説明

災害時要援護者のための施設を備えた建物

【課題】災害時要援護者が安心して避難することが可能な災害時要援護者のための施設を備えた建物を提供する。
【解決手段】複数の階床を備え、避難階以外の同一階に、災害時要援護者のための施設として設けられた要援護者用室と健常者が使用する一般室とが設けられている建物であって、前記要援護者用室及び前記一般室は同一の廊下にて、前記避難階への移動設備と繋がっており、前記廊下の床面には、前記要援護者用室と繋がった前記災害時要援護者用の避難経路と、前記一般室と繋がった前記健常者用の避難経路と、を示す表示が施されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、災害時要援護者のための施設を備えた建物に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の中には、災害時要援護者が安心して避難できるように、例えば、避難階段等の避難用脱出設備に隣接する居室を付室として兼用することができる避難区画構造体が知られている。この避難区画構造体は、火災発生時などに災害時要援護者が付室にて一時待機し、健常者等の避難後に安心して避難することができるように、廊下により繋がった居室を避難時における災害時要援護者の待機スペースとして確保している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003―180854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような建物は、災害時要援護者の待機スペースとして確保している場所が廊下にて繋がった居室なので、他の居室から避難する場合には、まず廊下を通って付室とされている居室に移動しなければならない。このとき、災害時要援護者が移動する廊下は、一般の健常者も避難のために利用する。しかしながら、災害時要援護者と健常者とでは移動する速度が相違するため、避難する災害時要援護者と健常者とが同一の廊下を使用すると、特に災害時要援護者は付室に移動するまでの間、安心して避難することができないという課題がある。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、災害時要援護者が安心して避難することが可能な災害時要援護者のための施設を備えた建物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために本発明の災害時要援護者のための施設を備えた建物は、複数の階床を備え、避難階以外の同一階に、災害時要援護者のための施設として設けられた要援護者用室と健常者が使用する一般室とが設けられている建物であって、
前記要援護者用室及び前記一般室は同一の廊下にて、前記避難階への移動設備と繋がっており、
前記廊下の床面には、前記要援護者用室と繋がった前記災害時要援護者用の避難経路と、前記一般室と繋がった前記健常者用の避難経路と、を示す表示が施されていることを特徴とする災害時要援護者のための施設を備えた建物である。
このような災害時要援護者のための施設を備えた建物によれば、廊下の床面に、災害時要援護者用の避難経路と、健常者用の避難経路と、を示す表示が施されているので、災害等により避難する際に、災害時要援護者と健常者とが互いに異なる経路にて避難するように促すことが可能である。このため、廊下にて、健常者と、健常者より避難速度が遅い災害時要援護者とが交錯することを防止することが可能である。
また、災害時要援護者用の避難経路は要援護者用室と繋がっており、健常者用の避難経路は一般室と繋がっているので、健常者と災害時要援護者とが交錯することをより効果的に防止することが可能である。
【0007】
かかる災害時要援護者のための施設を備えた建物であって、前記同一階には、前記要援護者用室及び前記一般室のうちの少なくとも一方が複数設けられており、前記避難経路が同一の前記移動設備に繋がった前記要援護者用室及び前記一般室は、前記廊下に沿う方向において、前記要援護者用室同士、または、前記一般室同士が連なって配置されていることが望ましい。
このような災害時要援護者のための施設を備えた建物によれば、要援護者用室及び一般室が同一階に複数設けられている場合に、避難経路が同一の移動設備に繋がった要援護者用室及び一般室が、廊下に沿う方向において、要援護者用室同士、または、一般室同士が連なって配置されているので、災害時要援護者用の避難経路と健常者用の避難経路とが交差しないように廊下を分けて表示を施すことが可能である。
【0008】
かかる災害時要援護者のための施設を備えた建物であって、前記災害時要援護者が待機する一時待機エリアを示す表示が、前記災害時要援護者用の避難経路と連続して設けられていることが望ましい。
このような災害時要援護者のための施設を備えた建物によれば、災害時要援護者用の避難経路と連続して災害時要援護者が待機する一時待機エリアが設けられているので、健常者より避難速度が遅い災害時要援護者を一時待機エリアに待機させて、健常者をやり過ごした後に災害時要援護者をより安全に避難させることが可能である。
【0009】
かかる災害時要援護者のための施設を備えた建物であって、前記一時待機エリアを示す表示は、前記移動設備に隣接して設けられていることが望ましい。
このような災害時要援護者のための施設を備えた建物によれば、災害時要援護者が待機する一時待機エリアが避難階への移動設備に隣接して設けられているので、特に避難者が集中しやすい移動設備の手前にて、災害時要援護者を待機させることが可能である。
【0010】
かかる災害時要援護者のための施設を備えた建物であって、前記移動設備には、前記災害時要援護者用の避難経路及び前記健常者用の避難経路とそれぞれ連続して前記災害時要援護者用の避難経路及び前記健常者用の避難経路を示す表示が施されていることが望ましい。
このような災害時要援護者のための施設を備えた建物によれば、災害時要援護者は廊下の災害時要援護者用の避難経路と連続して設けられた移動設備の災害時要援護者用の避難経路に沿って避難し、健常者は廊下の健常者用の避難経路と連続して設けられた健常者用の避難経路に沿って避難するので、廊下のみならず移動設備に至っても円滑に避難することが可能である。
【0011】
かかる災害時要援護者のための施設を備えた建物であって、前記移動設備の途中に、休憩するための休憩場所が設けられていることが望ましい。
このような災害時要援護者のための施設を備えた建物によれば、移動設備の途中に避難経路と連続して休憩場所が設けられているので、避難時に一挙に避難階まで避難することができない場合であっても、円滑に休憩場所に移動して休憩をすることが可能である。
【0012】
かかる災害時要援護者のための施設を備えた建物であって、前記避難経路を示す表示は、前記災害時要援護者用の避難経路の表示の幅が前記健常者用の避難経路の表示の幅より広いことが望ましい。
このような災害時要援護者のための施設を備えた建物によれば、災害時要援護者用の避難経路の幅が健常者用の避難経路の幅より広いので、災害時要援護者が避難しやすい避難経路を確保することが可能である。例えば、災害時要援護者が介助者を伴って避難する場合や車椅子などを使用する場合にも、避難経路が広く確保されているので円滑に避難することが可能である。
【0013】
かかる災害時要援護者のための施設を備えた建物であって、前記災害時要援護者用の避難経路には、前記災害時要援護者用の避難経路であることを認識可能な表示が施されていることが望ましい。
このような災害時要援護者のための施設を備えた建物によれば、健常者が誤って災害時要援護者用の避難経路に進入してしまうことを防止することが可能である。
【0014】
かかる災害時要援護者のための施設を備えた建物であって、前記要援護者用室には、前記災害時要援護者用の避難経路の表示と同じ表示が施されており、前記一般室には、前記健常者用の避難経路の表示と同じ表示が施されていることが望ましい。
このような災害時要援護者のための施設を備えた建物によれば、要援護者用室から廊下に出た災害時要援護者と、一般室から廊下に出た健常者が、それぞれ各々の避難経路を認識しやすいので、健常者と災害時要援護者とが交錯することをより効果的に防止することが可能である。
【0015】
かかる災害時要援護者のための施設を備えた建物であって、前記避難経路を示す表示は、前記災害時要援護者用の避難経路と前記健常者用の避難経路とを色を異ならせて示していることが望ましい。
このような災害時要援護者のための施設を備えた建物によれば、災害時要援護者用の避難経路を示す色と健常者用の避難経路との色が異なるので、避難経路を容易に視認することが可能である。
【0016】
かかる災害時要援護者のための施設を備えた建物であって、前記避難経路を示す表示は、前記災害時要援護者用の避難経路と前記健常者用の避難経路とを床の仕上げ材を異ならせて示していることとしてもよい。
この場合には、災害時要援護者用の避難経路を示す色と健常者用の避難経路との色を異ならせた場合と同様に容易に避難経路を視認することが可能である。また、床の仕上げ材を異ならせることにより災害時要援護者用の避難経路と健常者用の避難経路と区分けして示しているので、災害時要援護者用の避難経路と健常者用の避難経路とを色により区分けした場合より美観に優れた建物を提供することが可能である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、災害時要援護者が安心して避難することが可能な災害時要援護者のための施設を備えた建物を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明にかかる建物における災害時要援護者用の避難経路と健常者用の避難経路とを示す表示の一実施形態を示す図である。
【図2】災害時要援護者用の避難経路に災害時要援護者用の避難経路であることを認識可能な表示を備えた例を示す図である。
【図3】災害時要援護者用の避難経路と連続して設けられた一時待機エリアを備えた例を示す図である。
【図4】本実施形態の建物の特別避難階段における災害時要援護者用の避難経路と健常者用の避難経路とを示す表示の一実施形態を示す図である。
【図5】階段室と連続して設けられた休憩場所を示す図である。
【図6】災害時要援護者用の避難経路及び健常者用の避難経路を示す表示の変形例を説明する図である。
【図7】避難階への移動設備がエレベータの場合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
本発明に係る災害時要援護者のための施設を備えた建物として、例えば、災害時要介護者としての乳幼児を預かる託児室を備えた建物を例に挙げて説明する。ここで、災害時要援護者のための施設は、託児室に限るものではない。
この建物は、複数の階床を備え、避難階以外の同一の階に、災害時要援護者のための施設として設けられた要援護者用室としての託児室と、健常者が使用する一般室とが設けられている高層建物である。本実施形態の建物には、避難階以外の同一の階に託児室が1部屋と一般室が2部屋設けられている。ここで、避難階以外の同一の階に設けられる託児室及び一般室の数は、これに限るものではない。
【0020】
図1は、本発明にかかる建物における災害時要援護者用の避難経路と健常者用の避難経路とを示す表示の一実施形態を示す図である。
避難階以外の同一の階に設けられた1部屋の託児室10と2部屋の一般室20とは、同一方向に臨む壁に出入口10a、20aがそれぞれ設けられており、各々の出入口10a、20aは、廊下30に面している。すなわち、所定方向に沿って形成されている廊下30に沿うように、1部屋の託児室10と2部屋の一般室20とが並べて配置されており、いずれの部屋10、20からも同一の廊下30に出ることができるように構成されている。
【0021】
廊下30は、建物1の端側まで延びており、建物1の端部に設けられた、避難階への移動設備としての特別避難階段50と共に設けられた付室55に繋がっている。このため、災害時に、1部屋の託児室10及び2部屋の一般室20に居た者は、いずれも各部屋10、20から同一の廊下30を通って付室55に入り、付室55から特別避難階段50を通って避難する。
【0022】
このとき、託児室10に居た災害時要援護者である乳幼児及び乳幼児を連れて移動する者と、一般室20に居た健常者とが同一の廊下30を無秩序に避難すると、避難速度が健常者より遅い乳幼児及び乳幼児を連れて移動する者と、健常者とが衝突する虞がある。このため、この建物1では、図1に示すように、廊下30の床面に、災害時要援護者用の避難経路12と、健常者用の避難経路22とを示す表示として、例えば、各々の避難経路12、22が互いに異なる色にて色分けされている。図1の例では、託児室10の床の色と災害時要援護者用の避難経路12の床の色とを同色とし、一般室20の床の色と健常者用の避難経路22の床の色とを同色としている。
【0023】
災害時要援護者用の避難経路12は、託児室10と繋がるとともに託児室10の出入口10aの扉に面して設けられており、託児室10を出た者は自ずと災害時要援護者用の避難経路12に位置するように配置されている。また、健常者用の避難経路22は、一般室20と繋がるとともに一般室20の出入口20aの扉に面して設けられており、一般室20を出た者は自ずと健常者用の避難経路22に位置するように配置されている。
【0024】
図1(a)に示す建物1の例では、特別避難階段50及び付室55と託児室10とが隣接させて設けられており、廊下30に沿う方向において、託児室10に対して特別避難階段50と反対側に一般室20が連なって設けられている。
【0025】
そして、災害時要援護者用の避難経路12は、廊下30における託児室10に面する領域のうちの託児室10側の領域と、付室55内における託児室10に近い側の領域とが割り当てられて、例えば黄色(図1(a)では薄いグレー)に着色されている。一方、健常者用の避難経路22は、廊下30における一般室20に面する領域と、託児室10に面する領域のうちの反託児室側の領域と、付室55内における託児室10から遠い側の領域とが割り当てられて、例えば緑色(図1(a)では濃いグレー)に着色されている。
【0026】
また、廊下30における託児室10に面する領域と付室55における災害時要援護者用の避難経路12の幅は、健常者用の避難経路22の幅より広く区画されている。このとき、災害時要援護者用の避難経路12の幅、及び、健常者用の避難経路22の幅は、建築基準法に定められた幅(片側居室の場合1.2m以上、両側居室の場合1.6m以上)を確保した廊下30にて、災害時要援護者用の避難経路12の幅を、健常者用の避難経路22の幅より広く区画する。例えば、片側居室で幅が1.2mの廊下30の場合に、災害時要援護者用の避難経路12の幅を0.7m、健常者用の避難経路22の幅を0.5mとしたり、片側居室で幅が2mの廊下30の場合に、災害時要援護者用の避難経路12の幅を1.2m、健常者用の避難経路22の幅を0.8mとする。
【0027】
本実施形態の災害時要援護者のための施設を備えた建物1によれば、廊下30の床面が、災害時要援護者用の避難経路12と、健常者用の避難経路22と、を示すように色分けが施されているので、災害時等に避難する際に、災害時要援護者と健常者とが互いに異なる避難経路12、22にて避難するように促すことが可能である。このため、廊下30にて、健常者と、健常者より避難速度が遅い災害時要援護者とが交錯することを防止することが可能である。
【0028】
また、災害時要援護者用の避難経路12は託児室10と繋がっており、託児室10の出入口10aの扉に面して設けられているので、託児室10を出た者は自ずと災害時要援護者用の避難経路12に移動する。このため、災害時要援護者を確実に災害時要援護者用の避難経路12に促すことが可能である。また、健常者用の避難経路22は一般室20と繋がっており、一般室20の出入口20aの扉に面して設けられているので、一般室20を出た者は自ずと健常者用の避難経路22に移動する。このため、健常者を確実に健常者用の避難経路22に促すことが可能である。このため、健常者と災害時要援護者とが交錯することをより効果的に防止することが可能である。
【0029】
また、同一階に複数設けられた一般室20が廊下30に沿う方向において連なって配置されているので、災害時要援護者用の避難経路12と健常者用の避難経路22とが交差することなく、廊下30を分けることが可能である。本実施形態においては、同一階に一般室20が複数設けられている例について説明したが、託児室10等の災害時要援護者のための要援護者用室が廊下30に沿う方向において連なって配置されていても構わない。
【0030】
また、災害時要援護者用の避難経路12の幅が健常者用の避難経路22の幅より広いので、災害時要援護者が避難しやすい災害時要援護者用の避難経路12を確保することが可能である。特に、災害時要援護者が介助者を伴って避難する場合や車椅子などを使用する場合にも、災害時要援護者用の避難経路12の幅が広く確保されているので、円滑に避難することが可能である。
【0031】
また、託児室10の床の色と災害時要援護者用の避難経路12の床の色とを同色とし、一般室20の床の色と健常者用の避難経路22の床の色とを同色としたので、託児室10から廊下30に出た災害時要援護者と、一般室20から廊下30に出た健常者が、それぞれ各々の避難経路12、22を認識しやすい。このため、健常者と災害時要援護者とが交錯することをより効果的に防止することが可能である。
【0032】
本実施形態においては、特別避難階段50及び付室55と託児室10とが隣接している例について説明したが、図1(b)に示すように、一般室20が特別避難階段50及び付室55と隣接していても良い。
【0033】
図2は、災害時要援護者用の避難経路に災害時要援護者用の避難経路であることを認識可能な表示を備えた例を示す図である。
上記実施形態においては、廊下30の床面が、災害時要援護者用の避難経路12と、健常者用の避難経路22と、を示すように色分けが施されている例について説明したが、図2に示すように、色分けに加えて、災害時要援護者用の避難経路であることを認識可能な表示として「災害時要援護者用避難経路」または「要援護者用」と明示されていてもよい。この場合には、健常者が誤って災害時要援護者用の避難経路12に進入してしまうことをより確実に防止することが可能であるとともに、この建物1の利用者に普段から災害時要援護者用の避難経路12を認識させることが可能である。
【0034】
図3は、災害時要援護者用の避難経路と連続して設けられた一時待機エリアを備えた例を示す図である。
上記実施形態においては、廊下30及び付室55に、災害時要援護者用の避難経路12と健常者用の避難経路22とを示すべく色分けを施している例について説明したが、図3に示すように、災害時要援護者用の避難経路12と連続して災害時要援護者が待機する一時待機エリア14が、特別避難階段50に隣接して設けられていてもよい。このように、災害時要援護者用の避難経路12と連続して一時待機エリア14が設けられている場合には、健常者より避難速度が遅い災害時要援護者を一時待機エリア14に待機させて、健常者をやり過ごした後に災害時要援護者をより安全に避難させることが可能である。特に、災害時要援護者が待機する一時待機エリア14を、避難者が集中しやすい特別避難階段50に隣接させて設けたので、特別避難階段50の手前にて災害時要援護者を待機させることが可能である。このため、災害時要援護者をさらに安全に避難させることが可能である。
【0035】
図4は、本実施形態の建物の特別避難階段における災害時要援護者用の避難経路と健常者用の避難経路とを示す表示の一実施形態を示す図である。
上記実施形態においては、廊下30及び付室55に、災害時要援護者用の避難経路12と健常者用の避難経路22とを示すべく色分けを施している例について説明したが、図4に示すように、廊下30や付室55と繋がって特別避難階段50にも災害時要援護者用の避難経路12と健常者用の避難経路22とを示すべく色分けを施してもよい。
【0036】
例えば、図4に示すように、廊下30及び付室55の床と同様に、特別避難階段50も災害時要援護者用の避難経路12と健常者用の避難経路22とを示すべく色分けが施されている。図4の特別避難階段50は踊り場50aを有する折返し階段なので、災害時要援護者の移動距離を短くするために、災害時要援護者用の避難経路12の外側に健常者用の避難経路22が設けられている。すなわち、特別避難階段50においては、特別避難階段50が幅方向に2つの領域に分けられており、特別避難階段50の内周側の領域は、付室55における災害時要援護者用の避難経路12と連続して災害時要援護者用の避難経路12を示す色に、特別避難階段50の外周側の領域は、付室55における健常者用の避難経路22と連続して健常者用の避難経路22を示す色にそれぞれ色分けされている。また、特別避難階段50においても、災害時要援護者用の避難経路12の幅の方が健常者用の避難経路22の幅よりも広くなるように、色分けが施されている。
【0037】
このように特別避難階段50においても付室55から繋がって災害時要援護者用の避難経路12と健常者用の避難経路22とが色分けされていると、災害時要援護者は廊下30の災害時要援護者用の避難経路12と連続して設けられた特別避難階段50の災害時要援護者用の避難経路12に沿って避難し、健常者は廊下30の健常者用の避難経路22と連続して設けられた健常者用の避難経路22に沿って避難するので、廊下30のみならず特別避難階段50に至っても円滑に避難することが可能である。
【0038】
また、本実施形態のような折り返し階段や、螺旋階段の場合には、階段の幅方向において内側を移動する場合より外側を移動する場合の方が、距離が長くなる。このため、災害時要援護者用の避難経路12の外側に健常者用の避難経路22が設けられていると、災害時要援護者の移動距離を短くすることが可能であり、災害時要援護者の負担を軽減することが可能である。
【0039】
図5は、階段室と連続して設けられた休憩場所を示す図である。
建物1の階数が多い場合には、特に災害時要援護者は一挙に避難階まで移動することが難しい場合があるので、図5に示すように特別避難階段50の途中、たとえば、所定の踊り場50aと繋がった休憩場所52が設けられていることが望ましい。この場合には、避難時に一挙に避難階まで避難することができない場合であっても、円滑に休憩場所52に移動して休憩をすることが可能である。
【0040】
図6は、災害時要援護者用の避難経路及び健常者用の避難経路を示す表示の変形例を説明する図である。
上記実施形態においては、災害時要援護者用の避難経路12と健常者用の避難経路22とを色分けすることにより災害時要援護者用の避難経路12と健常者用の避難経路22とを示す例について説明したが、これに限るものではない。例えば、図6(a)に示すように、災害時要援護者用の避難経路12と健常者用の避難経路22とを床の仕上げ材を異ならせて示してもよい。この場合には、災害時要援護者用の避難経路12を示す色と健常者用の避難経路22との色を異ならせた場合と同様に容易に避難経路12、22を視認することが可能である。また、床の仕上げ材を異ならせることにより災害時要援護者用の避難経路12と健常者用の避難経路22と区分けして示しているので、災害時要援護者用の避難経路12と健常者用の避難経路22とを色により区分けした場合より美観に優れた建物1を提供することが可能である。
【0041】
また、図6(b)に示すように、災害時要援護者用の避難経路12と健常者用の避難経路22との床に避難経路を示す矢印12a、22aを付しておいてもよい。このとき、災害時要援護者用の避難経路を示す矢印12aと、健常者用の避難経路を示す矢印22aを色分けしておいてもよい。
【0042】
また、床に、災害時要援護者用の避難経路12と健常者用の避難経路22とで互いに異なる色のLEDなどの発光する部材を設けておくとともに、火災報知器等と連動させて、火災等を検知した際に、災害時要援護者用の避難経路12と健常者用の避難経路22とを異なる色にて発光させてもよい。この場合には、普段は、災害時要援護者用の避難経路12と健常者用の避難経路22とを認識させない普通の床であり、火災等の発生時のみ災害時要援護者用の避難経路12と健常者用の避難経路22とを認識させることが可能である。
【0043】
上記実施形態においては、階段を特別避難階段50としたが、これに限らず一般的な階段であっても構わず、また、付室55は必ずしも設けられていなくてもよい。
【0044】
図7は、避難階への移動設備がエレベータの場合を示す図である。
また、上記実施形態においては、避難階への移動設備を特別避難階段50としたが、単なる避難階段や一般的な階段であっても、図7に示すようなエレベータ54であっても、またスロープなどであっても構わない。このとき、避難階段、一般的な階段、エレベータ54、スロープなどの移動設備と災害時要援護者用の避難経路12とに繋がった一時待機エリア14が設けられていてもよい。
【0045】
上記実施形態においては、託児室10の床の色と災害時要援護者用の避難経路12の床の色とを同色とし、一般室20の床の色と健常者用の避難経路22の床の色とを同色としたが、これに限るものではなく、少なくとも託児室10と繋がって災害時要援護者用の避難経路12を示す表示、及び一般室20と繋がって健常者用の避難経路22を示す表示、が施されていれば構わない。
【0046】
上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0047】
1 建物
10 託児室
10a 出入口
12 災害時要援護者用の避難経路
12a 災害時要援護者用の避難経路を示す矢印
14 一時待機エリア
20 一般室
20a 出入口
22 健常者用の避難経路
22a 健常者用の避難経路を示す矢印
30 廊下
50 特別避難階段
50a 踊り場
52 休憩場所
54 エレベータ
55 付室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の階床を備え、避難階以外の同一階に、災害時要援護者のための施設として設けられた要援護者用室と健常者が使用する一般室とが設けられている建物であって、
前記要援護者用室及び前記一般室は同一の廊下にて、前記避難階への移動設備と繋がっており、
前記廊下の床面には、前記要援護者用室と繋がった前記災害時要援護者用の避難経路と、前記一般室と繋がった前記健常者用の避難経路と、を示す表示が施されていることを特徴とする災害時要援護者のための施設を備えた建物である。
【請求項2】
請求項1に記載の災害時要援護者のための施設を備えた建物であって、
前記同一階には、前記要援護者用室及び前記一般室のうちの少なくとも一方が複数設けられており、
前記避難経路が同一の前記移動設備に繋がった前記要援護者用室及び前記一般室は、前記廊下に沿う方向において、前記要援護者用室同士、または、前記一般室同士が連なって配置されていることを特徴とする災害時要援護者のための施設を備えた建物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の災害時要援護者のための施設を備えた建物であって、
前記災害時要援護者が待機する一時待機エリアを示す表示が、前記災害時要援護者用の避難経路と連続して設けられていることを特徴とする災害時要援護者のための施設を備えた建物。
【請求項4】
請求項3に記載の災害時要援護者のための施設を備えた建物であって、
前記一時待機エリアを示す表示は、前記移動設備に隣接して設けられていることを特徴とする災害時要援護者のための施設を備えた建物。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の災害時要援護者のための施設を備えた建物であって、
前記移動設備には、前記災害時要援護者用の避難経路及び前記健常者用の避難経路とそれぞれ連続して前記災害時要援護者用の避難経路及び前記健常者用の避難経路を示す表示が施されていることを特徴とする災害時要援護者のための施設を備えた建物。
【請求項6】
請求項5に記載の災害時要援護者のための施設を備えた建物であって、
前記移動設備の途中に、休憩するための休憩場所が設けられていることを特徴とする災害時要援護者のための施設を備えた建物。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の災害時要援護者のための施設を備えた建物であって、
前記避難経路を示す表示は、前記災害時要援護者用の避難経路の表示の幅が前記健常者用の避難経路の表示の幅より広いことを特徴とする災害時要援護者のための施設を備えた建物。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の災害時要援護者のための施設を備えた建物であって、
前記災害時要援護者用の避難経路には、前記災害時要援護者用の避難経路であることを認識可能な表示が施されていることを特徴とする災害時要援護者のための施設を備えた建物。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の災害時要援護者のための施設を備えた建物であって、
前記要援護者用室には、前記災害時要援護者用の避難経路の表示と同じ表示が施されており、前記一般室には、前記健常者用の避難経路の表示と同じ表示が施されていることを特徴とする災害時要援護者のための施設を備えた建物。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の災害時要援護者のための施設を備えた建物であって、
前記避難経路を示す表示は、前記災害時要援護者用の避難経路と前記健常者用の避難経路とを色を異ならせて示していることを特徴とする災害時要援護者のための施設を備えた建物。
【請求項11】
請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の災害時要援護者のための施設を備えた建物であって、
前記避難経路を示す表示は、前記災害時要援護者用の避難経路と前記健常者用の避難経路とを床の仕上げ材を異ならせて示していることを特徴とする災害時要援護者のための施設を備えた建物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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