説明

潤滑剤組成物

【課題】樹脂部材同士(樹脂−樹脂)又は樹脂部材と金属部材(樹脂−金属)の摺動部分に好適に用いることが可能な潤滑剤組成物を提供する。
【解決手段】パーフルオロポリエーテル油を基油とし、かつ、組成物全体に対して、1〜20質量%のメラミンシアヌレートを含有することを特徴とする、樹脂−樹脂又は樹脂−金属摺動用潤滑剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑剤組成物に関し、より詳細には、樹脂部材同士(樹脂−樹脂)又は樹脂部材と金属部材(樹脂−金属)の摺動部分に好適に用いることが可能な潤滑剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、種々の部材同士の摺動性を向上させることを目的として、基油を含んだ潤滑剤組成物が多用されている。特に基油としてフッ素系ポリマーを含有する潤滑剤組成物は、フッ素原子と炭素原子との結合エネルギーの方が、炭素原子と、水素原子、酸素原子又は塩素原子とのそれと比べて格段に大きいため化学的に安定であり、また、流動点も低いことから、高温から低温までの幅広い温度領域で使用されている。
【0003】
この様なものとして、特許文献1には、転がり軸受け用として好適なグリース組成物であって、基油としてパーフルオロポリエーテル油を含有し、増ちょう剤としてグリース組成物の全量に対して少なくとも10質量%のメラミンシアヌレートを含有するグリース組成物が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、パーフルオロポリエーテルと、有機超微粒子(超微粒子ポリマー)を含有する潤滑剤組成物が開示されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、パーフルオロポリエーテル基油に、増ちょう剤として脂肪族ジカルボン酸金属塩、モノアミドモノカルボン酸金属塩又はモノエステルカルボン酸金属塩の少なくとも一種を添加することによって、耐摩耗性、耐漏洩性、洗浄性などに優れ、さらにコスト的にも優れたフッ素系グリースが開示されている。
【0006】
一方、近年、自動車部品、家電製品、電子情報機器、OA機器などで、軽量化、低コスト化を追求した結果として、歯車や摺動部材として樹脂部材が使用されることが多くなってきている。
【0007】
樹脂部材同士又は樹脂部材と金属部材の摺動部分に好適に用いることが可能な潤滑剤組成物としては、特許文献4に、ポリ−α−オレフィン等の基油、増ちょう剤、固体潤滑剤としてメラミンシアヌレート(MCA)と、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含み、該MCAと該PTFEの合計の配合量が全グリース重量に対して0.1〜25wt%の範囲であり、MCAとPTFEの配合比率が、MCA/PTFE(重量比)=0.05〜50の範囲であることを特徴とし、潤滑機能(低い動摩擦係数)と共に静止機能(高い静摩擦係数)を併せ持つ潤滑グリース組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−232921号公報
【特許文献2】特開平11−246886号公報
【特許文献3】特開2001−354986号公報
【特許文献4】特開2009−13351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献4は、基油としてポリ−α−オレフィンを使用するものであり、基油としてフッ素系ポリマーを含有する潤滑剤組成物の十分な潤滑性能(動摩擦係数の低減)を実現するものは未だ提供されていないのが実情であった。
【0010】
そこで本発明が解決しようとする課題は、基油としてフッ素系ポリマーを含有する潤滑剤組成物において、樹脂部材同士(樹脂−樹脂)又は樹脂部材と金属部材(樹脂−金属)の摺動において優れた潤滑性能を発揮することが可能な潤滑剤組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の潤滑剤組成物を提供する。
(1)直鎖構造のパーフルオロポリエーテル油を含む基油と、メラミンシアヌレートとを含有する樹脂−樹脂又は樹脂−金属摺動用潤滑剤組成物であって、メラミンシアヌレートの含有量が、前記基油及びメラミンシアヌレートの合計量に対して、1〜20質量%の範囲内であることを特徴とする潤滑剤組成物。
(2)メラミンシアヌレートの含有量が、基油及びメラミンシアヌレートの合計量に対して、5〜12質量%の範囲内である(1)に記載の潤滑剤組成物。
(3)前記パーフルオロポリエーテル油が、−(CFO)−で表される繰り返し単位を有さない、(1)又は(2)に記載の潤滑剤組成物。
(4)前記パーフルオロポリエーテル油が、以下の一般式(i)で表される、(1)〜(3)いずれかに記載の潤滑剤組成物。
F(CFCFCFO)CFCF (i)
(ただし、上記式(i)中、nは2〜200の数を意味する。)
(5)前記パーフルオロポリエーテル油の200℃100時間での蒸発損失率が10質量%以下である、(1)〜(4)いずれかに記載の潤滑剤組成物。
(6)一方向運動の摺動部に使用される、(1)〜(5)いずれかに記載の潤滑剤組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、樹脂部材同士(樹脂−樹脂)又は樹脂部材と金属部材(樹脂−金属)の摺動において、優れた潤滑性能を発揮する潤滑剤組成物を提供することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る潤滑剤組成物は、直鎖構造のパーフルオロポリエーテル油を含む基油と、メラミンシアヌレートとを含有する樹脂−樹脂又は樹脂−金属摺動用潤滑剤組成物であって、メラミンシアヌレートの含有量が、前記基油及びメラミンシアヌレートの合計量に対して、1〜20質量%の範囲内であることを特徴とする。以下、本発明に係る潤滑剤組成物の成分毎に詳細に説明する。
[基油]
本発明において、基油は、直鎖構造のパーフルオロポリエーテル油を含むものである。
【0014】
直鎖構造のパーフルオロポリエーテル油としては、特に制限されるものではなく、通常公知のものを好適に使用することが出来る。本発明では、以下のパーフルオロポリエーテル油(PFPE)を用いることが可能である。
・F(CFCFCFO)CFCF (i)
(式(i)中、nは、2〜200の整数を意味する。)
一般式(i)で表されるパーフルオロポリエーテル油は、例えば、2,2,3,3−テトラフルオロオキセタンを、フッ化セシウム等のフルオライドイオン供給体を触媒としてアニオン重合させることにより、フッ化アシル基を含有し、−(CHCFCFO)−を構成単位とするポリエーテルを得た後、該ポリエーテルを紫外線照射下に約160〜300℃でフッ素ガス処理することによって得ることが出来る(Y.Ohsaka,Petrotech,8,840(1985)、Y.Ohsaka,T.Tozuka and S.Takaki(Daikin),Eur.Pat:Appl.148482(1985)等参照。)。式(i)で表されるパーフルオロポリエーテル油としては、PFPE−Dとして上市されているものがあり、より詳細には、デムナム(ダイキン工業社製)などがあげられる。
【0015】
・RfO[CFCFO]Rf (ii)
(式(i)中、mは、2〜200の数を意味し、Rf及びRfは、それぞれ独立に炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を意味する。)
式(ii)で表されるパーフルオロポリエーテル油は、例えば、低温下でテトラフルオロエチレンオキサイドを、フッ化セシウム等のフルオライドイオン供給体を触媒としてアニオン重合させ、次いで、得られた末端−CFXCOF基を有する酸フルオライド化合物をフッ素ガスで処理することにより(下記式(I)及び(II)参照)、製造される(W.H.Gumprecht,ASLE Trans.,924(1966)、J.T.Hill,J.Macromol.Sci.Chem.,A8,499(1974)等参照)。なお、炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基としては、パールフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルフルオロペンチル基などがあげられる。これらのうち、パーフルオロメチル基、パーフルオロエチル基が好ましい。
【0016】
【化1】

【0017】
・RfO(CFCFO)(CFO)Rf (iii)
(式(ii)中、k及びlは、k+l=3〜200を満たす数を意味し、Rf及びRfは、それぞれ独立に炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を意味する。特に、k:l=10:90〜90:10でランダム結合しているものが好ましい。)
式(iii)で表されるパーフルオロポリエーテル油は、例えば、紫外光により触媒化されたテトラフルオロエチレンと酸素とを反応させ、次いで、得られた中間生成物のポリパーオキサイドを還元して酸フルオライドを有するポリエーテルとした後、紫外線照射下にフッ素化処理することにより(下記反応式(III)参照)、得ることが出来る(D.Sianesi,A.Pasetti,C.Corti,Makromol.Chem,86,308(1965)等参照)。具体例としては、PFPE−Zとして上市されているものがあり、より詳細には、Fomblin M(Solvay Solexis社製)などがあげられる。なお、炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基としては、上記と同様のものがあげられる。
【0018】
【化2】

【0019】
本発明においては、上記パーフルオロポリエーテル油を、単独で使用しても良く、複数種を混合して用いても良いが、耐熱性の観点から、−(CFO)−で表される繰り返し単位を有さないものが好適であり、一般式(i)で表されるパーフルオロポリエーテル油が特に好適である。また、パーフルオロポリエーテル油の蒸発率(200℃、100時間)は、好ましくは30質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。蒸発量が30質量%より多いと、パーフルオロポリエーテル油が気体となって系外へ移動してしまい、潤滑剤としての機能が低下してしまうおそれがある。また、パーフルオロポリエーテル油の動粘度(40℃)としては、特に制限されないが、通常10〜2000mm/秒、好ましくは10〜1500mm/秒の範囲内である。動粘度が10mm/秒未満であると気化が容易となって系外に離散し易くなり、2000mm/秒を超えると、流動性が悪くなって摺動部への自己供給が困難になり、潤滑性能不足となるおそれがある。
【0020】
また、本発明に使用される基油は、本発明の目的を害しない範囲で、パーフルオロポリエーテル油以外の油性成分を含むことが出来る。併用可能な油性成分としては、合成炭化水素油、エステル系合成油、エーテル系合製油、グリコール系合成油から選ばれる少なくとも1種の合成油があげられる。
【0021】
合成炭化水素油としては、ポリ−α−オレフィン、エチレン−α−オレフィン共重合体、ポリブテン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンなどから選ばれる少なくとも1種を用いることが出来る。
【0022】
エステル系合成油としては、例えば、ジエステルやポリオールエステル、芳香族エステル等のエステルなどから選ばれる少なくとも1種又は2種以上の混合物を用いることが出来る。
【0023】
エーテル系合成油としては、アルキルジフェニルエーテル等などから選ばれる少なくとも1種を用いることが出来る。
【0024】
グリコール系合成油としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどから選ばれる少なくとも1種を用いることが出来る。
【0025】
上記の様な他の油性成分を併用する場合、基油中のパーフルオロポリエーテル油の含有量は、好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上である。基油中のパーフルオロポリエーテル油の含有量が80質量%未満では、基油の耐熱性が劣るおそれがある。また、上記の様な他の油性成分を併用する場合にも、基油全体の蒸発率(200℃、100時間)が、好ましくは30質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下とすることが好ましい。
【0026】
[メラミンシアヌレート]
本発明に用いるメラミンシアヌレートとしては、特に限定されるものではなく、通常公知のメラミンシアヌレートを用いることが出来る。具体的には、特公昭45−5595号公報、特公61−34430号公報、特開平5−310716号公報、及び特開平07−224049号公報等に記載されたものを好適に使用することが出来る。また、市販品としては、例えば、MCA−1(三菱化学社製)や、MC600、MC860、MC4000、MC6000(いずれも日産化学社製)などがあげられる。
【0027】
メラミンシアヌレートの平均粒子径としては、特に制限されるものではないが、0.1〜50μm、更には1〜15μmのものが好ましい。なお、ここでいう「平均粒子径」とは、レーザー回折散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置により求められた体積基準粒度分布のメディアン径(50%粒子径)である。この範囲を外れると、潤滑性能(動摩擦係数の低減効果)が低下する場合がある。
【0028】
メラミンシアヌレートの含有量としては、基油との合計量に対して1〜20質量%、さらには2.5〜15質量%、特に5〜12質量%が好ましい。メラミンシアヌレートが1質量%よりも少ないと、基油への増ちょう作用が十分ではなく、摺動系外へ基油が流出するおそれがある。また、20質量%を超えると、摩擦係数が増大してしまうおそれがある。
【0029】
[その他の成分]
本発明のグリース組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、メラミンシアヌレート以外の固体潤滑剤、酸化防止剤、極圧剤、防錆剤、腐食防止剤、粘度指数向上剤、及び油性剤等を適宜選択して添加することができる。
【0030】
メラミンシアヌレート以外の固体潤滑剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、セバシン酸ナトリウム、カーボンブラック、グラファイト、二硫化モリブデン、有機モリブデン、グラファイト、窒化ホウ素、窒化シラン等他の固体潤滑剤があげられる。但し、これらのうち、例えば、摩擦係数を上昇させるおそれのあるセバシン酸ナトリウム、カーボンブラック等は使用しないことが好ましい。
酸化防止剤としては、例えば2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)などのフェノール系酸化防止剤や、アルキルジフェニルアミン(アルキル基は炭素数4〜20のもの)、トリフェニルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、フェノチアジン、アルキル化フェニル−α−ナフチルアミン、フェニチアジン、アルキル化フェノチアジンなどのアミン系酸化防止剤などが挙げられる。
【0031】
極圧添加剤としては、例えば、酸性リン酸エステル、亜リン酸エステル、酸性リン酸エステルアミン塩などのリン系化合物、スルフィド類、ジスルフィド類などの硫黄系化合物、塩素化パラフィン、塩素化ジフェニルなどの塩素系化合物、及びジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTP)などの金属有機化合物などが挙げられる。
【0032】
防錆剤としては、例えば、脂肪酸、脂肪酸石けん、アルキルスルホン酸塩、脂肪酸アミン、酸化パラフィン、ポリオキシエチレンアルキルエーテルなどが挙げられる。
【0033】
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾールやベンゾイミダゾール、チアジアゾールなどが挙げられる。
粘度指数向上剤としては、ポリメタクリレート、エチレン-プロピレン共重合体、ポリイソブチレン、ポリアルキルスチレン、スチレン-イソプレン共重合体水素化物などが挙げられる。
油性剤としては、例えば、脂肪酸、高級アルコール、多価アルコール、多価アルコールエステル、脂肪族エステル、脂肪族アミン、脂肪酸モノグリセライドなどが挙げられる。
【0034】
なお、上記各種添加剤は、単独でも、2種以上を併用しても良い。また、これらの成分は、基油とメラミンシアヌレートの合計量100質量部に対して、0〜100質量部、更には0〜50質量部の範囲が好ましい。添加剤の配合量が100質量部を超えると、動摩擦係数の低減効果が低下する場合がある。
【0035】
本発明に係る潤滑剤組成物は、上記基油、メラミンシアヌレート、及び場合によりその他の成分を、通常の混合手段を用いて混合することにより調製することが出来る。混合手段としては、特に制限されるものではないが、3本ロール及び高圧ホモジナイザー等を好適に用いることが可能である。
【0036】
本発明の潤滑材組成物は、樹脂部材同士(樹脂−樹脂)の摺動又は樹脂部材と金属部材と(樹脂−金属)の摺動において、優れた潤滑性能を有する。なお、本発明において「樹脂」とは、「ゴム」をも含むものとする。
【0037】
本発明の潤滑剤組成物を適用することが可能なゴム以外の樹脂としては、特に制限はないが、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ABS樹脂(ABS)、ポリアセタール(POM)、ナイロン(PA)、ポリカーボネート(PC)、フェノール樹脂(PF)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等があげられる。
【0038】
ゴムとしては、特に制限されないが、ニトリルゴム(NBR)、水素添加ニトリルゴム(HNBR)、アクリルゴム(ACM)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、シリコーンゴム(VMQ)、フッ素ゴム(FKM)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、クロロプロピレンゴム(CR)、ウレタンゴム(U)、ブタジエンゴム(BR)、ブチルゴム(IIR)、イソプレンゴム(IR)などがあげられる。また、金属としては、特に制限されないが、鉄、アルミニウム、銅などがあげられる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を、実施例によりさらに詳細に説明する。なお、以下の実施例において、組成は、組成物全体に対する質量%で表されている。
(1)潤滑剤組成物の調製
パーフルオロポリエーテル油に、固体潤滑剤を配合し、3本ロール若しくは高圧ホモジナイザーを用いて十分に混練することにより、表1〜表5に記載した組成を有する潤滑剤組成物をそれぞれ調製した。
【0040】
備考)
F(CFCFCFO)2〜100:ダイキン工業社製、デムナムS200、40℃動粘度:200mm/秒、蒸発損失率(200℃、100時間):0.4質量%
RfO[CF(CF)CFO]Rf:NOKクリューバー社製、BARRIERTA J400、40℃動粘度:400mm/秒、蒸発損失率(200℃、100時間):2質量%
MCA(メラミンシアヌレート)1:日産化学工業社製、MC6000、平均粒子径D50:約2μm、D90:約9μm
MCA2:日産化学工業社製、MC4000、平均粒子径D50:13μm、D90:30μm
セバシン酸ナトリウム:豊国製油社製、SA−NA
グラファイト:日本黒鉛工業社製、CB150、平均粒子径4μm
PTFE(ポリテトラフルオロエチレン):ダイキン工業社製、ルブロンL2
【0041】
(2)潤滑剤組成物(摩擦係数)の試験方法
PIN on DISK試験機を用いて、下記の条件にて測定した30分間の動摩擦係数の平均値を摩擦係数とした。なお、潤滑剤組成物は、上部試験片(シリンダ型試験片)に5mg塗布して試験した。
【0042】
上部試験片:シリンダー型(φ10×10mm)
鉄:S45C
ポリアセタール(POM):ミスミ社製 樹脂ロッド
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE):ミスミ社製 樹脂ロッド
下部試験片:プレート型
鉄:S45C
ポリイミド(PI):東レデュポン社製 カプトン100H
試験条件 温度:130℃
荷重:600gf
すべり速度:360mm/s
試験時間:30分間
【0043】
(3)試験結果
鉄(S45C)及び鉄(S45C)の摺動について動摩擦係数を測定した結果を表1に、ポリアセタール(POM)及びポリイミド(PI)の摺動について動摩擦係数を測定した結果を表2及び表3に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)及びポリイミド(PI)の摺動について動摩擦係数を測定した結果を表4及び表5に示した。
【0044】
表1から明らかなとおり、潤滑剤組成物を金属同士の摺動に用いた場合には、固体潤滑剤の含有量を上下させても摩擦係数の値に殆ど変化は現れなかった。
【0045】
一方、表2〜表5から明らかなとおり、本発明に係る潤滑剤組成物は、ポリアセタール(POM)及びポリイミド(PI)の摺動、並びに、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)及びポリイミド(PI)の摺動において、摩擦係数が、それぞれ0.026〜0.032及び0.113〜0.121であり、優れた潤滑性能を有することが分かる。また、メラミンシアヌレートが、基油との合計量の5〜15質量%のものは、特に優れた潤滑性能を有していることが分かる。
【0046】
また、実施例4と比較例8とを対比することにより、本発明に係る潤滑剤組成物が、分岐鎖構造を有するパーフルオロポリエーテル基油(基油2)を含む潤滑剤組成物よりも優れた潤滑性能を有することが分かる。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
【表3】


【表4】


【表5】

【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明に係る潤滑剤組成物は、樹脂部材同士(樹脂−樹脂)又は樹脂部材と金属部材(樹脂−金属)の摺動において、優れた潤滑性能を発揮する潤滑剤組成物を有するものであり、種々の分野で利用することが可能である。
【0051】
例えば、転がり軸受、滑り軸受、焼結軸受、ギヤ、バルブ、コック、オイルシール、複写機及びプリンタ等の事務機器用部品、定着ロール、定着ベルト部品、走行系部品及びABS等の制動系部品、操舵系部品、変速機等の駆動系部品、パワーウィンドウモーター、パワーシートモーター、サンルーフモータ等の自動車補器部品、並びに電気接点等の摺動部若しくは固体間接触部の潤滑若しくは保護を目的として好適に使用することが出来る。より具体的には以下の部品があげられる。
【0052】
自動車では、電気ラジエータファンモータ、ファンカップリング、電制EGR、電子制御スロットバルブ、オルタネータ、アイドラプーリ、伝導ブレーキ、ハブユニット、ウォーターポンプ、パワーウィンドウ、ワイパ、及び電動パワーステアリング等の耐熱性及び剪断安定性が要求される転がり軸受及び滑り軸受である。また、ギヤ部分自動変速機用コントロールスイッチ、レバーコントロールスイッチ、プッシュスイッチ等の耐熱性、剪断安定性、耐摩耗性が要求される電気接点部分があげられる。さらに、ビスカスカップリングのXリング部分、排気ブレーキのOリングなどの耐熱性及び剪断安定性が要求されるゴムシール部分、並びに、ヘッドライト、シート、ABS、ドアロック、ドアヒンジ、クラッチブースタ、2分割フライホイール、ウィンドレギュレータ、ボールジョイント、及びクラッチブースタ等の転がり軸受、滑り軸受、ギヤ、若しくは摺動部などにも使用することが出来る。
【0053】
事務用機器では、複写機及びレーザービームプリンタ等の定着ロール及び定着ベルト等の耐熱性、及び耐摩耗性が要求される転がり軸受、滑り軸受、樹脂フィルム、樹脂の摺動部またはギヤ部などである。
【0054】
家電・情報機器では、パソコンの冷却ファン、掃除機、洗濯機等の転がり軸受、滑り軸受、及びオイルシール等があげられる。
【0055】
樹脂製造装置では、フィルムテンター、フィルムラミネータ、バンバリーミキサ等の耐熱性及び耐荷重性が要求される転がり軸受、滑り軸受、チェーン、ピン、オイルシール及びギヤなどである。
【0056】
製紙装置では、コルゲートマシン等での耐熱性及び耐摩耗性が要求される転がり軸受、滑り軸受、ピン、オイルシール及びギヤ等である。
【0057】
木材加工装置では、コンチプレス等での、耐熱性及び耐摩耗性が要求される転がり軸受、滑り軸受、ピン、オイルシール及びギヤなどである。
【0058】
食品用機械では、パン焼き器、オーブンなどのリニアガイド、焙煎機等の耐熱性及び耐摩耗性が要求される転がり軸受等があげられる。
【0059】
その他、工作機械のスピンドル、サーボモータ等での、底摩擦係数が要求される転がり軸受及び滑り軸受、剪断安定性及び耐摩耗性が要求される携帯電話のヒンジの摺動部等にも使用することが出来る。また、半導体製造装置、液晶製造装置、電子顕微鏡等の真空ポンプにおける転がり軸受及びギヤ、電子制御遮断機の転がり軸受等にも使用することが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直鎖構造のパーフルオロポリエーテル油を含む基油と、メラミンシアヌレートとを含有する樹脂−樹脂又は樹脂−金属摺動用潤滑剤組成物であって、
メラミンシアヌレートの含有量が、前記基油及びメラミンシアヌレートの合計量に対して、1〜20質量%の範囲内であることを特徴とする潤滑剤組成物。
【請求項2】
メラミンシアヌレートの含有量が、基油及びメラミンシアヌレートの合計量に対して、5〜12質量%の範囲内である請求項1に記載の潤滑剤組成物。
【請求項3】
前記パーフルオロポリエーテル油が、−(CFO)−で表される繰り返し単位を有さない、請求項1又は2に記載の潤滑剤組成物。
【請求項4】
前記パーフルオロポリエーテル油が、以下の一般式(i)で表される、請求項1又は2に記載の潤滑剤組成物。
F(CFCFCFO)CFCF (i)
(ただし、上記式(i)中、nは2〜200の数を意味する。)
【請求項5】
前記パーフルオロポリエーテル油の200℃100時間での蒸発損失率が10質量%以下である、請求項1〜4いずれかに記載の潤滑剤組成物。
【請求項6】
一方向運動の摺動部に使用される、請求項1〜5いずれかに記載の潤滑剤組成物。

【公開番号】特開2012−102157(P2012−102157A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−248964(P2010−248964)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(000102670)NOKクリューバー株式会社 (36)
【Fターム(参考)】