説明

濃縮赤ワインエキスを有効成分とする抗うつ剤

【課題】優れた抗うつ活性を有し、しかも穏やかな作用で、副作用が発生しにくい天然物に由来する成分を有効成分とする抗うつ剤を提供すること。
【解決手段】赤ワインを少なくとも8倍以上濃縮し、含有エキス分が15%W/V以上である濃縮赤ワインエキスを有効成分として含有する抗うつ剤からなる。本発明の抗うつ剤は、優れた抗うつ活性を有し、しかも穏やかな作用で、副作用がなく、更に、ワインの嗜好性を保持することから、本発明は、優れた抗うつ活性と嗜好性とを有する抗うつ剤を提供する。本発明の抗うつ剤を、飲食品組成物中に添加し、飲食品組成物中の赤ワイン由来のポリフェノールを総ポリフェノール量として0.5mg/100mL以上、4.0g/100mL未満の濃度範囲に調整することにより、優れた抗うつ活性と嗜好性とを有する飲食用組成物を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤ワインを濃縮調製した濃縮赤ワインエキスを有効成分とする抗うつ剤、及び、該抗うつ剤を飲食品組成物中に添加し、赤ワイン由来のポリフェノールを総ポリフェノール量として調整することを特徴とする抗うつ作用を有する飲食用組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ますます複雑化する現代社会において、うつ病患者の増加が我が国の大きな社会問題となっている。うつ病は持続的な感情障害に加え、自律神経障害や認知・行動の抑制を特徴とする疾患である。また、うつ病の患者は同時に、強迫性障害、パニック障害、社会恐怖等の不安障害を抱えることが多い事が知られている(Kessler RC et al, Br J Psychiatrysuppl, 17-30(1996), Weissman MM et al, JAMA 276, 293-299 (1996))。うつ病の罹患率は国民の4〜5%に達するとの報告もあり、罹患後治療しな場合は自殺に至ることも多い。我が国の年間自殺者数は1998年以降7年連続で3万人を超えた。さらに年代別に見ると、30〜40歳代がその3分の1を占めており、働き盛りの年代に自殺者が多い点にもうつ病問題の深刻さが現れているといえる。
【0003】
したがって、うつ病の治療に関する研究は最重要課題の1つである。その治療薬としては、三環系抗うつ薬や選択的セロトニン再取り込み阻害薬などが使用されている。しかし、三環系抗うつ薬は様々な受容体に対して結合活性を有するため、治療効果は比較的強いが、めまい、血圧低下、ねむけ、口渇、便秘などの副作用を生じることが報告されている。選択的セロトニン再取り込み阻害薬は軽度のうつ病の患者や不安障害の患者には有効であるが、中・重度のうつ病の患者に対する治療効果は三環系抗うつ薬と比較すると弱く、また、薬効に基づく副作用として頭痛、めまい、性機能障害などが報告されている。
【0004】
うつ病の病因としては、これまで、カテコラミン仮説、インドールアミン仮説、GABA仮説、グルタミン仮説、ドーパミン仮説、神経新生仮説、などが提唱されてきた。これらの仮説に対しては多くの矛盾点が指摘され、現在に至っても結論は得られていない。分子遺伝学的手法による連鎖研究や関連研究、ならびに連鎖解析による染色体の感受性領域の検索もなされているが、うつ病のように、複数の遺伝子の相互作用により素因(生物学的特性)が形成され、更に、ストレスのような環境因子によって発症する疾患では、病原遺伝子を解析することは極めて困難である。
【0005】
これまでうつ病治療薬としては、上記のような各種の合成医薬が開発されているが、うつ病治療薬として、植物由来の成分を有効成分とする抗うつ剤が知られている。代表的な生薬としては、セイヨウオトギリソウが知られている。セイヨウオトギリソウは、医薬用の植物として伝統的に使用されていたということから、近年、軽度乃至中程度のうつ病を適応症として用いられている。その他にも、植物の成分を有効成分とする各種の抗うつ剤が開示されている。例えば、特開2000−119187号公報には、ムイラプアマの成分を有効成分とする抗うつ剤が、特開2002−275061号公報には、シソ等の植物から抽出したロズマリン酸を有効成分とする抗うつ剤が、特開2002−284695号公報には、エゾウコギの成分を有効成分とする抗うつ剤が、開示されている。
【0006】
また、特開2005−194268号公報には、ジフシの成分を有効成分とする抗うつ剤が、特開2006−241055号公報には、オケラやホソバオケラ(植物)から抽出した成分を有効成分とする抗うつ剤が、特開2007−99660号公報には、イチョウの葉から抽出したクェルセチン3−O−β−D−グルコシル−(1,2)−α−L−ラムノシド及びクェルセチン3−O−(6−p−クマロイル)−β−D−グルコシル−(1,2)−α−L−ラムノシドを有効成分とするうつ病の予防又は治療剤が、特開2007−210898号公報には、冬虫夏草及び南天から抽出した成分と、オレイン酸とから選択される成分を有効成分とする抗うつ剤が、開示されている。これらの天然物に由来する成分からなる抗うつ剤は、穏やかな作用で、副作用が発生しにくいという利点はあるが、その効能においては、必ずしも十分満足のいけるものとはいえないものが多い。したがって、有効な抗うつ作用を有する天然物に由来する成分の更なる探索が要望されているところである。
【0007】
一方で、近年、赤ワインや赤ブドウ果汁中のポリフエノールとして、アントシアニンやプロアントシアニジンと共に、ワインのポリフェノールの1種であるレスベラトロールが注目されている。該成分は、その研究の中で抗酸化活性、血小板凝集抑制活性、癌細胞に対する細胞毒性、エストロジェニック活性、神経保護作用、COX−2阻害活性などの有効性が確認され、更に、動脈硬化予防効果、痴呆症やアルツハイマー症予防効果を示すことで注目されている。レスベラトロールは、ブドウのほか、ラッカセイやイタドリに含まれていることが知られているが、特開2005−281179号公報には、イタドリの根から高濃度のレスベラトロールを濃縮・回収する方法が開示され、化粧料などの製剤への配合が示されている。
【0008】
また、特開2006−273834号公報には、ブドウ等から抽出したレスベラトロールをAMPK(AMP-activated protein kinase)活性化による脂質代謝促進作用を有する物質として、脂質代謝活性化剤として用いることが開示されている。更に、特開2009−13159号公報には、アントシアニジンや、プロアントシアニジン、及び、レスベラトロールを含有するコケモモ果実からの抽出物を、フケ防止、カロリー摂取に対するダイエット、抗酸化フリーラジカルの除去、心脳血管の疾病の予防、血栓形成の抑制、及び美白を目的とする機能性食品に用いることが開示されている。
【0009】
上記のとおり、ブドウ等から抽出したレスベラトロール等のポリフェノールについては、種々の生理活性や薬理活性が知られ、該生理活性や薬理活性に基く用途が開示されているが、該成分の抗うつ効果についての直接的な報告はなされていない。特に、赤ワインエキス自体については、該エキスに含まれるプロアントシアニジンを有効成分とする抗疲労ドリンク剤への用途等が開示されているが(特開平11−318402号公報)、例えば、濃縮ワインエキス等の抗うつ作用に関しては、今までに開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11−318402号公報
【特許文献2】特開2000−119187号公報
【特許文献3】特開2002−275061号公報
【特許文献4】特開2002−284695号公報
【特許文献5】特開2005−194268号公報
【特許文献6】特開2005−281179号公報
【特許文献7】特開2006−241055号公報
【特許文献8】特開2006−273834号公報
【特許文献9】特開2007−99660号公報
【特許文献10】特開2007−210898号公報
【特許文献11】特開2009−13159号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Kessler RC et al, Br J Psychiatrysuppl, 17-30(1996)
【非特許文献2】Weissman MM et al, JAMA 276, 293-299 (1996)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、優れた抗うつ活性を有し、しかも穏やかな作用で、副作用が発生しにくい天然物に由来する成分を有効成分とする抗うつ剤を提供することからなる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、濃縮赤ワインエキスの生理活性について鋭意検討する中で、赤ワインを特定濃度以上に濃縮し、含有エキス分を特定濃度以上とした濃縮赤ワインエキスが、優れた抗うつ作用を有することを見い出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、赤ワインを少なくとも8倍以上濃縮し、含有エキス分が15%W/V以上である濃縮赤ワインエキスを有効成分として含有する抗うつ剤からなる。本発明の抗うつ剤は、優れた抗うつ活性を有し、しかも穏やかな作用で、副作用がなく、更に、本発明の抗うつ剤はワインの嗜好性を保持することから、本発明は、優れた抗うつ活性と嗜好性とを有する抗うつ剤を提供する。
【0014】
本発明の抗うつ剤の有効成分である濃縮赤ワインエキスは、赤ワインの濃縮によって、濃縮赤ワインエキスが、赤ワイン由来のポリフェノールを総ポリフェノール量として5g/L以上、40g/L未満含有するものであることが好ましく、10g/L以上、14g/L未満含有するものであることが更に好ましい。また、本発明の抗うつ剤の有効成分である濃縮赤ワインエキスは、赤ワインの濃縮によって、濃縮赤ワインエキスが、濃縮赤ワインエキスのレスベラトロール含有量0.8〜1000mg/Lであり、アルコール含有量0.01〜20g/Lであるように調整されることが好ましい。本発明の抗うつ剤の有効成分である濃縮赤ワインエキスは、含有成分の保持のために、赤ワインを減圧濃縮により濃縮して調製されたものであることが特に好ましい。
【0015】
また、本発明は、本発明の抗うつ剤を、飲食品組成物中に添加し、飲食品組成物中の赤ワイン由来のポリフェノールを総ポリフェノール量として0.5mg/100mL以上、4.0g/100mL未満の濃度範囲に調整することにより、優れた抗うつ活性と嗜好性とを有する飲食用組成物を製造する方法を包含する。
【0016】
すなわち、具体的には本発明は、(1)赤ワインを少なくとも8倍以上濃縮し、含有エキス分が15%W/V以上である濃縮赤ワインエキスを有効成分として含有する抗うつ剤や、(2)濃縮赤ワインエキスが、赤ワイン由来のポリフェノールを総ポリフェノール量として5g/L以上、40g/L未満含有するものであることを特徴とする上記(1)記載の抗うつ剤や、(3)濃縮赤ワインエキスのレスベラトロール含有量が0.8〜1000mg/Lであり、アルコール含有量が0.01〜20g/Lであることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の抗うつ剤からなる。
【0017】
また、本発明は、(4)濃縮赤ワインエキスが、赤ワインを減圧濃縮により濃縮して調製されたものであることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか記載の抗うつ剤や、(5)上記(1)〜(4)のいずれか記載の中性脂肪吸収阻害剤を、飲食品組成物中に添加し、飲食品組成物中の赤ワイン由来のポリフェノールを総ポリフェノール量として0.5mg/100mL以上、4.0g/100mL未満の濃度範囲に調整することを特徴とする抗うつ作用を有する飲食用組成物の製造方法からなる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、優れた抗うつ活性を有し、しかも穏やかな作用で、副作用が発生しにくい天然物に由来する成分を有効成分とする抗うつ剤を提供する。更に、本発明の抗うつ剤はワインの嗜好性を保持することから、本発明は、優れた抗うつ活性と嗜好性とを有する抗うつ剤を提供する。また、本発明の抗うつ剤を飲食品組成物中に添加し、赤ワイン由来のポリフェノールを総ポリフェノール量として調整することにより、優れた抗うつ活性と嗜好性とを具備した、抗うつ作用を有する飲食用組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施例の濃縮赤ワインエキスの抗うつ作用についての尾懸垂試験による抗うつ効果測定において、投与開始後の期間と不動時間(秒)との試験結果を示す図である。
【図2】本発明の実施例の濃縮赤ワインエキスの抗うつ作用についての尾懸垂試験による抗うつ効果測定において、被検物質群と媒体対照群との総不動時間(秒)の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、赤ワイン由来のポリフェノールを総ポリフェノール量として5g/L以上、40g/L未満含有し、濃縮赤ワインエキスのレスベラトロール含有量が0.8〜1000mg/Lであり、アルコール含有量が0.01〜20g/Lであるような、赤ワインを少なくとも8倍以上濃縮し、含有エキス分が15%W/V以上である濃縮赤ワインエキスを有効成分として含有する抗うつ剤からなる。以下に、本発明の実施の形態について、説明する。
【0021】
<濃縮赤ワインエキス>
本発明の濃縮赤ワインエキスの製造に用いられる赤ワインとは、いわゆる果実酒であって、葡萄の果汁を酵母の作用により発酵し、必要に応じて樽または瓶に貯蔵して得られるものである。本発明に用いる赤ワインは、飲用に適したワインであれば良く、葡萄の果汁のみを発酵して醸造されるいわゆる赤ワインの他に、ワインに濃縮果汁、ブランデーを添加したシェリー、ポート、マディラ、マラガ、マルサラ等のいわゆる補強ワインあるいはワインに薬草、香料、色素等を添加して得られる、ベルモットを代表とする混成ワイン等をいう。
【0022】
本発明の濃縮赤ワインエキスを製造するには、醸造された赤ワイン或いは市販の赤ワインを、減圧濃縮により濃縮して製造することができる(特許第2742827号公報)。また、市販の濃縮赤ワインエキスを用いることができる。本発明における濃縮赤ワインエキスは、上述の赤ワインを減圧濃縮にて、8倍以上に濃縮し、エキス分を15%(W/V)以上含有したものをいう。本発明の濃縮赤ワインエキスに於ける濃縮倍率は、8倍以上で目的を達せられるが、好適には10〜20倍濃縮したものが好ましい。
【0023】
本発明に於ける濃縮赤ワインエキスの製造には、ロータリー・エバポレーター、或いは、濃縮缶と呼ばれる減圧濃縮器による濃縮する方法が用いられる。減圧濃縮は濃縮方法としては、汎用される方法である。ここでは、ロータリー・エバポレーターにて赤ワインを濃縮する場合について詳述するが、濃縮缶等他の減圧濃縮装置を用いる場合でも、基本的には同じである。減圧する為には、水封ポンプ、水流ポンプあるいは真空ポンプ等が使用出来る。通常は水流ポンプで充分であるが、高い真空度の得られる真空ポンプの使用が望ましい。
【0024】
サンプルを入れたナスフラスコを加熱する湯浴の温度は、真空度によっても異なるが、40〜80℃に加熱すれば良いが、好適には50±10℃が望ましい。そのとき、品温が10〜45℃となる条件が望ましく、好適には品温は20〜35℃が良い、湯浴の温度を高くすると、一般に濃縮速度は上昇するが、そのとき真空度が低いと品温が高くなり、得られる濃縮ワインエキスの褐変や香の劣化等を生じるので注意を要する。トラップ温度が低く、例えば5℃程度で、高真空で減圧濃縮を行なうと、湯浴温度が60℃でも、品温は30℃以下に保持され、色、風味的に優れた濃縮ワインエキスが得られる。
【0025】
得られた濃縮赤ワインエキスを低温に放置すると、ワインに含まれる酒石酸が酒石として晶析する。従って、晶析した酒石を除去する必要があり、酒石酸除去により、保存安定性の優れた濃縮赤ワインエキスとなる。定温の保持温度は0〜10℃の範囲が良いが、好適には5±3℃が良い。定温の保持時間は保持温度により変化するが、通常5〜48時間放置すれば良く、好適には一晩(約16時間)放置し、酒石を晶析させる。酒石の除去方法としては、通常の沈澱物の除去方法を用いることができ、特に方法は限定されない。一般には、珪藻土を濾過助剤として用いる、加圧濾過、メンブラン・フィルターを用いた膜濾過、減圧濾過、或いは遠心分離等により酒石を除くことができる。
【0026】
赤ワインは通常滓下げを既に行なっているので、赤ワインを濃縮しても蛋白が混濁してくることはあまりないが、必要に応じて滓下げ処理を行なうことができる。滓下げ方法としては、通常ワインの滓下げに用いる方法が適用でき、特に方法は限定されない。本発明の濃縮赤ワインエキスには、赤ワイン由来のポリフェノールが総ポリフェノール量として5g/L以上、40g/L未満含有され、レスベラトロール量が0.8〜1000mg/L、アルコール量が0.01〜20g/Lである。
【0027】
<総ポリフェノール量>
本発明の濃縮赤ワインエキスの総ポリフェノール量は下限を下回ると、ワインポリフェノール由来の生理効果が相対的に小さくなる。また上限を超えると満足出来る香味や外観は実現できなくなるので好ましくない。なお、ここでいう総ポリフェノール量は、日本食品分析センター編、「五訂 日本食品標準成分分析マニュアルの解説」、中央法規、2001年7月、p.252に記載の公定法(酒石酸鉄試薬法)に従って求めた値を指す。
【0028】
<レスベラトロール量>
本発明の濃縮赤ワインエキスのレスベラトロール量は0.8〜1000mg/Lであり、好ましくは0.3〜3.0mg/100mLであり、より好ましくは0.5〜2.5mg/100mLである。レスベラトロールは、赤ワインの原料となるブドウの皮、種などに含まれる天然成分であり、人畜に対する安全性は高い。更に、レスベラトロールはブドウ、ラッカセイ、イタドリなどの原料植物からエタノール、アセトン、酢酸エチル等の有機溶媒を用いた抽出法やシリカゲル、吸着樹脂などを用いたクロマトグラフィー等の種々の精製方法を用いて単離することができる。また、有機合成法によっても製造することができる。
【0029】
レスベラトロールの分析は、高速液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS)を用いて行った。LC/MSはShimazu Prominence UFLC-XR system + LCMS-2020(島津製作所)を用い、カラムはWaters Atlantis T3 (150mmL. * 2.1mmI.D., 3μm particle size)(Waters)を用いた。高速液体クロマトグラフの諸条件は以下の通りである:移動相A:0.2%ぎ酸水、移動相B:アセトニトリル、Time Program:B conc.15%(0min)→40%(30min)→80%(30.01min)→80%(35min)→15%(35.01min)→STOP(45min)、流速:0.2mL/min、カラム温度:40℃、サンプル注入量:2μL。質量分析器の諸条件は以下の通りである:Probe Voltage:-3.5kV(ESI-Negative mode)、Nebulizing Gas Flow:1.5L/min、Drying Gas Flow:15L/min、CDL Temperature:250℃、CDL,Q-array Voltages:using default values、Block Heater Temperature:200℃。レスベラトロールの検出にはm/z 227.2を用いた。
【0030】
<アルコール量>
また、この濃縮赤ワインエキスは飲用のワインとは異なり、アルコール分が0.01〜20g/1Lのものを指す。また、必要に応じて赤ワインの香気成分を含む減圧濃縮時の初留、或いはブランデーを、アルコール度数1%(v/v)以内の範囲で添加することができる。必要に応じて添加して用いる初留は、通常の赤ワインであれば、濃縮に掛けるワイン容量の5%程度が留去された時のものが良い。この時得られる初留のアルコール含有%(v/v)は40〜75%であり、通常45〜70%である。得られた初留のアルコール濃度を勘案し、濃縮赤ワインエキスに終濃度として0.01〜20g/Lになるように添加すると、香成分の強化された濃縮赤ワインエキスが得られる。また、前述の初留の代わりに、ブランデーを香味付けに用いることが出来る。ブランデーの添加量は、得られる濃縮赤ワインエキスのアルコール終濃度が0.01〜20g/Lの範囲である。
【0031】
<抗うつ>
本明細書で使用する抗うつとは、持続的な感情障害に加え、自律神経障害や認知・行動の抑制を特徴とする疾患であるうつ病に対する予防及び/又は治療作用を含む意味である。
【0032】
本発明の抗うつ剤は、適宜の剤型に製剤化して、経口的に投与することができる。例えば、液剤、錠剤、散剤、顆粒、糖衣錠、カプセル、懸濁液、乳剤、丸剤等、適宜な製剤形態において、投与することができる。本発明の抗うつ用組成物を製剤化するに当たっては、通常、製剤化に用いられている補助剤を用いることができる。該補助剤としては、賦形剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤、潤滑剤、分散剤、緩衝材、保存剤、安定化剤等、適宜の補助剤を挙げることができる。
【0033】
本発明の抗うつ剤の投与量は、被験者の年齢、体重、性別、肥満の程度など、様々な要因に応じて変化するが、典型的には、本発明の抗うつ剤を1日あたり、1g以上、2g以上、3g以上、4g以上、5g以上、6g以上、7g以上、8g以上、9g以上、10g以上、12g以上、好ましくは14g以上、16g以上、18g以上、20g以上、30g以上摂取・投与する量とすることが望ましく、投与間隔は特に制限されない。
【0034】
<飲食品用組成物>
本発明の抗うつ剤は飲食品に配合することにより、抗うつ作用を有する飲食品用組成物として提供することもできる。食品形態は特に制限されず、天然物及びその加工品を含む飲食物等を挙げることができる。またその配合量は、飲食品の形態に応じて異なるが、100gに対し、本発明の抗うつ剤を1〜99g、好ましくは1〜20g程度配合することができる。これにより、飲食用組成物中の赤ワイン由来のポリフェノールは、総ポリフェノール量として0.5mg/100mL以上、4.0g/100mL未満となる。また1mg/100mL以上、1.4g/100mL未満とするのがより好ましく、5mg/100mL以上、0.8g/100mL未満とするのが更に好ましい。総ポリフェノール量は下限0.5mg/100mLを下回ると、ワインポリフェノール由来の生理効果が相対的に小さくなる。また上限4.0g/100mLを超えると満足出来る香味や外観は実現できなくなる。
【0035】
飲食品用組成物に該当する飲食品の例としては、これに限定されるものではないが、錠剤形、粉末状、顆粒状、カプセル状、ゼリー状等の食品、パン類、菓子類、クッキー、ビスケット等の穀類加工品、牛乳、ヨーグルト、アイスクリーム等の乳製品類、炭酸飲料、清涼飲料、果汁入り飲料、薬系ドリンク等の飲料、惣菜や加工食品等が挙げられる。本発明において「飲食品」とは、健康食品(例えば、特定保健用食品、栄養機能食品、栄養補助食品)、機能性食品、病者用食品を含む意味で用いられる。
【0036】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例】
【0037】
[濃縮赤ワインエキスの抗うつ作用]
(尾懸垂試験)
尾懸垂試験は、動物の尻尾に巻きつけたテープを装置のフックに引っ掛けて、動物を吊るすことによって動物の不動時間を自動計測した。このテールサスペンションテストは、抑うつ状態と類似した、学習性無力による不動時間を計測することによって抑うつ様症状を検出する検査である。
【0038】
<動物>:
5週齢の雄のC57BL/6Jマウス(日本チャールス・リバー株式会社、横浜、日本)を一週間の順化飼育後使用した。マウスは5群に分け、プラスチックケージ(W110×D260×H140mm)内で自由飲食(固型飼CRF−1)、オリエンタル酵母工業株式会社)にて飼育した。飼育室は、湿度42.1〜65.8%%、室温23.2〜26.0℃に保たれており、7時点灯、19時消灯の12時間点灯した。群分けは、投与開始前日に、その日の体重を基に層別連続無作為化法で行った。群分けは、コンピュータシステム(MiTOX−PPL,三井造船システム技研株式会社)を使用した。
【0039】
<投与方法>:
投与期間中、濃縮赤ワインエキス(メルシャン社)、または濃縮赤ワインエキスを蒸留水で5倍希釈した液を12.5mL/kgとなるように、また媒体対照群および陽性対照群には被験物質と同容量の水を強制経口投与した。被験物質の投与は1回/日の21日間とした。また、陽性対照物質(イミプラミン、和光純薬工業株式会社)は生理食塩水に溶解し16mg/kgとなるよう、実験開始30分前のみ腹腔内投与した。投与量、時間等は参考文献1に従った。投与容量は10mL/kgとし、被験物質群および媒体対照群には同容量の生理食塩液を腹腔内投与した。
【0040】
<尾懸垂試験による抗うつ効果測定方法>:
投与15、18及び21日目に、検査動物の尾の先端にビニールテープを幅1cm程度巻きつけ、巻きつけたテープをテールサスペンションテスト装置(BIOSEB社製)のフックに引っ掛けて吊り下げ、動物が動く際の振動がセンサーに伝動しない時間(不動時間)を自動計測した。検査時間は6分間とした。なお、検査環境に馴化させるため、検査の1時間前には動物を検査室に搬入した。陽性対照物質は、検査の30分前(9:30〜14:18)に腹腔内投与し、媒体対照群及び被験物質群には同容量の生理食塩液を腹腔内投与した。各群12匹(陽性対照物質群のみ10匹)とした。
【0041】
<統計処理>:
各群の代表値は平均値および標準誤差で表示した。媒体対照群と濃縮赤ワインエキス群、媒体対照群と濃縮赤ワインエキス5倍希釈群、媒体対照群とイミプラミン群との間でF検定により等分散性を検定し、等分散の場合にはStudentのt検定を、不等分散の場合にはAspin-Welchのt検定を行った。いずれも有意水準は5未満(p<0.05)を有意とし、5未満及び1未満(p<0,01)とに分けて表示した。なお、コンピュータシステム(MiTOX-PPL,三井造船システム技研株式会社)を用いて統計学的解析を行った。
【0042】
<結果>:
媒体対照群の不動時間は、投与15、18及び21日目に178.7±16.0(平均値±標準誤差、以下同様)、203.8±13.6及び207.6±11.7 secであった(図1:濃縮赤ワインエキス投与マウスの尾懸垂試験における不動時間)。また、投与15、18及び21日目の合計の不動時間(以下、合計の不動時間と記載)は590.1±30.3 secであった(図2:濃縮赤ワインエキス投与マウスの尾懸垂試験における不動時間の合計)。
【0043】
濃縮赤ワインエキス群では、投与15、18及び21日目に153.6±15.0、150.7±17.5及び179.5±11.2 secを示し、媒体対照群と比較して投与18日目の不動時間に有意な低値が認められた(図1)。また、合計の不動時間は483.8±34.7 secであり、媒体対照群と比較して有意な低値が認められた(図2)。濃縮赤ワインエキス5倍希釈群では、投与15、18及び21日目に162.4±13.9、189.9±12.4及び200.6±17.7 secを示し、媒体対照群と比較して低値を示したものの有意差は認められなかった(図1)。また、合計の不動時間は552.9±25.8 secであり、媒体対照群と比較して低値を示したものの有意差は認められなかった(図2)。
【0044】
イミプラミン群では、投与15、18及び21日目に119.5±16.1、145.1±13.9及び149.9±12.3 secを示し、媒体対照群と比較して投与15、18及び21日目の不動時間に有意な低値が認められた(図1)。また、合計の不動時間は414.5±27.6 secであり、媒体対照群と比較して有意な低値が認められた(図2)。
【0045】
(嗜好性試験)
総ポリフェノール濃度1.63mg/100mL、3.25mg/100mL、65mg/100mL、1.3g/100mLとなるように、濃縮赤ワインエキス(メルシャン製ワインエキス(赤))を市販のミネラルウォーターに配合し飲料を調製した。それぞれの外観と官能評価を実施した結果を以下の表1に示す (n=3人で評価)。以上の結果から、総ポリフェノール量として1.0mg/100mL以上、4.0g/100mL未満の濃度範囲に嗜好性を具備した飲食用組成物を提供することが確認された。
【0046】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、優れた抗うつ活性と嗜好性とを有する抗うつ剤を提供する。また、本発明
は、本発明の抗うつ剤を飲食品組成物中に添加し、優れた抗うつ活性と嗜好性とを具備
した、抗うつ作用を有する飲食用組成物を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤ワインを少なくとも8倍以上濃縮し、含有エキス分が15%W/V以上である濃縮赤ワインエキスを有効成分として含有する抗うつ剤。
【請求項2】
濃縮赤ワインエキスが、赤ワイン由来のポリフェノールを総ポリフェノール量として5g/L以上、40g/L未満含有するものであることを特徴とする請求項1記載の抗うつ剤。
【請求項3】
濃縮赤ワインエキスのレスベラトロール含有量が0.8〜1000mg/Lであり、アルコール含有量が0.01〜20g/Lであることを特徴とする請求項1又は2記載の抗うつ剤。
【請求項4】
濃縮赤ワインエキスが、赤ワインを減圧濃縮により濃縮して調製されたものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の抗うつ剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか記載の中性脂肪吸収阻害剤を、飲食品組成物中に添加し、飲食品組成物中の赤ワイン由来のポリフェノールを総ポリフェノール量として0.5mg/100mL以上、4.0g/100mL未満の濃度範囲に調整することを特徴とする抗うつ作用を有する飲食用組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−132150(P2011−132150A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291381(P2009−291381)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000253503)キリンホールディングス株式会社 (247)
【出願人】(000001915)メルシャン株式会社 (48)
【Fターム(参考)】