説明

潤滑油用摩耗防止剤組成物

【課題】トリフェニルホスフェートやトリクレジルホスフェートと同等の性能を持ち、安全性が高く、安価で、ハンドリングが容易な潤滑油用の摩耗防止剤組成物を提供する。
【解決手段】下式(1)で表されるリン化合物(A)100質量部に対して、同様の式で表されるがC3又は4の分岐のアルキル基が一個であるリン化合物(B)が11〜96質量部、トリフェニルホスフェート及びトリクレジルホスフェートが2質量部以下である潤滑油用摩耗防止剤組成物。


(式中、R及びRC3又は4の分岐のアルキル基を表し、RはH又はメチル基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用しやすい液状であり、更に環境に対する危険性の少ないリン酸エステル型の潤滑油用摩耗防止剤組成物、それを含有する潤滑油組成物及び潤滑油用摩耗防止剤組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、家電、電子機器、工業用機械等の様々な分野で利用されている機械や装置には、多くの潤滑油やグリースが使用されている。これらの潤滑油に求められる機能の一つとして耐摩耗性能があるが、多くの潤滑油でリン酸エステルが耐摩耗剤として使用されている。
潤滑油に使用される一般的なリン酸エステルには、モノオレイルリン酸エステルやジオレイルリン酸エステル等の比較的大きな炭化水素基を持つ酸性リン酸エステル類や、トリフェニルリン酸エステル等のベンゼン環を有する3置換体のリン酸エステル類が知られている。これらは用途や得たい効果によって使い分けられているが、トリフェニルリン酸エステルに代表される3置換体のリン酸エステルは、酸性リン酸エステルと比較して金属への腐食性が小さく、比較的安価であることから、多くの潤滑油に使用されている。
【0003】
3置換体のリン酸エステルの中で潤滑油に最も使用されているものは、トリフェニルリン酸エステルとトリクレジルリン酸エステルである(例えば、特許文献1〜4を参照)。いずれも主に耐摩耗剤として潤滑剤に使用されており、性能的にも一定の効果が得られるが、近年の環境問題に対する意識の高まりから、環境に放出されたときに悪影響を与えることが懸念されている。例えば、トリフェニルリン酸エステルは、労働安全衛生法上の「名称等を通知すべき有害物」や船舶安全法の「環境有害物質」等に指定され、トリクレジルリン酸エステルは化学物質管理促進法上の「第1種指定化学物質」や船舶安全法の「環境有害物質」等に指定されている。その他、生物に対する毒性等が比較的高いことも知られており、市場からは安全性の高い製品の要求が大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−008081号公報
【特許文献2】特開平11−100586号公報
【特許文献3】特開2004−238514号公報
【特許文献4】特表2002−526571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ベンゼン環を有する3置換体のリン酸エステルにおいては、トリアルキルフェニルリン酸エステルのアルキル基の分子量を大きくすることで、製品の安全性を高めることができる。具体的には、アルキル基の炭素数が3以上のアルキルフェニル基が一定量以上あれば製品の安全性を高めることができる。しかし、アルキル基を大きくしすぎると分子内に占めるリン原子の割合が小さくなるため耐摩耗剤としての効果が小さくなる場合や、得られる製品が常温で個体の性状を示す場合がある。一方、固体の添加剤は潤滑油への溶解性に劣る場合や、取扱いが面倒な場合も多く、潤滑油を取り扱う業者からは製品の液状化を求める声が大きい。更に潤滑油用の添加剤は、汎用の用途に使われる場合が多く、添加剤が安価でないと使用できない場合もある。
【0006】
従って、本発明が解決しようとする課題は、トリフェニルリン酸エステルやトリクレジルリン酸エステルと同等の性能を持ち、安全性が高く、安価で、ハンドリングが容易な潤滑油用の摩耗防止剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者等は鋭意検討し、特定の構造を持つベンゼン環を有する3置換体のリン酸エステルの組成物に課題を解決できる特性を見出し、本発明に至った。即ち、本発明は、下記の一般式(1)で表されるリン化合物(A)100質量部に対して、下記の一般式(2)で表されるリン化合物(B)が11〜96質量部、トリフェニルホスフェート及びトリクレジルホスフェートが2質量部以下であることを特徴とする潤滑油用摩耗防止剤組成物である。
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、R及びRはそれぞれ独立して炭素数3又は4の分岐のアルキル基を表し、Rは水素原子又はメチル基を表す。)
【0010】
【化2】

【0011】
(式中、Rは炭素数3又は4の分岐のアルキル基を表し、R及びRはそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を表す。)
【発明の効果】
【0012】
本発明の効果は、トリフェニルリン酸エステルやトリクレジルリン酸エステルと同等の性能を持ち、安全性が高く、常温で液状である安価な潤滑油用の摩耗防止剤組成物を提供したことにある。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の潤滑油用摩耗防止剤組成物は、下記の一般式(1)で表されるリン化合物(A)100質量部に対して、下記の一般式(2)で表されるリン化合物(B)が11〜96質量部、トリフェニルホスフェート及びトリクレジルホスフェートが2質量部以下であることを特徴とする潤滑油用摩耗防止剤組成物である。
【0014】
【化3】

【0015】
(式中、R及びRはそれぞれ独立して炭素数3又は4の分岐のアルキル基を表し、Rは水素原子又はメチル基を表す。)
【0016】
【化4】

【0017】
(式中、Rは炭素数3又は4の分岐のアルキル基を表し、R及びRはそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を表す。)
【0018】
一般式(1)で表されるリン化合物(A)のR及びRは、それぞれ独立して炭素数3又は4の分岐のアルキル基を表す。こうしたアルキル基としては、例えば、イソプロピル基、2−メチルプロピル基、1−メチルプロピル基、ターシャリブチル基等が挙げられる。これらの中でも、得られる組成物が常温で液状化しやすいことから、炭素数4の分岐アルキル基が好ましく、ターシャリブチル基がより好ましい。炭素数2以下では高い安全性を得るのが困難であり、炭素数4を超えると分子内に占めるリン原子の割合が小さくなるため耐摩耗剤としての効果が小さくなる場合や、常温で固体になる場合がある。また、炭素数3又は4のアルキル基であっても、これらが直鎖のアルキル基の場合は常温で固体になる場合がある。
一般式(1)で表されるリン化合物(A)のRは水素原子又はメチル基を表すが、摩耗防止性能が良好なことから水素原子が好ましい。
【0019】
一般式(2)で表されるリン化合物(B)のRは炭素数3又は4の分岐のアルキル基を表す。こうしたアルキル基としては、例えば、イソプロピル基、2−メチルプロピル基、1−メチルプロピル基、ターシャリブチル基等が挙げられる。これらの中でも、得られる組成物が常温で液状化しやすいことから、炭素数4の分岐アルキル基が好ましく、ターシャリブチル基がより好ましい。炭素数2以下では高い安全性を得るのが困難であり、炭素数4を超えると分子内に占めるリン原子の割合が小さくなるため耐摩耗剤としての効果が小さくなる場合や、常温で固体になる場合がある。また、炭素数3又は4のアルキル基であっても、これらが直鎖のアルキル基の場合は常温で固体になる場合がある。
一般式(2)で表されるリン化合物(B)のR及びRは、それぞれ独立して水素原子又はメチル基を表すが、摩耗防止性能が良好なことからいずれも水素原子が好ましい。
【0020】
本発明の潤滑油用摩耗防止剤組成物に必須の各成分は、その配合比が決められており、具体的には、リン化合物(A)100質量部に対して、リン化合物(B)が11〜96質量部、トリフェニルホスフェート及びトリクレジルホスフェートが2質量部以下でなければならない。
【0021】
本発明の潤滑油用摩耗防止剤組成物は上記の比率で各成分が配合されていればよく、他の溶剤や潤滑基油等で希釈されていてもよいが、製品の運搬や保存等を考慮すると、リン化合物(A)とリン化合物(B)からなる組成物であることが好ましい。具体的には、リン化合物(A)は、組成物全量に対して51〜90質量%含有することが好ましく、55〜80質量%であることがより好ましく、60〜75質量%であることが更に好ましい。また、リン化合物(B)は、組成物全量に対して10〜49質量%含有することが好ましく、20〜45質量%であることがより好ましく、25〜40質量%であることが更に好ましい。リン化合物(A)の含量が90質量%を超えると得られる組成物の融点が上昇して液状化が困難になる。組成物の融点は寒冷地での使用を考慮して10℃以下が好ましく、0℃以下がより好ましく、−10℃以下が更に好ましい。また、リン化合物(A)の含量が51質量%未満では製法上トリフェニルホスフェートやトリクレジルホスフェートの含量が1質量%を超えてしまう場合や、摩耗防止剤としての性能が悪化する場合がある。
【0022】
また、本発明の潤滑油用摩耗防止剤組成物には、トリフェニルホスフェート及びトリクレジルホスフェートが組成物全量中に1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましい。トリフェニルホスフェート及びトリクレジルホスフェートが組成物全量中に1質量%を超えて存在すると、安全性の面で好ましくない。
【0023】
ここでトリフェニルホスフェート等の毒性について詳しく説明する。トリフェニルホスフェートやトリクレジルホスフェートの毒性が高いことを述べたが、具体的な数値を以下の表1にまとめる。
【0024】
【表1】

【0025】
上記表1中のトリターシャリブチルフェニル系(混合物)とは、トリターシャリブチルフェニルホスフェート、ジ(ターシャリブチルフェニル)フェニルホスフェート及びモノ(ターシャリブチルフェニル)ジフェニルホスフェートの混合物を表すが、これらの配合比ははっきりしていない。
【0026】
表1のデータは、数値が高いほど毒性が低いことを示す。ヒメダカでの試験結果より、トリイソプロピルフェニルホスフェートは、トリフェニルホスフェートやトリクレジルホスフェートより格段に毒性が低いことがわかる。一方、ニジマスでの試験結果であるが、トリターシャリブチルフェニル系(混合物)は、トリイソプロピルフェニルホスフェートより毒性が低い。トリターシャリブチルフェニル系(混合物)はその組成がはっきりとわからないが、ターシャリブチル基はイソプロピル基より毒性を下げることが容易に予想できる。なお、ヒメダカでの試験結果とニジマスでの試験結果が大きく異なるのは、魚の種類が異なるためである。
【0027】
以上の結果より、トリイソプロピルフェニルホスフェートやトリターシャリブチルフェニルホスフェート等の炭素数3又は4のアルキル基を持つフェニルホスフェートは、トリフェニルホスフェートやトリクレジルホスフェートと比較して極めて毒性が低いことがわかる。
【0028】
本発明の潤滑油用摩耗防止剤組成物は、リン化合物(A)及びリン化合物(B)を特定の量含有し、トリフェニルホスフェート又はトリクレジルホスフェートの含有量が組成物全量に対して1%以下の組成物である。リン化合物(A)及びリン化合物(B)を含有する組成物の製造方法は公知であるが、具体的には以下の3つの方法がよく知られている。
【0029】
(i)オキシ塩化リンに炭素数3又は4の分岐アルキル基を持つモノアルキルフェノール、並びにフェノール及び/又はクレゾールを反応させる製造方法。
(ii)ジクロロフェノキシホスフィンオキシド又はジクロロクレゾキシホスフィンオキシドに炭素数3又は4の分岐アルキル基を持つモノアルキルフェノールを反応させてリン化合物(A)を得る。また、クロロジフェノキシホスフィンオキシド又はクロロジクレゾキシホスフィンオキシドに炭素数3又は4の分岐アルキル基を持つモノアルキルフェノールを反応させてリン化合物(B)を得る。得られたリン化合物(A)とリン化合物(B)を一定の割合で混合させて得る製造方法。
(iii)トリフェニルホスフェートをアルキル化剤で部分的に炭素数3又は4の分岐アルキルにアルキル化する製造方法。
【0030】
上記の製造方法の中でも、本発明の潤滑油用摩耗防止剤組成物を製造できる方法は、(i)と(ii)の方法であり、(iii)の方法では本発明の潤滑油用摩耗防止剤組成物は製造できない。(iii)の方法で製造した場合、リン化合物(A)の割合を90質量%以下にしようとすると、未反応のトリフェニルホスフェートが1質量%を超えて残存してしまい、また、未反応のトリフェニルホスフェートを1質量%以下にしようとすると、リン化合物(A)の割合が90質量%を超える場合や、トリアルキルフェニルホスフェートが副生成物として大量に生成してしまい、得られた反応物が常温で固体になってしまう場合がある。よってトリフェニルホスフェートをアルキル化する方法は安価に製造できるものの、本発明の潤滑油用摩耗防止剤組成物を得ることはできない。
【0031】
(ii)の方法で製造した場合、例えば、ジクロロフェノキシホスフィンオキシドにターシャリブチルフェノールを反応することで、リン化合物(A)のR及びRがターシャリブチル基でRが水素原子の化合物が得られ、クロロジフェノキシホスフィンオキシドにターシャリブチルフェノールを反応することで、リン化合物(B)のRはがターシャリブチル基でR及びRがそれぞれ水素原子の化合物が得られる。これらの化合物を混合することで、本発明の潤滑油用摩耗防止剤組成物を得ることができる。しかしながら、2つの反応工程と混合工程という複雑な製造方法のため製造コストが高くなること、更に原料のジクロロフェノキシホスフィンオキシドやクロロジフェノキシホスフィンオキシドは原料としては高価であることから、得られる組成物も高価になってしまう。
【0032】
一方、(i)の方法で製造した場合、適切な反応条件で反応すれば、(ii)の方法と比べて安価に本発明の潤滑油用摩耗防止剤組成物を得ることができる。(i)の方法は(ii)の方法と比べて簡単な反応であり、且つ安価な原料を使用しているため、得られる組成物は安価に製造でき経済的に優れている。
【0033】
以上より、本発明の潤滑油用摩耗防止剤組成物を製造する場合は、(i)及び(ii)の方法で製造すればよく、経済的に優れることから(i)の方法で製造することが好ましい。
【0034】
(i)の方法について具体的に記載する。
(i)の方法では、例えば、オキシ塩化リンに、下記一般式(3)で表されるモノアルキルフェノールを反応させることで本発明の潤滑油用摩耗防止剤組成物を得ることができる。
【0035】
【化5】

【0036】
(式中、Rは炭素数3又は4の分岐のアルキル基を表す。)
【0037】
ここでRは、上述のR、RもしくはRで説明した分岐アルキル基と同様である。また、(i)の方法において、一般式(3)に該当するモノアルキルフェノールであれば、2種以上の化合物を用いることができるが、経済的に1種のモノアルキルフェノールを使用することが好ましい。
【0038】
オキシ塩化リンに、上記モノアルキルフェノールとフェノールを反応させる場合、オキシ塩化リン1モルに対して、フェノール類の総量を3〜3.3モル反応させるのが好ましく、3〜3.2モルがより好ましく、3〜3.1モルが更に好ましい。3モル未満では未反応のオキシ塩化リンが残存するため後処理が煩雑になり、3.3モルより多いと未反応のフェノール類が多量に残存するため、耐摩耗性が悪くなる場合がある。なお、フェノール類の理論反応量は3モルであるが、オキシ塩化リンを完全に反応させるため、フェノール類の仕込み量は若干多くすることが好ましい。一方、フェノール類中のモノアルキルフェノールの割合は、オキシ塩化リン1モルに対して1.5〜2.3モルが好ましく、1.5〜2モルがより好ましく、1.5〜1.8が更に好ましい。1.5モル未満になるとリン化合物(A)の割合が51質量%未満になる場合があり、2.3モルを超えるとトリアルキルフェニルホスフェートが多量に生成して常温で固体になる場合がある。また、同様にフェノール類中のフェノール及び/又はクレゾールの割合は、オキシ塩化リン1モルに対して0.7〜1.8モルが好ましく、1.0〜1.8モルがより好ましく、1.4〜1.8が更に好ましい。なお、本発明で使用するフェノール、クレゾールは経済上、効率上の観点から、いずれか1種のみを使用することが好ましいが、これら2種を混合して用いてもよい。
【0039】
オキシ塩化リンに、上記モノアルキルフェノールとフェノール及び/又はクレゾールを反応させる場合の具体的な製造方法としては、例えば、オキシ塩化リン1モルに対して合計で3〜3.3モルのモノアルキルフェノール並びにフェノール及び/又はクレゾールを80〜160℃程度の反応温度で2〜20時間程度反応させればよい。このとき、モノアルキルフェノールとフェノール及び/又はクレゾールを混合してオキシ塩化リンに反応させても、別々にオキシ塩化リンに反応させてもよいが、最終生成物に含有するトリフェニルホスフェートの含有量が少なくなることから、先にモノアルキルフェノールをオキシ塩化リンに反応させた後にフェノール及び/又はクレゾールを反応させることが好ましい。
【0040】
反応終了後は、組成物中に微量に溶解した塩酸や、未反応原料のフェノール類を除去するため水洗をすることが好ましい。以上のように本発明の組成物は、蒸留あるいはカラムによる精製等の処理をしなくても得ることができるため、安価に製造することが可能である。
【0041】
本発明の潤滑油組成物は、本発明の潤滑用摩耗防止剤組成物の配合量が潤滑油組成物全量に対して0.1〜5質量%になるように溶解させたものであり、好ましい配合量は0.3〜3質量%である。配合量が0.1質量%未満の場合は摩耗防止剤としての効果が発揮されない場合があり、5質量%を超えると添加量に見合った効果が得られない場合や、基油に完全に溶解しない場合あるいは保存時に本発明の潤滑用摩耗防止剤が析出する場合がある。
【0042】
更に、本発明の潤滑油組成物は、公知の潤滑油添加剤の添加を拒むものではなく、使用目的に応じて、酸化防止剤、摩擦低減剤、極圧剤、油性向上剤、清浄剤、分散剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、防錆剤、腐食防止剤、消泡剤などを本発明の効果を損なわない範囲で添加してもよい。
【実施例】
【0043】
以下本発明を実施例により、具体的に説明する。
<製造例1>
温度計、窒素導入管、減圧用の吸入管及び攪拌機を付した容量1000mlの4つ口フラスコに、オキシ塩化リン153.5g(1モル)及びp−ターシャリブチルフェノール225g(1.5モル)を入れ、更に触媒として塩化マグネシウムを0.5g系内に添加した。窒素置換後、攪拌しながら系内の温度を130℃まで昇温して2時間反応を行った。その後、系内にフェノール141g(1.5モル)を添加し、更に130℃で5時間反応した。反応終了後、系内の圧力を3.0×10Paまで減圧して130℃で3時間減圧を行って副生した塩酸を除去した。その後常圧に戻し、300mlの水を入れ80℃で1時間攪拌して水洗及び水洗後の水層の除去を行い、微量に残存する塩酸や原料のフェノール等を除去し、更に温度120℃、圧力3.0×10Paで2時間減圧脱水を行って本発明品1を得た。
【0044】
製造例1と同様の条件で、オキシ塩化リン1モルに対して、各種のフェノール化合物合計3モルを反応させ、本発明品2〜6及び比較品1〜6を得た。オキシ塩化リンと反応させたフェノール化合物の配合量を表2に記載し、比較品6については別途記載した。
【0045】
<製造例2>
温度計、窒素導入管、減圧用の吸入管及び攪拌機を付した容量1000mlの4つ口フラスコに、オキシ塩化リン153.5g(1モル)、p−ターシャリブチルフェノール225g(1.5モル)及びフェノール141g(1.5モル)を入れ、更に触媒として塩化マグネシウムを0.5g系内に添加した。窒素置換後、攪拌しながら系内の温度を130℃まで昇温して2時間反応を行い、更に130℃で5時間反応した。反応終了後、系内の圧力を3.0×10Paまで減圧して130℃で3時間減圧を行って副生した塩酸を除去した。その後常圧に戻し、300mlの水を入れ80℃で1時間攪拌して水洗及び水洗後の水層の除去を行い、微量に残存する塩酸や原料のフェノール等を除去し、更に温度120℃、圧力3.0×10Paで2時間減圧脱水を行って本発明品7を得た。
【0046】
<製造例3>
温度計、窒素導入管、減圧用の吸入管及び攪拌機を付した容量1000mlの4つ口フラスコに、ジクロロフェノキシホスフィンオキシド211g(1モル)、p−ターシャリブチルフェノール300g(2モル)を入れ、更に触媒として塩化マグネシウムを0.5g系内に添加した。窒素置換後、攪拌しながら系内の温度を130℃まで昇温して2時間反応を行い、更に130℃で5時間反応した。反応終了後、系内の圧力を3.0×10Paまで減圧して130℃で3時間減圧を行って副生した塩酸を除去した。その後常圧に戻し、300mlの水を入れ80℃で1時間攪拌して水洗及び水洗後の水層の除去を行い、微量に残存する塩酸や原料のフェノール等を除去し、更に温度120℃、圧力3.0×10Paで2時間減圧脱水を行ってジ(ターシャリブチルフェニル)フェニルホスフェートを得た。
【0047】
また、同様の条件で、クロロジフェノキシホスフィンオキシド268.5g(1モル)とp−ターシャリブチルフェノール150g(1モル)とを反応させて、モノ(ターシャリブチルフェニル)ジフェニルホスフェートを得た。2つの反応で得られた化合物を、ジ(ターシャリブチルフェニル)フェニルホスフェート/モノ(ターシャリブチルフェニル)ジフェニルホスフェート=60/40(質量比)で混合したものを本発明品8とし、ジ(ターシャリブチルフェニル)フェニルホスフェート/モノ(ターシャリブチルフェニル)ジフェニルホスフェート=40/60(質量比)で混合したものを比較品7とした。
【0048】
【表2】

【0049】
<組成分析>
反応により得られた組成物の組成比は、液体クロマトグラフィー(HPLC)で測定した。測定機器及び測定の条件は以下の通りである。結果は表3に記した。なお、配合量が0.1%より少なかったものは「<0.1」と記載してある。
本体:全自動HPLCシステムGL−7400(ジーエルサイエンス社製)
検出器:UV検出器GL−7400(ジーエルサイエンス社製)
カラム:ワコーシル5SIL 25cm(和光純薬工業社製)
【0050】
(1)測定サンプルを0.5質量%になるようにクロロホルムに溶解。
(2)クロロホルムに溶解したサンプル0.1mlをHPLCに注入。
(3)流速1ml/分、25℃で展開溶媒を流す。展開溶媒は、0〜10分がヘキサン100%、10〜40分がヘキサン100%からクロロホルム100%になるようにグラジエント、40〜45分がクロロホルム100%になるように流す。
【0051】
<流動点の分析>
100ml試験管に45mlのサンプル(本発明品及び比較品)を入れて45℃に加温し、次いで、冷却浴を用い、試料を冷却する。試料の温度が2.5℃下がるごとに試験管を冷却浴から取り出して傾け、試料が5秒間、全く動かなくなった時の温度を読み取り、この値に2.5℃を加えた値を流動点とした。なお、流動点が−20℃より低くなったときに試験を終了した。また、25℃以上で流動性のないものは「固体」と表記した。結果は表3に記した。
<潤滑性評価試験>
本発明品及び比較品を1質量%になるように鉱油に溶解させ、シェル式高速四球試験機にて、荷重40kg、油温40℃、回転数1,500rpm、時間10分間の条件で、ボールの摩耗痕径を測定した。なお、使用した鉱油は、動粘度4.1mm/s(100℃)、18.3mm/s(40℃)、粘度指数(VI)=126の性状であった。結果は表3に記した。なお、比較品8として表3に記載した結果は鉱油のみの評価結果である。
【0052】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(1)で表されるリン化合物(A)100質量部に対して、下記の一般式(2)で表されるリン化合物(B)が11〜96質量部、トリフェニルホスフェート及びトリクレジルホスフェートが2質量部以下であることを特徴とする潤滑油用摩耗防止剤組成物。
【化1】

(式中、R及びRはそれぞれ独立して炭素数3又は4の分岐のアルキル基を表し、Rは水素原子又はメチル基を表す。)
【化2】

(式中、Rは炭素数3又は4の分岐のアルキル基を表し、R及びRはそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を表す。)
【請求項2】
リン化合物(A)を組成物全量に対して51〜90質量%及びリン化合物(B)を組成物全量に対して10〜49質量%含有し、トリフェニルホスフェート及びトリクレジルホスフェートの含有量が組成物全量に対して1%以下であることを特徴とする請求項1に記載の潤滑油用摩耗防止剤組成物。
【請求項3】
オキシ塩化リン1モルに対して、下記式(3)で表されるモノアルキルフェノールを1.5〜2.3モル、並びにフェノール及び/又はクレゾールを0.7〜1.8モル反応させて得ることを特徴とする請求項2に記載の潤滑油用摩耗防止剤組成物。
【化3】

(式中、Rは炭素数3又は4の分岐のアルキル基を表す。)
【請求項4】
オキシ塩化リン1モルに対して、下記式(3)で表されるモノアルキルフェノールを1.5〜2.0モル、並びにフェノール及び/又はクレゾールを1.0〜1.8モル反応させて得ることを特徴とする請求項2に記載の潤滑油用摩耗防止剤組成物。
【化4】

(式中、Rは炭素数3又は4の分岐のアルキル基を表す。)
【請求項5】
、R及びRがターシャリブチル基を表し、R、R及びRが水素原子であることを特徴とする請求項1又は2に記載の潤滑油用摩耗防止剤組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに1項に記載の潤滑油用摩耗防止剤組成物を0.1〜5質量%含有することを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項7】
オキシ塩化リン1モルに対して、下記式(3)で表されるモノアルキルフェノールを1.5〜2.3モル、並びにフェノール及び/又はクレゾールを0.7〜1.8モル反応させて得ることを特徴とする潤滑油用摩耗防止剤組成物の製造方法。
【化5】

(式中、Rは炭素数3又は4の分岐のアルキル基を表す。)
【請求項8】
前記オキシ塩化リンおよび前記モノアルキルフェノールを反応させた後、前記フェノール及び/又はクレゾールを添加して反応させる、請求項7に記載の製造方法。

【公開番号】特開2013−23580(P2013−23580A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159734(P2011−159734)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】