説明

濃厚乳用の焦げ付き防止剤および焦げ付き防止方法

【課題】濃厚乳を加熱処理する際に生じる焦げ付きを有意に抑制するために好適に使用できる食品添加剤を提供する。また濃厚乳に対して加熱処理、特に超高温殺菌処理を施す際に生じる焦げ付きを有意に抑制する方法を提供する。
【解決手段】コハク酸モノグリセリドまたはクエン酸モノグリセリドの少なくとも1種と蒸留モノグリセリド、好ましくはさらにショ糖脂肪酸エステルを含有するか、これらを組み合わせて、濃厚乳用の焦げ付き防止剤として用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濃厚乳を加熱処理する際に生じる焦げ付きを有意に抑制するために好適に使用できる食品添加剤に関する。詳細には、本発明は濃厚乳をプレート殺菌、インジェクション殺菌、インフュージョン殺菌またはチューブラー殺菌といった加熱処理(超高温殺菌処理)に供する場合に生じる焦げ付きを有意に抑制するための食品添加剤(濃厚乳用焦げ付き防止剤)に関する。さらに本発明は、濃厚乳に対して上記加熱処理(超高温殺菌処理)を施す場合に生じる焦げ付きを有意に抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳素材は、豊かな栄養特性および生理特性、おいしさを示す優れた嗜好特性を持っているため、食品の調理に幅広く利用されている。例えば、乳素材は、食品への色付け(視覚)、味(味覚)、香り(嗅覚)及びテクスチャー(触覚)等の嗜好性を改良または向上するために、多くの食品に利用されている。
【0003】
かかる乳素材の効果は多岐にわたり、具体的には、例えば色白く仕上げる、よい焦げ色をつける(視覚)、コクのある旨みをつける、あと口をよくする(味覚)、生臭さを消す、香ばしい香りや芳醇な芳香をつける(嗅覚)、なめらかにする、粘稠性を与える、ゲル化に影響する、起泡性を付与する(テクスチャー)等を挙げることができる。
【0004】
乳素材には様々な形態の種類があるが、その中でも乳から水分を除去して粉末状に乾燥した粉乳は、液状乳と比較して保存性が著しく良好であること、輸送や貯蔵に非常に便利であること、さらに必要に応じて還元でき、濃度調整が簡便であることなどの利点があることから、食品に対してよく使用されている素材である。
【0005】
食品に添加して用いられる乳素材としては、上述のように製造した粉乳を還元、溶解し、調製した濃厚乳や、牛乳中の水分をエバポレーターで蒸発して作る濃縮乳といった、乳本来の成分が高濃度に含まれている素材、すなわち乳濃度の高い乳素材を挙げることができる。かかる乳素材は、食品に少量添加することによって乳本来の特性を食品に付与することができ、また添加量が少量で済むため、食品自体の味質に影響を与えにくいことから汎用されている。
【0006】
乳濃度の高い乳素材を用いた加工技術としては、例えば、無脂乳固形分と糖アルコールを含有した加工用濃縮乳を用いて、レトルト殺菌のような高温加熱殺菌を行いながらも乳本来の風味・コク味のあるホワイトソースを作成する方法(特許文献1)、特定の無脂乳固形分および乳脂肪分を含有する濃縮乳を用いて乳脂肪含有量の高いフレッシュチーズを作成する方法(特許文献2)、乳からイオンを一部除去し、低溶存酸素状態で加熱処理することによって、飲料などの原料に用いたときに生乳本来の口当たり、フレッシュ感、のど越し、後味に優れた濃縮乳や粉乳を作成する方法(特許文献3)等、従来から種々の方法が知られている。
【0007】
しかし、その一方で、乳濃度が高い濃厚乳は、乳飲料よりも乳含量が非常に多いため、食品に使用する際、加熱殺菌処理を行った場合に非常に焦げ付きが生じやすく、着色したり、また焦げ付いた臭いが付くといった問題、並びに加熱殺菌装置が目詰まりし処理工程が中断するといった問題が生じる。
【0008】
これを解決するための方法として、限外濾過膜を使用し、その後精密濾過膜を使用して濾過することにより、有意な熱処理なしに実質的に無菌の濃縮乳を製造する方法(特許文献4):UHT処理またはそれと同等の加熱殺菌処理を施した予熱処理の前後に、均質化処理を行わないか、或いは均質化処理を行う場合は、濃縮工程中に乳脂肪の分離を防止する程度の低圧の均質化処理を行う程度に留めて濃縮処理して濃縮乳を調製する方法(特許文献5):水中油型乳化油脂組成物全体中、乳化剤を0.15〜0.8重量%、有機酸塩を0.005〜0.5重量%、乳化剤として有機酸モノグリセリドを0.01〜0.5重量%の割合になるように配合して水中油型乳化油脂組成物を調製する方法(特許文献6):濃縮処理前に予熱処理し、濃縮処理前および濃縮処理後の少なくともいずれかで均質化処理を施し、さらに超高温短時間加熱処理して濃縮乳を調製するにあたって、炭酸水素ナトリウムを添加する方法(特許文献7):セルロースを含む乳飲料に、2種類以上の乳化剤を組み合わせて用いる方法(特許文献8):濃縮処理前に予熱処理し、濃縮処理前および濃縮処理後の少なくとも何れかで均質化処理を施され、さらに超高温短時間加熱処理して濃縮乳を調製するにあたって、リン酸塩を添加する方法(特許文献9):ナトリウム塩及びカリウム塩を添加して、無脂乳固形分の含有量が15質量%以上の濃縮牛乳状組成物を調製する方法(特許文献10):カリウムを0.3重量%以上及びナトリウムを配合し、且つ該ナトリウムと該カリウムとの重量比を1:1〜10として、無脂乳固形分が15質量%以下の濃縮牛乳状組成物を調製する方法(特許文献11):糖アルコールとポリグリセリン脂肪酸エステルを用いて乳飲料を調製する方法(特許文献12):乳蛋白質含有水中油型乳化物の調製において、水相中に糖アルコールを含有させ、且つ超高温瞬間(UHT)処理後に均質化処理を行う方法(特許文献13)などが提案されている。
【0009】
しかし、これらの方法では処理工程が煩雑であったり、焦げ付きを抑制する効果に改善の余地が認められた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−139343号公報
【特許文献2】特開2000−245341号公報
【特許文献3】特開2007−60901号公報
【特許文献4】特開2008−161181号公報
【特許文献5】特開2008−29278号公報
【特許文献6】特開2006−121921号公報
【特許文献7】特開2006−87358号公報
【特許文献8】特開2006−20580号公報
【特許文献9】特開2005−245281号公報
【特許文献10】特開2003−265102号公報
【特許文献11】特開2002−223697号公報
【特許文献12】特開2001−178360号公報
【特許文献13】特開平10−304821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述するように、牛乳よりも乳固形分濃度の高い濃厚乳は、加熱殺菌処理を行った際に非常に焦げ付き易く、着色や着臭による品質の低下ならびに処理工程の中断といった問題が生じるため、これらを改善する必要がある。
【0012】
そこで、本発明は、濃厚乳、特に粉乳や濃縮乳から調製される濃厚乳を加熱殺菌処理する際に生じる焦げ付きを有意に抑制するために有効な焦げ付き防止方法、ならびに当該方法において好適に使用される食品添加剤、すなわち濃厚乳用の焦げ付き防止剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記従来技術の問題点に鑑み、鋭意研究を重ねていたところ、濃厚乳、特に粉乳や濃縮乳を用いた濃厚乳の調製に、食品添加剤(濃厚乳用焦げ付き防止剤)として、特定の有機酸モノグリセリドと蒸留モノグリセリドを用いることにより、またこれに更にショ糖脂肪酸エステルを併用することにより、濃厚乳にプレート殺菌、インジェクション殺菌、インフュージョン殺菌またはチューブラー殺菌といった超高温殺菌処理を施した場合でも、焦げ付きが有意に抑制できることを見出し、これらの濃厚乳用焦げ付き防止剤を用いることにより、濃厚乳を焦げ付きなく(焦げ付きによる着色や着臭なく)加熱殺菌することができること、また焦げ付きによる装置の目詰まり、また目詰まりによる処理工程の中断が防止できることを確認した。
【0014】
本発明はかかる知見に基づいて完成したものであり、下記の実施態様を有する。
(I)濃厚乳の焦げ付き防止剤
(I-1).下記の(a)および(b)成分を含有するか、または個別包装された下記(a)および(b)成分を組み合わせてなることを特徴とする濃厚乳の焦げ付き防止剤:(a)コハク酸モノグリセリドまたはクエン酸モノグリセリドの少なくとも1種
(b)蒸留モノグリセリド。
【0015】
(I-2).下記の(a)〜(c)成分を含有するか、または個別包装された下記(a)〜(c)成分を組み合わせてなることを特徴とする濃厚乳の焦げ付き防止剤:
(a)コハク酸モノグリセリドまたはクエン酸モノグリセリドの少なくとも1種
(b)蒸留モノグリセリド
(c)ショ糖脂肪酸エステル。
【0016】
(I-3).ショ糖脂肪酸エステルが、HLB3〜7を有するものである(I-2)に記載する濃厚乳の焦げ付き防止剤。
【0017】
(I-4).(a)コハク酸モノグリセリドまたはクエン酸モノグリセリドの総量1質量部に対して(b)蒸留モノグリセリドを0.8〜20質量部の割合で、(a)および(b)成分を含有するか、または組み合わせてなることを特徴とする、(I-1)乃至(I-3)のいずれかに記載する濃厚乳の焦げ付き防止剤。
【0018】
(I-5).(a)コハク酸モノグリセリドまたはクエン酸モノグリセリドの総量1質量部に対して(b)蒸留モノグリセリドを0.8〜20質量部の割合、(c)ショ糖脂肪酸エステルを0.05〜6質量部の割合で、(a)〜(c)成分を含有するか、または組み合わせてなることを特徴とする、(I-2)または(I-3)に記載する濃厚乳の焦げ付き防止剤。
【0019】
(I-6).(c)ショ糖脂肪酸エステル1質量部に対して、(a)コハク酸モノグリセリドまたはクエン酸モノグリセリドを総量で0.1〜20質量部、および(b)蒸留モノグリセリドを0.7〜70質量部の割合で、(a)〜(c)成分を含有するか、または組み合わせてなることを特徴とする、(I-2)または(I-3)に記載する濃厚乳の焦げ付き防止剤。
【0020】
(I-7).プレート殺菌、インジェクション殺菌、インフュージョン殺菌、およびチューブラー殺菌からなる群から選択されるいずれかの加熱処理における濃厚乳の焦げ付きを防止するために使用される、(I-1)乃至(I-6)のいずれかに記載する濃厚乳の焦げ付き防止剤。
【0021】
(I-8).濃厚乳が、乳固形分濃度が12.6質量%より高いエマルジョン形態の液状物である(I-1)乃至(I-7)のいずれかに記載する濃厚乳の焦げ付き防止剤。
【0022】
(II)濃厚乳の焦げ付き防止方法
(II-1).(I-1)乃至(I-8)のいずれかに記載する濃厚乳の焦げ付き防止剤の存在下で、濃厚乳を加熱処理することを特徴とする、濃厚乳の焦げ付き防止方法。
【0023】
(II-2).下記の(a)または(b)成分の存在下で濃厚乳を加熱処理することを特徴とする、濃厚乳の焦げ付き防止方法:
(a)コハク酸モノグリセリドまたはクエン酸モノグリセリドの少なくとも1種
(b)蒸留モノグリセリド。
【0024】
(II-3).下記の(a)〜(c)成分の存在下で濃厚乳を加熱処理することを特徴とする、濃厚乳の焦げ付き防止方法:
(a)コハク酸モノグリセリドまたはクエン酸モノグリセリドの少なくとも1種
(b)蒸留モノグリセリド
(c)ショ糖脂肪酸エステル。
【0025】
(II-4).ショ糖脂肪酸エステルが、HLB3〜7を有するものである(II-3)に記載する方法。
【0026】
(II-5).(a)コハク酸モノグリセリドまたはクエン酸モノグリセリドの総量1質量部に対して(b)蒸留モノグリセリドを0.8〜20質量部の割合で、(a)および(b)成分を用いる、(II-2)乃至(II-4)のいずれかに記載する方法。
【0027】
(II-6).(a)コハク酸モノグリセリドまたはクエン酸モノグリセリドの総量1質量部に対して(b)蒸留モノグリセリドを0.8〜20質量部の割合、(c)ショ糖脂肪酸エステルを0.05〜6質量部の割合で、(a)〜(c)成分を用いる、(II-3)または(II-4)に記載する方法。
【0028】
(II-7).(c)ショ糖脂肪酸エステル1質量部に対して、(a)コハク酸モノグリセリドまたはクエン酸モノグリセリドを総量で0.1〜20質量部、および(b)蒸留モノグリセリドを0.7〜70質量部の割合で、(a)〜(c)成分を用いる、(II-3)または(II-4)に記載する方法。
【0029】
(II-8).加熱処理がプレート殺菌、インジェクション殺菌、インフュージョン殺菌、およびチューブラー殺菌からなる群から選択されるいずれかの処理である、(II-1)乃至(II-7)のいずれかに記載する方法。
【0030】
(II-9).濃厚乳が、乳固形分濃度が12.6質量%より高いエマルジョン形態の液状物である(II-1)乃至(II-8)のいずれかに記載する方法。
【0031】
(III)濃厚乳またはその加工物
(III-1).(II-1)乃至(II-9)のいずれかに記載する方法で処理して調製される、乳固形分濃度が12.6質量%より高いことを特徴とする濃厚乳、またはそれを原料として製造される乳を含む製品。
【発明の効果】
【0032】
本発明の食品添加剤(濃厚乳用の焦げ付き防止剤)および本発明の方法によれば、濃厚乳、特に粉乳や濃縮乳を用いて調製される濃厚乳を、加熱処理、特にプレート殺菌、インジェクション殺菌、インフュージョン殺菌、またはチューブラー殺菌といった超高温殺菌に供した場合に生じる焦げ付きを有意に抑制することができる。このため、本発明の食品添加剤(濃厚乳用の焦げ付き防止剤)および本発明の方法によれば、濃厚乳への焦げ付きによって発生する着色や着臭といった問題、濃厚乳の焦げ付きによって発生する殺菌装置の目詰まりおよびそれによる処理工程の中断といった問題を抑制および解消することができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
(I)濃厚乳の定義
本発明が対象とする濃厚乳は、含有する乳濃度が、乳固形分濃度(無脂乳固形分と乳脂肪分を含む)に換算した場合に牛乳の12.6質量%よりも多いことを特徴とするエマルジョン形態の液状物である。
【0034】
本発明が対象とする濃厚乳は、上記の範囲において、使用目的に応じて乳濃度を適宜設定することができる。ところで、乳濃度は、通常「乳固形分濃度」として表示する場合と、「牛乳換算濃度」として表示する場合がある。ここで「乳固形分濃度」とは、濃厚乳に含まれる水分を除くその他の成分を合計した絶対濃度を意味する。なお、普通牛乳の乳固形分濃度は12.6質量%である。また「牛乳換算濃度」とは、五訂日本食品標準成分表(大蔵省印刷局発行、発行日平成12年12月20日)にて規定されている普通牛乳を基準とする濃度を意味する。例えば、牛乳換算濃度100%とは牛乳そのもの(乳固形分濃度が普通牛乳と同じ12.6質量%である液体)を指し、牛乳換算濃度200%とは牛乳の2倍の濃度(乳固形分を25.2質量%(乳固形分濃度が普通牛乳の2倍)含有する液体)を指す。
【0035】
本発明が対象とする濃厚乳の乳濃度は、牛乳のそれより高ければ制限はされず、乳固形分濃度に換算した場合、12.6質量%より多く31質量%以下、好ましくは13〜30.2質量%の範囲にあることが望ましい。また牛乳換算濃度に換算した場合、100質量%より多く240質量%以下、好ましくは103〜240質量%の範囲にあることが望ましい。
【0036】
本発明が対象とする好適な濃厚乳は、乳固形分濃度が上記範囲になるように、粉乳または濃縮乳から調製されるものである。ここで粉乳とは、乳から水分を除去して粉末状に乾燥したものであり、具体的には、脱脂粉乳、全粉乳、調製粉乳、加糖粉乳、クリームパウダー、ホエーパウダー、およびバターミルクパウダーを挙げることができる。粉乳として好ましくは脱脂粉乳である。また濃縮乳とは、牛乳や乳製品をエバポレーターで減圧濃縮又は膜濾過により濃縮した乳素材であり、具体的には、脱脂濃縮乳、全脂濃縮乳、脱脂加糖練乳、全脂加糖練乳、脱脂無糖練乳、および全脂無糖練乳などを挙げることができる。
【0037】
本発明が対象とするより好ましい濃厚乳は、上記粉乳のうち脱脂粉乳を原料として調製されるものである。ここで脱脂粉乳は、常法により製造されたものを用いることができる。通常、脱脂粉乳は原料乳を浄化処理し、クリームと脱脂乳に分離し、その後、冷却、貯乳、殺菌工程を経て、次いで濃縮、乾燥工程を経る。その後、粒子の湿潤性、分散性、沈降性、溶解性を付与するために、通常造粒工程を経て製造される。造粒(インスタント化)された脱脂粉乳は、加湿し気流造粒により作られるため、多孔質で、表面積は大きく、平均粒子はおよそ200μmである。本発明で使用される脱脂粉乳は商業的に入手可能であり、森永乳業株式会社製の脱脂粉乳や雪印乳業株式会社製の脱脂粉乳等を挙げることができる。
【0038】
(II)濃厚乳用焦げ付き防止剤
本発明の濃厚乳用焦げ付き防止剤は、上記の濃厚乳の加熱処理において生じる焦げ付きを有意に抑制するために使用される食品添加剤であって、下記(a)および(b)成分を含有するか、または個別包装された下記(a)および(b)成分を個々に組み合わせてなることを特徴とする:
(a)コハク酸モノグリセリドまたはクエン酸モノグリセリドの少なくとも1種
(b)蒸留モノグリセリド。
【0039】
本発明で使用するコハク酸モノグリセリドおよびクエン酸モノグリセリドは、有機酸モノグリセリドの一種であり、モノグリセリドに有機酸であるコハク酸またはクエン酸をエステル結合してなるものである。かかるコハク酸モノグリセリドおよびクエン酸モノグリセリド(以下、これらの2つを総称して「有機酸モノグリセリド」ともいう)は商業的に入手可能である。例えば、コハク酸モノグリセリドは花王株式会社製のステップSS(商品名)や理研ビタミン株式会社製のポエムB−10(商品名)等を、またクエン酸モノグリセリドは理研ビタミン株式会社製のポエムK−30FN(商品名)や太陽化学株式会社製のサンソフトNo.621B(商品名)等を挙げることができる。
【0040】
本発明で使用する蒸留モノグリセリドは、モノグリセリドを分子蒸留したものであり、モノグリセリド含量が90質量%以上100質量%以下、好ましくはモノグリセリド含量が95質量%以上100質量%以下のものである。かかる蒸留モノグリセリドは商業的に入手可能であり、例えば、花王株式会社製のエキセルT−95(商品名)や太陽化学株式会社のサンソフト8000(商品名)等を挙げることができる。
【0041】
本発明の濃厚乳用焦げ付き防止剤中に配合されるか、または濃厚乳用焦げ付き防止剤として組み合わせて用いられる上記(a)有機酸モノグリセリドと(b)蒸留モノグリセリドの割合は、適宜調節することが可能であるが、例えば有機酸モノグリセリド総量1質量部に対する蒸留モノグリセリドの割合として、0.8〜20質量部、好ましくは1〜12質量部、より好ましくは1〜9質量部を例示することができる。
【0042】
すなわち、本発明の濃厚乳用焦げ付き防止剤は、濃厚乳の加熱処理において、濃厚乳(総量100質量%)中における(b)蒸留モノグリセリドの割合が、(a)有機酸モノグリセリド総量1質量部に対して、0.8〜20質量部、好ましくは1〜12質量部、より好ましくは1〜9質量部となるように使用されることが好ましい。
【0043】
この限りにおいて、加熱処理される濃厚乳(総量100質量%)中の上記(a)と(b)成分の濃度は特に制限されない。例えば、(a)有機酸モノグリセリドは、濃厚乳(総量100質量%)中、総量で0.08〜1質量%、好ましくは0.08〜0.9質量%、より好ましくは、0.15〜0.7質量%の割合で使用することができ、(b)蒸留モノグリセリドは、当該濃厚乳中の(a)有機酸モノグリセリドの総量に対して、前述する配合割合になるように使用することができる。
【0044】
また本発明の濃厚乳用焦げ付き防止剤は、上記(a)有機酸モノグリセリドおよび(b)蒸留モノグリセリドに加えて、(c)ショ糖脂肪酸エステルを含有するか、または別個に個別包装された(c)ショ糖脂肪酸エステルを組み合わせてなるものであってもよい。
【0045】
本発明で使用するショ糖脂肪酸エステルは、HLB3〜7、好ましくはHLB5〜6、特に好ましくはHLB5のものである。その構成脂肪酸としては主としてステアリン酸を有するものを挙げることができる。その割合は特に制限されないが、通常7割程度を挙げることができる。ショ糖脂肪酸エステルの由来は特に制限されないが、通常、サトウキビとパームを挙げることができる。かかるショ糖脂肪酸エステルは、商業的に入手可能であり、例えば三菱化学フーズ株式会社製のエステルS−570(商品名)や第一工業製薬株式会社製のDKエステルF−50(商品名)等を挙げることができる。
【0046】
(a)有機酸モノグリセリドおよび(b)蒸留モノグリセリドに加えて(c)ショ糖脂肪酸エステルを併用する場合、(a)成分の総量1質量部に対するショ糖脂肪酸エステルの割合として0.05〜6質量部を例示することができる。すなわち、(a)〜(c)成分を含有する本発明の濃厚乳用焦げ付き防止剤は、濃厚乳の加熱処理において、濃厚乳(総量100質量%)中における(c)ショ糖脂肪酸エステルの割合が、(a)有機酸モノグリセリドの総量1質量部に対して、0.05〜6質量部となるように使用されることが好ましい。
【0047】
この限りにおいて、加熱処理される濃厚乳(総量100質量%)中の上記(a)〜(c)成分の濃度は特に制限されない。例えば、(a)有機酸モノグリセリドは、濃厚乳(総量100質量%)中、前述するように、総量で0.08〜1質量%、好ましくは0.08〜0.9質量%、より好ましくは、0.15〜0.7質量%の割合で使用することができ、(c)ショ糖脂肪酸エステルは、当該濃厚乳中の(a)有機酸モノグリセリドの総量に対して、前述する配合割合になるように使用することができる。
【0048】
またショ糖脂肪酸エステル1質量部に対する有機酸モノグリセリドの割合として、0.1〜20質量部、好ましくは0.7〜3質量部を、またショ糖脂肪酸エステル1質量部に対する蒸留モノグリセリドの割合として、0.7〜70質量部、好ましくは1〜25質量部を例示することができる。
【0049】
すなわち、本発明の濃厚乳用焦げ付き防止剤は、濃厚乳の加熱処理において、濃厚乳(総量100質量%)中における(a)有機酸モノグリセリドの割合が、(c)ショ糖脂肪酸エステル1質量部に対して、0.1〜20質量部、好ましくは0.7〜3質量部となるように用い、また(b)蒸留モノグリセリドの割合が、(c)ショ糖脂肪酸エステル1質量部に対して、0.7〜70質量部、好ましくは1〜25質量部となるように使用されることが好ましい。
【0050】
この限りにおいて、加熱処理される濃厚乳(総量100質量%)中の上記(a)〜(c)成分の濃度は特に制限されない。例えば、(c)ショ糖脂肪酸エステルは、濃厚乳(総量100質量%)中、0.01〜0.9質量%、好ましくは、0.01〜0.5質量%の割合で使用することができ、(a)有機酸モノグリセリドおよび(b)蒸留モノグリセリドは、当該濃厚乳中の(c)ショ糖脂肪酸エステルに対して、前述する配合割合になるように使用することができる。
【0051】
本発明の濃厚乳用焦げ付き防止剤は、上記(a)と(b)成分、またはこれに更に(c)成分を組み合わせてなるものであってもよいが、本発明の効果を妨げない限りにおいて、これにpH調整剤、重曹、有機酸塩、増粘多糖類、香料、色素、酸化防止剤、日持ち向上剤、保存料、糖類等の添加剤を配合するか、または併用することも出来る。これらの添加剤を用いる場合、これらの配合量としては、上限として、糖類(増粘多糖類は含まない)については20質量%、それ以外の成分については1質量%を挙げることができる。
【0052】
本発明の濃厚乳用焦げ付き防止剤は、濃厚乳の加熱処理に好適に使用することができる。具体的には、本発明の濃厚乳用焦げ付き防止剤の存在下で加熱処理して調製される濃厚乳は、加熱殺菌処理、特に、例えばプレート殺菌、インジェクション殺菌、インフュージョン殺菌、またはチューブラー殺菌といった超高温殺菌処理に供した場合でも、当該濃厚乳用焦げ付き防止剤非存在下で処理した場合に生じる焦げ付きが有意に抑制でき、焦げ付きによって発生する着色や着臭のない殺菌濃厚乳として提供することができる。
【0053】
なお、プレート殺菌は、食品(濃厚乳)をプレート殺菌機と呼ばれる殺菌処理機械のプレート間に通過させることによって殺菌する方法である。プレートにより、食品(濃厚乳)が通過する部分と蒸気が通過する部分とが交互に仕切られており、プレート間を通過する食品が蒸気によって間接的に瞬間的に加熱されるようになっている(例えば140℃で7秒間処理など)。インジェクション殺菌は、食品(濃厚乳)中に直接高温の蒸気を吹き込むことによって殺菌する方法であり、またインフュージョン殺菌は、高温の蒸気が充満した容器の内部に、食品(濃厚乳)を吹き込むことによって殺菌する方法である(例えば140℃で7秒間殺菌処理など)。またチューブラー殺菌は、二重構造のパイプに蒸気と食品(濃厚乳)を流して加熱する殺菌方法であり(例えば138℃で3秒間処理など)、いずれも流動状の食品の殺菌に使用される慣用の加熱殺菌処理である。
【0054】
また本発明の濃厚乳用焦げ付き防止剤の存在下で加熱処理して調製される濃厚乳は、上記の超高温殺菌処理に供した場合でも、乳化粒子のメジアン径を21μm以下、好ましくは12μm以下、より好ましくは9μm以下に維持することができ、ざらつきのない滑らかな食感を保有している。
【0055】
(III)濃厚乳の焦げ付き防止方法
本発明の濃厚乳の焦げ付き防止方法は、前述する濃厚乳の焦げ付き防止剤の存在下で、濃厚乳を加熱処理することによって実施することができる。具体的には、下記の(a)および(b)成分または(a)〜(c)成分の存在下で濃厚乳を加熱処理することによって実施することができる:
(a)有機酸モノグリセリド
(b)蒸留モノグリセリド
(c)ショ糖脂肪酸エステル。
【0056】
かかる(a)〜(c)の各成分は、(II)で説明した通りであり、濃厚乳を加熱処理する際に用いるこれらの各成分の割合、ならびに(a)成分に対する(b)と(c)成分の割合、または(c)成分に対する(a)と(b)成分の割合も(II)で説明した割合を同様に用いることができる。
【0057】
対象とする加熱処理としては、好適に加熱殺菌処理を挙げることができる。好ましくは、プレート殺菌、インジェクション殺菌、インフュージョン殺菌、およびチューブラー殺菌からなる群から選択されるいずれかの超高温殺菌処理である。各殺菌処理の説明およびその条件も(II)に記載した通りである。
【0058】
本発明の濃厚乳用焦げ付き防止方法は、前述するように濃厚乳の加熱殺菌処理に好適に使用することができる。具体的には、本発明の濃厚乳用焦げ付き防止方法に基づいて加熱処理して調製される濃厚乳は、例えばプレート殺菌、インジェクション殺菌、インフュージョン殺菌、またはチューブラー殺菌といった超高温殺菌処理に供した場合でも、当該濃厚乳用焦げ付き防止剤非存在下で処理した場合に生じる焦げ付きが有意に抑制でき、焦げ付きによって発生する着色や着臭のない殺菌濃厚乳として提供することができる。
【0059】
また本発明の濃厚乳用焦げ付き防止方法に基づいて加熱処理して調製される濃厚乳は、上記の超高温殺菌処理に供した場合でも、乳化粒子のメジアン径を21μm以下、好ましくは12μm以下、より好ましくは9μm以下に維持することができ、ざらつきのない滑らかな食感を保有している。
【0060】
(IV)濃厚乳およびそれを原料として調製される乳を含む製品
本発明の濃厚乳は、上記本発明の濃厚乳用焦げ付き防止剤、すなわち下記(a)成分と(b)成分、または(a)〜(c)成分を含有する濃厚乳用焦げ付き防止剤、または個別包装された下記(a)成分と(b)成分を個々に組み合わせてなるか、またはこれらに更に(c)成分を組み合わせてなる濃厚乳用焦げ付き防止剤を用いて加熱処理、特に加熱殺菌処理して調製することができる:
(a)有機酸モノグリセリド
(b)蒸留モノグリセリド
(c)ショ糖脂肪酸エステル。
【0061】
かかる濃厚乳用焦げ付き防止剤の濃厚乳原料への配合時期は、濃厚乳を加熱処理、特に加熱殺菌処理する前であればよく、特に制限されない。
【0062】
ところで本発明の濃厚乳用焦げ付き防止剤は、濃厚乳の加熱処理において、濃厚乳(総量100質量%)中における(a)有機酸モノグリセリドの割合が、(c)ショ糖脂肪酸エステル1質量部に対して、0.1〜20質量部、好ましくは0.7〜3質量部となるように用い、また(b)蒸留モノグリセリドの割合が、(c)ショ糖脂肪酸エステル1質量部に対して、0.7〜70質量部、好ましくは1〜25質量部となるように使用されることが好ましい。このため、濃厚乳の調製に使用される当該濃厚乳用焦げ付き防止剤は、(c)ショ糖脂肪酸エステル1質量部に対して(a)有機酸モノグリセリドを0.1〜20質量部、好ましくは0.7〜3質量部含み、また(c)ショ糖脂肪酸エステル1質量部に対して(b)蒸留モノグリセリドを0.7〜70質量部、好ましくは1〜25質量部含むものであることが好ましい。
【0063】
この限りにおいて、加熱処理される濃厚乳(総量100質量%)中の上記(a)〜(c)成分の濃度は特に制限されない。例えば、(c)ショ糖脂肪酸エステルは、濃厚乳(総量100質量%)中、0.01〜0.9質量%、好ましくは、0.01〜0.5質量%の割合で使用することができ、(a)有機酸モノグリセリドおよび(b)蒸留モノグリセリドは、当該濃厚乳中の(c)ショ糖脂肪酸エステルに対して、前述する配合割合になるように使用することができる。
【0064】
なお、上記で説明する濃厚乳の調製方法は、濃厚乳用焦げ付き防止剤との認識の有無を問わず、個別包装された上記(a)成分と(b)成分、または(a)〜(c)成分を濃厚乳原料に個々に配合することによって、濃厚乳を調製する方法を包含するものである。
【0065】
本発明に係る濃厚乳は焦げ付き防止剤として、本発明の濃厚乳用焦げ付き防止剤、具体的には上記(a)と(b)成分、または(a)〜(c)成分を添加すること以外は、前述する粉乳または濃縮乳を用いて常法により製造することができる。具体的には、牛乳や水に、粉乳または濃縮乳などの乳原料、必要に応じて乳固形分濃度を調整するなどの目的でバターや全脂粉乳等の脂肪分、並びに本発明の濃厚乳用焦げ付き防止剤(すなわち上記(a)と(b)成分、または(a)〜(c)成分)を添加し、混合し、均質化処理を施した前もしくは後に、殺菌処理することにより製造することができる。
【0066】
ここで混合処理は、制限はされないが、約40℃のお湯に脱脂粉乳等の乳原料と本発明の濃厚乳用焦げ付き防止剤を加え、更に、必要に応じてバターを加えて、75℃まで加温し、75℃で10分間攪拌混合し、溶解する方法を例示することができる。
【0067】
ここで混合処理は、制限されないが、例えば温水にバター及び濃厚乳用焦げ付き防止剤を添加し、75℃以上に昇温後、10分間攪拌し溶解したバター及び濃厚乳用焦げ付き防止剤と、水または温湯に脱脂粉乳を溶解した脱脂粉乳溶液とを混合し、調製する方法を例示することが出来る。ここで、濃厚乳用焦げ付き防止剤は、バター溶液を調製する際に添加溶解することなく、別途、濃厚乳用焦げ付き防止剤として調製し、その後、脱脂粉乳溶液を含めた三液を混合処理する方法、バター溶解液に脱脂粉乳および濃厚乳用焦げ付き防止剤を添加・溶解して調整する方法、或いは脱脂粉乳・濃厚乳用焦げ付き防止剤含有溶液とバター溶解液の二液を混合し、調製する方法等、いずれの方法でも良い。
【0068】
均質化処理は、常法により行うことができるが、具体的には、ホモジナイザーを用い、65〜90℃の条件下、5MPa以上25MPa未満の圧力で処理する方法を例示することができる。好ましくは、温度を65〜80℃の条件に設定し、トータル圧力10〜25MPa未満、第二段圧力0〜5MPa以下の圧力でホモジナイズする方法を用いることができる。
【0069】
殺菌処理は、乳を含む製品に使用される常法に従って行うことができる。一般的に、超高温殺菌は加熱熱量が大きいため、タンパク質に負担がかかり、タンパク質の変性・凝集が起こりやすくなるため、乳を含む製品の殺菌方法としては、超高温短時間加熱殺菌(UHT殺菌)がよく用いられる。しかし、本発明の食品添加剤(濃厚乳用焦げ付き防止剤)を用いると、UHT殺菌を行った場合でも、濃厚乳中に含まれる乳化粒子の粒子径が大きくならず、小さい状態を維持することができる。
【0070】
本発明の濃厚乳は、乳濃度が、乳固形分濃度に換算した場合、12.6質量%より多く30.2質量%以下、好ましくは13〜30.2質量%の範囲にあるものであり、また牛乳換算濃度に換算した場合に100質量%より多く240質量%以下、好ましくは103〜240質量%の範囲にあるものである。また、本発明の濃厚乳は、本発明の濃厚乳用焦げ付き防止剤(すなわち前述する(a)と(b)成分、または(a)〜(c)成分)を用いて上記の方法に従って加熱処理(加熱殺菌処理)して調製されるものであって、加熱処理(加熱殺菌処理)後の乳化粒子のメジアン径が21μm以下、好ましくは12μm以下、より好ましくは4μm以上9μm以下であることを特徴とする。
【0071】
このため、本発明の濃厚乳は、長期間にわたって乳化安定性に優れ、舌触り(食感)が滑らかであることを特徴とする。
【0072】
当該濃厚乳は、市場に流通する乳を含む製品の製造に使用される原料(中間原料)として使用される。濃厚乳を原料として製造される乳を含む製品としては、「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」で、規定されている加工乳及び乳製品(アイスクリーム類、はっ酵乳、乳酸菌飲料、乳飲料などを含む)、清涼飲料(ココア飲料、コーヒー飲料、コーヒー入り清涼飲料、ミルクティー)、及び乳等を主要原料とする食品(ホイップクリーム、ホワイトナー、ソフトクリーム用ミックス、アイスクリーム用ミックスなどを含む)等を挙げることができる。
【実施例】
【0073】
以下、本発明の内容を以下の実施例、比較例等を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。なお、処方中、特に記載がない限り単位は「質量%」とし、文中「*」印のものは三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製、文中「※」は三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の登録商標であることを示す。
【0074】
実験例1:濃厚乳の作成とその評価
表1に実施例1〜12および比較例1および2の濃厚乳の処方を示す。
<調製方法>
(1)表1に記載する各成分のうち、まず脱脂粉乳を40〜45℃まで加温した温湯に溶融し、脱脂粉乳溶液(第1液)を調製した。次いで、無塩バターとコハク酸モノグリセリド(またはクエン酸モノグリセリド)および蒸留モノグリセリドを温湯に添加して混合し、75℃で10分間撹拌混合した(第2液)。なお、比較例1は無塩バターとコハク酸モノグリセリド、比較例2は無塩バターとコハク酸モノグリセリドおよびショ糖脂肪酸エステルを同様に温湯に添加して混合し、75℃で10分間撹拌混合して第2液を調製した。第1液と第2液を混合し、水で全量を調整した。
(2)上記で調製した混合液を、下記の条件でプレート殺菌を行った(殺菌条件:140℃で15秒間)。
<プレート殺菌>
装置:プレート殺菌機(マイクロサーミクス社製)
流速:0.67L/min
製品温度:140℃に設定
ホールディングチューブの時間(チューブ内での保留時間):15秒間に設定
ユーティリティ温度:143℃に設定
二次圧(殺菌機出口にかかる圧力):0.4MPa.
(3)プレート殺菌スタートから1分毎にサンプリングして、二次圧、製品温度、ユーティリティ温度を測定し、製品温度が30℃になった時点で全製品(濃厚乳)を取り出した。
【0075】
【表1】

【0076】
<評価方法>
殺菌処理後、製品温度が30℃になった時点で、プレートを分解し、プレートへの濃厚乳の焦げ付き具合を目視と臭いの両方から確認した。結果を表2に示す。
【0077】
【表2】

【0078】
この結果から、濃厚乳の焦げ付きはコハク酸モノグリセリド単独(比較例1)またはコハク酸モノグリセリドとショ糖脂肪酸エステルを併用しても(比較例2)防止できなかったのに対して、コハク酸モノグリセリドまたはクエン酸モノグリセリドに蒸留モノグリセリドを併用することで、有意に抑制できることが判明した(実施例1〜12)。具体的には、コハク酸モノグリセリド1質量部に対して蒸留モノグリセリドを0.85〜18質量部の割合で併用することで、濃厚乳の焦げ付きが抑制できることが確認された。
【0079】
実験例2:濃厚乳の作成とその評価
表3および4に、実施例13〜31の濃厚乳の処方を示す。
上記実験例1に記載する方法に従って、同様に濃厚乳用焦げ付き防止剤を配合した濃厚乳を調製した。これを、上記と同一条件でプレート殺菌を行い(殺菌条件:140℃15秒間)、殺菌処理後、製品温度が30℃になった時点で、プレートを分解し、プレートへの濃厚乳の焦げ付き具合を目視と臭いの両方から確認した。結果を表3および表4に併せて示す
【0080】
【表3】

【0081】
【表4】

【0082】
この結果から、濃厚乳の焦げ付きはコハク酸モノグリセリドと蒸留モノグリセリドに加えて、ショ糖脂肪酸エステルを併用することで、有意に抑制できることが判明した(実施例13〜31)。具体的には、コハク酸モノグリセリド1質量部に対して蒸留モノグリセリドを1〜12.1質量部の割合で、またショ糖脂肪酸エステルを0.06〜5.45質量部の割合で併用することで焦げ付きを抑制することができることが確認された。またこれをショ糖脂肪酸エステル1質量部に対する割合に換算すると、ショ糖脂肪酸エステル1質量部に対して、コハク酸モノグリセリドを0.18〜16.5質量部、蒸留モノグリセリドを0.78〜70質量部の割合で併用することで焦げ付きを抑制することができることが確認された。
【0083】
実験例3:濃厚乳の作成とその評価
表5に、実施例32〜38および比較例2の濃厚乳の処方を示す。
【0084】
【表5】

【0085】
<調製方法>
(1)表5に記載する各成分のうち、まず脱脂粉乳を40〜45℃まで加温した温湯に溶融し、脱脂粉乳溶液を調製した(第1液)。次いで、無塩バターとショ糖脂肪酸エステル、コハク酸脂肪酸エステルおよび蒸留モノグリセリドを温湯に添加して混合し、75℃で10分間撹拌混合した(第2液)。得られた二液を混合し、更に水で全量を調整して濃厚乳用焦げ付き防止剤を配合した濃厚乳を調製した。次いで、後述の方法を用いて殺菌前の濃厚乳のメジアン径を測定した。
【0086】
(2)上記で調製した濃厚乳を、実験例1と同一条件でプレート殺菌を行った(殺菌条件:140℃15秒間)。製品温度が30℃になった時点で、プレートを分解し、プレートへの濃厚乳の焦げ付き具合を目視と臭いの両方から確認した。
【0087】
<評価方法>
(1)殺菌処理後、製品温度が30℃になった時点で、プレートを分解し、プレートへの濃厚乳の焦げ付き具合と付着具合を目視と臭いの両方から確認した。
【0088】
(2)殺菌後、得られた各濃厚乳の乳化粒子の粒子径を、メジアン径(d50)を測定して比較した。メジアン径の測定には島津製作所製のレーザー回折式粒度分布計(形式:SALD2100)を用いた。測定条件としては、温度:室温、屈折率:1.70〜0.20i、セル:バッチセル、測定範囲:0.03〜1000μm、粒度分布:体積基準で測定を行った。メジアン径(d50)は乳化粒子の粒子径を大きさ順にならべ、これを2つに分けたときに大きい側と小さい側が等量になる径(μm)をいい、真の中心の位置を表す。従って、値が小さいものほど乳化粒子の粒子径が小さいことを示す。
【0089】
(3)ざらつきの測定
プレート殺菌した濃厚乳について、容器への付着具合や口に含んだ際の食感を、殺菌前の濃厚乳と比較した。その結果から、殺菌前の濃厚乳よりも容器への付着具合が大きい場合やざらつきが大きい場合に、「ざらつきあり」と評価した。
【0090】
(4)臭いの測定
プレート殺菌した濃厚乳を一夜冷蔵庫に保存し、その一部を口に含んだ際の臭いを評価した。結果を表6に示す。
【0091】
【表6】

【0092】
この結果から、実験例2と同様に、ショ糖脂肪酸エステル、コハク酸モノグリセリドおよび蒸留モノグリセリドの3成分を組み合わせて濃厚乳に配合することにより、濃厚乳を加熱殺菌した場合の焦げ付きを有意に抑制することができることがわかる。なお、調製した濃厚乳の乳化粒子の粒子径(メジアン径)が大きくなるほど、プレートに付着しやすくなる傾向があり、焦げ付きの原因になると考えられた。逆に乳化粒子の粒子径が小さいと加熱処理装置内を流れやすい為、焦げ付きが生じにくいと考えられる。かかる乳化粒子の粒子径としては、21μm程度以下(実施例32〜38)、好ましくは12μm程度以下(実施例32〜36)を挙げることができる。
【0093】
実施例39:濃厚乳(乳固形分濃度16.36%)
<濃厚乳処方(質量%)>
脱脂粉乳 10.7
バター 7.2
ショ糖脂肪酸エステル 0.11
コハク酸モノグリセリド 0.165
蒸留モノグリセリド 0.7
蒸留水にて合計 100.0。
【0094】
(1)上記処方成分のうちショ糖脂肪酸エステル、コハク酸脂肪酸エステルおよび蒸留モノグリセリドを混合し、濃厚乳用焦げ付き防止剤を調製した。
(2)別途、脱脂粉乳を50℃の温湯で攪拌溶解した。
(3)別途、バターを70℃の湯で溶解した。
(4)上記(1)、(2)、(3)を混合し、更に全量を蒸留水にて100質量%とした。
(5)この溶液を75℃で10分間攪拌混合した。その後、プレート殺菌機にて130℃2秒間の加熱殺菌を行った後、ホモジナイザーにて圧力(トータル:20MPa、第二段:5MPa)で均質化処理した。次いで、10℃まで冷却後、容器に充填し、乳濃度が、乳固形分濃度で16.36質量%の濃厚乳を調製した。
【0095】
本濃厚乳は、ざらつき感と特有の臭気がなく、好ましい性状であった。また殺菌後のプレートに焦げ付きは見られなかった。
【0096】
実施例40:ストロベリー乳飲料(乳固形分濃度:7.02質量%)
<ストロベリー乳飲料処方(質量%)>
濃厚乳(実施例8:乳固形分濃度16.36%) 42.9
砂糖 4.0
ストロベリー果汁(ストレート) 5.0
乳化剤(ホモゲン※No.897*) 0.2
10%(W/V)炭酸水素ナトリウム 適宜(pH6.8に調整)
蒸留水にて合計 100.0。
【0097】
(1)上記処方成分のうち、濃厚乳を実施例39と同様に調製した。
(2)次いで、砂糖と乳化剤を70℃の湯で溶解し、上記(1)の濃厚乳と混合した。
(3)別途、常温の蒸留水にストロベリー果汁を加え、攪拌後、10%(W/V)炭酸水素ナトリウム溶液でpHを6.8に調整した。
(4)上記(2)及び(3)を75℃で10分間混合した後、全量を蒸留水にて100質量%とした。
(5)上記(4)をホモジナイザーにて品温75℃、圧力(トータル:15MPa、第二段:5MPa)で均質化処理した後、130℃2秒間の加熱殺菌を行った。次いで、10℃まで冷却後、容器に充填し、乳濃度が、乳固形分濃度で7.02質量%のストロベリー乳飲料を調製した。本ストロベリー乳飲料はざらつき感と特有の臭気がなく、好ましい性状であった。
【0098】
実施例41:コーヒー乳飲料(乳固形分濃度:10.91質量%)
(A)濃厚乳の調製
<濃厚乳処方(質量%)>
脱脂粉乳 10.7
バター 7.2
ショ糖脂肪酸エステル 0.11
コハク酸モノグリセリド 0.165
蒸留モノグリセリド 0.7
蒸留水にて合計 100.0。
【0099】
(1)上記処方成分のうちショ糖脂肪酸エステル、コハク酸脂肪酸エステルおよび蒸留モノグリセリドを混合し、濃厚乳用焦げ付き防止剤を調製した。
(2)別途、脱脂粉乳を50℃の温湯で攪拌溶解した。
(3)別途、バターを70℃の湯で攪拌溶解した。
(4)上記(1)、(2)、(3)を混合し、更に全量を蒸留水にて100質量%とした。
(5)上記(4)を75℃で10分間攪拌混合した。その後、プレート殺菌機にて130℃2秒間の加熱殺菌を行った後、ホモジナイザーにて圧力(トータル:20MPa、第二段:5MPa)で均質化処理し、乳濃度が、乳固形分濃度で16.36質量%の濃厚乳を調製した。
【0100】
本濃厚乳は、ざらつき感と特有の臭気がなく、好ましい性状であった。また殺菌後のプレートに焦げ付きは見られなかった。
【0101】
(B)コーヒー溶液の調製
<コーヒー溶液処方(質量%)>
粉末インスタントコーヒー 6.0
乳化剤(ホモゲン※No.897*) 0.6
砂糖 13.9
蒸留水にて合計 100.0。
【0102】
(1)上記処方成分のうち、20部の常温の蒸留水に粉末インスタントコーヒーを溶解し、約10℃まで冷却した。
(2)40部の約50℃の蒸留水に乳化剤を添加し、75℃ 10分間攪拌溶解後、10℃以下に冷却した。
(3)15部の50℃の蒸留水に砂糖を添加し攪拌溶解後10℃まで冷却し、(1)液、(2)液、(3)液を攪拌混合後、全量を蒸留水にて100質量%としコーヒー溶液を調製した。
【0103】
(C)コーヒー乳飲料の調製
(A)で調製した濃厚乳(10℃)と(B)で調製したコーヒー溶液(10℃)を(A):(B)=2:1(重量比)の割合で混合し、この溶液をホモジナイザーにて品温75℃、圧力(トータル:15MPa、第二段:5MPa)で均質化処理した後、プレート殺菌機にて140℃2秒間の加熱殺菌を行い、容器に充填して冷蔵し、乳固形分濃度で10.91質量%のコーヒー乳飲料を調製した。
【0104】
本コーヒー乳飲料はざらつき感と特有の臭気がなく、好ましい性状であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(a)および(b)成分を含有するか、または個別包装された下記(a)および(b)成分を個々に組み合わせてなることを特徴とする濃厚乳の焦げ付き防止剤:
(a)コハク酸モノグリセリドまたはクエン酸モノグリセリドの少なくとも1種
(b)蒸留モノグリセリド。
【請求項2】
下記の(a)〜(c)成分を含有するか、または個別包装された下記(a)〜(c)成分を個々に組み合わせてなることを特徴とする濃厚乳の焦げ付き防止剤:
(a)コハク酸モノグリセリドまたはクエン酸モノグリセリドの少なくとも1種
(b)蒸留モノグリセリド
(c)ショ糖脂肪酸エステル。
【請求項3】
ショ糖脂肪酸エステルが、HLB3〜7を有するものである請求項2に記載する濃厚乳の焦げ付き防止剤。
【請求項4】
(a)コハク酸モノグリセリドまたはクエン酸モノグリセリドの総量1質量部に対して(b)蒸留モノグリセリドを0.8〜20質量部の割合で、(a)および(b)成分を含有するか、または組み合わせてなることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載する濃厚乳の焦げ付き防止剤。
【請求項5】
(a)コハク酸モノグリセリドまたはクエン酸モノグリセリドの総量1質量部に対して(b)蒸留モノグリセリドを0.8〜20質量部の割合、(c)ショ糖脂肪酸エステルを0.05〜6質量部の割合で、(a)〜(c)成分を含有するか、または組み合わせてなることを特徴とする、請求項2または3に記載する濃厚乳の焦げ付き防止剤。
【請求項6】
(c)ショ糖脂肪酸エステル1質量部に対して、(a)コハク酸モノグリセリドまたはクエン酸モノグリセリドの少なくとも1種を0.1〜20質量部、および(b)蒸留モノグリセリドを0.7〜70質量部の割合で、(a)〜(c)成分を含有するか、または組み合わせてなることを特徴とする、請求項2または3に記載する濃厚乳の焦げ付き防止剤。
【請求項7】
プレート殺菌、インジェクション殺菌、インフュージョン殺菌、およびチューブラー殺菌からなる群から選択されるいずれかの加熱処理における焦げ付きを防止するために使用される、請求項1乃至6のいずれかに記載する濃厚乳の焦げ付き防止剤。
【請求項8】
下記の(a)および(b)成分の存在下で濃厚乳を加熱処理することを特徴とする、濃厚乳の焦げ付き防止方法:
(a)コハク酸モノグリセリドまたはクエン酸モノグリセリドの少なくとも1種
(b)蒸留モノグリセリド。
【請求項9】
下記の(a)〜(c)成分の存在下で濃厚乳を加熱処理することを特徴とする、濃厚乳の焦げ付き防止方法:
(a)コハク酸モノグリセリドまたはクエン酸モノグリセリドの少なくとも1種
(b)蒸留モノグリセリド
(c)ショ糖脂肪酸エステル。
【請求項10】
(a)コハク酸モノグリセリドまたはクエン酸モノグリセリドの総量1質量部に対して(b)蒸留モノグリセリドを0.8〜20質量部の割合で、(a)および(b)成分を用いる、請求項8または9に記載する方法。
【請求項11】
(a)コハク酸モノグリセリドまたはクエン酸モノグリセリドの総量1質量部に対して(b)蒸留モノグリセリドを0.8〜20質量部の割合、(c)ショ糖脂肪酸エステルを0.05〜6質量部の割合で、(a)〜(c)成分を用いる、請求項9に記載する方法。
【請求項12】
(c)ショ糖脂肪酸エステル1質量部に対して、(a)コハク酸モノグリセリドまたはクエン酸モノグリセリドの少なくとも1種を0.1〜20質量部、および(b)蒸留モノグリセリドを0.7〜70質量部の割合で、(a)〜(c)成分を用いる、請求項9に記載する方法。
【請求項13】
加熱処理がプレート殺菌、インジェクション殺菌、インフュージョン殺菌、およびチューブラー殺菌からなる群から選択されるいずれかの処理である、請求項8乃至12のいずれかに記載する方法。
【請求項14】
請求項8乃至13のいずれかに記載する方法で処理して調製される、乳固形分濃度が12.6質量%より高いことを特徴とする濃厚乳、またはそれを原料として製造される乳を含む製品。

【公開番号】特開2010−268786(P2010−268786A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−260393(P2009−260393)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【出願人】(000006127)森永乳業株式会社 (269)
【出願人】(000175283)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 (429)
【Fターム(参考)】