説明

灌水チューブ

【課題】 本発明は、巻回状態から巻き出して配設した際に内面同士の密着が殆どなく機械的強度に優れた灌水チューブを提供する。
【解決手段】 本発明の灌水チューブは、上述の如き構成を有しているので、偏平状態にして巻回された状態から巻き出され、灌水チューブ内に水が供給された場合には、水の圧力によって灌水チューブの内面同士が全面的に円滑に離間して円筒状となり、灌水チューブ内の水圧が部分的に大きくなることに起因した妄動を防止することができ、農地などの所望箇所に水を確実に供給することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、灌水チューブに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から農地に散水するために灌水チューブが用いられている。この灌水チューブは、通水時には水圧によって膨張して円筒状となると共に所定位置に穿設された放水孔から放水して農地の所望箇所に水を散布するのに用いられている。
【0003】
灌水チューブは、使用していないときには偏平な状態とされて巻回状態で保管されており、使用時には、巻回状態の灌水チューブを巻き出しながら所望箇所に配設して用いられる。
【0004】
そして、灌水チューブ内に水を供給すると、水圧によって灌水チューブは円筒状に膨張するが、灌水チューブはその厚み方向に圧縮された状態で巻回されていたことから、灌水チューブの内面同士がその一部において離間せず密着して偏平状態を維持することがある。
【0005】
このような状態となると、灌水チューブの一部において水圧が高くなり、その結果、灌水チューブが上下左右方向に無秩序に妄動し、所謂、ワカメ現象という問題点を生じ、灌水チューブから放出される水を所望箇所にまくことができない、
【0006】
このような問題点を解決するために、特許文献1には、チューブの内面に高さ0.1〜0.5mm、幅1〜10mmの長さ方向に連続したリブを数条設けたことを特徴とする灌水チューブが提案されている。
【0007】
しかしながら、上記灌水チューブは、チューブの内面にリブを設けているので、チューブに大きな水圧が不測に加わったときに、リブ近傍の厚みの薄いチューブ部分から裂けてしまうという問題点を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実開平6−19442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、巻回状態から巻き出して配設し通水した際に内面同士の密着が殆どなく妄動現象を生じず且つ機械的強度に優れた灌水チューブを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の灌水チューブAは、可撓性を有し且つ偏平状にした上で巻回することができるチューブ本体1にこのチューブ本体1内に供給した水を放出するための放水孔2が穿設されている灌水チューブであって、上記チューブ本体1は、低密度ポリエチレン及び直鎖状低密度ポリエチレンからなる群から選ばれた少なくとも一種を含有するポリエチレン系樹脂100重量部及び平均粒子径が8〜50μmの雲母0.1〜5重量部を含有していることを特徴とする。
【0011】
本発明の灌水チューブAのチューブ本体1を構成しているポリエチレン系樹脂は、低密度ポリエチレン及び直鎖状低密度ポリエチレンからなる群から選ばれた少なくとも一種を含有し、灌水用チューブの成形性及び強度のバランスの点から、低密度ポリエチレン及び直鎖状低密度ポリエチレンを含有していることが好ましい。
【0012】
低密度ポリエチレンの密度は、低いと、チューブ本体が柔らかくなり過ぎて灌水チューブの強度が低下することがあり、高いと、チューブ本体の可撓性が低下して、灌水チューブに亀裂やピンホールが生じ易くなるので、0.90〜0.93g/cm3が好ましい。
【0013】
又、低密度ポリエチレンのメルトフローレイトは、高いと、灌水用チューブの成形性及び強度が低下することがあるので、1.5g/10分以下が好ましく、1.5〜0.3g/10分がより好ましい。なお、ポリエチレン系樹脂のメルトフローレイトは、JIS K7210に準拠して測定されたものをいう。
【0014】
直鎖状低密度ポリエチレンとしては、特に限定されず、例えば、エチレンと、エチレン以外のα−オレフィンとの共重合体などの一般的な直鎖状低密度ポリエチレンの他に、メタロセンセン触媒を用いて製造されたポリエチレンが挙げられる。直鎖状低密度ポリエチレンは、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0015】
直鎖状低密度ポリエチレンの密度は、高いと、灌水用チューブの強度が低下することがあるので、0.93g/cm3以下が好ましく、0.915〜0.925g/cm3がより好ましい。
【0016】
エチレンと、エチレン以外のα−オレフィンとの共重合体としては、特に限定されるものではなく、例えば、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−1−ヘプテン共重合体、エチレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−1−オクテン共重合体、エチレン−4−メチルペンテン共重合体などが挙げられ、エチレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−1−オクテン共重合体、エチレン−4−メチルペンテン共重合体が好ましい。
【0017】
上記メタロセン触媒を用いて製造されたポリエチレンは、例えば、原料モノマーとしてエチレンやα−オレフィンを用い、触媒としてメタロセン化合物と有機アルミニウム化合物及び/又はイオン性化合物との組み合わせからなるメタロセン触媒を用いて不活性ガス中で流動床式気相重合法、攪拌式気相重合法、不活性溶媒中でのスラリー重合法、モノマーを溶媒とするバルク重合法などにより製造することができる。
【0018】
メタロセン触媒を用いて製造されたポリエチレンは、エチレンの単独重合体であってもよいし、エチレンと、エチレン以外のα−オレフィンとの共重合体であってもよい。エチレンと、エチレン以外のα−オレフィンとの共重合体は、ランダム共重合体であってもブロック共重合体であってもよい。
【0019】
エチレンと、エチレン以外のα−オレフィンとの共重合体を構成するα−オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン、4−メチル−1−ペンテン、ドデセンー1などが挙げられる。
【0020】
上記雲母(マイカ)としては、特に限定されるものではなく、天然雲母であっても合成雲母であってもよい。雲母の平均粒子径は、小さいと、灌水チューブを巻回状態から巻き出して灌水チューブ内に通水したときに一部において灌水チューブの内面同士が密着したままの状態を維持し、灌水チューブが部分的に上下左右方向に妄動する現象を生じる虞れがあり、大きいと、チューブ本体の強度が低下し、灌水チューブに亀裂やピンホールを生じ易くなるので、8〜50μmに限定され、10〜30μmが好ましい。なお、雲母の平均粒子径は、レーザー回析式粒度分布測定に準拠して測定されたものをいう。
【0021】
チューブ本体1中における雲母の含有量は、少ないと、雲母を添加した効果が発現せず、灌水チューブを巻回状態から巻き出して灌水チューブ内に通水したときに一部において灌水チューブの内面同士が密着したままの状態を維持し、灌水チューブが部分的に上下左右方向に妄動する現象を生じ、多いと、灌水チューブの強度が低下して亀裂を生じ易くなるので、ポリエチレン系樹脂100重量部に対して0.1〜5重量部に限定される。
【0022】
灌水チューブAのチューブ本体1には、その物性を阻害しない範囲内において、耐候安定剤、耐熱安定剤、防曇剤、アンチブロック剤、スリップ剤、滑剤、顔料、染料などが含有されていてもよい。
【0023】
灌水チューブAのチューブ本体1の厚みは、薄いと、灌水チューブ内の水圧が一時的に上昇した場合などに灌水チューブが破裂する虞があり、厚いと、灌水チューブの軽量性や可撓性が低下するので、100〜250μmが好ましい。
【0024】
そして、図1に示したように、チューブ本体1にはその長さ方向に所定間隔毎に内外周面間に亘って貫通する放水孔2、2・・・が穿設されており、この放水孔2、2・・・を通じて灌水チューブA内に通水された水を放出し、農地の所望箇所に水を供給することができる。なお、放水孔2の直径は0.2〜0.8mmが好ましい。又、放水孔の間隔は50〜300mmが好ましい。
【0025】
チューブ本体1に穿設された放水孔2の形成形態としては、特に限定されないが、例えば、チューブ本体1の長さ方向に伸び且つ所定間隔毎に互いに平行な複数条の仮想直線を描き、各仮想直線上において所定間隔毎に放水孔2を形成する形成態様が挙げられる。
【0026】
チューブ本体1に放水孔2を穿設する方法としては、特に限定されず、例えば、レーザーなどの光線を用いる方法、パンチングによる方法、針を用いる方法などが挙げられる。
【0027】
次に、灌水チューブの製造方法について説明する。灌水チューブの製造方法としては、特に限定されず、例えば、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなどでポリエチレン系樹脂及び雲母を必要に応じて混合した上で押出機に供給して溶融混練し、押出機の先端に取り付けたサーキュラダイから円筒状に押出して長尺状のチューブ本体を製造し、このチューブ本体に放水孔を穿設する灌水チューブの製造方法が挙げられる。
【0028】
本発明の灌水チューブAは、図2に示したように、可撓性を有しており、偏平状態とされた上で巻回状態として輸送又は保管される。従って、本発明の灌水チューブAはその体積を小さくした上で輸送又は保管することができ省スペース化を図ることができる。
【0029】
灌水チューブAの使用にあたっては、灌水チューブAを巻き出しながら、農地などの所望箇所に配設した上で灌水チューブA内に通水する。すると、灌水チューブA内に供給した水の圧力によって灌水チューブAは偏平状態から膨張して円筒状となる。この過程において、灌水チューブAの内面同士が部分的に密着して離れないようなことはなく、灌水チューブ内に供給した水の圧力によって、灌水チューブはその内面同士が全面的に離れて円筒状となる。従って、灌水チューブの一部において水圧が高くなって、灌水チューブが上下左右方向に妄動してしまうワカメ現象が生じることはなく、灌水チューブの放水孔を通じて水を所望箇所に確実に供給することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の灌水チューブは、上述の如き構成を有しているので、偏平状態にして巻回された状態から巻き出され、灌水チューブ内に水が供給された場合には、水の圧力によって灌水チューブの内面同士が全面的に円滑に離間して円筒状となり、灌水チューブ内の水圧が部分的に大きくなることに起因した妄動(ワカメ現象)を防止することができ、農地などの所望箇所に水を確実に供給することができる。
【0031】
そして、本発明の灌水チューブは、押出成形によって連続的に製造することができ、よって、灌水チューブは、全体的に略均一な厚みを有し優れた機械的強度を有している。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の灌水チューブを示した縦断面図である。
【図2】本発明の灌水チューブの巻回状態を示した斜視図である。
【図3】実施例及び比較例の灌水用チューブにおける放水孔の形成状態を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0034】
(実施例1〜3、比較例1〜3)
表1に示した所定量の低密度ポリエチレン(日本ポリケム社製 商品名「LF122」、密度:0.923g/cm3、メルトフローレイト:0.3g/10分)、直鎖状低密度ポリエチレン(ダウケミカル社製 商品名「2645G」、密度:0.919g/cm3、メルトフローレイト:0.9g/10分)、雲母A(山口雲母工業所社製 商品名「Y−1800」、平均粒子径:8μm)、雲母B(山口雲母工業所社製 商品名「Y−2300X」、平均粒子径:19μm)、シリカ(東ソー・シリカ社製 商品名「NS−T」、平均粒子径:8μm)及びタルク(日本タルク社製 商品名「K−1」、平均粒子径:10μm)を押出機に供給して溶融混練し、押出機の先端に取り付けたサーキュラダイから円筒状に押し出して直径が50mmで且つ厚みが150μmのチューブ本体を製造した。
【0035】
次に、チューブ本体1にその内外周面間に亘って貫通する無数の放水孔2、2・・・をレーザーによって形成して灌水チューブAを得た。なお、チューブ本体1を偏平な状態とし、偏平な状態としたチューブ本体1における幅方向の端縁のそれぞれから10mmだけ内側に入った部分にチューブ本体1の端縁に沿って二条の仮想直線L1、L2を互いに平行に描いた。レーザーを用いてチューブ本体1を上下方向に貫通する貫通孔を形成した。一方の仮想直線L1に形成された貫通孔と、他方の仮想直線L2に形成され貫通孔とが千鳥状となるように形成し、これら貫通孔を放水孔2、2・・・とした。各仮想直線L1、L2において300mm間隔毎に直径0.6mmの放水孔2、2・・・が形成されていた。
【0036】
得られた灌水チューブの密着性、妄動性及び引裂強度を下記の要領で測定し、その結果を表1に示した。
【0037】
(密着性)
得られた灌水用チューブから縦8cm×横4cmの平面長方形状の試験片を2枚切り出した。二枚の試験片を重ね合わせて試験片に40kgの荷重をかけた。この状態で試験片を60℃の恒温機内で3日間に亘って保管した。二枚の試験片間の剥離強度をストログラフ(東洋精機製作所製)を用いて測定し、剥離強度を密着性の指標とした。
【0038】
(妄動現象)
偏平状態とされた上で巻回状態とされた灌水用チューブを10m巻き出し、この灌水用チューブ内に水を供給して、灌水用チューブが妄動によって地面から浮き上がる最大寸法を測定し、下記基準に基づいて評価した。
○:1mm未満であった。
△:1mm以上で且つ5mm未満であった。
×:5mm以上であった。
【0039】
(引裂強度)
灌水チューブの引裂強度をエルメンドルフ(東洋精機製作所製)を用いてJIS K7128−2に準拠して測定した。
【0040】
【表1】

【符号の説明】
【0041】
1 チューブ本体
2 放水孔
A 灌水チューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有し且つ偏平状にした上で巻回することができるチューブ本体にこのチューブ本体内に供給した水を放出するための放水孔が穿設されている灌水チューブであって、上記チューブ本体は、低密度ポリエチレン及び直鎖状低密度ポリエチレンからなる群から選ばれた少なくとも一種を含有するポリエチレン系樹脂100重量部及び平均粒子径が8〜50μmの雲母0.1〜5重量部を含有していることを特徴とする灌水チューブ。
【請求項2】
チューブ本体を構成しているポリエチレン系樹脂は、低密度ポリエチレン及び直鎖状低密度ポリエチレンを含有していることを特徴とする請求項1に記載の灌水チューブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−233495(P2010−233495A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−84930(P2009−84930)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(596111276)積水フイルム株式会社 (133)