説明

潤滑油組成物

【課題】潤滑油としての基本性能、すなわち、摩擦係数の低減及び耐摩耗性に優れ、かつ、防錆性にも優れ、軸受油等として使用可能な潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】潤滑油基油に対して、中性金属スルホネート、過塩基性金属スルホネート及びアスパラギン酸誘導体が添加されている潤滑油組成物。さらに、多価アルコール脂肪酸エステル、サルコシン誘導体及びリン酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも一種が添加されている潤滑油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物に関する。更に詳しくは、軸受油等として使用可能な潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼、自動車、一般機械、精密機械等の様々な産業分野において、精製油又は合成油を基油とする潤滑油が多用されている。
【0003】
近年、機械装置の小型化、低電流化、長寿命化に対応するため、潤滑油の摩擦特性及び耐摩耗性の向上への要求が益々大きくなっている。
【0004】
また、金属の錆を防ぐことは、省エネルギー、コスト、環境等の観点から益々重要性を増しており、それに伴い、潤滑油の防錆性の向上への要求も高まっている。
【0005】
例えば、特許文献1には、鉱油及び合成油から選ばれる少なくとも1種の基油に対し、添加剤としてアスパラギン酸誘導体と、多価アルコールの脂肪酸エステルと、を添加してなり、小さな摩擦係数を有し、防錆性に優れた潤滑油組成物が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、特定の基油に、多価アルコールの脂肪酸エステル、過塩基性金属スルホネート、及び中性金属スルホネートを配合してなり、潤滑性、防錆性、脱脂性及び加工性に優れた加工兼用防錆油組成物が開示されている。
【0007】
しかしながら、これらの潤滑油組成物にあっても、摩擦特性及び耐摩耗性と、防錆性の向上への要求を同時に満足させることは出来ないのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−95076号公報
【特許文献2】特開2007−153962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明は、優れた摩擦特性、耐摩耗性及び防錆性を有する潤滑油組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明者は、以下の構成に係る潤滑油組成物を提供する。
(1)潤滑油基油に対して、中性金属スルホネート、過塩基性金属スルホネート及びアスパラギン酸誘導体が添加されている潤滑油組成物。
(2)前記アスパラギン酸誘導体が、下記一般式(i)で表される、(1)に記載の潤滑油組成物。
【化1】

(ただし、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数3〜6のアルキル基若しくはヒドロキシアルキル基を表し、Rは、炭素数1〜30個の飽和若しくは不飽和カルボン酸基、又は炭素数1〜30個のアルキル基若しくはアルケニル基若しくはヒドロキシアルキル基を表し、Rは、炭素数1〜30個のアルキル基若しくはヒドロキシアルキル基若しくはアルコキシアルキル基を表す。)
(3)さらに、多価アルコール脂肪酸エステル、サルコシン誘導体及びリン酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも一種が添加されている(1)又は(2)に記載の潤滑油組成物。
(4)含油軸受用である(1)〜(3)いずれかに記載の潤滑油組成物。
(5)前記含油軸受が、焼結含油軸受である(4)に記載の潤滑油組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、優れた摩擦特性及び耐摩耗性を有し、かつ、防錆性においても優れた潤滑油組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。
【0013】
本発明に係る潤滑油組成物は、潤滑油基油に対して、中性金属スルホネート、過塩基性金属スルホネート及びアスパラギン酸誘導体が添加されていることを特徴とする。
【0014】
本発明において、潤滑油基油としては、特に限定されるものではなく、通常公知の潤滑油を好適に使用することが出来る。例えば、パラフィン基系原油、中間基系原油、又はナフテン基系原油を常圧蒸留した残渣油、又は常圧蒸留の残渣油を減圧蒸留して得られる留出油、さらにはこれらを常法に従って精製することによって得られる精製油、例えば溶剤精製油、水添精製油、脱ロウ処理油、白土処理油などを挙げることができる。
【0015】
また、合成油としては、例えば、ポリ−α−オレフィン、α−オレフィンコポリマー(例えばエチレン−α−オレフィン共重合体)、ポリブテン、アルキルベンゼン、ポリオールエステル、二塩基酸エステル、ポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシアルキレングリコールエステル、ポリオキシアルキレングリコールエーテル、ヒンダードエステル、シリコーンオイル、フッ素化油などを挙げることができる。
【0016】
これらの潤滑油基油は、一種を単独で、又は二種以上を混合して使用することができる。また、用途によっては、使用部位またはその周辺において、樹脂材料やゴム材料が使用されている場合が少なくなく、その場合にはこれらの材料に対して影響の少ない潤滑油基油、一般にはポリ−α−オレフィン、エチレン−α−オレフィン共重合体またはこれらを主体とするものを用いることが好ましい。
【0017】
これらの各種潤滑油基油の種類および性状については特に制限がなく、使用条件に応じて適宜選択し得るが、一般には動粘度(40℃)が約2〜1000cSt、好ましくは約
5〜500cStのものが用いられる。これ以下の動粘度のものを用いると、蒸発損失の増加や油膜強度の低下など寿命の低下や摩耗、焼付きの原因となる可能性があり、一方これ以上の動粘度のものを用いた場合には、粘性抵抗の増加など消費動力やトルクが大きくなる不具合を生ずる可能性がある。
【0018】
潤滑油基油には、粘度指数向上剤を添加したものも用いられる。粘度指数向上剤としては、例えばエチレン−プロピレン共重合体、スチレン−イソブチレン共重合体、ポリスチレン、ポリイソブチレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート等が用いられる。これらの重合体の分子量は特に限定されないが、十分なる粘度指数の向上のためには、数平均分子量Mnが約3000〜1000000、好ましくは約3000〜300000の範囲内であることが望ましい。
【0019】
本発明において、金属スルホネートとは各種スルホン酸の金属塩をいう。スルホン酸としては、芳香族石油スルホン酸、アルキルスルホン酸、アリールスルホン酸、アルキルアリールスルホン酸等があり、より具体的には、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジラウリルセチルベンゼンスルホン酸、パラフィンワックス置換ベンゼンスルホン酸、ポリオレフィン置換ベンゼンスルホン酸、ポリイソブチレン置換ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸などが挙げられる。これらのうち、芳香族石油スルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸が好ましい。また、金属としては、カルシウム、ナトリウム、マグネシウム、亜鉛など種々のものが挙げられ、これらのうち特にカルシウムが好ましい。さらに、金属スルホネートとしては、これらのスルホン酸金属塩と、カルボン酸金属塩及び/又はカルボン酸エステル金属塩との複合体を使用しても良い。なお、金属がカルシウムである場合、その含有量は、組成物全量を基準として2.5質量%以下であることが好ましい。カルシウムの含有量が2.5質量%以下であると、油が付着しても自動車用マスチックシーラントなどの塩化ビニル含有接着剤の接着性を阻害しない。
【0020】
中性金属スルホネート及び過塩基性金属スルホネートには、環境上の観点から、バリウムを実質的に含有しないことが好ましく、より具体的にはバリウムの含有量がそれぞれ5質量ppm以下であることが好ましい。
【0021】
中性金属スルホネートは、具体的にはJIS K−2501に準拠した過塩素酸法による全塩基価が0以上50mgKOH/g未満のものをいう。中性金属スルホネートを含有することにより、防錆性、耐ステイン性が向上する。
【0022】
中性金属スルホネートの配合量は、一種を単独で、又は二種以上を組み合わせて使用しても良い。また、中性金属スルホネートの配合量は、組成物全量基準で、0.1〜10質量%の範囲が好ましく、さらに好ましくは1〜10質量%の範囲、特に好ましくは1〜8質量%の範囲である。金属分として換算した場合には、0.003〜0.3質量%の範囲が好ましく、さらに好ましくは0.03〜0.3質量%の範囲、特に好ましくは0.03〜0.25質量%の範囲である。これより少ない量では、十分な効果が得られない場合があり、多い場合には、添加量に見合った効果が発揮されず経済的に不利となる。
【0023】
過塩基性金属スルホネートは、具体的にはJIS K−2501に準拠した過塩素酸法による全塩基価が50〜500mgKOH/gのものをいう。過塩基性金属スルホネートは、添加量を少なくすることができる点から、JIS K−2501に準拠した過塩素酸法による全塩基価が、300mgKOH/g以上であることが好ましく、さらには400mgKOH/g以上であることが好ましい。
【0024】
過塩基性金属スルホネートは、一種を単独で、又は二種以上を組み合わせて使用してもよい。また、過塩基性金属スルホネートの配合量は、組成物全量基準で、1〜20質量%の範囲が好ましく、さらに好ましくは1〜10質量%の範囲、特に好ましくは1〜8質量
%の範囲である。金属分として換算した場合には、0.2〜4質量%の範囲が好ましく、さらに好ましくは0.2〜3質量%の範囲、特に好ましくは0.3〜2.5質量%の範囲である。これより少ない量では、十分な効果が得られない場合があり、多い場合には、添加量に見合った効果が発揮されず経済的に不利となる。
【0025】
中性金属スルホネートと過塩基性金属スルホネートの配合比率については、1:4〜4:1の範囲が好ましく、さらには、1:2〜2:1の範囲が好ましい。
【0026】
アスパラギン酸誘導体としては、特に制限されるものではないが、下記一般式(i)で表されるものが好適に使用可能である。
【化2】

【0027】
ここで、一般式(i)において、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数3〜6のアルキル基若しくはヒドロキシアルキル基を表し、特に、2−メチルプロピル基及びt−ブチル基が好ましい。
【0028】
は、炭素数1〜30の飽和若しくは不飽和カルボン酸基(カルボキシル基を有する有機基)、又は炭素数1〜30からなるアルキル基若しくはアルケニル基若しくはヒドロキシアルキル基であり、特に、プロピオン酸基又はプロピオニル酸基が好ましい。
【0029】
は、炭素数1〜30のアルキル基若しくはヒドロキシアルキル基若しくはアルコキシアルキル基を表す。例えば、オクタデシル基、アルコキシプロピル基、3−(C6〜C18)ヒドロカーボンオキシ(C3〜C6)アルキル基、シクロへキシルオキシプロピル基、3−オクチルオキシプロピル基、3−イソオクチルオキシプロピル基、3−デシルオキシプロピル基、3−イソデシルオキシプロピル基、3−(C12〜C16)アルコキシプロピル基などがあげられる。こうしたアスパラギン酸誘導体のより好ましい例として、例えば、N−1オキソ−3カルボニルオキシプロピル−N−3オクチルオキシプロピル−アスパラギン酸ジイソブチルエステル、N−1オキソ−3カルボニルオキシプロピル−N−3デシルオキシプロピル−アスパラギン酸ジイソブチルエステル、N−1オキソ−3カルボニルオキシプロピル−N−3ドデシルオキシプロピル−アスパラギン酸ジイソブチルエステル、N−1オキソ−3カルボニルオキシプロピル−N−3テトラデシルオキシプロピル−アスパラギン酸ジイソブチルエステル等があり、それらの混合物があげられる。なお、アスパラギン酸はR体、S体、ラセミ体のいずれであっても良い。また、一種を単独で用いても複数種類を併用しても良い。
【0030】
上記アスパラギン酸誘導体は、JISK2501で定める酸価が10〜200mgKOH/gのもの、より好ましくは50〜150mgKOH/gのものがよい。アスパラギン酸誘導体は、潤滑油組成物中に約0.01〜5質量%程度、好ましくは約0.05〜2質量%程度で用いられる。
【0031】
本発明に係る潤滑油組成物に於いては、上記の成分に加えて、多価アルコール脂肪酸エステル、サルコシン誘導体及びリン酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも一種を添加することが好ましい。
【0032】
多価アルコールの脂肪酸エステルとしては、従来油性剤として使用されているもの、例えば、グリセロール、ソルビトール、アルキレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、キシリトール等の多価アルコールの炭素数1〜24(好ましくは炭素数10〜20)の飽和または不飽和脂肪酸の部分または完全エステルを用いることができる。また、環構造を有する炭素数1〜10の多価アルコールの炭素数1〜24(好ましくは炭素数10〜20)の飽和または不飽和脂肪酸の部分または完全エステル(例えば、ソルビタン脂肪酸エステル)を用いることもできる。
【0033】
こうしたものとして、具体的には、例えば、グリセロールエステルとして、グリセロールモノラウリレート、グリセロールモノステアレート、グリセロールモノパルミテート、グリセロールモノオレート、グリセロールジラウリレート、グリセロールジステアレート、グリセロールジパルミテート、グリセロールジオレート等がある。
【0034】
ソルビトールエステルとしては、ソルビトールモノラウリレート、ソルビトールモノパルミテート、ソルビトールモノステアレート、ソルビトールモノオレート、ソルビトールジラウリレート、ソルビトールジパルミテート、ソルビトールジステアレート、ソルビトールジオレート、ソルビトールトリステアレート、ソルビトールトリラウリレート、ソルビトールトリオレート、ソルビトールテトラオレート等が挙げられる。
【0035】
アルキレングリコールエステルとしては、エチレングリコールモノラウリレート、エチレングリコールモノステアレート、エチレングリコールモノオレート、エチレングリコールジラウリレート、エチレングリコールジステアレート、エチレングリコールジオレート、プロピレングリコールモノラウリレート、プロピレングリコールモノステアレート、プロピレングリコールモノオレート、プロピレングリコールジラウリレート、プロピレングリコールジステアレート、プロピレングリコールジオレート等がある。
【0036】
ネオペンチルグリコールエステルとしては、ネオペンチルグリコールモノラウリレート、ネオペンチルグリコールモノステアレート、ネオペンチルグリコールモノオレート、ネオペンチルグリコールジラウリレート、ネオペンチルグリコールジステアレート、ネオペンチルグリコールジオレート等が挙げられる。
【0037】
トリメチロールプロパンエステルとしては、トリメチロールプロパンモノラウリレート、トリメチロールプロパンモノステアレート、トリメチロールプロパンモノオレート、トリメチロールプロパンジラウリレート、トリメチロールプロパンジステアレート、トリメチロールプロパンジオレート、ペンタエリスリトールモノラウリレート等がある。
【0038】
ペンタエリスリトールエステルとしては、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールモノオレート、ペンタエリスリトールジラウリレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールジオレート、ジペンタエリスリトールモノオレート等がある。
【0039】
ソルビタン脂肪酸エステルとしては、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノパルミテートなどがあげられる。
【0040】
こうした多価アルコールの脂肪酸エステルとしては、好ましくは多価アルコールと不飽和脂肪酸との部分エステルを用いるとよい。
【0041】
これら多価アルコールの脂肪酸エステルは、潤滑油組成物中に約0.01〜5質量%程
度、好ましくは約0.01〜2質量%程度で用いられる。多価アルコールの脂肪酸エステルは、摩擦係数の低減に寄与するが、使用量が上記範囲を外れると、摩擦係数の低減効果が弱くなる。
【0042】
サルコシン誘導体としては、サルコシン(N−メチルグリシン)から誘導されるものであれば特に制限されないが、特に以下の一般式(ii)で表されるものを使用することが好ましい。
【0043】
【化3】

【0044】
ここで、一般式(ii)において、Rは、−R又は−C(=O)−R(ただし、Rは、炭素数1〜30個(好ましくは10〜20)の、アルキル基若しくはアルケニル基若しくはヒドロキシアルキル基を表す。)を表し、Rは、水素原子又は炭素数3〜6の、アルキル基若しくはヒドロキシアルキル基を表す。
【0045】
サルコシン誘導体の配合量としては、組成物全量に対して、好ましくは0.01〜5質量%、より好ましくは0.01〜2質量%の範囲である。サルコシン誘導体の添加により、防錆性の更なる向上が期待できるが、配合量が0.01〜5質量%の範囲を逸脱すると、係る効果を奏さなくなるおそれがある。
【0046】
リン酸エステルとしては、通常公知のものを制限無く使用することが可能であるが、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルホスフェート又はポリオキシアルキレンアリールエーテルホスフェート等のリン酸エステル誘導体を好適に使用することが可能である。ポリオキシアルキレンアルキルエーテルホスフェート又はポリオキシアルキレンアリールエーテルホスフェートとしては、より詳細には、例えば、以下の一般式(iii)で表されるものを使用することが可能である。
【0047】
【化4】

【0048】
ここで、一般式(iii)において、 Y、Yは、それぞれ独立して、水素原子、水酸基、−OM(Mは、Na又はKを意味する。)、又は、下記一般式(iv)で表される基を表す。
【0049】
【化5】

【0050】
また、一般式(iii)及び(iv)において、Rは、炭素数1〜24のアルキル基、又はアリール基(例えばフェニル基)を意味し、Rは炭素数2〜10のアルキレン基を意味する。また、nは、アルキレンオキサイドの平均付加数を意味し、1〜18の整数である。
【0051】
リン酸エステルの配合量としては、組成物全量に対して、好ましくは0.01〜5質量%、より好ましくは0.01〜2質量%の範囲である。リン酸エステルの添加により、防錆性の更なる向上を期待できるが、配合量が0.01〜5質量%の範囲を逸脱すると、係る効果を奏さなくなるおそれがある。
【0052】
以上の各成分に加えて、流動点降下剤、無灰系分散剤、金属系清浄剤、酸化防止剤、防錆剤、腐食防止剤、消泡剤、摩擦調整剤、金属不活性化剤等の従来潤滑油に使用されている公知の添加剤を、用途に応じて添加して用いることができる。
【0053】
流動点降下剤としては、例えばポリメタクリレート、ポリアクリレート、ジ(テトラパラフィンフェノール)フタレート、テトラパラフィンフェノールの縮合生成物、アルキルナフタレンの縮合生成物、塩素化パラフィン−ナフタレン縮合物、アルキル化ポリスチレン等が、無灰系分散剤としては、例えばコハク酸イミド系、コハク酸アミド系、ベンジルアミン系、エステル系のもの等が、金属系清浄剤としては、例えばジノニルナフタレンスルホン酸によって代表されるスルホン酸、アルキルフェノール、サリチル酸等の金属塩がそれぞれ用いられる。
【0054】
また、酸化防止剤としては、例えば2,6−ジ第3ブチル−4−メチルフェノール、4,4′−メチレンビス(2,6−ジ第3ブチルフェノール)等のフェノール系のもの、アルキル(炭素数4〜20)ジフェニルアミン、トリフェニルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、フェノチアジン、アルキル化フェニル−α−ナフチルアミン、フェニチアジン、アルキル化フェノチアジン等のアミン系のものなどの少なくとも一種が用いられる。防錆剤としては、例えば脂肪酸、脂肪酸石けん、脂肪酸アミン、酸化パラフィン、アルキルポリオキシエチレンエーテル等が用いられる。腐食防止剤としては、例えばベンゾトリアゾール、ベンゾイミダゾール、チアジアゾール等が用いられる。消泡剤としては、例えばジメチルポリシロキサン、ポリアクリル酸、金属石けん、脂肪酸エステル、リン酸エステル等が用いられる。金属不活性化剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール、チアジアゾール、アルケニルコハク酸エステルやその誘導体等があげられる。
【0055】
本発明に係る潤滑油組成物は、潤滑油としての基本性能(摩擦特性及び耐摩耗性)が優れているばかりでなく、十分な防錆性を有する。
【0056】
一般に、焼結含油軸受によって代表される含油軸受に適用される潤滑油には、特に優れた防錆性が要求される。焼結含油軸受は、複数の金属材料の粉末を焼き固め、生成させた無数の油孔に潤滑油を含浸させて使用する軸受であるため、複数の金属成分とそこへ含浸させた含浸油とが、非常に大きな表面積で接触することになり、転がり軸受等に比べて非常に錆びやすいためである。したがって、本発明に係る潤滑油組成物は、このように、優れた防錆性が要求される焼結含油軸受に対しても好適に使用することが出来る。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を、実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0058】
(1)試料油の調製方法
以下の各成分を使用し、表1及び表2で示す配合量(質量%)で攪拌機により混合することにより、潤滑油組成物(試料油)を調製した。
【0059】
基油:ポリ−α−オレフィン油(PAO6、DURASYN 166、イネオス社製、40℃粘度:30mm/s)
中性金属スルホネート1(合成カルシウムスルホネート、Alox2292B、ルーブリゾール社製、全塩基価(JIS K2501):3mgKOH/g、カルシウム量:2.2%)
中性金属スルホネート2(アルキルナフタレンスルホン酸カルシウム塩/カルボン酸カルシウム塩複合体、NA−SUL CA−1089、KING社製、全塩基価(JIS K2501):20mgKOH/g、カルシウム量:2.2%)
過塩基性金属スルホネート(過塩基性カルシウムスルホネート、LZ5347、ルーブリゾール社製、全塩基価(JIS K2501):400mgKOH/g、カルシウム量:15.5%)
アスパラギン酸誘導体1:(KING社製K−CORR100)
アスパラギン酸誘導体2:(KING社製K−CORR100A2)
多価アルコール脂肪酸エステル:ソルビタンモノオレエート
サルコシン誘導体:(Z)−N−メチル−N−(1−オキソ−9−オクタデセニル)グリシン
リン酸エステル誘導体:ポリオキシエチレンアルキルエーテルホスフェート(アデカコール PS−810E、ADEKA社製)
酸化防止剤:アミン系酸化防止剤(KING社製NA−LUBE AO−120)
金属不活性化剤:N,N−ビス(2−エチルへキシル)−(4又は5)−メチル−1H−ベンゾトリアゾール−1−メチルアミン
【0060】
(2)評価方法
(2−1)防錆性
軸受剤(旧JIS B1581規格 SBF2118相当品)に、実施例又は比較例の各試料油を真空含浸させた(n=3)。これを、1wt%塩水1.5mgが入ったφ32のガラス製シャーレに浸漬して静置し、錆が発生するまでの日数を測定した。
(2−2)耐摩耗性
シェル四球試験(ASTM D2266法準拠、温度75℃、回転数1200rpm、荷重392N、時間60分間)を行い、試験後の摩耗痕径を測定した。
(2−3)摩擦係数
振り子式摩耗試験(JASO M314−88準拠、ボール:SUJ2(3/16インチ)、ローラピン:SUJ2、油温:R.T.)により測定した。
(3)評価結果
各潤滑油組成物の評価結果を、以下の表1及び表2に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【表3】

【0063】
表1および表2から明らかなとおり、本発明に係る潤滑油組成物は、いずれも錆が発生するまでの日数として3日以上かかっており、良好な防錆性を有することが分かる。特に、実施例4を、比較例3(特許文献1に対応する組成)又は比較例5(特許文献2に対応する組成)と対比することにより、本発明に係る潤滑油組成物の防錆性が、中性金属スルホネート及び過塩基性金属スルホネートと、アスパラギン酸誘導体との相乗効果によることが分かる。
【0064】
また、本発明に係る潤滑油組成物は、いずれも、耐摩耗性試験の結果が0.41以下、かつ、摩擦係数が0.133以下であり、優れた摩擦特性及び耐摩耗性を兼ね備えていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明に係る潤滑油組成物は、潤滑油としての基本性能が優れているばかりでなく、十分な防錆性を有することから、種々の産業分野における機器・部品等に適用することができる。
【0066】
具体的には、転がり軸受、滑り軸受、その他軸受、チェーン、ブッシュがあげられる。また、金属加工用等の防錆性と潤滑性が要求される部品などの他、ギヤ、バルブ、コック、オイルシール、電気接点等の摺動部(固体間接触部)の潤滑及び保護を目的としても使用することが出来る。
【0067】
より詳細には、次のような各種機器・機械・装置の各種部位に好適に適用することが出
来る。
【0068】
自動車では、電動ラジエータファンモータ、ファンカップリング、電制EGR、電子制御スロットバルブ、オルタネータ、アイドラプーリ、電動ブレーキ、ハブユニット、ウォーターポンプ、パワーウィンドー、スライドドア、ワイパー、電動パワーステアリング等の防錆性、潤滑性が要求される転がり軸受若しくはすべり軸受、又はギヤ部分、自動変速機用コントロールスイッチ、レバーコントロールスイッチ、プッシュスイッチ等の防錆性、潤滑性が要求される電気接点部分、ビスカスカップリングのXリング部分、排気ブレーキのOリング等、防錆性、潤滑性が要求されるゴムシール部分、ヘッドライト、シート、ABS、ドアロック、ドアヒンジ、クラッチブースタ、2分割フライホイール、ウィンドレギュレータ、ボールジョイント、クラッチブースタ等の転がり軸受、滑り軸受、ギヤ、摺動部等があげられる。
【0069】
事務用機器では、複写機、レーザービームプリンタ等の定着ロール、定着ベルト等の防錆性、潤滑性が要求される転がり軸受、滑り軸受、樹脂フィルムの摺動部又はギヤ等があげられる。
【0070】
樹脂製造装置では、フィルムテンター、フィルムラミネータ、バンバリーミキサの防錆性、潤滑性が要求される転がり軸受、滑り軸受、ピン、オイルシール、ギヤ等があげられる。
【0071】
製紙装置では、コルゲートマシンで、防錆性、潤滑性が要求される転がり軸受、滑り軸受、ピン、オイルシール、ギヤ、チェーン等があげられる。
【0072】
木材加工装置では、コンチプレス等における、防錆性、潤滑性が要求される転がり軸受、滑り軸受、ピン、オイル、ギヤ、チェーン等があげられる。
【0073】
食品用機械では、パン焼器、オーブン等のリニアガイド、防錆性、潤滑性が要求される軸受け等があげられる。
【0074】
家電・情報機器では、パソコンの冷却ファン、掃除機、洗濯機等の転がり軸受、滑り軸受、オイルシール等があげられる。
【0075】
また、これらの他、工作機械のスピンドル、サーボモータ等において、特に防錆性、潤滑性が要求される転がり軸受、滑り軸受等にも適用することが出来る。
【0076】
また、半導体製造装置、液晶製造装置、電子顕微鏡等の真空ポンプにおける転がり軸受、ギヤ、電子制御装置の遮断機の転がり軸受、時計、カメラ、携帯電話等携帯機器、精密機器部品、屋外で使用される建設機械、電動工具、チェーンソー等、遮断機、リミットスイッチ等に使用される各部品にも適用することが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油基油に対して、中性金属スルホネート、過塩基性金属スルホネート及びアスパラギン酸誘導体が添加されている潤滑油組成物。
【請求項2】
前記アスパラギン酸誘導体が、下記一般式(i)で表される、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【化1】


(ただし、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数3〜6のアルキル基若しくはヒドロキシアルキル基を表し、Rは、炭素数1〜30個の飽和若しくは不飽和カルボン酸基、又は炭素数1〜30個のアルキル基若しくはアルケニル基若しくはヒドロキシアルキル基を表し、Rは、炭素数1〜30個のアルキル基若しくはヒドロキシアルキル基若しくはアルコキシアルキル基を表す。)
【請求項3】
さらに、多価アルコール脂肪酸エステル、サルコシン誘導体及びリン酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも一種が添加されている請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
含油軸受用である請求項1〜3いずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
前記含油軸受が、焼結含油軸受である請求項4に記載の潤滑油組成物。

【公開番号】特開2011−162774(P2011−162774A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−2732(P2011−2732)
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【出願人】(000102670)NOKクリューバー株式会社 (36)
【Fターム(参考)】