説明

災害時要援護者のための施設を備えた建物

【課題】災害時要援護者が安心して避難することが可能な災害時要援護者のための施設を備えた建物を提供する。
【解決手段】複数の階床を備え、避難階以外の同一階に、災害時要援護者のための施設として設けられた要援護者用室と健常者が使用する一般室とが設けられている災害時要援護者のための施設を備えた建物であって、前記要援護者用室及び前記一般室は同一の廊下を介して、前記避難階への移動設備と繋がっており、前記要援護者用室の扉に面して前記災害時要援護者が待機する一時待機エリアが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、災害時要援護者のための施設を備えた建物に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の中には、災害時要援護者が安心して避難できるように、例えば、避難階段等の避難用脱出設備に隣接する居室を付室として兼用することができる避難区画構造体が知られている。この避難区画構造体は、火災発生時などに災害時要援護者が付室にて一時待機し、健常者等の避難後に安心して避難することができるように、廊下により繋がった居室を避難時における災害時要援護者の待機スペースとして確保している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003―180854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような建物は、災害時要援護者の待機スペースとして確保している場所が廊下にて繋がった居室なので、他の居室から避難する場合には、まず廊下を通って付室とされている居室に移動しなければならない。このとき、災害時要援護者が移動する廊下は、一般の健常者も避難のために利用する。しかしながら、災害時要援護者と健常者とでは移動する速度が相違するため、避難する災害時要援護者と健常者とが同一の廊下を使用すると、付室に移動するまで、特に災害時要援護者は安心して避難することができないという課題がある。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、災害時要援護者が安心して避難することが可能な災害時要援護者のための施設を備えた建物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために本発明の災害時要援護者のための施設を備えた建物は、複数の階床を備え、避難階以外の同一階に、災害時要援護者のための施設として設けられた要援護者用室と健常者が使用する一般室とが設けられている災害時要援護者のための施設を備えた建物であって、
前記要援護者用室及び前記一般室は同一の廊下を介して、前記避難階への移動設備と繋がっており、
前記要援護者用室の扉に面して前記災害時要援護者が待機する一時待機エリアが設けられていることを特徴とする災害時要援護者のための施設を備えた建物である。
このような災害時要援護者のための施設を備えた建物によれば、要援護者用室の扉に面して災害時要援護者が待機する一時待機エリアが設けられているので、要援護者用室の扉を出た災害時要援護者は、一旦一時待機エリアに移動して待機することが可能である。このため、健常者より避難速度が遅い災害時要援護者は一時待機エリアに待機して、健常者をやり過ごした後により安全に避難することが可能である。
【0007】
かかる災害時要援護者のための施設を備えた建物であって、前記一時待機エリアは、前記廊下の一部であることが望ましい。
このような災害時要援護者のための施設を備えた建物によれば、一時待機エリアが廊下の一部なので、一旦一時待機エリアに移動して待機した災害時要援護者は、廊下の状況に応じて、待機するか、そのまま避難するかを判断し、健常者をやり過ごした後に廊下を使ってそのまま円滑に避難することが可能である。
【0008】
かかる災害時要援護者のための施設を備えた建物であって、前記一時待機エリアは、前記要援護者用室及び前記廊下と扉を介して繋がった部屋であることとしてもよい。
このような災害時要援護者のための施設を備えた建物によれば、災害時要援護者は、廊下を移動する健常者と仕切られた部屋内にて、より安全に待機することが可能である。
【0009】
かかる災害時要援護者のための施設を備えた建物であって、前記一時待機エリアは、前記移動設備とともに設けられた付室に隣接して設けられ、前記一時待機エリアから前記付室に直接移動可能な扉が備えられていることが望ましい。
このような災害時要援護者のための施設を備えた建物によれば、一時待機エリアから、移動設備とともに設けられた付室に直接移動可能な扉が備えられているので、一旦一時待機エリアに移動して待機した災害時要援護者は廊下を通ることなく付室に移動することが可能である。このため、災害時要援護者はより安全に避難することが可能である。
【0010】
かかる災害時要援護者のための施設を備えた建物であって、前記部屋は、防火防煙区画されていることが望ましい。
このような災害時要援護者のための施設を備えた建物によれば、一時待機エリアをなす部屋が防火防煙区画されているので、一旦一時待機エリアに移動して待機した災害時要援護者は、状況に応じて部屋内にて籠城することが可能である。
【0011】
かかる災害時要援護者のための施設を備えた建物であって、前記部屋には、加圧防煙設備が設けられていることが望ましい。
このような災害時要援護者のための施設を備えた建物によれば、一時待機エリアをなす部屋内に煙が進入し難いので、一時待機エリアをなす部屋内により安全に籠城することが可能である。
【0012】
かかる災害時要援護者のための施設を備えた建物であって、前記移動設備とともに設けられる付室が前記要援護者用室と隣接して設けられて、前記要援護者用室から前記付室に直接移動可能な扉を備えており、前記一時待機エリアは、前記付室に設けられていることが望ましい。
このような災害時要援護者のための施設を備えた建物によれば、要援護者用室から、要援護者用室と隣接して設けられた付室に直接移動可能な扉を備えているので、要援護者用室から付室に直接移動して一時待機することが可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、災害時要援護者が安心して避難することが可能な災害時要援護者のための施設を備えた建物を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明にかかる建物の一実施形態を示す図である。
【図2】託児室の扉に面して向けられた一時待機エリアの変形例を示す図である。
【図3】一時待機エリアと付室とが繋がっている建物を示す図である。
【図4】託児室と付室とが隣接している建物を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
本発明に係る災害時要援護者のための施設を備えた建物として、例えば、災害時要介護者としての乳幼児を預かる託児室を備えた建物を例に挙げて説明する。ここで、災害時要援護者のための施設は、託児室に限るものではない。
この建物は、複数の階床を備え、避難階以外の同一の階に、災害時要援護者のための施設として設けられた要援護者用室としての託児室と、健常者が使用する一般室とが設けられている高層建物である。本実施形態の建物には、避難階以外の同一の階に託児室が1部屋と一般室が2部屋設けられている。ここで、避難階以外の同一の階に設けられる託児室、一般室及び階段の数は、これに限るものではない。
【0016】
図1は、本発明にかかる建物の一実施形態を示す図である。
図1に示すように、避難階以外の同一の階に設けられた1部屋の託児室10と2部屋の一般室20とは、各部屋10、20に対して同一方向に設けられた廊下30に面している。各部屋10、20の廊下30に面する壁(以下、廊下側壁という)10b、20bに設けられた出入口10a、20aには、それぞれ扉10c、20cが設けられている。
【0017】
2つの一般室20の廊下側壁20bは、繋がった1つの平面をなす壁面を形成しており、託児室10の廊下側壁10bは、一般室20の廊下側壁20bより奥まった位置に配置されている。より具体的には、託児室10は一般室20より狭く形成されており、託児室10が一般室20より狭い分だけ託児室10の廊下側壁10bが、一般室20の廊下側壁20bより奥まって配置されている。このため、1部屋の託児室10と2部屋の一般室20とが並んでいる方向に通行可能な廊下30は、一般室20の扉20cが面する領域が、託児室10の扉10cが面する領域より狭く形成されている。そして、託児室10の扉10cが面する領域にて廊下30の幅が、一般室20の扉20cが面する領域より広くなった分だけ、託児室10は奥まっており、奥まった領域は、災害時等に託児室10から出てきた避難者が待機する一時待機エリア14をなしている。
【0018】
廊下30は、建物1の端側まで延びており、建物1の端部に設けられた、避難階への移動設備としての特別避難階段50と共に設けられた付室55に繋がっている。このため、災害時に、1部屋の託児室10及び2部屋の一般室20に居た者は、いずれも各部屋10、20から同一の廊下30を通って付室55に入り、付室55から特別避難階段50を通って避難する。
【0019】
このとき、託児室10に居た災害時要援護者である乳幼児及び乳幼児を連れて移動する者と、一般室20に居た健常者とが同一の廊下30に一斉に飛び出すと、避難速度が健常者より遅い乳幼児及び乳幼児を連れて移動する者と、健常者とが衝突する虞がある。このため、この建物1では、図1に示すように、託児室10の廊下側壁10bを、一般室20の廊下側壁20bより奥まらせ、奥まった領域を一時待機エリア14としている。この待機エリア14となる廊下30の床には、災害時要援護者の一時待機エリア14であることを示す表示が施されている。一時待機エリア14であることを示す表示としては、たとえば、廊下30の他の部位と異なる色に着色されていたり、異なる仕上げ材で形成されていたり、一時待機エリア14を囲むラインとともに「災害時要援護者用一時待機エリア」というような表示などが挙げられる。
【0020】
本実施形態の災害時要援護者のための施設を備えた建物1によれば、託児室10の扉10cに面して災害時要援護者が待機する一時待機エリア14が設けられているので、託児室10の扉10cを出た災害時要援護者は、一旦一時待機エリア14に移動して待機することが可能である。このため、健常者より避難速度が遅い災害時要援護者を一時待機エリア14に待機させて、健常者をやり過ごした後に災害時要援護者をより安全に避難させることが可能である。
【0021】
また、一時待機エリア14を廊下30の一部としたので、一旦一時待機エリア14に移動して待機した災害時要援護者は、廊下30の状況に応じて、待機するか、そのまま避難するかを判断し、健常者をやり過ごした後に廊下30を使って付室55及び特別避難階段50に至り、円滑に避難することが可能である。
【0022】
図2は、託児室の扉に面して向けられた一時待機エリアの変形例を示す図である。
上記実施形態においては、託児室10の扉10cに面して設けられる一時待機エリア14を廊下30の一部として設けた例について説明したが、図2に示すように、一時待機エリア14は、託児室10と繋がった部屋であっても構わない。具体的には、上述した建物1の託児室10の扉10cと面する一時待機エリア14と廊下30とを仕切る仕切壁32を設けることにより、託児室10と廊下30との間に一時待機エリアとなる待機室16を設けている。この待機室16には、廊下30との出入口に扉32aが設けられている。
【0023】
このため、災害時に託児室10に居た者は、託児室10から一旦待機室16に入り、廊下30の状態に応じて、待機するか、そのまま避難するかを判断し、健常者をやり過ごした後に待機室16を出て廊下30を使って付室55及び特別避難階段50に至り、円滑に避難することが可能である。
【0024】
この場合には、災害時要援護者は、廊下30を移動する健常者と仕切られた待機室16内にて、より安全に待機することが可能である。このとき、待機室16を、防火防煙区画することにより、一旦待機室16に移動して待機した災害時要援護者は、状況に応じて待機室16内にて籠城することが可能である。また、待機室16に加圧防煙設備を備えておくと、一時待機エリアをなす待機室16内に煙が進入し難いので、待機室16内により安全に籠城することが可能である。
【0025】
上記実施形態においては、廊下30の一部を一時待機エリア14とした場合、及び、託児室10と廊下30との間に待機室16を設けた場合のいずれも、一時待機エリア14または待機室16から廊下30を通って避難する例について説明したが、これに限るものではない。
【0026】
図3は、一時待機エリアと付室とが繋がっている建物を示す図である。
図3(a)、図3(b)に示すように、たとえば、託児室10と繋がった一時待機エリア14及び待機室16と付室55及び特別避難階段50とが隣接して設けられており、一時待機エリア14及び待機室16と付室55とを仕切る付室壁55aには、一時待機エリア14及び待機室16から付室55に直接移動可能な扉55bが設けられている。
【0027】
この場合には、災害時要援護者は、託児室から一旦一時待機エリア14及び待機室16に移動して待機する。そして、付室55の状況に応じて、廊下30を経由することなく直接付室55に移動することが可能である。このため、災害時要援護者より避難速度が速い健常者が移動する廊下30を経由しないので、より安全に付室55から特別避難階段50に移動することが可能である。また、廊下30を通ることなく直接付室に移動できるので、災害時要援護者の負担を軽減することが可能である。
【0028】
図4は、託児室と付室とが隣接している建物を示す図である。
託児室10と付室55とが隣接している場合には、図4に示すように、託児室10と付室55とを仕切る付室壁55aに、託児室10から付室55に直接移動可能な扉55bが設けられており、付室55内の扉55bに面する領域に一時待機エリア14が設けられていてもよい。この場合には、付室55に一時待機エリア14が設けられているので、災害時に託児室10に居た者は、託児室10から直接付室55の一時待機エリア14に移動することが可能である。このため、健常者が移動している廊下30を通らないので、より安全であるとともに、一時待機エリア14または待機室16を経由しないので、付室55に至るまでに待機時間も必要ないので、より早く付室55に移動することが可能である。また、特別避難階段50とともに設けられる付室55は、防火防煙区画され、加圧防煙設備が設けられているので、新たに防火防煙区画して加圧防煙設備を備えた待機室16を設けることなく、防火防煙区画して加圧防煙設備を備えた一時待機エリアを確保することが可能である。
【0029】
上記実施形態においては、避難階への移動設備を特別避難階段50としたが、これに限らず単なる避難階段や一般的な階段であっても構わず、また、付室55は必ずしも設けられていなくてもよい。また、避難階への移動設備は階段に限らず、エレベータやスロープなどであっても構わない。また、扉は、避難口として使用できる構造であれば、引き戸、自動扉、三方枠、防火シャッターに併設されたくぐり戸などであってもよい。また、待機室16を構成する壁は、通常時は開放されており、火災時に閉鎖される防火シャッターなどであっても良い。
【0030】
上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0031】
1 建物
10 託児室
10a 出入口
10b 廊下側壁
10c 扉
14 一時待機エリア
16 待機室
20 一般室
20a 出入口
20b 廊下側壁
20c 扉
30 廊下
32 仕切壁
32a 扉
50 特別避難階段
55 付室
55a 付室壁
55b 扉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の階床を備え、避難階以外の同一階に、災害時要援護者のための施設として設けられた要援護者用室と健常者が使用する一般室とが設けられている災害時要援護者のための施設を備えた建物であって、
前記要援護者用室及び前記一般室は同一の廊下を介して、前記避難階への移動設備と繋がっており、
前記要援護者用室の扉に面して前記災害時要援護者が待機する一時待機エリアが設けられていることを特徴とする災害時要援護者のための施設を備えた建物。
【請求項2】
請求項1に記載の災害時要援護者のための施設を備えた建物であって、
前記一時待機エリアは、前記廊下の一部であることを特徴とする災害時要援護者のための施設を備えた建物。
【請求項3】
請求項1に記載の災害時要援護者のための施設を備えた建物であって、
前記一時待機エリアは、前記要援護者用室及び前記廊下と扉を介して繋がった部屋であることを特徴とする災害時要援護者のための施設を備えた建物。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の災害時要援護者のための施設を備えた建物であって、
前記一時待機エリアは、前記移動設備とともに設けられた付室に隣接して設けられ、前記一時待機エリアから前記付室に直接移動可能な扉が備えられていることを特徴とする災害時要援護者のための施設を備えた建物。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の災害時要援護者のための施設を備えた建物であって、
前記部屋は、防火防煙区画されていることを特徴とする災害時要援護者のための施設を備えた建物。
【請求項6】
請求項3乃至請求項5のいずれかに記載の災害時要援護者のための施設を備えた建物であって、
前記部屋には、加圧防煙設備が設けられていることを特徴とする災害時要援護者のための施設を備えた建物。
【請求項7】
請求項1に記載の災害時要援護者のための施設を備えた建物であって、
前記移動設備とともに設けられる付室が前記要援護者用室と隣接して設けられて、前記要援護者用室から前記付室に直接移動可能な扉を備えており、
前記一時待機エリアは、前記付室に設けられていることを特徴とする災害時要援護者のための施設を備えた建物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−59399(P2013−59399A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198528(P2011−198528)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】