを凸部31aに垂直な平面で切断した状態を示した断面図である。このように、凸部31aの付根付近の側壁αを傾斜して形成することにより、凸部31aの付根付近の断面係数を増加させ、凸部31aの強度を高めることが可能となる。凸部31aの付根付近の一対の側壁αの傾斜角度φ(図11を参照)は、特に限定されないが、小さくしすぎても、大きくしすぎても、凸部31aの強度を高める効果が低くなる。このため、傾斜角度φは、通常、10〜80°とされる。傾斜角度φは、20〜70°であると好ましく、30〜60°であるとより好ましい。
【0026】
ところで、第一ゴムシート31の下面に設ける凸部31aの下面形状を略V字状とする場合には、図9に示す配置のほか、図12と図13に示すように、N個(図12と図13の例では6個)の凸部31aがN回の回転対称(図12と図13の例では6回の回転対称)に配された凸部群を繰り返し設けることも好ましい。図12は、本発明の別の実施態様の製造方法により製造された滑り止め付きマット30の下面を拡大して示した底面図である。図13は、図12における一の凸部31aの周辺をさらに拡大して示した底面図である。これにより、凸部31aをさらに多方向(N方向)に向けて、滑り止め付きマット30をさらに多方向での防滑性能に優れた者とすることが可能になる。Nの値は、特に限定されないが、通常、3〜10、好ましくは、4〜8とされる。隣り合う凸部31aの間に形成した隙間が全て連続している点や、凸部31aの付根近傍の一対の側壁が傾斜して形成されている点などは、図9に示したもの(図11を参照)と同様である。この構成も、水のかかる場所で滑り止め付きマット30を使用する場合に好適である
【0027】
第一加硫工程において、下型10にセットする未加硫の第一ゴムシート31は、原料ゴムを素練りして混練りしたものをシート状に成形することにより得られる。使用する原料ゴムとしては、ニトリル系ゴム、ポリブタジエン系ゴム又はクロロプレン系ゴムなどの合成ゴムのほか、天然ゴムを使用することもできる。合成ゴムとしては、ニトリルゴム(NBR)、アクリルゴム(ACM)、イソプレンゴム(IR)、ウレタンゴム(U)、エチレンプロピレンゴム(EPM)、エピクロルヒドリンゴム(CO)、クロロプレンゴム(CR)、シリコーンゴム(Q)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)フッ素ゴム(FKM)、ポリイソブチレンゴム(IIR)などが例示される。本実施態様の製造方法においては、耐摩耗性、引き裂き強度、耐油性に優れ、価格も手頃なニトリルゴムを第一ゴムシート31の原料ゴムとしている。原料ゴムを混練りする際には、素練りした原料ゴムに、補強剤(カーボンブラックやホワイトカーボン)を添加する。補強剤は、通常、原料ゴム100重量部に対して30〜60重量部添加する。原料ゴムには、補強剤のほか、加硫剤や充填剤や促進剤や可塑剤などの添加剤を別途加えてもよい。
【0028】
第一ゴムシート31の平面視形状及び寸法は、特に限定されない。第一ゴムシート31の形状及び寸法は、製造する滑り止め付きマットの用途などに応じて適宜決定される。例えば、一般家庭の玄関先に敷設する玄関マットを製造する場合には、第一ゴムシート31の平面視形状は、通常、長辺、長軸又は直径の長さが30〜200cm程度の矩形状、楕円形状(半楕円形状を含む。)又は円形状(半円形状を含む。)とされる。意匠性に優れた滑り止め付きマットを得たい場合には、星形状など、他の形状を選択することもできる。本実施態様の製造方法において、第一ゴムシート31の平面視形状は、長辺の長さが80〜240cmで短辺の長さが60〜150cmの矩形状としている。後述する第二ゴムシート32の平面視形状も、第一ゴムシート31と同じ寸法の矩形状としている。
【0029】
また、第一ゴムシート31の厚さ(第一ゴムシート31を加硫する前の厚さ)は、その下面に形成する凸部の高さなどによって異なり、特に限定されない。しかし、第一ゴムシート31を薄くしすぎると、第一ゴムシート31の下面に滑り止め用の凸部を高く形成できなくなる。このため、第一ゴムシート31の厚さは、通常、その下面に形成する凸部の高さに0.3mmを加えた値以上とされる。第一ゴムシートの厚さは、その下面に形成する凸部の高さに0.5mmを加えた値以上とすると好ましく、該凸部の高さに0.7mmを加えた値以上とすると好ましい。一方、第一ゴムシート31を厚くしすぎると、得られる滑り止め付きマットも厚くなり、玄関マットなどの滑り止め付きマットとしての使用に適さなくなるおそれがある。このため、第一ゴムシート31の厚さは、通常、4mm以下とされる。第一ゴムシート31の厚さは、3mm以下であると好ましく、2.5mm以下であるとより好ましい。本実施態様の製造方法において、第一ゴムシート31の厚さは2mmとなっている。
【0030】
続いて、図2に示すように、上型20を下降させ、第一ゴムシート31の上面を高圧でプレスしながら、下型10と上型20を図示省略のヒーターなどで加熱し、第一ゴムシート31を加硫する。図2は、図1の状態から上型20を下降させ、第一ゴムシート31を上型20で高圧プレスしながら加硫している状態(第一加硫工程)を、第一ゴムシート31に垂直な平面で切断した断面図である。上型20は、下型10と同様、熱伝導性に優れた金属によって形成されており、その温度を容易に高めることができるようになっている。本実施態様の製造方法において、第一ゴムシート31を上型20で押圧する際のプレス圧力(第一加硫圧力)は、15MPaとしている。このように、第一ゴムシート31を高圧プレスしながら加硫することにより、第一ゴムシート31の下面に滑り止め用の凸部31aを形成することができる。
【0031】
第一ゴムシート31を加硫する際の温度(第一加硫温度)は、第一ゴムシート31に用いた原料ゴムや、それに添加した加硫剤の種類などによって異なり、特に限定されない。しかし、第一加硫温度を低くしすぎると、第一ゴムシート31が十分に加硫しなくなるおそれがある。加えて、第一ゴムシート31を長時間に亘って加硫しなければならなくなり、滑り止め付きマット30(図8を参照)の生産性が低下するおそれがある。このため、第一加硫温度は、通常、120℃以上とされる。第一加硫温度は、130℃以上であると好ましく、140℃以上であるとより好ましい。一方、第一加硫温度を高くしすぎると、第一ゴムシート31を加硫する時間を短くできるものの、加硫後の第一ゴムシート31の強度が低下するおそれがある。このため、第一加硫温度は、通常、200℃以下とされる。第一加硫温度は、180℃以下であると好ましく、160℃以下であるとより好ましい。本実施態様の製造方法において、第一加硫温度は150℃としている。
【0032】
また、第一ゴムシート31を加硫する時間(第一加硫時間)は、第一ゴムシート31の厚さや、第一ゴムシート31に用いた原料ゴムや、それに添加した加硫剤なの種類などによって異なり、特に限定されない。しかし、第一加硫時間を短くしすぎると、第一ゴムシート31が十分に加硫しないおそれがある。このため、第一加硫時間は、通常、2分以上とされる。第一加硫時間は、3分以上であると好ましく、4分以上であるとより好ましい。一方、第一加硫時間を長くしすぎると、滑り止め付きマットの生産性が低下してしまう。このため、第一加硫時間は、通常、15分以下とされる。第一加硫時間は、10分以下であると好ましく、8分以下であるとより好ましい。本実施態様の製造方法において、第一加硫時間は6分としている。
【0033】
第一加硫シート31の加硫を終えると、図3に示すように、上型20を初期位置まで上昇させ、第一加硫工程が完了する。図3は、図2の状態から上型20を上昇させ、第一加硫工程を終了させた状態を、第一ゴムシート31に垂直な平面で切断した断面図である。第一加硫工程が完了すると、以下の第二加硫工程を開始する。
【0034】
2.第二加硫工程
第二加硫工程は、次のように行う。まず、図4に示すように、第一加硫工程を終えた第一ゴムシート31における上面に未加硫の第二ゴムシート32を敷く。図4は、図3の状態の第一ゴムシート31の上面に未加硫の第二ゴムシート32を敷いた状態を、第一ゴムシート31に垂直な平面で切断した断面図である。未加硫の第二ゴムシート32は、第一ゴムシート31と同様、原料ゴムを素練りして混練りしたものをシート状に成形することにより得られる。第二ゴムシート32を形成する原料ゴムとしては、第一ゴムシート31で挙げたものと同様のものを採用することができる。本実施態様の製造方法においては、第二ゴムシート32を形成する原料ゴムとして、第一ゴムシート31と同じニトリルゴムを使用している。原料ゴムを混練りする際には、素練りした原料ゴム100重量部に対して30〜60重量部の補強剤を添加している。第二ゴムシート32を形成する原料ゴムに、加硫剤や充填剤や促進剤や可塑剤などの添加剤を別途加えてもよい点についても、第一ゴムシート31と同様である。
【0035】
第二ゴムシート32の平面視形状は、後述する編織地33(図4を参照)よりも広いのであれば特に限定されないが、通常、第一ゴムシート31と同じか、第一ゴムシート31よりも一回り小さな形状とされる。本実施態様の製造方法において、第二ゴムシート32の平面視形状は、長辺の長さが80〜240cmで短辺の長さが60〜150cmの矩形状となっており、第一ゴムシート31と同一となっている。
【0036】
第二ゴムシート32の厚さ(第二ゴムシート32を加硫する前の厚さ)は、第二ゴムシート32を形成する原料ゴムの種類や、後述する編織地33(図4を参照)などによっても異なり、特に限定されない。しかし、第二ゴムシート32を薄くしすぎると、後述する編織地33が第一ゴムシート31に一体化ににくくなるおそれがある。また、第二ゴムシート32が破れやすくなったり、第二ゴムシート32を第一ゴムシート31の上面に綺麗に敷きにくくなったりなどの不具合が生ずるおそれもある。このため、第二ゴムシート32の厚さは、通常、0.3mm以上とされる。第二ゴムシート32の厚さは、0.4mm以上であると好ましく、0.5mm以上であるとより好ましい。
【0037】
一方、第二ゴムシート32を厚くしすぎると、第二ゴムシート32を加硫する際に、第二ゴムシート32を形成する原料ゴムが編織地33の上部まで入り込むおそれがある。すなわち、編織地33をパイル生地とした場合には、そのパイルが第二ゴムシート32にくっついてしまい、立ち上がらなくなるおそれがある。また、得られる滑り止め付きマット30(図8を参照)も厚くなり、玄関マットなどの滑り止め付きマットとしての使用に適さなくなるおそれがある。このため、第二ゴムシート32の厚さは、通常、3mm以下とされる。このため、第二ゴムシート32の厚さは、通常、3mm以下とされる。第二ゴムシートの厚さは、2mm以下であると好ましく、1.5mm以下であるとより好ましい。本実施態様の製造方法において、第二ゴムシート32の厚さは1mmとしている。
【0038】
続いて、図5に示すように、第二ゴムシート32の上面に編織地33を敷く。図5は、図4の状態の第二ゴムシート32の上面に編織地33を敷いた状態を、第一ゴムシート31に垂直な平面で切断した断面図である。この編織地33は、滑り止め付きマット30の上面を形成するものであり、滑り止め付きマット30に汚れ除去機能を与える。本実施態様の製造方法において、編織地33は、パイル生地としており、得られる滑り止め付きマット30を玄関マットなどの各種マットとして使用できるものとしている。以下においては、説明の便宜上、「編織地」を「パイル生地」と表記する。パイル生地33におけるパイルは、靴裏の汚れや水分を除去する。パイル生地33のパイルは、カットパイルとしてもよいが、本実施態様の製造方法においてはループパイルとしている。
【0039】
パイル生地33を編織する糸の種類は、滑り止め付きマット30の用途に応じて適宜決定される。パイル生地33を編織する糸としては、後述する第二加硫温度において変質しない各種のものを採用することができる。パイル生地33を編織する糸には、天然繊維を用いることもできるが、ポリエステル系合成繊維やポリアミド系合成繊維などの化学繊維を用いると、パイル生地33を強度と耐久性に優れたものとすることができる。また、パイル生地33を編織する糸には、捲縮加工の施されていない糸を使用してもよいが、本実施態様の製造方法においては、捲縮加工の施された捲縮糸でパイル生地33を形成している。これにより、パイル生地33のパイルの復帰弾性を向上させて該パイルが寝たままとならないようにするだけでなく、パイル生地33のクッション性を高めることも可能になる。また、捲縮糸は、縮れている分、通常の糸よりも原料ゴムが入り込みやすいため、捲縮糸で編織したパイル生地33を使用する場合には、本発明の構成を採用する意義も深まる。
【0040】
パイル生地33のパイルの高さ(加硫後の第二ゴムシート32の上面からパイルの最高点までの高さ)は、特に限定されないが、低くしすぎると、パイルで汚れを除去できなくなるおそれがある。このため、パイル生地33のパイルの高さは、通常、0.5mm以上とされる。パイル生地33のパイルの高さは、1mm以上であると好ましく、1.5mm以上であるとより好ましく、2mm以上であるとさらに好ましい。一方、パイル生地33のパイルを高くしすぎると、得られる滑り止め付きマット30が厚くなり、玄関マットなどの滑り止め付きマットとしての使用に適さなくなるおそれがある。また、第二加硫工程において、後述する上型20の押圧力が第二ゴムシート32に均一に伝わらなくなるおそれもある。このため、パイル生地33のパイルの高さは、通常、30mm以下とされる。パイル生地33のパイルの高さは、20mm以下であると好ましく、15mm以下であるとより好ましく、10mm以下であるとさらに好ましい。本実施態様の製造方法において、パイル生地33のパイルの高さは約5mmとなっている。
【0041】
続いて、図6に示すように、上型20を下降させ、パイル生地33の上面を低圧でプレスしながら、下型10と上型20を図示省略のヒーターなどで加熱し、第二ゴムシート32を加硫する。図6は、図5の状態から上型20を下降させ、編織地33の上面を上型で低圧プレスしながら第二ゴムシート32を加硫している状態(第二加硫工程)を、第一ゴムシート31に垂直な平面で切断した状態を示した断面図である。本実施態様の製造方法において、第二ゴムシート32を加硫する際(上型20でパイル生地33を押圧する際)のプレス圧力(第二加硫圧力)は、3MPaとしている。このように、第二ゴムシート32を低圧プレスしながら加硫することにより、第二ゴムシート32を形成する原料ゴムをパイル生地33のパイル部分の深くまで入り込ませることなく、パイル生地33を第一ゴムシート31に一体化させることが可能となる。したがって、パイル生地33のパイルがしっかりと立ち、汚れ除去効果の高い滑り止め付きマット30を得ることが可能になる。
【0042】
ところで、第二ゴムシート32を加硫する際の温度(第二加硫温度)は、第二ゴムシート32に用いた原料ゴムや、それに添加した加硫剤の種類などによって異なり、特に限定されない。しかし、第二加硫温度を低くしすぎると、第二ゴムシート32が十分に加硫しなくなるおそれがある。加えて、第二ゴムシート32を長時間に亘って加硫しなければならなくなり、滑り止め付きマット30の生産性が低下するおそれがある。一方、第二加硫温度を高くしすぎると、第二ゴムシート32を加硫する時間を短くできるものの、加硫後の第二ゴムシート32の強度が低下して、パイル生地33が第一ゴムシート31から剥離しやすくなるおそれがある。このため、第二加硫温度は、既に述べた第一加硫温度と同様の範囲に設定される。本実施態様の製造方法において、第二加硫温度は150℃としている。
【0043】
また、第二ゴムシート32を加硫する時間(第二加硫時間)は、第二ゴムシート32の厚さや、第二ゴムシート32に用いた原料ゴムや、それに添加した加硫剤なの種類などによって異なり、特に限定されない。しかし、第二加硫時間を短くしすぎると、第二ゴムシート32が十分に加硫しないおそれがある。一方、第二加硫時間を長くしすぎると、滑り止め付きマット30の生産性が低下してしまう。このため、第二加硫時間は、既に述べた第二加硫時間と同様の範囲に設定される。本実施態様の製造方法において、第二加硫時間は6分としている。
【0044】
第二加硫シート32の加硫を終えると、図7に示すように、上型20を初期位置まで上昇させ、第二加硫工程が完了する。図7は、図6の状態から上型20を上昇させ、第二加硫工程を終了させた状態を、第一ゴムシート31に垂直な平面で切断した断面図である。得られた滑り止め付きマット30は、冷却して梱包後、そのまま出荷してもよいが、第二加硫工程が完了した直後は、パイル生地33のパイルは上型20に押し潰された状態となっているので、パイル生地33の上面をブラッシングするなどして、そのパイルを起こす起毛加工を行ってもよい。図8は、本発明の製造方法により製造された滑り止め付きマット30を、滑り止め付きマット30に垂直な平面で切断した状態を示した断面図である。
【0045】
3.用途
本発明の製造方法で製造した滑り止め付きマット30は、各種マットとして利用することができる。なかでも、玄関マット、ダストコントロールマット、防塵用マット、吸水マット、給油マットなど、地面や床に置かれて、靴裏や足裏の水分や汚れなどを除去するマットとして好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0046】
10 下型
11 凹部
20 上型
30 滑り止め付きマット
31 第一ゴムシート
31a 凸部
32 第二ゴムシート
33 パイル生地(編織地)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
未加硫の第一ゴムシートを下型にセットして上型を下降させ、第一ゴムシートの上面を高圧でプレスしながら加硫することにより、第一ゴムシートの下面に滑り止め用の凸部を形成する第一加硫工程と、
第一加硫工程を終えた第一ゴムシートにおける上面に未加硫の第二ゴムシートを敷いてさらにその上面に編織地を敷き、編織地の上面を低圧でプレスしながら第二ゴムシートを加硫することにより、編織地を第一ゴムシートと一体化させる第二加硫工程と、
を経ることを特徴とする滑り止め付きマットの製造方法。
【請求項2】
第一加硫工程におけるプレス圧力を5〜30MPaとし、第二加硫工程におけるプレス圧力を1〜10MPaとするとともに、第二加硫工程におけるプレス圧力を第一加硫工程におけるプレス圧力よりも1MPa以上低くする請求項1記載の滑り止め付きマットの製造方法。
【請求項3】
編織地が、上面にパイルが形成されたパイル生地である請求項1又は2記載の滑り止め付きマットの製造方法。
【請求項4】
第一加硫工程で第一ゴムシートの下面に形成する凸部の高さを0.5〜10mmとした請求項1〜3いずれか記載の滑り止め付きマットの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−34929(P2012−34929A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−179254(P2010−179254)
【出願日】平成22年8月10日(2010.8.10)
【特許番号】特許第4825922号(P4825922)
【特許公報発行日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(592160607)日進ゴム株式会社 (7)
【Fターム(参考)】